JP7185232B2 - グリコサミノグリカンの分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、グリコサミノグリカンの分析方法に関する。
グリコサミノグリカン(以下「GAG」と略する)は、ウロン酸又はガラクトースとヘキソサミンからなる二糖を構成単位として、それが繰り返し配列した構造を有する直鎖状の多糖である。二糖の組成によりヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、へパラン硫酸などに分類される。GAGは、細胞膜、細胞外基質にタンパク質結合型あるいは非結合型として生体内に存在する多糖類として知られ、生化学、生物学、薬学、医学等の分野において注目されている物質である。
例えばGAGの分解代謝に関係する酵素の先天的な障害(活性低下)又は欠損によって起こる疾患の一つにムコ多糖症(mucopolysaccharidoses)がある。ムコ多糖症では、障害を受けている、又は欠損している酵素の種類に応じて特異的なGAGが生体組織中に蓄積する。したがって、血液等の生体試料中に含まれるGAGの種類を分析することにより、ムコ多糖症を診断することができる。
従来、生体試料に含まれるGAGは、分解酵素により二糖に分解した後、液体クロマトグラフィで分離し、吸光度や蛍光強度等の光強度を測定することにより分析する方法が用いられていた。ところが、液体クロマトグラフィでは二糖を十分に分離することができないため、複数種類のGAGを同時に測定することが難しかった。
これに対して、特許文献1および非特許文献1には、液体クロマトグラフィ質量分析法を用いることにより、生体試料に含まれる複数種類のGAGを同時に分析できる方法が開示されている。特許文献1に記載の方法では、液体クロマトグラフィのカラムとして逆相カラム又はハイパーカーブ(Hypercarb(登録商標))カラムが用いられ、非特許文献1の記載の方法では、ハイパーカーブカラムが用いられている。
特開2008-102114号公報
Shunji Tomatsu, et al., "Establishment of Glycosaminoglycan Assays for Mucopolysaccharidoses" Metabolites 2014, 4, 655-679; doi:10.3390/metabo4030655
逆相カラムは液体クロマトグラフィにおいて一般的に使用されるカラムであるものの、GAGを構成する二糖のような高極性化合物の保持力が弱く、安定的に分離分析することが困難である。一方、ハイパーカーブカラムは多孔性グラファイトカーボンから成る基材が充填されたカラムであり、高極性化合物の保持、分離に優れるという性質を有している。しかし、ハイパーカーブカラム製品ロット間で保持性能、分離性能等のばらつきがあり、ばらつきの大きさによっては分析の再現性が低くなるという問題があった。
本発明が解決しようとする課題は、グリコサミノグリカン由来の二糖を安定的に且つ高い再現性で分析することができる方法を提供することである。
上記課題を解決するために成された本発明の第1の態様は、
生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
を備え、
前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアミド基(カルバモイル基)が結合された固相担体が充填されたカラムである、グリコサミノグリカンの分析方法に関する。
また、上記課題を解決するための成された本発明の第2の態様は、
生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
を備え、
前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィのカラムが、官能基としてのアダマンチル基が結合された固相担体が充填されたカラムである、グリコサミノグリカンの分析方法に関する。
本発明に係るグリコサミノグリカンの分析方法では、生体試料中のグリコサミノグリカンを酵素により分解して複数種類の二糖を生成した後、これら二糖を、液体クロマトグラフィ質量分析法を用いて分離し、分析する。グリコサミノグリカンを構成する二糖は、多数の硫酸基とカルボキシル基を有する、強く負に帯電した高極性化合物である。本発明においては、液体クロマトグラフィ質量分析における液体クロマトグラフィで、高極性化合物と強く結合する官能基であるアミド基又はアダマンチル基が結合された固相担体が充填されたカラムを用いたため、グリコサミノグリカンを安定的に且つ高い再現性で分析することができる。
5種類の二糖、および1種類の内部標準物質(コンドロシン)のそれぞれのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとして設定し、LC/MS/MS分析することにより得られたMRMクロマトグラム。 6種類の二糖、および1種類の内部標準物質(コンドロシン)のそれぞれのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとして設定し、LC/MS/MS分析することにより得られたMRMクロマトグラム。 血液(全血)試料に含まれるグリコサミノグリカンを液体クロマトグラフィ質量分析装置を用いて分析することにより得られたMRMクロマトグラム。 血液(血清)試料に含まれるグリコサミノグリカンを液体クロマトグラフィ質量分析装置を用いて分析することにより得られたMRMクロマトグラム。
