DJ UCHIAGEが、エレクトロ・レーベル『Golden After』を立ち上げた。一番の特色は、有料の配信専門レーベルであること。配信と言えども、テクノからダンスを渡り歩く音源が携帯で売れるとも思えないのでPC配信が中心だろう。けれどPC配信中心のネット・レーベルと言えば、フリー・ダウンロードが主流の現在。そんな中で、フィジカル・レーベルを止めてまで、有料のPC配信でやっていく事を決めた彼の思いを、レーベル特集で紐解く。そして彼が仕掛けてきた最初の音源は、なんとRiow AraiのOTOTOY限定音源だった!
インタビュー & 文 : 飯田仁一郎
Riow Araiのオトトイ限定楽曲をWAV音源で配信
Riow Arai / after the damage
今作は未発売音源の中からRiow Arai自らが2011年"311"以後をテーマにセレクトしたアルバム。これはRiow Araiのニュー・アルバムではない。また震災のチャリティー・アルバムでもなければいわゆるお蔵入り音源を単に集めた編集盤でもない。Riow Arai自身が"311"以降に感じた心境、それを言葉ではなく、あくまで音楽として、これまでのストックの中から選びコンパイルしたある種のサウンド・トラック・アルバム。
【Track List】01 . traffic / 02 . dial / 03 . keek / 04 . livingthere / 05 . clouder / 06 . circuit99 / 07 . wharf / 08 . gallant / 09 . aftermorning / 10 . pf / 11 . peels
【特典】
アルバム購入者には、Riow Araiによる解説が書かれたブックレットが同梱されます!
Golden Afterを象徴するコンピレーションも登場!
V.A / Night Electro
チューニング合わせて導くナイト・ミュージック。ボクと踊ろう。踊ろうよ。ボクとナイト・エレクトロ! ピーク・タイムをすり抜けて、あの夜に、この夜に、そしてこの次の夜に永遠にループし続ける真夜中のダンス・ミュージックが10曲。
【参加アーティスト】
otooto22 / Redsound / takuya / Hidenobu Ito / The Goonyz / Takaaki Suzuki / Lasvegas / Lasphere a.k.a. Dj Shunya / Takahiro Mukai / Shunsuke Kojima
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DJ UCHIAGE INTERVIEW
——配信専門レーベルGolden Afterを立ち上げたのはいつですか?
DJ UCHIAGE(以下、U) : 立ち上げたのは去年の8月ですかね。始めようっていってからスタートするまで半年以上かかってしまったんですけど、当初はiTunesとかのMP3ショップを通さないで、自分のサイト内で購入出来るシステムを作りたかったんです。っていうのも、売り方に自由が利きづらいんですよね。クオリティの高い音質で出したかったんですけど、ビットレートや販売価格に制限があった。またGoliden Afterを始めた時は、Magic book recordsというレーベルもやっていてCDを作って販売していたんですけど、14枚目のコンピレーション・アルバムを最後に止めました。その後、Magic book recordsはWEB CDショップの役割をするようになりました。
——Magic book recordsとGolden Afterの両方を稼働させていた期間っていうのは、どの位あったのでしょうか?
U : 今年の3月にMagic book recordsは閉店したんですけど、半年以上は平行して動かしていましたね。ウェブ・ショップでも、CDとMP3データを両方買えるようにしていたんですけど… 時代の流れが早過ぎて(笑)。CDの売り上げ云々だけではなくて、Twitterが普及しUSTREAMが始まった辺りから、情報を広める方法が過去に自分が知っていたものから大きく変わったんです。後は、配信だとネット・レーベルのフリー・ダウンロード文化があったから「ネット・レーベルなのにフリーじゃないじゃん! 」って反応をされてしまうといろいろ難しかったんですよ。けっこう行き詰まってきて、思い切ってMagic book recordsのwebショップとGolden Afterのリリースを一旦止めようと決断しました。
——時代の流れというと具体的には?
U : レーベルで初めてCDプレスして作った頃はこれ以上落ちない位業界の力が落ちているという話を聞いたんです。じゃあ、これからは上がる一方かってポジティブに考えてやっていたんですけど… (笑)。それでも最初の数年の方がまだよかったですね。だからといって悪い部分だけではないと思うんですよね。逆に、新しい音楽の新しい見せ方が出て来たとも思います。ただ、その早さに自分が付いていけなかったのかもな… 。
——エレクトロのシーンは、今どんな状況なんですか?
