ゴキゲンなアークティック・サウンド!
Arctic Monkeys / Suck It and See
UKを代表するモンスター・バンドへと成長を遂げたアークティック・モンキーズの4thアルバムが到着。本作はシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・フォードをプロデューサーに迎え、ロサンゼルスの伝統的なスタジオ=サウンド・シティ・スタジオ(ニルヴァーナ、マイケル・ジャクソン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ等が過去にレコーディング)にて制作された。リリースの度にサウンドを進化させ、世界中を驚嘆させる彼らが本作でふたたびロック史を塗り替える。
「うまくいくかどうか試してみよう」
周りの期待がどれだけ大きくなろうが、それに飲まれてしまうことなくマイペースに活動を続けているバンドとして、アークティック・モンキーズの立ち位置は変わらない。4作目となる『SUCK IT AND SEE』においてもそのマイペースぶりは健在で、次はこう来るだろうと期待をよせるメディアやリスナーなんておかまいなしに、自分たちの好きな音楽を作り上げてしまった。これまでのリフ主体な曲は影をひそめ、ロマンティックに溢れた佳曲が並んでいる。特に8曲目以降の美しさは格別で、木漏れ日の中を颯爽と車で通り抜けていくようなキラメキを感じる。それらの楽曲は、アレックス・ターナー(vo、g)も認めているように、サンフランシスコのバンドGIRLSを想起させるし、今年リリースされたシャムキャッツの珠玉の名曲「渚」も思い起こさせる。その符合は決して偶然ではなくて、彼らが25歳前後であることは注目すべき理由の1つだろう。彼らは、既存のメディアの作ってきた音楽史観を持ち合わせつつも、YouTubeやtwitterなどを抵抗なく受け入れる柔軟さも持っている。メディアの作ってきた固定観念やジャンルに縛られず、ネット上という垣根のないグローバルな感覚も当たり前に持ちながら音楽を作っている。アレックスにしてもマット・ヘルダース(dr)にしても、10代の頃はヒップホップに傾倒していたというし、2000年代前半におこったロックンロール・リバイバルに触発されてギターを始めたという身の軽さも、アークティック・モンキーズの音楽を魅力的にしている。
今作で明らかに変化しているのは、ヒップホップの感覚が薄くなって、ソング・ライティング中心のポップ・ソングがアルバムの核を担っていることである。前作『HUMBUG』では、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのジョシュア・オムと共に、ヘビーで重低音の効いたヘヴィな楽曲を作りあげていたものの、母音にアクセントを置いたラップ調の歌い方はまだ健在だった。今作においてそうした歌い方はより影を潜め、アクセント以上にメロディとして言葉を機能させる曲が増えた。結果として、そうした歌い方も風通しのよいポップ・ソングの完成に一役買っている。
また、アークティック・モンキーズを語る上で外せないのは、アレックスの書く歌詞の文学性の高さである。1stアルバムでは、イギリスの郊外都市で生きる退屈な日常を描写して、同じような日々を送る若者たちの共感をえた。歌詞が手元にないのではっきりしたことは言えないけれど、そうした具体的で経験的な描写は減りつつあるようだ。いくつかのインタビューでアレックスが明言しているけれど、カントリー音楽からの影響というのも匂わせていて、具体的な情景を描くというよりも、1人の人間の感情だったり内面を描くようになっている。
つまり、デビュー当時から現在に至るにあたって、楽曲にしても歌詞にしても、具体的なものから抽象的で普遍的な曲作りにシフトしてきている。本人が意識的であるかどうかはわからないけれど、デビューして以来マイペースに興味に従って作り上げられてきた音楽が、誰にでも通じる普遍的なものに変化しているのは興味深い。言うこともないかもしれないけれど、これまでのアークティック・モンキーズへの先入観は捨てて聴いてほしい。周りの声や環境に左右されずに、自分たちの興味に従って音楽を作り続けるアークティック・モンキーズは、このまま沢山のポップスを量産していくかもしれないし、もしかしたら聴き手が予期しない冒険的な作風を試してくるかもしれない。ただ、彼らのマイペースな感覚で自由な音楽を奏でてくれることだけははっきりしている。(text by 西澤裕郎)
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PROFILE
2002年、アレックス・ターナー(Vo&G)、ジェイミー・クック(G)、アンディ・ニコルソン(B)とマット・ヘルダース(Ds)で結成。2006年1月にデビュー・アルバム『Whatever People Say I Am,That's What I'm Not』をリリースすると、イギリスはもちろんヨーロッパ各国でアルバム・チャート初登場第一位を獲得する。ここ日本でもオリコン洋楽チャート第1位/総合9位に初登場し、ゴールドディスクを獲得する大ヒットに。当時、全英国音楽史上最速売上デビュー・アルバム記録を更新したこのアルバムは、世界で約200万枚を売上げ、数えきれないほどの音楽賞を受賞する。2007年4月、満を持してセカンド・アルバム『 Favourite Worst Nightmare』をリリース。同年夏には英国最大級フェスティバルであるグラストンベリーのヘッドライナーを務め、日本のサマーソニック・フェスティバルでは史上最年少&デビュー最速でヘッドライナーに抜擢された。2009年8月、サード・アルバム『Humbug』をリリース。そして、グラストンベリーと並ぶ英国最大級フェスティバルであるレディングのヘッドライナーを務め、ここ日本では10月に日本武道館単独公演を行った。