JP4965999B2 - ムコ多糖症の診断方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ムコ多糖症(mucopolysaccharidoses)の診断方法に関する。
ムコ多糖症は、正式にはムコ多糖代謝異常症といい、先天的にムコ多糖分解酵素が欠損していることにより全身にムコ多糖の分解物が蓄積し、種々の臓器や組織が次第に損なわれる進行性の疾患である。ムコ多糖症は、欠損酵素によって大きく7つの型に分類されている。ムコ多糖症の多くは知的障害を伴い、進行性で、成人に達するまでに死亡する型もある。主な症状は、著しい骨の変化、短い首、関節が固くなる、粗い顔つき等であり、その他、角膜混濁、難聴、肝肥腫、心臓疾患、低身長等である。
ムコ多糖症の診断は、血液等の生体試料中のムコ多糖を測定することにより行なわれる。グリコサミノグリカンの測定法としては、以下の方法が知られている。
特許文献1には、グリコサミノグリカン(以下、GAGという)特異的分解酵素によってGAGを二糖に分解し、当該二糖の組成を高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCという)で分析することでGAGを分析する方法が記載されている。非特許文献1には、尿中のケラタン硫酸(以下、KSという)を特異的分解酵素であるケラタナーゼによってKSを二糖に分解し、当該二糖をHPLCで分析することでKSを分析する方法が記載されている。非特許文献2には、血漿及び血清中のGAGを加水分解し、生成するガラクトースとアミノ糖をHPLCで分析することでGAGを分析する方法が記載されている。非特許文献3には、血漿及び尿中のコンドロイチン硫酸(以下、CSという)を、限外濾過フィルターで濾過した後に、フィルター上でコンドロイチナーゼABCによってCSを二糖に分解し、濾過液中の当該二糖をHPLCで分析することでCSを分析する方法が記載されている。非特許文献4には、組織中のKSを、エタノール沈殿法により前処理した後に、ケラタナーゼIIにより二糖に分解し、当該二糖を液体クロマトグラフィー/タンデムマス質量分析計(以下、LC/MS/MSという)へ注入し、KS由来の二糖組成について分析する方法が記載されている。非特許文献5には、組織中のヘパラン硫酸(以下、HSという)を、エタノール沈殿法により前処理した後に、特異的分解酵素で二糖に分解し、当該二糖をLC/MS/MSへ注入し、HS由来の二糖組成について分析する方法が記載されている。特許文献2及び非特許文献6には、尿中のGAGを1,9−ジメチルメチレンブルーを用いて測定し、ムコ多糖症の診断を行なう方法が記載されている。
また、特許文献3には、KS及びヒアルロン酸(以下、HAという)をリガンドとする固相プレートを用いたアッセイ方法が記載されている。
特開平4−135496号公報 特開2003−265196号公報 特開平10−153600号公報 Chem.Pharm.Bull.46(1),97−101(1998) Journal of Chromatography B,765,151−160(2001) Analytical Biochemistry 302,169−174(2002) Analytical Biochemistry 290,68−73(2001) Journal of Chromatography B,754,153−159(2001) Clinica Chimica Acta,264,245−250(1997)
しかし、従来の分析方法は、測定濃度がばらつく、測定感度が低い、前処理操作が煩雑である、一種類のGAGしか測定できない等の問題があり、ムコ多糖症の診断方法として満足できるものではなかった。
従って、本発明の目的は、生体試料中のグリコサミノグリカンを高感度かつ簡便に測定し、ムコ多糖症を正確に診断するための方法を提供することにある。
そこで本発明者は生体試料中の複数のグリコサミノグリカンを同時に高感度で測定する方法を見出すべく種々検討した結果、限外濾過フィルターの使用及びGAG特異的酵素消化に加えてLC/MS/MSを組み合せることにより、生体試料中の複数のグリコサミノグリカンが高感度で同時に定量できることから、ムコ多糖症の診断が正確にできることを見出し、本発明を完成した。
本発明は、以下の(A)〜(E)を提供するものである。
(A)下記ステップ(1)及び(2)を含む、ムコ多糖症の診断方法。
(1)(a)生体試料を限外濾過フィルターで濾過し、フィルター上でGAG特異的酵素による消化を行なうか、又は(b)生体試料をGAG特異的酵素による消化を行ない、得られた消化物を限外濾過フィルターで濾過した後、
得られた消化物を遠心分離して得られた濾過液を又は得られた濾過液LC/MS/MSへ注入し、GAG由来の二糖について分析するステップ。
(2)(1)の測定結果である定量濃度及び二糖組成を用いて、ムコ多糖症の診断、又はムコ多糖症の各疾患の判別鑑定を行なうステップ。
