【BiSH】Episode77 アイナ・ジ・エンド「元気でも元気じゃなくてもいいから生きていてほしい」
"楽器を持たないパンクバンド”BiSHが、“メジャー3.5th”アルバム『LETTERS』を7月22日にリリースする。もともとシングルの発売を予定していたが、コロナ禍の現状を踏まえ、追加で新曲を制作してアルバムへと発展させた。また、7月8日には全27曲収録の自身初となるベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』を緊急発売。同作は、全国のCDショップ、及びCDショップの運営するECサイトのみで販売され、販売元であるエイベックス、及びWACKの収益全額は、BiSHがかつてワンマンや自主企画を開催した全国のライヴハウスに寄付される。そんなBiSHの12周目となる個別インタヴューがスタート。第1回はアイナ・ジ・エンドに話を訊いた。
INTERVIEW : アイナ・ジ・エンド
今回、アイナに「自粛期間どうだった?」って聞いたら、「人間としてちゃんと生活できたので良かった」と言っていた。どんだけ忙しかったんだw。スターに駆け上がった彼女のその言葉を聞いて、「彼女にも休息が必要だったんだ。潰れなくて良かった」とホッとした。
そして生み出されたBiSHの『LETTERS』は、珠玉の名曲群だ。ここからさらに一気に駆け上がる準備は着々と進んでいる。いっぱい充電した彼女が、ライヴでまた爆発することが楽しみでならない。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 大橋祐希
BiSHのことばっかり考えちゃうんです
──新型コロナウイルスの影響で、BiSHとしては2月末の無観客ライヴ以降様々なプロジェクトの延期・中止が続きました。振り返ってみてどんな時期でしたか。
アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ) : いままでこんなに活動が止まることはなかったので、最初の2週間くらいは人間としてちゃんと生活できたりして、ちょっとした息抜きみたいな気持ちにもなったりしていました。でも医療従事者の方だったりコロナウイルスに感染して辛い思いをしている人がいることを考えると、自分が呑気に生きているようにも感じて。とはいえ何かするわけにもいかないし、もどかしい日々ではありました。
──今後どうなるのか分からない状況の中、心境の変化はありましたか?
アイナ : 渡辺さんが自粛期間中にやっていたインスタライヴに4回くらい登場させていただいて、久しぶりにファンの方と話したりしたんですよ。配信が終わったあと渡辺さんに「周囲の重い腰を上げるためにはアイナが頑張らなきゃいけない。曲作ったら?」と言われて、確かにそうだなと思ったんです。これまでは曲をもらえて、歌詞も言われるから考えてきたわけで。でもこれから先、自分が本当に音楽をやりたいんだったら自分でレールを作っていかないといけないし、その上で周りに大切な人がいてくれたらベストだなって。渡辺さんの言葉でスイッチが入って曲を作りはじめました。
──それはいつ頃の話ですか?
アイナ : 4月、5月くらいです。曲はできているんですけど、納得いってる曲が4〜5曲しかないんですよね。数は作るものの恥ずかしくて渡辺さんやavexの篠崎さんに送れない曲も溜まっていて。毎日パソコンの前に座ってMIDIキーボードでいろんな音を鳴らして楽しいんですけど、いざ作ってみると曲作りの迷路にはまってしまって。まだ自分の曲作りが定まっていないんですけど、最近は楽しくなってきて心が軽いまま曲が作れるようになってきました。
──作った曲はソロなのか、BiSHの曲になるのか、どういう形になっていくのでしょうか。
アイナ : 現時点ではソロを想定していますけど、具体的な構想はないんですよね。「リズム」みたいに何も決めずに作っていたものがBiSHが歌うことになればいいんですけど。この先の未来を想像したとき、いまは1人で頑張る時間よりもBiSH6人で叶える夢のために頑張りたいっていう気持ちが心の90%くらいを占めていて。ソロもやりたいですけど、自分だけが売れたい気持ちは良くも悪くもなくて。いまはBiSHのことばっかり考えちゃうんですよね。
人間としてちょっと麻痺していたのかもしれない
──BiSHの夢というのはやはり東京ドームですか?
