2703年、月面、神様のミラーボール、強烈なるダビー電子トリップーージ・オーブの最新作をハイレゾで配信開始
UKダンス・シーンのベテラン、ジ・オーブ。ここ数年はリー・ペリーやデヴィッド・ギルモアなど超が付く大物たちとのコラボが続いたが、単独としてはひさびさとなる新作『MOONBUILDING 2703 AD』をリリースする。今回はタイトルからしてスペーシーな、SFじみた世界観を持ったテクノ・アルバムだ。
10分前後の長尺トラック4曲で構成されたアルバムで、各楽曲は時間軸の推移とともにDJミックスのようにさまざまなスタイルを行き来する。ベーシック・チャンネルじみたテクノ・ダブ、ナイトメアズ・オン・ワックスのようなスモーカーズ・デライトじみたダウンテンポ、そしてお得意のアンビエント・テクノ…… それぞれが溶け合い、絡みつきながらヌメヌメとそのスタイルを変えていく。これぞまさにジ・オーブ・ワールドと言いたくなるようなサイケデリック・ヴィジョンを見せてくれる。サウンド・ジャーニー。さぁ、ジ・オーブのサウンドとともに楽しきトリップの世界へと飛び出そうじゃないか!
OTOTOYでは本作を、ジ・オーブ作品としては初となるハイレゾにて配信を開始する。気に入ったらハイレゾで持っておこう!
The Orb / Moonbuilding 2703 AD
【Track List】
01. God's Mirrorball / 02. Moon Scapes 2703 BC / 03. Lunar Caves / 04. Moonbuilding 2703 AD / 05. Moon Quake 1 (Bonus Track) / 06. Moon Quake 3 (Bonus Track)
【配信形態 / 価格】
【ハイレゾ版(左)】
24bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 288円 アルバム 2,571円
>>ハイレゾとは?
【通常版(右)】
16bit/44.1kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 257円 アルバム 2,057円
mp3
単曲 205円 アルバム 1,543円
INTERVIEW : アレックス・パターソン(ジ・オーブ)
「地球と月のラヴ・ストーリーかもしれないし、なんでもいいんだよ。設定が未来の28世紀で、そこで起こるいろんなストーリー。23世紀とか『スタートレック』で描かれている未来よりもずっと先の話。23世紀くらいの未来だと、すでに『スタートレック』や他の作品を見てるから、みんな想像がつくだろ? だから俺たちは、それよりもっと未来の世界を提示することにしたんだ。そこでは、いまはまだ発見されていない何かが発見されているかもしれないし、人間が新しい惑星を建てているかもしれないし、宇宙人もいるかもしれない。ストーリーは自由さ。リスナーには想像力を存分に発揮して欲しい。アルバムに関する批評も同じさ。なにを書かれたっていいんだ。俺は気にしない」(アレックス・パターソン)
その中心人物、アレックス・パターソンが語るように、ジ・オーブの新作『MOONBUILDING 2703 AD』は、音楽で見たこともない景色の強烈なトリップをけしかける。
まあ、ジ・オーブの作品はほぼいつでもそうだ。つまるところ、ジ・オーブ・ファンにとっては待望の、あの壮大な景色とともに、あっけらかんとサイケデリックなトリップへと誘う、彼らの作品が6年ぶりに帰ってきたといえばわかるだろうか。
「プロセスは自由だったし、エクスペリメンタル・レゲエ、エクスペリメンタル・テクノ、ジャズのリズム、いろんなものが放り込まれてる。とにかくこのアルバムは、ふたりの要素が盛り込まれた音の旅って感じだな」(アレックス)
ふたり… そう、アレックスの他にもうひとり、本作には重要なメンバー / コラボレーターがいる。ドイツ人テクノ・アーティスト、トーマス・フェルマンだ。
ジ・オーブは、その活動開始以来一貫して、アレックスのプロジェクトなのだが、単に彼のソロ・プロジェクトというのもちょっと違う。ほぼ毎回さまざまなコラボレーターとともに楽曲を制作、そんなコラボレーターとの相性や影響によって毎回作品ごとのスタイルを変えてきている。そこもジ・オーブの音楽性の肝なのだが、そのなかでも、ジ・オーブ最初期から度々コラボレーションを行いながら、2010年以降は他のコラボレーターよりも抜きん出て共演回数の多いのがトーマスだ。
