最初に言い切ってしまいたい。これはnumber0というバンドの本質がダイレクトに表現された作品だ、と。約2年ぶりの新作『PARALLEL/SERIAL』は、これまでのnumber0のイメージを一度振り払いながら、今まで以上に彼らのイメージを強化する、見事なバランスで成り立った作品である。リード・トラック「Returning」では、プロデューサーに堀江博久(pupa/the HIATUS)を、エンジニアに美濃隆章(toe)を迎え、具体的に新しい彼らのサウンドが提示されている。そこにあるのは、聞いてくれている人に「届けよう」という意識と、それによって生まれてきたメンバー間のコミュニケーションである。結果として、コンピューターを排除し、バンドとしての肉体性が強化されたそのサウンドは、聞き手を選ばない芯の強いものになっている。今作が生まれた背景を、吉津卓保、小林良穂、青葉聡希の3人に伺った。
インタビュー : 西澤裕郎 / 文 : 宮川純
>>アルバム未収録曲「dr.insomnia(2012version)」をフリー・ダウンロードで(4/12〜4/19)
number0 / PARALLEL/SERIAL
プロデュースに堀江博久(pupa/the HIATUS)、エンジニアに美濃隆章(toe)を迎え、ポスト・ロックという枠を大きく超えたサウンドを手にし、新生number0を高らかに宣言する決意と覚悟のアルバム。アート・ワークはEfterklangの一連の作品を手掛けるデンマークのデザイン・チーム、Hvass&Hannival。
【価格】
mp3 単曲150円 / アルバム1200円
WAV 単曲200円 / アルバム1600円
ゴールは決めないようにしています(吉津)
——今回のアルバムはこれまでのnumber0とだいぶ印象が違いますよね。ここまで大きく変わったきっかけは何かあったのでしょうか。
吉津卓保(以下、吉津) : 青葉(聡希)がベースとして加入したのは1つの大きなきっかけだったと思います。前作『chroma』の時は青葉がまだ入りたてで、かなり小林(良穂)のアレンジが強かったんですけど、今回は青葉の色が強く出てきました。だからカラーが変わったように聞こえるんだと思います。
——なるほど。はじめに音楽の方向性を決めて作ったわけではないんですね。
吉津 : はい。今回に限らず、割といつもそんなに決めないようにしてますね。バンドをやってる理由というのも、1人じゃ出来ないことをやりたいからなんですよ。だから、最初に提示するときは余計な色をつけない。そのあとにメンバーが出してきたものを聞いてから、また考えます。
——前作『chroma』を発表した後に、レーベル・メイトの宮内優里さん、ドイツのGutherと3組で行ったツアーはどうでしたか? 今作に影響があったんじゃないですか。
吉津 : それまでは1週間かけてツアーをしたことがなかったから、得るものが多くて、それが今回に1番フィードバックされている気がします。1週間一緒にいたのでメンバー間で話ができたんですよ。例えば、青葉が『chroma』のときにやりたかったことを聞いて「じゃあやってみようか」とか。あと、個人的にはライヴを重ねて行く上で、肉体的な表現をしたいなと思ったんですよ。
——肉体的な表現というのは?
吉津 : 『chroma』の時はどちらかというと淡々としていたので、もうちょっと踊れるものにしたくて。あとは、全部生で演奏できるようにしたいと思っていたので、ライヴでコンピューターを使わないようにしましたね。
青葉聡希(以下、青葉) : 前作ではストリングスをサンプラーで多用したんですけど、実は僕、あの音がすごく嫌いで(笑)。嫌いというより、ストリングスは生じゃないと嘘くささがあって、それを排除したいと思ったんです。
——コンピューターをやめよう、というのは皆から出てきたアイデアですか?
