遂に最終回! レーベル・メイトを迎えた巨大座談会が開催!
kilk recordsによる連載企画「kilk records session」も、今回で最終回を迎える。2011年10月からスタートした本企画。レーベル・オーナーの森大地を中心に、様々なゲストとともに音楽業界に疑問を投げかけ、それに対する答えを探すために座談会を行ってきた。アーティストたちによる女子会、レーベル座談会、ライヴ・ハウス座談会、CDショップ座談会、オーガナイザー座談会と、kilk records以外の方々をメインにご登場いただき、音楽を巡る環境について考えてきた。
最終回となる今回は、外からではなく、内から音楽について考えよう、ということで、kilk recordsに所属しているアーティスト9バンドからそれぞれ代表9名をお呼びして座談会を行った。こんなに多く集まって、座談会になるのか。そんな筆者の心配をよそに、アーティスト同士、疑問に思っていることや自分の考えを述べてくれた。何より心強かったのは、音楽の話になると、止まることなく話し続けるその姿勢だった。音楽を巡る環境がいかに変わろうと、その中心にいるミュージシャンの熱がさめない限り、kilk recordsは快進撃を続けるだろう。連載は最終回かもしれないが、kilk recordsの道のりは、まだまだ始まったばかり。彼らの声に耳を傾けてほしい。
進行&文 : 西澤裕郎
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総勢44組が客演で参加しているhydrantの新作
hydrant house purport rife on sleepy / many of these memories of the sun, and increasin' gratitude
様々なサウンドをミックスさせたサウンドが特徴的なkilk records所属のhydrant house purport rife on sleepyがセカンド・アルバムを完成! ゲストにカヒミ・カリィ、Fragment、aoki laska、米盛つぐみ(TINGARA、ex.りんけんばんど)、Limited Express(has gone?)、Aureole、ハチスノイト(夢中夢)など、総勢44組を迎えた2枚組のセカンド・アルバム。
【配信価格】
mp3 単曲 150円 / アルバム 1,800円
wav 単曲 200円 / アルバム 2,200円
Aureoleの新作を高音質で!
Aureole / Reincarnation(HQD ver.)
Aureoleの通算3枚目となる最新アルバム『Reincarnation』。オルタナティブロック、エレクトロニカ、現代音楽、アンビエント、ダブ・ステップ、ポスト・ロック、クラシックやシューゲイザーなど様々な要素を飲み込み、前作2作から、より進化を遂げたキャリア最高作。『Reincarnation』=再生、輪廻と題された今作では前世、現世、来世、生、死をテーマに、その先の希望に満ち溢れるアルバム。
【配信価格】
mp3、wav 単曲 150円 / アルバム 1,500円
HQD(24bit/48kHz) 単曲 200円 / アルバム 1,800円
15曲を収録! フリー・サンプラーが手に入るのはOTOTOYだけ!
VA / kilk records sampler summer 2012
【参加アーティスト】
Aureole、cellzcellar、Tie These Hands、nemlino、bronbaba、Manuok、Meme、Stripmall Architecture、Yagya、Speaker Gain Teardrop、虚弱。、Glaschelim、Hydrant House Purport Rife On Sleepy、Lööf、Gamine
artwork : 武田政弘(OTOnO)
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レーベル・メイト9名が参加した座談会
参加メンバー : 森大地(Aureole / Magdala)、Mitsugu Suzuki(cellz cellar)、中澤恵介(Meme)、金井晋作(nemlino)
長塚大地(sundelay)、yawn of sleepy(hydrant house purport rife on sleepy)、ハチスノイト(Magdala / 夢中夢)、Yasuto Koibuchi(Lööf)、西方龍(Bronbaba)
——kilk recordsの連載を10回に渡りOTOTOYで行ってきましたが、今回が最終回ということになりました。人数が多いので、まずは皆さんお一人ずつ自己紹介をお願いします。
森大地(以下、森) : kilk records代表の森です。
