人生の節目に紡ぐ★STAR GUiTARの情感──3年半ぶりフル・アルバムを2枚同時リリース!
DAOKO、fox capture plan、H ZETT Mをはじめ、様々なアーティスト達とコラボをしてきた日本屈指のプロデューサー / アレンジャーのSiZKによるソロ・プロジェクト、★STAR GUiTAR。3年半ぶりとなる新フル・アルバム『for ever』と『&ever』を2枚同時リリース! Akiyoshi Yasuda名義として劇版制作やCMなど、幅広いフィールドで活躍してきたこの3年半の間の活動によって、音楽表現の幅が広がることになった今作。35歳が人生の折り返し地点と語る彼が特別な想いを込めた作品に合わせて、ぜひインタヴューをお楽しみください。
3年ぶりのフル・アルバム、ハイレゾ配信中!
INTERVIEW
★STAR GUiTARは、インスト・ミュージシャンの中でも特に好きなアーティストのひとりだ。なにより時代を感じる嗅覚がすごい! タイのPlastic Plasticがゲスト・ヴォーカルで入った「distance」を聴いたとき、ちょうどタイのバンドGym and Swimを観たばっかりだったので、「そうそう、そこだよね!」って、やっぱり★STAR GUiTARって信用できるよねって思ったんだ。
インタヴュー: 飯田仁一郎
写真: 大橋祐希
何かしらの意味を持ったモノを作品に留めて、残しておきたいなと
──今回の作品すごい好きでした。「Suddenly」や「Distance」は良い意味でインディー・ロックのような匂いが伝わってきました。
それはうれしいな。まさにボンベイ・バイシクル・クラブみたいなインディーな音楽をやろうとしたんですよ。
──そうなんだ。前作からの変化はありましたか?
今回は作る期間が前期と後期に別れているんですよ。先に作っていたのは『for ever』で、後に作ったのは『&ever』。
──なるほど。『for ever』はいつごろ作ったんですか?
2017年4月の『Special Ordinary』を出したあとです。ちゃんとしたオリジナルは1年間くらい何も作っていなかった。
──それはなぜ?
その頃から本名のAkiyoshi Yasuda名義で劇伴をすることが多くなってきて、単純に作る時間がなかったんです。それが『&ever』との音の違いになっていると思う。
──なるほど。前期と後期の具体的な違いはどんなところにあるのでしょう?
曲の作り方が変わったかな。ダンス・ミュージック的な強さだけではなく、テクスチャーとか裏側にこだわりました。Akiyoshi Yasudaのころは、ノイズばかりやっていたんです。裏側に隠れる繊細な音を作るようになって。その代わりメインになる音数が少なくなりました。いままでアンサンブルで音を支えていたものを、楽器ではないもので作るようになったんです。たとえばギターを弾くのではなく、こする音とか。
──なるほど。完全に劇伴の影響だ!
そうです。あとは最近、みんな当たり前のようにサブベースの低音がある音を作るじゃないですか。自分もその影響で、音を埋めなくなった。存在しないところに低音がいることで安定するから。つまりサブベースの低音があることで、音程としてではなくて、存在として支えてくれるから、余計なことをやらなくてもいいんですよね。1個が主張できるように作れるし、逆に1個でしっかりしていなかったら曲として成り立たなくなっちゃう。
──音を重ねなくても自然に厚みが出るということですよね。
そうですね。逆に重ねようとするとおかしくなる。サブベースがキックとベースの役割を果たしているので、音数が少なくなって優しくなったんですかね。
──なるほど。
個人的にうれしいのは、サブベースの影響もあってテンポが下がった音楽が受け入れられていること。それは自分の音楽にもリンクすると思っていて。
──なるほど。今作は最初からアルバムにしようと思っていたんですか?
ざっくりと16曲で1枚のアルバムと考えていました。でも寿福(知之)さん(〈FABTONE〉オーナー)と「2枚に分けた方がおもしろいんじゃない?」って話をして。エレクトロニックな『for ever』とジャズっぽい『&ever』で分けてみようとなりました。
──ジャズっぽいとは?
ジャンルとしてのジャズというよりも、アンサンブルとしてですね。作り方が生っぽくなっているんだと思う。
──なるほど。サブベースの影響がそういったところにも出てくるんだ。このタイトルにしたのは何故ですか?
作品、タイトルとしても、シンプルにしたいと思っていて、今回はサラッとする言葉がいいなと。早いとは言われるんですけど、僕の中では35歳はもう折り返し地点なんです。そこで、大げさですけど何かしらの意味を持ったモノを作品に留めて、残しておきたいなと。今回は誰でもいずれはいなくなる感じを切り取りたかった。それが〈Forever〉なのかなと思い、『for ever』というタイトルに辿り着きました。そして『&ever』で〈Forever〉を強調しました。
──ジャケットにもそういった想いがあったんですか?