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
[実施例1]
まず、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS/MS)を用いたMRM(多重反応モニタリング)測定により、生体試料に含まれるグリコサミノグリカン(GAG)の分析が可能かどうかを検討した。
<試料の調製>
以下の表1に示す既知の化合物(定量分析のための内部標準物質(コンドロシン)を含む)の1μmol/L水溶液を調製し、これを試料とした。表1に示す化合物は全て生化学工業株式会社より購入した。
Figure 0007185232000001
表1中、「CS」はコンドロイチン硫酸、「DS」はデルマタン硫酸、「HS」はヘパラン硫酸、「KS」はケラタン硫酸の略号である。
また、ΔDi-4S、Di-0Sはそれぞれコンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸がコンドロイチナーゼBで分解(消化)されてできる二糖であり、ΔDiHS-0S、ΔDiHS-NS、ΔDiHS-6Sはヘパラン硫酸がヘパリチナーゼにより分解されてできる二糖であり、Gal-GlcNac(6S)、Gal(6S)-GlcNac(6S)はケラタン硫酸がケラタナーゼIIで分解されてできる二糖である。
また、液体クロマトグラフィ質量分析に用いた装置名、分析条件は以下の通りである。
<装置>
液体クロマトグラフ:超高速液体クロマトグラフNexera X2(株式会社島津製作所製)
質量分析計:超高速トリプル四重極型質量分析計LCMS-8050(株式会社島津製作所製)
<LC分析条件>
カラム :イナートサステインアミドカラム(株式会社ジーエルサイエンス)
(2.1mmI.D. × 100mmL, 3.0μm)
移動相 :移動相A 5mmol/Lギ酸アンモニウム-アセトニトリル
移動相B ギ酸アンモニウム-超純水
グラジエント:B 濃度5重量%(0-1min)→30重量%(4min)→90重量%(5-8min)→5重量%(8.01-13min)
流速 :0.3mL/min
カラム温度 :40℃
注入量 :1μL
<MS分析条件>
イオン化モード :ESI(negative)
分析モード :MRM
ネブライザーガス流量 :3.0L/min
ドライングガス流量 :10.0mL/min
インターフェースガス流量:10.0L/min
インターフェース温度 :300℃
脱溶媒管(DL)温度 :250℃
ヒートブロック温度 :400℃
また、表1に示した二糖のうちΔDiHs-6Sを除く二糖のプリカーサーイオンとプロダクトイオンのm/z(この組合せをMRMトランジションという)、CEを表2に示す。表2に示す値は二糖の検出感度、同重体との分離を考慮して設定したものである。ただし、ΔDiHs-6Sとプリカーサーイオンが同じであるΔDi-4Sは、質量分析(MS/MS)するとΔDiHs-6Sと同じプロダクトイオン(m/z 300.10)が生成されるため、両者をMS分離して検出することができない。また、ΔDi-0Sとプリカーサーイオンが同じであるΔDiHS-0Sは、MS/MSするとΔDi-0Sと同じプロダクトイオン(m/z 175.10)が生成されるため、両者をMS分離して検出することができない。
Figure 0007185232000002
LC/MS/MSにより分析した結果、得られたMRMクロマトグラムを図1に示す。図1には、上から順に、ΔDi-4S、ΔDiHs-0S、ΔDiHS-NS、Gal-GlcNac(6S)、Gal(6S)-GlcNac(6S)、コンドロシンのそれぞれのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとして設定し、LC/MS/MS分析した結果、得られたMRMクロマトグラムが示されている。図1の最上段のMRMクロマトグラムに示すように、ΔDi-4Sのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとした場合は、ΔDi-4SのピークにΔDiHS-6Sのピークが重なり、両者はLC及びMSのいずれにおいても分離できないことが分かる。このことは、ΔDi-4SとΔDiHS-6Sの液体クロマトグラフィにおける溶出時間が同等であることを意味する。
このように液体クロマトグラフィ及び質量分析のいずれにおいても分離できない複数種類の二糖を分析対象成分とする場合は、複数種類の二糖のいずれか一種類の二糖を生成する酵素を生体試料に添加した試料、別の一種類の二糖を生成する酵素を生体試料に添加した試料、さらに別の一種類の二糖を生成する酵素を生体試料に添加した試料等、を順に調製し、それら試料を順に液体クロマトグラフィ質量分析する。これにより、複数種類の二糖をそれぞれ個別に分析することができる。