Mitsugu Suzuki(以下、Suzuki) : cellz cellarの鈴木と申します。基本的にはソロ・ユニットで、ギターを弾いて打ち込みをして、全部一人でやっているんですけど、ボーカルだけは色々な人とコラボする形でやっています。音楽性は、自分でも一言で言い表せない雑多な感じがあるんですけど、レトロな雰囲気を感じさせつつ、あまり音色だけに頼らないような、しっかりとした曲を作りたいと思っています。
中澤恵介(以下、中澤) : Memeという三人組のバンドのボーカル、ギター、キーボードとか、色々やっている中澤と申します。音楽性はよく北欧っぽいと言われるんですけど、本人達はリヴァーブを使っているだけで、実際には北欧の音楽はあまりよくわからなくて。そんな感じらしいです(笑)。
金井晋作(以下、金井) : nemlinoの金井です。ベースをやっていますが主にメンバーの取り締まりをしています(笑) 。バンドは、綺麗な音とか汚い音とかを織り交ぜつつ、バンド・サウンドに拘った歌モノみたいなことをしています。大体そんな感じです。
長塚大地(以下、長塚) : sundelayのギター、その他雑用をやっている長塚です。音楽性はロック・バンドですね。インストゥルメンタルなんですけども、特に何もないですね。そんな大したものじゃないです。
yawn of sleepy(以下、yawn) : hydrant house purport rife on sleepyのyawn of sleepyです。よろしくお願いします。
ハチスノイト(以下、ハチス) : 12月5日にMagdalaという大地君との2人ユニットでCDを出すハチスノイトです。同時に夢中夢というバンドのボーカルをやっています。私はボーカルなので、音楽性ではないではないですが、声色がいっぱいあるってよく言われます。私も自分自身、声で遊ぶのがすごく好きなので、ファルセットを使ったり、地声の低い感じでも歌うし、元々民族音楽がすごく好きだったのでそういう歌い方もするし、ポエトリー・リーディングもするし、ソロでは自分の声だけを重ねて作って賛美歌のようにしてみたり。自分の声を使って遊ぶのが好きです。その中から聴く人が色んな世界を見てくれたらいいなと思っています。
Yasuto Koibuchi(以下、Koibuchi) : LööfのKoiubuchiと申します。Lööfは初めはボーカルと自分の二人組だったんですけど、最近ベースが加入したりして、バンドになったかなって感じです。音楽性としては、よく北欧系とか言われるんですけど、意識してやってるわけじゃなくて、自然とそうなっている感じです。
西方龍(以下、西方) : 浮いてしまう僕です。よろしくお願いします。
音楽に対する感情ってどれが最強だと思いますか?(西方)
——これまでの連載では、森さんと外部の方の対談を通して、kilk recordsを浮かび上がらせてきました。そこで、今回は内側にいる皆さんがkilk recordsに対して、どういったイメージを持っているのかということをお聞きしたいと思っています。
yawn : なんだろうな。まだ、みんなやりながら探しているところもあるだろうし… と思うんだけれど、どうでしょう?
中澤 : それぞれやっている音楽は違うんですけど、一貫してストイックな感じはありますね。どこか「ここは譲れねえ」みたいなところがあって。みんないい意味で頑固というか、音楽的にストイックというか。
西方 : ストイックだっていうのは少し違うと思う。精神性の面で自分を高めているというよりは、情報を集めるのにストイックなだけで。どんなレーベルかって聞かれると、kilk recordsは回転が速いレーベルなんじゃないですか。
森 : それは念頭に置いているかな。時代が俺らに追いつけないって考えになっちゃったらおしまいだと思っていて。時代の流れを見つつ、その中でいかに成功させるかっていうのを考えないといけないと思っています。
西方 : 例えば虚弱。は、あのに時期に出したからかっこよかった。一番おいしいタイミングで“バッ! ”と出す。
森 : そうだね。音楽業界は1年後、2年後の動きを完璧に予測するのは難しくて。時代ごとに新しいサービスも色々生まれるだろうし、それに乗じて常に変化していかなければならないと思う。そのときのベストなアイデアを試すけど、多分一ヶ月後にはもう有効じゃなくて。常にそのときのベストをやればいいと思っています。
西方 : 歴史がないんですよ。出来て、まだ日が浅いからアンティークになっていない。アンティーク好きって沢山いるから新品は嫌われちゃうところがあるんですよね。頑張り時ですね。
——今は種を蒔いている段階なんですね。他のみなさんは「脂が乗ってる」じゃないですけど、出すべき時にちゃんと見つけて出してくれたみたいな実感はありますか?
Suzuki : 僕なんか、商品価値で言ったら虚弱。の十万分の一みたいな感じなのでビックリしましたね(笑)。こんなおっさん一人ユニットに目をつけてくれたのはすごく光栄なことでした。kilk recordsの魅力は不確定要素だと思います。次はどんなの出してくれるんだろうっていう期待感。自分がレーベルにいながらにして、森さんがどんなのを見つけてくるのか楽しみにしてるところがありますね。
——金井さんはどうですか?
