アジアで音楽をやることに劣等感はいらないーーSTART OF THE DAY(日本) × ANECHOIS(シンガポール)対談から見るアジアの音楽
USエモやポストロックを通過した楽曲群に、弦・管・打楽器とコーラス隊のハーモニーを乗せ、壮大なサウンド・スケープを作り上げる3人組、START OF THE DAY。自らレーベル業を行い、DIYな音楽活動を続けている彼らが、2014年5月に、シンガポールのポストロック・バンド、ANECHOISを迎え全国ツアーを決行、大成功のうちに終了させた。このたび、OTOTOYでは、2013年12月に韓国のバンド、JIMMY JIMMYを迎え制作された3組によるコンピレーション・アルバム『Yggdrasill 1』をハイレゾ配信スタート!! それにともない、START OF THE DAYとANECHOISの対談を行なった。なぜコンピが制作されたのか? シンガポールの音楽事情とは? 大盛り上がりの対談を、5月21日のライヴレポート&写真とともに存分に味わっていただきたい。
>>>「WONDER RAIN TOUR 2014」@渋谷WWWのライヴレポートはこちら
3国のバンドが鳴らす美しき旋律をハイレゾで
V.A. / Yggdrasill 1(24bit/48kHz)
【価格】
HQD(24bit/48kHzのALAC、FLAC、WAV) 単曲257円 まとめ購入 1,080円
【Track List】
1. THE NEW ROOM (JIMMY JIMMY)
2. The Moon and the Sun (ANECHOIS)
3. My name (START OF THE DAY)
4. Sing (JIMMY JIMMY)
5. Love and Serenity (ANECHOIS)
6. Heaven (START OF THE DAY)
INTERVIEW : START OF THE DAY × ANECHOIS
対談が終わってANECHOIS(アンエコイズ)のメンバーから手渡されたのは、カセットテープだった。対談内で語られているが、物価が高く、日本ほど音楽マーケットが成熟していないシンガポールでは、音源を売る手段としてカセットテープが好まれて使われているという。現地で人気のある音楽を尋ねると、日本のポストロック・シーンを形成してきたアーティスト名があげられ、シンガポールのバンドが発展途上であることを話してくれた。しかし、渋谷WWWで行なわれた「WONDER RAIN TOUR 2014」に出演したANECHOISのライヴを観て、ぶっとばされた。その生き生きと音楽の粒を浴びるように演奏する姿を観て、本当にかっこいいバンドは、どこの国で、どのような環境にいようが、絶対的にかっこいいのだということを思い知らされたのである。
そのANECHOISを日本に迎い入れ、僕たちの目に触れさせてくれたのが、日本の3ピース・バンド、START OF THE DAYである。彼らもまた、僕の度肝を抜かせたバンドである。3ピースといっても、渋谷WWWのステージで演奏していたミュージシャンは16人!? フルートや鉄琴、ホーン隊、などなど、その音楽世界を表現するために、たくさんの色彩が並び、そのサウンドスケープでリスナーを圧倒させた。彼らは自身でレーベルも行なっており、ANECHOISと、韓国のバンドJIMMY JIMMYを含めた3バンドのコンピレーションもリリースしている。そこで、このたび、START OF THE DAYとANECHOISのメンバー全員に集まってもらい、対談を行なった。文化の違いが浮かび上がってくるとともに、その架け橋を作ろうとしていることがわかる内容となっている。世の中にある素晴らしい音楽がもっと繋がっていくことを祈って、本対談をお送りする。
インタヴュー & 文 : 西澤裕郎
シンガポールって、こんなにすごい人たちいるの? って
ーーSTART OF THE DAYが主催を務めた「WONDER RAIN TOUR 2014」、東京公演となる渋谷WWWを振り返ってみて、いかがでしたか?
Atsuko Watanabe(以下、Atsuko) : 「WONDER RAIN TOUR 2014」の地方公演は、ライヴハウスの方や、現地の仲いいバンドさんにお願いして進めていた企画だったんですけど、唯一渋谷だけは自分たちの手でANECHOISがどれだけ楽しんでくれるかを考えてやったので、本当に時間が経つのがあっという間で、一日が3時間くらいに感じられるくらいでした(笑)。お客さん的も楽しんでいただけたという声をいただいているので、やってよかったなって思ってます。
Tatsuya Tanami(以下、Tatsuya) : なにより、ANECHOISの評判がすごくよかったですね。みんなビックリしてました。バンドマンもお客さんに多かったので、技術的なところもそうですし、パフォーマンスや、曲のセンス、ヴォーカルのジークの声がすごくキレイだったことに感動していました。
ーーANECHOISのみなさんは当日のライヴはいかがでしたか。
ANECHOIS : とても大きいハコで、いいラインナップで、いい雰囲気を作ってもらって新しい経験ができました。そこにとても感動しました。
ーーANECHOISから観て、当日のSTART OF THE DAYの演奏はどうでしたか?
