高橋健太郎のOTO-TOY-LAB──ハイレゾ/PCオーディオ研究室【第22回】──ユーザー・フレンドリーなDAC内蔵ネットワーク・プレーヤー、Volumio Primo
快適なネットワーク・オーディオ環境を目指した製品
OTOTOYで販売しているようなハイレゾ・ファイルでの音楽聴取をメインにすると、必要不可欠になってくるのがネットワーク・オーディオの構築だ。だが、これがなかなか初心者には踏み込みにくい領域になる。スピーカーやアンプのような旧来のオーディオ製品のほかに、データ・サーバーやネットワーク・プレイヤーが必要。データ管理にはPCも必要だ。ルーターやLANケーブルなどもその品質が音質を左右するので、オーディオ製品の領域に入ってくる。そして、快適なリスニング環境を得るには何よりソフトウェアが必要になる。
過去10年くらい、僕もネットワーク・オーディオ製品をいろいろ試してきたが、過去のオーディオの経験値が役に立たない部分もあり、まだまだ分からないことも多い。一方、メーカーの側からのネットワーク・オーディオ・システムの提案も発展途上にあるとも思われる。とりわけ、リスニング環境の快適さを左右するソフトウェアは、さらなる洗練が求められる分野だろう。
今回、紹介するVolumioのPrimoという製品に興味を惹かれたのは、そのデザインや価格の手頃さからだったのだが、加えて、ソフトウェアを手がけてきたメーカーがハードウェアの領域に踏み出し、開発したという点がこの製品を語る重要なポイントだ。快適なネットワーク・オーディオ環境に対するヴィジョンが先にあり、それに合わせて、3種類のオーディオ製品がデザインされた。そのひとつがPrimoなのだ。
Volumioはイタリアの新興メーカーで、現CEOのミケランジェロ・グゥワリゼが2013年にシングルボード・コンピュータのラズベリーパイ用の音楽再生ソフトとしてVolumioを開発したところから始まっている。Volumio社は2015年に設立。Volumio ソフトウェアは2020年にはEISAアワード(ヨーロッパの映像・音響分野の業界団体であるEuropean Imaging and Sound Associatioが主催する賞)でベスト・デジタル・ソース賞を受賞し、世界中にユーザーを広げた。そして、同年にVolumioの最初のハードウェア製品となるネットワーク・プレイヤー、Primo(旧ヴァージョン)が発表された。
2022年にはVolumioはRivo、 Integro、Primo(新ヴァージョン)の3製品を発表し、ハードウェア・メーカーとして市場への本格参入を果たした。RivoはDACを内蔵しないネッットワーク・トランスポート。IntegroはDACとアンプを内蔵し、スピーカーさえあれば、システムが完結するネットワーク・プリメイン・アンプともいうべき製品だ。今回テストしたPrimoはDACを内蔵したネットワーク・プレイヤーだが、面白いことに価格的には3製品の中で最も低価格になっている。DAC搭載のPrimoの価格は13.2万円だが、DACを内蔵しないRivoの方が16.5万円と高価なのだ。DACはDAC でそれなりに高価格帯の製品を選択するオーディオ・マニアに向けて、高機能かつ電源やクロック精度などにもこだわりを注いだネットワーク・トランスポートがRivoという位置付けなのだろう。
個人的にはスタジオでプロ・オーディオ用のオーディオ・インターフェースとRivoを組み合わせて使うことにも興味を惹かれたが、今回はホーム・オーディオにおいて最もリーズナブルな選択になるだろうPrimoをお借りしてみた。
ユーザー・フレンドリーなセッティングの容易さ
箱から取り出したPrimoは想像以上にコンパクトだ。背面には豊富な入出力端子が並ぶが、前面にはスイッチがひとつあるだけ。このカラーリングがイタリアっぽい。ネットワーク・プレイヤーはあまリデザイン製が求めらない分野に思われるが、Primoの外観にはリヴィングに置きたくなる魅力がある。そこで今回のテストはリヴィングのオーディオ・セットで行うことにした。
筆者はリヴィングではATCのSCM100ASLを長年、愛用している。パワードスピーカーなので、PrimoのXLR出力から直接、SCM100ASLに接続することもできるが、Primo本体にはヴォリューム・ノブがない。物理的なヴォリューム操作はできた方が良いので、これまた長年、愛用しているAR Limited Model 2をプリアンプとして間に挟むことにする。
セッティングは簡単。PrimoのXLR出力からプリアンプに接続。あとはLANケーブルでPrimoをLANのスイッチングハブに接続するだけだ。我が家ではWifiのスイッチハブからLANケーブルをリヴィングのオーディオ・セットまで伸ばし、そこにオーディオ用のスイッチングハブを置いている。Primoはそのオーディオ用のスイッチングハブに繋ぐ。これでPrimoはWi-Fiネットワークにも接続される。オーディオ用のスイッチングハブにはNASディスクが接続されていて、OTOTOYなどからダウンロードしたオーディオ・ファイルが格納されている。NASディスクはI/O DATAのSoundgenicをHDDからSDDに換装。トロイダルトランス使用の強化電源を使用したものだ。このNASの中から幾つかハイレゾの音源を試聴していくことを今回のテストのメインメニューとした。