金井 : 特に感じてはいないんですけど、みんなそれぞれ個が強い故に、ストイックなんじゃないかと思いますね。かつ、外交面が上手くない人が多いのかなっていう匂いがするんですよね。だから、外部との情報交換が極端に少ない人が多いんじゃないかと思っていて。だからこそストイックに見えるし、ある種独特だったりするのかなと思います。
——金井さん自身も外交面がそんなに得意じゃないんですか?
金井 : そんなに得意じゃないと思いますよ(笑)。でも、みなさん、あまり友達多い人はいなさそうだなって(笑)。
——長塚さんが頷いていますが(笑)。
長塚 : 友達少ないんですよねえ。さらに、ストイックでもないですし。面倒臭がりなんで、外交的なことも面倒臭くなる。声がかかったのは、もう死ぬ寸前みたいな感じでしたね。年齢的にも、あのとき38か9くらいの時でしたし。だからびっくりしましたね。
西方 : すごくかっこいいと思いますよ。
長塚 : 本当ですか? いやあ、いつもみなさんを見てて俺がいていいのかなって。
西方 : かっこいいですよ。
ハチス : 私も大好き。
長塚 : 本当ですか? それだったらちょっと頑張って次出します!
一同 : (笑)。
——Koibuchiさんはどうですか?
Koibuchi : 自分が声をかけていただいた時は、まだ設立間もない感じで。話を聞いたら、森さんは真剣にレーベルで食べていくことを考えている人だってことがわかって。Lööfはまさに種から育ててもらってる状態で。CDを出すってのはずっと音楽をやっていての夢だったんですけど、諦めかけていた時にちょうど声をかけていただいて。
森 : 最近、Fragmentと話していたのは、純粋な音楽好きとしての気持ちとはまた別に、こいつ見返してやろうみたいな精神がすごい強いって。自分たちを見下してきた奴のリストを俺の中で書いていて、その人達を見返してやろうっていう気持ちがすごくあるんですよ(笑)。Rage Against The Machineじゃないですけど、怒りのパワーって強いなって思って。いや、それが良いかは別として。少なくとも自分ではそれを嫌な面で使っているわけじゃなくて、本当にプラスな面で使っていて。
西方 : 今話に出ましたけども音楽に対する感情ってどれが最強だと思いますか? 怒り? 悲しみ? 嬉しい? 楽しい? 笑える? どれが最強だと思いますか?
金井 : その最強っていうのは、自分的になのか、トータル的になのか。
西方 : 最強って言葉の定義はつけないほうがいいんじゃないですか?
中澤 : 例えば自分なんか、イライラしているときとか、個人的にムカムカしてる負の感情で聞いても、全然楽しめないんですよ。ということは、やっぱり作っているときも、そうゆうことを処理した上でだったらいいけれど、怒っている最中に作るってことはまず自分はできないんで。
西方 : 冷静なんですかね?
中澤 : 逆ですね。
西方 : 熱いんですか?
中澤 : 冷静になってないと作れないから、そういう時には作れないんです。なんて言ったらいいのかな。
西方 : そこの気持ちをバッと乗っけるんじゃなくて、一回整理をして、形にするってことですか? それは感情的には何?
中澤 : 感情は先にあるんですけど、それをちゃんと作れる段階まで冷まして…。
西方 : そのトータルの感情って何なんですかね? その一連の流れっていうか、全部を通して。まず熱い気持ちを冷静にするっていう感情は何ですかね?
中澤 : 音楽を作るのに、熱いままだと、自分は作れないんで。何を作ってるのか分からなくなっちゃうし。後で聴いた時に、絶対嫌なんですよ。こんなん作っちゃったよってなっちゃうのが絶対嫌なので。
西方 : ストイックですね。無感情ってことですか?
中澤 : そうじゃなくて。怒ったときのことは覚えているじゃないですか、自分で。でも怒っている最中に、音楽を聴いたりとか、音楽を作ったりっていうのはできない。だから、怒ってたりとか、楽しい、悲しい、っていうのは、どういう感じなのかは思いだせるけど、思いだせる状態でしか作れないみたいな。
Suzuki : 再現するって感じ?
