都内を中心に活動する3人組のアンビエント・コア・バンド、Glaschelimが、kilk recordsから1stアルバムをリリース。その孤高のサウンド、幻想的な世界に感情が揺さぶられていくだけでなく、レーベル・メイトのukaをゲスト・ヴォーカルに迎えた「Remember The Breeze」ではポップな一面も垣間見せている。OTOTOYでは、アルバム収録曲から「Nuclear」をフリー・ダウンロードでお届け。今後大注目間違いなしのGlaschelimの真髄に迫ったインタヴューとともに、非日常で不思議な世界にトリップしてみてはいかがだろう。
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Glaschelim / Perfect Cradle
【販売価格】
mp3、wav共に単曲 150円 / アルバム 1,500円
【TRACK LIST】
1. Nuclear / 2. Prizma / 3. Miys / 4. Drift / 5. Light On Me / 6. Shadowland / 7. Mys / 8. Crystalline / 9. Remember The Breeze / 10. Perfect Cradle
INTERVIEW : 山口昇、三友豪司(Glaschelim)
kilk records所属のバンドのなかでも、シューゲイザーやエレクトロ、メタル、プログレをも取り込んだ音楽性に、ひと際大きく感情を揺さぶられるバンドGlaschelim。彼らが今回リリースする待望のデビュー・アルバム『Perfect Cradle』は、まるで1本の映画を観ているようなストーリー性と、美しく構築された世界観がつまっている。驚いたことに、今回のアルバムのメイン・コンポーザーとなっている山口昇にとって、自分の曲をアルバム音源として形に残すのは、今回がはじめてのことらしい。初アルバムにしてこの完成度とは、末恐ろしい…。今回は、山口昇と三友豪司の2人を迎え、彼らの幅広い音楽性の根源や、アルバムで構築した世界のなかに込められた思いなどをうかがった。
インタビュー & 文 : 前田将博
最初はバンドも遊びでやろうと思っていた
——山口さんが以前やっていたバンドが2006年に解散して、その後2009年にGlaschelimとして活動をはじめるわけですが、そのあたりの経緯をお訊きしてもよろしいですか?
山口昇(gt、prg、vo / 以下、山口) : 前のバンドが解散したときは、バンド自体が嫌になっちゃってたんです。なので、解散させて1人で適当に曲を作ろうと思っていました。音楽も真面目にやるのを辞めようって。そのときにちょうど森(大地、kilk records代表)くんに誘ってもらって、もう1回頑張ってみようかな思いました。でもやっぱりバンドは嫌だったので、1人でやろうと思ってたんです。
——森さんとは、もともと知り合いだったんですか?
山口 : もともと10年以上前から知り合いで、友だちだったんですよ。僕が音楽をやってたので気にかけてくれて、曲があったら聴かせてくださいって。で、聴いてもらったら、気に入ってくれたって感じですね。
——それからGlaschelimとしての活動を開始するわけですが、その頃はまだソロだったと。
山口 : しばらくはそうですね。1年くらいは。当時はライヴをやっていなかったので、自己満足で完結していました。でも、そのあとライヴをやりたくなっちゃって。最初はバンドも遊びでやろうと思ってたんですけど、三友が持ってきた「Crystalline」て曲のベースを聴いたら、一緒にもう1回バンドをやりたいって思いました。その頃、三友はAureoleを辞めたばかりだったんですよ。だから、ちょうどいいタイミングでした(笑)。それまで面識はあったけどあまり話したことがなかったんですけど、話してからは早かったですね。
——三友さんの存在は、もともと気になっていたんですか?
山口 : いや、当時は人間的にもよく知らなかったです(笑)。
三友豪司(syn / 以下、三友) : 連絡をもらったときは、「なんで俺?」って感じでした(笑)。「一緒にバンドやりませんか?」って電話がかかってきて。
山口 : 1人でやるのが、寂しくなってきたんですよね(笑)。Glaschelimは僕1人でやりたかったし、簡単にはメンバーを入れたくなかったんです。でも、気楽なんですけど寂しくて、結構孤独がテーマな曲が多かったですね。マイナスにばかりいかないように、それをどう解放させるかを考えていました。
——それで、ライヴがやりたくなった。
山口 : そうですね。ライヴってやっぱり暴れたくなるじゃないですか。黙って突っ立って弾くのが苦手で、暴れたくなる。それが懐かしくなっっちゃって。
——声をかけてからは、すぐに意気投合したんですか?
