mekakushe、変化と充実、“BIG・KANSYA”の1年を振り返る──『部屋録』から選りすぐり音源を独占配信
2020年10月ぶりの登場となるシンガー・ソングライター、mekakushe。前回はEP『うまれる』のリリース・タイミングで彼女のアレンジャーとしてタッグを組む野澤翔太との対談をお届けしました。あれから1年弱。アルバム『光みたいにすすみたい』やEP『はためき』など自身のリリースに加えて楽曲提供も行うなど、精力的な活動でリスナーを楽しませてきた彼女がこの1年間で感じた変化とは? 前回に引き続き、彼女の活動を追い続けているライター、前田将博が話を訊きました。また記事の公開と同時に、これまでオフィシャル通販のみで定期的に販売されていた『部屋録』シリーズより、選りすぐりの13曲を収録した『部屋録まとめ』が独占配信開始。フィジカルの『部屋録』シリーズはすでに完売となっているので、インタヴューとともにこちらもぜひチェックを。
通販限定『部屋録』シリーズから選りすぐりの楽曲を独占配信
INTERVIEW : mekakushe
「なんかすごく悲しくて」──。配信シングル3曲に加え、フル・アルバムとEPを1枚ずつとハイペースにリリースしてきた2021年を振り返りながら、彼女はこうつぶやいた。ここ1年でさまざまなグループなどへの楽曲提供をこなし、配信メインでライヴを再開するなど、怒涛の音源リリース以外にも広がりを感じる活動が多かったmekakushe。その裏で、いったいどんな思いを抱えていたのだろうか。
音楽活動以外では、長らくトレードマークだった黒髪ロングヘアを一変。「変わらなくちゃいけないなと思った」とも話す。着実なステップアップを繰り返しながら、さらなる広い世界を見据え、羽ばたこうとしている。そんなmekakusheの現在地を探った。
インタヴュー&文 : 前田将博
写真 : lou
変わるのを怖がっていただけなのかなって気付いた
──前回のインタヴューから1年ほど経ちましたが、コロナ禍が続いています。この間、生活に変化はありましたか?
去年はほぼできなかったライヴが今年は少しずつできていて、リハーサルとかで出かけることが増えました。サポート・メンバーやファンの方に会えるようになったことがとても嬉しいです。ただ、それ以外はやっぱり部屋にこもってしまいがちで、生活と曲作りを交互にしている感じです。
──音楽活動以外は最低限しか出かけないと。
そうですね。生活するか、音楽するかのどちらか、みたいな毎日を過ごしているし、これといった趣味もないので、音楽を作ったり歌を歌うことで人間の形を保っている気すらしています(笑)。
──少し前に髪型や色を変えて、雰囲気がかなり変わりましたよね。しかも短期間に黄色やブルーにしたりと、変化を楽しんでいるようにも見えます。
変わらないものがあることが素敵だと、ずっと思っていたんですよ。「これしか似合わない」とか「このイメージでいたい」みたいに思うことで、変わらないものを無理やり自分で作っていたのかもしれません。髪型もそのひとつで、ずっと黒髪ぱっつんのロングヘアをトレードマークにしていて、自分でもそれが好きだったし、似合ってたとも思うんですけど、本当はもっと自由でいいんじゃないかな、とある日突然思い立って。それで9月とか10月くらいかな。いい美容師さんとの出会いもあったので、切っちゃおうって思ったんです。そう思えたことがいままでなかったし、髪型も5年くらい同じだったから、突然の心境の変化に自分でも驚きました。
──2021年に大学院を卒業して1人暮らしを始めて、音楽活動に対する向き合いかたも変わってきていると思うんですけど、それも影響しているのでしょうか?
覚悟とかではないと思うんですけど、変わらなくちゃいけないなと思ったんですよ。この1年くらいで楽曲提供などの作家活動を始めたことで音楽の幅や視野が広がって、曲作りも前より自由に新しい気持ちで取り組めるようになった気がします。そういうのが音楽以外にもいろいろ作用して、変わってみようと思えるようになった。本当は変わりたくないんじゃなくて、変わるのをめちゃくちゃ怖がっていただけなのかなって気付いたんです。
──SAKA-SAMAの“抱えきれないわ”をはじめ、リルネードの“恋愛ちゅー”など、この1年でかなりの楽曲を提供されていますよね。どれもすごく好評で、mekakusheのファン以外にも確実に音楽が届いているような印象を受けます。提供曲とmekakushe名義の曲とで、作り方や気持ちに違いはありますか?
自分の曲は自分の心の中のことや忘れられない景色を歌いたいなと思って作っているんですけど、作家として曲作りをするときは歌ってくださる方のパーソナルなことを質問させてもらったり、感じ取ったイメージなんかを自分なりに噛み砕いて書いているので、やっぱり書きかたは違いますね。作家として曲を書いているときのほうが枠がないというか、自由にできているなと感じたこともあります。自分のなかにmekakusheという枠があって、それが逆に書きづらくしてたような気がします。
──作家としての活動が、自分が歌う曲を書く上でも良い影響があったんですね。
たとえばこれまで「これは単純すぎて、もうちょっとひねりがほしいな」って思ってた表現も、作家としてたくさん作曲する中で、結局それが一番伝わるんだったらシンプルな表現もいいんだなって思えるようになったんですよね。だからいまは自分で歌う曲も、割と自由に作っている感覚があります。
──様々なアーティストに曲提供したりサブスクで楽曲を配信したりと、広がりのある活動が増えているように思いますが、これまでとは違う層に届いていると感じる瞬間はあります?