中澤 : そう、再現するために作る。
Suzuki : あと制作スタイルもあるんじゃないの? 頭きちゃってギターがつんてやれればいいけど、パソコンの電源を入れて、ソフト立ち上げている間に、落ち着いてきちゃうっていうか(笑)。その感情をまた呼び覚まして、みたいな。
yawn : 僕は最強で行くと、やっぱりじゃんけんみたいな感じだと思うよ。
西方 : じゃんけん?
yawn : 個人的に、僕のバンドは楽しきゃいいと思うよ。音楽なんて、たかが音楽でしょ? みたいなところがあるから。でも、作ったものを聴いてて、すげー怒ってる人とか、怒りが上手に込められているものを聴くとさ、やっぱり負けるじゃん? そっちのほうがストイックだし優れていると思う。けども、俺怒っている時に音楽聴くし、曲にも込めるんだけど、そうすると楽しい人達に負けるしね。
西方 : 勝ち負けにすると、好きの反対が負けになっちゃうじゃん? 嫌なものになっちゃうじゃん?
yawn : わかんねえよ。最強って言ったから言ったんだよ。押し引きがあるかなっ。
西方 : その通り。
ここにいる人みんな、音楽がライフ・ワークだと思う(koibuchi)
——今日の参加者の中で、ハチスさんは森さんとのユニット、magdalaで、これからリリースですが、一歩引いたところでkilk recordsっいうのはどう見えていますか?
ハチス : 私、経験しているレーベルが実は三つ目なんですよね。誤解を恐れずに言うと、kilk recordsはすごく泥臭いレーベルやなって思ってて。私はそこがすごい好きなんですよ。あったかい泥臭さなんですよね。冷たい計算されつくしたビジネスでもないし、かといってなんでもやっちゃえ! みたいなお祭り騒ぎでもなくて。大地君は、いいと思うものをひたすら泥臭くやり続ける人だと私は思ってる。その姿勢が一途だと思ってて。それが魅力として醸し出させるんじゃないかと思ってて。このレーベルなら自分を裏切らないだろうと思わせるというか。変な裏切りがないんですよね。人間っぽいレーベルだなとすごい感じてます。
森 : うちのアーティストはエレクトロニカ的でも、汚くてとげとげしかったり、攻撃的なんだけどアーティスティックだったり。どこのシーンにも入れそうで入れなかった人ばかりの気がするんですよね。だから多分ここの人たちは案外他レーベルに行ったら、いけすかない奴らだと思われる人も多いかもしれないですね(笑)。
——それが、さっき森さんが言っていた「あいつら見てろよ」みたいな部分に繋がるんですか?
森 : そうなんです。レーベルに対してだけじゃなく、全部のバンドに対して誰か俺悪口でも聞いたら、そのリストに加えますね。
一同 : (笑)。
西方 : でも、kilk recordsのブランドが強すぎて、バンドが頑張んないと悲しいことになっちゃいますよ。
yawn : 僕も思います。力あるんだから、もっとリリースできるはずだし。bronbabaとか僕らとか、nemlinoとか、もっとライヴできると思う。結局、ミュージシャンだから、音楽で相手がどういう奴か分かるじゃん。そこでしか信頼できないこともあるし、もっと聴きたいし。
西方 : 僕は、リスナーは過去の自分だと思ってる。そこに発信している。みなさんは、どこに向けていますか?
yawn : 俺それ結構ある。過去の自分。
西方 : 同じ?
yawn : みんなそれあるぜ多分。今回ね、カヒミ・カリィさんにゲストで作品に入ってもらったんだけど、高校生の自分に聴かせてやりてぇもん。「ほら」って。
西方 : でもね、真剣に思うんですよ。bronbabaを、高校生の自分に聴かせると、良い方向に進まないんじゃないか、まずいんじゃないかって。
yawn : (笑)。それは龍くんの問題だけどね。
西方 : すごいびっくりしてます。ファンがいて、好きになってくれて、気持ちが自分と同じようになっちゃうと思ってないでしょ? でも、そういうやつが出てきた。いや、マジで。過去の自分が出てきた。ソイツに今の自分の音楽をぶつけちゃうとヤバい。っていうすっげえ良いアルバムができたから次はどうしようかな…
金井 : CMうまいねぇ(笑)。
yawn : そういう話をもっとkilkはしてもいいと思うね。バンドなんだし突き詰めて、どんな感じで作ってるかもっと話してもいいし。
西方 : 音に感情は込められると思いますか?
中澤 : それは客観的にですか? それとも主観ですか?