(B)(1)のステップにおいて、HPLCの分析条件として、分析カラムにカーボングラファイトカラムを用い、移動相にアルカリ性条件の溶液を用いることで、MS分析する上で最適な溶出位置にGAG由来の二糖を溶出するものである上記(A)記載の方法。
(C)(1)のステップにおいて、GAGを特異的に分解する酵素として、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼBを同時に含む溶液により二糖を生成させ、KS、HS及びDSを一斉に分析するものである上記(A)又は(B)記載の方法。
(D)(1)のステップにおいて、GAGを特異的に分解する酵素として、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼBのいずれか1種を用いて二糖を生成させ、KS、HS、DSのいずれか一種類又は二種類を分析するものである上記(A)又は(B)記載の方法。
(E)(1)のステップにおいて、生体試料が血漿、血清、血液、尿、体液のいずれかである上記(A)〜(D)のいずれか1つに記載の方法。
本発明の方法は、ムコ多糖症を、精度良く、高感度かつ簡便に診断できる方法である。これにより、全新生児についてムコ多糖症の検査を行なうことで、出世後の早期段階でムコ多糖症の発見が可能となる。早期段階で適切な酵素補充療法や遺伝子治療等を行なうことで、患者の病状を最小限に食い止めることが可能となる。
また、本発明の方法はムコ多糖症の診断の他、前述した治療時における治療効果の把握と治療方針の決定、さらには医薬品開発の薬効評価へも使用することが可能である。
さらに本発明の方法は、GAGに関連する疾患である変形性関節症、慢性関節リウマチ、角膜組織異常を伴う疾患、リウマチなどの炎症、癌、肝疾患におけるバイオマーカー測定法としても有用である。
本発明方法のステップ(1)で使用する生体試料としては、ムコ多糖を含むものであれば制限されないが、血漿、血清、血液、尿、体液などが挙げられる。このうち、血漿又は血清が特に好ましい。
本発明で使用する限外濾過フィルターとしては、ムコ多糖を通過させず、ムコ多糖よりも分子量の小さい分子を通過させるフィルターであれば制限されないが、分子量5000程度の分子を分離できるフィルターが好ましい。このような限外濾過フィルターの市販品としては、例えばULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)(MILLIPORE製)を用いることができる。例えばAcroPrep 96 filter plate(10K)(PALL Life Sciences製)を使用した場合は多検体同時処理が可能である。
本発明で使用するGAG特異的酵素としては、グリコサミノグリカンを分解する酵素であればよいが、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸をそれぞれ特異的に分解する酵素が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合せて用いることができる。ケラタン硫酸分解酵素、ヘパラン硫酸分解酵素及びデルマタン硫酸分解酵素の3種を組み合せて用いた場合には、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸の3種を一斉に分解できる。一方、これらの酵素のいずれか1種を用いれば、これらのグリコサミノグリカンの1種又は2種が分析できる。これらのGAG分解酵素としては、ケラタナーゼ、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼが好ましい。これらのGAG特異的酵素の市販品としては、例えばケラタナーゼ、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ、ヘパリチナーゼI、ヘパリチナーゼII、へパリナーゼ、コンドロイチナーゼB(生化学工業(株)製造、販売)などが挙げられる。またHS分解酵素についてはSigma社より同様の酵素が市販されており、使用することは可能である。これらのうち、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼBの3種を組み合せるか、これらのいずれか1種を用いるのが特に好ましい。
本発明で実施するGAG特異的酵素による酵素消化としては、例えば30〜40℃で1〜30時間行なうことで完了する。特に37℃で15時間、インキュベーターにて加温するのが好ましい。
本発明の応用として、CSあるいはHAを測定対象とする場合は、コンドロイチナーゼABC、コンドロイチナーゼACII、ヒアルロニダーゼSDによりCSあるいはHAを特異的に分解することでLC/MS/MSにより分析することも可能である。
