2010年4月4日(日)日比谷公園野外大音楽堂。ジェシー・ハリスのアルバム・タイトルと同名のフェスティバル『ウォッチング・ザ・スカイ '10』で念願の彼のライヴを目撃することができた。もの凄く寒かったのだけれど(笑)、エミ・マイヤー、アン・サリー、おおはた雄一、ハンバートハンバート、さらにはジョー・ヘンリーの歌声まで聞けちゃって、各々のシンガー・ソング・ライターとしての才能に仰天しっぱなし。大人気のジェシー・ハリスは、ビル・ドブロウというパーカッションを引き連れて登場。近年共にしているこのビルと言う人のパーカッションが完璧にジェシーの歌声を持ち上げ、夕暮れと桜に彩られた会場は、この日一番の温かさに包まれた。
3日後、日本ツアー中の彼にインタビューをすることができた。築地に行ってきたと語るその少年のような姿からは、『ウォッチング・ザ・スカイ '10』という大舞台の疲れは一切感じられない。『ウォッチング・ザ・スカイ '10』の話と共に、同タイミングで届いた9枚目のアルバム『スルー・ザ・ナイト』のことについて聞いてみた。
インタビュー&文 : 飯田 仁一郎
NYの天才SSW、ジェシー・ハリスの新作をWAV音源とmp3音源で配信スタート!
Jesse Harris / Through the Night
1999年のデビュー・アルバムから数えて通算9枚目となる新作が到着。ジェシーを先頭に、NYの音楽シーンでいま一番注目をあつめる個性派ミュージシャン達によるカルテッドをベースにレコーディングされた本作では、温もりのあるバンド・サウンドを披露。初期フェルディナンドス時代からのファンも必聴です!
メロディは、生活の中で... ジェシー・ハリス・インタビュー
——来日おめでとう。日本にはどれくらい滞在するの?
1週間かな。フェスティバル、『ウォッチング・ザ・スカイ '10』の日があって、J-WAVEのラジオに出演して…。後は何だったかな? 覚えていないや(笑)。昨日はショッピングにいって、ディナーしたよ。築地にも行ったしね。びっくりするくらい美味しかった。日本は食べ物がおいしい!
——『ウォッチング・ザ・スカイ』で初めてあなたのライヴを見ました。このフェスティバルには、あなたのアルバム・タイトルが付けられていますね。このフェスティバルについて教えてください。
プランクトンの石坂さんのアイデアなんだ。彼が僕と関連のあるアーティストを集めてフェスティバルをしたら面白いんじゃないかと話していて、2009年はPort of Notes、おおはた雄一、サニーデイサービス等で行ったんだけれど、1回やってみて、これは恒例にしたら面白いんじゃないかと思ったんだ。ちょうどお花見の桜の時期にやったら面白いから今年も開催したんだよ。今年は、ちょっと寒かったけどね(笑)。
——今年はジョー・ヘンリーが出演していましたね。あなたとジョーのつながりは?
実は、あのイベントで始めて会ったんだよ。もちろん名前は知っていたし、彼は素晴らしいソング・ライターだよ。そしてライヴはさすがだった。感激したよ。今年は、必ずしも僕が知っているアーティストばかりじゃなかったんだ。というか、今回知っていたのはユウイチ(おおはた雄一)だけだったんだ。
——あなたのバンドも、前回の来日時とは違うメンバーでしたよね?
パーカッションのビル・ドブロウはニュー・アルバムでもドラムを叩いてくれている素晴らしいミュージシャンで、昔からの友達なんだ。20年来の知り合いで、ここ2年ぐらいは、ずっと活動をともにしているよ。今年は僕もバンジョーではなくエレクトリック・ギターに持ち替えて演奏しているしね。
——様々なアーティストと共演したりプロデュースをしたりしていますが、日本のアーティストとアメリカのアーティストで違いはありますか?
やっぱり現場で働く状況が違うなって。日本の場合はみんなで顔をあわせると、早い段階から気持ちを合わせて仕事をして行こうというノリがある。で、すごくがんばって仕事をするんだけど、一旦仕事が終わると夜はみんなでディナーに出かけて楽しくやろうみたいなノリも持っている人たち。仕事においてはそれぞれの役割をそれぞれがリスペクトしているので、いい意味でのハーモニーが生まれている気がするね。アメリカはもっとカオスなんだ(笑)。
——(笑)というと?
