弱さ、情けなさ、むき出しの感情が紡ぐ歓喜のうたーー
Discahrming man4年振りのアルバムをリリース!!
結成から10年という節目を迎えて、Discharming manが産み出した4年振りのフル・アルバム『歓喜のうた』。バンドのフロントマン、蛯名啓太のキャリアはキウイロール時代を含めてもう20年近くになるが、このアルバムから放たれている瑞々しさは一体なんなのだろうか。様々な想いを全て振り切っている、いや全く振り切れていないのかもしれない。ただ、とにかくむき出しな感情がどこまでも聴く人の耳を突き刺してくる。キウイロール時代から暖めていた曲、故・吉村秀樹を思わせる曲、札幌の先輩でもあり、師でもある竹林現動(zarame、ex. COWPERS、SPIRAL CHORD)がギターで参加した曲などのトピックも含めて、彼の20年が丸々詰まったアルバムになっている。そんなDischarming manからフロントマンである蛯名啓太、ドラムの野川顕史を迎え、今回のアルバムに秘められた思い、そしてこれからについて語ってもらった。
Discharming man / 歓喜のうた
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV / AAC / MP3
【配信価格】
単曲 169円(税込) / アルバム購入 1500円(税込)
【Track List】
01. halfmorning / 02. 歓喜のうた / 03. 二つのモノレール / 04. ボトムズ / 05. ダウンバイロゥ / 06. なおさら / 07. 永遠の果て / 08. かわいいじぶん / 09. man / 04. Dis song
INTERVIEW : Discharming man
インタビュー&文 : 飯田仁一郎
固まったアルバムというか、全部の曲があってひとつの作品にしたかった
ーー今作『歓喜のうた』はいつから録り始めたんですか?
蛯名啓太(以下、蛯名) : 去年末にdOPPOとのスプリット(『dream violence』)を出して、それからですね。シングルやスプリットで曲を小出しにしてたらちょこちょこ無くなっていったので、既発曲は収録しないで、すべて新録でアルバムを作りました。
ーービート感やアレンジの隙間が美しいアルバムだなと思いました。
蛯名 : ああ、今回は渋いかもしれないですね。俺もそういう歳なんで、そういうのしか出来ないんだろうね。
ーー特に「歓喜のうた」から「2つのモノレール」への流れは象徴的だと思いました。
蛯名 : 「2つのモノレール」はこの中で一番古くて、キウイロールで上京する前、2001年くらいからある曲ですね。キウイロールでやろうと思ってたんだけど、他に曲がいっぱいできて録音する機を逃してて。前作でも録ろうと思えば録れたんだけど、何故かずっとあぶれちゃってたんですよね。
ーー何故今回収録することになったんですか?
蛯名 : なんでだろう…。 単純に入れたいと思ったんですよね。昔から好きな曲だったんだけど、ずっと2軍にいた曲で。1軍の実力があるのにずっと2軍にいた曲が、今回納まりました。
ーー吉村さんが抜けたことは、今作に大きく影響を?
蛯名 : 抜けたのは、4年弱くらい前ですかね。前々作の『dis is the oar of me』は吉村さんにプロデュース含め参加してもらって、前作の『フォーク』でも途中まで弾いてもらってたんですけど、途中で抜けることになって「俺の演奏は全部消してくれ」って。だから、あれは傷だらけのアルバムですね。時間がかかったことで温度が下がっちゃったのもあるし、元々吉村さんが弾く用のアレンジだったり、ピース・ミュージックで俺の歌を録ってみたり、結構試行錯誤してて。結果作品としては面白くなってるけど、制作中は変な感じがあって。そうならないように今回は計画的にやろうと、2ヶ月くらいで録りました。今回は入らなかったスプリットの曲やシングルの「empty boy」も好きな曲なので、いずれ何らかのアルバムに入れたいなとは思っています。
ーー今回シングル曲を収録せずにすべて新録にしたのは?
蛯名 : 特に深い考えはなくて、そのほうが格好良いかなっていう単純なものです。まだこんなにいい曲あるんだよって聞かせたかったし、かぶりなしの新曲でアルバムを出したいなというのもあって。『kokorono』とかもそうだと思うんですけど、固まったアルバムというか、全部の曲があってひとつの作品にしたかった。
ーーアルバムで蝦名さんやバンドが描きたかったものは?
