us『QUARTZ』インタビュー
2007年に結成された、キャッチーなメロディと高音の英語ヴォーカルが特徴的な、4人編成のエレクトロニカ・バンド、us(アス)。4人はもともとの知り合いという訳ではなく、音楽を通して様々な形で出逢ったという。曲作りは、基本的にデータなどでやりとりをしており、トラック制作、歌詞の作成、ウワモノ作り、それを磨き上げることは、各担当が個人で行っている。普段はあまり会ったり、呑みにいったりもすることがないというが、4人と対面するとそんなたどたどしさはなく、バンドとして絶妙なバランスがとれているようであった。それは、それぞれが自分が目指している半歩先の音楽を共有し、新しい音楽を掴まえようとしているからなのだろう。エレクトロニカのようでいてその半歩先を行っているusの楽曲は、この4人だからこそ完成した作品といって間違いない。1週間振りに集まったという及川創介、大崎翔太、タダヒロヤス、土屋夏海の4人にじっくりと話を訊いた。
インタビュー&文 : 西澤裕郎
us / QUARTZ 結成から5年、試行錯誤を繰り返し育まれたバンドの個性と、その多様性が存分に詰め込まれた1stアルバム。一曲一曲が強烈な個性を持ちながら、普遍的なメロディーを内包している。エレクトロニカを表現の基盤としながらも、”歌”を重視した本作は、多くのリスナーに受け入れられることだろう。
1. enterlude / 2. harmonograph / 3. marble / 4. r2 / 5. progress / 6. labor / 7. melodies / 8. r2 / hiroyasu tada remix / 9. melodies / sosuke oikawa remix / 10. melodies / off vocal version
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ベクトルが違うからこそ、お互い目に入らないものを持ってこれる
――もともと、この4人はどのように知り合ったんでしょう。
及川創介(キーボード / 以下、創介) : (大崎)翔太とは同級生だったんです。タダ(ヒロヤス)ちゃんは、実の弟と「楽心」というユニットをやっていたこともあって知り合いました。なっちゃん(土屋夏海)とは音大の夏期講習で知り合って、仲良くなって打ち込みを教えてもらったんです。
大崎翔太(ヴォーカル / 以下、翔太) : だから、一気に集まってバンドになったわけじゃなくて、最初は創介が作ったトラックに俺が歌詞を乗せて歌っていたんです。それを続けていくうちに、2人が入ったらもっと心強いってことで加入してもらった形ですね。
――始めから明確にやりたい方向性を持っていたんですか。
創介 : 始めたときは、プチプチ系のノイズが入るエレクトロニカをバンドでやってみたかったので、それもあってタダちゃんを誘ったんです。いいよとは言われたものの、最初は俺の作った音に納得してもらえなくて。
タダヒロヤス(ギター / 以下、タダ) : 別に納得しなかったわけじゃないんですけど、自分が聴きたい音楽じゃなかったんです。やるからには自分が好きになれる要素をねじ込んで、自分でも納得できるものにしたかった。僕がミックスも担当しているので、そのへんも意識しつつやろうと思ったんです。
――タダさんは、どういう部分が好きじゃなかったのでしょう。
タダ : 他の3人はRADIOHEADとBjörkが好きだったんですけど、僕は全然好きじゃなくて。資料的にCDは持っていたんですけど、ノイズとかエレクトロニカが好きで、SKETCH SHOWとかAphex Twinを聴いていたので、エレクトロニカのイメージはすぐに出来たんですけど。もともとノイジーなものが好きだったので、想像しているものとはちょっと違ったんです。
――タダさんが入ったことによって、usの音楽自体にも変化があったのではないかと思います。翔太さんは、タダさんの作る音楽的要素をどのように感じましたか。
翔太 : タダちゃんの音は衝撃的でしたね。創介はキレイに作るんですよ。それに対して、タダちゃんはダーティっていうか生生しい。ノイズにしても何にしてもケバさがある。そういう音が入ってきたので、随分色が変わるって印象でしたね。
――お互いの表現の特徴が混ざったことで、新しいものが生まれたわけですね。
