エレガントなストリート・ミュージックを──女流ニューポップの大本命、大比良瑞希の1stアルバム
ヨーロピアンなテイストを下地にジャンルレスに取り込まれた斬新なエッセンスとロマンティックなムードで惹きつけ、イタリア電機メーカー「デロンギ」のCMソングに起用されるなど注目を浴びていたバンド、ヘウレーカ。2014年に活動休止後、その中心人物である大比良瑞希がソロ活動を開始したのが2015年初頭のこと。1stミニ・アルバム『LIP NOISE』リリース後に公開されたPVから話題が広がり、FUJI ROCK FESTIVA‘L 15の出演をはじめ、tofubeatsやLUCKY TAPESの楽曲におけるコーラス参加などで"大比良瑞希"としての活動を広めてきた。
そして7月、満を持してリリースされたのが1stフル・アルバム『TRUE ROMANCE』。ラグジュアリーなアーバン・メロウからウェットなフォーク・ミュージックまで、より洗練された内容は彼女の才覚を感じさせるものとなった。
特集においては大比良と共に前作に引き続きプロデュースを手がけている作曲家 / チェリストの伊藤修平を呼び、彼女たちの目指すところ、その意思を訊いた。
大比良瑞希 / TRUE ROMANCE
【Track List】
01. Romance Intro
02. TIME LIMIT
03. 微熱
04. Everything Gives Me Chance What I Love It
05. 焚き火
06. Good Night
07. 帆掛け舟
08. Sunday Monday
09. aspiration
10. ハッピーバースデー
11. 目覚めのラブソング
12. High-end Veil
【配信形態 / 価格】
16bit/44.1kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC / mp3
単曲 256円(税込) / アルバム 1,944円(税込)
INTERVIEW : 大比良瑞希、伊藤修平
大比良瑞希という女性アーティストが大注目だ。以下の文中で公開しているPV『Sunday Monday』は、名曲なだけでなく、彼女の佇まいにキュンキュンしてしまう。ニュー・アルバム『TRUE ROMANCE』は、その時よりも、もう少し大人な感じ。でもやっぱりキュンキュンしてしまうな… 僕は。
インタヴュー&文 : 飯田仁一郎
写真 : 大橋祐希
ヘウレーカのときから知っていて”才能のある人だな”と思っていたので「きた!」という感じ
──大比良さんの音楽的変遷からお伺いできますか?
大比良瑞希(以下、大比良) : もともとは中学生のころに女の子だけで7人編成のバンドを組んでいて、文化祭で盛り上がるようなサザン(サザンオールスターズ)とかJUDY AND MARYを演奏していましたね。
──サザン! 渋いですね。
大比良 : 個人的に流行ってました(笑)。そのころはギターを弾くだけで歌ってはいなかったですね。通っている塾にいた高校生にギターを教えてもらったりライヴに連れて行ってもらうようになって。高校に入ってからは自分で曲を書くようになって、そうすると歌も自分が歌ったほうが早いなって理由で歌い始めました。高2ぐらいにはエレキギターとループマシンでライヴをしたり、専門学校に遊びに行ってメンバー探しをしていましたね。
──そのころから本格的にミュージシャンを目指そうと?
大比良 : その7人編成のバンドのころにオーディションを受けたりしていたんですけど… 受験とかもあって私だけが突っ走っていたんですよね。ひとりで音楽を作るようになってからはだんだんオーディションとかよりもライヴハウスに出ることが主軸になって。学芸大学のメープルハウスによく出ていて、そのころはTHE SALOVERSの古舘(佑太郎)くんとかも周りにいましたね。わりとロック・バンドらしいロック・バンドの中にいました。
──そのころにはヘウレーカ(大比良の前身バンド)を組んでいたんですか?
大比良 : そのころは”おまくそじー”っていう変なバンドをやってました(笑)。
伊藤修平(以下、伊藤) : よくないワードが3つぐらい入ってそう。
大比良 : おじいちゃんにもそう言われてやめました(笑)。ヘウレーカはそのあとですね。そのころはヨーロッパの音楽が好きだったり、ベルベット・アンダーグラウンド周辺とか、ZAZのライヴにも影響を受けていたかな。
──なるほど。そしてヘウレーカからソロ活動になったんですね。その理由は?
大比良 : メンバー同士、方向性が変わってきたのを感じていたんですね。私にとってはそのまま音楽を続けていくための解散でした。それでひとりでやっていこうってときに私にとって音楽の師匠みたいな方から、伊藤さんのチェロと私の弾き語りでライヴをやったらおもしろいんじゃない? って言われてちょっとやってみようかっていうのが3年ぐらい前ですね。それまでも知り合いではあったんですけど、音楽的な話はそこまでしたことがなくて。
伊藤 : 僕としてはヘウレーカのときから知っていて”才能のある人だな”と思っていたので「きた!」という感じで。一緒にやってみるとフィーリングがあったので、それからソロ活動のことを相談を受ける… というより一緒に考えるようになったんです。
大比良瑞希が歌う”歌謡曲”としてど真ん中のポップスを作りたい
──伊藤さんはサウンド・プロデュースというよりも全体のプロデュースに関わっているってことであっていますか?
