メロウ・ヒップホップ・シーンの中核、Robert de Boronが夢のなかへ導く4枚目、その制作環境に迫る
人気コンピレーション“IN YA MELLOW TONE”シリーズの立役者としてメロウ・ヒップホップ史に残る数々のアンセムを世に送り出してきたトラック・メイカー、Robert de Boron。過去3作はiTunesヒップホップ / ラップ・チャートで今もなお上位に位置するロングラン・ヒット。そんな彼の2年ぶりとなる待望の新作が登場! 24bit/44.1kHzのハイレゾで配信がスタートした。
本作のfeat陣には、2015年5月頭にre:plusとのツアーを終え、ますます日本で注目が集まるアメリカ人コリアン・アーティスト、Sam Ockやサード・アルバムを共作したAWAなどお馴染みの盟友から、初参加のシンガー&ラッパー含む14名を迎え、緻密なビートメイクと美しくエモーショナルなメロディーで構築された12曲を収録。今作でRobert de Boronに取材をするにあたって、彼の音楽が生まれるその制作環境を追求した。試聴からでもいい。記事とともにぜひ、彼の音楽の肝である"メロディー"を堪能してほしい。
インタヴュー : 飯田仁一郎
写真 : 外林健太
Robert de Boron / Dreams in Static
【配信形態 / 価格】
【左】
24bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC :
単曲 300円 アルバム 2,000円
>>ハイレゾとは?
【右】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC :
単曲 250円 アルバム 1,800円
mp3 : 単曲 200円 アルバム 1,500円
【Track List】
01. Be Okay feat. Kharisma & Jon Wonder
02. Blues feat. Magnetic North & Taiyo Na & Teng Yang
03. Shine A Light Pt.5 feat. Sam Ock
04. I am Ready feat. Dawngun
05. Always feat. Taro Miura from HO17 & Nieve
06. Impossible feat. Nino Augustine
07. The B Team feat. Kharisma & Aliyah B
08. It's Never too Late feat. AWA 〜Album Version
09. Love You feat. Matt Levy
10. Fade Away feat. Matt Levy
11. Snow Pallet
12. The Lost Child feat. MO
INTERVIEW : Robert de Boron
でも今のヒップホップって、いわば90年代のヒップホップとかNujabesに比べるともうヒップホップじゃない気がしちゃって
——今回は制作環境を色々伺いたいなと思って。まず初期のころはどんな制作環境だったんですか?
Robert de Boron (以下、RDB) : 遊びみたいなときは、MPC2000XLをくるくる回してドラム叩いて、みたいなことをやっていましたね。あとRolandのTR-707だったかな。16パッドあって、エフェクトがいっぱい付いてるやつ…。あれとかも使ってMPCで作って。楽器もできなかったから初期のころはそんな感じです。
——そのときは、結構ゴリゴリのヒップホップだったんですか?
RDB : そうですね。結構ゴリゴリ。
——それがいつごろ、メロウな方向へ?
RDB : デビュー前の、2007年ぐらいにNujabesとかを良く聴いてて、何年も聴いていられる、こういうのを作れたらいいなって。しかも作っているのが日本人なんだ! みたいな驚きがありましたね。
——Nujabes以外にはいますか?
RDB : あと誰だろう…? やっぱりNujabesだったかな。異質なドラムの音色(おんしょく)で、ぶった切りのサンプル回してるだけじゃなくて、その制作の仕方とかも含めて今までになかった感触だったというか。
——そうですね。Nujabesは本当に衝撃的でしたよね。サード『On The Rainbow』の前にギターを購入されて、音もそうだし、制作環境もだいぶ変わったと思うんですけど、いかがですか?
RDB : だいぶ変わりましたね。基本的に楽器は何にもできなくて。でも今のヒップホップって、いわば90年代のヒップホップとかNujabesに比べるともうヒップホップじゃない気がしちゃって。現代のヒップホップはもうちょっとエレクトロですよね。それにおもしろさを感じなくなって全然違うジャンルを聴くようになったんです。浮気をしたというか。まあロックもずっと昔から好きだったんですけど。ジャック・ジョンソンとか、ジェイソン・ムラーズとかね、そのあたりのオーガニック系のギター・ミュージックにハマって「ギターほしいな〜!」って(笑)。これをヒップホップに取り入れたらまたおもしろいかな、と思ってギター買ったんですよ。そしたらハマってハマって。
——そんなにどハマりしたのはなぜでしょう?
