動画を通じてヒップホップへの愛と情熱を届ける──ビートメイカー兼YouTuber、ShotGunDandyとは?
ライター、斎井直史によるヒップホップ連載〈パンチライン・オブ・ザ・マンス〉第40回。前回はVOLOJZA、LEXUZ YENのふたりとビートメイカー、poivreによるユニット、“Die, No Ties, Fly”の対談をお届けしました。今回は沖縄在住のビートメイカー兼YouTuber、ShotGunDandyにインタヴューを実施。自身のYouTubeチャンネル『ShotGunDandyのHIP HOP和訳チャンネル』を通じて、主にアメリカのヒップホップ楽曲に関する解説動画を投稿している彼は、どのような思いで活動しているのか。彼がかっこいいと思うヒップホップや、日本とアメリカにおける文化受容の違い、さらにはShot Gun Dandyが選ぶパンチライン3選まで、熱く語ってもらいました。(編集部)
第39回(2024年2月掲載)はこちら
ShotGunDandyとは
(以下、YouTube概要欄を抜粋)
主にHIP HOPの曲を和訳だけに留まらずスラングやニュアンス、歌い手が伝えたい本当のメッセージやリリックの隠された意味などを徹底的に解説&解読していきます!!
どの動画でも良いので、コメント欄にアーティスト名と曲名をご記載頂ければ和訳動画として残していきますのでリクエストもよろしくお願いします!
それ以外にもHIPHOPの事について語る動画も気分次第で上げます!
さらにビートメイカーもしてますので自分のビートも不定期に上げたりします!
夢に向かって突き進めっ!
継続は力なり!
良い人生を!
Enjoy Your Life!
INTERVIEW : ShotGunDandy
190センチを超える巨体が、テキサス・チェーンソーのTシャツを着ている。色黒なスキンヘッドに似合う、長く伸びた顎ひげ。柔らかい表情でも、時に眼差しが鈍く光る瞬間がある。男の名は、ShotGunDandy。その姿はYouTubeで見るそれと全く同じなのだが、対峙すると肉厚な存在感を滲ませていた。沖縄在住だが、国籍はアメリカ。韓国系の母とアメリカ人の父を持つ混血として、アメリカと日本を行き来し、両国の文化を血肉として吸収しながら、ヒップホップを30年近く愛してきた。
彼はビートメイカーとして活動する傍ら、YouTubeチャンネルを主として新旧・有名無名を問わず、アメリカのヒップホップを解説している。ほぼ毎日更新されるなか、海外でも人気急上昇中の日本の実力派ガールズグループ、XGのラップも解説して話題にもなった。XGがいかに本格的であり、どこが惜しく感じるのか語る動画に、彼女たちのプロデューサーであるJAKOPS(SIMON)までが反応した。筆者はこの男の登場で解説者、表現者に求められる基準が一段と上がったように感じる。アメリカ人の価値観や、黒人コミュニティー独自の解釈も伝える彼の動画は、スラングに対応した単なる和訳とは一線を画しているからだ。
しかし、なぜ日本に永く住みながら、ここまでアメリカ人視点の解説ができるのか。また、なにがここまで氏を精力的な活動へと駆り立てるのか。熱い情熱があるのは百も承知だが、実際に本人に会って語ってもらった。ShotGunDandyの言葉はつねに優しく謙虚。だが、まるで彼のなかには2つの魂が交錯しているかのようだった。1つはアメリカ人としてラップを愛する魂と…もう1つはなんだろうか。読者によって違うかもしれないが、筆者は義憤にも似た使命感を感じた。この2つの魂から湧き上がる感情を糧に挑み続け、時に嬉々として変化してゆく自分の人生に感謝する様子は、40代にして再び青春を生きる男の姿であった。
ShotGunDandy、参上です!
──ポッドキャスト『ビートちゃんぷらー』で壮絶な過去を話されていますが、まずお生まれはアメリカなんですよね。
はい、生まれたのはアメリカですね。
──しかしながら、日本で過ごした期間のほうが長いと思いますが、ヒップホップに詳しいだけでは身につかないようなアメリカ人の文化や考えかたが、どのように育まれたのかが気になります。
父親がアメリカ人なんで、そのあたりは知らないうちに叩き込まれますよね。それに沖縄は外国人が多いし、沖縄のお母さんは基地関係の仕事をしていたので、アメリカ人と接することが普通なんですよね。大学のときにアメリカに戻るんですけど、そのときにリフレッシュする感じで。
──ちなみに、ヒップホップに目覚める以前は?
