計算ではなく、良い音楽を作りたい──とけた電球がニューシングルに込めたバンドとしての美学
中毒性の高いサウンドと切なくも甘酸っぱい歌詞が着実に評価されはじめているロック・バンド、とけた電球が新曲「どうすんの?」「灯」を2作同時リリース。心に響く瑞々しい歌詞と彼ららしいバンドサウンドの魅力のあふれる2曲に仕上がっています。シリーズ累計 600万部突破したマンガ『ホリミヤ』の実写ドラマの主題歌として起用されたこの2曲に、どのような美学を込めたのか、メンバー4人に話を訊きました。また、オトトイでダウンロードしていただいた方限定特典として、メンバー全員のサイン入り画像がゲットできます。こちらも併せてぜひチェックを。
とけた電球ニューシングル、2作同時リリース
INTERVIEW : とけた電球
とけた電球が2020年2月16日からMBS/TBSで放送開始するドラマ『ホリミヤ』のオープニング & エンディング曲を担当する。鈴鹿央士 と久保田紗友のW主演で、監督は松本花奈が務めるということもあり、これまでに以上に勝負をした楽曲になるんじゃないかと思って「灯」と「どうすんの?」を聴いてみた。中でも「灯」は、個人的にとけた電球史上1番好きな楽曲となった。J-POP特有の上質な泣きメロ、序盤からラストに向かって盛り上がるストーリー性のあるアレンジ、個々の楽器が光った演奏。もちろん「どうすんの?」も良曲だが、今回は「灯」について重点的に話を聞きたいと思った。
インタヴュー&文 : 真貝聡
写真 : 作永裕範
俺には恋の歌が響かなくなってる
境直哉(以下、境):お久しぶりです!1年ぶりですね。
岩瀬賢明(以下、岩瀬):あの男の子は元気ですか? (前回のインタヴューではドラマーの髙城に憧れて同じ軽音サークルに入ったという、大学生のインターンHくんが登場した)
――ちょっと分からないですね(笑)。なんか3ヶ月くらいでインターン期間は終了するらしいです。
岩瀬:あ!そうなんですね。
とけた電球、以前のインタビューはこちら!
それこそ前回のインタヴューの話から聞きたいんですけど、去年3月に『WONDER by WONDER』をリリースして反響はどうでした?
境:僕らは月に何本もライブをやるバンドだったので、これまではお客さんの反応を目の前で知ることができたんですよ。だけど『WONDER by WONDER』をリリースをしたタイミングでコロナ禍になり、ワンマンライブも中止になって目に見える手応えを得られなかったのは残念でしたね。
――スケジュールはどう変わりました?
岩瀬:3月に予定してたワンマンもそうですし、そこで発表する予定だったワンマンも無くなり、5月の「VIVA LA ROCK」も、9月にはWWWXワンマン、秋にはツアーを回る予定だったんですけど、全部白紙になっちゃって。
――お客さんの前に立つ機会がなくなったことで「とけた電球ってどう思われているんだろう?」と不安になることはありました?
岩瀬:ありましたね。これまで僕がいた音楽の環境は、ライブハウスでどんなにお客さんが少なくても、誰かが見つけて引っ張ってくれて、大きなステージに立たせてもらえるような成功のパターンが多かったんですけど。だけど、それがなくなってしまって。
――だからこそコロナ禍でトークの様子を配信したり、ライブを配信したりして。ただ、そこまで視聴回数は伸びてないですね。
岩瀬:今は実力の有無に関係なく、すでに多くのファンを抱えているアーティストが勝ち続ける時代だと思うんですよ。配信ライブをやったところで、わざわざ知らないバンドを観ないじゃないですか。ライブハウスに目当てのバンドがいて、対バンしてる他のバンドのライブを観たら意外と良くて好きになる、というパターンが生まれなくなっちゃった。だから僕らみたいな、まだこれからのバンドはマジで何も作品を出す機会がないと速攻でオワコン化しちゃうんじゃないかって、そこを一番に心配してましたね。
――コロナ禍になり、有名アーティストがサブスクを解禁したり、無料で過去のライブ映像を公開したりしてますからね。知名度がまだまだだと、不利な状況ではあるかもしれない。
岩瀬:そうなんですよ。大きいアーティストはサービスにお金をかけても、ちゃんと返ってくるじゃないですか。そもそも配信ライブという文化が根付いてないのに、僕らが参入してもアガリが分からないから経費も掛けられないし。やったら逆に見栄えが悪くなってしまうことも大いにある気がして、最初はどうしたら良いのか分からなかったです。
境:そもそも闇雲に行動すれば良い、という時代でもなくなっちゃったんですよね。そこが難しいよね。
――その問題に対して、何か解決策は見つかりました?
