新たなでんぱ組.incを提示した”とにかく大胆すぎる”ニュー・シングル『いのちのよろこび』
2019年4月10日夜、新体制後初となるニュー・シングル『いのちのよろこび』を6月26日にリリースすることとともに、想像を超えすぎた新ビジュアル公開のニュースで世間の度肝を抜いたでんぱ組.inc。令和初日の5月1日に古川未鈴 × もふくちゃん座談会を掲載したのち、5月26日に清 竜人が手がけた新曲『子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡』(レヴューはこちら)が突如配信リリースされ、そして満を持して『いのちのよろこび』のリリースを迎えた。新たなでんぱ組.incを提示した”とにかく大胆”でコントラストの異なる2曲を音楽評論家の宗像明将が紐解いた。
>>リリース記念 古川未鈴 × もふくちゃん座談会<<
明快な「いのちのよろこび」、曖昧模糊とした「形而上学的、魔法」
1898年、フランスの画家であるポール・ゴーギャンは、代表作「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」を仕上げると自殺を図った。愛娘の死、健康状態の悪化、経済的困窮。絵を完成させ、死のうとしたのは、南太平洋に浮かぶ島であるタヒチでのことだった。
でんぱ組.incのニュー・シングル『いのちのよろこび』が初披露されたのは、2019年3月から4月にかけての東名阪ツアー「我々はどこから来たのか? 我々はでんぱ組.incなのか、我々はどこへ行くのか 〜とりま東名阪〜」でのことだった。この段階での私は、ゴーギャンの作品名を冠したツアー・タイトルが何を意味するのかを知らない。
私が見た、2019年4月10日の渋谷TSUTAYA O-EAST公演のアンコールでは、アフロ・パーカッションと大道芸人が登場した。そして、アフリカ回帰を鮮明にした新曲が「いのちのよろこび」だった。
今までの路線とはあまりにも異なる「いのちのよろこび」をなぜ新曲としたのか? それは、でんぱ組.incの古川未鈴とプロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子)の対談記事でも述べられていたように、変化しようとする姿勢の表れだった。ゴーギャンがヨーロッパ文明から逃れるために、フランスから遠く離れたタヒチで創作活動をしたように。
「いのちのよろこび」は、アフロ路線と言っても、2019年元旦にリリースされたアルバム「ワレワレハデンパグミインクダ」のリード曲「太陽系観察中生命体」とはあまりにも違う。H ZETT Mが作編曲した「太陽系観察中生命体」は大胆なジャズファンクだった。
それに対して、玉屋2060%が作曲した「いのちのよろこび」は、あまりにもプリミティヴだ。アフリカン・ポリフォニーを模したイントロから、アフロ・パーカッションの連打へと展開し、笛を連想させる音色による無国籍なフレーズが鳴り響く。そして、随所でアフリカの民俗音楽を彷彿とさせるヴォーカル・スタイルが登場する。前述の対談では、もふくちゃんが「久しぶりにちょっと頭のおかしい曲を作った」と笑っていたが、「ちょっと」どころではない気もする。
「いのちのよろこび」とは「命の喜び」であり、鹿目凜と根本凪という新メンバーとの出会い、夢眠ねむとの別れを経て成長し、愛に目覚めたでんぱ組.incの姿を表現する。「W.W.D」のような内向的な楽曲とはあまりにもベクトルが違う。「針が振りきれている」とは、こういう状態のことだろう。
アフリカ志向でありながらも電波ソング、しかもスケールが大きいためにライヴ映えもする。「いのちのよろこび」のような楽曲を探すのはJ-POPでは難しく、実はアニメ音楽に行きあたるというのも、オタク文化に根ざすでんぱ組.incらしい。
「いのちのよろこび」のお披露目後に公開された新しいアーティスト写真はギャルメイクで、阿鼻叫喚を巻き起こした。ところが2019年5月25日に、清竜人作詞作曲による 「子▽丑▽寅▽卯▽辰▽巳▽」(▽=ハートマーク)「秋の葉の原っぱで」が突如配信リリースされると、さらに新しいアーティスト写真が公開された。ジャケットのアートワークを担当したのは、新鋭のエース明だ。