親父がずっとジャズが好きだったんで、知らないうちに好きになってましたね。あと父親の家族がフィラデルフィアに住んでいるのでよく行ってたんですけど、フィラデルフィアといえばファンクとかソウルが良く聴かれている街なので、子供のころはおじさん、おばさんが流すレコードを良く聞いてましたね。
──US3“Cantaloop”がヒップホップの入口とのことでしたもんね。
そう。あれってもろにジャズじゃないですか。それからスヌープ・ドッグの“Lodi Dodi”でラップにガッツリはまったんですよね。それが1993年だったんですけど、日本では小学5年生の年、アメリカで言うと中学に行く年齢だったので、そのくらいからマセるんですよね。そんなときにスヌープのストーリーテリングを聴いてカッケェなって思っちゃうんですよね。
──確かそのころから、日本に来ていますよね。そのころは何を聞いていたんですか?
イエモンとかミスチル、松任谷由実。初めて買ったのは小沢健二の“カローラ2に乗って”でしたね。
──ちなみに、どんな学生でしたか?
本当にバスケだけですね。下ネタになっちゃいますけど、高校2年生のときに1度もオナニーしてないくらい、バスケで一杯いっぱいでした(笑)。
──ポッドキャストを聞きましたけど、そのままプロになっていても不思議ではない選手だったと知り驚きました。そして、いつごろからヒップホップに再びハマり始めたんですか?
中学校はJ-POPで終わりましたけど、高校になると聴いてる音楽でカッコつけるんですよね。で、いろんな路線に行くんですよ。レゲエとかも流行りだして、皆がキングギドラとかでラップを聞き出して。てか、BUDDHA BRANDがヤバかったですね。
──そしてマニアックにヒップホップを掘り始めたのは、名古屋に移り住み始めたとき?
そうですね。あのときは落ち込んでたし、音楽に救いを求めていたかもしれないですね。
──そんなときにDon Sundayさんとの出会いが。
そうですね。まず自分くらいデカい人はそんなにいないし、見せたいくらい彼も見た目が厳ついんですよ。それでDon Sundayが色々日本のラップを教えてくれたなかでも、MSCを聞いたときに衝撃を受けましたね。それまで日本のラップをあまり聞いてなかったんですけど、そこからはSCARSさんとか、KILLER-BONG(K-BOMB)さんとかを聴きましたね。
──そんなShotGunDandyさんから見て、アメリカのラップにない日本のラップの良さとは何でしょう。もちろん、人によってそれぞれ特徴はあるので一概に言えないのですが。
魂を歌うのが上手い気がしますね。MSCも、THA BLUE HERBもかっこよかったです。あの時期にはそういうラッパーがめっちゃ居ましたね。
──日本でラップをする意義を模索するような流れはありましたよね。
そうそう。ちゃんとリスペクトするところはしてて、アメリカを取り入れながらも、自分たちのものにしていた気がします。いまはちょっと変わってきていると思いますけどね。まあ、全然いいんですけど。
──歳を重ねると、新しいトレンドにあまりピンと来ないことってありませんか?
しゃあないっすよね。自分らも、20歳上の人には多分ピンと来られてなかったと思います。だからBUDDHA BRANDとかも、当時40代50代の人が聞いても若い子のようには感じなかったかもしれませんよね。
──確かにそうですね。実際、30代はビートメイクからも離れた時期があったそうですね。それからいまのように活発な活動を始めた理由は、なんだったんですか?
それがないんですよね。なんか急に、2022年から2023年に切り替わるときに、急に何かやらなきゃいけない気持ちに駆られて。宗教とかやってないのに、なにかが降りてきた感じなんですよね。説明ができないです。
──少しずつ構想が具現化したのではないんですか。
そうではなかったですね。とはいえ、昔から映画の字幕の仕事をしたかったんですよね。字幕には間違いが多くて。ヒップホップにもそういうことがあって、「みんなこの曲の意味、分かってるのかな」って。それこそLil Jonがね、あんな下ネタ言ってるのに女の子はみんな踊ってるから、それを見て違和感を感じちゃって。「おいおい女性たちは蔑まれちゃってる曲だけど大丈夫?」って(笑)。
──そういった経験もいまの活動に結びついているかと思いますが、いまの活動には夢があるとXでもおっしゃってますよね。その夢とは、日本のヒップホップのレベルを底上げしたい、ということなんでしょうか。
そうですね。「ぶっちゃけアメリカのラップのリリックを、ちゃんと理解してなくない?」って。それこそZEEBRAさんやBUDDHA BRANDは当時のニューヨークに行って、それを吸収して戻ってきてるからカッコいいんですよ。良い悪いの話ではないですよ? でも現状として、誰かがこれを言わないといけないと思うんです。単純な和訳だけじゃ伝わらないリリックの技巧を、どう参考にするんだろうっていう。スラングだったり、文化だったり既に解説している人がYouTubeにも居ると思っていたんですよ。でも、探したらいないんで「あれ!?」みたいな。