上記のGAG特異的酵素による酵素消化によって、グリコサミノグリカンが二糖類に分解される。ここで、二糖類の略号を以下に示す。
ΔDiHS−0S:ΔHexA α1→4GlcNAc:
2−acetamido−2−deoxy−4−O−(4−deoxy−α−L−threo−hex−enopyranosyluronic acid)−D−glucose、ΔDiHS−NS:ΔHexA α1→4GlcNS:
2−deoxy−2−sulfamino−4−O−(4−deoxy−α−L−threo−hex−4−enopyranosyluronic acid)−D−glucose、ΔDiHS−6S:ΔHexA α1→4GlcNAc(6S):
2−acetamido−2−deoxy−4−O−(4−deoxy−α−L−threo−hex−4−enopyranosyluronic acid)−6−O−D−glucose、MSD:
Galβ1→3GlcNAc(6S)、DSD:Gal(6S)β1→3GlcNAc(6S)。
本発明のステップ(1)においては、(a)生体試料を限外濾過フィルターで濾過し、フィルター上でGAG特異的酵素による消化を行なって消化物を得る手段と、(b)生体試料をGAG特異的酵素による消化を行ない、得られた消化物を限外濾過フィルターで濾過する手段とが含まれる。ここで、(b)の手段には、例えば、被験者の耳から採取した微量の血液を含んだ濾紙にGAG特異的消化を行ない、その消化物を限外濾過フィルターで濾過すればよい。
本発明で測定対象となる二糖類は、ケラタナーゼIIによりKSから分解されるMSD及びDSD、ヘパリチナーゼでHSから分解されるΔDiHS−0S、ΔDiHS−NS及びΔDiHS−6S、コンドロイチナーゼBでDSから分解されるΔDi−4Sである。
前記(a)酵素による消化で得られた消化物を遠心分離することにより得られた濾液又は(b)で得られた濾液をLC/MSに注入し、二糖を分析する。遠心分離は、例えば5000〜8000xg、10〜15分間行なうのが好ましい。
LC/MSにおける分析カラムとしては、前記二糖類が分離できるものであればよく、例えばODS(Octadecylsilane)を固定相とした逆相HPLCカラム、カーボングラファイト等を用いることができるが、分離能の点からカーボングラファイトを用いるのが特に好ましい。カーボングラファイトの市販品としては、例えばHypercarb(2.0mm i.d.×150mm,5μm)(Thermo Electron Corp製)等が挙げられる。カラムの長さを短くすることで二糖の溶出位置を早くすることも可能である。
本発明において移動相としては、二糖類の溶出位置を最適な位置にする点から、アルカリ性条件の溶液が好ましい。アルカリ性条件の溶液としては、pH7〜11、さらにpH8〜10、さらにpH9〜10、特にpH10の水溶液と有機溶媒のグラジエント条件が好ましい。pHをアルカリ性条件にするための塩としては、アンモニア水又はアンモニウム塩が好ましい。アンモニウム塩水溶液としては、重炭酸アンモニウム水溶液、ギ酸アンモニウム水溶液、酢酸アンモニウム水溶液等が挙げられるが、重炭酸アンモニウム水溶液が特に好ましい。これらの塩濃度としては、溶出位置を考慮すると、3〜100mmol/L、さらに3〜50mmol/L、特に10mmol/Lが好ましい。有機溶媒としては、アセトニトリル、メタノール、エタノール、2−プロパノール等が挙げられる。最も好ましい条件は、10mmol/L重炭酸アンモニウム溶液へ28%アンモニア水を添加することによりpH10に調製した溶液(10mmol/L Ammonium bicarbonate buffer(pH10))とアセトニトリルのグラジエント条件である。
図1及び図2に示すように、移動相のpHと塩濃度を調節することにより、MS分析する上で最適な溶出位置(Retention time)にGAG由来の二糖を溶出することが可能である。さらに図3に示すように移動相のpHによりピーク形状を大幅に改善することが可能であった。この手法により従来では大変困難であった糖類の溶出位置をコントロールすることが可能であった。
これらのステップ(1)により、生体試料中のGAGの濃度及び二糖組成が得られる。ステップ(2)は、これらの結果から、ムコ多糖症の診断、ムコ多糖症の各疾患(疾患の型)が判定できる。またムコ多糖症の治療効果の診断も可能である。ここで、ムコ多糖の分類を以下に示す。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(実施例1)
本発明のアッセイ法により血漿及び血清を用いたスクリーニングが可能か否かを調べるため、ムコ多糖症の患者血漿とヒトのコントロール血漿を用いて、以下の実験を行なった。