大比良 : はい。ビジュアルやアートワークも含めて。
──なるほど。伊藤さんとのユニットという形にすることもできたと思うんですけど、それでも”大比良瑞希”というソロでの見せ方にした理由は?
大比良 : そこも悩んだんですよね。
伊藤 : いまだに悩んでるっちゃ悩んでるよね。でもユニットにするんだったら、ジャンルに特化したものにしたくなると思うんですよ。エヴリシング・バット・ザ・ガールみたいな。でも作品をつくりながら、これはやっぱり大比良瑞希の等身大だし、だったら大比良瑞希が歌う”歌謡曲”としてど真ん中のポップスを作りたいなって思ったんですよね。
──「大比良瑞希が歌う”歌謡曲”」。これはおふたりの共通の言語として制作中からあったものなのでしょうか?
伊藤 : そうですね、単におしゃれなもの、かっこよいものを作るよりも、もっと強度のあるものを作りたかったというか。
──プロデュース的な観点から、伊藤さんが目指しているものってなんですか?
伊藤 : そんなに若いわけでもないから(笑)、アイドルでもないし、そのときに1番いいものを残していくのを積み上げて、ずっと音楽を続けていける人になればいいなと思うんですよね。あと、最初に確か「大比良瑞希の何がいいって、それは歌だよ」って話をしたよね?
大比良 : したね。自分の中では歌はコンプレックスだったんですよ。
伊藤 : そう言うから「いやいや君は歌だよ」って作りはじめたのが1st EPの『LIP NOISE』で。
──『LIP NOISE』の反応はどうでしたか?
伊藤 : ソロ活動するにもまずは作品がないと、っていうところで作ったので本当に宅録の作品になったんですけど、収録曲の「Sunday Monday」のPVからすごい広がりができて。
大比良 : そうですね。「Sunday Monday」のPVをあげたのが2015年の2月なんですけど、その年はシティ・ポップの大きな流れがあったじゃないですか? PVを見てその流れに結びつけてくれた、渡邊貴志さんって方がいて。「ヘイセー・トーキョー」(2015年4月26日に『本屋B&B』にて開催された「ヘイセー・トーキョー〜新世代のクリエイターたちに今聞いてみたいこと〜 」)というイベントでYogee New Wavesの角舘健悟くんとカメラマンの小林光大くんと繋げてくれたんですね。さらにそのイベントをLucky Tapesの(高橋)海くんがWEBで知ってPVにいきついて…。そこからいまに至るまで、Lucky Tapesにコーラスとしてずっと参加しているんです。私のアルバムの発売日と同じ日にLucky Tapesもアルバムを出していて、そこにも全曲参加させてもらっています。
──なるほど。シティ・ポップの流れから繋がりができて活動の幅も広がったんですね。ちなみに大比良さん自身はシティ・ポップの流れのなかに身を置いているような意識なんでしょうか? 今作を聴いている限り、ビジュアルも含めてなんか…
大比良 : そうなんです。私自身、いわゆるニュー・ミュージックと呼ばれる松任谷由実さんや山下達郎さんに影響を受けている部分はあるんですけど、自分の作品に対してそこまでシティ・ポップだとは思っていないんです。だからそこに結びついたのは逆に嬉しかったというか。そこで出会えた人たちがたくさんいるので。
Roos Jonkerって女性アーティストがいるんですけど、彼女の音楽やその接し方とかには影響受けました
──そうですよね。話は戻りますが、伊藤さんは大比良さんの歌のどういうところに魅力を感じたんですか?
伊藤 : 声じゃないですかね。キンキンしていない。かといって渋すぎるわけでもなく可愛さが残っている。でも媚びてるわけでもないっていう絶妙さがあって。
──サウンド面で意識したところは?
伊藤 : キャッチフレーズ的にもよく言ってるんですが、「エレガントなストリート・ミュージック」にしたくって。歌声がすごくスムースなので、ビートをストリートなものにしても最終的にエレガントになるんですよね。
大比良 : 音作りではビョークみたいな予測不可能なところにいきたいというのが曲によってはあったけど、メロディーは絶対にわかりやすいものにする、というのも今回のテーマですね。それが歌謡曲らしさでもあるかなって。
伊藤 : あとヘウレーカのころはブリティッシュ・ロックに寄った感じだったから、この人の普段の服とか雰囲気としてはヨーロピアンなだけじゃなくてもいいなという意識もありました。
大比良 : 今回のアルバムはどっちかというとUSインディーっぽくなったよね。
伊藤 : 僕も大比良もFEISTが好きなんですけど、あのアメリカのフォーク・ロックだけど音は打ち込みで尖ってるような感じがあってるかなと思うんですよね。
──FEIST以外にもソロになってから影響を受けた音楽ってありますか?