RDB : 持ち運びが出来るというのが強いですね。今までの制作環境だとパソコンに向かい合ってひたすら打ち込んでリズムを組むっていう作業じゃないですか。でもギターはメロディーをつくるにしても、コード進行つくるにしても、リフをつくるにしてもどこでもできちゃう。これはおもしろい楽器だなと思って。音も良いし。
——じゃあいまは、外に出て行ってギター弾いてみたりするんですか?
RDB : 曲作りはそんな感じっすね。今はだからヒップホップっていう感じじゃないんですよ、ギターでやってるのは。ヒップホップは機材に向かわないとできない音楽だと思ってて。オケのイメージはギターでつくれるけど、オケをつくるってなるともう機材の前に立った方が音楽はつくりやすいですよね。だから外でつくってるものはヒップホップじゃないというか。
——今は機材の前に立つのはあまりしていない?
RDB : ちょっと前まではしてなかったです。でも、最近またドラム組むのもおもしろくなってきて、違うアプローチの仕方、世の中にないモノが、少しできてるんじゃないかなって。
世の中でヒットした曲や自分でグッとくるメロディーには、何か答えがあると思う
——曲のヴォーカル・メロディーはボロンさんが作ってるんですか? それともゲストの方?
RDB : 半々くらいですかね。外人って、ある程度こんな感じだよって言って投げても、全くそぐわずに返ってくるパターンが多いんですよ(笑)。ビタッとまんま歌ってきてくれる人もいますけどね。でも、今回でいうと4曲目の「I am Ready feat. Dawngun」はピアノのループモノなんですけど、こういうのはおもいっきりゲストに投げちゃいますね。ここ小節、ここヴァース、ここシングってな感じで構成だけやって、テーマも伝えて投げて、返してきてもらったものをまたエディットしていくというか。
——テーマを伝えて、って仰いましたけど、その時点で曲やアルバムの世界観は決まってるんですか? 例えば「Be Okay feat. Kharisma & Jon Wonder」ならこういう曲にしたいんだ! みたいな。
RDB : テーマというか… イメージはあるというか。「Be Okay」は夏っぽくてカラっとしたイメージっていうところから作り出して、ドラムもそういう音色にしたし、ギターの音色やピアノの音色もちょっとカラッとさせて、あんまりしっとりしないような感じでつくっていく。そうしておくとヴォーカルも自ずとそうなっていくので。
——ではアルバムのイメージは最初にあるんですか?
RDB : いや、ないですね。全く。ひたすら作ってるだけだから。
——なるほど。ではボロンさんにとって、曲作りでここっていうこだわりはどこにありますか?
RDB : 良いメロディーにはこだわっていますね。世の中でヒットした曲や自分でグッとくるメロディーには、何か答えがあると思うんです。最高だなこの曲っていうのをプレイリストにして、100曲バァーっと並べて共通点を探すんですよ。研究がすごい好きなんです。それをするとね、あるんですよ。ちょっと似たフレイバーで自分が好きだっていう共通項が。それをギター弾きながら考えてみたり、自分の曲で試してみたり、そういうところにこだわっていますね。
——研究が好きなんですね?
RDB : 好きですね。Nujabesとかスゲー研究したし…。
——音色にも強いこだわりを感じます。録音する空間の響きとか。
RDB : 外タレに曲を投げるとレコーディング環境がみんなちがうじゃないですか? マイクも違って、プリも違って、シールドも違って、DAWも違う。1番は部屋の広さというか。「Be Okay」はKharismaとJon Wonderにお願いしてるんですけど、Kharismaは結構オン・マイクで歌い、吸音された部屋で歌ってるんですよね。Jon Wonderはめちゃくちゃ音が反響してるんですよ。だからルーム感がすごいあるっていうか。それを聴いたときに、この2人を混ぜたらおもしろいなって思ったんですよね。1曲のなかに2人が入っていても、ちゃんと変わったなっていうイメージが出せる、そういう人選をしています。
——おもしろい!
RDB : でもこういうのはインディーズだからこそかもしれないですね。スタジオで録ったら違うんでしょうね。でも、インディーズ感がそこにあるというか。家っぽいっていうか(笑)。
——じゃあトラックを作ったら、歌よろしくって言って、あとはこっちで何とかする感じなんですね。
RDB : ホントにそうです。メロディーが、イメージと全然違うものが返ってきても、バッチバチにいじりますね。切って、切って、切って、切って、みたいな。ラップまでメロダインかけるし。
——トラックはどこまで打ち込みで、どこまで生音なんでしょう?
