【短期連載】5thアルバム配信開始! 空きっ腹に酒、メンバー単独取材第3回 田中幸輝(Vo)インタヴュー
大好評!! 空きっ腹に酒の4回に渡る短期連載。第1回西田竜大(Gt)の単独インタヴュー、第2回いのまた(Dr)の単独インタヴューに続き、第3回はヴォーカル・田中幸輝の単独インタヴューをお届けします。ヒップホップが好きだったという学生時代の話から、空きっ腹に酒の結成、七夕にリリースされた5thフル・アルバム『しあわせ』に至るまで、空きっ腹に酒というバンドの本質についてじっくり話を訊きました。ぜひアルバムを聴きながらお楽しみください。
▶︎単独インタヴュー第1回 : 西田竜大(Gt)
▶︎単独インタヴュー第2回 : いのまた(Dr)
1年ぶりの5thフル・アルバムを七夕にリリース!
空きっ腹に酒 / しあわせ
【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV、AAC 単曲 270円 / まとめ価格 2,160円
【Track List】
1. 音楽と才能
2. 夢の裾
3. ブス
4. 宇宙
5. ALC
6. 青にかまけて
7. ゼロ
8. ミラーボールロマンス
9. トラッシュ
10. グルーヴ問題
INTERVIEW : 田中幸輝(空きっ腹に酒)
今、最も関西で勢いのあるバンド一つが、空きっ腹に酒。そんな彼らの5thフル・アルバム『しあわせ』は、彼らにしか出せない音楽を鳴らす(何々っぽくない)という最も難解な部分に成功している。今回の取材相手は、ヴォーカル・田中幸輝。彼の個性と魅力が上記を形作っているのは、明白であるインタビューとなった。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
構成 : 宮尾茉実
写真 : 大橋祐希
ラップに関しては、ちょっとオタクみたいなところがあった
ーー幸輝くんが音楽をやろうと思ったのはいつからなの?
田中幸輝(以下、幸輝) : 中学生かな。でも、もともとロックバンドとかに興味がなくて、始まりはHip Hopだったんですよ。小学6年生くらいの時に、KICK THE CAN CREWを見た時にアイドルってこんなにかっこいいんだって思って(笑)。そこから、Hip Hopっていう存在も知らずになんとなくラップっぽい気持ちいいビート感みたいなのものにはまっていきましたね。中学に入った時に友達でラップが好きな子がいて、色々深いところも掘り下げつつ、さらにずぶずぶはまっていきました。将来ラッパーになるから高校に行かないって親に言って、ボコボコに怒られていましたね(笑)。
ーー当時は、どんなラッパーが好きでしたか?
幸輝 : 妄想族とか、MSCとか。THA BLUE HERBとかスチャダラバーとかも好きでした。
ーーじゃあ、ポップなとこからいかついところまで。
幸輝 : そうです、全般ですね。
ーーじゃあラッパーになりたいっていってもどこかのシーンで可愛がられてたとかではない?
幸輝 : ではないですね。ほんまに個人的に家でずっとノートにラップ書いて。だからラップに関しては、ちょっとオタクみたいなところがあったんですよね。
ーー高校では、どんな音楽を?
幸輝 : 高校で、空きっ腹に酒のメンバーとであうんですよ。まちぞう(町田康 / INU)の『メシ喰うな』を高校1年くらいの時に姉に渡されたことがロックにはまったきっかけですね。姉が「リリックがやばいからお前はこれを理解しろ」って言ってきて。あとYouTubeで偶然見た銀杏BOYZとか。そこからちょっとずつロックに興味を持っていきました。初代ドラムが同級生で、そいつとバンド組みたいなーってぼんやり思ってた時に、文化祭で西田といのまたがバンドやってるのを見て、「絶対こいつらよりできる」って思ったんです。
ーー西田くんといのまたくんがたいしたライヴじゃなかったと?(笑)
幸輝 : いや、盛り上がっていたんですけど、「こいつらにできるんやったら俺の方ができるやろ」って思ったんですよ。
ーーなるほど。それでバンドを始めたんだ。
幸輝 : 銀杏BOYZのカバーをやろうと思ってたんですよ。でも俺ギターもベースも弾けなくて。初めてギターを背負ってガーンってやったら、銀杏BOYZが鳴ると思ってたんですよ。そしたら、ポロローンって(笑)。でもおっきい音鳴ってるから楽しくなってきて、ガチャガチャやってるうちにコピーをやろうと思って。でも「コピーって譜面を見ながらエフェクターとかいるんや」ってなった瞬間にめんどくさくなっちゃって、オリジナルでやりましょうってなったんです。
ーーラップは、嫌じゃなかったのにねぇ。
幸輝 : はまった時期とかが小学生の時とかだったから、もっと練習しないとってなったけど、ギターは弾けなくてもいいもんやってどっかで思っていましたね。
頼れる部分がロックしかなかったんです
ーー西田くんとは、どうやって一緒にやろうってなったの?