創介 : それもあるかもしれないですね。そのとき俺は、浄化みたいなキレイな音楽が好きだったんです(笑)。でも、タダちゃんの音は全然浄化ではない。自分のイメージとは違うと思った時期もありましたけど、聴いているうちにだんだん格好いいと思ってきて、今は大好きになりました(笑)。
――夏海さんは、どういう部分を担当しているんですか。
創介 : なっちゃんは音楽的な知識があるので、楽曲面で細かいところまでサポートしてくれています。あと、バンドを動かすっていう意味でのマネージメント部分で大きく関わってくれていますね。HPの管理とか、まったく僕らが出来ないところをがんばってくれています。
――それぞれの役割が決まっているんですね。
タダ : そうですね。分業ですね。
――とはいえ、サウンド面でのベクトルが合っているからこそ、繋がっているのかなと思うのですが、それぞれの向いている音楽的な方向性は近かったんでしょうか。
創介 : 新しいもの、おもしろいものをやっていこうって部分で共通はしているんですけど、ベクトルはみんなバラバラだと思います。特に、俺とタダちゃんは結構好みが離れているので。新しいものを求めてはいるんですけど方向性は違うかな。
タダ : ベクトルが違うからこそ、お互い目に入らないものを持ってこれると思うんです。そう来たかーっていう驚きがある。全員が同じ方向を見ていたら、やっぱりそれかみたいに予定調和になっちゃうんで。それぞれが違う畑に行って、違う野菜をとってきたほうが面白いですよね。
――確かにその通りですね。不思議なのは、昔からの仲間でバンドを組んでいるわけでもなければ、音楽の趣味が一致しているわけでもないのに、この4人がバンドとして続いていることですよね。この4人を繋いでいるものって何だと思いますか。
タダ : それは、全員がusの音をおもしろく感じられていることかな。
土屋夏海(キーボード/以下、夏海) : みんな育ってきた環境も触れてきた音楽も全然違うし、分担されているから基本的に個人プレーなんですよ。会わない期間もすごいあったりする。逆に、だからこそ続くのかもしれない。それがいい距離感を保っているのかもしれないですね。
タダ : あまり、対人間としての付き合いがあるわけでもないし、それを求めていないというか。仲が悪いわけではないし、むしろいい方なんですけど、それが音に反映されるわけでも、活動に反映されるわけでもないので。別に仲良しこよしの必要はないかなとも思うんですよね。
翔太 : ライヴにしても作品にしても、作ってきたものがありますから。出来あがったものが、みんながカッコいいって思うものになっているから続けられるんじゃないですかね。
タダ : なので、仲間意識とか絆みたいなものはないです。
一同 : (笑)
――4人でやる以上、自分の想いをすべて通すってことは難しいですよね。やりたいことを妥協することもありますか?
創介 : 今回のアルバムに関して、俺はこうしたいって部分があったし、タダちゃんも引かないところはありましたけど、そこで頑固になって終わる感じではないんです。お互いぶつかりながらやりとりをして作っていって、結果的に自信を持てるものが出来る。そういう感じですね。
タダ : それは今更ほじくることでもないし、結果的にいいものが出来るまで話してやっているので、妥協っていうことでもないんです。
作りかけで渡しちゃう
――usの特徴の1つに、キレイなメロディ・ラインのボーカルが入っていることがあげられます。もともと、インストでやるという気持ちはなかったのでしょうか。
創介 : インストにしようとは思わなかったですね。うたが欲しかったんですよ。エレクトロニカをやりたいって言ったものの、当時、インストのエレクトロニカをほとんど聴いたことがない状態で言っていて、BjörkとMassive Attackくらいしか知らなかったんです。それもあって、インストの選択肢は俺の中になかったですね。
――歌詞を英語で書いているのはどうしてですか。
翔太 : 作曲者(創介)の意図を考えると、日本語が乗っているのを想像できなかったんです。とはいえ、自分が考えていることが英語で100%書き表せているのかというと判断が難しくて、日本語で書いたほうがいいんじゃないかって思った時期もあります。もちろん英語で書くことの利点もあって、無駄なものが削がれるんですよ。日本語って言葉的に無駄なものをくっつけることも多いから、逆に本来伝えたいことが分からなくなったりする。それに比べると、英語は無駄なものがない。むしろ、少ない言葉数の中でどれだけ込められるかとか、シンプルに出来るかに従事できるので、逆にいいんじゃないかって思っています。