RDB : まずピアノは打ち込みですね。
——ピアニストに弾いてもらおうとかは、思いませんか?
RDB : 自分でやるとぎりぎりのリミットまでいじれるのでなかなかね。人間の感覚が許せないときがあって、打ち込みだとBPMが決まってるじゃないですか。90って言ったら最初から最後まで90でヨレないから。そのなかに2小節3小節のまわしをやるとき、本当にこの点の差なんだよねっていうのを生では直せないので自分でやります。
——他はどうですか?
RDB : ドラムは生音です。素材のもとになる音の音色を変えて足して引いて。古めかしい音にこだわってます。現代の音は太いのでそこに遜色ないように。例えば、ローエンドをばっさりEQで切って、そこに足す音源もアナログで。さらにこれよりローが出てるなっていうやつを挿して、また全然違う音にする。基本的に全部生音源。どれだけいじっても生音からチョップしているのは、どこまでデジタルでいじりこんでも耳触りがいいんです。
——なるほど。打ち込みでBPMとかグルーヴ感を意識しながらも生に近づけている。ベースはどうしていますか?
RDB : ベースは生ですね。セミホロウのベースで弾いています。エピフォンのジャックキャサディ・モデルだったかな。もこっとしててエッジがない音。サードからそのベースかな。ギターも生だし。
——ベースは結構弾ける感じなんですか?
RDB : ある程度弾いて、チョップしてます(笑)。データ見たら笑いますよ。超切ってる。
——でもその切った感じは、全然わかんないですよ。
RDB : そうですか? でもチャンネル数も多いですからね。「Shine A Light Pt.5」とか150チャンネルぐらいあるんですよ。ヴォーカルだけで40とかあって。このアルバムのちょっと前にフィル・スペクターにハマって。ギタリストの(山本)幹宗 (The Cigavettes)とよく遊んでて、あいつが「フィル・スペクターやばいよ~」って言ってきて、音聴いて盛り上がって(笑)。フィル・スペクターっぽいのやりたいねって言ってやったのが「Shine A Light Pt.5」ですね。
音楽って根っこを辿ると、コード進行とメロディーだけのものじゃないですか。そこをもっと見なよって
——前作からこのアルバムで1番変わったことは?
RDB : あんまり3段飛ばし、4段飛ばしみたいなことをしたくなくて。階段を一個一個登ってアルバムを作っていきたいんですよね。だからこれも地続きにあるなって。
——どういう地続きにありますか?
RDB : オーガニックな感じですかね。電子音が入ってないところとか。セカンドは複雑なコード進行とか、ちょっとこむずかしいリフとかをやったんですけど、サードからそれを排除して、4枚目もそういう感じにしてあるというか。 もっとナチュラルでストンと耳に入ってきて、メロディだけが抜けないで残るものを作りたかったんです。
——むずかしいことを排除したくなったのは何故でしょう?
RDB : 要はアレンジにこだわっていくと時代が通り過ぎたときに古く感じるんですよね。でもギター1本で、綺麗にメロディーを歌ってる音源があったら30年前だとしてもかっこいいんですよ。要はアレンジってその時代にあったことをやってるから”アレンジ”って言うと僕は思ってて。それがないものって、例えばボブ・ディランのヒットソングとか、そういう感じなんですよね。いま聴いても「うわぁ、くっせえなこれ」っていう感じがしないというか。全然いいじゃんみたいな。時代にもちろん残していきたいんですけど、通り過ぎてもまだ聴けるものが世の中にはあるし、自分もその仲間入りしたいなって感じがシンプルになっていった理由のひとつかなと思います。
——その思うようになった原体験はボブ・ディラン?