若手を起用しようという姿勢は、「いのちのよろこび」のカップリング「形而上学的、魔法」でも明確だ。作詞作曲は、高校1年生のミュージシャンである諭吉佳作/men。彼女はまだ15歳なのだ。
諭吉佳作/menが、「形而上学的、魔法」とともにでんぱ組.incに吹きこんでいる新風は大きく分けてふたつ。ひとつは、きわめて抽象的なイメージの連鎖による歌詞の世界。そしてもうひとつは、ユニゾンがなくソロの連なりによって構成するヴォーカルだ。結果として、「形而上学的、魔法」におけるでんぱ組.incはなまめかしい。佐野康夫のドラムを筆頭とするジャジーな演奏もそれに拍車をかける。
明快な「いのちのよろこび」と、曖昧模糊とした「形而上学的、魔法」。どちらも大胆すぎるほどに、新たなでんぱ組.incを提示することに成功しているのだ。(text by 宗像明将)
でんぱ組.inc DISCOGRAPHY
ALBUM
SINGLE
『でんぱーりーナイト』リリース記念! "初レゾ"体験! 特集ページはこちら
LIVE INFORMATION
でんぱ組.inc 全国ホールツアー 「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019」
6月26日(水)東京・オリンパスホール八王子
7月4日(木)福岡・福岡市民会館
7月6日(土)名古屋・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
8月12日(月・祝)札幌・札幌市教育文化会館
8月24日(土)金沢・本多の森ホール
8月28日(水)大阪・NHK大阪ホール
PROFILE
でんぱ組.inc
古川未鈴、相沢梨紗、成瀬瑛美、藤咲彩音、鹿目凛、根本凪、の6人組ユニットで、ディアステージに所属し、様々な活動を展開。メンバーはもともと、アニメ・漫画・ゲームなど、自分の趣味に特化したコアなオタクでもある! また、東京コレクションやミキオサカベをはじめとして、様々なクリエイターとのコラボレーションを活発に展開し、国内のみならず海外からも注目を集め、台北やジャカルタでのファッションイベントにも参加。さらに、2013年にはJAPAN EXPOに日本代表として出演。2014年度は東アジア文化都市2014横浜親善大使を務めた。TOY’S FACTORYの新レーベルMEME TOKYOに所属。マイナスからのスタートなめんな!というキャッチフレーズで話題になり2014年5月には日本武道館で1万人動員、2015年2月に国立競技場代々木第一体育館2days単独公演を大成功させた。シングル『あした地球がこなごなになっても』でミュージックチャート1位を獲得。2015年はワールドツアーも敢行。MTV「ワールド・ワイド・アクト賞」の日本部門「ベスト・ジャパン・アクト」のウィナーに。2016年12月21日にはベストアルバム『WWDBEST 〜電波良好!〜』をリリース。2017年1月に、アリーナツアー「幕神アリーナツアー2017 電波良好Wi-Fi完備!」6公演を開催、二度目となる日本武道館公演も行う。8月に、最上もが脱退。2017年12月30日「JOYSOUND presentsねぇもう一回きいて?宇宙を救うのはやっぱり、でんぱ組.inc!」大阪城ホール公演で、鹿目凛、根本凪が加入し、2018年4月4日に7人体制となって初のシングル「おやすみポラリスさよならパラレルワールド/ギラメタスでんぱスターズ」をリリース。2019年1月1日に7人体制初のアルバム「ワレワレハデンパグミインクダ」をリリース。1月6日と7日で日本武道館公演2days(二日間で約2万人動員)を開催。1月7日『でんぱ組.inc コスモツアー 2019 in ⽇本武道館 夢眠ねむ卒業公演 ~新たなる旅⽴ち~』で夢眠ねむはでんぱ組.incから卒業した。