血漿、血清試料の前処理方法:1)ULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)へ0.01mLの血漿あるいは血清試料を添加する。2)4,000xg、15分間の条件で遠心する。3)ULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)のコレクションチューブを新規のチューブに交換する。4)コンドロシン(生化学工業(株)製造、販売)の50μg/mL水溶液を内部標準物質として0.02mLをフィルター上へ添加する。なお、全ての実験において、水は精製水とする。5)0.02mLの50mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH7)をフィルター上へ添加する。6)ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ、コンドロイチナーゼBを各2mUを含む酵素混合水溶液の0.02mLをフィルター上へ添加する。7)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。8)37℃で15時間、インキュベートで加温する。9)8,000xg、15分間の条件で遠心する。10)濾過液に0.02mLの水を添加する。11)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。12)試料液をオートサンプラー用注入バイアルへ移す。
検量線試料の前処理方法:1)KS標準溶液はKS(ウシ角膜由来)(生化学工業(株)製造、販売)を用いて表1に示す濃度で作成する。2)HS標準溶液として、不飽和ヘパラン/ヘパリン−二糖キット(Hキット)(生化学工業(株)製造、販売)を使用し、ΔDiHS−0S、ΔDiHS−6S及びΔDiHS−NSを含む水溶液を表2に示す濃度で作成する。3)ULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)へ各0.01mLのKS及びHS標準溶液を添加する。4)コンドロシン(生化学工業(株)製造、販売)の50μg/mL水溶液を内部標準物質として0.02mLをフィルター上へ添加する。5)0.02mLの50mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH7)をフィルター上へ添加する。6)ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ、コンドロイチナーゼBを各2mUを含む酵素混合水溶液の0.02mLをフィルター上へ添加する。7)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。8)37℃で15時間、インキュベートで加温する。9)8,000xg、15分間の条件で遠心する。10)ブランク血漿あるいは血清をULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)へ添加後、8,000xg、15分間の条件で遠心し、ブランク濾過液を作成する。11)0.01mLのブランク濾過液を9)で得られた濾過液に添加する。12)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。13)試料液をオートサンプラー用注入バイアルへ移す。
以下に、使用したLS/MS/MS装置を記載する。HPLC装置:HP1100system(Agilent Technology Inc.)(Palo Alto,CA,USA)、オートサンプラ−:HTC PAL(CTC Analytics Inc.)(Zwingen,Switzerland)、質量分析計:API 4000(Applied Biosystems Inc.)(Lincoln Centre Drive Foster City,CA,USA)。
以下に、使用したHPLC条件を記載する。分析カラム:Hypercarb(2.0mm i.d.×150mm,5μm)(Thermo Electron Corp.)(Waltham,MA,USA)、移動相:(A)10mmol/L Ammonium bicarbonate buffer(pH10)、(B)Acetonitrile、グラジエント条件:[Time(min)/B(%)];[0/0]([0.9/0]([1.0/30]([6.0/30]([6.1/0]([8.0/0]、流速:0.2mL/min、カラム温度45℃、オートサンプラーへの注入量:0.01mL。
以下に、使用したMS/MS条件を記載する。イオン化法:Turbo ionspray、検出モード:Multiple reaction monitoring(MRM)−negative mode、ターボスプレー温度:650℃、モニタリングイオン(CIDエネルギー):Gal β1-3GlcNAc(6S)m/z 462.1−m/z 97.0(CID:−80eV);Gal(6S)β1-3GlcNAc(6S)m/z 462.1−m/z 97.0(CID:−80eV);ΔDiHS−0S m/z 378.1−m/z 174.9(CID:−22eV);ΔDiHS−NS m/z 416.0−m/z 137.9(CID:−34eV);ΔDiHS−6S m/z 458.2−m/z 97.1(CID:−52eV);I.S.m/z 354.0−m/z 113.0(CID:−22eV)。