山口 : 早かったよね。
三友 : デモを聴かせてもらったら、激しいけど静かみたいな、真逆な感じがあって。そういう面がすごい一致して、だんだん話すようになりました。根本のやりたいことが似てたっていうのは大きいと思います。
山口 : 波長が合うってだんだんわかってきたらおもしろくなっちゃって。すごい悩んだんですけど、人間的にも音楽的にも信頼できるので、これは一緒にやるしかないなと思いました。
——直接のきっかけは、先ほどおっしゃっていた「Crystalline」だったんですか?
山口 : 曲のベーシックなものを作って持ってきてくれたんですけど、それがすごい好みの曲調だったんですよ。で、好きにいじらせてもらって、ベース・ラインを変えたりリズムを変えたりギターを入れたりってやってたら、お互いにこれすごいよねってなって。同じ感覚で曲を作れるっていうのがわかったことが大きいですね。僕にとって共作自体がはじめてだったんですよ。それまで、ずっと自分1人で曲を作ってアレンジまでやってメンバーに聴かせる感じだったので、これはおもしろいなと思いました。
——ドラムの広瀬(一磨 / dr)さんは、どんな経緯で入ったんですか?
山口 : あいつとはもともと友だちで昔バンドも一緒にやってたんですけど、叩く音が好きだし、相性的にもすごくやりやすかったんですよ。だから、遊びでやろうってスタートしたときから、あいつしかいないと思っていました。性格とかも全部知ってたし。だから、三友との関係がだんだんよくなってバンドにしようってなったときに、3人でGlaschelimをやろうと思いました。
対極にあるものを曲のなかに存在させる
——今回のアルバムを聴いても、ロックやノイズ、アンビエントなど、いろいろな音楽性が見えますが、普段はどんな音楽を聴いているんですか?
山口 : めちゃくちゃですね。ポップスからノイズまで、なんでも聴きます。洋楽がメインですけど、アイドルなんかも全然聴くし。あんまりジャンル関係なく、曲が よければなんでも聴きます。
——もともと作っていた音楽も、いろんな音楽性が混ざり合ったものだったんでしょうか。
山口 : 1人で作っていた頃は、もともといろんな音楽を聴いていたせいか、そのときの気分で作るものが変わってましたね。アイドルっぽい曲とかデス・メタルぽい曲を作って遊んだり、ギター・ポップを作ったり。そんなときに誘ってくれたからちょっと絞ってみようって思って、僕なりにキルクっぽい曲を出しました。
——Glaschelimとして目指している世界観というのは、どのようなものなんでしょう。
山口 : 相反するものの共存ていうのがひとつのテーマになっていて、対極にあるものを曲のなかに存在させるっていう。それもお互い共通してたっていうのが大きいですね。結構あまのじゃくなので、中間に行こうとするんです。例えば、マイナーものとメジャーものだったら、その中間になる。どっちでもないけど、どっちにも行ける。ジャンルでっていうよりは、気持ちですかね。昔からそういう思いはあったんですけど、それが一気に強くなったのがGlaschelimをはじめてからです。それは突き詰める価値があるというか、おもしろいと思うので、今後も模索していきたいですね。
——今回のアルバム『Perfect Cradle』に収録されている曲は、1人で作っていたときのものがメインなんですよね。
山口 : 本当に個人的な曲ですね。自分のなかでは。それまではメンバーの好みに合わせて曲を作ったりしてて、人間関係も疲れちゃって、1人で気楽にやってた方がいいやって思ってた時期に作ったので。曲は結構前に仕上がってたんですけど、バンドが固まってちゃんとライヴができるようになるまでは出したくないってのがあったので、わがまま言って待っててもらいました。
——バンドでやろうってなったときに、録り直そうとは思わなかった?
山口 : やっぱり、すごい個人的な感情で作った曲が多かったので、それをメンバーと録り直すのにすごい疑問を感じてたんです。葛藤もあったんですよ。いまはバンドになったから録り直したほうがいいかなって。すごい悩んだんですけど、メンバーも今回はこれで出しなよって言ってくれて。結果、いまのメンバーが関わったのは2曲だけなんですけど、それが入れられただけよかったかなと。今回はミックスも自分でやらせてもらってし、まわりは心配だったと思います。
三友 : 今回のアルバムに関しては、山口のある意味集大成的なものっていうのがありましたね。これは彼の思いが強く入ってるから、あくまでもそのままがいいかなって。でも、いまはバンドとしてやってるって思いが強いです。一緒にやっていこうって流れがあって、こうして形になったので、僕もすごくうれしかったですね。
——山口さんは普段、どんなときに曲を作りますか?