西方 : 主観ですね。
中澤 : 主観だったらいくらでも。自分で昔の音源を聞いて、振り返るというか。やっぱり自分で作ってますからね。
西方 : 僕は魔法だと思っています。できればkilk recordsを「あいつらおかしいぞ。電気に気持ちを込められると思ってるぞ」って、公言できる集団にしたい。
中澤 : それぞれ感情を込めるやり方が違うから、こういうやり方を聞いても、ピンとこない人も多分いると思う。
yawn : でも今日けっこうヒントあるよ。kilkはこういうレーベルですよっていうのバラバラだし。そういうところkilkってまだまだだし、もっと密になってもいいよね。俺帰ったらメンバーに言うよ。「あいつら電気に感情込められると思ってるぜ」って(笑)。
森 : 俺側から聞きたいこともいいですか? たとえば、1年後、もっとCD売れなくなって50枚くらいしか売れないのが当たり前になってるとして。だとしたらどうします? CDを出し続けるか、ライヴをやるとか、音楽自体をやめちゃうとか、もっとこういうアイデアがあるとか。
中澤 : とりあえず、やめるっていう選択肢は想像できないっていうか。やめるっていうのがよく分からない。映像とやってる人たちと組んだりしているけど、作品として自分で聴きたいし見たいんですよ。だからそれが売れてても、売れてなくても作るものは作るし。音楽だけあれば生きていけるかって言われたら、自分はそうじゃなくて。音楽しかなかったら自分はつらいですね。映画とかないと辛いし。
yawn : 産業とした目線は、それじゃあまずいっていうのはある。
中澤 : 森さんが言ってるのは、そこから自分で売る発想を考えて自分で売るか、50枚なら50枚でいいから作り続けるかってことですか? やめるっていう選択肢はほぼないとして、そのまま続けるか、森さん側から、提案はできないってなった時に、自分でどう広めるかってことですよね?
森 : まあそういうことかな。かなりいい作品を作っても、売れなかったとき、それでも続けるっていうことの原動力はみんなどこにあるのかなっていう。俺はバンドマンとしての自分で考えても、そんな状況下だろうが、変わらず一人でも多くの人に感動してもらうための方法を、あくまで前向きに考えるんだと思うんだけど、みんなはどうなのかなって。
koibuchi : ここにいる人みんな、音楽がライフ・ワークだと思ってるんですよ。やめるんじゃなくて、一生続けるもんだと思ってやってると思うんですよ。だから自分はそれを続けるためにどうしていくかを考えてたりするんですよ。もちろん売れて、それが生活の足しになるのが一番いいと思うんですけど。
森 : ふーむ。
西方 : やめましょう。これ以上進めると、売れないバンドの文句になっちゃいます。
yawnn : 夢のある話したほうがいいね!
ハチス : 私は、そこには夢があると思っていて。売れへんのだったら売る方法を作れると思ってるんですよ。それが、わくわくするんですよ。売れる時代で売れるルートって決まってたら、それに乗るしかないけど、ないんやったら自分で考えられるじゃないですか。別にサラリーマンしたくないんやったら、せんかったらいいし、しない中で自分のいい生活を作る努力をすればいいだけの話で、その努力をするのが楽しいんですよ、私。
——森さんの話を聞いていて思ったのは、お金とか現実的な面を抱えているのは森さんであって、そういう作る以外の部分の視点も持ってくれよっていう意味なのかなって。
森 : そうですね。インディペンデント精神で時代を変えるくらいのパワーを持とうぜってかんじです。みんな売れないくらいでモチベーション下がったりしないで、自分達自身でその現状を変えていこうってことを言いたかったんですよ。予想より「こんな売れなかったか」って思ってる人もいるかもしれないけど、違うんだぞと。
西方 : 自信をもっていいんじゃないんですか、森さん自身が。
森 : いや、俺は自信持ってるよ。みんなでモチベーションあげていこうぜっていうこと。方法はいくらでもあるんだから。
西方 : 何が楽しくて音楽をやり続けてるんですかね?