吉津 : そうですね。皆そう考えていたと思います。もともと青葉をいれた理由もそこにあるので。
小林良穂(以下、小林) : コンピューターでトラックを作る事が多いと、スタジオに曲を持って行ってもほとんど変化がないんですよ。でも最近は、なんとなくの状態でスタジオに持って行って、ベースとドラムを先に固めてもらうことが多くなりましたね。その後でアレンジをいじっていきます。
青葉 : それまではデータのやり取りだけで音楽を作っていたんです。でもレスポンスも悪いし、そのやり方には限界があると思っていて。今回はスタジオでやるようにしたら、変に気を使うやり取りがなくなって、コミュニケーションが密になりました。
——青葉さんが加入したことで色々上手く動き始めたようですね。
吉津 : プロセスの順番が変わったよね。「まずスタジオに入って、ドラムとベースがとにかく先」というやり方になった。青葉が入ったことで、リズムとかコードのバリエーションが増やせるようになったから、そこが大きな違いだと思います。メンバー間にも役割分担が出てきたし。
青葉 : スタジオとデータのやり取りで1番大きく違うと思うのは、作り込んで音を渡されると、修正の要求にも時間がかかるんですよ。パッと聞いて「お、いいじゃん!」なんて思ったものもメールを書いている間にショボンとしちゃうし(笑)。スタジオだとダイレクトにできて、アイデアを出したりもできる。
——例えば、吉津さんは曲のゴールを決めてから作り始めますか?
吉津 : ゴールは決めないようにしていますね。
——それはどういった理由でですか?
吉津 : やっぱり、先入観をもってしまうので。「イメージを持ってしまうとそこから先にいけない」という経験があるんです。持っているけどまだ隠しておく、ということはよくしますね。
——青葉さんはどうです? 目標を立てたりしますか?
青葉 : 僕はどちらかというと、自分がこうしたいっていうよりは引いて見るようにしています。導いてあげるというとか(笑)。ベースはリズムもメロディもコードもあるから、比較的一歩引いて全体を見て色々引き出すようなポジションを意識してますね。本当は僕が一番ああだこうだ言うのかもしれないですけど(笑)。
——小林さんはどうですか?
小林 : デモをもらった時点ではあらゆる可能性を考えていますね。他のメンバーの出す音に反応しながらアレンジを固めて行くのが最近のやり方です。普段聞いている音楽が不協和音とかの汚い音が鳴ってても僕は許せるから、試聴した時のお客さんの視点は持ち難いですね。そこは他のメンバーに任せています。
吉津 : 青葉は結構、綺麗な和音が好きだよね(笑)。
——対立ではないけど、それぞれ違う価値観を持っているわけですね。
一同 : そうそう。
——それでもうまく行き着く場所はあるんですね。
吉津 : はい。でも、譲り合いつつ、ちょっとは戦う(笑)。ミックスのこの音は入れるか入れないか、とか。この音は気持ち悪いから抜くか、とかは戦いますね。
小林 : 前まではもう少し大きなところで譲り合ってましたね。今はもっと細かい。
吉津 : 「1デシベル下げるか」というレベルで1時間くらい戦ってこともありましたね(笑)。
——ええ!? すごい(笑)。でも、そこまで深くコミュニケーションをとりながらも、リード・トラックに外部のプロデューサーを起用したのはどうしてですか?
吉津 : ツアーをした時に「もうちょっと届けたいな」という気持ちが出てきたんですよ。客観的な視点が欲しいというか、自分達の殻から出て行くために外部の人とやろうと思ったんです。
——なるほど。「多くの人に届けたい、殻を破りたい」と思うようになったきっかけは?
青葉 : ぶっちゃけ、ツアーを何回か周っても、うちらのCDが売れなくて売れなくて。悔しかったんですよね(笑)。
小林 : KYTEのオープニング・アクトを務めたことも大きいです。大きなステージと大勢のお客さんの前でやったんですけど、それでも反応がなくて。「そんなに悪い音楽じゃないと思うんだけどな、伝わってないのかな」という違和感みたいなものがあったんですよ。堀江さんにプロデュースをお願いしたのも、自分達の音楽を突き詰めるだけじゃなくて、割り切って何ができるのかを探るという意味も大きかったです。
吉津 : "肉体的な表現"というのも、そこからのフィード・バックで得たものなんです。自分達が好きなアーティストのライヴは生演奏が多かったから、そこに差があるかもしれないなと思って。
青葉 : 正直言うと、個人的には『chroma』には不満があってそれをぶつけたかった。音もそうだしライヴもそうだし、バンドのイメージを変えたかったんですよ。
音楽としてカッコいいものが出来ればそれでいい(青葉)
——先行リリースされた限定EP『Returning』では、ナカコーさんとSpangle call Lilli lineが携わっていらっしゃいますが、人選はどのように決めましたか?