感情的になっちゃって、ドタバタすることが多い(笑)。そういう例がいっぱいあるからね(笑)。
——おおはた雄一さんと畠山美由紀さんとは特に仲良くされているようですが、2人はどのようなアーティストですか?
すっごい大好きな2人。それぞれ二枚ずつアルバムを作らせてもらっているんだけど、とにかく楽しくて、今となっては友達って感じだね。
——2人との最初の出会いは?
ユウイチは僕のツアーで何度も前座を務めてくれて、それで仲良くなったんだよね。ミユキ(畠山美由紀)は石坂さんが彼女のアルバムを僕がプロデュースしたらどうだろうと考えてくれて、ミユキのマネージメントに連絡してくれたんだ。彼女はシンガーとしても、ソング・ライターとしてもとても優れている。ユウイチはギターの力強さが素晴らしい。若い日本のボブ・ディランみたいな感じがするよ。
——もう何度も聞かれている質問だと思うのですが、ノラ・ジョーンズとの出会いは?
友達がUniversity North Texasで演奏するから見にいったら、そこの学生だった彼女は、出演アーティストをホテルから大学まで運ぶ役をしていて、その時に初めて会ったんだ。
——彼女のシンガーとしてのすごさに気づいたのはいつですか?
その時に友達の演奏を見て、ノラも一緒にくっついてきていたのでみんなで1日飲んだり食べたり楽しく過ごしていたんだ。それで、最後にみんなで遊びで楽器を持って演奏を始めた時にノラが歌ったんだ。彼女はすごく歌えるんだと思った。それで、僕の書いた自分の曲を彼女に渡したんだ。そのとき渡したのが「One Flight Down」の楽譜だったんだけれど、一緒に作った『Come Away with Me』に収録されているよ。
——新作についてお聞きします。新しいアルバムに『スルー・ザ・ナイト』とつけたのは?
曲名の一つなんだ。今回のアルバムは「夢」や「夜」といったものに結びつくイメージがいっぱい出てきているんだけれども、特にその曲がそういったモノを取り込んでいる曲だったので、アルバム全体の雰囲気を総括していると思ったんだ。
——どんな制作環境でしたか?
今作はバハマのコンパスポイントで全部録音したんだけれども、そういうやり方をしたのは初めてだった。通常はニューヨークで録って、一部をバハマで録ったりしていたんだけど。
——コンパスポイントでどうしてもレコーディングをしたかった理由は?
すっごく有名なスタジオなんだよ。ナッソーというのが島の名前なんだけれども、そこには街と呼ばれるものが一切ないんだ。とにかくすごくいいスタジオで、いつも楽しくレコーディングしているから思い切って、全てをそこで録音しようと思ったんだ。今回作業を急いでいたので(笑)、レコーディングからミックスまでを同じ場所でした方がいいかなとも思ったんだよね。
——素晴らしいという部分はどんな所ですか?
もちろん環境も素晴らしいし、機材の面では『ウォッチング・ザ・スカイ』の時の共同プロデューサーで、今回も一緒にやってくれたテリー・マニングがそのスタジオに関して詳しいんだ。マイクやプリ・アンプもテリーがデザインして調整して作ってある。彼はマルチ・タレントな人で、プロデューサーであり、エンジニア、ホーンのアレンジもするし、バック・ボーカルも務めてくれて、なんでも出来ちゃう人なんだよね。
——テリーとジェシー、2人のプロデュースの役割をおしえてください。
彼とは、本当にちょっとづつ一緒にやっている。彼はエンジニアでもあるので、機械に関する事はやってくれているのと同時に、僕がテイクを録った時に意見を言ってくれたり、楽器のパートを作っている時に協力してくれたり様々。関わってくれているミュージシャンも優秀なので、彼らから意見が出てきた時のまとめ役が僕の役割かな。パーカッションのマウロ・レフォスコは、トム・ヨークやデイビッド・バーンなんかとも一緒に演奏しているんだ。ギレーム・モンテイロはエレクトリック・ベースを演奏していて、彼もトム・ヨークのバンドに参加した経験がある。今回それくらい優秀なミュージシャンがそろっていたから、彼らの意見を調整していく役割も重要だったんだよね。
——前作『ウォッチング・ザ・スカイ』の時は結構時間がかかったと聞いたのですが、今回は短い製作期間でしたね。
時間も予算も限られていたしね。前のアルバムは、スタジオにいる時間が長かったわけではないんだ。作り始めてから、完成して世に送り出すまでに色々な事があったから、作業がストップしてしまったんだ。でも不思議な事に出来上がった作品はリラックスしたハッピーなものに仕上がっていたよ。それを思い出すと今回の作品は非常に順調だったね。
——今作の制作テーマみたいなものはあったのですか?
