最期があるからこそ、終活クラブは続いていく──人生を後悔しないための“友達グルーヴ”
「終活」──人生の終わりのための活動。自らの死を意識し、人生の最期を迎えるにあたって行う事前準備のことである。だから終活クラブと名付けられたバンドが「終活をするのは残りの人生を後悔せずに生きたいから」と語ってくれた時、彼らの根底にはポジティヴな精神が常にはっきりと存在しているのだと感じた。確かに終わりに向かっていくこの人生を後悔しないためにバンドを続けてきた終活クラブ。その結果、彼らはEP『終活新布教盤』でメジャー・デビューを果たした。これまでの音楽性をブラッシュアップしながらも、今後の可能性もぐんと広がった作品になり、全く“終わり”を感じさせない作品に仕上がっている。もちろん取材もメンバーの良好な関係性が伝わってくる、未来への期待でいっぱいの1時間となった。また後半にはメンバーの個性あふれるプロフィールも掲載している。インタヴューと合わせて、彼らの素顔を感じてもらえたら幸いだ。(編)
終活クラブのメジャー・ファーストEP
INTERVIEW:終活クラブ
新潟在住の5人組ロック・バンド、終活クラブのメジャー初作品となる4曲入りEP『終活新布教盤』は、インディーズ時代に培ってきたバンドの強度やマインド、ソング・ライターである少年あああああの核心を落とし込んだ作品に仕上がった。メンバー全員でのインタヴューは終始朗らかでハッピーな空気感に富み、5人全員が「バンドが楽しい」と笑顔を見せる。その理由を探りながら、バンドの生態に迫った。
インタヴュー&文:沖さやこ
ライヴ写真:さとう なつ
終活をするのは残りの人生を後悔せずに生きたいから
──メジャー・デビューおめでとうございます。
少年あああああ(Vo/Gt):ありがとうございます。うれしいです。
──ではメジャー・デビューは目標のひとつでしたか?
石栗(Gt):目標というよりは、もっと漠然とした感じのキラキラしたものというか。
イシダヒロキ(Ba):やっぱり音楽をはじめた人間が、一度は憧れる夢ではあるよね。
羽茂さん(Key):「このメンバーで一生音楽をやっていきたい」という思いから生まれたバンドなので、この5人でメジャー・デビューできたのは本当にうれしいんです。
少年あああああ:ほんとだよね。見つけてもらえたんだなあ……って感慨深いです。
ファイヤー・バード(Dr):少年はメジャー決定記念無料ワンマン(※2024年4月4日開催〈終活超決起集会〉)で、「バンドやってて幸せだぜー! 生きてて良かった! 」って普段言わないようなことを言ってました。
少年あああああ:溢れちゃったね(笑)。あの日はすごくたくさんのお客さんが駆け付けてくれて、めちゃめちゃハッピーでとても大事なライヴになりました。はじめて終活クラブのライヴに来てくれた方もたくさんいらっしゃったので僕らのことをいっぱい知ってもらいたくて、20曲演奏してたくさんしゃべりました(笑)。やっぱりお祝いは長いほうがいいですから。
──終活クラブ、とってもハッピーなバンドなんですね。
少年あああああ:僕たち結構そうなんです(笑)。「終活」という言葉も、すごくポジティヴな意味で使ってるんですよ。
──「最高の仲間と最高の音楽をやりきろう」という意味が込められていると、他媒体のインタヴューで拝見しました。
少年あああああ:「終活」は「死を見据えたうえでどんなことをするか」という言葉なのでネガティヴに捉えられることも多いですけど、終活をするのは残りの人生を後悔せずに生きたいからだと思うんです。僕らはもともと全員就職していて、月に1回くらい地元のライヴハウスでライヴをするような音楽仲間で。その毎日に不満があったわけではなかったんですけど、そんななかでコロナ禍に入ったんですよね。ふとぽっかり時間ができた人は、その期間でいろんなことを考えたのかなと思うんですけど。