配線はあっという間に完了。だが、Primoの操作にはVolumioソフトウェアが必要だ。iOS用のVolumioソフトウェアをApple Storeからダウンロードする。Primoを起動状態にして、iPhone上でソフトウェアを立ち上げると、Wifiネットワーク上にあるPrimoが認識されたので選択する。これだけでセッティングは完了し、音が出せる状態になった。ソフトウェア上で細かな再生条件などの設定はできるが、音が出るまでのセッティングはこれ以上なくシンプル。5分で音が出るように作られているのは、ソフトウェアから出発したメーカーならではのユーザー・フレンドリーなところだろう。
PrimoのXRL出力をプリアンプに接続したが、プリアンプには主にCD再生の聴取に愛用しているOppoのユニヴァーサル・プレイヤー、BDP-205も接続されている。そこで同じアルバムをCD再生とPrimoを使ったネットワーク再生で聴き比べてみることにした。試聴したのは2023年始めにリリースされたフランス出身のシンガー・ソングライター、ギャビ・アルトマンのデビュー・アルバム『Gabi Hartmann』だ。
ブラジルやアフリカなどの滞在経験も持つアルトマンは、ニューヨークでプロデューサーのジェシー・ハリスに出会い、ニューヨークとパリでのレコーディングを経て、このデビュー・アルバムを完成させている。オールドタイミーなジャズや世界各地の民俗音楽の要素も香るが、サウンドの質感はスムースで、現代的な洗練を感じさせる。ソニーから発売されている日本盤のブルースペックCDをOppoのBDP-205で再生、OTOTOYでダウンロードした24bit/44.1kHzのハイレゾ・ファイルをPrimoで再生して、聴き比べてみた。
BDP-205はESS SABREのES9038Proチップを採用している。PrimoのDACはESS SABREのES9038Proチップの省電力版とも言えるES9038q2mチップだ。スペック的にはES9038Proチップの方が上位にある。デザインの印象からも、PrimoのサウンドはBDP-205より細身になるのではないかと想像していたのだが、そんなことはなかった。BDP-205の方が少し出力が高いが、内部ヴォリュームで音圧を揃えて比較試聴すると、Primoの方がむしろ中低域の情報量が豊かにも思えた。そこはCDの16bit/44.1kHzとハイレゾ・ファイルの24bit/44.1kHzの差もあるだろう。いずれにしろ、価格帯から考えて、PrimoのDAC部は十分に競争力があることが確認できた。
もう一枚、最近、お気に入りの新譜を聴いてみる。ブレイク・ミルズのニュー・アルバム『Jelly Road』だ。アラバマ・シェイクスなどのプロデューサーとしても名高いミルズが久々にシンガー/ギタリストとして全力投球した作品で、深みあるサウンドが素晴らしい。OTOTOYでは24bit/96kHzのハイレゾ・ヴァージョンが入手できる。この試聴でもPrimoのサウンドは中域〜中低域の艶やかさを感じさせ、繊細なギター・アンサンブルを見事に再生した。これはミケランジェロ・グゥワリゼがアナログ・レコードの愛好者であるということも関係しているかもしれない。
Volumioソフトウェアの操作はこれまたシンプルで、Music Serverというメニューを押すと、Soundgenicが現れるので、アーティスト・インデックス、アルバム・インデックスなどのメニューを利用して、聴きたいアルバムを選択し、再生するだけだ。TIDALやquobozといったストリーミング・サービスやWEBラジオもVolumioソフトウェアから直接アクセスできる。
RoonからPrimoをハイレゾ再生に活用する場合のおすすめ
ところで、筆者は普段はハイレゾ・ファイルの再生やTIDALの利用にはPC上のRoonソフトウェアを利用することが多い。PrimoはRoon Ready対応のネットワーク・プレイヤーであり、Volumioソフトウェアではなく、Roonソフトウェアを使って、操作することも可能だ。
そこでリヴィングに置いてあるiMacのRoonソフトウェアからPrimoをコントロールすることを試みてみた。試聴音源はこれまた最近のお気に入り、ジェシー・ランザの『Love Hallucination』。ジェシー・ランザはカナダのアーティストで、エレクトロなサウンド作りも面白いが、スウィートな歌声を持つシンガー・ソングライターでもある。新作はOTOTOYで24bit/96kHzヴァージョンが入手できる。