蛯名 : 特にコンセプチュアルなものではないかなあ。昔吉村さんが、「曲がたくさん出来たからってアルバムにするのは駄目だ!」って言ってたんですけど、逆に今回はそんな感じだったんですよ(笑)。「いい曲いっぱいあるからアルバム録っちゃおう」って。あとバンドの総決算というか。シングルとかスプリットの曲はわりと俺が作り込んでとったものが多かったから。
野川顕史(以下、ノッチ) : そうですね。皆で一からというより、ある程度かたちが作られてきて、そこから広げていく感じでしたね。
蛯名 : 今回は漠然としていたというか、あんまり細かいところは言ってないと思うんだよな。全体のまとまりは指揮をとったけど、皆でわーっと作った感じ。
俺の意識が少し変わった部分もあるんだろうし、今は皆で作ってると思う
ーーずっと参加してるメンバーとしては、どんな変化があったと感じていますか?
ノッチ : 今回はライヴで練っていった曲があんまりないんですよね。今まではライヴで慣れた上でレコーディングに臨んでいたんだけど、そういう意識じゃなくて、単純に練習で曲を固めていったので、新鮮でした。
蛯名 : かたちになる前に録音しちゃったところはあるかもしれない。スピード感がありましたね。全然アルバム出してなかったから早く出したいと思って。僕らはレコード会社とやってるわけじゃないから、無理矢理にでもやらないとってところもあるから(笑)。
ノッチ : 咀嚼してたらあと1〜2年かかってたかもしれないですね。
蛯名 : そのぶん演奏が荒かったり、歌も荒かったり、曲順間違ったりいろんなことがあるけど、そういう部分も含めて良い作品になったなと思いますね。まあ、そういうことやってるから江河(達矢)さんが抜けちゃうんですけど(笑)。
ーー江河さんはいつ抜けるんですか?
蛯名 : 10月末ですね。今作はすごいアレンジとかもやってくれてるんですけど、8年やって俺の固いアプローチがちょっと違ったのかもしれないなと。
ーーバンドにとってまた大きな変革ですね。
蛯名 : そうですね。江河さんは繋げる力のある人だから、バンドの中でもムード・メーカーだし、スタジオでもずっとくだらないこと言ってて、すごい俺が真面目なことを言っても下ネタで返してきたりする人なんで(笑)、そういう人がいなくなると大丈夫かなってところはあるんですけどね。色んな選択肢があるので、来年以降どうしようかなって。今は新しいベースの人をどうしようかなと考えてます。
ノッチ : ベースが変わると変わってくるんでね。リズム隊ですし、寂しさはひとしおですよ。
蛯名 : 吉村さんが抜けたのも江河さんと近い理由だと思ってて。俺が仕切りたがりなんですよ。荒いところや歪んでるギターも好きだし、やってほしいんだけど、キュッと止めて欲しいところとか、細かいフレーズとかで譲れないところがどうしても出ちゃって。ノッチが後ノリ、吉村さんが前ノリだから、まあ合わない(笑)。そこを合わせて欲しいとか、他にも色々小姑みたいに言ってたから、ストレスが積み重なったのかなと。まあ臆測だけどね。
ーーでもそこは蝦名さんが音楽を作る上でのこだわりなんですよね。
蛯名 : どうでもいいところは本当にどうでもいいんだけど、ここはこうしないとどうでもいいところが活きないと思ったら、いてもたってもいられなくなって、皆に言っちゃうんですよね。俺がもっとバンド内で四分の一とか五分の一の割合、皆で作りましょうってスタンスだったら逆に何も言わないんですけど、今はそういうのがあるから。
ノッチ : それでずっとやってきてますし、今はバンドだって言ってくれてますけど、元々蝦名さんのソロ・ユニットから始まっていて、蝦名さんの歌をきかせるためにバックがいるっていう前提は昔から変わらないですね。
蛯名 : でも今回色んな人にCDを送ったら、今までより俺の歌が出過ぎてなくて、演奏が自然だって言われたよ。俺の意識が少し変わった部分もあるんだろうし、今は皆で作ってると思うし。皆もなんだかんだ勝手にやってるでしょ(笑)。橋詰(俊博)君入ってからは特に。
ーー橋詰さんはどんな人ですか?
蛯名 : クソちんぽこ野郎ですね。
ーーははは(笑)。
蛯名 : 最初はライヴ・ハウスで何も知らないで話してたんです。その時ギタリストを探していて、色んな人に声をかけてたんですけど断られて、彼にもスタジオで弾いてもらって。俺は椅子に座って、オーディション番組みたいな感じで(笑)。5分くらい聞かせてもらったんだけど、この人ずっとギター触ってるし、ギターのこと考えてる人だなっていうのがすぐにわかって。その後音楽の話もして、入ってもらいました。これは否定じゃないんだけど、今の音楽の人って、すごい雑かすごい几帳面かどちらかが多い。でも吉村さんとか、飯田君もそうだけど、よくわからないギターの人っているでしょ?
ーーよくわからないギターの人?
