Billboard Liveのライブが記憶に新しいHOCUS POCUSをピック・アップ!
HOCUS POCUS / 16 Piecse
ジャジー・ヒップ・ホップなんてカテゴリーに縛るのはいい加減やめて欲しいヨーロッパ最高のヒップ・ホップ・バンド! 3作目となる本作はヒップ・ホップ寄り、ラップ多め、ソウル・フル度高めでピース・フルなB-BOYイズム! 冒頭の「Beautiful Losers」はアリス・ラッセルの迫力満点のヴォーカルをフィーチャーした実にホーカスらしいソウルフルなナンバー。
HOCUS POCUS / 73 Touches
ファースト・フル・アルバムとなる「73 Toches」は、ファンク、ソウル、ジャズ、オールドスクール・ヒップ・ホップ… と、実に様々なサウンドの要素が入り混じっているのが特徴。現在のフランスのヒップ・ホップ・シーンはサイアン・スーパ・クルー(Saian Supa Crew)やこのHOCUS POCUSの成功もあり、今大きな変換期に差しかかっている。そんな中に登場した「73 Toches」は、フランチ・ヒップ・ホップの新たな歴史を刻むアルバムとなりそうだ。
もしトラック制作に興味を持ったことがある方ならば、サンプラーがどんなものかを知っているだろう。楽器が弾けなくとも、曲作りを可能にするものだ。また、サンプリングはヒップ・ホップのアイデンティティーであり、基礎だと言っても過言ではない。
しかし、基礎があれば例外も存在するように。ヒップ・ホップにおいても、少なくとも生演奏のバンドは存在する。アメリカのThe Rootsがヒップ・ホップ・バンドとして有名だ。そして「フランスのThe Roots」と紹介されることの多いHOCUS POCUSは、The Rootsには居ないDJがいる。またMCを務める20syl(ヴァン・シール)はラップだけでなく、ビート・メイカーとしても天才的な才能を持つ。彼らは例外的な構成のメンバーでありつつ、ヒップ・ホップの基礎も踏まえている。その音楽の自由度と完成度は保証されたも同然だろう。
実際、彼らの曲を聴いたとき、筆者の率直な感想として「ヒップ・ホップをやるには、感性が豊かすぎる」と思った。やや語弊があるかもしれないが、そこまで繊細で、美しいものだったのを憶えている。リラックスしていて、それでいて隙のない音楽に酔わせてくれる彼らの来日ということで、私はスムースな音を上品に拝聴するつもりでいたが... まるでファンク・バンドのようにパワフルかつ、踊らされるステージになるとは! 気になるそのライブとスタジオのギャップについて、また音楽との出会いも20sylに尋ねた。
インタビュアー & 文 : 斎井 直史
自分たちでもメロウな曲が得意だとわかっている。でも...
——今回初めてショウを観させて頂きましたが、来日するのは何度目でしょうか?
20syl (ヴァンシール) : 今回で4度目だよ。朝霧JAMなんかでライヴをしたことがあるんだ。
——ジャジーな曲でフォーカスされるHOCUS POCUSですが、パワフルなステージは意外でした。
20syl : うんざりしてしまったかい?
——とんでもない! ヒップ・ホップでは珍しいほど、アーティスト自らお客さんと触れ合おうとしてるし、とにかく盛り上げようとしている気持ちがとても伝わってきました。
20syl : ライヴを沢山経験しているからね。そこから学んでいったんだと思う。今年でいえば既に80回はライヴをしているよ。ライヴを多くやるバンドだから、色々試せるのも事実なんだ。
——昔からショウを盛り上げるのは得意だった?
20syl : いや、最初はステージが苦手だったんだよね。今ほど自然にできなかった。いきなり最初から「Say Yeah!!」とか叫んじゃったり(笑)。だけど、今は試行錯誤もできるし、曲をプレイするにあたって、自然な流れになるように心掛けている。あとは、経験かな。ちなみに、Billboard Liveみたいにテーブルとイスがある所でのライヴは、僕らにとって初の試みだったんだ。だから、お客さんにエキサイトしてもらう為に、今回は挑戦した部分もあるよ。例えば、昨日のファースト・ステージとセカンド・ステージでは若干違うんだ。最初にやってみたらお客さんの反応が予想とは少しちがったから、更にパンチのあるショウにしてみたんだよ。数年やってなかったような曲もやってみたりした。
——昔の曲といえば、ジャジーな曲にフォーカスされる事の多いHOCUS POCUSですが、今回のライヴでは静かな曲は、あえて外したのですか?
20syl : 実はそうなんだ。僕たち自身も、メロウな曲が得意だと思っているし、それを聴きたいと思っている人がいるのも分かっている。でも、今回は1時間という短い時間だから、エモーショナルでパンチのある音楽をプレイして、お客さんを歌わせ、踊らせようと思った。最初から最後までお客さんが盛り上がるショウにするために、ああいったタイプの曲を出し惜しみしないショウにしたんだ。今回はイスがあるから、メロウな曲をやったらお客さんが寝ちゃうかもしれないしね(笑)。
サンプラーのないサンプリングが、僕にとっての最初のビート・メイク。
——HOCUS POCUSはバンド形式という事だけでなく、音楽においても個性を確立しているように感じます。メンバー間では、どのようなアイデンティティーを共有して活動しているのですか?
20syl : 自分自身のアイデンティティーとかは、あんまり考えたことないかな。ただ、僕らはメンバーの様々な趣向をミックスさせて、全員がナイスだと思える音楽をやろうとしている。メンバーにはレゲエが好きな人や、ジャズが好きな人、ブルースが好きな人がいて、僕に関して言えばソウルと90年代のヒップ・ホップが大好き。その中で各々が納得するものを模索していくと、逆に可能性がみえてきて、何をすべきかも分かってくる。その中でベストをやるだけだね。
——アーティストとしてのスタートはどんなものだったのですか?