吉津 : 意識していたのは、「number0のイメージをわかり易くしてくれる人とやりたかった」ということです。あと「ナカコーさんならSUPERCARが好きな人にも届くだろう」とかプロデューサーさんの先にいるお客さんの顔もイメージしましたね。
——Spangle call Lilli lineの藤枝憲さんは「メインはあくまでデザイナーの仕事で、バンドはおやつ」と表現されていたんですけど、皆さんの音楽に対するスタンスはどういったものですか。
吉津 : お金を稼ぐというよりは表現したいという方が大きいですね。基本的にはやりたい音楽をやる。だから、できるだけ音楽に時間を割ける仕事を選んでいます。音楽を完全なビジネスと捉えるとどうなってしまうのか、すごい恐怖感があって。僕たち不器用なんですよ(笑)。
——青葉さんはどうですか? パンクの人は生活がそのまま音楽になったりしますけど。
青葉 : 非常に難しい質問ですね(笑)。宮内優里さんみたいに「音楽しかない! 」という人の強さもあるだろうし、仕事と音楽を分けている人にはある種の自由さもあるだろうし。どっちがいいかはわからないけど、前提としては音楽に収入は期待していないですね。
——「届けたい=それで収入を得たい」というわけではないんですね。
青葉 : 純粋に「作ったものを色んな人に聞いてもらえたら嬉しい」というだけですね。お金が入ってきたらもっと嬉しいですけど(笑)。
——小林さんは仕事としても音楽に携わっていますよね。
小林 : そうですねえ。大学でずっと音楽をやっていましたし、今は大学で教えている立場なんで非常に特殊です(笑)。ただ、授業なり研究者としてやっている音楽は、一般の人には届かない音楽なんですよ。だから「大学ではできない音楽をやりたい」というのが、number0結成当初からの考え方です。傍からみれば全然別の顔をしているように感じるだろうけど、僕の中では、バンドと大学は互いにフィードバックがあって繋がったものなんです。
——先ほどお話にもありましたが、反響がなかなか実感出来なくても「届けたい! 」というモチベーションを保っていられたのは何故だと思いますか?
青葉 : 個人的には、そもそも届けたいから音楽をやっているわけではなくて、中学時代にみたテレビとかに憧れて音楽を始めたんですよ。だから、まず自分が好きという気持ちがあって、そのあとに届いたらいいな、という気持ちがある。
——なるほど。
吉津 : number0の音楽は他にないなと思うから、結構野心もありますけどね。自分達の中に、まだまだ見せられていない部分もあるからそれも見せたいですし。日本にもこういう音楽があるんだ! という思いがあるからモチベーションが途切れないんだと思います。
——届けたいという意味で、曲をつくる際には何かメッセージなどをイメージしますか?
吉津 : 伝えたいメッセージとかは全然ないです。音に関して好きなものを集めた結果だと思います。
小林 : 僕は、作っている時はその場の音に反応しています。伝えるとかは弱くて「いい音を積み重ねていきたい。結果、良いものができた。多くの人に聞いてもらえたら嬉しい。だから伝えたい」という順序ですね。
吉津 : 作っている段階では伝えたいとかは気にせずやってます。たぶん「おもちゃ箱をひっくり返してそこから何か見つけて作る」という方が近いですね。
青葉 : 僕も同じですね。何かを伝えたいとかは結構どうでもよくて、音楽としてカッコいいものが出来ればそれでいい。ただソロの時はちょっと変わって、我が出て来てスタンスが変わったりもしますけどね。
——今作と前作ですごく雰囲気が変わって、なんか自分のことのように嬉しかったんですよ。すごく偉そうですけど、今後にも非常に期待しています!