トーマス・フェルマンの存在感
トーマスはミニマル・ダブのオリジネイターでもあるモーリッツ・フォン・オズワルドらとともに、1980年代のジャーマン・ニューウェイヴ(ノイエ・ドイチェ・ヴェレ)期から活動し、1990年代に入ってからはベルリンのテクノ・シーンを築きあげきたアーティストのひとりといってもいいだろう(トーマスは伝説のノイエ・ドイチェ・ヴェレ・バンド、パレシャンブルグのメンバーでもある)。トーマスとアレックスの関係性は、前述のようにユニット最初期にまで遡り、ジ・オーブのクラシック中のクラシック、1991年のファースト・アルバム『The Orb's Adventures Beyond The Ultraworld』にも参加している。さらに、今回のようにアルバム1枚まるごとアレックスと共同制作というところでは、シュールでサイケデリックな作風が頂点にまで達した1994年のミニ・アルバム『Pomme Fritz』や1995年のアルバム『Orbus Terrarum』が最初となっている。ジ・オーブの作品にはそれ以降、ほぼどの作品にも全面共同プロディース、“数曲にだけ参加”というどちらかの形でトーマス・フェルマンが関わっている。前作にあたる2009年『BAGHADAD BATTERIES』、2013年の一連のリー・ペリーとのコラボもトーマスとの共同プロデュースだ。
トーマスが参加していないジ・オーブの作品は、2007年のわりとレゲエ色の強いアルバムでティム・ブラン(元ドレッドゾーン)が全面的に参加している『The Dream』。あとは2011年にピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアとのコラボ作品、2010年の『Metallic Spheres』ぐらいと言える。
もはやジ・オーブのメンバーと言ってしまいたくなるほどだ。とにかくアレックスからの信頼が厚いのだろう。以前に著者が行ったふたりへのインタヴューではお互いのことをこのように答えている(リー・ペリーとのコラボ作品時に行ったものだ)。
「20年間の付き合いだが、ただフィーリングが合う仲なんだ。音楽作業の時はお互いの考えている事が手に取るように感じられるから、即興で曲なんかも自然に作れるんだろうな」(アレックス)
「彼はロンドンにいて、僕はベルリンにいて、ひとつのプロジェクトをやろうと思ったときに、その期間は集中する。逆にそれが終わると距離を置くんだ。音楽の仕事をやっていくうえで一番楽しい部分だけを共有することができるんだ。レコーディングを行うと、とても早く良いものができて”え? 俺らがコレを作ったの?”となるぐらいエキサイティングな瞬間が生まれるんだ」(トーマス)
微細な電子音が宙を待う、ミニマル・ダブ的な繊細なエコーの流れはトーマスのソロのサウンド・メイキングに躊躇な特徴だが、やはり彼が参加したジ・オーブの作品にはそのあたりの手腕がきっちりと反映されている。というか、アレックスらしいレゲエ~ダブのベースラインとコラージュ感覚、それを包み込むミニマル・ダブ的なエコー・サウンドは現在のジ・オーブのサウンドの方向性を決めてしまったといってもいいだろう。もちろん、本作にはそんなサウンドがしっかりと埋め込まれている。
ジャーマン・テクノ老舗〈コンパクト〉からのリリース
「今回は俺とトーマスだけだし、ただのミニマルだけではないサウンドをリリースすることによって〈コンパクト〉の音の可能性を広げることもできる。そんな目的から〈コンパクト〉からリリースすることにしたんだ」(アレックス)
さて、本作をリリースした〈コンパクト〉といえばミニマル・テクノのオリジネイター的なレーベル。1990年代末からリリースを開始し、2000年代はシーンを席巻するまでの影響力を持つことになったケルンのレーベルだ。ジャーマン・テクノ・シーンの重鎮、トーマスとも関係が深く、彼のソロ・アルバムなども多数リリースしている。
ジ・オーブは、2005年にこの〈コンパクト〉からアルバムをリリースし話題をさらった。1990年代のダンス・シーンの怪物が、2000年代当時、時代の寵児とも言えるレーベルからリリースしたことは話題となった。もちろんこのリリースはトーマスの橋渡しもあったのではないだろうか。またそのときリリースされた『OKIE DOKIE IT'S THE ORB ON KOMAPAKT』は前述のトーマスとの、その後のコラボを想起させるミニマル・ダブ・テクノのスタイルを強調したものであった。