幸輝 : 対バンをしたんですよ。それを見て西田が「やばいやつらがおるぞ」と。
ーーそれはライヴハウスで?
幸輝 : ライヴハウスです。うちのベースがぬけるってなった時にデブのベースを募集したんですよ。背脂感を出したくて(幸輝が当時組んでいたバンド名が『背脂』)。そしたら当時バンドがなかった西田が「ギターだけど、ベースも弾けるから俺でもいいかな」って。その後、ライヴ当日にうちのギターが風邪を引いてライヴに行けないってなったんです。そしたらその時にベースだった西田がここぞとばかりに「俺ギターの方がうまいねん!」って言ってきてギターになりましたね。それから空きっ腹に酒になりました。
ーーベースは?
幸輝 : あ、僕がベースを弾きました。そのライヴ1回だけ。その時点から、バンドの全権を西田に委ねていった感じはありますね。俺の要素に西田が必要だったんじゃなくて、西田の要素に俺が必要だったって感じです。
ーーじゃあその時は、曲をやったってわけじゃないんだね。
幸輝 : そうですね。何の打ち合わせもなく、ただかきならすセッションでした。西田はずっとカッティングをしたり、ギターソロばっかりやってて。俺はその横でずっと叫び続けるっていう。歌詞を書くということへの恥ずかしさとか、覚えるのも嫌だとかってのもあって。
ーーなんで歌詞を書きたくなかったの?
幸輝 : ラップじゃない歌詞を書く自信がなかったんだと思います。ラップだと形式があって、韻を踏むっていう自分の楽しみ方がありましたから、それを取っ払われた瞬間にどこから書き始めればいいか分からなくなっちゃったんですよ。
ーーその自分の得意分野を持ち込まなかったっていうのは?
幸輝 : 自信ばっかり当時はあったから、俺がバンドでラップをしてしまったらミクスチャー・ロックになってしまうってクソ生意気に言ってました。でもある日偶然、Hip Hopっぽいビートの上で遊びでラップをしたんですよ。そしたら西田が「それ俺のやりたい音楽に近い」ってなったみたいで。その日からは、少しずつ今のスタイルになっていきましたね。
ーー幸輝くんはラップをやってると言う意識?
幸輝 : 僕歌下手なんで、ヴォーカルっていうんですけど、ラップをやってるっていう意識ですね。うまかったらラップでいいと思うんですよね。ラップみたいなことしやがってって思うやつもたまにおるけど、わざわざ俺がそれを否定する必要はないんじゃないかなって。
ーーじゃあ幸輝くんが、空きっ腹に酒がロックバンドだと思うのは何故?
幸輝 : メンバーの精神性ですかね。オタクばっかりなんですよね、うち。現場主義の人間じゃないというか、家に閉じこもっているような人間ばっかりで、頼れる部分がロックしかなかったんです。自分たちのやっていることが形容しにくくて、でもステージに立ったらエモーショナルな部分を爆発させなきゃいけない。
ーーなるほど。幸輝くんの言うロックの精神性とは? Hip Hopとはどう違う?
幸輝 : 等身大なところですかね。Hip Hopって自分を大きく見せる。でもロックはありのままなのかなって。
カッコよく売れたいし、カッコ悪いならやめたいです
ーー空きっ腹に酒は、どのように楽曲を制作していますか?
幸輝 : 作りたいものを皆で提出しあって作る感じかな。何をやっても空きっ腹に酒になれる自信はあるんですよ。だから何をやろうっていうのを探すのに時間がかかる感じですかね。あとシンディが入ったことによってまたアプローチが1個増えたから、時間がかかったりとかもすると思うんですけど。
ーー何でもかんでも空きっ腹に酒になってしまうことは外から見たら最高な状態だけど、メンバーから見たら抜け出したかったりするんじゃない?
