飯坂温泉ミュージック・フェスティバル「おと酔いウォーク2013」
おと酔いウォークとは?
飯坂(いいざか)町商工会青年部・飯坂温泉観光協会青年部が中心となって実行委員会を立ち上げ。2011年3月に発生した東日本大震災及び原発事故による風評被害により、福島へ訪れる観光客は激減。また、放射性物質汚染の影響を恐れ、福島県の人口も減少している中、市民に「元気」と「笑顔」を与え、小売店、飲食店などの地域商業の振興を図るために、音楽イベントを開催して、賑わいを創出させ風評被害の払拭のために飯坂から全国へ発信!
>>おと酔いウォーク2013
飯坂温泉ミュージック・フェスティバル「おと酔いウォーク2013」
開催日 : 2013年3月23日(土)
場所 : 飯坂温泉街 全6会場(おと酔い劇場 / Music&Sports Bar「楽屋」 / 談妃留 / 温Cafe / 旧堀切邸 十間蔵 / 花乃湯)
※リストバンドにて全会場入場可能
【ゲスト・ミュージシャン】
EG(イージー) / 磯谷直史(THE ANDS) / 岩崎慧(セカイイチ) / 加藤雄一郎(NATSUMEN/L.E.D.) / 木内友軌 / 蔡忠浩(bonobos) / 篠宮鈴児 / 新月灯花 / 四星球(アコースティック) / 太陽族(アコースティック) / 中村マサトシ(THE YOUTH) / 鶴 / HARCO / paionia / ふたりグモ(カミナリグモ) / 渡會将士(FoZZtone)
【福島ミュージシャン】
I Scream / ave / 大内康平(Sky Ride) / KAEDE / King-Bee / @なおポップ / 佐藤漂白剤 / 衰退羞恥心 / ひとりぼっち秀吉BAND / BRAVE MAN / 本田雅人(The Camels) / 矢野雅哉(MEteoric Swarm) / ランブリン前田
【飯坂ゲスト・ステージ】
飯坂だ♨べしたーずwith木綿子(民謡) / 飯坂太鼓 / みちのくボンガーズ(お笑い)
OPEN / START : 11:00 / 11:30
前売り料金 : 3,000円
※1枚につき1名様まで有効。
※小学生以下は入場無料。(保護者同伴に限る)
※当日、飯坂温泉駅にてリストバンドと引き換えいたし ます
※飯坂温泉旅館の入浴券をプレゼント!(通常お一人様¥800~¥1200)
(入浴券は1枚で2名様まで有効・ 2013年4月まで使用可)
info : U-ONE MUSIC 024-597-7202
Twitter : @otoyoi2013
INTERVIEW : 阿部綾子(U-ONE MUSIC)
震災以降、観光客が激減した福島の飯坂(いいざか)温泉街で、飯坂町商工会青年部・飯坂温泉観光協会青年部が中心となった実行委員会が、県外から多くの人に来てもらうために、音楽フェス「おと酔いウォーク2013」を完全DIYで開催する。来てもらえれば、飯坂温泉が、いかに素晴らしいかを理解してもらうことが出来る、そんな強い信念を持ち、アーティストをブッキングし、飯坂温泉街の全6会場を借りて、ウォーク・ラリー形式のフェスが、今福島に生まれた。
何よりも素晴らしいのは、音楽があることが、その街を訪れる理由になっていることだ。そして、この記事のように、伝える理由になっていることだ。更に素晴らしいのは、このインタビューを通して、福島のave(エイヴ)というアーティストに出会うことができたことだ。「福の歌〜頑張っぺver.〜」のYouTubeの最後に出てくる「がんばっぺ福島!」という言葉に、東京に住んでいても涙が出る程勇気づけられた。今回、このフェスの主催メンバーでもあり、福島市のU-ONE MUSICと言う楽器屋に勤めている阿部綾子が、フェスの成り立ち、飯坂の魅力、今の福島のこと等を、しっかりとまっすぐに伝えてくれた。
インタビュー : 飯田仁一郎
文 : 前田将博
飯坂温泉で音楽フェスがやりたい
——阿部さんは何をされている方なんですか?