――翔太さんは、歌詞を書くにあたってメッセージのようなものを意識しますか。
翔太 : うーん。あまり聴いた人に、こういう風に思ってほしいって書き方はしていないですね。あくまで、その楽曲を聴いて自分が思い描いたもの、感じたことを書き連ねているだけです。ただ、歌詞だけで読んでもいいものであってほしいので、CDの歌詞カードにも日本語訳を同等の大きさで載せてもらっています。曲を聴きながら、日本語になっている歌詞を読んで、曲への解釈が深まってくれるなら本望だなって。
――なるほど。先ほど、楽曲面の細かいところで夏海さんがサポートしているとおっしゃっていましたが、どういうことをされているんでしょう。
創介 : なっちゃんは、出来上がったものに対してジャッジする部分ですね。
タダ : 理論的な部分を担当してくれているんです。僕は感覚で音をつけていくんですけど、時折おかしいぞって思う部分が出てくるので、そこを修正してもらったり、エンジニア的な仕事もしてもらっています。ミックスに関してもアドバイスをくれたり、歌に関しても先生をしてくれていて。曲に何かを乗せるっていうお仕事じゃなくて、楽曲を磨いていくという大役ですね。
夏海 : そうちゃんとかタダちゃんが作る音を聴くと、クラシックの理論上ぶつかっている音が結構あって、すごく気になるんです。でも、2人はそれで大丈夫って思っているし、それが好きな人もいると思うから、これは絶対無理ってときだけ言いますね。指摘しても「これで大丈夫」って言うときは、何かあるのかなと思ってOKにすることもあります。私は、聴こえる感覚がクラシック寄りなので、めちゃめちゃキレイな和音とか和声じゃないと気になることが他の人より多いんですよ。
――感覚で聴いている人にとって、そこは分からないと思うんですけど、夏海さんは分かる分、気になることも多いと思います。どこまで直していこうかって線引きはどうしているんでしょう。
夏海 : 私は音源を一番最後にもらって聴くんです。他に何もない状態で聴いてみて、おかしいと思った箇所をチェックしてから、2回目に聴いて気にならなかったらOKにしています。何でおかしくなったのか細かいところまで見たり、いろいろ考えた結果、わざとだなって思えるものに関しては結構OKにしてます。狙わないでOKにしているのが一番よくないと思っているので、そこに狙いが見えるのであればOKにしていますね。
――ここまで分業でやって上手くいっているのは、おもしろいですね。
翔太 : 曲を作っている間、ほとんど会わないですからね。基本的にレコーディング以外の部分は全部個々でやっていますね。
タダ : だから、キャッチボールじゃないですね。パスですね。
一同 : (笑)
夏海 : 確かに(笑)。そうちゃんは時々、分からなくなったからパスすることとかあるよね。
創介 : 思っていたリズムを入れてみたら全然格好よくなくて、「タダちゃん、ごめん」って言って渡してみたら、格好よくなるってこともあります。ちょっと悔しいんですけどね(笑)。
翔太 : usは結成して5年ですけど、そういう信頼関係が出来上がっていて、パスを出しても大丈夫という安心感がお互いにあるんです。だから、今は創介も作りかけで渡しちゃうってことが出来るんだと思います。
タダ : 最近はもらうトラックの音数が少ないので、僕に来た段階で音が一気に増えるんです。昔は逆で、あまり入れるところがないから、ほとんどミックスするって感じだった。要するに、もらった時点で、この曲はいいか悪いかジャッジできるくらいにシンプルなんです。そういうジャッジが出来ているので、その曲を飾る装飾をどうしようかってところから始まっていきます。この1年ぐらいは随分届けられる音数が少なくなったなと思いますね。
創介 : それは、3年目くらいに、タダちゃんは俺が作れない音を出していることに気づいたからで。すごく悔しかったんですけど、俺のエゴだけじゃusはよくならないから、タダちゃんの力を借りなきゃダメだと思ったんですよね。俺的にはすごく悔しいんですよ。自分でも作れるようにしたいんですけど、タダちゃんの音は独特すぎて、俺には出せないんですよね。タダちゃんの作るサイケデリックな要素っていうのは俺が出せない部分だし、usの象徴的な音でもあるんです。
タダ : 追いつかれちゃったら自分の立場がなくなりますからね(笑)。