アイナ : そうですね。東京ドームに立ちたいです。
──東京ドームという大きい目標がある中で、練習やライヴができない、メンバーともなかなか会えないことに焦りはなかったのでしょうか。
アイナ : 焦りはなかったですけど、もどかしさはありました。自分の周りの人たちが心や体を病んでしまったら、というのが一番怖くて。友達が鬱をこじらせて生と死をさまようみたいなこともあったし、エゴなんですけど、みんな生きていてほしいと思っていましたね。
──BiSHって結成から今日まで鍛錬に次ぐ鍛錬を重ねて向上してきたグルーブだったと思うんです。それが急に立ち止まることになって、その経験はグループにとってどんな影響を与えると思いますか。
アイナ : 今もソーシャルディスタンスを意識していて、写真を撮るときも離れたりして気を使わなきゃいけないし、まだ活動が完全に復活しているとは思えないから分からない、というのが正直なところですね。
──アイナ個人にとってはどうですか。
アイナ : 超個人的な意見としては休めてありがたかった部分もあって。昔は人が笑っているとき自分も同じように笑っていたはずだったのに、ここ数年は人が笑っている景色を見ているんですよね。何か言われても聞こえてこないということも多々あったし、遅刻が怖くて夜寝られないのが当たり前でしたし、ご飯も味が分からないまま飲むように食べていたし、部屋の掃除ができていなくてゴミ袋も髪の毛の山も溜まっていたし。
──そんなに忙しかったんですか……。
アイナ : 人間としてちょっと麻痺していたのかもしれないです。でもこの期間で人間らしいちゃんとした生活を送ったら、生活が楽しいと思えて。ゴミを捨てると心がスッキリして素敵だと思ったし、掃除機で髪を吸い取ると気持ちいいと知りました。からあげクンとおにぎりが好きなんですけど、部屋を掃除して落ち着いたときに食べるとよりおいしいってことに気づいたり。
──休めてよかったですね。東京ドームを目指す上で、いまBiSHに必要だと思うことはありますか。
アイナ : 実力も、踏んでいる場数も全部足りないと思うから、とりあえず目の前にあることを地道にやっていくしかないですね。本当は対バンツアーがあって、その先にも何かあったかもしれないけど、いまはもう目の前のことから。
いままでのBiSHにない素直な明るさを持っている珍しいアルバム
──『LETTERS』はどんな作品になりましたか。
アイナ : この期間だからこそできた歌詞や音楽たちだし、渡辺さんやチッチとアユニの歌詞もそうなんですけど、ポジティブでストレートに表現されていて、いままでのBiSHにない素直な明るさを持っている珍しいアルバムですね。
──『LETTERS』はメッセージ性が強いですよね。
アイナ : 清掃員が生きるための糧になるように歌いたかったんですよね。チッチの歌詞もよくて、「サラバかな」の歌詞が引用されてるんですけど、これも清掃員に向けていて。今回は歌の感じも変わっていて、「TOMORROW」の落ちサビと「ぶち抜け」のDメロはモモカンとリンリンが2人で歌っているんですよ。
──珍しい2人の組合せというか、ユニゾンで歌っているのが珍しいですよね。
アイナ : 曲の大事なところを2人で歌うっていうのがとても重要で。モモカンは歌詞をしっかり届けられる人だし、リンリンは勇気がある人だと思っているから、メッセージが伝わりやすい2人だなって。この2人が歌うと心強いんですよ。例え失敗したとしてもそれが生モノとして最高になるという確信はあるので、このアルバムの中では結構醍醐味なのかなと思います。今回はすごくバランスがいいんですけど、特に「TOMORROW」と「ぶち抜け」はエモいですね。
──他に好きな曲はありますか?