[実施例2]
LC/MS/MSの液体クロマトグラフィにおけるカラムの種類を変更して、実施例1と同じ試料についてLC/MSを用いたMRM測定を行った。LC分析条件、MS分析条件は以下の通りである。
<LC分析条件>
カラム :カプセルパックイナートアドメカラム(株式会社大阪ソーダ)
(2.0mmI.D. × 150mmL, 3.0μm)
移動相 :移動相A 0.1%ギ酸-超純水
移動相B 0.1%ギ酸-アセトニトリル
イソクラティック:B 濃度 2重量%
流速 :0.3mL/min
カラム温度:50℃
注入量 :1μL
<MS分析条件>
イオン化モード :ESI(negative)
分析モード :MRM
ネブライザーガス流量 :3.0L/min
ドライングガス流量 :10.0mL/min
ヒーティングガス流量 :10.0mL/min
インターフェース温度 :150℃
脱溶媒管(DL)温度 :150℃
ヒートブロック温度 :400℃
MRM測定の条件(MRMトランジション及びCE)は実施例1と同じ(表2)である。
LC/MS/MSにより分析した結果、得られたMRMクロマトグラムを図2に示す。図2には、上から順に、ΔDi-4S、ΔDi-0S、ΔDiHs-0S、ΔDiHS-NS、Gal-GlcNAc(6S)、Gal(6S)-GlcNAc(6S)、コンドロシンのそれぞれのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとして設定し、LC/MS/MS分析した結果、得られたMRMクロマトグラムが示されている。ただし図2に示すように、一番上のMRMクロマトグラムには、ΔDi-4SのピークとΔDiHs-6Sのピークがみられ、上から2番目のMRMクロマトグラムには、ΔDi-0SのピークとΔDiHS-0Sのピークがみられる。また、上から5番目のMRMクロマトグラムには、Gal-GlcNAc(6S)の2つのピークがみられる。
1個のMRMクロマトグラムにおいて2個のピークが存在する二糖は、液体クロマトグラフィ質量分析の際にアノマー分離が起きていたと考えられる。例えば図2の一番上のMRMクロマトグラムには3個のピークがみられ、これらのうち左側のピークと中央のピークの一部はΔDi-4Sのピークを、右側のピークと中央のピークの一部はΔDiHS-6Sのピークを示している。これは、ΔDi-4S及びΔDiHS-6Sの両方にアノマー分離が起き、ΔDi-4Sのアノマーのうち保持力の強いアノマーの保持時間と、ΔDiHS-6Sの二つのアノマーのうち保持力の弱いアノマーの保持時間が近接していた結果、両者のピークが合わさった結果、MRMクロマトグラムに3個のピークが現れたものである。また、図2の上から2番目のMRMクロマトグラムには2個のピークがみられ、これらのうち左側のピークと右側のピークの一部はΔDi-0Sのピークを、右側のピークの一部はΔDiHS-0Sのピークを示している。これは、ΔDi-0Sにアノマー分離が起き、保持力の強いアノマーのピークがΔDiHS-0Sのピークと合わさった結果、MRMクロマトグラムには2個のピークが現れたものである。
複数種類の二糖のピークが合わさっているピークはそれら二糖の定量に用いることができない。したがって、このような場合は、他の二糖と合わさっていないピークを用いて、二糖の定量が行われる。具体的には、例えば図2の最上段のMRMクロマトグラムでは、ΔDi-4Sは、保持時間の短い左側のピークを用いて定量し、ΔDiHS-6Sは、保持時間の長い側のピークを用いて定量し、中央のピークはΔDi-4S及びΔDiHS-6Sのいずれの定量にも使用しない。
[実施例3]
生体試料として、GAG特異的酵素であるコンドロイチナーゼB、ヘパリチナーゼ、ケラタナーゼIIの混合液を添加した血液(全血)をろ紙に含ませて乾燥させた乾燥ろ紙血(乾燥血液ろ紙(Dried Blood Spots(DBS))試料を用い、該DBS試料から抽出した二糖を含む回収物をLC/MS/MSに導入してGAGの定量分析を行った。LC分析条件、MS分析条件、MRMの測定条件は実施例2と同じ条件に設定した。この実施例では、10個のDBS試料(DBS1~10)を用意した。DBS試料から回収物を得、LC/MS/MSに導入するまでの手順は以下の通りである。
<二糖の回収及びLC/MS/MSへの導入>
1.各DBS試料の血液が含浸している部分をDBSパンチャー(PerkinElmer(登録商標)、株式会社パーキンエルマージャパン)で切り出してディスク(直径3.3mm)を得た。
2.ディスクを、100μLの0.1%BSAを含有する、96ウェルフィルタープレート(Omega 10K、日本ポール株式会社)の各ウェルに入れた。
3.各ウェルにGAG特異的酵素(コンドロイチナーゼB、ヘパリチナーゼおよびケラタナーゼII)を添加し、37℃で一晩インキュベートした。
4.得られたGAGの消化物をフィルタープレートでろ過し、得られたろ過液を2500×gで15分間、遠心分離した後、回収物をLC / MS / MSに導入した。
<分析結果>