蛯名 : 本当はすごく上手くて、ちゃんと弾こうと思えば何でもできる技術を持っているにも関わらず、どれだけ変に弾くかに重点を置いている、みたいな。そういうところがいいなと思ったんですよね。俺の曲はストラクチャーというか、構造がしっかりしてるから、その中にそういうギターが乗るといい感じに調和されたり、他のメンバーもそれにのっかったりできる。あんまり言うと調子にのるから言いたくないんだけど(笑)。でもヅメさんはもっともっとできると思っていて、今は潜在能力の15%くらいしか出してないと思う。ゲンドウ君(zarame/ex COWPERS)も若い人で認めてる人少ないけど、大好きで。昨日もゲンドウ君の家に遊びにいったみたいだしね。
いろんなダメな面も含めていいと思う
ーー吉村さんがいなくなったことは、バンドにどんな影響を与えましたか。
蛯名 : 作品どうこうより、皆にとって大きな出来事ですよね。親族が死ぬような感覚に近いというか。今回は、吉村さんに聞かせられるようなアルバムにしようという意識はあったかな。『フォーク』は「こんなのは最低レベルのアルバムだぞ!」って酷評されてたんで。自分が関わってないから「全然ダメだ!」って言われてたのかもしれないけど(笑)。吉村さんは前作で抜けましたけど、常に参加したがってたってことを人伝いに聞いたりしていたので、やっぱり嬉しいですよね。「man」は親父に捧げた曲なんですけど、吉村さんのことも含まれてて。ちゃんと最後のお別れの挨拶もしてないし、本当に死んでるのかって疑惑もあるくらい信じられないまま過ごしてて。「2つのモノレール」は吉村さんとやってた頃から何も変わらないんですけど、今のタイミングで聴くと吉村さんのことにも聴こえなくもないですし。
ーー「2つのモノレール」は、まさに吉村さんのことを歌った曲なのかなと思ってたんですけど、キウイロール時代の曲だと聞いて驚きました。
蛯名 : 男女の話で作ったけど、好きに受け取ってもらえれば。
ーー「なおさら」も、印象的な歌詞だと思いました。
蛯名 : これはヘイト・スピーチのことを歌っています。去年11月のアンチ・レイシズムのデモに参加したり、無職のときに関連本を読んだりしてて、戦ってる人を尊敬するとともに、自分の中にも少なからず差別感情があるよなって思って。人種差別じゃなくても、生きている中で「あんな人にはなりたくないな」って他人に対して思うことがあるし、そういうことも差別的で嫌だなって。人のことはどうでもいいじゃんっちゅうか、お前が、自分が頑張れよって、そういう曲ですね。
ーーあと「Dis song」の「隙間をぬうようなうたはもううたわない」というのは?
蛯名 : 格好良い歌詞がもう必要なくなってるんだろうなって思うんです。かといって直接的な、今はびこってるような、「皆で手を取り合って頑張ろう」「夢は叶うよ」みたいな曲は絶対に違うと思うんですけど、それこそeastern youthの『ボトムオブザワールド』みたいな、ありのままというか、そのまま出しているのもいいんじゃないかなって。ポリティックな歌詞とかも素晴らしいし、やっていいと思うんだけど、そういうのじゃなくて、吉野さんの「金が落ちてないかと下見て歩く」みたいな歌詞。
ーー赤裸々ですよね。
蛯名 : それでいいと思うんですよね。『ボトムオブザワールド』はいい歌詞が多い。吉野さんはソロも含めて昔からいいんだけど。「ファイトバック現代」とか「ナニクソ節」もすごい好きだし。「Dis song」はああいうのをやらなきゃダメだなって思ったときに書いた曲ですね。実際自分が出来てるかっていったら違うんだけど、ああいう表現がいいなって思ったんです。昔ECHOのオノデラくんがボソッと「どんどん裸になっちゃうんだよね」って言ってて、その感じに近づいていってる感じ。格好付けちゃったらダメだなって。less than TVのバンドとかは格好付けてないバンドが多いからいいなって思います。
ーーなるほど。『ボトムオブザワールド』の影響があったんですね。
蛯名 : そうですね。まさに制作のタイミングで聞いて、影響を受けましたね。最新作が一番格好良いっていうのは本当にすごいし、ましてや吉野さんもいい歳で、その上で更新しちゃったからすごいなって。ああいう先輩がいると困っちゃうというか、俺もやんなきゃなって思います。
ーーDischarming manも前作を超えていきたいという思いはありますか。
蛯名 : それがないとダメなんじゃないかな。超えているかどうかは聴いた人の判断だけど、俺は今作が一番いいと思う。いろんなダメな面も含めていいと思うし、こんなふうに思ったのは初めてかもしれない。これは聴いてほしいなって思います。
ーーダメなところとは?
