メロコア系からストレスフリーなインストへ――you you you all the same 1stEP発売インタヴュー
you you you all the sameのメンバー4人のキャリアを見ると、共通しているのはメロコア系のバンドを中心に活動してきたということ。それだけに、1stミニ・アルバム『you you you all the same』を聴いたときの鮮烈で瑞々しいインスト曲の印象はちょっと意外に思う人もいると思う。
ハーモニクスが印象的な短い曲「Halation」、文字通り透き通る多面体に光が当たるようなイメージができる「プリズム」、夏らしい清涼感を感じさせる「泳いだ記憶」等、なにかをしながらBGMとして聴いていたい心地良さがある。その空気感は、「ストレスフリーな1枚になれば嬉しい」と彼らが話しているように、バンドを組んだ際に明確に意図していたものが形になっているのだろう。でもちょっと待てよ、繰り返し聴いてみると「Fragment」や「Weathercock」なんかはグイグイ惹き込まれるアクの強さも感じさせるではないか。you you you all the sameはいったいどんなバンドなのだろう? メンバー4人に話を訊いた。
インタヴュー&文 : 岡本貴之
写真 : 大橋祐希
自由度が高い4人組インスト・バンドによる1stミニ・アルバム
you you you all the same / you you you all the same
【配信形態 / 価格】
ALAC / FLAC / WAV / AAC / MP3
価格 まとめ購入 1,512円(税込)/ 単曲 199円(税込)
【トラック・リスト】
1. Halation
2. プリズム
3. Fragment
4. Cloud Dwellers
5. 泳いだ記憶
6. Weathercock
7. 夜と喧騒
ギターが3本いる感覚で、みんなでアレンジを考えることができる(山本)
――それぞれ別のバンドでキャリアのあるみなさんがバンドを結成したのはどんなきっかけだったのでしょうか。
後藤裕亮(Gt) : もともと、ベースの大日野が上京してきて、バンドをやりたいという話をしていたんですけど、たまたま飲みの席で「こんなのやってるんだけど、どう?」ってデモを聴かせてもらったんです。それを聴いて「ああ、おもしろそうだね」って。どうせ俺もそのときやることがなかったんで(笑)。それでやってみようってなったのが始まりです。そこから、ドラムの齋藤に声を掛けて。それと、もうひとりのギターの慎也は3代目のギタリストです。
――やはりバンド名が気になりますが、これはどんな意味で付けたんですか?
大日野武則(Ba) : 「you you you all the same」っていうのは「君たちみんな一緒だね」っていう、ちょっとネガティブな意味になっちゃうんですけど、全然音と関係ない感じで。バンドを組んだときにちょうど「量産型女子大生」という言葉が話題になっていて、たまたま道を歩いてたときに、僕の前をまさにそういう感じ(同じ見た目)の女子大生3人が通りかかったんです。それになんとなく違和感を感じたのでおもしろいなと思ったんです。「君と君と君」(you you you)というのがその女子大生3人です。特にそれ以上の意味はないんですけど(笑)。長けりゃ違和感を感じて覚えてくれるんじゃないかなっていうくらいの感覚で。
――アルバムを聴かせて頂くと、みなさんのこれまでやってきたバンドの音とはまったく違いますよね。結成当初はどんな音楽を作って行こうと話したのでしょうか。
山本慎也(Gt) : 最初のころとは方向性は結構変わってますね。
大日野 : どんどん変わってきてますね。最初の2曲入りのシングルを出したときは、RECには慎也は参加してなかったんです。慎也が実質参加し出したのは前作の5曲入り『砂の堤防』なんですけど、この3作の変わり方というのはだいぶありますね。初期はオルタナ系のザラっとしたインストをやっていこうとしていたんですけど、慎也が入ってからはどんどんギターも歪まなくなってきて、今に至る感じです。
――インスト・バンドにしようという発想は最初からあったんですか。
後藤 : そこは最初からあったよな?
大日野 : うん、インストバンドをやってみようというのはゴスケ(後藤)と話してたと思います。自分が歌が上手かったら歌ったと思うんですけど、良いヴォーカルが近場にいなかったというか(笑)。
――今作には1曲歌が途中で入っていますよね?
後藤 : これは、上手な方に歌ってもらいました。
山本 : CALENDARSというバンドの、ヴォーカルに無理くり頼みました(笑)。
――このアルバムを聴いたときに、暗いニュースがあったりしてテレビで観るのが嫌だったので外に出てイヤホンで歩きながらこのアルバムを聴いてたんです。そしたら気持ちが落ち着いたというか、爽やかな印象を受けたんですけど、翌日に改めて聴いてみたら結構うるさい音を出しているなと思ったんですよ。ただ心地良く爽やかなバンドではないなと。
後藤 : このなかに爽やかな人間いるかな~?