LC/MS/MSにより分析した結果、得られたMRMクロマトグラムを図3に示す。図3には、それぞれ、ΔDi-4S、ΔDiHS-0S、ΔDiHs-NS、Gal-GlcNAc(6S)、Gal(6S)-GlcNAc(6S)、コンドロシンのそれぞれのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとして設定し、LC/MS/MS分析した結果、得られたMRMクロマトグラムが示されている。
表3は、各試料に含まれる二糖の定量結果を示している。定量値は、試料DBS4に、表2に記載のコンドロシンの溶液(標準溶液)を1μmol/L添加した試料を分析した結果を使って、1点検量(内部標準法)により算出した。
Figure 0007185232000003
また、以下の表4は、試料中に含まれるマトリックス(夾雑物)の測定に対する影響を調べたものである。マトリックスの影響は、試料DBS4に標準溶液を1μmol/L添加した試料、1μmol/Lの標準溶液、試料DBS4の結果より算出した。
Figure 0007185232000004
[実施例4]
生体試料として、GAG特異的酵素であるコンドロイチナーゼB、ヘパリチナーゼ、ケラタナーゼIIの混合液を添加した血液(血清)試料を用い、各血清試料から抽出した二糖を含む回収物をLC/MS/MSに導入してGAGの定量分析を行った。LC分析条件、MS分析条件、MRMの測定条件は実施例2と同じ条件に設定した。この実施例では、10個の血清試料(Serum2、4、6、8、10、12、14、16、18、20)を用意した。血清試料から回収物を得、LC/MS/MSに導入するまでの手順は、以下の通りである。
<二糖の回収及びLC/MS/MSへの導入>
1.10μLの血清試料と90μLの50mMトリス-塩酸緩衝液(pH 7.0)を96ウェルフィルタープレート(Omega 10K、日本ポール株式会社)のウェルに入れた。
2.各ウェルにGAG特異的酵素(コンドロイチナーゼB、ヘパリチナーゼおよびケラタナーゼII)を添加し、さらに60μLの50mMトリス-塩酸緩衝液(pH 7.0)を添加し、37℃で一晩インキュベートした。
3.96ウェルフィルタープレートを2200×gで15分間遠心分離した後、回収物をLC/MS/MSに導入した。
<分析結果>
LC/MS/MSにより分析した結果、得られたMRMクロマトグラムを図4に示す。図には、それぞれ、ΔDi-4S、ΔDiHS-0S、ΔDiHs-NS、Gal-GlcNAc(6S)、Gal(6S)-GlcNAc(6S)、コンドロシンのそれぞれのプリカーサーイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組合せをMRMトランジションとして設定し、LC/MS/MS分析した結果、得られたMRMクロマトグラムが示されている。
表5は、各試料に含まれる二糖の定量結果を示している。定量値は、血清試料Serum4に標準溶液を1μmol/L添加した試料を分析した結果を使って、1点検量(内部標準法)により算出した。
Figure 0007185232000005
また、以下の表6は、マトリックスの影響を調べたものである。マトリックスの影響は、血清試料Serum4に標準溶液を1μmol/L添加した試料、1μmol/Lの標準溶液、血清試料Serum4の結果より算出した。
Figure 0007185232000006
以上、本発明における実施形態を詳細に説明したが、該実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
本発明の第1態様は、
生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
を備え、
前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアミド基が結合された固相担体が充填されたカラムである、分析方法である。
また、本発明の第2態様は、
生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
を備え、
前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアダマンチル基が結合された固相担体が充填されたカラムである、分析方法である。
本発明の第1態様、第2態様のグリコサミノグリカンの分析方法では、前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィのカラムを、官能基としてのアミド基、アダマンチル基が結合された固相担体が充填されたカラムとした。アミド基及びアダマンチル基はいずれも、グリコサミノグリカンを構成する二糖のような高極性化合物との間の強い相互作用により該高極性化合物を保持する。したがって、グリコサミノグリカンを安定的に且つ高い再現性で分析することができる。
本発明の第1態様及び第2態様のグリコサミノグリカン(以下「GAG」と略する)の分析方法における生体試料は、GAGを含んでおり、且つ、液体クロマトグラフィ質量分析法によりGAGを分離、分析することができればどのようなものでも良く、具体例として血液(全血、血清、血漿)、尿、唾液、及び生体組織が挙げられる。生体試料の採取のし易さ、GAGの含有量の多さを考慮すると血液が好ましく、特に血漿又は血清が好適である。
