BALLOND'ORの止まらぬ鼓動! ── 国内外から注目を集めるサウンドの生まれ方
“心臓の鼓動”を意識したというシングル“DREAMS”と“蝶天使”の2作品をリリースしたバンド、BALLOND'OR。生で録音したキックを重ねたりと試行錯誤の末に生まれた「ドクッ、ドクッ」といった鼓動がどちらの作品からもたしかに聴こえる。よく「バンドは生き物」だと喩えられるが、この音を聴くたびに、BALLOND'ORという生命体は今日も活躍し続けている、そしてこの鼓動はこれからも止まらないのだと改めて気づかせてくれる。ライヴでの変化が楽しみな“DREAMS”と、バンドの核となりえる“蝶天使“。歌詞がストレートに届く2作品のサウンドを探りつつ、海外版LPのリリースなど国内外から注目を集めるBALLOND'ORの今後に迫る。
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INTERVIEW : BALLOND'OR
パンク/ハードコア全般と、UKロックやジャンクなインディ系、そしてとびきりのポップソングたち。さらには映画、アニメ、ファンタジックな童話からおぞましいホラーまで。好きなものを全部コラージュしてド派手に解放するスタイルを得意としてきたBALLOND’ORだが、昨年春以降、コロナ禍がいい意味で彼らを変えているようだ。9月配信の“DREAMS”と、今回配信される“蝶天使“は、ともに寄せては返すメロディ、変則的なギター、トラップ的なリズムが交錯する1曲。各パートが激突するカオスではなく、それぞれが刺激を交換しながら高め合う構成であることに驚きを禁じ得ない。もっともこれは数年前、ライヴのたびに「うるさすぎて何やってんのか全然わかんねぇ」と爆笑できた5人編成時代と比べての話であるが。バンドの歴史を辿るLP『BALLOND’OR』のEU/USリリースも決定した現在、彼らが見ている新しい景色とは。NIKEとMJMにきく。
インタヴュー・文:石井恵梨子
歌への思いが強くなったんじゃないかなって
──以前にMJMさんに会ったのが去年の3月で。『R.I.P. CREAM』はいいアルバムになった、レコ発も行くね、なんてことを言っていたら……一気に緊急事態宣言になってしまい。
MJM:そうですよね。
──それ以来、この1年半をどう過ごしていたんでしょうか。
MJM:『R.I.P. CREAM』を出して、それからライヴができない状況になってしまって。予定していたツアーが全部キャンセルになって、ちょっとこう、どこに向けて音を鳴らしていくのかが1回ほんとにストップしてしまい。雲がかかったような気分になりましたね。あとNIKEくんもコロナに罹ってしまい。
NIKE:そうなんですよ。症状も軽くて大丈夫ではあったんですけど。
MJM:メンバーも若干鬱というか、そういう感じになってましたね。そのなかで、でもやっぱりいま鳴らしたい音楽はあるし、『R.I.P. CREAM』の後にどんな音楽を鳴らしていこうかなって考えながら、ほんと、ずっと籠って制作に向かっていた時間でした。
NIKE:なかなか繊細な環境ではありましたけど。でも僕が思ったのは、MJが音楽に対してすごく真剣に向き合ってるなっていうことで。それは“DREAMS”の制作にも繋がっていくんですけど。
──MJさん、音楽への取り組み方はいままでと違いましたか。
MJM:そうですね。やっぱり去年は人と会う機会が極端に減って、自分と向き合う時間が増えたんですね。そのなかで、いままで曲にしてないような、胸の中につかえてるものを、もっと吐き出したいなって気持ちになって。だから時間があるなかで、いろんな試みをひとつずつ試してました。
──いままで曲にしていないものというのは、どういう感覚ですか。
MJM:んー、具体的に言うのは難しいですけど。前回の『R.I.P. CREAM』で、自分が言いたかったこと……ロックを好きになってから自分が言ってみたかったこと、全部出したんじゃないかなって気持ちになったんですね。
NIKE: MJって、作品1枚作り終わるともう全部終わってしまうというか、放心状態が長く続くタイプなんですね。確かにそれくらいのものを『R.I.P. CREAM』にぶつけられたとは思うんですけど、マスタリングの時に「この後この人大丈夫なの?」ってちょっと思ったくらい。で、そこから“DREAMS”って曲が出てきたんで、僕から見ると『R.I.P. CREAM』を作ったことによって、歌への思いが強くなったんじゃないかなって。
──確かに。私もこれは歌ものだと感じました。
MJM:あぁ。でも感じ方はそれぞれでいいと思います。いつも、どんな激しい曲であっても、自分のなかではメロディがすごく大事だと思っていたりするし。
NIKE:確かにMJの曲って、バンド・サウンドを丸裸にしてみたら全部ポップだし。歌ものっちゃあ全部歌ものだと思う。ただ、その表現の幅がBALLOND’ORにしかできないものになっていて。
MJM:今回の“DREAMS”も、自分が弾き語りで歌うメロディに対して、NIKEくんがギターで、ほんとにリズムのようなフレーズをガンガン入れてきたんですね。ギターでリズムを作るような感覚っていままであまりなくて。そこにNANCYの重低音、シンセベース特有の重低音が入ってきて。なんかこれは新しい方向に向かえるんじゃないかなと思って。
──今回は、歌に対してノイズをぶつけるわけじゃなくて、歌が最初に飛び込んでくるミックスになっていますよね。
NIKE:そうかもしれません。さっき言ったように、歌の強さ、それをもっと大事にしたいなと僕は作りながら思っていたし。それもすごく自然なことで、ギター重ねていくときにも、このメロディにいちばん絡み合っておもしろいアンサンブルってどういうものなのか考えていって。
──失礼な言い方ですけど、とても音楽的なBALLOND’ORがいますね。
MJM & NIKE:はははははは。
MJM:僕たち、パンクとかハードコアとか、まぁ思春期の時に出会ってどんどん好きになっていきましたけど。それと同時に、たとえばカーペンターズとかビートルズも大好きだったし。やっぱりメロディが強いもので育ってきたから。そうですね……音楽的……いつも音楽的だと思ってたんですけど。はははは!
──少なくともこれは、ライヴで一斉に暴れることが目的ではない曲で。
MJM:あぁ。でもライヴもほんとは暴れるつもりもなくて。いつもないんです。
──嘘だぁ(笑)。
MJM:ただ、爆音が鳴るとどうしてもアドレナリンが湧き上がってしまって。僕らもそうだし、体験してくれるお客さんも。それで僕らのライヴはよく「カオス!」って言われるんですけど。でもライヴはライヴで、音源は音源で、BALLOND’ORが目指している理想みたいなものはあって。
NIKE:この“DREAMS”も、ライヴだともっと荒々しい表現になっていくと思います。もっと重低音だったり、ギターの耳に刺さる感じが強調されていったり。そこは音源とちょっと違うかもしれません。
MJM:思い出してみると、最初はもっとノイジーでうるさい曲だったんですよ。そこから曲に対して、いちばんいいのはなにかってことを考えて、鳴らしては話し合って。去年、ほんと時間をかけて仕上げた曲ですね。途中でNIKEくんがコロナになってしまったり、あとは鬱気味になってしまったメンバーがいたり、いろいろあって、なかなか音源を録る状況にならなかったんですけど、それでも少しずつ進めていってこの形になったんですね。
NIKE:うん。バンドの表現もこの曲と一緒に進んでいった感覚がありましたね。確かに時間はかかりましたけど、どんどん納得していく時間だった。「あぁ、確かにこっちのほうがいいな」「こうしたほうがもっと良くなるね」って。