大比良 : オランダにRoos Jonkerって女性アーティストがいるんですけど、彼女の音楽やその接し方とかには影響受けましたね。
伊藤 : まだ1枚しかアルバムを出していないんですけど、それはジャズのレーベルから出していて、でも完全にポップスなんですよ。しかも打ち込みのサンプリングの感じはヒップホップとまではいかないけど、ストリート感が強くて。
大比良 : ジャンル・ミックスな感じもすごく良くて。
伊藤 : 宅録のトラックに生音を乗せた状態での完成品がありなんだなって思わせてくれた。やっぱり正攻法ではデモから本番の時点で打ち込みのトラックはダビングし直さなきゃいけないというイメージがあったんですけど、これがストレートだなって思わせてくれる強さがあるというか。ルースはかなり参考にしましたね。
言葉とか時間っていう絶対的な壁も、音楽とあわせることで可能性が広がる
──歌詞においては、アルバムを通して共通の景色を見ていたりしますか?
大比良 : 今回は『TRUE ROMANCE』というアルバム・タイトルを最初に決めて、アルバムに入れることを前提につくった曲が多いんですけど…、でもそうですね、自分の中ではわりと1曲1曲違う景色かなと思います。ただ曲順的にも、このアルバム・タイトルの元ネタになっている映画「TRUE ROMANCE」のように、北から南へ向かうロードムービーな感じで聴いていただいて、だんだんあったまってもらえたらいいな。あとは、これは歌詞に限らずかもしれないんですけど、言葉とか時間っていう絶対的な壁も、音楽とあわせることで言葉が真逆の意味にもとれたり、時間も超越できたり、可能性が広がるじゃないですか。好きとか嫌いとか、良いとか悪いとか、二極化できない部分や、そういうせつなさ、みたいなものを音楽で昇華できたらいいなという思いは共通にあると思います。
──僕は歌詞を読んで勝手に大比良さんが嫉妬深い人なのかなって思っていたんですけど(笑)。
大比良 : (笑)。「微熱」とかかな。
伊藤 : でもそれこそ「エレガント」って大人の女性らしさ、上品さであったりもするので、そこは大比良が書いてきたものを見てすごくいいなって思いましたね。
大比良 : あ、でもそう。自分の中でも今回で一皮むけたなって思います。「微熱」みたいな官能的なものを作ったことは今まであまりなくて。歌詞は愛の話だけど、実は恋愛だけじゃない、というか生きること自体の儚さみたいなものも込めたいなと思って、より官能的にしてみたくなりました。でも歌詞においては5曲目の「焚き火」が1番言いたいことかもしれないです。
──大比良瑞希というプロジェクトはこのままふたりで続けていく予定なんですか?
伊藤 : そうですね。大比良をよく見せるためにビジュアルもアートワークも考えていきたいので、そういう仲間は増えていったらいいなと思っています。
大比良 : どんどん大きくなりたいですね。このプロジェクトで武道館っていうのも決めてますから。
伊藤 : 何年後っていうところまで決まってます。
大比良 : あ、それが何年後かは言わないんだ(笑)。でもそう、決まっているので。
伊藤 : でもそれこそ武道館の規模を考えると、やっぱり歌謡曲でありポップスであることが大事なんですよ。何かの文化と直結した音楽だとシーンに限りにあるので。どんどんメジャーなものにしていきたいと思っています。
──なるほど。最初に「音楽をずっと続けていける人に」と言っていたので、自分たちの音楽活動を守りながら長く続けていきたいのかなと思ったんですが、それとはまた違いますね。
伊藤 : そうですね、ずっと続けるということは自分を満足させ続けることだから、大きいところを目指さなきゃいけないという考え方です。
LIVE INFORMATION
『TRUE ROMANCE』発売記念インストアイベント
2016年7月29日(金)@TOWER RECORDS 池袋店 6Fイベントスペース
時間 : 19:30〜
料金 : 観覧無料
内容 : ミニ・ライヴ&サイン会
番組「東京タワーTV」公開収録ライヴ
2016年7月30日(土)@東京タワー 大展望台1階 club333
時間 : 17:00〜18:00
料金 : 大展望台入場料 900円(チャージ・フリー)
night after night vol.5
2016年8月21日(日)@下北沢Three
時間 : OPEN 18:00 / START 18:30
料金 : 前売 2,300円 / 当日 2,800円(1ドリンク別)
出演 : ナツノムジナ / カネコアヤノ / 大比良瑞希 / poor vacation / 高橋勇成(paionia)
PROFILE
大比良瑞希
東京出身のシンガー / コンポーザー / トラックメーカー。
2015年よりソロ活動スタート。チェリストでもありプロデューサーの伊藤修平と共作の1st ミニ・アルバム『LIP NOISE』は、「タワーレコード2015年・冬の100選」にも選出。FUJI ROCK FESTIVAL出演やtofubeatsの作品にコーラスで参加するなどの活躍でも注目を集める。