本発明のGAGの分析方法で使用されるGAG特異的酵素としては、GAGを特異的に分解する酵素であればどのようなものでも用いることができる。ムコ多糖症では、主にケラタン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸が生体組織に蓄積することが知られている。したがって、本発明のGAGの分析方法で得られた結果をムコ多糖症の診断に利用する場合は、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、およびヘパラン硫酸をそれぞれ特異的に分解する酵素を用いることが好ましい。また、本発明では、2種類以上の酵素を組み合せて用いることができる。GAG特異的酵素の市販品としては、例えばケラタナーゼ、ケラタナーゼII、ヘパリチナーゼ、ヘパリチナーゼI、ヘパリチナーゼII、へパリナーゼ、コンドロイチナーゼBなどが挙げられる。
上述したように本発明の第1態様では、固相担体に官能基としてのアミド基(カルバモイル基)が結合したカラムが、液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられる。このようなカラムの市販品として、例えばイナートサステインアミド(InertSustain(登録商標)Amide)分析カラム(ジーエルサイエンス株式会社)が挙げられる。これはHILIC(Hydrophilic Interaction Chromatography)系のカラムであり、極性化合物の分析に適している。
また、本発明の第2態様では、固相担体に官能基としてのアダマンチル基が結合したカラムが、液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられる。このようなカラムの市販品として、例えばカプセルパックイナートアドメ(CAPCELL PAK INERT ADME)カラム(株式会社大阪ソーダ)が挙げられる。これは逆相カラムであるが、従来の逆相カラムに比べて固相表面における疎水性と表面極性のバランスが良く、高極性化合物を安定的に分離することができる。
本発明の第1態様及び第2態様のいずれにおいても、カラムのサイズ(内径、長さ)、固相担体のサイズ、移動相の性質(pH)、移動相の流速、カラム温度等の分析条件によって、カラムに二糖が保持される時間が変化する。したがって、本発明では、カラムに保持された二糖が、質量分析する上で適切な時間(保持時間)でカラムから溶出してくるように、分析条件が適切に設定される。
特に本発明の第1態様及び第2態様のグリコサミノグリカンの分析方法では、液体クロマトグラフィのカラムとして特徴的な官能基が固相担体に結合したカラムを用いており、適切な移動相を選択することにより、グリコサミノグリカンを構成する二糖の当該カラムよる分離性能を高めることができる。
本発明の第3態様は、第1態様のグリコサミノグリカンの分析方法であって、前記第1工程において、前記複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素のうち、前記生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖のうち少なくとも1種の二糖を生成する第1酵素を前記生体試料に添加する工程と、前記複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素のうち、前記第1酵素によって生成される二糖以外のグリコサミノグリカン由来の1又は複数種類の二糖を生成する第2酵素を添加する工程とを備え、
前記第2工程において、前記第1酵素が添加された生体試料と、前記第2酵素が添加された生体試料を、それぞれ液体クロマトグラフィ質量分析するものである。
第3態様のグリコサミノグリカンの分析方法によれば、液体クロマトグラフィの保持時間が同等であり、且つ質量分析によっても分離して検出することができないような二糖を分析することができる。このような二糖の例として、ΔDi-4SとΔDiHS-6S、ΔDi-0SとΔDiHS-0Sが挙げられる。
そこで、本発明の第4態様は、第態様のグリコサミノグリカンの分析方法において、前記第1酵素によって生成される二糖にΔDi-4Sが含まれており、前記第2酵素によって生成される二糖にΔDiHS-6Sが含まれているか、前記第1酵素によって生成される二糖にΔDi-0Sが含まれており、前記第2酵素によって生成される二糖にΔDiHS-0Sが含まれているものである。
本発明の第5態様は、前記第2態様のグリコサミノグリカンの分析方法であって、前記第2工程において、1個のMRMトランジションで液体クロマトグラフィ質量分析を行った結果、得られたMRMクロマトグラムが3個以上のピークを含むとき、溶出時間が最も短いピークか溶出時間が最も長いピークを用いて二糖を定量するものである。
本発明の第5態様では、液体クロマトグラフィ質量分析を行っている間に、グリコサミノグリカン特異的酵素によって生成されたグリコサミノグリカンを構成する二糖がアノマー分離した場合でも、該二糖を定量的に分析することができる。
本発明の第1態様又は第2態様のグリコサミノグリカンの分析方法により得られた結果は、生体試料を採取した被検者のムコ多糖症の有無の検査に利用することができる。つまり、本発明の第1態様の別の側面は、