RoonソフトウェアとPrimoを組み合わせるには、セッティングはほとんど何も要らない。ただし、Wi-Fiネットワーク上にあるiMacからPrimoで音楽を再生する方法は二つあって、iMacのシステム環境設定を開くと、サウンドの出力設定の選択肢にすでにPrimoが現れている。これを選択すると、iMac本体のサウンド出力がPrimoとなり、その接続はAirPlay接続になる。このAirPlay接続で、iTunesソフトウェアでApple Musicを再生するのにPrimoを使うこともできる。
だが、AirPlayは24bit/48kHzが伝送の上限となる。ゆえに、24bit/96kHzなどのハイレゾ・ファイルはダウンコンバートして伝送される。AirPlayは規格としては古いものであり、音像的には緩くなる傾向も持つ。だから、AirPlay接続でPrimoを利用するというのは、オーディオ・ファイル的にはあまりお勧めできない。
ゆえに、Roon からPrimoをハイレゾ再生に活用する場合は、Roonソフトウェアの設定で、AirPlay接続のPrimoではなく、Roon Ready対応のネットワーク・プレイヤーのPrimoを出力に選択した方が良い。こちらを選択すれば、Primoをフルスペックのハイレゾ再生に利用できる。設定的には二つ表示されたPrimoのうち、Primo(Airplay)と表示されている方を選ばなければいいだけだ。
Roonで再生した『Love Hallucination』はポップでダンサブルかつ、潤いのある音で、これも満足できるものだった。Roonは日常的に使っているソフトウェアであり、プレイリストなども数多く作ってある。そのことを考えると、Volumioソフトウェアではなく、RoonソフトウェアでPrimoを使うことには大きなメリットがある。だが、両者のサウンドは果たして同じなのだろうか? そこに小さな疑問が浮かんだので、『Love Hallucination』をiPhone上のVolumioソフトウェアからも再生してみた。すると、微妙にサウンドに違いがあるように思われた。
Roonソフトウェアでの再生の方が低域〜中低域が豊かに思われる。それゆえか、比較的小音量の再生では、Roonソフトウェアによるサウンドの方が魅力的に思われた。だが、ある程度ヴォリュームを上げて、SCM100の30センチ・ウーハーをがつんと鳴らしてみると、Volumioソフトウェアのサウンドの方がタイトで、空間もきれいに見えるように感じられる。もちろんA/Bの比較試聴だからこそ分かる微妙な違いではあるのだが、同じNASからデータを読み上げ、同じDACで再生しているにも関わらず、使用するソフトウェアでサウンドに差が出ることは分かった。
これはデータを再生する際の細かな設定がソフトウェアに依存しているからだろう。どちらが良いとは言い切れない差異だったし、聴く音楽のジャンルによっても判断は分かれそうに思った。キックなど低音の聴こえ方が微妙に違うので、もし日常的にVolumioソフトウェアを使うとしたら、スピーカーのセッティングを少し動かすかもしれない。そのへんはオーディオの楽しみでもある。
スペック的にはPrimoのDAC部はPCMが最大192kHz/24bit、DSDが128(5.6MHz)までである。11.2MHzのDSDは再生できないが、一般的な使用ではほとんど困ることはないだろう。5.6MHzでの再生確認に聴き慣れた坂本龍一の『音楽図鑑』を再生してみたが、DSDらしい柔らかさ、ふくよかさのあるサウンドだった。
Volumioソフトウェアに戻ると、今回はその機能をすべてチェックはできなかった。アートワークが表示されなかったり、曲名が文字化けしたりするタイトルもあったが、そういうメタデータの読み出しの癖はどのソフトウェアにもあるもので、使いこなせば解決できるものに思われるが、その方法を十分に把握するには至らなかった。だが、ユーザー・フレンドリーな視点で作られていることは体感できたし、その延長線上で発想されたハードウェア製品であるということにも納得した。伝えられるところによると、VoluimoはChatGPTのAPIを組み込んだ検索機能を最新ソフトウェア・ヴァージョンにて対応したという。ソフトウェア、ハードウェアともに、今後の発展も面白くなりそうなメーカーだ。
使用機材
Volumio Primo
DAC内蔵ネットワーク・プレーヤー
標準小売価格 : 132,000円(税込)
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今回ご紹介できなかった、Volumio他2製品はこちら
Volumio Rivo
DAC非搭載ネットワーク・ストリーマー
標準小売価格 : 165,000円(税込)
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Volumio Integro
アンプ内蔵ネットワーク・プレーヤー
標準小売価格 : 203,500円(税込)
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