都会人にとって、街中をねずみが走り回っているのは見慣れた光景らしい。新宿のデパート前で待ち合わせをしていたり休憩をしている人たちは、ねずみが走り回っていようが気にも止めない。東京ではねずみと共存するのが当たり前のことなのか、それとも見て見ぬふりを決め込んでいるだけなのだろうか? どちらか分からないけれど、東京でネズミは人目を憚らず生きている。 ねずみバンドというバンドがいる。彼らの鳴らす音楽はとても歪で切迫感を持っている。ヴォーカルでギターの西宮灰鼠が綴る歌詞は、割り切れない想いで満ちている。その様は童話の世界を連想させるし、どこか宮沢賢治も連想させる。なにより西宮の書く詞は、決して愛や理想だけを綴っていない。「気分はもう戦争」や「絶望によりそって」など、おどろおどろしい単語も目立つ。<君とキスをしたいよ>と甘い言葉で始まる「気分はもう戦争」は、思いがけない展開を見せる。
<自殺も薬もいらないよ/昨日の夢で散々したから>
<もうどうでもどうでもいいから/やさしい人になりたいよ>
<誰か誰でもいいから人を傷つけたいよ/やさしい人になりたいのに気分はもう戦争> (「気分はもう戦争」)
”死”や”狂気”が当たり前に存在する世界に厭世観を覚え、やり場のない気持ちは自分を通して他人へと吐き出されていく。そんな葛藤が最終的に<自分が傷つくのはいやだよ>という歌詞に繋がる。全体を通して”気分はもう戦争”という世界は通達されるが、それは結論ではなくその煩悶の途中経過である。この作品での結論は、<絶望は最後の手段>とアルバム最終曲で歌われる。 善悪は相対的なものでしかない。だから立場が変われば意見も変わるのは当然で、ねずみバンドが歌っているのはその狭間で生きることへの葛藤なのだろう。一番簡単な解決法は思考を停止すること。何も考えずシステムに乗って生きていくことだ。しかし、西宮は「絶望によりそって」でこう歌う。
<僕は歌を歌う時決して嘘はつかないんだよ/嘘をつきたい夜にこそ僕は嘘をつかないんだよ>
<嘘をつくことはなんて寂しいことなんでしょうね/本当の世界もそれはそれでなんて寂しいものでしょう>(「絶望によりそって」)
嘘や建前で構築された社会に悩み、結局そこに妥協することの出来ない真っすぐさ。そして、そこから生まれる葛藤。その苦しみを受け止め、考え、切実に吐き出す彼らの姿は誰にも見向きをされない都会のねずみのように孤独にも映る。けれどそうした姿は、どんな奇麗な服装をした都会人よりも美しく見える。(text by 西澤裕郎)
→「月と約束」のフリー・ダウンロードはこちら (期間 : 1/7〜1/14)
PROFILE
西宮灰鼠 (vo.gu.) 堀口連理 (key.) 尾林星 (ba.) すがわらゆき (dr. cho.)
一人で歌ったり、絵を描いたり、灰緑というバンドのギターをやったりしていた西宮灰鼠(にしみやはいねずみ)を中心に2007年結成。2008年にはワンマン・ライブをやったりしたけど、ベースの穂高亜希子が抜けた。2009年にファンタスタスのフロントマンの尾林星がねずみバンドやってみたいと言い、活動再開。嬉しさも悲しみも絶望も心あるもの全部を歌にしたら、静けさと激しさが同居する音楽になった。
LIVE SCHEDULE
ねずみバンド
- 1/9(土) 「無菌室の鼠たちVol.2〜鼠たちの幼児退行〜」@法政大学市ヶ谷キャンパス 外濠校舎B1F多目的室1
- 2/6(土) @秋葉原クラブグッドマン
西宮灰鼠ソロ
- 1/14(木) 毎月第2木曜定例ライブ『びっこねずみ』@無力無善寺
- 1/21(木) ねずみソロ企画『ピアノが雪を降らせる夜、ぼくはギターで月を浮かべよう』@阿佐ヶ谷ネクストサンデー
ひねくれボップ・ソングを紹介
夏は来る / 森ゆに
元APOGEEのサポート・キーボーディスト、森ゆにの1stミニアルバム。ピアノと歌のシンプル且つ奥行きあるサウンド、女性の凛とした強さ・美しさと、不安定さとが同居するアンビバレンツな世界観には、強くシンパシーを感じられる事でしょう。
はしけ / シャムキャッツ
泪と笑いのズッコケROCK4人組(全員長男)登場! ココロにするりと入り込むポケットサイズのポップ・ミュージック。くるり/はっぴいえんど/サニーデイ・サービス/ユニコーンなど、邦楽史に名を刻むポップ・ミュージックを背景にした秀逸なメロディー・センスと、トーキング・ヘッズやXTC、近年ならばクラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤーをも匂わすひねくれたサウンドとのコンビネーションは、聴く者の記憶にストーカーのようにまとわりついて離れない。たよりないのに愛しい、クセもの過ぎるヤング・ジェネレーション。
ワンダフル・ワールド/ SEBSTIAN X
新世代的な独特の切り口と文学性が魅力のVo.永原真夏の歌詞とギター・レスとは思えない様々な/極端な楽曲の世界観が話題の男女混成4人組バンド SEBASTIAN Xの1st mini Album。どこでも聴いた事のない、ハードコアから生まれた、底抜けに明るい新型ポップ・ミュージック! ライブでも披露していない真っサラの新曲から、自主制作盤からの代表曲1曲を含んだ全8曲を収録。疾走感溢れるキャッチーなピアノ・ロックをはじめ、目くるめく展開の連続で聴き所満載です。