被検者から生体試料を取得する工程と、
前記生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する工程と、
液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する工程と、
前記分析結果に基づき前記被検者におけるムコ多糖症の有無を検査する工程とを備え、
前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアミド基が結合された固相担体が充填されたカラムである、ムコ多糖症の検査方法である。
また、本発明の第2態様の別の側面は、
被検者から生体試料を取得する工程と、
前記生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する工程と、
液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する工程と、
前記分析結果に基づき前記被検者におけるムコ多糖症の有無を検査する工程とを備え、
前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィのカラムが、官能基としてのアダマンチル基が結合された固相担体が充填されたカラムである、ムコ多糖症の検査方法である。

Claims (5)

  1. 生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
    液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
    を備え、
    前記第2工程は、液体クロマトグラフィにより前記複数種類の二糖を分離する分離工程と、分離された前記複数種類の二糖を含む溶液を質量分析装置に導入して前記複数種類の二糖を検出する検出工程とを有し、
    前記分離工程における前記液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアミド基が結合された固相担体が充填されたカラムであり、
    前記複数種類の二糖のうち少なくともΔDi-4S又はΔDiHS-6S、ΔDiHS-0S、ΔDiHS-NS、Gal-GlcAc(6S)、Gal(6S)-GlcNAc(6S)、及びコンドロシンを同時に分析する、グリコサミノグリカンの分析方法。
  2. 生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
    液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
    を備え、
    前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアミド基が結合された固相担体が充填されたカラムであり、
    前記第1工程において、前記複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素のうち、前記生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖のうち少なくとも1種の二糖を生成する第1酵素を前記生体試料に添加する工程と、前記複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素のうち、前記第1酵素によって生成される二糖以外のグリコサミノグリカン由来の1又は複数種類の二糖を生成する第2酵素を添加する工程とを備え、
    前記第2工程において、前記第1酵素が添加された生体試料と、前記第2酵素が添加された生体試料を、順に液体クロマトグラフィ質量分析する、グリコサミノグリカンの分析方法。
  3. 前記第1酵素によって生成される二糖にΔDi-4Sが含まれており、前記第2酵素によって生成される二糖にΔDiHS-6Sが含まれているか、前記第1酵素によって生成される二糖にΔDi-0Sが含まれており、前記第2酵素によって生成される二糖にΔDiHS-0Sが含まれている、請求項2に記載のグリコサミノグリカンの分析方法。
  4. 生体試料に複数種類のグリコサミノグリカン特異的酵素を添加して、該生体試料に含まれるグリコサミノグリカン由来の複数種類の二糖を生成する第1工程と、
    液体クロマトグラフィ質量分析法により、前記複数種類の二糖を分離して分析する第2工程と
    を備え、
    前記液体クロマトグラフィ質量分析法における液体クロマトグラフィで用いられるカラムが、官能基としてのアダマンチル基が結合された固相担体が充填されたカラムである、グリコサミノグリカンの分析方法。
  5. 前記第2工程において、1個のMRMトランジションで液体クロマトグラフィ質量分析を行った結果、得られたMRMクロマトグラムが3個以上のピークを含むとき、溶出時間が最も短いピークか溶出時間が最も長いピークを用いて二糖を定量する、請求項4に記載のグリコサミノグリカンの分析方法。
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