音楽シーンなんて既に壊れてるし、これで終わり——Wonder World、ベスト・アルバムをハイレゾ配信
アノニマスの面をかぶったトラックメイカー、Wonder World。KIYOSHI SUGO、★STAR GUiTARと同じレーベル〈CLUSTERSOUNDS〉に所属し、2012年にファースト・アルバム『click here to download』をリリース以降、DE DE MOUSE やオオルタイチ、metalmouse等と共演を重ねつつ全3枚のアルバムを制作。そして今回、ベストにしてラスト・アルバム『wonder world is dead…』をリリースした。初期DE DE MOUSEとも共鳴する、民族音楽ヴォーカル・フレーズを取り入れた中毒性満点のトラックから1990年代インテリジェント・テクノ的な響きを持つリスニング向けトラックまで、Wonder Worldの歴史を総括する煌びやかなアンセムが勢ぞろい。OTOTOYではハイレゾ配信を行う。
この作品を残して、何故Wonder Worldの活動を辞めるのか。自身のアーティスト活動と並行して、音楽"業界"の一員として他のアーティストのプロデュースから制作にも深く携わってきた彼だからこそ見えた現在の音楽シーンへの言葉の数々とともに、その真意をあらわにする。
Wonder World / wonder world is dead…
【Track List】
01. tick-tock / 02. everlasting / 03. way to go / 04. cosmic dancer / 05. sinewave / 06. let me in / 07. 24 / 08. walking dead / 09. primary color / 10. before the daylight / 11. wonder world / 12. nowhere / 13. dreamin' / 14. swing for murder / 15. child's end
【配信形態】
24bit/48kHz (WAV / FLAC / ALAC) / AAC
【価格】
単曲 250円(税込) / アルバム 2,000円(税込)
INTERVIEW : Wonder World
もともと「遊びで」音楽を作っていたというWonder Worldがここまで大きくなった背景には、音楽の本質と徹底的に向き合いながらも時代に柔軟に対応しようと貫く強い意志があった。そこから『wonder world is dead…』という結末を迎えるその過程には一体何があったのだろうか? 謎に包まれた男の仮面をそっとはずしてみると、そこにあるのはただ「音楽が好き」という思いだけだった。誰よりもシーンを見つめ、シーンのために音楽を送り出し続けてきた彼は次に何をしでかそうとしているのだろう。日本の音楽シーンはこの男についていけるか?
インタヴュー : 飯田仁一郎
文&構成 : 石川美帆
写真 : 大橋祐希
音楽シーンなんて既に壊れてるし、Wonder Worldもこれでおしまいにしようと思って
——では成り立ちから訊きましょう。Wonder Worldは、いつから始めたんですか?
ファーストを出す、ほんとちょっと前からです。もともと一人遊びで作ってたやつを実験的に曲っぽく仕上げて。他にバンドもやっていたので、それまでは個人の楽曲を形にしようとは思いませんでしたね。
——バンドで活動しているのに、打ち込みにシフトしていったのはどうしてですか?
高校生の頃からテクノが大好きだったんです。それに、日本人が世界を目指しても日本語で歌っている時点で絶対無理だし、大してしゃべれない英語じゃ通じないから駄目だと思っていて。だからインストの音楽は世界で1番勝負しやすいなと。
——ちなみに、なんでアノニマスのお面をかぶっているんですか?
なんでだっけ(笑)? ニッキー・ロメロより俺の方が先なんだけどね。
——政治的な意味があるわけじゃないんですね(笑)。
全然無いです(笑)。ライヴでもすごく息が苦しいし酒も飲めないんで、すぐ取ります(笑)。強いて言うならグローバル・コミュニケーションというイギリスのアンビエントのユニットがいまして。彼らの『76:14』っていう俺の大好きなアルバムがあるんですけど、『76:14』っていうのは、アルバムのトータルの分数なんです。曲名もそれぞれの楽曲の分数になっていて。曲からどういうイメージを持ってもらっても構わないという意味を込めているらしく。自分も聴くたびに違う風景が浮かんでくるし、それが音楽の理想だと思うんですよね。それもあって、ビジュアルでイメージを与えたくなかったんですよ。アノニマスもあんまり自分のイメージが外に出ないようにってことで。
——世界観も統一されてますよね。ファースト、セカンド、サードと、宇宙からヨーロッパへ、そして東京に辿り着き、今回はどこですか? ニューヨーク?