ちなみにだが、ドイツとUKのダンス・ミュージックは結構な質感の違いがある。たとえばテクノひとつとっても、わりと混ざるところは混ざっているのだが、やはりその感覚には大きな違いがあることが多い。そして、かなりUKらしいサンプリング主体の雑食性を持ったアレックスの音楽性を考えると、ジ・オーブがジャーマン・テクノの当時の王道とも言えるレーベルからリリースしたことは少々驚きに値する出来事だったというのもある。
「ふたりだけではずっと長いことやっていなかったから、このアルバムのためにトーマスとふたりで作業をはじめたんだ。フィーチャーするアーティストがいないぶん、いままでとは違う、エクスペリメンタルなものを作ろうと話しながらね」(アレックス)
想像し得ない、未来の音楽へ
あからさまにSF的なモチーフとなった新作『MOONBUILDING 2703 AD』。これまでもジ・オーブの作品には、『The Orb's Adventures Beyond The Ultraworld』収録曲など、スペーシーなイメージのものはわりと多い。が、彼らの作品のなかで、ここまでストレートにストーリーを想起させるほどSF的なモチーフの作品は珍しいのではないだろうか。どちらかといえばジ・オーブといえば、もっとも複雑な要素がちりばめれた、抽象的なサイケデリック・ヴィジョンを作品のモチーフとして持つことが多い。が、今回はSFである。
「音楽に限らず、型にはまらないなにかを加えたいときは、SFはすごく良い要素だと思う。もし独創的なものを求めないのであれば、女に傷つけられたとか、ベイビーがどうしたとか、そんなことに関する音楽を書いてればいいんだ。それは20世紀の話で、今は21世紀なわけで、俺たちは28世紀に関する音楽を作ってる。ディスコやジャズ、レゲエなんかの要素を使いながら、それとかけ離れた音楽を作っているんだ。人によっては、かなりヘンテコな音楽だと思うかもしれないけど(笑)」(アレックス)
うむ、さすがアレックス。というか、日本のポップ・ミュージックってこういうこという人少ないよなと思いつつ。このあたり、本作に限らず、25年にも渡ってまさにジ・オーブのサウンドの下に通じている大事な、大事な地下水脈的思想ではないだろうか。未来の音楽、聴いたことのない音楽を、と。ちなみに「2703年」の意味を問うたところ「俺の子供たちの誕生日なんだ。ひとりは27日生まれで、もうひとりは3日生まれだから。ちなみに、娘と息子なだよ」と、このあたりはわりと大雑把。
さらにSFモチーフということで、彼のフェイヴェリットSF小説を聞いたところあげてきたのは、フィリップ・K・ディック『Time Out Of Joint』。邦題は『時は乱れて』。ディックはご存知のように映画『ブレイドランナー』の元ネタとなった『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の作者として知られるSF作家だ。まぁ、当然というか、その音楽のトリップ感を考えれば、ディックというのもうなづけるのだが、強烈なトリップを扱った『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』とかアレかなと思ったのだけど…… わりと初期の作品『時は乱れて』とは。理由を尋ねれば「理由なんてないさ。読めばわかる」とのことで、はい、読んでみましたよ。『時は乱れて』は、とある新聞懸賞に正解しまくる男が主人公で、そんな男が次第にさまざまな形で日常に違和感を感じ、そこから逃走を図るという話…… これがまた読んでいると「ああ、なるほど」と。本作のもろもろのタイトルのイメージなどとも直結しているなと。たとえば「時間の概念」「月」とか……。小説のネタバレになるのでこれ以上書きませんが。
『MOONBUILDING 2703 AD』のサウンド
「そう。アルバム全体がひとつの音楽なんだ。4つの異なるトラックをどう繋ぐか、これもまたチャレンジだった。逆に似通ったトラックばかりだと、1時間もそれを聴き続けるなんてつまらない作品になってしまうだろ? そういうことにいろいろと挑戦することで、境界線を押し上げたかった。難しいからといって12インチでシングルとして出すのではつまらないし、長く聴くには飽きてしまいがちなエレクトロという音楽をいかにおもしろくするかというのを実現して、新しい可能性を広げたかったんだ」(アレックス)
いまだに刺激的な作品をリリースしている、これまた彼の“思想”を物語っているものと言えるだろう。最後に『MOONBUILDING 2703 AD』のサウンドの全体像を解説しておこう。