一同 : よかったあ(笑)。本当によかった。
吉津 : 前回から表側のイメージをガラっと変えているので「これで良いのかな」という不安があったんです。だからそういって頂けると非常に嬉しいし自信になります。
——それにまでに作り上げたものを壊すのはやっぱり怖かったですか?
吉津 : 僕は若干怖かったですね。
青葉 : 僕は壊す側だったので(笑)。
吉津 : ただ手応えは所々にあったんですよ。例えば、「AO」という曲を最初に作った時のやり方は指針になりましたね。
小林 : プロデューサーの堀江(博久)さんが良いと言ってくれるものはきっと良い、という信頼も大きかったです。
吉津 : 世界観は大きく変わっていないことには確信を持っていましたね。
——では最後に、これからやってみたいことを教えてください。
小林 : まずは6月からのツアーですね。アルバムの延長としてなにができるのか、と同時にツアーをしながら感じたものに素直にしたがって次に繋げていければと思ってます。
青葉 : あとは、新たに誰かが入ってきて壊される側になることですかね(笑)。
LIVE INFORMATION
『PARALLEL/SERIAL』リリース記念 インストア・ミニ・ライヴ
2012年4月30日(月・祝)@タワーレコード新宿店7F イベント・スペース
開演 : 17:00
『PARALLEL/SERIAL』リリース記念ワンマン・ライヴ
2012年6月9日(土)@渋谷 O-nest
開場 : 19:00 / 開演 : 20:00
前売 : 2,500円 / 当日 : 3,000円(共に1D別)
2012年6月10日(日)@渋谷 O-nest
開場 : 19:00 / 開演 : 20:00
前売 : 2,500円 / 当日 : 3,000円(共に1D別)
2012年7月7日(土)@京都 Urbanguild
開場 : 19:00 / 開演 : 19:30
前売 : 2,500円 / 当日 : 3,000円(共に1D別)
2012年7月14日(土)@名古屋 KD Japon
開場 : 19:00 / 開演 : 19:30
前売 : 2,500円 / 当日 : 3,000円(共に1D別)
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九州は熊本にて、10年に渡って活動する4人組。緻密かつ反復的かつ脱力的かつエネルギッシュなアンサンブルで観る者聞く者をかつてない快楽へと誘う。一度体験するとクセになるパフォーマンスと、DIY魂あふれる活動に魅せられ、バンドマンの間で、「九州行くならDoit Science」というドイ中毒患者多数発生中。
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ミツメ / mitsume
東京都内を中心に活動するバンド・ミツメ。飾り気のない佇まいで淡く爽やかな直球のインディー・ポップを奏で、ライヴ・ハウス・シーンを中心にじわじわと注目を集めている彼らが、活動最初期から演奏してきた曲を新たに録音し直したファースト・アルバムを配信開始。
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邦楽インディー・ロック~ポスト・ロック界期待の大型新人、nemlinoのデビュー・アルバムがkilk recordsよりついに完成。奇跡のソングライティングとも言える至極の楽曲群。Sigur RosやMewなどにも通じる、普遍的で美しいバンド・サウンド。
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PROFILE
number0
吉津卓保、小林良穂、藤井保文、青葉聡希の4人組。2006年、Rallye Labelより6曲入りのデビューEP「sero」をリリース。2010年には1stアルバム『chroma』をリリース。同年レーベル・メイトである宮内優里、Morr MusicのGutherの3組で全国ツアーを行い、その後イギリスの人気バンド、Kyteの全国ツアーにもオープニング・アクトとして参加。海外のバンドともリンクする高い音楽性、楽器に縛られない自由なアレンジとパフォーマンス、映像を使ったステージ演出が各地で高い評価を獲得。また、リミキサーとしてもZaza(US)や Three Trapped Tigers(UK) といった海外バンドのリミックスを手掛ける他、ファッション・ブランドsupport surfaceの東京コレクションでもパフォーマンスを披露し、メンバーの藤井は映像作家としてもKyte(「Eyes Lose Thier Fire」)やフランスのA Red Season Shade(「Oimiakon」)のプロモーション・ビデオを手掛ける等、多方面でその才能を発揮している。
number0 official HP