アイナ : 東京スカパラダイスオーケストラさんが入ってくれた「ロケンロー」が一番好きです。スカパラさんが入るだけで全く新しい印象になるんですよね。振り付けを考えるのが楽しみで仕方ないです。
無垢で歌が純粋に好きだったころの気持ちがすごくある
──自粛期間が明け、少しずつ活動も再開してきましたね。
アイナ : この間、日向秀和さんの〈HINA-MATSURI2020〉の配信ライヴにヴォーカルとして出させていただいたんです。久しぶりにちゃんとしたステージで歌ったんですけど、何も知らないときの自分の歌い方に戻っていて、すごく新鮮な気持ちになりました。その時期からBiSHの練習もはじまって、歌やダンス、ステージ・パフォーマンスと向き合うようになってきました。あと生放送の”CDTV ライブ! ライブ!”で「罪と罰」を歌うんですけど、そのリハをバンドメンバーとやったりして、いまどんどん元気が出てきて新鮮な気持ちです。
──ライヴに関しては、公演実施へ向けたガイドライン等も発表されてきていますが、まだまだ全面再開とはいかない状態が続いています。ライヴができないことに対してストレスはありますか?
アイナ : フラストレーションが溜まっているとかではなく、待ち遠しいなという感じですね。「罪と罰」をバンドメンバーとやったときに、バンドマスターの西村奈央さんに「アイナ氏、前より歌上手くなったね」って言われたんです。確かにいま、無垢で歌が純粋に好きだったころの気持ちがすごくあるので、もしライヴができるようになったら前よりもっと楽しいんだろうなと思っていて。何も考えずに、ただ歌が好きという気持ちだけで向き合えるような気がしています。
──自粛期間で声帯も良くなったかもしれないですね。
アイナ : 多分いま声帯めっちゃきれいですよ。ここ3年くらい喉を痛めて歌えなかったことが一度もないので強くなったんだと思います。
──あとは本当にいつライヴができるのかというところですね。
アイナ : BiSHのライヴが生きがいだと言ってくれる人もいるので、早く清掃員の人たちに会いたいですね。本当に元気でも元気じゃなくてもいいから生きていてほしいです。最近、親友みたいな存在だった飼い犬も亡くなってしまって会えない感覚を知ったんです。上手く言葉にできないですけど、会えなくなることは本当に淋しいので生きていてほしいです。
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RELEASE INFORMATION
全7曲収録メジャー3.5thアルバム
BiSH / LETTERS
発売日:2020年7月22日(水)
【形態】
初回生産限定盤 BOX仕様
AL+LIVE CD2枚組+Blu-ray Disc+写真集(100P)
品番:AVCD-96529~31/B
価格:¥10,000(+tax)
DVD盤
AL+DVD
品番:AVCD-96532/B
価格:¥5,800(+tax)
CD盤
AL
品番:AVCD-96533
価格:¥2,000(+tax)
初回仕様:有(詳細未定)
【収録内容】
AL ※3形態共通
「TOMORROW」(TVアニメ「キングダム」オープニング・テーマ)
「ぶち抜け」(テレビ東京系ドラマ24「浦安鉄筋家族」エンディングテーマ)
「co」(リアル脱出ゲーム「夜のゾンビ遊園地からの脱出」テーマソング)
他新曲4曲の全7曲収録曲
LIVECD2枚組 ※初回生産限定盤収録
LIVE CD2枚(22曲)収録
2020.01.23 NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL at NHK HALL
Blu-ray ※初回生産限定盤に収録
NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL NHKホールでのライヴ映像を完全収録
メンバーによる副音声収録
2020.01.23 NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL at NHK HALL
Music Video「TOMORROW」
DVD ※DVD盤収録
NEW HATEFUL KiND TOUR FiNALNHKホールでのライヴ映像を完全収録
2020.01.23 NEW HATEFUL KiND TOUR FiNAL at NHK HALL
BiSH初のベストアルバム
BiSH / FOR LiVE -BiSH BEST-(読み:フォーリヴ)
発売日:2020年7月8日(水)
https://www.bish.tokyo/news/detail.php?id=1083695
PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。