蛯名 : 俺の歌が作曲に追いついていない点。あと演奏を上手くしきれなかったってところもあるし、曲の構造もあるし、もっと出来たんじゃないかって思うところもあるんですけど、うわーって録って出して、その瞬発力でいいっていうか、これ以上のものはできないと感じたし、納得してる。「俺の人生こうでした!」って感じ(笑)。それでまた次にいけばいいんじゃないかなって。今作は割とグワーっと作ったので、次は「ぴろりろり〜ん」って作品を作りたいですね。
ーーぴろりろり〜ん? (笑) そういえば、1年半前くらいに蝦名さんに会ったときに「もう歪んだ音楽はやらない」って仰ってたんですけど、今回思いっきり歪んでますよね。
蛯名 : あれ、そんなこと言ってた?(笑)。それはね、多分シングルとdOPPOのスプリットで出し切っちゃったんだよね。その反動でギャギャギャと歪んでしまった。次は単音でピロピロ弾きたいなって思いますね。独立した演奏で、ひとつにまとまってるものにしたいっていうのがずっとあって。それをやれたらいいなっていうのがあるんだけど、それを俺に求めている人がいるのかどうか。キャプテンビーフハートとか、そういうのに憧れはすごいあるんです。
ノッチ : はじめて聞いた話なんで恐ろしいんですけど(笑)。
蛯名 : ノッチは一定なんだけど、周りがごちゃごちゃしてる、みたいなさ。まとまってバーンといくというか。Limited Express (has gone?) もそうだけど、「えっ、何?!」みたいな、クエスチョンが浮かぶものがやりたいな。それをやるには構築してかなきゃいけないし、メンバーの協力が必要で。新しいことがやりたいですよね。今はリリース関係で事務仕事ばっかりだけど、新体制になって、やりたいこともあるので頑張ります。
RECOMMEND
eastern youth / ボトムオブザワールド(24bit/96kHz)
結成27年目を迎えるイースタンユースの最新で最高の傑作。これまでのメジャー・レーベルを離れ、かねてより自身たちで運営してきた「裸足の音楽社」からオリジナル・アルバムとしては初の単独リリースとなる。かねてから親交が深く極東最前線にも出演している、向井秀徳 (ZAZEN BOYS)、射守矢雄(bloodthirsty butchers)、cp(group_inou)らがゲスト・コーラスに参加するなど、これまでになかったアプローチをも試し、アルバム全体で大きな表現の強度を生んだ、イースタンならではの丹精に魂が込められた現代社会に突き刺さる紛うことなき大名作。
名古屋を中心に活動を行う、7人組ハードコア・バンドTHE ACT WE ACTが前作『いってきます』から約4年振りのアルバム。2度のマレーシア / シンガポール・ツアーや全国のフェスやイベントにも出演、つい先日も台湾へツアーを行うなど、1つのシーンに留まる事無く活動を続ける彼ら。前作よりも更に進化と深化を遂げた全8曲が収録されている。
LOSTAGE / Guitar
五味兄弟を軸とする奈良県のオルタナ・インディ・ロック・トリオ、LOSTAGEが2014年8月に発表したスタジオ・アルバム。バンド史上、最もメロディと歌に比重をかけた楽曲群を収録した、入魂の一枚。
LIVE INFORMATION
nurse green vol.29
2015年8月22日(土)@名古屋今池HUCK FINN
出演 : THE ACT WE ACT / bed / 6eyes / Killerpass / Discharming man
デルタマーケット6周年企画
2015年8月23日(日)@横須賀かぼちゃ屋&リトルアムステルダム
出演: bacho / Qomolangma Tomato / eye / endzweck / mynameis… / MORETHAN / sidescars / 左廻 /蛯名啓太(Discharming man)
5B records presents「Dream Violence Vol.29」Discharming man 10th anniversary
2015年9月12日(土)@新代田FEVER
出演: zarame / LOSTAGE / Discharming man
2015年9月13日(日)@熊谷モルタルレコードストア
出演: 蛯名啓太(Discharming man) and more
KLUB COUNTER ACTION 20th Anniversary
2015年9月26日(土)@札幌klub counter action
出演: kamomekamome / YUKIGUNI / Discharming man
マンモス2015
2015年10月10日(土)@西沢水産ビル
>>イベント HP
5B records presents「Dream Violence Vol.30」『歓喜のうた』レコ発
2015年10月30日(土)@@札幌SOUND CRUE
出演: 3rd happy hardgore / Discharming man
PROFILE
Dischaming man
北海道のハードコア・バンド“キウイロール”の解散後、フロントマンだった蛯名啓太が“心置きなく唄いたい”という願望から2005年に活動を開始。名前の由来は、影響を受けた英国のバンド、ディスチャージとザ・スミスの曲名(「This Charming Man」)から。当初はエレクトロニックなサウンド・プロダクションやソロの弾き語りを中心としていたが、その後はバンド形態に移行して活動。