――いい意味でバンド内で競い合って、それぞれが伸びているのかもしれないですね。タダさんは創介さんの音を初めて聴いたときどう感じたか覚えていますか。
タダ : 彼が19歳のときに作ったデモを聴いたんですけど、自分が19のときだったらこんな音楽作れなかったなっていう衝撃と挫折感みたいなものを覚えたんです。19歳でこの段階だったら、俺の歳のときえらいことになるだろうなって思って、それまで面倒くさがっていたパソコンでの楽曲制作だったり、眠っていたシンセを引っ張ってきて使おうとか、意識が変わりました。そういう意味ではお互い刺激しあっていると思います。同じような音を使ってもしょうがないから、創介が作れないものを俺が乗せていこうって感じでやっていますね。求められているものがある以上は答えていこうと。
――今作がデビュー・アルバムということになりますが、usにとってどういう作品だと思いますか。
翔太 : よく有りがちな言葉ですけど集大成だと思いますよ。7曲のミニ・アルバムですけど、今俺たちが出せる格好いいと思えるものが全部入っています。その時点での、全員がかっこいいと思える楽曲が全部入ったのが今回のアルバムですね。
夏海 : でも、本当は何百曲もあるんですよ。結局ボツだったり飽きちゃったりしていて。その中の生き残りです。
タダ : 珠玉のね(笑)。
創介 : そうですね。本当はもっと入れたかったんですけど、満足できるところまで待っていると、永遠に絶対によくなっていくからリリースできないと思ったんです。だから、今の時点での集大成だと思いますね。といいながら、最近またいい曲が出来たんですよ(笑)。
――常に新しいものが出来続けているわけですね。usの楽曲はノイズが入っていたり、細部へのこだわりを感じることが出来る反面、キャッチーさもあるから、多くの人に受け入れられるのではないかと思います。
タダ : 最初は、わりと玄人向けというかマニアックな要素が多くて、自分たちもそのつもりでやっていたんですけど、最近はメロが立つようになってきていて。音楽に詳しくない人でも、うたが入っていれば一番耳に入るし、そこがキャッチーだったら、ノイズが乗っていたとしても伝わるんじゃないかと思っています。ポスト・ロック、エレクトロニカを聴いている人たちは耳馴染みがいいものですし、それ以外の歌ものを聴く人にもひっかかるんじゃないかと。
創介 : エレクトロニカ・シーンって飽和しちゃっていて、メロディ・ラインがキャッチーだったりポップだったり、何か特別なものがないと目につかないんですよね。usは歌を一番出したいバンド。日本のエレクトロニカ・シーンでも、アンビエントよりになる人が多い中で、しっかりと歌を出すってところが逆に新しいのかなとも思っているので、今回の7曲はそういう感じでやっています。色んな人たちに聴いてほしいですね。
タダ : いい意味で、何かよくわからない音楽って言えるかなと思っています。エレクトロニカ、ポストロック、シューゲイザーっぽい音楽だよねって納得できちゃう音楽だったらおもしろくないし、やっていても意味がないから、ジャンルに対する反骨精神みたいな部分も多少はあります。括られること自体は気にしていないんですけど、自分たちからそういう道に進む必要はないんで。そういうことをやる人が星の数ほどいる中で、自分たちの強みを出していきたいですね。
創介 : 本当にエレクトロニカをやるっていったら坂本龍一さんとかのほうがいいものが出来ると思うから、そことは違う部分で勝負していこうって思います(笑)。そういう意味で、この4人のバランスはうまくとれていると思います。
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us PROFILE
vocal : shota osaki
keyboard、electronics : sosuke oikawa
noise、guitar、electronis : hiroyasu tada
electronics,guitar : natsumi tsuchiya
“非現実的な世界にこそ、より真実に近い現実が在る”
2007年結成。四人編成のエレクトロニカ・バンド。電子音楽を基盤としながら、変化と進化を求め続けることで 様々な世界を持った楽曲を作り出す。叙情的な旋律と、どこか生々しさのあるノイズが引き合うように 同居する独特なサウンド、中性的な響きを持った声、様々な人物を想起させる物語性の強い詞世界。それらが一体となって、聴く者をある種の非現実へと引き込んでゆく。