永遠ってシンプルだけど強い言葉だと思うので、押しつけたくなくて。このタイトルだからこそジャケットで主張したくなかった。だからジャケットとしては間違ってるんですけど、極力文字を見えなくしてくれって言ったんですよ(笑)。あくまでサラッと自分の中の“永遠感”を出したいと思っていて。
熱や衝動を感じる作品
──先ほどおっしゃっていたように、ここにも劇版の影響はありそうですね。
劇伴をやることで感情について考えるようになりました。いままではピアノの前に立って音楽を作る、最初はそこに感情はなかった。でも劇版って映像や演技を見て、そのシーンに対して音楽を作るじゃないですか。そのときに「この主人公たちはなにを考えてんのかな」ということを踏まえながら、音楽を作るのが楽しくなってきて。これまでは、なにかを見て音楽が降りてくるって信じられなかったんですけど、その感覚がわかったんです。シーンを見ながら、メロディーや音が頭の中で浮かぶ経験をして、感情を音楽にしやすくなった。それができたのが大きいです。
──劇版制作ってどんな感じでやるんですか?
台本だけのときや、映像が全部ある場合もあります。僕がやっているのは、いわゆるBGMと呼ばれるようなところですね。感情をより増幅させたり、あえて反対の感情に寄せてみたりとか。感情から音楽を作ったことがいままでの人生でなかったので、なんておもしろいんだってなっちゃって。
──なるほど。
それはここ数年で1番おもしろいし、もっとやりたいなって思うところですね。
──短期間で何曲もつくることもあるんですか?
今年はオファーが2個重なったのもあって、1ヶ月で2分ほどの曲を90曲くらい作りましたよ。
──90曲……!
使わなかったものも含めてですけどね。そのオファーが、オーケストラとNHKのドラマだったんです。ジャンルが違いすぎて、ものすごくシビれたけれど、おもしろかったです。
──完全に職人ですね。
職人の世界にちょっとだけ主張を混ぜこむのが好きです。もちろんオーケストラができなきゃダメなんだけど、その上で僕だったら★STAR GUiTARの音を絡める。
参加した人たちについて
──なるほど。本作の楽曲制作に参加した人たちの選出はどんな感じで進めたんですか?『for ever』でのNewspeakのReiさんは?
★STAR GUiTARのMind Tripって曲でfeatしてたり、僕がいつも一緒にポップスを作っているNewspeakのドラムのスティーヴン・マクネアという人がいて。スティーヴに頼まれてNewspeakのマスタリングを手伝っているときに、僕が「Reiくんすごくいいよね」って言っていたら、今回参加してくれることになりました。
──彼の声は強いですよね。
強さの中に不安定な脆さがあるのも良いんですよ。レディオヘッドにも通じるような。お願いしたら一発で出来てしまいました。
──★STAR GUiTARの場合は、ヴォーカルがなくても主線のようなメロディがありますよね。それを歌うように依頼するんですか?
いや、歌のことは一切考えないです。簡単なトラックを渡して、声を入れてもらった上で、僕がアレンジを変えていく。あとReiくんに関していえば、サビに向かってくための歌にはしたくなかったから、サビだけを作ってとお願いしたんです。
──なるほど。では次に『&ever』に参加している方々についてお聞きします。jizueのKie Katagiさんは?
もともとjizueがすごい好きで。それこそ初期のBookshelfとか好きで。影響も受けてて。それで寿福さんが繋がってるってことで頼めたのでお願いしました。fox capture planや共通する知り合いも多いですしね。
──HidetakeTakayamaさんは?
彼とはずっと一緒にやっています。彼はいまニューヨークに住んでいて、それもあって昔と音楽性が変わっていて。いままでは僕から曲の提案をしていたんですけど、今回はじめてHidetakeくんからもっとこうしたいって。
──「dalur」はどんな曲になりましたか?
7年前にHidetakeくんと作った「Live」という曲が、勢いや衝動の塊のようで、すごく良いんですよ。彼とは「もう1度そんな曲が作りたいけれど、そのまま再現することはできないから、いまやってみたいことをやってみて、その上で考えよう」と話をして。そこから僕が最初に出したデモを、彼がベーシックなピアノで作ってくれて。すごいダウンテンポでミニマルだけど熱を帯びた感覚を感じたんです。その曲を、僕だったらベース・ミュージックだなと思ってアレンジしました。ミニマルな演奏だけど、徐々にテクスチャーやシンセなどで変えていって、少し色を加えるみたいな。そういうものを作ったら、熱や衝動がさらに増して、すごく良い曲ができたなって。今回の製作でいちばん興奮しました。
──なるほど。
「dalur」ってアイスランド語で「谷」って意味があって。いまいる場所が谷で、そこから登っていくと光が見えるかもしれないけれど、見えたと思ったらまた戻るみたいな、どこにいるかはっきりしない感じにしたかったんです。
──このアルバムで一推しの曲は「dalur」?