長塚 : なんでやってるかっていうとですね、暇つぶし(笑)。もう他になにもないんです。暇が一番こわいんです。
一同 : (笑)。
長塚 : だからやめないですね。永遠にやってるんじゃないですか。さっき若い時の自分に聴かせるっていってたけど、僕なんか逆に100年後200年後の人に聴かせたいんだよね。より多くの人に届けて感動させてっていうのも多少あるんですけど、それよりも今俺が聴きたいんだよね。聴きたい音楽がないんですよ。聴きたい音楽がないから自分でやってる。それで経営とか言われると、何も言えないですね。
西方 : 金子くんとかそういうノリはあるよね。
yawn : あるけど、欲もあるよ。けど、正直ひまつぶしでやってることもある。あとやっぱりね、つっこみすぎちゃうと答えは出ないよね。
西方 : 俺は、こういうキャラクターになっちゃってますけど、そんなストイックじゃないし。だけど「俺は本当は違うんだよ」なんていう気もない。おもしろいですよね、遊び方が違って。森さんにちょっと聞きたいんですけど、メンバーって何ですか。今便利で、1人でなんでもできちゃいますよね。もはやいらないものになりつつあるメンバーって何なんですかね。俺は今のメンバーじゃなかったらbronbabaをやらない。集まって遊んでるだけのバンドなんだから。
森 : Aureoleに関しては、創造するものと表現するものを分けてるかもしれない。創造するものは別に全員である必要はなくて。創造するのは俺、表現するのは全員って感じかな。その6人でしかできない表現っていうのがあって、創造するのは別に6人じゃなくてもいいかなって。
中澤 : その表現は今のメンバーでないと出来ないですよね?
森 : もちろん。このメンバーの表現でなければ、今のライヴやレコーディングの音にはならないよね。
西方 : クラシックに近いんじゃないですか?
森 : でも、最初にこの表現者でやるって想像した上で作ってるから、クラシックの作曲家とは違うんだよね。しかも、曲を作った時点で完結せずに、そこからのより良くする仕上げはメンバーみんなで試行錯誤していっているし。各バンドに、それぞれのやり方があると思うけど。Magdalaは一緒に作ってたね。
西方 : ハチスさんはどうやって作っているんですか?
ハチス : ソロに関しては、その場で作っていますね。
西方 : 何故あのスタイルになったんですか?
ハチス : あれは苦肉の策なんです。夢中夢っていうバンドをやっているんですけど、メンバーがババっと同時に辞めてしまった時期があって、ライヴが出来ない状態になってしまったんですよ。それでも、どうしても自分はライヴをやりたいし、音楽を続けたかった。でも、私音楽理論も分からなければ、コードも分からないんですね。それで、ああやってひたすら即興で自分の声だけを重ねていく方法になったんです。「こんな和音の上にこんなメロディーがほしい」「ここでこんな声ネタが欲しい」「ここでこんなリーディングがほしい」と思ってひたすら重ねていったのが今のスタイルの始まりなんです。
西方 : 音って何ですかね?
yawn : 永々のテーマだね。波形だよね(笑)。
ハチス : さっき電子音に感情はのらないといっていましたけど、それは物理的なことであって、私はそう思わないんです。
西方 : 僕も乗ると思いますね。
長塚 : ギターでも、ピッキングのニュアンスで変わるじゃないですか。そういうことでしょ? 同じものでも、違う人が弾いたら違う音になるわけだし。
西方 : そう。
長塚 : 今はコンピューターを使えば、簡単に音が出来上がっちゃうじゃないですか? そこで、さっき森さんがいっていた「今の6人でなければいけない」っていうところ具体的に教えてほしいです。打ち込みを全部出来ちゃうわけですから。
森 : 面白かったのが、岡崎君が病気で休んでいる時に、岡崎君が弾いていた録音音源をPCに入れて、そこに岡崎君の使用しているエフェクターを繋いで、アンプに繋げてライヴをしたんですね。で、確かに岡崎竜太サウンドになったんです。でも、決定的ななにかが違うんです。誰の耳で聞いても明らかに音に魂がこもって無いというか。不思議な実験でしたね。
皆はこれからも、今迄通り良い音楽を作ってほしい(森)
——ちょっと話が変わるんですけど、kilk recordsが3年目を迎えている中で、皆さんは新人アーティストではなく、次のステップに進み始めていく時期にいると思うんですけど、これからの展望をどう考えていますか。
森 : 今まで以上にやりたいことをより鮮明に打ち出して、とことんやるべきかなと。さっきも言った通り、大事なのはインディペンデント精神だと思うんです。メジャーの力が衰えてきていて、インディーとの力の差が段々と少なくなってきている。もちろんメジャーを転覆させるのが最終目標ではないけど、お金やまやかしや昔からの巨大なしきたりが物を言うという不健全な業界でなく、良質な音楽をいかに公平に人々に伝える業界を自分達自身で作れるか。その具体的な行動をどれだけ起こせるかですよね。
西方 : メジャーから出している音楽は良質ですよ。
yawn : いや、どうだろう。森さんと始めて会ったのは3年前だと思うけど、その時に森さんが「どさくさに紛れてひっくり返したい」って言ってたんだけど、あれはすごいいいマインドだと思う。それを3年経っても言ってくれるのは、勇気出ますよ。
森 : みんな、意識してるかしてないかわからないけど、やっている音楽自体がインディペンデント精神と密接なものだと思うんだ。今の時代じゃなきゃ、こんな音楽は表に出れないと思うしね。
yawn : だから追い風なんですよ。
長塚 : もっとやっちゃっていいのかな?