一同 : ははははは!
大日野 : 歌がない分、そういった感情が日によって変わることで爽やかに捉えられたりするっていうのは、インストを楽しめるポイントなのかなって思ったりもします。自分でもたまに自分らの曲を聴いていると、「この前聴いたときはもうちょっとキラキラしてたのに、今日はなんかどんよりしてんな~」みたいなときもあるんですよ(笑)。「なんか今日は違うな? もうちょっと疾走感あったはずなのに」っていうときがたまにあるので、インストってもしかしたら聴く側のそういう気持ちが一番反映されるのかもしれないですね。
――ギターは後藤さんと山本さんと2本ありますけど、明確に役割りみたいなものは決めているんですか?
山本 : 前回の配信リリースのときは決めてました。前回はライトハンド・タッピングをメインにやっていたので。ゴスケはライトハンド、僕は単音でフレーズを弾いてみたりという感じでやっていましたけど、今回はそういうことはないですね。お互いのフレーズを「ちょっと弾いてみようか」って弾いて、1つのメロディができたらそこに合わせて絡むように作ったりしていました。
――歌のバックではないからなのかもしれないですけど、あんまりギターでコード感は出していないですよね。
山本 : コード感はあんまりないですね。ベースのルート弾きで引っ張ってもらっているところはありますけど。かといって、ベースもうちは結構動くので。
――大日野さんはもともとYacht.ではギタリストだったんですよね。
大日野 : はい、そうです。
山本 : そうなんですよ。だからギターのアレンジを考えるときはギターが3本いるっていう感覚で、みんなで考えることができるんで便利だなって(笑)。だからコードをあんまり弾かないのは、単にハマらないからなんじゃないかなって。
大日野 : 前作は僕のなかでは“コード禁止令”みたいなのを出していて、マジでコードを弾いてない作品になったんですけど。
山本 : 今回はちょいちょい入ってますね。前回は和音が多かったんですけど、今回はコードも入ったり3和音とかに行く感じがあるので。前回は自分のなかで結構背伸びしてアレンジを頑張ったなっていう思いがあったんです。全員、メロコアバンドをやってきたので、“ジャカジャーン”一発勝負、“ギターソロになったらチョーキング”みたいなところからインストに行ったので、やっぱり「インストだったら小難しいことしないといけないのかな」みたいな感覚があったんですよね。
――「幾何学的なフレーズを出さなきゃ」みたいな?
山本 : そうです。ちょっと難解っぽいフレーズを出した方が良いのかなって(笑)。今回はそういう感覚で作ってなかったので、ギターで単音っぽく歌のメロディを作らなきゃっていう意識はそこまで自分のなかにはなかったです。
後藤 : 確かに、前作はタッピングは中心に作ったりしていたんですけど、実はそこは今自分がやっているものとして変わっていなくて。ただ、タッピングをやろうとしていたのが前作で、今回は結果的にこういうフレーズが出てきたみたいな感じなんですよ。あと、みなさま方(メンバー)からのご注文が結構多いので(笑)。
――大日野さんを含めて3人のギタリスト的発想をするメンバーがいるなかで、齋藤さんはドラマーとしてどういうアプローチして行くのでしょうか。
齋藤康輔(Dr) : ゴスケとはLOCAL SOUND STYLEで一緒にやってきたんですけど、今you you youでやっている内容はまったく別物なので。自分で作ったフレーズだったりピロと慎也がアレンジを加えたフレーズだったりというのは、“子の成長を見守る親”的な感じで「こんなに成長したんだ?」って勝手に思っています(笑)。
後藤 : どういうこと(笑)!?