福島県福島市で、U-ONE MUSICという楽器屋に勤めています。その中にある、Out LineとPlayer’s Cafeというライヴ・ハウスのブッキングも担当しています。そんなにバンドが多い訳ではないので、ライヴ・ハウスは土日メインでやっていて、平日は楽器店と音楽教室の受付などをやっていますね。福島市で音楽をやりたい人が、ひと通り充実して音楽生活が出来る様な環境を作っています。
——なるほど。ではロックとかクラシックとか、ジャンルは関係なさそうですね。
そうですね。ジャンルは全般です。
——福島市内の音楽シーンはどんな状況なんですか?
正直ミュージシャンが多い訳でも、実力がある人がたくさんいるわけでもない街で。震災直後、福島のアーティストを紹介してほしい、福島の声を聞かせてほしいという話を多くいただいたんですけど、その実力に見合う人が少なく、声にお応えすることができなくて。申し訳なかったけれど、それが福島の現実でした。でも、震災以降、音が出せる状況になりはじめてからですが、音楽への向き合い方が変わったというか。普通に音を出せる事が当たり前じゃないと体感したこともあり、それぞれのペースではありますが、すごく頑張って活動しています。オリジナル曲をやっていなかった人が曲を作り始めたり、自分達で企画をやったり、CDを出したり、すごく一生懸命ですね。全国に出て行こうと思う人も増えましたし、実力的にはこれからですけど、そういう意思が出てきたのは、大きく変わったところですね。
——おと酔いウォークの開催の経緯を教えていただけますか?
飯坂温泉ミュージックフェスティバル実行委員の中心になる方々から、飯坂で音楽フェスが出来ないかというお話をいただきました。福島市は中通りといって県の真ん中なので、津波の被害はなかったのですが、東日本大震災後に起きた原発事故の影響で、放射線量が高い地域になってしまったのですよね。飯坂もそうですが、福島と聞くとみなさん色々感じる部分があって、観光で収益を得ていた地域はずっとその影響が続いていて、収益が激減しています。2年経つので戻ってきている部分もあるんですけど、震災前には追いつかない状況です。すぐに改善出来る事ではないと分かってはいますが、生活もしていかないといけないし、自分たちが信じて誇りにもってやってきたことがあるので。何かできないか、とみんないろいろ考えて行動しています。
——誇りに思っている部分というのは?
私だったら音楽で、彼らからすると自分達の温泉地ですね。それを改めて見てもらえたらいいなという話をしていました。最初は、大きいバンドさんを呼んでのロック・フェスみたいなイメージで提案をいただいていたのですが、予算もそんなにないので、小規模の会場を借りて、ライヴ会場を何個か作って、ウォーク・ラリー・イベントをやってみませんかという話をさせていただきました。そこから、私が連絡をとれるアーティストさん、福島によく来ていただいているアーティストさんに相談させていただきましたね。
——ライヴ会場は、どんな場所を使うんですか?
楽屋というのは、ミュージック・バーで、普段もライヴをやっている会場です。おと酔い劇場は、みちのくボンガーズという福島のお笑い団体が稽古やライブをやっていた場所で、今は空き家になっているので、そこをお借りしました。あとは、県内最古の土蔵と言われている堀切邸の十間蔵を使います。oncafeというのは、飯坂は果物も盛んなので、果物やお土産など地元名産品も販売しているカフェですね。談妃留は、コーヒーや、ラーメンをメインとする喫茶店を、その日だけお借りして小さいライブ会場にします。花乃湯さんは温泉の旅館で、宴会場をお借りして普段は出来ない様な事をしようと話してます。
——ライヴ・ハウスはないんですね。
飯坂は完全に温泉地ですからね。
心を休めに来てもらいたいです
——すでにかなり面白そうです。
初めてなのでどうなるか心配で、今色々と詰めているところですね。まだ全貌が見えてなくて、会場作りが肝だと考えてます。チケットもすごく反応があって、全国から問い合わせをいただいてます。なので尚更、飯坂に来たかいがあったと言っていただきたいなと思ってますね。
——飯坂は温泉の他に、どんなところが魅力ですか?
旅館の駐車場はあるんですけど、有料パーキングはないので、基本的には車ではなく、電車で来てほしいとご案内させていただいてます。飯坂は、福島駅から飯坂電車で20分くらいのところにあるんですけど、本当に光景が違うんですよね。まずその町並みを見てほしいです。それぞれの温泉も魅力なのはもちろんですが、のどかな雰囲気があるので、心を休めに来てもらいたいですね。温泉もたくさんありますし、各旅館も温泉だけの利用ができたり、足湯もいたるところにあります。あとは円盤餃子の老舗のお店がありますね。
——震災前は、福島の中でも特に人が多く来ていた場所なんですか?