U : 数年前からのExT recordings等のエレクトロ・シーンから自分の関心がダンス・ミュージックへと動いて行った流れもあるんですけど、僕は元々テクノ・ミュージックばかりを熱心に聞いていたわけではないので、今と昔を比べてというのは何とも言えません… 。今は歌舞伎町にある新宿BE-WAVEっていう所をメインに、ダンス・ミュージック寄りのDJ活動もしているので、そういったシーンとは自然と関わってきている部分も多いと思います。ただ僕の場合、それこそPROGRESSIVE FOrMに始まる実験的な音響ものとか、RAW LIFEのノイズものもあればダンスもあるごった煮感に影響を受けているので、そこが主軸なんですよ。
——内田さんが最も影響を受けたのは
U : 面白かったのはRAW LIFEの後ですかね。Cherryboy functionや、DORIAN、Tracks Boysのシーンは面白かったですね。今でこそ彼らはクラブでバンバン活躍しているけど、当時Los Apsonとかでまだ有名になる前のCherryboy FunctionやALTZさんを収録した360°recordsのコンピとかDE DE MOUSEの手作りCD-R作品とか熱心に買ってたんだけど、その人達がRAW LIFE以降からガッと出て来て一気に盛り上がって行った印象が強いんですね。それがとても新鮮でした。
——リリースされるコンピ『Night Electro』からも、雑多でポップで新鮮な印象を受けました。
U : 参加アーティストに元々テクノ畑でやり続けてきた人はそんなに居ないんです。The Goonyzというアーティストもテクノ寄りに作りつつも実はアコギ1本で録音している曲もあったりで、バランスの感覚が僕と近い人が多いんですよね。『Night Electro』では夜をイメージしたエレクトロ&テクノのコンピレーションを作りたいという発想からスタートしているんです。Magic book recordsから変わらないのは、コンピレーション・アルバムが単なるレーベル・サンプラーとなってしまっているのはつまらないと思っていることです。あと、音楽に対して掘り下げているマニアックではない人でも、キャッチーで分かりやすいムードを感じとれるようにすることを作品をリリースする上では意識して作っていますね。
——所属するアーティストの方々の音楽にも幅がありますよね?
U : Riow Araiさんは、ブレイクビーツ本筋のものが1本あって、聞けばAraiさんって絶対に分かりますけどね(笑)、それ以外でもAraiさんは本当に振れ幅広いしいろんなタイプの曲作りますよね。作品に関しては、これからどういうことをやるんだろうっていうのが楽しみな位、様々な引き出しを皆さん持っています。
——Riow Araiさんの限定楽曲『After the DAMAGE』の話はいつ決まったのですか?
U : これはAraiさんから頂いた話なんですよね。Araiさんは今までも自身のHPでMP3楽曲を配信してきて、時代の流れと共に面白い実験場で可能性を表現している方なんですよね。なので、Golden AfterでiTunesや他の配信サイトで配信しながらも、OTOTOYで出来ることっていうのを試してみたいと思ったんじゃないですかね。配信する場所によってメリットもあればデメリットもあると思うんですけど、OTOTOYでしか聞けない作品を作りたいという発想が起点ですね。コンセプトが震災後の『After the DAMAGE』ということで、その後に見えた情景や感じたものにフィットしたサントラをコンパイルしてくれました。
データでも面白いことを
——Magic book recordsからGolden Afterに絞って、変化したことはありますか?
U : Magic book recordsは「何が飛び出すか分からない魔法の本」っていうコンセプトの元にあったんです。普通レーベルって「こういうレーベルなんです」っていうカッチリした概念があると思うんですけど、それがないんです。「このレーベルからこういうの出るんだ!? 」とか「このコンピにこんなの入っているんだ!? 」っていう意外性を意識しています。影響を受けていたエレクトロニカの時代って、そのやり方が面白がられている時代だったし、良く分からないものに興味を持ってお金を出そうという意識があった時代のように思うんです。Golden Afterになってからは、自分の活動の周りで出会った人達の才能を形にしていきたいという思いがありますね。それはMagic book recordsの時からもちろんあったけれど、もう少し音楽性に焦点をしぼる、より狙いすました方向になったと思います。
——音源がしっかりと売れてアーティストに還元したいと思っていますか?
U : もちろんそうです。レコード屋もCDショップも潰れていくけど、ネガティブなことばかり言っているのではなくて、その後にもう一度面白いことをやろうというのがコンセプトでもあるんです。ハウスやテクノに限らずに、様々なビート・ミュージックを展開していきたいんですよね。
——『Night Electro』のようなコンピレーションの役割とは何でしょうか?
U : なぜ未だにコンピレーションを作るのかっていうとイマジネーションを作品トータルでかき立てられるものをレーベル・サンプラー以外で作りたかったんです。それって360°recordsとかの影響が凄い大きいんです。例えば、未来の水族館をテーマにしたコンピレーションとか、架空レース・ゲームのサントラなどがあったんですけど、それって首謀者の周りの面白い人が1つのテーマに基づいて集まって作品を作っていると思うんですね。昔の「このレーベルの主要なアーティストを、このアルバムでまとめて聞けるしお得だね」っていうコンピレーション・アルバムのイメージではなくて、トータルでイメージを作りあげたいんです。コンピレーション・アルバムは難しいところもあると思うんですけど、お題を出されて、それに向かって作る感覚っていうのは双方で刺激になるし、それを自分でコンパイルするのも楽しいんです。
——その作品が、CDでリリースされるのと、ネットで配信されるのとでは違いがありますか?