いや、今回は着いてみたら地球が崩壊してたっていう…。
——えっ!
そのままです。音楽シーンなんて既に壊れてるし、Wonder Worldもこれでおしまいにしようと思って。
——全てはタイトルの「wonder world is dead…」ということですか…。終わらせると決めた気分はどうですか?
爽快ですよ。楽曲のプロジェクトファイルも全部捨てました。もうWonder Worldっていうプロジェクトはおしまい! またやりたくなってもそのころは絶対もっと良いものができます。
——だからもうベストにしちゃったんですね。終わらせたかったのは、なぜですか?
飽きたんです。
——えっ!
まあ、音楽の在り方が変わったから、というのが正直な理由です。ここ数年のEDMと呼ばれるシーンって、自分が「ラブ・パレード」に遊びに行ったときのハッピーでピースフルな雰囲気とは全然違う。"作られたショー"なんですよね。そこからは何も生まれなくて消費されるだけ。それって音楽がやるべきことじゃないですよね。
——しかし“終わらせる"と決めてリリースするベストの中に、3曲の新曲を作って入れたんですね。これはどういう意味合いがあるんですか?
日本で上手く根付かないトラップ系のサウンドも、こういうテイストだったら流行るかな?と思う節があっていれました。
——時代を考えて創っていくのですね?
職業病です(笑)。
日本人に合う音楽っていうのは、音楽的に分かりやすい構成じゃないですかね。そういう意味ではEDMはすごく日本人にハマりやすかったんでしょうね
——そもそもなぜ自分で音楽を作ろうと思ったんですか?
会社を救済しようかなと思って。
——おぉ、ものすごいデカい話じゃないですか。
そうです(笑)。でもこういう仕事をしてるなかで、フラストレーションが溜まってて。
——音楽業界全体が下降していくから?
情報がないころ、自分から掘りに行って、出会って見つける大切な音楽。そういう聴き方ってまだできるんじゃないかなと思っていました。じゃあ自分でやってみようかな、と。いいアーティストもなかなかいないし。でもやっぱり音楽の聴き方、在り方が変わったんです。ネットレーベル系の人たちも音楽で飯が食えるとは思ってないでしょう。それが正しい形なんだと思いますよ、今は。自分の理想としている音楽の広まり方、マネタイズの仕方がもう通用しなくなっているというのを認めました。
——Wonder Worldの理想のマネタイズの仕方というのは?
「ひとりで完結すること」ですね。アレンジ、エンジニリング、マスタリングを初対面の人に任せるなんて信じられない。アーティストが1から10までできる状態が理想。あと「もったいぶらない」。年間計画で、ここでシングルを切って、ここでアルバムを、ってそれがもうおかしい。世の中には"いま"作られたものがどんどん出ていっている。なのに、1年前に作ったやつが出ていくんです。それはもう在り方として無理だと思う。でもレコード会社にいる以上はそこに乗せていく目線も必要だから俺は反対にそれを無視してます。3年前の曲をコンピの1曲目にしたりして、そしてそれが実際に売れるという。
——全部一緒と。
3年前のことなんて実際は知らない人達の方が多いんだから新鮮に響くかな、と。今までのやり方だと絶対無理なんですよ。マネージャー、ディレクター… 何十人もの人が周りにいて、その人達を食わせていけるお金なんて純粋な音楽では生み出せないですよ。独自でバランスが取れていて、言いたいことも自分でちゃんと伝えられる、というのがあればいいんだと思います。なかなかそんな人には会わないですけどね(笑)。
——成功してる人は、どういう人なんですか?