幸輝 : そうっすね、どの曲聴いても空きっ腹に酒になるってことは、どの曲聴いても一緒に聞こえるんじゃないかって思ってしまう。でもそれの克服の仕方として個人的にあるのは「苦手なことをやろう」っていう小学生みたいなこと。いままでメンバーの意見は反映してこなかったんですけど、『愛と哲学』くらいから西田とかにラップのフロウとか、言葉の詰め方に関して指摘をもらうようになって。昔やったら喧嘩とかになってたんですけど、今は新しさを見つけることを楽しくできるようになったんです。
ーー見つかりそうですか? もしくは今回のアルバム『しあわせ』の中で、これが空きっ腹に酒の新しい部分なんだってとこはありますか?
幸輝 : サビのメロディとかが、前作よりも聴きやすくなっているのかなと思いますね。前作までは個人への怒りとか悲しみを歌ってきたつもりだったんですけど、皆もこういうことあるよね、みたいなあるあるネタも歌い始めました。
ーー「夢の裾」は、今の空きっ腹を歌っているのかなって思いました。
幸輝 : 歌詞を書いた動機は自分のバンド活動に対する焦燥感とかだったんですけど、完成品とかを何回も聴いていると勝手に別の登場人物を作っちゃって、自分のこととして聴けなくなっちゃったんですよね。
ーー歌詞で幸輝くんは怒りを書くことが多いの?
幸輝 : 僕は怒りじゃない時は何を歌えばいいのかわからないというか。反骨精神みたいなのが必要で。今のロックバンドって希望の歌を歌いがちだなって思うんですよね。それはそれで存在してていいと思うんですけど、僕はその裏にずっとおりたいと思う。
ーー空きっ腹に酒の歌詞からは、「売れたい!」等のがつがつしたニュアンスを感じることはありませんね。
幸輝 : ぼんやりしてる現状を捨てないとっていう気持ちは確かにあるんですけど、僕の中でそれはカッコ悪くて。カッコよく売れたいし、カッコ悪いならやめたいです。でも、そんなこと言っていられないっていうのも理解できるし、その葛藤って一生するんじゃないかなって思う。ミュージシャンって、軌道に乗って売れたってことになっても自分の求めてたスタイルとそことのギャップに悩まされると思う。ずっと理想を夢みてる存在ですよね。
ーーでも一応売れたい?
幸輝 : ちやほやされたいっていうのがあると思うんですよ。かっこいいねって言われるのが嬉しくて、その人数を増やしていきていっていう感覚やから、いつまでに俺たちは武道館に立つんだっていうような計画性はないんです。
幸せになりたいから歌う部分が多いと思うんですよ
ーーでも空きっ腹に酒は着実に動員を増やしてて、クラブクアトロ10ヶ月(〈空きっ腹に酒 企画 10カウント@梅田CLUB QUATTRO〉)ってなかなかできることじゃないじゃないですか。
幸輝 : でも結果成功してないですよ。お金のこととか、動員のこととか。なにより、自分たちが今日いいライヴできたー! ってのが1回もなくて、毎回何かの課題が出てきて、それを次でクリアして、でもまたその時新しい課題ができてきたみたいな。1回スタジオに入るより、1回ライヴしたほうが得るものは大きかったし、真剣にどうライヴをしていくかっていうことを突き詰めていくいい10ヶ月でした。だからそれが癖づいて、ライヴに対して全員ストイックになって無駄なことを考えることがなくなりましたね。
ーー大きな事故(2016 4月にバンドでの移動中に交通事故に遭ってしまい、Ba.シンディが骨折、Dr.いのまたが打撲、Vo.ユキテル、Gt.西田は軽症)があってもライヴをやめなかったことがすごいなと思いますね。
幸輝 : 待ってる人がいるからっていうのももちろんありましたけど、それ以上にライヴがしたかったっていうのがでかかったかもしれないですね。弾き語りなんて1回もしたことなかったから、怖かったですけど。でも弾き語りは、1回やってみたらとても楽しくて、また続けようって言っています。
ーーシンディは復帰できそうですか?
幸輝 : 出来ると思います。やっぱり彼がいいなって思いますね。人間として好きだし。彼のライヴ中のプレイスタイルとかもグイグイくる感じで一緒におって気持ちいいんです。
ーー西田くんとかいのまたくんにインタヴューした時も話してたけど、メンバーみんな仲良いよね?