20syl : フランスでは、多くのエムシーが言いたいことを吐き出したくて始める人が多い。だけど、僕はその中でも音楽にヤラれてラップを始めた珍しいケースだよ。でも、最初はプロデューサーになりたかった。ヒップ・ホップのように、既にある音楽をサンプリングして、新しい音楽をクリエイトしていく作業に興味を持ったんだ。というのも、初めて触れた楽器はドラムと、トランペットだったけれど、どうもしっくりこなくてね。結局、自分に合った楽器を見つけられなかった。
——ビート・メイカーならば誰でもMPCとの出会いが大きな第一歩になるかと思いますが、あなたの場合は?
20syl : 最初はMPCなしでサンプリングに挑戦したんだ。なんでも自分で演奏してみた。両親の持っている古いヒット・ソングのレコードをひっぱりだしてきて、それを自分でコピーしてみるんだよ。Coolioの「Gagnsta's Paradice」とか弾いたりして、200曲近くのビートの構成を覚えたね。そういったサンプラー無しのサンプリングが、僕の最初のビート・メイクの経験だよ(笑)。次第にコンピューターを使うようになってから、MPCを知った。「これなら色々な楽器を吸収できる! 」って思ったんだ。それから当時やっていたドラムを売って、そのお金でMPCを買ったんだ。当時、15歳くらいだったかな。93、4年くらいの話さ。バンドを結成したのもその頃だね。
——ヒップ・ホップとの出会いは?
20syl : 多分、最初はRage Against The Maschine Machineでラップを知ったとおもうよ。その後にWu-Tang Clanを聴いた時の衝撃は大きかった。ソウルの曲をたくさん使ってて、ビートが怪しい感じ。あの感覚を初めて味わったのは、Wu-Tangが最初だったね。
——ちなみに、影響を受けたアーティストはいますか?
20syl : Stevie Wonder。彼のことは子供の頃から今でも一番尊敬しているアーティストだ。あとは、R.H Factor、The Roots、それとJurassic 5も大好きだね。
——アルバムで共演するアーティストは最初から決めているのですか?
20syl : アルバム制作の過程は大きく分けて2つ。自分たちだけで曲を作って、その後メンバーでネクスト・レベルに持ち上げるためにどうしたらいいかを考える。その時に、ふさわしいゲストがいた場合に声をかけるんだ。「このトラックにQ-tipのラップが乗れば最高だよね! 」とか。だから、最初からフィーチャリングを目的に、曲をつくる事はないね。
——そこで選択肢になるアーティストは、どういった経緯で出会う人が多いのですか?
20syl : まず、地元にとても大きな音楽ミーティングがあるんだ。そのファミリーからの繋がりが多いね。その次に、ビッグ・アーティストに声をかけてみる。いづれ一緒にやってみたい人はリストをつけてあるよ。アプローチをかけて、うまく行く時もあるし、いかない時もある。リストにはCommonやCee Loなんかを入れてあるよ。いつか一緒に曲を作ってみたいね。
——その身近な仲から、いくつかアーティストを教えていただけますか?
20syl : Genelal Electriksと、Electro Deluxe。これはチェックしたほうがいいよ。今回ツアーでサックスをやっていた彼らがElectro Deluxeのメンバーなんだ。Ben L'Oncle Soulと、Elodie Ramaも僕らのアルバムに参加してくれたし、Electro Deluxeにも参加している。今度P-Vineから新譜が出るんだ。すっごいソウルフルで素晴らしい仕上がりになってるよ。
——今後、HOCUS POCUSとしてやってみたい事などありますか?
20syl : これまでの作品はトリロジー(三部作)のつもりで制作してきたんだけど、サード・アルバムの『16 Pieces』を終えてみて、今までトライしていない事がいくつかあるんだ。次のプロジェクトはジャズっぽくしようかと考えてるよ。ピアノ、ベース、ドラム、そして僕がライムしていくという、静かでアコースティックな音楽になるかと思う。あとはドラムのプログラミングは沢山ストックしてあるから、MPCだけのスタイルでサンプリング主体の曲とかやってみたいよね。とにかく、次は今までと違うことをしてみようかなと思っているよ。
——最後に日本のファンに一言おねがいします。
20syl : いつも応援ありがとう。また近いうちにライヴができればと思ってます。
——ライヴに来るお客さんにメッセージとかあればお願いします。 『Ladys!』と叫んだら男性は叫ばなくていいんだよ」とか(笑)。
20syl : ああ! そういえば、僕が最前列のお客さんにマイク向けて、レスポンスに合わせてDJ Greemがスクラッチをしようとしたんだ。だけど、お客さんが黙っちゃって困ったことがあって(笑)。日本の皆さん! ライヴではどうか、シャイにならないでね!
HOCUS POCUS PROFILE
DMC World Championship団体部門で頂点を極めたC2Cクルーの一員でもある天才ビート・メイカー / MCの20Syl(ヴァンシール)を中心に、同じくC2Cの一員であるターンテーブ・リスト、DJ Greemほか、ドラム+キーボード+ベース+ギターの6人で構成された、まさにフランス版ザ・ルーツとでも言うべきライヴHIPHOPバンド。2002年のミニ・アルバム『Acoustic Hiphop Quintet』を経てリリースされたファースト・アルバム『73Touches』で一気にブレイク。ポジティヴでソウル・フルなヴァイブスとジャジーでウォームなビートを持った超爽快なオーガニック・ヒップ・ホップは、FUJI ROCK、朝霧JAMなどでも絶賛を浴びた。今年5月にはサード・アルバム『16 Pieces』をリリースした。