DE DE MOUSEはスタッフひとりでうまくやってますよね。あとやってることを曲げなかった。本人はもっとやりたかったのかもしれないけど、あれは素晴らしい生き方だなって思います。
——Wonder Worldにとって"曲がいい"の定義はどういう部分なんですか?
うーんなんだろう… 説明するのが難しいですね。
——もちろんそうでしょうけど(笑)。
でも15秒くらいでいつも決めちゃいます。
——最初はMySpaceとかから?
1番最初はそうですね。
——今はSoundcloud?
そうですね。でも最近はSoundcloudより、ファンの人たちが作ってるブログのほうがいいです。Soundcloudって多すぎて辿り着けないんですよ。だからある程度好きな人たちがフィルターをかけてそれっぽいのが集まってるブログとかがたくさんあるんです。そういうのをチェックしています。それ見たら僕のコンパイルしているコンピレーションとかみんな作れますよ(笑)。
——でもそれができるというのは、実はすごいことですよ!
今でも音楽はめちゃめちゃ聴いてますよからね。
——クラブからメロウなヒップホップみたいな今のサウンドの感じは、何かルーツはあるんですか?
もともとデトロイトテクノが大好きで根幹はずっと変わってないです。デリック・メイを初めて見て衝撃を受けて、そっから〈ワープ・レコーズ〉とかの小難しいやつも聴くようになり、エイフェックス・ツインも聴き、アンチコンあたりも聴きました。
——そんななか、ご自身がコンパイルされてるシリーズや、担当されてる諸作品にも、Wonder Worldに通ずるものがある気がするんですけど…。
そりゃ、同じ人がかかわっているからですよ(笑)。まあ節操なしにやるよりは、日本人に合ったのをやった方がいいと思ってやっています。
——日本人に合った音楽ってどういうことですか?
音楽的に分かりやすい構成じゃないですかね。「はいここで泣くんです」「ここで手を挙げて喜ぶんです」みたいな。そういう意味ではEDMはすごく日本人にハマりやすかったんでしょうね。でも反対にそういうのは日本人にしかできないんだろうなって思います。外人は「チープだ」っていうものでも、日本人の見せ方で上手くやればおしゃれに響く。
——僕もやっぱりそういうのにグッときます。でもそれを日本人的な感覚なんだと捉えたことはなかったです。
日本はカントリーとかの土壌がないところが、アメリカと全然違うところなんでしょう。そして今のEDMは音楽じゃなくて、パーティーって感じですよね。クラブ・ミュージックをずっと必死にがんばってきた人たちはひとくくりにされてどう思ってんだろうなあ。でもマーケティングのセンスとして、EDMはすごいと思います。お金にならないんだから音楽じゃなくて"ショー"をやりましょう、っていうことに振り切ったわけだから。
音楽を再定義していくのは若い世代です。年取った人たちじゃない
——一方で若者たちが「すごい作品」を出してこない、売ろうとしてないという感覚がある?
自分たちが「すごい作品」を作るという意識が無さそう。来てくれてる人たちとみんなで一緒に楽しめればオッケーみたいな感じ。自分を表現する場所なんて山ほどあるのに、そこで思いきりアピールしないのはなんでなんだろうって思います。
——ある一方でビジネスライクにショウアップされたEDMがあり、一方でおもしろいものをアピールしようとしない若者たちという現状がある。ではWonder Worldはなぜここで"終わらせて"しまうんですか?
違うことをやろうかなって思ってますよ。今このジャンルに固執すると、このジャンルを好きでいられなくなりそう。
——やはり失望してるの?