RDB : いや、オアシスですかね。オアシスのファースト、セカンドが特に。メロディーが抜けないんですよ。やっべえなぁこれと思って。そんな感覚になる曲って、そんなにないじゃないですか。ジャック・ジョンソンとかも何曲あるか。あとジェイソン・ムラーズの「アイム・ユアーズ」とか。でも俺はまだそれを100%出せてないんですよ。歌を人に頼んでるから (笑)。だから自分でやりたいとか、日本人とマンツーマンでやったら、よりいいものが作れるんじゃないかな、とか。いいものってわかんないですけどね。ま、売れるもの? みんながいいって言えるものが作れるんじゃないかと思いますけどね。
——今、いいものイコール売れるものって言いましたけど、そういう意識があるんでしょうか。
RDB : 売れるって言葉がよくなくて、届くって言えばいいのかもね。届くことを考えると、グッド・メロディーは絶対必要。技術が進歩してるし、プレイもみんな上手くなってるし、すごいじゃないですか、日本人なんか特に。なのに世界で勝てる曲が少なすぎるっていうのはこれはね…。もちろん、すごい人はいっぱいいるけど、真の意味でポップな人がいないかなって。アレンジでこう、よく聴こえるようにできちゃうというか。音楽って根っこを辿ると、コード進行とメロディーだけのものじゃないですか。そこに付け足してどういう音楽にするかをやってるだけ。だから、根っこの部分をもっと見なよっていうか、僕はそこを見てつくりたい。
——ボロンさんはシリーズを通して何か表したいものはありますか?
RDB : そうだなあ~、でも結局平和とかにいっちゃうんですよね、頭のなかが。心が安らぐ何かが提供できればっていうところに落ち着くんですよね。
——前のインタヴューとかでも仰ってましたが、それは3.11直後に被災地に行って見たものの影響が大きいんですかね?
RDB : 集約するとそこになるのかな。それが自分のなかにズドンと残ってて。当時、福島出身の彼女がいたんですよね。東京で一緒に住んでたんですけど。その子の実家が福島の第二原発の真裏だったんですよ。3.11の1日前、10日におじいちゃんが危篤で福島の病院にいると、でも夜中に電話がかかってきたから交通手段がないしどうしようって彼女がテンパってて、じゃあ俺が車出してやるよって言って、彼女の弟も一緒に乗せて、福島に向かって。家に届けたのが3月11日の朝4時ぐらいなんですよね。で、俺はトンボ帰りで、高速走ってる間に、電話がかかってきて「おじいちゃん亡くなったよ。死に際に会えてよかった、ありがとう」って。で、俺は東京に戻ってきて寝ていたら、地震があって。「あ、これは俺、彼女を殺してしまった」って思って。でも、生きてた。 彼女の家は丘の上にあったらしくて、おじいちゃんが亡くなってみんなお線香をあげにきていたから、親戚ひとりも亡くならなかった、って。
——すごいタイミングですね。
RDB : そう。でもすぐに原発がなんだって話になって。とはいえ、現地の人は電気がきてないから状況を知らないじゃないですか。電話やメールで、東京ではこんなことになってるけど情報きてる? って言っても、全然わからないって感じでね。どんどん避難区域は広がって、しばらくして彼女も避難して、そのあいだも連絡してると、もう、戦後のような、すごい世界で。そのあと自分でも気持ちがどうにもならなくなっちゃって、福島に向かったんです。でもそこで見たものが凄まじくて。まだ人が入っているままだろうバスが地面に突き刺さってたり、川のなかで家が反転してたり、国道6号をずっと走っていたので、北茨城を超えたぐらいでみんなぐっちゃぐちゃで。そのあと彼女も精神が不安定になっちゃって。なかなか自分に置き換えられないけど、自分が住んでた場所が住めなくなって、家を放棄して、親友が家族ごといなくなって…。それを震災の真っ只中で、間近で見た。そこから平和を表現するって言ったら変ですけどね、痛めた心を、もちろん震災のことだけじゃなくてね、そういう人にとってカンフル剤になれたらなっていうのは、きっとずっと思い続けることなんですよ。
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PROFILE
Robert de Boron
2008年9月に初作をリリースして以降、ほぼ全ての作品がヒットを記録し、シーンの中心的存在として君臨している東京を拠点に活動するサウンド・プロデューサー / トラックメーカー。国内配信主要チャートでの1位獲得は勿論のこと、韓国の配信チャートでも軒並み1位を獲得するなど、国内のみならず世界的な評価を獲得し世界を魅了しつづけている。なかでも、2011年1月にリリースされたセカンド・アルバム『Mellow Candle』は空前のロングラン・ヒットを記録、MELLOW HIPHOPシーンの代表格としての地位を確立。2013年4月にリリースされたサード・アルバム『ON THE RAINBOW』では、iTunes HIP HOPチャートにおいて"ソング"、"アルバム"共にぶっちぎりの1位を獲得するなど、前作を遥かに凌ぐ高い評価とセールスを記録した。そして2015年5月、サード・アルバム『ONTHE RAINBOW』でその地位を不動のものとした鬼才が、待望の4枚目のアルバムをドロップする。