幸輝 : 仲良いですよ。多分皆空きっ腹に酒が好きなんですよね。なによりも4人で一緒におるのが楽しい、こいつらとバンドがやりたいっていうのがありますね。
ーー想定外のことが起こった時に、前に進むのはとても勇気のいることだと思います。
幸輝 : そこらへんは背脂の時に鍛えられたのかも。セッションなんで想定外のこと以外ないから(笑)。ライヴ中にギターの音が止まった時にむしろ「おっ」って楽しくなるとか。空きっ腹に酒ってそういうバンドなんですよ。
ーー最後に、タイトルに『しあわせ』ってつけたのは?
幸輝 : 毎回絶対日本語のタイトルにしようっていうのは決めていて、パッと見て一瞬で意味がわかるのにしたかったんです。人が歌を歌うきっかけっていうのは幸せになりたいから歌う部分が多いと思うんですよね。じゃあ僕がこのアルバムを通してなにが欲しかったんかって思ったらしあわせだなって思ってこのタイトルをつけましたね。
ーー曲を歌うことが幸せなのか、まだ掴んでいない大きな幸せのことなのか、どっちなのかなって。
幸輝 : どっちもあるのかもしれないですね。このアルバムができた時は幸せだったし、でもコレを作ったことによってまた課題が生まれたので、それは掴みにいきたい。最高のものができたけど、これを越えるものが空きっ腹に酒でならできると思っているから。
配信中の過去作品もチェック
空きっ腹に酒 / 人の気持ち
生々しいカッティング、パンクにファンクにラップ、 組み合わせユニークなサウンドはまさにグルーヴ・マスター! 無敵のアンサンブルと気持ちいい言葉選びが最高のこの1枚! 地味に聴こえる曲が多いが、どの曲も完成度はピカイチ。
空きっ腹に酒 / 僕の血
〈FUJI ROCK FESTIVAL '11〉でROOKIE A GOGOに出演、オーディエンスに強烈な印象を与えた空きっ腹に酒が、翌2012年にリリースした記念すべき1stフル・アルバム。破天荒なスタイルでつねに常識をぶち壊してきた彼ららしい、ファンキーかつエッジーな演奏、そして中毒性の高いラップのようなヴォーカルが耳から離れない。
教科書に載っていないファンク・サウンドと、コミカルに打ち出すリズム。 ダンサブルな展開と、まくし立てるラップ調の歌唱。それらが絶妙に融合した、気持ちの高ぶるバンド・サウンド。優しさと可愛さとサービス精神が随所に垣間見られる1枚。
(※11曲目の「サタデーナイトフィーバー」のみ、16bit/44.1kHzの音源となります)
LIVE INFORMATION
夢でみた幸せ 対バン TOUR
2016年8月14日(日)@広島4.14
出演 : 空きっ腹に酒 / ORESKABAND / ラックライフ
2016年8月15日(月)@岡山CRAZY MAMA 2nd Room
出演 : 空きっ腹に酒 / ORESKABAND / ラックライフ / ペロペロしてやりたいわズ。
2016年8月20日(土)@京都GROWLY
出演 : 空きっ腹に酒 / 後日発表
5th Full album release tour 夢でみた幸せ ONEMAN TOUR
2016年9月16日(金)@札幌BESSIE HALL
2016年9月23日(金)@大阪CONPASS
2016年10月12日(水)@名古屋UPSET
2016年10月14日(金)@福岡the voodoo lounge
2016年10月21日(金)@東京O-nest
[その他]
JOIN ALIVE
2016年7月16日(土)@いわみざわ公園(野外音楽堂キタオン&北海道グリーンランド遊園地)
HOTSTUFF presents Ruby Tuesday 11
2016年8月9日(火)@新宿LOFT
出演 : 空きっ腹に酒 / 挫・人間 / 最終少女ひかさ
BAR STAGE ACT : あいみょん
onion night! 8周年「onion night!lv!70」 ~梅田シャングリラ11周年祭WEEKLY JACK+1
2016年8月10日(水)@梅田Shangri-La
出演 : 空きっ腹に酒 / 神頼みレコード and more…
PROFILE
空きっ腹に酒
人間不信に陥ったvocal田中幸輝が、当時高校の先輩だった西田竜大、いのまたに出逢いファンクのリズムに合わせて「音楽と踊る楽しさ」を思い出す愛と絶望の感動巨編(バンドです)。ポップからアングラまで、どんな曲をやっても結局、空きっ腹に酒。