福島には温泉地が色々あって、他にも盛んな場所はたくさんあるので、飯坂だけが盛んだったわけではないですね。福島全体に言える事なんですけど、人が離れていってしまっていて、営業的には苦しい部分もありました。それに追い打ちをかけるように原発事故があり、正直営業を廃業せざる負えない旅館もありました。
——そういう状況の中で、実行委員の方達のモチベーションはどんな感じなんでしょう?
飯坂町にはけんか祭りというお祭りがあり、元々お祭り好きで気持ちが熱い方達ばかりです。
——神輿をぶつけ合うやつですよね。
そうです。観光協会でもご案内しています。今回のイベントにも出演していただく飯坂太鼓も有名で、普段は20人くらいでやるんですけど、今回は規模を縮小して8人くらいの編成でやります。みんな、なんとか飯坂を守りたいという思いがありますね。
——主催メンバーには、どれくらいの世代の方がいるんですか?
今回のイベントに関わっているメンバーは若い世代が多いです。今回は、今まで飯坂という町を知らなかったような新しい世代の方に知っていただきたい、ということで、私にお話をいただきました。このイベントをきっかけに足を踏み入れていただいて、少しでも良さが伝わればいいなと思っています。
——飯坂は自信を持って呼ぶわけじゃないですか? その時に放射能の問題が目の前にあると思うんですけど、飯坂は大丈夫なんですか?
今は放射線量はだいぶ下がっているので、1日飯坂で過ごしたことで人体に影響があるということはないと考えています。難しい問題で、大きく私たちが大丈夫というのは語弊がありますが、数値としては影響がない状況です。
——それは温泉という意味でも?
そうですね。
——飯坂は温泉は大丈夫だし、町に魅力があるというのを見てほしいというのが一番の気持ちですよね。放射線は大丈夫っていうことの打ち出しはするんですか? やっぱり東京の人や他県の人が気になるのは、放射線だと思うので。
ホームページに載せてはいないんですが、情報としては問題なく出せますね。数字的にも問題がないです。今回は放射線の打ち出しは特にしない、ということになっていますが、もし気になるという方はお問い合わせいただければ数値はお知らせできます。
——そのあたりをどう打ち出すかはポイントかも知れないですね。難しい問題ですが、絶対に成功させてほしいです。アーティストの選出は、阿部さんがされてるんですよね。これだけの数を全部やるのは、大変だったんじゃないですか?
これだけのアーティストさんに声をかけさせていただいたのは、初めてですね。
——みんな快く引き受けてくれた?
はい。本当にありがたいことです。
「音楽をやってて良かった」「自分はこの時のために歌い続けてきた」
——今回のライン・アップに関して、阿部さんの思いはありますか?
bonobosの蔡(忠浩)さんは、昔からぜひ福島でやってほしいと思っていたので、どうしても呼びたかったです。出演が決まったので、みんな喜んでくれましたね。太陽族さんは、震災直前の2月にマスミサイルさんと一緒にツアーで来てくださったんですが、その時のライヴがすごく良かったんです。その直後に震災が起きて、外で遊べなかった子供達に屋内の楽しさを知ってもらおうと、7月に小学校でバンド・セットのライヴをやっていただきました。その時に「音楽をやってて良かった」って言っていただいて、それ以来、3ヶ月に1回くらい福島でライヴをしに来てくれたり、色々なところで福島のことを話してくれたり、すごく福島に寄り添った活動をしてくださっています。
——彼らは福島と関係がある方達なんですか?