やって行く中で発見があるから面白くてあらかじめ決めたりしないんだ。作っていくうちに色々な事が見えてくるような作り方をしている。今回は、結果的にロックのアルバムになったよね。楽器の編成として、パーカッションじゃなくてドラムだったり、エレクトリックのベースやギターだったり、それとキーボードみたいな事がイメージとしてあったので、出来上がってみたらロックな響きのある、リズム的にストロングなアルバムになったと思う。
——他には?
あそこまでドラム中心の作品になるとは思わなかった。その原因はやっぱりビルだな。それと、気がついたらすごくダークなスピリットをもったアルバムに実はなっていたかな。
——ダーク?
ネガティブとか邪悪なという意味でのダークではなくて、神秘とか得体の知れない感じのダークさかな(笑)。
——最後に、あなたのその素晴らしい楽曲達がどうやって生まれてくるのかを教えてください。
スタジオでは絶対に書かないんだよね。でもそこ以外ならどこでも書ける(笑)。もうレコーディングの時は曲は完成しているからね。家かもしれないし、ホテルの部屋かもしれないし。だから、思いついたら録音して忘れないようにするために、必ずテープ・レコーダーを持ち歩いて生活している。メロディは、生活の中で思いつくもんなんだよね。
LIVE INFORMATION
ジェシー・ハリス『スルー・ザ・ナイト』ジャパン・ツアー 2010
- 2010/10/12(火) 渋谷 Club Quattro
- 2010/10/13(水) 京都 磔磔
- 2010/10/14(木) 富山 フォルツァ総曲輪
- 2010/10/15(金) 広島 Club Quattro
- 2010/10/16(土) 福岡 ROOMS
- 2010/10/18(月) 名古屋 ブルーノート
PROFILE
NY出身。ボブ・ディランの流れを継承した、現在のニューヨークを代表するシンガー・ソングライター。90年代中頃に男女デュオのグループ“ワンス・ブルー”でデビュー。97年のバンド解散後は、マイ・ペースにソロで活動。アメリカン・フォークやカントリーといったルーツ・ミュージックの匂いを残しつつ、NYならではの都会的なセンスと、ブラジル音楽にも通じるさりげない軽快さを備えた絶妙なメロディが魅力。ノラ・ジョーンズをはじめ、ケニーG、パット・メセニー、畠山美由紀、平井堅など多くのアーティストにカバーされている曲で、2002年度グラミー賞[Song of The Year]受賞曲「Don't Know Why」の作者としても知られている。また「Don't Know Why」以外の曲でも、キャット・パワーやトリスタン・プリティマン、リズ・ライト、マデリン・ペルー、キアラ・シヴェロ、日本ではBIRDなど、多くのアーティストに愛され、歌われている。また、友人のイーサン・ホークが監督した映画『痛いほど君がすきなのに』(原題:The Hottest State)のサウンド・トラックを担当し、全編に渡りジェシーの曲が使用された。2005年、2006年にワンマンで来日。2007年にリチャード・ジュリアン、サーシャ・ダブソンの2人のシンガー・ソングライターと来日ツアーを行う。2009年、2010年の春にはジェシーのアルバムから名前を取った野外フェス『ウォッチング・ザ・スカイ』が開催された。