『MOONBUILDING 2703 AD』は、ボーナス・トラックを除いて4曲のセグメントで分けられてる。タイトルがある種のストーリーを示唆しているのだとは思うが、冒頭で触れたように、1トラックのなかでDJミックスのように複数の楽曲が展開していくような構成になっている。10分超えの楽曲が3曲、そして残り1曲は9分と長尺の楽曲で占められている。
アルバムは「GOD'S MIRRORBALL」のゆったりとしたアンビエントなダウンテンポからはじまる。エコーの海のなかをゆったりとした足取りで進んでいくか、10分前後からダブステップ的なベースラインが張り出してくると、次第にビートはクリック・ハウスへと変化していく。
続く「MOON SCAPES 2703 BC」はトーマス・フェルマンのソロ作にも通じるダビーなテクノ・トラック。後半はいつの間にかこれがまたディープ・ハウスへと変化している。
「LUNAR CAVES」はジ・オーブの真骨頂とも言えるアンビエント・トラック。最初期の彼らのクラシック「A Huge Ever Growing Pulsating Brain That Rules From The Centre Of The Ultraworld」などを想起させるコラージュ感覚に溢れたサイケデリックなアンビエント・ジャム。
そしてアルバム本編の最後を飾る表題曲「MOONBUILDING 2703 AD」のはじまりは、アレックスらしいヒップホップの影響を感じる作品だ。ナイトメアーズ・オン・ワックスじみたソウルフルなブレイクビーツがゆったりとファンクを刻んでいく。どこか、ダビーなブレイクビーツのDJプレイのようなそんな感覚で、さまざまにビートを変えながらゆったりと進んでいく。
こうした各楽曲に分けて聴いてみることでそれぞれの音楽的なスタイルを堪能できるのだが、これがアルバム1枚を通して聴くと、不思議とまるで長時間煮込んだカレーの具のように、さまざまな要素が溶け合いひとつの世界観を示す。かなりさまざまな音楽的要素がカットアップ&ペーストされ、アルバム1枚の壮大なストーリーを描き出している。
またハイレゾ音源は楽曲の空間的な広がりや、細やかなエコーの消失感、そして細やかに配置されたコラージュ感覚の妙などをよりはっきりと楽しむことができ、この手のサイケデリック・ミュージックとハイレゾ音源の相性の良さを確認できるだろう。
また日本盤には「MOON SCAPES 2703 BC」の世界観をさらに広げたようなテクノ・トラック「Moon Quake 1」とチルアウトなジ・オーブ流のディープ・ハウス「Moon Quake 3」が収録されているこちらもぜひとも。
まさに大御所の横綱相撲ともいうべき、彼らの存在感をまじまじと気持ちよいぐらいまでに提示した、そんな作品だ。
text by 河村祐介
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〈アイランド〉以降、つまるところオーブの2000年代以降を編纂したベストその2。リー・ペリーとの共作や、リカルド・ヴィラロボス+マックス・ローダーバウワーによるリミックスも。それにしてもこれ聴くとトーマス・フェルマンの影響力たるや。
ベルリンのアンダーグラウンド・ミュージック・シーンを引っ張ってきたトーマス・フェルマンのソロ。エコーの消える瞬間すらも美しすぎるアンビエント・テクノ・トラック。うーん、甘美。とりあえず、ジ・オーブの作品に対する影響力でかいなと。
タイトル曲「MOONBUILDING 2703 AD」で見せたファンクなチルアウト・ブレイクビーツ、元祖といえばこの人でしょう。ジ・オーブの立ち上げメンバーとも言えるジミー・コーティのKLF『Chill Out』、そのヒップホップ版とも言える『スモーカーズ・デライト』って話なので、まぁ、そういうことでしょうね。
LIVE INFORMATION
ジ・オーブ来日ツアー
2015年7月4日(土)@代官山UNIT
2015年7月5日(日)@大阪STUDIO PARTITA
PROFILE
ジ・オーブ
1988年に結成。現在はアレックス・パターソンとトーマス・フェルマンのデュオとして今なお第一線で活動を続けるアンビエント〜ダブ・テクノのパイオニア、ジ・オーブ。近年はリー・スクラッチ・ペリーやデヴィッド・ギルモアとのコラボレーション作品が大きな話題を集める。2015年には名門〈Kompakt〉からは10年ぶりとなる最新作『MOONBUILDING 2703 AD』をリリースする。