──それは少年あああああさんも例外ではなかった。
少年あああああ:自分の書く曲や音楽にそこそこ自信があって、一緒にバンドをやりたい友達がいるのに、それをやりきらないまま普通に仕事をしてそこそこの給料をもらいながら暮らしていたら、最終的に「あのとき友達と真剣にバンドをやっておけばよかった」と後悔するんじゃないかと思ったんです。それなら少しでも早くはじめるべきだと思って仕事を辞めて、まず少年あああああとしてひとりで配信をはじめたんですよね。
──そこからメンバーさんに声を掛けていくと。
少年あああああ:石栗は僕が楽器屋でバイトをしていた頃の同僚で、やたら仲良くなったんですよね。それで終活クラブの結成のタイミングでめちゃめちゃ熱い話をして。
石栗:少年とはもともと音楽の話も弾んだし、人間的にもおもしろいやつだと思っていたので、いつかこいつとなにかおもしろいことをやる気がするなー……という予感があったんです。そしたら「バンドをやるからギターをやってくれないか」と言われて、熱い話をしましたね。
ファイヤー・バード:石栗に声掛けるときと俺らに声掛けるときの少年の温度差すごくない!?(笑) 俺なんて「俺新しくバンドやるから、お前ドラムね? 」と言われて「オッケー! 」みたいな軽い感じだったよ。
少年あああああ:石栗以外の4人はTHE軽音部の友達なので、こういうはじまり方のほうがうまくいくことはわかってたんです(笑)。僕もみんなから断られるとは思ってなかったから。
羽茂さん:ただ僕はずっとギター・ヴォーカルをやっていたので、「やれるパートがないからキーボードね」とやったことのない楽器を言われて、さすがに一旦持ち帰りました。それで後から「キーボードを弾くというよりはライヴでお客さんを楽しませたり、雰囲気作りをするためにも羽茂さんは必要だ」と言われて、受け入れました。終活クラブがはじまってからちゃんとキーボードを練習して、弾けるようになってもどんどん難しいフレーズが出てくるので日々奥深さを感じてます。
──石栗さんはどのようにこの4人の輪に溶け込んでいったんでしょう?
石栗:自分と少年がこれだけ打ち解けられるなら、少年と仲いい友達とは絶対仲良くなれるよなと思っていたので、全然抵抗はなかったです。実際に顔合わせで「やっぱり全員俺と同じタイプだ! 」と思って、すぐ仲良くなりました。
イシダヒロキ:部室で遊んでたときのノリの延長線上なんですよね。なんとなく俺ら3人とも、少年からバンドに誘われたら絶対にやるだろうなという空気感はもともとあって。でもそれは仲が良かったからだけでなく、僕らが少年の作る曲や才能のファンだからなんです。
少年あああああ:いやあ、本当にうれしい(笑)。軽音の友達同士で「いつか一緒にコピバンとかやるときにこれ使おう」とお金を出し合って買ったキーボードが、羽茂さんの家で使われないまま眠っていたんです。その「いつか」が来ないまま日々が過ぎ去ろうとしていて……。あのときの約束を守るという意味でも、僕にとってはすごく大きな一歩だったんですよね。理想のメンバーとバンドをやれているだけでなく、メジャー・デビューまでさせてもらえるなんて、ほんと超ハッピーです。
──「終活」は身辺整理として捉えられがちですけれど、置き忘れていた青春を取り戻すという側面もあるなと、お話を聞きながら思いました。
少年あああああ:終活をする人たちにも、若い頃に打ち込んでいたことや、夢見ていたことに挑戦する人がいらっしゃいますよね。もともと僕はいつも普段から生死について考えることが多くて、死を遠いものとして捉えていないんです。「人間はどんなに長生きしても100年ぐらいだ」とカジュアルに受け止めている。だから終活に遅いも早いもないんですよね。