ANECHOIS : 言葉にならないくらい素晴らしかったです。それに、今回共演した日本のバンドも全部素晴らしくて。ライヴのクオリティもそうなんですけど、オーガナイズする裏の部分にも感銘をうけて、そこを勉強したのでシンガポールでも使って、いいエッセンスを蒔いていきたいと思っています。
ーーそもそも、どういう経緯で2組は一緒にツアーをやることになったんでしょう?
Yuya Tanami(以下、Yuya) : 2012年にシンガポールのフェスティバルに行ったんですけど、リハーサルをやっている彼ら(ANECHOIS)を観たら、めちゃめちゃ格好よくて、アメージング!! ってなって(笑)。その日はコミュニケーションできなかったんですけど、翌日彼らが僕らのライヴを観に来てくれたのがきっかけで繋がっていったんです。ものすごくクオリティが高かったし、一緒にやりたいと思ったんですよね。シンガポールって、こんなにすごい人たちいるの? って感覚でした。実際、他のバンドもゴロゴロいましたし。でもANECHOISはずば抜けてよかったですね。
ーーあまり知らない部分なのでお聞きしたいのですが、シンガポールの音楽シーンって、いまはどうなっているんでしょう。
ANECHOIS : 日本もそうだったのかもしれないですけど、国内のバンドはあまり格好よくなくて、海外のバンドがかっこいいって認識がちょっと前までありました。トレンドとしては、デスメタルから入って、ポップロック、ポストロックみたいにリスナーの動きが移っている最中です。バンドは基本的にD.I.Y.でリリースとかギグをしていたんですけど、最近は政府から助成金がでるようになって、バンドにちゃんとしたプロダクションを与えて助成するような動きが出てきています。なので、いまは昔より開けた状況になってきていると思います。
ーー国から助成金がでたり、協力体制ができつつあるんですね。
ANECHOIS : シンガポールのなかでも、地域ごとの勇姿の組織というか、そういうものが、始まったばかりのバンドに対して、アートワークについてアドバイスしたりとかもしています。ライヴとかツアーってことに対しても助言を与えられるような地域毎の組織ができあがっていて、それが重要なファクターになっています。
古いものを新しく捉えていくのが新鮮
ーー本当にこれから新たなシーンが形成されていこうというところなんですね。START OF THE DAYからANECHOISに訊いてみたいことがあれば、ぜひこの機会に訊いてみていただきたいのですが。
Yuya : そうですね、バンドと仕事で、生活のリズムってどうなっているのかなっていうのが気になりますね。僕たちは仕事をしながらバンドをしていたりするんですけど、シンガポールのインディーズ・シーンはどうなっているんですか?
ANECHOIS : そこは、あまり日本と変わりません。シンガポールは物価が高いので、仕事はしなければいけなくて、みんな休みの日をみつけてバンドをやっています。さっきの話とは裏腹ではありますが、まだシンガポールは音楽で生計を立てるのは難しいので、仕事は重要なんです。
Yuya : おもしろかったのが、日本はまだまだCDが主流みたいなところがあるじゃないですか? それが、彼らはマーチャンダイズでカセットテープを持ってきていて。なぜ、今カセットテープなの? って質問したら、シンガポールとかマレーシアの若い子はお金があんまりないから、CDより制作コストが安いカセットテープを作るんですって。もちろんパスコードもついているから、カセットデッキがなくても聴けるようになっていて。シンガポールはシンガポールなりの文化を見つけていろいろやってるんだなと思うと、日本も見習うべき点もあるなと思うし、古いものを新しく捉えていくのが新鮮だと思いました。
ーーSTART OF THE DAYでプレイは、シンガポールではどういう反応があったのでしょう?
ANECHOIS : 僕たち自身もそうなんですけど、新しい音楽に触れるにあたって批評的な人が多かったんです。実をいうと、最初にSTART OF THE DAYの音源を聴いてもピンとこなかったんですよ。でも、ライヴステージから離れたところでぼんやり聴いてみたら、「あれ? なんか違うぞ」って。気になって見にいったら、なんてすごいバンドなんだ!! と思って。そういう段階を踏んで好きになっていきました。バックステージでもファンが出待ちをしていて、挨拶するのも並ばなきゃいけないくらいの人気があります。
ーー逆にANECHOISのみなさんから、日本の音楽について質問はありますか?
ANECHOIS : 今回対バンしたバンドも全員演奏のスキルが高かったんですけど、ライヴをするまでに一体どれだけ練習しているのか知りたいです。
Yuya : そうだなあ。個人差があるから難しいなあ…。
ーーちなみに、ANECHOISはどのくらい練習されていますか?