U : 作品をコンパイルしている以上、理想を言えばアルバムをトータルで聞いてもらいたいっていうのはあります。データで配信する際は1曲からでも聞けてしまうところもあって、配信に向いている曲と向いていない曲がありますね。例えばドローン作品で4曲60分の内容をデータでどうやって配信するの? って話にもなるし、1曲で買ってもらっても面白みに欠けてしまうじゃないですか。だから、データでリリースするからにはデータでも面白いことっていうのを意識していますね。
——配信専門レーベルで生活していけるようになるための答えはありますか?
U : 自分でもはっきりとした答えはないんですけどね。リスナーとして聞く分には、フリー・ダウンロードの楽曲も聞くんです。だから何とも言えないんですけど、ダウンロードは落として満足するところがあるのかなって思います。もちろん聞いてもらえないよりは、聞いてもらったほうがいいですけど、有料と無料では作品に対して聞く意識が変わってしまうのかなって思いもありますね。
——アーティストもまだまだ音楽を作って生活していきたい人が多くいると思います。配信は、CDの代わりのプラット・ホームになるのでしょうか?
U : 若い世代が占めるネット・レーベルの存在は大きいと思います。面白い何人かのクリエイターの子達は、大手のレーベルからリミックスの話を受けたりして、とても良い流れが出来ていると思うんだけど、ネット・レーベルからリリースされる楽曲は完全にフリーな存在でありながら、大手から依頼を受けてリリースされる楽曲に関しては途端にお金が発生するっていうのがあったり、そのバランスも難しいのかなと思います。発信の仕方も昔とは違って、やる気と根気があれば様々な形で発信出来るとは思っています。こんな時代だからこそアナログやテープに戻る人もいますしね。
——様々な形で発信とは?
U : CDではなくてもいいのかなって思う所がやっぱりあって… かといって別にCDが駄目とか終わりとかそういう話でもなくて。音質的なクオリティーで言えば配信を優先的に買うことも有り得る。それは自分を例にとってみてもそうだし。前まで音源をリリースするというのは、CDでという考え方が前提であったんですね。でも、今CDを作って出したからといって華やかなデビュー的意味合いもあまりないし、今はレーベルから出してもらえなくても、十数万円を用意すれば自分で作ることも出来てしまうし、CDリリースって事自体がそれほど特別なものでもないので。CDであることの必要性が、そこに何か付随するものがないと意味が感じられないんですよね。逆に、配信では音質の高いものを出せるようになって来ているじゃないですか? MP3のビットレートも高いもので配信出来るし、CDでは出せない音質の領域も再生することが出来る。また、音源一枚当りの長さも制限がなく、2時間分の作品なんだよって言ってリリースすることが出来る。CDを出したついでに、データでも出そうということでもなくなってきたし、3曲入りのCDを出そうなんてそんな贅沢も実際問題出来ないですけどデータならそういう12inch的な面白さを展開できるし、データだからこそっていう事をやりたいなと思います。
——Golden Afterの今後の展開を教えてもらってもいいですか?
U : 『Night Electro』で参加したアーティストの作品に、リミックスを加えつつリリースしていこうと考えています。また『Night Electro』が1つの目標であったので、リリースした後の反応を捕まえながら次に繋げていきたいですね。
PROFILE
DJ UCHIAGE
何が飛び出すか分からない魔法の本をテーマに、2004年レーベルMagic book recordsをスタートさせ、藤田建次やTSANを代表とする14枚のオフィシャルCD、数十枚以上にも及ぶCD-R作品をリリース。2008年の終わりから2011年3月までレーベルと並行してWEB SHOPの運営も展開。ダンス・ミュージック、エレクトロニカからノイズやSSW、音楽なのかも謎なレベルなものまで、日本インディー・シーンの音楽を中心に、独自の視点で面白い音楽を紹介。2010年8月よりデジタルレーベルGolden Afterを新たにスタートさせ、今後様々なデジタル作品のリリースを予定。新宿BE-WAVE、渋谷ROOTS、青山蜂など東京を中心にDJとしても活動中。
Golden After
Messege from Golden After
2010年という新しい時代の始まりとともに立ち上げたデジタル・レーベルGolden After。音楽シーンの現状が、自分にとって絶望ではなく、希望であるために。終わりがくることや何かに区切りをつけることが決してネガティブなものではなく、新しい始まりの合図であり、とびっきり楽しい事を予感させるようなものであってほしい。そんな思いからこのレーベル名をつけました。7年間の活動に終止符を打ったMagic book recordsとはまた違った角度からデジタル・リリースでしかできない事、デジタル・リリースだからこそ面白い事を軸にしながら、今後様々なアプローチをしていければと思います。