やっぱりリスナーの数が増えたこと! 今まではライヴに来てくれてる人の数とかでしか曲を聴いてもらってると実感できなかったんですけど、サブスクだと2万人とかが聴いてくれてたりするから、これまでと全然違う所に届いているなって思いますね。
──2021年は2月と10月に配信ライヴをやって、観客を入れたライヴも徐々に再開しています。
ずっと弾き語りやアコースティックだったんですけど、去年はバンドでライヴをすることが多かったので、ライヴに対する向き合い方はすごく変わったと思います。信頼できる人と一緒に音楽を鳴らせて、そこにいてくれる安心感もすごくあって、人と音楽をやるのは楽しいなって最近気付いちゃいました。いままでがつまんなかったわけじゃないけど、1人だと「爪痕残さなきゃ」とか、変に気負っちゃってたと思うんですよね。
──それは素晴らしい変化ですね。バンド・メンバーとはどのように出会ったんでしょう。
去年、映像作品を作ろうと決めた時、初めてのバンド編成にも挑戦してみようかなと思いました。もともとmekakusheの音楽を聴いて声を掛けてくださっていたベースのサカモト(ノボル)さんを軸に、メンバー集めをしました。サカモトさんからRoomiesのギターの高橋柚一郎さんを紹介してもらって、笹川真生くんにドラマーの嶋英治くんを紹介してもらいました。そしてmekakusheの音楽にとってもっとも重要な鍵盤ですが、ポップスとクラシカルな要素を兼ね備えていて鬼難しいこともあり、岸部陽介さんというピアニストの方に声を掛けました。そうやって今の最強メンバーが集まりました。最初は2月の配信ライヴ1回きりの予定だったんですけど、その後タイミングよくライヴに誘っていただいて、バンド編成で出てみようかなって。バンドがはじめて、すごく楽しかったんです。
──そう思える人たちと出会えたのは心強いですね。
心強いです。ひとつ地球が出来た感じ。みんな優しくて、演奏技術も抜群な方たちにお願いできたので、自分の足りない部分を演奏で補ってくれるんです。アレンジも提案してくれるので、ライヴに関してすごい成長できた1年だなと思います。
──2月6日にもバンド編成での配信ライヴ〈mekakushe Online Live “Hatameki”〉を行いました。今回も複数台のカメラで撮影するなど作り込んでいる一方で、楽曲のアレンジや、生感の強い編集からはライヴとしてのこだわりも感じました。先ほども“映像作品”とおっしゃっていましたが、配信ライヴとはどのような位置づけで考えているのでしょうか?
ライヴ配信は今の時代、安心した環境下でライヴを開催できる唯一の方法だと思いますが、せっかくならライヴをそのまま流すのではなくて配信ならではのアプローチがしたいと考えていました。“映像作品”と題しているのは、それがライヴでもミュージックビデオでもない、ひとつの新しい形だからです。今後、普通にライヴができるようになっても“映像作品”という形で、ライヴとは別物として届けていきたいなと考えています。
──バンドへの信頼にもつながっているかもしれませんが、配信でありながらも、普段のライヴ以上に歌に感情がこもっていると感じる瞬間もありました。
バンド編成を始めてから丁度1年が経ち、だんだんと身体に馴染んできて、バンドがより良いものになってきているという感覚が歌っていてもするんです。現メンバーでのバンド編成になるまでは、何年間もピアノ弾き語りのスタイルで活動していたので、弾き語りの経験やスキルを積めたと思います。一方で、どうしてもライヴと音源の差に悩んでしまうことがありました。でも、弾き語りは弾き語りでしかない良さがあるのかも、と思うようになったんです。
──これまでは「音源を大切にしたい」とずっとおっしゃってたじゃないですか。もちろんライヴも大切にしてきたとは思うんですけど、バンド編成での演奏が楽しめるようになったことで、そのバランスや自分の中での価値も変化してきているんですかね?
自分の音楽性や世界観を確立したいと思って音源をリリースしてきたんですけど、ライヴで演奏することで逆に崩してしまったりする可能性もあると思うんですよ。バンドで演奏してうまくいかなかったら、音源のほうが良いってなりかねない。そういう意味でも、いまのバンドメンバーだからこそライヴをやろうと思えているんだと思うし、BIG・KANSYAですね。
──すごく素敵な関係性というのが伝わってきます。この1年は、バンドとともに成長してきた1年と言えるのかもしれないですね。
新型コロナウイルスがきっかけで、自分自身のことや音楽のことを見つめ直す中で、新たなことに挑戦しようと思って始めたことの1つが、バンド編成でした。この1年間、バンドとしてのグルーヴやスキルが上がり、メンバーとの信頼関係も出来て、すごくいいバンドになっていると確信できたので、今年も映像作品を撮って、今のバンドの記録を残したいなと思うんです。そしてこの先もっともっとよくなっていけると思うから、そしたら来年も撮りたい。個人的には、バンドの成長記録みたいな気持ちで作品を残しています。
──今年は観客を入れてのライヴも増えそうですね。
ライヴ活動に関しては、バンド編成をサポートメンバーと共により良いものにしていきたいし、弾き語りもずっと大切にしていきたいです。