そうですね。新しい何かが見えたなって感じで。★STAR GUiTARとしてはいちばんダークさと深みがあると思います。
──今作は曲順も楽曲を際立たせていますよね。
1stアルバム(『Carbon Copy』)に近いと思っていて。明るさと暗さが極端に同居している。そういう意味で★STAR GUiTARっぽいと思います。
パッケージ
──「distance」に参加しているPlastic Plasticとはもともと知り合いだったんですか?
いや、何かアジアの方とやりたいって話を寿福さんにしていたら紹介してもらいました。
──この曲がいちばん意外でした。
最近の僕を知っている人からすると意外かもしれないけれど、僕は極端なものでも一緒にできるんです。だから、久しぶりにポップなものを作ってもいいかなって。
──この曲がアルバムの大きな幅になっていますよね。
そうですね。だから「dalur」と「distance」が共存するアルバムってすごいなと思っていて。でもいちばん最初の頃から考えると、それが★STAR GUiTARっぽいんだよなって思います。
パッと思いついた漂うような感じ
──「dalur」が、いちばん熱が高まった曲だとおっしゃっていましたが、他にもエピソードがある曲はありますか?
『&ever』に収録されている「Part Of Me」と「Only knows」かな。「Part Of Me」は、何かの一部になるみたいな人生観を表していて。「Only knows」は普通に使うと〈God only knows〉で〈神のみぞ知る〉のように、前後に言葉を埋めるんですけど、僕はわざとその前後の部分を隠しました。誰かしか知らないみたいな。
──今回のテーマになってるものを表しているんですね。
そうです。ちょっとした死生観も入っているのかな。
──そういう死生観を考えるタイミングだったんですね。
そうですね。重くなっちゃうけど、結局そこなんだと思います。
──死にたくなるくらいの大きな体験があった?
死にたくはないですね。そんなに重い感じじゃなくて、ふと考えるときってありません? パッと思いついて、それがずっと漂っている感じ。そういう考え方に近いかな。
──なるほど。確かに20代のガムシャラにやっていた時期とは変わってきた感じがあります。
そうです。そのときは全く気づかなかったけれど、そういうモノが見えるようになってきた。今回の作品は、そういうきっかけなのかな。
──なるほど。『for ever』の最後に「Alive」を入れたのには、何か意味があるんですか?
深い意味はないです(笑)。ただこの曲は“A Live”なんです。僕を好きな人はわかってくれると思うんですけど、Hidetakeくんとやった「Live」に似ている曲なんです。この曲は「Live」を僕ひとりでやってみたいってところからはじまった曲なので、すごく「Live」に近い曲です。当時、一緒に「Live」を創ったHidetakeくんが、アルバムの中に別の曲でいるっていうのもおもしろいのかなって。それを「Live」の別バージョンにするのも嫌だったので、ひねって「Alive」にしてみました。
──なるほど。
やはりHidetakeくんともう一度曲を作って、すごくおもしろいものができたことが自分の中では大きいんだと思います。
編集: 松崎陸
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PROFILE
★STAR GUiTAR
デビュー・シングル「Brain Function」でiTunes ダンス・チャート2位獲得して以降、リリースする作品は、軒並みiTunes チャート上位を独占。1stアルバム『CarbonCopy』、同作の再構築盤『Blind Carbon Copy』の2枚のアルバムが、新人としては異例のスマッシュ・ヒットを記録したことで、DE DE MOUSEや中田ヤスタカ、Taku Takahashi、RAM RIDERといったビッグ・ネームと次々共演し、ageha やROCK IN JAPAN FES といった大舞台にも立つなど、その注目度の高さを見せ付けている時代の寵児。 2014年リリースの『Schrodinger's Scale』は、クラブ・ミュージックとしては異例の1万枚を超えるセールスを記録し、2015年は、1時間に1曲を完成させるオンライン企画から派生したアルバム『One Hour Travel』、『Wherever I am』、『Wherever You are』と3枚の作品をリリースするなど、その多作振りでシーンの度肝を抜いた。 2017年4月、昨年の“歌もの”にフォーカスしたベスト盤『Here and There』に続き、彼の真骨頂とも言うべきインスト楽曲にフォーカスしたベスト盤『Special ordinary』をリリースする。
【公式HP】
https://www.starguitar.jp/
【公式ツイッター】
https://twitter.com/SiZK_STARGUiTAR