濃度の算出は、検量線濃度とピーク面積比(各測定対象標準物質のピーク面積/内部標準物質のピーク面積)から最小二乗法による直線一次回帰式を求める。重み付けは1/検量線濃度とする。
三種類のコントロール血清を3日間、N=5で測定した結果を表4及び表5に示す。
三種類のコントロール血漿を1日間、N=5で測定した結果を表6及び表7に示す。
表5及び表7内に示されるΔDi−4S,6S濃度は、DS由来のΔDi−4SとHS由来のΔDiHS−6Sの総濃度である。
表4〜表7から明らかな通り、本法が精度の高い分析方法であることが示された。
ムコ多糖症の患者血漿とコントロール血漿の測定結果を表8及び表9に示す。
表8及び表9から明らかな通り、本法により臨床試料の測定が可能であり、スクリーニングに適用可能であることが示された。特にムコ多糖症のIV型(表8内No.11)でKS濃度の高値が示された。またムコ多糖症のI、II、III型(表9内No.1〜10)でHS由来のΔDiHS−0S及びΔDiHS−NS濃度の高値が示された。さらにムコ多糖症のVI型(表9内No.14)でDS由来のΔDi−4S,6S濃度の高値が示された。
高濃度が示されたΔDi−4S,6Sレベルは、DSあるいはHSの高値を示す。しかしΔDi−4S,6Sの二糖組成比率が高い場合、ΔDi−4S,6Sの高値はDSの高値を反映する。すなわち各二糖濃度と組成比率を解析できる本法は、詳細な解析をする上で大変有用であることがわかった。
以上の結果より、本法はKS、HS及びDSレベルを一斉に分析することが可能である。今後さらに、患者の年齢、症状とKS、HS及びDS濃度の関係を調べることで、1回の測定でムコ多糖症の各疾患の判別鑑定が可能と考えられた。
(実施例2)
本発明のアッセイ法により尿を用いたスクリーングが可能か否かを調べるため、ムコ多糖症の患者尿とヒトのコントロール尿を用いて、以下の実験を行なった。
尿試料の前処理方法:1)ULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)へ0.01mLの尿試料を添加する。2)4,000xg、15分間の条件で遠心する。3)ULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)のコレクションチューブを新規のチューブに交換する。4)コンドロシン(生化学工業(株)製造、販売)の50μg/mL水溶液を内部標準物質として0.02mLをフィルター上へ添加する。5)0.02mLの50mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH7)をフィルター上へ添加する。6)ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ、コンドロイチナーゼBを各2mUを含む酵素混合水溶液の0.02mLをフィルター上へ添加する。7)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。8)37℃で15時間、インキュベートで加温する。9)8,000xg、15分間の条件で遠心する。10)濾過液に0.02mLの水を添加する。11)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。12)試料液をオートサンプラー用注入バイアルへ移す。
検量線試料の前処理方法:1)KS標準溶液はKS(ウシ角膜由来)(生化学工業(株)製造、販売)を用いて表10に示す濃度で作成する。2)HS標準溶液として、不飽和ヘパラン/ヘパリン−二糖キット(Hキット)(生化学工業(株)製造、販売)を使用し、ΔDiHS−0S、ΔDiHS−6S及びΔDiHS−NSを含む水溶液を表11に示す濃度で作成する。3)ULTRAFREETM−MC(BIOMAX−5)へ0.01mLのKS及び0.02mLのHS標準溶液を添加する。4)コンドロシン(生化学工業(株)製造、販売)の50μg/mL水溶液を内部標準物質として0.02mLをフィルター上へ添加する。5)0.02mLの50mmol/L Tris−HCl緩衝液(pH7)をフィルター上へ添加する。6)ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ、コンドロイチナーゼBを各2mUを含む酵素混合水溶液の0.02mLをフィルター上へ添加する。7)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。8)37℃で15時間、インキュベートで加温する。9)8,000xg、15分間の条件で遠心する。10)ブランク尿を固相抽出カラムであるBond Elute SAX column(500mg/3mL)に素通りさせて、ブランク溶液を作成する。11)0.01mLのブランク溶液を9)で得られた濾過液に添加する。12)約10秒間、ボルテックミキサーにより混合する。13)試料液をオートサンプラー用注入バイアルへ移す。