山口 : 普段は基本的にあまり作らないんですよ。曲を作るときに、情景や景色を昔からすごい重要視していて、なにかの感情と情景が一致したときにバっと書ける。だから、ギターを持ってるときっていうよりはドライブ中とか、そういうときに浮かぶことが多いですね。
——実際に見えている景色に流れているような音楽をイメージするんですか?
山口 : それもあるし、妄想の景色で作るときもあります。結構ロマンチストなんですよ(笑)。だから、ありそうでない景色を想像したりするのがすごく好きで、そこに自分の感情が合致したときに、よい曲になる気がします。
——その感情の振れ幅によって、曲調も変わってくると。
山口 : 狙って曲調がばらけているわけではないんです。同じ感情でいることってないじゃないですか。一瞬一瞬で違うし、曲もそれを反映するから似たような曲はできないですね。
——普通の人なら、ハード・ロックならハード・ロックみたいに、同じジャンルのなかで感情の触れ幅を表現する人が多いと思うんですよ。山口さんはもともと持ってる音楽性が幅広いので、感情によって音楽性まで変わってしまう感じなんですかね。
山口 : そうですね。でも、どれも自分のなかから出てくるものなので、根底にあるものは筋がとおっていると思いますよ。
——このアルバムを通して聴いたときにも全体にすごくストーリー性があって、ある意味コンセプチャルだなと思いました。1枚をとおして物語が進んでいくような。そこは作っているときから考えていたんですか?
山口 : 入れようと思って外している曲もあるんですけど、流れは重視しました。自分のなかでのストーリーってものが、やっぱりあるんですよ。曲のなかでのストーリーや、アルバムのトータルでのストーリーが。でも、それはちょっと恥ずかしくてメンバーにも言ってないですけど(笑)。どんなものが浮かぶかは、聴いた人にゆだねます。
三友 : 僕もすごく絵とか映像が浮かびますね。インストだから特にそうですけど。僕も妄想が好きなんですけど、同じ曲で同じ絵が浮かんだりしたこともあって、なおさら一緒にやりたいなと思いましたね。
——映画を観ているような感覚になりますよね。
山口 : 映画は好きですからね。SFが大好きだし、その世界に自分が入れるような映画が好きですね。
——それは、非日常的なものを求めているのでしょうか。
山口 : 映画を観ているときはそういうふうになりたいですね。普通にコメディとかアクションも好きなんですけど、単純に子供に帰っている部分もあると思う。自分の音楽に近いものだと、例えば「千と千尋の神隠し」みたいな。ありそうでない風景だけど、どっかでみたような景色だったりっていう、ああいう感じですかね。もっとかけ離れた景色でもいいし、日常で有り得ない景色でもいいんですけど、たまたま夢で見た自分がぽつんといた景色みたいなものが頭にずっと残っていたりします。
——ちょっと懐かしい景色というのは、それぞれの心のなかにある子供の頃の原風景みたいなものなんですかね。
山口 : それはあると思います。普段からすごく思い返したりして、懐かしんだりとかしますね。だから、三友とはそのへんでも話が合ったりしたんですよ。世代が近いからかもしれないですけど、昭和はよかったよねとか(笑)。僕の出身は埼玉の志木ってところなんですけど、田んぼが広がってて、この時期はカエルが鳴いてたりとかします。そういう懐かしさとかは、すごく大事にしていますね。
いまは、バンドをとおして青春してる感じ
——アルバムのなかで、「Remember The Breeze」だけヴォーカルが入っていますよね。
山口 : ukaさんの曲ですね。あの曲はもともと僕がデモで歌ってたんですけど、それがあまりにも酷くて(笑)。誰か女の人に歌ってほしいってずっと思っていたんですよ。こういう声の人がいいっていうイメージは頭のなかにずっとあったんですけど、なかなかしっくりくる人がいなくて。で、キルクのコンピレーションを出したときにukaさんも入っていて、その声が僕のなかでドンピシャで、なんとか歌ってもらえないかなって思ってお願いした感じですね。歌ってくれる人の声に妥協したくはなかったんですけど、まさか同じキルクにいると思わなかったです。本当にukaさんの声が好きなんですよ。まっすぐ声を出す人で、優しさ、包容力を感じられる声なんです。ukaさんの歌を聴いてからは、この人しかいないって思っていたので、歌ってもらえてすごくうれしいですね。
——今後もヴォーカルを入れた曲を作りたい気持ちはありますか?