yawn : 全然やるでしょ! あっ、生意気言ってすいません(笑)。
森 : その通りだよ。これまで以上に音にもインディペンデント魂はもっと見せつけていいかなって。
yawn : 絶対そうですよ。俺も2年間kilkと一緒に活動してきて、開き直れましたもん。インディーズって言われるとむかつくけど(笑)。インディペンデントだから。
中澤 : もっとバラバラに活動していってもいいんじゃなかって思いますけどね。
西方 : 皆それぞれ音楽がライフ・スタイルになっていて団結しているわけですから、バラバラではないんですよね。
中澤 : そうだね。聞いている方からしたらバラバラに聞こえるけど、プレイヤー側では同じ心意気ですよね。
yawn : 皆それぞれ違うバンドで活動しているじゃないですか? 正直、レーベル内で腹の探り合いもあると思うんだよね。“あいつ、いいな”とか、“俺、負けねえぞ”とか。そういう感情が邪魔をして、作品を聞いても“俺の方がいいな”って思ったりね。こっそり聞いたりして、かっこいいのに。“あいつ、かっこよくないよな”って言ったりしていたりね。だから、もっとオープンにして話していったほうがいいのかなって思ってる。もうちょっと仲良くていいのかなって(笑)。
西方 : これもそうなんじゃないか? マニュアルの存在を後ろに感じちゃって。このインタビューでも、“あーいえば、こーゆー”のやり取りが多くって。最初っから決められた質問に決められた答え。面白くない。
yawn : ダメ出しは後にしようよ(笑)。
西方 : そう。
中澤 : 他のレーベルはどうなんだろう?
西方 : kilkは横の繫がりをすごい大事にいているレーベルですよ。でも、俺らは仲良しこよしでやっているわけではないから。さっきのyawnの話じゃないけど、これだけ横の流れが強いと1つの我だったのが色が混ざってきて、原色ではなくなってしまうことがある。
ハチス : それは、レーベル・メイトを見ているうちに、ブレて行っているという意味?
西方 : nemlinoを聴いた。次は、ボーカル入れてみようかなって意識もせずに思っちゃうことがある。
yawn : でも、それは龍君的にはダメなことでしょ?
西方 : そう。
ハチス : 私はあまりそういうことはないので、ちょっとびっくり。もっと大きな枠で音楽を聴いた時に、これいいなって思ったりしません? ではなくて、レーベルの中に目が向いているということですか?
中澤 : 聞かざるをえないんですよ。
yawn : 気になっちゃうよね。
suzuki : 仲間であり、ライバルだよね。俺もhydrantに影響受けたもん。同じエフェクト処理をついやってしまったりね。ちょっと聞く耳が違うと思う。
yawn : 俺にとっても初めてのことだったから。それまではつるまないし、日本の音楽なんて… と思っていたからね。
suzuki : Aureoleを聞いた時も、異様な緊張感を持ってたりね。
中澤 : 俺は、どんな作品が出来上がってくるのかが単純に楽しみですけどね。ハチスさんは以前にもレーベルに所属していたからっていうのもあると思いますけど、そうではない人もいるんですよ。敵対心を持って比べるとか、慎重に聞くっていうわけではなく、CDショップに置いてある知らないアーティストの音源を聞くのとは違うんですよ。
yawn : 敵対心はあるよ(笑)。自分よりかっこいいことをやっている発見すると“クソっ”て思うよ。
金井 : それって聞く方がいいの? 聞かない方がいいの?
yawn : 聞く方がいいよ。閉ざしちゃったら好きにもなれないで終わっていくじゃん。何がいいかわからないし、それは馴れ合いで、kilkに入る前に海外でやっていた自分達からしたら生温いことかもしれないけどね。どうなんだろ?