尿試料の分析に関し、LC/MS/MS条件と濃度算出方法は血漿及び血清の分析時と同じ方法で行なった。
三種類のコントロール尿を3日間、N=5で測定した結果を表12及び表13に示す。
表12及び表13から明らかな通り、本法が精度の高い分析方法であることが示された。
ムコ多糖症の患者尿とコントロール尿の測定結果を表14及び表15に示す。
表14及び表15から明らかな通り、本法により臨床試料の測定が可能であり、スクリーニングに適用可能であることが示された。特にムコ多糖症のI、II、III型でHS濃度の高値が、ムコ多糖症のVI型でΔDi−4S,6S濃度が高値を示した。
特にムコ多糖症IV A型(表14内No.16〜18)とIV B型(表14内No.19〜21)ではKS由来のDSD比率が異なる。すなわちIV A型ではDSDの高い比率が示された。従って組成比率を解析することで、IV A型とIV B型を区別することが可能である。
以上の結果より、本法はKS、HS及びDSレベルを一斉に分析することが可能である。今後さらに、患者の年齢、症状とKS、HS及びDS濃度の関係を調べることで、1回の測定でムコ多糖症の各疾患の判別鑑定が可能と考えられた。
移動相pHと溶出位置の関係を示す図である。 移動相の塩濃度と溶出位置の関係を示す図である。 移動相pHのピーク形状と分離への影響を示す図である。

Claims (7)

  1. 下記(1)及び(2)のステップ含む、ムコ多糖症(mucopolysaccharidoses)の診断、ムコ多糖症の治療効果の化学診断、又はムコ多糖症の各疾患の判別鑑定のための生体試料中のグリコサミノグリカン由来二糖の定量濃度及び組成を測定する方法:
    (1)(a)生体試料を限外濾過フィルターで濾過し、フィルター上でグリコサミノグリカン特異的酵素による消化を行ない、得られた消化物を遠心分離して濾過液を得るステップ、又は(b)生体試料をグリコサミノグリカン特異的酵素による消化を行ない、限外濾過フィルターで濾過して濾過液を得るステップ;
    (2)(1)で得られた濾過液を液体クロマトグラフィー/質量分析計へ注入し、グリコサミノグリカン由来の二糖について分析するステップであって、
    液体クロマトグラフィーの分析条件として、分析カラムにカーボングラファイトカラムを用い、移動相にアルカリ性条件の溶液を用いることで、分析する上で最適な溶出位置にグリコサミノグリカン由来の二糖を溶出する、
    ステップ
  2. アルカリ性条件の溶液がpH7〜11である請求項1記載の方法。
  3. (1)のステップにおいて、グリコサミノグリカンを特異的に分解する酵素として、ケラタナーゼ、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼを同時に用いて二糖を生成させ、(2)のステップにおいて、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸を一斉に分析するものである請求項1又は2記載の方法。
  4. (1)のステップにおいて、グリコサミノグリカンを特異的に分解する酵素として、ケラタナーゼ、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼのいずれか1種を用いて二糖を生成させ、(2)のステップにおいて、ケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸のいずれか一種類又は二種類を分析するものである請求項1又は2記載の方法。
  5. グリコサミノグリカンを特異的に分解する酵素として、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼBを同時に用いる請求項3記載の方法。
  6. グリコサミノグリカンを特異的に分解する酵素として、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ及びコンドロイチナーゼBのいずれか1種を用いる請求項4記載の方法。
  7. (1)のステップにおいて、生体試料が血漿、血清、血液、尿、体液のいずれかである請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
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