齋藤 : バンドを結成したときの話でいうと、ピロがもともとベーシストだけどバンドではギタリストをやるっていうことだったので、インスト系だとGhosts and Vodkaとか所謂ポストロック系のCDを聴いているとかっていうやりとりを最初のころにしていたんです。そういうなかでフレーズの幅を広げてくれている感じですかね。(大日野とは)リズム隊でもあるんですけど、これが結構動くのでドラムとしては大変なんですけど(笑)。
AppleのCMソングみたいな曲を作りたいんだけどってみんなに言って(笑)(大日野)
――では、曲について聞かせてください。「泳いだ記憶」だったら夏らしい雰囲気が出ていたり、曲ごとのタイトルと演奏のイメージが合致しているなと思ったんですけど、曲名ってどうやって決めているんですか。
山本 : タイトルは一番最後ですね。
――「Halation」「プリズム」「Fragment」と、イメージ的に近い言葉が並んでいますよね。
山本 : 1、2曲目はピロがつけたんですけど、セットみたいになっていてもともと1曲目がイントロ扱いでアルバムとしての入り口としての曲になっていて、「Halation」「プリズム」という言葉をかけてピロが繋げて作ったんです。
大日野 : タイトルは最後に付けるとはいうものの、制作過程でみんなの中にある程度イメージはあると思うんですよ。イメージが「火」の曲なのにひとりだけ「水」な奴はいないようになってくるというか。4人のイメージが揃うというのは、割と他の人も聴いたときにそっちのイメージに持っていけるのかなって思うので。
――「Halation」はギターのハーモニクスを使った演奏がまさにタイトルを表現しているので、タイトルのイメージが先にあったのかなって思ったんですよ。
大日野 : これは、確かに光っぽいっていうイメージと、最初にみんなに言ってたのはAppleのCMソングみたいな曲を作りたいんだけどって。
一同 : (笑)。
――失礼ですけど、インストバンドの曲が使われるイメージとしてはベタというか(笑)。
大日野 : そうですね(笑)。「オシャレになりたいんですけど」と言って曲を送ったのを覚えています(笑)。でもそのときにゴスケが納得してくれてたのは記憶にあります。
後藤 : 「AppleのCMソングみたいな感じ」って言われて、「ああ~そういうことね~」みたいな感じにはなりました。
――「Cloud Dwellers」は直訳すると「雲の上の住人」というタイトルですが、これはどういうテーマで書いた曲なのでしょうか。この曲だけ歌も入っていますけど。
山本 : がっつり歌を入れるというほどではなかったんですけど、歌としてのメロディを楽器のひとつとして作ってみたかったので。このタイトルにしたのは歌詞ですね。僕は英語ができないので日本語で歌詞を書いたんですけど、上手くいかないことがあったりすると色々教えてくれる人がいるっていうイメージがあって。簡単に言えば、雲の上の住人なので「神さま」みたいなもので。その歌詞と演奏の中身もそこまで入り組んだことをしないシンプルなイメージで作りました。歌詞は一番最後に書いたんですけど、歌のメロディが一回聴いただけで耳に残るようなものを心掛けて書きました。この曲の歌メロに関してはゴスケと相談して作りましたね。
――「Fragment」はミュートされたギターリフの絡み合いが心地良い曲ですね。
山本 : この曲は一番早くできた曲ですね。今までは結構、何か月か単位で曲を作りあげてたんですけど、この曲は本当に早かったです。レコーディングギリギリであと1曲というときに作ってみんなに渡して聴いてもらって。ちょっとやり方はせこいんですけど、先に「僕はこのフレーズ弾きますよ」って(笑)。
一同 : ははははは!
山本 : 「僕はこのフレーズを弾くんでお先ですけど、完成はしていないですからね、じゃあみなさんお願いします!」みたいな感じで(笑)。時間もなかったので、みんなのアイデアを聞きながら少しずつ変わって行ったんですけど。
齋藤 : 「Fragment」はリズムに関しては一番大変でしたね。最初のデモだと拍がズレている感じだったので。「これ何拍?」みたいな感じで。譜面に書いて整理して、最初が付点8分系のキメなので、ドラムをどうしようかというのは考えましたね。シンプルにしようかなというのは思っていましたけど。
バンドを組むにあたって「このバンドだけをやらなくて良い」というルールがあった(大日野)
――変拍子の曲をやってみようとか、より複雑な演奏になって行く人たちもインストバンドにはいると思いますが、このバンドはそうはならない?
大日野 : というか、できない(笑)。
後藤 : たぶん俺が「え、今どこ?」ってなると思う。
大日野 : 本当にそういうことをバンドができるなら自然にポンッてできると思うんですけど、自然にやってそれが出ないというのはたぶん、できないんだと思います。「Fragment」の頭が俺らのハイライトですね(笑)
山本 : その部分だけに集中してリズム的に難しいことをやろうと思ったんです。「Fragment」はそこ以外は単純なので。そこだけです。
――じゃあ「Fragment」は曲の頭が聴きどころということで(笑)。変拍子ではないですけど、最後の「夜と喧騒」は構成が凝っている曲ですね。
山本 : この曲は3年前くらいからある曲なんですけど、アレンジを変えて今に至るんです。昔ライヴでよくやっていたんですけど、前作にも入らなくて。その後にピロがガラッと雰囲気を変えて持って来たんですよ。元の土台は変わらないんですけど、一時期「同じフレーズは弾かない」みたいなときがあったんですよ。1回使ったフレーズはやり捨てみたいな(笑)。この曲は当時の作り方の名残がありますね。
――全員が楽しんで音楽をやっている様子がわかりますけど、このバンドをやっている上で一番大切に思っているのはそういうストレスのなさですか?