中澤 : 聞く前は、“おっ! 聞いてみよう”って思いますけど、 聞いてからは海外のアーティストを聞く感覚と同じですけどね。
yawn : 俺は別々だね。知っている人の音源として聞くね。他の作品が、俺も知らないような世界で、魔法箱の中で作られている作品だと思ってる。でも、皆の作品は似たような環境で苦労しながら作っている作品だっていうのが分かるし、見えてきちゃうんだよね。色んな音楽の聞き方がある中で、この心の開き方は楽しいよ。まだ一年ちょっとだけど、凄い新鮮なんです。
中澤 : 後は、エンジニアをやっている人だと、また聞き方も違いますよね。エンジニアリングの部分で。環境は気になりますよね。
yawn : 技術は気にならないけど、もっと抽象的な意味で、これは暗い部屋で録ったんだなとか、都内のスタジオかなとかね。
西方 : 借金してぱっきぱっきのCDを作るっていう流れは終わったでしょ? 皆はこれからも、今迄通り良い音楽を作って。
yawn : 終わったね。それはダサイね。
——話はつきませんが、今日はkilk recordsのレーベル・メイトによる議論をお聞きできて、これからに一層期待というか希望を持たせていただきました。最後に、これから3周年を迎えるにあたっての想いを、森さんからお願いします。
森 : 最後に話が出た宅録などに代表されるツールの部分もインディペンデントの恩恵だし、他にもネットやSNSなど、世の中の便利なものがこちらの味方にもなってくれていると思うんです。一部の聴衆の“もっとこういう音楽が主流になればいいのに”っていう思いがだんだん現実に近づいてきている。いや、主流は言い過ぎだけど、少なくとも昔よりは日の目を見るようになってきている。これからは普段音楽を聞かないような人たちも、自然とアンダーグラウンドな音楽を耳にする機会が増えていくはずです。その上で自由に聞く音楽をチョイスできる。それは健全ですし、音楽がより純粋に評価される時代になっていくと思うんです。それはお金やものでは簡単には返ってこないかもしれないけれど、人気や評価として返ってくると思います。その評価を集めておけば、後にお金に変えられる。だから、活動していってほしいと思います。kilkのアーティストは、常にそうあってほしいと思います。
kilk recordsの連続企画「kilk records session」公開中!
kilk records session vol.1 野心の可能性
kilk records session vol.2 歌姫達の女子会
kilk records session vol.3 クロスオーバーの可能性
kilk records session vol.4 2012年レーベル座談会 レーベルの野心
kilk records session vol.5 2012年レーベル座談会 未来への野心
kilk records session vol.6 CDショップ座談会
kilk records session vol.7 ライヴ・ハウス座談会
kilk records session vol.8 Deep Moat Festival座談会
kilk records session vol.9 オーガナイザー座談会
森大地(Aureole)とハツスノイトの新ユニットが登場! MVも公開!
夢中夢のボーカル・ハチスノイトと、Aureoleのリーダー・森大地が結成した新バンド、Magdala。彼らが1stアルバム『Magdala』を12月5日(水)にリリースすることが決まった。教会音楽のように汚れのない楽曲から、迷宮のように複雑なミニマル・ミュージックまで、じつに多彩な楽曲を収録した今回のアルバム。ハチスノイトの歌声を最大限に生かした森大地の楽曲たちが、壊れそうなほど繊細な世界を構築している。ビョークとライヒが出会ったようなサウンドとも評されるMagdala。彼らの記念すべきデビュー・アルバムを、ぜひお聴き逃しなく。
発売日 : 2012年12月5日
配信形式 : mp3、wav、HQD
PROFILE
kilk records
2010年、Aureoleの森大地により設立。「精神に溶け込む、人生を変えてしまうほどの音楽との出会い」。kilk recordsはそういった体験を皆様にお届けすることを第一に考えております。オルタナティブ・ロック、ポスト・ロック、エレクトロニカ、テクノ、サイケデリック、プログレッシブ、フォーク、アヴァンギャルド、アンビエント、ヒップ・ホップ、ブレイクコア、インダストリアル、ジャズ、クラシカル、民族音楽... 。魂を震わせるような音楽であれば、ジャンルは一切問いません。kilk recordsが最もこだわりたい点は「独創性」です。信じられないほどの感動や興奮は「独創性」から生まれるように思えます。これから多数の作品をリリースしていきます。末永くkilk recordsにお付き合いくだされば幸いです。