山口 : 正直ありますね。今の時点ではわからないですけど。他の曲でも歌が入ってはいるんですけど、ヴォーカルってよりは割と楽器の一部みたいな感じで入っているじゃないですか。自分に歌唱力があれば歌ものもやりたい気持ちもあるんですけど、とりあえず歌が下手なので(笑)。だから、もしバンドがこのまま続いて作品を出していけるんだったら、将来的にヴォーカルが入る可能性もあるかもしれないですね。
——Glaschelimがバンドになって、これからは山口さん以外の曲も増えるかもしれないですね。
山口 : そうなりますね。自分1人で作るような曲もあると思いますけど、曲重視で、できたものがよければみんなで作ろうが1人で作ろうがOKっていう感じです。
三友 : 僕も曲を作りたいんですけど、いまパソコンが壊れちゃってて(笑)。頭のなかにはいっぱいあるので、そういうのはレコーダーで録ってストックしています。僕が作ったのもがよければそれをやるし、3人でジャムった曲がよければそれをやるって感じですね。
山口 : ワンマン・バンドではないので、みんな平等にやっています。いまは、バンドをとおして青春してる感じもありますしね。いい年なんですけど(笑)。
——すごくよい状態なんですね。今後作っていく作品は、今回のアルバムとはまた違った世界観になるのでしょうか。
山口 : どうなんですかね。多少は変わると思うんですけど、基本はズレてないと思います。目指すものが似ているので、方向性はブレないんですよ。対立しても最終的にそこに辿り着くというか。
三友 : それはすごく感じますね。
山口 : もう次の構想もあるんですよ。EPを出して、次のアルバムを出してっていう。それがどういう情景が浮かんで、どういうストーリーがあってっていうのも、妄想好きなのでもう考えているんです(笑)。それをお互いに話し合ったときに、またどれだけ話がこじれるか楽しみですね。
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Meme / acqua alta
前作「alku ringo」を発表以降、徐々に評価が高まっていった良質なアンビエント/エレクトロニカ/フォークバンドによる最新作。今作は「本と日常の為の音楽」という明確なコンセプトを掲げ、全曲を通してゆったりと聴ける作品に仕上がっている。幼い頃に母と手を繋ぎながら渡ったあの踏切、公園に散らばる落ち葉の上を歩く秋の夕暮れ時、寒い冬の日に暖房の音を聴きながら窓の外を見て過ごしたゆっくりとした時間。何の悩みもなくただただ幸せだったあの頃のような心の平安がゆっくりと蘇ってくる。疲弊しきった心をリセットしたい時、椅子に腰掛け、読書でもしながらこの作品を聞いてほしい。
Aureole / Reincarnation
Aureoleの通算3枚目のアルバム。オルタナティブ・ロック、エレクトロニカ、現代音楽、アンビエント、ダブ・ステップ、ポスト・ロック、クラシック、シューゲイザーなど様々な要素を飲み込み、前作2作から、より進化を遂げたキャリア最高作。『Reincarnation』=再生、輪廻と題された今作では、前世/現世/来世、生/死、時間/空間、真実/虚構をテーマに、それらを超えた、その先の希望に満ち溢れる。
>>Aureole特集ページ前編はこちら
>>Aureole特集ページ後編はこちら
木村達司 Morgan Fisher TOSHIYUKI YASUDA / Portmanteau
発祥の時代には特異だった"アンビエント"という音楽も、時代の流れのなかで異種交配しつつ普遍化し、いまでは多様なジャンルと影響しあっている。今作は単純にアンビエント・ミュージックを標榜したものではなく、三人の音楽家それぞれが多種多様に存在する"アンビエント的"要素、記号のなかから取捨選択し膨らませた、言わばアンビエントでありながらアンビエントに囚われてはいない、イメージ豊かに静謐ななかにもオーガニックで微熱を帯びた現代の電子音集となっている。
木村達司 Morgan Fisher TOSHIYUKI YASUDA>>の特集ページはこちら
PROFILE
Glaschelim
2006 年、自身が率いたバンドZIEXTをヴォーカルとの決別を機に解散。 その後は音楽性をより自由な方へと解放し、自身が見たこと、感じたこと、体験したこと などをそのまま曲として書き溜めていく。
2009年Glaschelim(グラシェリム)と命名し活動を本格化。 アンビエント / シューゲイザー / エレクトロニカの「美」、インダストリアル / メタルの「激情」、ロック / サーフ・ミュージックの「解放感」、それらすべてが一体となった楽曲は多くの聴衆から賛辞を得ている。
ライヴはバンド編成で行ってお り、よりアグレッシヴなステージを繰り広げている。