大日野 : 最初にこのバンドを組むにあたってルールとしてあったのが、「このバンドだけをやらなくて良い」というのがあって。ゴスケもその後THE STARBEMSをやったり、今はGLORY HILLで弾いていたり。(齋藤)康輔さんも青森のS.P.N POWERとか、慎也もbrute in forestをやっていたり。そこは絶対、「このバンドだけやりましょう」みたいなことはなかったんです。ちゃんとしたプロジェクトのバンドに入ると、やっぱりそれなりにストレスが出るというのはみんなもこれまでのキャリアのなかでわかっているので。このバンドではそこを抜きにしたいというのはありました。音楽的には自由にしていきたいし、活動的な面でも、例えば誰かに子どもができたとかならそれはそれで止めても良いと思うし。「こうしなきゃいけない」というのはやめようというのは約束事としてやっている感じです。
山本 : 今までがそういう感じだったので、今回からは初めての冠という感じでツアーもやりますし、活動面に関してはエンジンをかけて行こうかなと思っています。リリースしたら今後はもっと聴いてもらえるように頑張りましょうっていう感じで、今が一番活動的ですね。今年は制作で全然ライヴをしなかったので、次からはライヴをもっとやりたいですね。
――OTOTOYの配信で『you you you all the same』を聴く方々に一言ずつお願いします。
後藤 : 散歩のお供に、みたいな感じです。な~んにも気負うことなく普通に聴いて、聴いたらぜひライヴに来てほしいです。ふっと聴いてもらってなんとなく生活のなかで流れている音楽になればいいなと思います。
山本 : 色んなときに聴いてもらって、ストレスフリーな1枚になれば嬉しいです。
齋藤 : この7曲を聴く時間で、色々な表情が出てくると思うので、何回も繰り返し聴いてほしいですね。それで前作も聴いてもらえたら僕らの成長もわかると思います。
大日野 : だいぶ浸透しているとは思うんですけど、インストって「歌ないの?」って言われることもあるし、聴き慣れない人もまだまだいると思うんです。1回そういう枠を抜きにして、本当にBGMで良いのでサラッと聴いてみてほしいです。よろしくお願いします。
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TOTOS / CALENDARS『POP SONGS』2016年
“RECORD STORE DAY”にあわせて、POWERPOP ACADEMYから300枚限定でリリースされた、CALENDARSとTOTOSのスプリット7inchシングル「POP SONGS」の配信版。『you you you all the same』にメンバーが参加しているCALENDARSの楽曲が2曲収録されている。
LOCAL SOUND STYLE『Hope』2009年
齋藤と後藤が在籍していたバンド、LOCAL SOUND STYLEが2009年にリリースしたセカンド・アルバム。アメリカ・ツアーを経て2年半ぶりにリリースされたセルフ・プロデュース作で、バンド活動休止前の最後のアルバムとなっている。
THE STARBEMS『VANISHING CITY』2014年
ギターの後藤が在籍していた(2015年3月脱退)THE STARBEMSのセカンド・フル・アルバム。パワーポップ~メロディック・パンクを中心とした疾走感のあるバンド・サウンドが特徴的な一枚となった。中心メンバーは元BEAT CRUSADERSの日高央。
LIVE INFORMATION
〈1st ミニ・アルバム『you you you all the same』リリース・ツアー〉
2016年9月17日(土) @愛知/栄 Party'z “MELODY-GO-ROUND” pre
2016年9月18日(日) @大阪/福島 2ndLine “FUNTIMES”pre
2016年9月19日(月・祝)@広島 Cave-be
2016年10月8日(土) 青森/弘前 Mag-net
2016年10月9日(日) 青森/八戸 ROXX
2016年11月5日(土) 広島/福山 MUSIC
FACTORY “POPLIFE” pre
2016年12月3日(土) 渋谷 O-nest -TOUR FINAL-
PROFILE
大日野武則(Bass / ex-Yacht.)、無期限活動休止中のLOCAL SOUND STYLEの齋藤康輔(Drums)と後藤裕亮 (Guitar / ex-THE STARBEMS)、山本慎也(Guitar /ex.maegashira)によって結成されたインストゥルメンタル・バンド。
パンク、オルタナ、USインディー、エモ、ポストロック等、アンダーグラウンドシーンをルーツに持ちながらも、オーバーグラウンドにまで届く絶妙な平衡感覚を持つそのサウンドは、幅広いジャンルを敬愛し、向き合っているyyyatsでしか出来ないアウトプットと言える。
>>you you you all the same オフィシャルサイト