岩瀬:他の3人は分からないですけど、僕はずっと憂鬱な気持ちに陥っちゃってて。果たしてバンドを続けられるのか?という不安もあったんですよ。そんな時に『ホリミヤ』のタイアップを務めるオファーをもらって。目標ができたおかげで立ち直れたし、心が動き出しましたね。
よこやまこうだい(以下、よこやま):話をもらったのは去年2020年の9月くらいだったよね。
――ここから新曲の話に移りたいんですけど、「灯」は何回も聴くくらい大好きなんですよ。なので楽曲について「歌詞に込めた思い」とか「アレンジのやり方」だけじゃなくて、どういう流れで作ったのかを詳しく教えて欲しくて。
岩瀬:まず『ホリミヤ』の原作を読みました。単なる青春甘酸っぱい系じゃなくて愛情を描いてる作品かなと思いました。お互いにコンプレックスを抱えているけど、相手のことを守ってあげたい、という印象を受けたんです。僕も恋愛している曲よりも愛情のある曲を作りたい時期だったので、良いタイミングなと思って、そんなイメージで作り始めました。
境:早い段階で歌詞もメロディもほぼ出来てたよね。最初はどういう思いで作ったの?
岩瀬:何だったかなぁ。
境:特に、「こういう曲を書いてください」と言われず、自由に作らせてもらえたじゃん。
岩瀬:そうだね。直しもあったんですけど、本当に少しだけで。基本は好きなように書かせてもらったんですよ。えっと、僕も主人公・宮村くんに似てるなと思ってて、僕は内弁慶というか人によって自分の出し方が変わっちゃう人間なんです。メンバーの中ではよく喋るし明るめではあるんですけど、他の人の前では基本喋らないし、何ならあまり人と関わりたくないし、人前に出たくない。そんなところも共感したし、宮村くんも「昔はちゃんと変わりたいと思ってた」とか、そういうところにシンパシーを覚えて歌詞を書いた気がしますね。
――曲を作る上で、ヒントになったシーンはありますか。
岩瀬:「結婚しよう」というシーンがあったよね。
境:分かる!あそこは良いよね。
岩瀬:あのシーンを読んで「お前ら高校生やん」と思ったんですけど、そこには高校生なりの覚悟もあったんだろうなと思って。自分の高校時代を思い出したら、流石に俺は言えないなって。ちゃんと「結婚しよう」と言えるのは覚悟を感じるし、恋じゃなくて愛だったんだろうなと思いました。そこで愛を描こうと決めた気がしますね。あ、そうだ。高校生なのに「結婚しよう」と言うのは、おかしいかな?という意味で最後の歌詞にも「そんなのおかしいよね」と書いたんだよ。
境:あ、そういうことだったんだね。今までの岩瀬ってさ「愛を否定はしないけど、恋を描きたい」と言ってたじゃん。それなのに愛の要素が強いなと思ってて。その心境の変化は何だったのかなと疑問だった。
岩瀬:響かないんだよね、恋の歌が。
境:ん?
岩瀬:俺には恋の歌が響かなくなってる。甘酸っぱい失恋とか、流行っている恋の歌はたくさんあるじゃん。年を重ねていくに“永遠”はないなと気づいちゃったので、マジで俺に響かないんだよね。「あの時、君はこうした」と言われても「また次があるしな」って。本当に響かなくなっちゃって。だけど俺は歌い続けなきゃいけないし、曲を作り続けなきゃいけない。個人的に俺が音楽を続けていく上で、ちゃんと恋じゃなくて愛を描けなきゃいけないと思ってて、それで今回挑戦したというか。
――誰かを好きになるきらめきの部分じゃなくて、もっと本質的な部分を描きたくなった。
岩瀬:そうですね。世の中全般でいう恋の歌が響かなくなってきたことで、最初は自分の感受性がダメになったのかなと悲しかったし、もう才能は死んだのかなと思ったんですけど。ちゃんと考えれば、ずっとそこに固執する必要もないし、他で曲を書けるならそっちの方が良いなと思ったので、とりあえず今は恋とかそういういざこざから離れて、愛情を描くステージに行きたいなと思って作りましたね。ここ最近の曲って僕だけじゃなくて、誰かが関わって歌詞を書いていた部分があるんですよ。だけど、「灯」に関しては全部1人で作り切ろうと思って書いたのはありますね。
――曲の構成はどうやって考えたんですか。
岩瀬:商業的な話ではないですけど、やっぱりドラマ主題歌という多くの方が聴く機会なので、サビ1回とかサビ2回とかの曲も作るんですけど、そういうのは止めようと思って。ちゃんと印象的なサビを作って、壮大なCメロがあって、最後にオチサビがあってラストサビがあるような、ちゃんとオーソドックスに作ろうと構成を考えましたね。あとback numberの「水平線」という曲がめっちゃ好きで、全体のアレンジの壮大感もまさにああいう感じにしたいと思ったんです。それで先方(ドラマ制作サイド)に楽曲を提出する前日の夜、(よこやま)こうだいに「水平線みたいな曲にしたいんだけど、アレンジを頼むわ」って、弾き語りのデータを送りました。そこから深夜4時くらいに連絡が来て「俺の体力が切れる前にチェックしてくれ」って。
髙城有輝(以下、髙城):アハハハ、カッコイイ!
岩瀬:徹夜で作ってくれた音源を聴いて「完璧だよ!ありがとう!」と言って、それを送ったら先方の方もOKしてくれて。それがデモの第一段階ですね。