5年ぶりに福島ライヴをやった直後に震災が起きた、という繋がりだけでやってくれていて、今回の話も即答で「やります」と言ってくれました。福島のave(エイヴ)というアーティストは、震災の前から福島の歌を歌っていた方です。震災直後は、放射能の影響で私たちは外に出ることができず、ガソリンもない状況で、ラジオで情報収集をしていました。ニュースも刻一刻と状況が変わっていく中で、aveの唄が聴きたいっていうリクエストがあったそうなんです。その声を聴いて、aveは毎日ラジオ局に行って、隙があると生歌を唄っていました。「こんな状況で音楽なんて」って誰もが思っていた中で、唄うことは勇気がいったと思いますが、でもラジオを聴いていた人達はaveの歌にすごく支えられたと思います。今では福島の曲を持って全国で歌っている、福島を代表する方です。
——(音源を聴く)ワン・フレーズで泣けるじゃないですか! 泣きそうになって聴けないですよ。
今でも聴くと泣けますね。元々あった曲が福島市の唄だったんですけど、震災後、福島県全体の方が聴いても想いが重なるようにと、一部歌詞を変えて唄い始めたのが「福の歌~頑張っぺver.~」といいます。福島のミュージシャンはある程度知名度が上がったりすると、プロを目指して東京に出て行く方が多い中で、彼はずっと福島で歌い続けてきました。震災以降は「福島でやってきた意味があった」「自分はこの時のために歌い続けてきた」と、いろんな活動をしていて、呼ばれたらどこへでも行くスタンスですね。
——やっぱりイベントのトリはaveですか?
悩んでますね(笑)。
——確実にaveがトリですよ! 東京のミュージシャンに取らせちゃダメですよ(笑)。
嬉しいです。自信を持って推せるアーティストなので、私たちとしてはそうしたいですね。あと今回は、お客さんに休みにきてほしいと考えました。タイム・テーブル的に焦ってステージを回ってしまう方もいると思うんですが、イベントとしてはゆるりと回って、ふわっと音楽を聴いてほしいですね。チケットに入浴券も付いているので、温泉に入ったり、足湯につかったりして、「良い一日だったね」と思ってほしいです。そういう意味では、歌をメインにした、ゆっくり聴けるアーティストにこだわった部分はあります。温泉地で音量はあまり出せないし、基本的にアコースティック・スタイルの方がほとんどなんです。
——音があまり出せないというのは、年配の方が多いからですか?
会場が民家や旅館の隣だったりするんです。演奏自体は昼の11時半から20時半を考えていて、後半は花乃湯さんに絞ろうと考えているので、昼間だったらある程度なら音も出せるかなと思います。ただバンドでという感じではないので、歌がしっかり聴けるような環境を考えていますね。
——今、福島には何が必要だと思いますか?
受けた被害や影響は人によってそれぞれなので、難しいですね。避難区域となってしまい、帰れない地域となっている方々は、未だ仮説住宅に住まわれている方も多く、福島市にも仮設住宅がたくさんあります。放射線の影響に関しても、大丈夫と言われていても、影響が出るのが5年10年、その先…という話もありますからね。余談ですが、先日福島の高校生から甲状腺がんの疑い、というニュースがありましたが、会見した医大の教授は原発事故との因果関係は考えにくい、と発表していました。震災からまだ2年しか経っていないのですが、どうしても周りの関心は薄れてきてしまうので、ここからが本当の戦いだと思っています。県内に残った人が正解でもないし、県外に行った人もずっと戦っていますからね。
——なるほど。震災から2年経った今、被災者のみなさんの現状も変化していて、「福島の方々」という風に一括りにはできないということですね。
福島生まれ福島育ちという意味では同じでも、避難生活を強いられている方と、家も無事で、今も福島市で生活している自分達とは環境が全然違うんです。一概に何が必要だとは言えないんですけど、福島で起きた事を忘れないでいてもらうためには、自分達が動いていかなきゃいけないと思います。震災のことばかり考えて生きるのも辛いので、福島の人たちにも楽しい事を見つけて希望を持って生きてほしいとも思いますが、ずっと伝えていきたいと思います。全国の皆さんには、足を運んでもらうことで感じていただけることもあると思いますし、何かしてほしいというよりは直接触れてほしいですね。足を運んで会話をしてもらうと伝わる事があるのではと思います。そのためにも、こういったイベントがきっかけの一つになればいいとも思って、お手伝いさせていただいてます。
——県外のお客さんが来る理由は、アーティストではなくて、飯坂温泉だからとか、雰囲気とかだと思うんです。そこの構築を是非やってほしいですね。飯坂温泉は安全だと、どかんと書いてほしいです。すごく成功してほしいですね。
原発事故や震災のこともあるんですけど、単純に遊びにきてほしいというのが一番ですね。そのためにも、続けていけるような形にしたいと思っています。
阿部綾子 PROFILE
福島県福島市、ト・キ・メ・キ楽器店「U-ONE MUSIC」店員。ライヴ・スペース「Out Line」「Player's Cafe」では、イベント企画やブッキングなども行っている。
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