諦めはありますね。今の若い子が、初めて音楽に触れたとき、そこにはもう価値がなくなっていて、それが当たり前の状態。じゃあなんか違う考え方に変えなきゃなあと思います。今までライヴだったものが「肉フェス」みたいに何かと組み合わせないと音楽が続かなくなっちゃうので、そこはうまくやっていきたいんです。
——ちょっとずつ未来の勝ち方は見えつつある?
でもそれは手段です。根幹は音楽をやりたいだけ。手を替え品を替え自分の好きなものがなくならないようにしていたい。それが正解かどうかっていうのは自分の気持ち次第なんじゃないですかね。本当に音楽が好きなんですよ。
——今の話を聞いて、Wonder Worldは、音楽にものすごく熱いっていうのはよく分かりました。
今でもドキドキしたいですよね。高校のときに『ele-king』が創刊されて、情報も何もないテクノというジャンルが現れ、日本のレーベルの人たちが池袋のウェーブでリリース・パーティをしているんですよ。そして店内で踊るんです。ああいう"秘密の花園"に踏み入っていく感じがすごくドキドキしたんです。
——今の子たちにそういうのがないわけじゃないですよね?
ないわけじゃないんですけどね。色々なものと比べて価値が低くなったんでしょうかね…。規模は小さくても、もっとたくさん生まれてくればいいなって思います。しかも今の子ってジャンルっていう聴き方をしないと思うんで、バンドもいて、シンガー・ソングライターもいて、俺みたいなのがいてもいいし。それでも肌感でわかるものがあると思うんで、その辺りが伝わればいいと思います。
——レーベルメイトに対してWonder Worldはどう見てるんですか?
すごいことをやれとは思わないですね。年は取るほど説得力がなくなるんで。自分が納得するものを作ってほしいです。音楽を再定義していくのは若い世代です。年取った人たちじゃない。結果正しい方向へ行くかは分からないけど、とにかく若い世代が自分たちで決めて下の世代につないでいくべきでしょうね。
——それを仕事として早く見つけてあげて、やりやすいようにしてあげたい?
そうです。でも本当に見つかんなくなっちゃいましたね… 特に日本人で。そういう聴き方しちゃうんですよね。誰でもできるものやってもしょうがないだろって。
——聴いたことのないものを求めてるんでしょうね。
でも最近、結構前ですけど、ネットラップっていうのはすごくおもしろいと思いました。あれって日本じゃなきゃ絶対生まれなかったし、その中でスキルがある子もいて本当におもしろかった。あの子たちがネクラなだけじゃなくてネットの中で言ってることを外に出ても言えてたら、今までのヒップホップの不良文化っぽい流れは変わったと思います。でも実際に本人たちに会ってみると「Twitter上ではケンカできます」って言ってて、こいつらが引っ張っていくことはないと思いました(笑)。
——日本を変えるものっていうのは、日本にしかなく、しかも新しいものなんですね。
そうですね。こないだ韓国のフェスに呼ばれて行ったんですけど、アイドルたちがたまにやるラップ曲を入口に、アングラな本物の連中にスポットライトが当たるようになってきているんですよね。ゴールデンタイムでヒップホップのオーディション番組やってるほど。入口はEDMでもアイドルでもいいので、日本もそういう風になればなって感じてますね。
過去作品
PROFILE
Wonder World
アルバム・リリース後は、DE DE MOUSE やオオルタイチ、metalmouse等と共演していく傍ら、自身の主催するパーティー「en」もスタート。昨年10月には、レーベルメイトであるKIYOSHI SUGO、★STAR GUiTARと共に、同パーティー名をタイトルに冠したスプリット・アルバム『en 001』をリリース。同年12月にリリースされた2ndアルバム『I'd Love to Turn You On』では、その音楽性の幅を劇的に広げ、シーンのトップ・アーティスト達と比較される高い評価を獲得し、翌2014年12月に発売した「未来のTOKYO」へ捧げるサウンド・トラック『the great tokyo empire』で、その地位を不動のものとした。
>>Wonder World Official Twitter