ANECHOIS : 週に1、2回、スタジオを2、3時間借りて練習するのが精一杯ですね。
Yuya : 日本のバンドもそれくらいですね。
Atsuko : ただ、私たちの場合だと、ほぼ1日近く使えるところがあって、そのかわり搬入搬出も自分たちでやっています。それをやることで、ライヴ会場での搬入排出もスムーズにいくような練習にもなってますね。ベースから、ドラムから、アンプから、全部持ち込んで、12時~20時までとか練習しています。ただ、それはイレギュラーだと思います。
アジアにもいいバンドがいるし、もっとアジアに目を向けてほしい
ーーすごくD.I.Y感が伝わってきていいですね(笑)。さっき、日本のバンドの演奏のレベルが高いという話が出ましたが、必ずしも演奏の上手い人が売れたり、大きくなっていくとは限らないと思うんですね。シンガポールにおいて、演奏スキルは、有名になったりとか活動していく中で、重要なものだと思いますか。
ANECHOIS : 演奏のスキルは別にそこまで重要ではなくて、いい曲が書けて、どれだけ真摯な音楽や、ファンたちが信頼をおけるような曲が書けるかかというところに、みんな重きを置いています。ただ、それをライヴ・ステージにあげたときに、ちゃんとできることは必要だから、技術も半分くらいは必要だよね。
Tatsuya : そうはいっても、ANECHOISの技術はトップクラスだと思いますよ。
Atsuko : さっき真摯な音楽っておっしゃってましたけど、まさにその通りの音楽をやっているなって感じるんですよ。渋谷WWWでのライヴだけじゃなく、地方公演でも、まったく言葉がわからないのに、自然と涙が出てきたりとか。日本で聴いている音楽とは全く違うけど、心に来るものがあった、すごく揺さぶられた、って意見をいただくので、言葉通りの音楽をやっているんじゃないかって思います。
Tatsuya : あと訊きたいんですけど、日本のバンドで、かっこいいと思うバンドはいますか?
ANECHOIS : toe、mouse on the keys、envy、LITE、START OF THE DAY、MONO、ベイビーメタル。アジカン…。
ーーおお、いろいろ知ってるんですね!! でもやっぱりインストものだったり、ポストロック的な要素が強いものが多いんですね。日本には東京以外にもそれぞれのシーンがあるんですけど、シンガポールには街ごとのシーンってありますか?
ANECHOIS : シンガポールは街が小さいので、地域ごとっていうのはなくて、みんなバンドを掛け持ちしながらやっています。
ーー海外アーティストも頻繁に来たりするんですか?
ANECHOIS : 最近ではビッグネームだけでなく、アメリカからハードコアのバンドが来たりとかもしてます。海外のバンドはよく来ますね。
ーー2組は韓国のバンドJIMMY JIMMYを加えた3組でコンピレーション作品『Yggdrasill 1』もリリースされていますよね。これはどういう意思が込められているんでしょう?
Tatsuya : アジアに出ていきたいって気持ちもありますし、アジアのコンピレーションってあんまりないんですよ。日本人はアメリカやヨーロッパのバンドばっかかっこいいと思ってるけど、それがイヤで。アジアにもいいバンドがいるし、もっとアジアに目を向けてほしいっていうのが強いですね。今回日本に連れて来てライヴをやってもらって、本当に成功だったと思っているんです。
Atsuko : アジアで音楽をやっていることに劣等感を持たずに、かっこいい音楽はかっこいいんだからって認めて、受け入れて、触れてほしいなっていうのがありますね。
Tatsuya : ANECHOISは、今後どういう方向に向かっていくんですか?
ANECHOIS : まず、アルバムのレコーディングを終えて、DVDのリリースをして、それが終わったらツアーをしたいです。あと、フィリピンのマニラでライヴをしたいですね。そして、また日本に帰って来たい。アジア・ツアーがしたいです。START OF THE DAYは、どういう方向に向かうんですか?
Yuya : 年内にアルバム・レコーディングをして、来年にアルバム・リリース。ツアーでアジアの国や、オーストラリアに行きたいです。あと、カナダも行きたいですね。
Atsuko : 本当に機会があれば、どこでも行きたいです。シンガポールに行ってANECHOISっていう素晴らしいバンドに出会えたので、他の国に行ったら、また素敵なバンドに出会えると思っています。もっと視野を広げてやっていきたいですね。
Yuya : 僕たちはいろんな国に行って、いろんなものを見たいっていう好奇心が強いので、そっちに時間とかお金を使いたいですね。
Atsuko : 最後に一つだけ聞かせてください。もっといい企画を考えるので、また日本に来ていただけますか?
ANECHOIS : あの… 今回よりもいいクオリティのものって、あるんでしょうか?
Atsuko : もちろんやります(笑)!! だからまた来てください。
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PROFILE
START OF THE DAY
「果てしなく続いていく海岸から、空へと向かう光の階段を登り、そこから見える景色は、とても優しくて、そして切なくて。だから僕たちはバトンを振り、メロディに思いを重ねる。ずっと、どこまでも」
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ANECHOIS
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