JP4606050B2 - クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に関する。
クロスヘッド型ディーゼル機関にはシリンダーとピストン間を潤滑するシリンダー油と、その他の部位の潤滑と冷却を司るシステム油が使用されている。シリンダー油はシリンダーとピストン(ピストンリング)間の潤滑のために必要な適正な粘度と、ピストン、ピストンリングの運動が適正に行われるために必要な清浄性を保つ機能が求められる。さらにこの機関は、その経済性から高硫黄燃料が通常使用されるため、燃焼により生成した硫酸等の酸性成分によるシリンダー腐食の問題を抱えている。この問題を防ぐため、シリンダー油には生成する硫酸等の酸性成分を中和し、腐食を防止する機能も必要である。
一方、近年のクロスヘッド型ディーゼル機関は更なる性能の向上のため、シリンダー径の大型化(例えば、ボアサイズ70cm以上)、ピストンストロークの増大(例えば、平均ピストン速度で8m/s以上となるような超ロングストローク化)、燃焼圧力の増大(例えば、正味有効圧力(BMEP)1.8MPa以上)が進められる傾向にあり、燃焼圧力の増大は硫酸の滴点上昇を招くため、シリンダーの硫酸腐食が発生しやすい状況になってきた。さらに、この硫酸腐食防止のための方策として、シリンダー壁温を上昇させる場合(例えば、シリンダー壁温250℃以上)があり、しかも経済性から、シリンダーに注油される潤滑油量をも削減されつつあるため、シリンダーの潤滑環境は一段と厳しさを増してきた。
さらに、近年環境問題から沿岸部では低硫黄燃料を使用することが求められることが多くなってきているが、従来の高硫黄燃料用の高塩基価シリンダー油をそのまま使用した場合には、スカッフィング等の問題が発生する事例が数多く報告されている。
従来の舶用ディーゼルエンジン油は、基油に過塩基性の金属系清浄剤を主成分として含有させて摩耗防止性を維持する低コストのものが多かったが、最近になって、サリシレート系、スルホネート系、フェネート系あるいは複合系清浄剤等の様々なタイプの金属系清浄剤を主成分とし、極圧剤や分散剤を含有する船用ディーゼルエンジン油が開発されている(特許文献1〜5)が、上記のような近年のクロスヘッド型ディーゼル機関に対しては、より低コストでさらに摩耗防止性、耐焼付き性を一段と発揮させることが求められている。
特開2002−275491号公報 特表2002−515933号公報 特表2002−501974号公報 特表2002−500262号公報 特開2002−241780号公報
本発明は、これらの状況からクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油として、従来の性能に加え、より低コストで、より耐摩耗、耐焼付性が改善されたクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、シリンダー部の耐摩耗性、耐焼付性をより向上させるには、高温におけるシリンダー油の広がり性を改善することが有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。この広がり性を改善するには、特定粘度のシリコーンオイルを少量添加することが極めて有効であり、さらに無灰分散剤や極圧剤と併用することで更なる耐摩耗性、耐焼付性を改善することがわかった。なお、無灰分散剤だけでは耐焼付性を改善する効果は小さく、シリコーンオイルとの併用により顕著な効果を発揮できる。
すなわち、本発明は、(A)25℃における動粘度が2000〜5000mm/sのシリコーンオイル及び(B)ホウ素含有無灰分散剤を組成分全量基準で、それぞれ1〜100質量ppm、及びホウ素量として0.001〜0.1質量%含有するクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物にある。
また、本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物は、さらに(B)無灰分散剤を含有することが好ましい。
また、前記(B)無灰分散剤としては、ホウ素含有無灰分散剤を含有することが好ましい。
また、本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物は、さらに(C)少なくとも一種類の極圧剤を含有することが好ましい。
また、本発明は、(A)25℃における動粘度が2000〜5000mm/sのシリコーンオイル及び(B)ホウ素含有無灰分散剤を組成分全量基準で、それぞれ1〜100質量ppm、及びホウ素量として0.001〜0.1質量%をクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に含有させることを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダーの摩耗防止性及び/又は耐焼付き性を向上する方法にある。

以下、本発明について詳述する。
本発明のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物(以下、単に潤滑油組成物ともいう。)における潤滑油基油については特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油及び/又は合成系基油が使用できる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいはワックス異性化鉱油、フィッシャートロプシュプロセス等により製造されるGTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される潤滑油基油等が例示できる。
鉱油系基油の全芳香族分は、特に制限はないが、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。全芳香族分は0質量%でも良いが、添加剤の溶解性の点で1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましく、20質量%以上であることが特に好ましい。基油の全芳香族分が40質量%を越える場合は、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、上記全芳香族分とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味する。通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレン、これらのアルキル化物、ベンゼン環が四環以上縮合した化合物、及びピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
また、鉱油系基油中の硫黄分は、特に制限はないが、1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。硫黄分は0質量%でも良いが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上である。鉱油系基油の硫黄分をある程度含むことにより、添加剤の溶解性を十分に高めることができる。
合成系基油としては、具体的には、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリα−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;マレイン酸ジブチル等のジカルボン酸類と炭素数2〜30のα−オレフィンとの共重合体;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、芳香族エステル等の芳香族系合成油又はこれらの混合物等が例示できる。
本発明では、潤滑油基油として、鉱油系基油、合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の潤滑油の任意混合物等が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油等を挙げることができる。
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、4〜50mm2/sであることが好ましく、より好ましくは、6〜40mm2/s、特に好ましくは8〜35mm2/sである。潤滑油基油の100℃での動粘度が50mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が4mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
本発明の潤滑油組成物において、潤滑油基油としては、100℃での動粘度が4〜17mm2/s未満及び/又は100℃での動粘度が17〜50mm2/sの潤滑油基油を含有することが好ましい。100℃における動粘度が4〜17mm2/s未満の潤滑油基油としては、例えば、SAE10〜40等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、5.6mm2/s以上、より好ましくは9.3mm2/s以上であり、好ましくは14mm2/s以下、より好ましくは12.5mm2/s以下である。また、100℃における動粘度が17〜50mm2/sの潤滑油基油としては、例えば、SAE50、ブライトストック等の鉱油系基油や合成系基油が挙げられ、その動粘度は、好ましくは20mm2/s以上、より好ましくは25mm2/sであり、好ましくは40mm2/s以下、より好ましくは35mm2/s以下である。
本発明においては、100℃での動粘度が4〜17mm2/s未満の潤滑油基油を主成分、例えば、基油全量基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上含有させ、必要に応じて100℃での動粘度が17〜50mm2/sの潤滑油基油を配合することができる。
潤滑油基油の蒸発損失量としては、NOACK蒸発量で、20質量%以下であることが好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくない。なお、ここでいうNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量を測定したものである。
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は好ましくは80以上であり、より好ましくは90以上であり、更に好ましくは100以上である。粘度指数の上限については特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油やHVI−PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができるが、添加剤の溶解性や貯蔵安定性の点で120以下であることが好ましく、110以下であることが望ましい。
本発明における(A)成分はシリコーンオイルであり、その構造に特に制限はないが、例えば、下記一般式(1)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。

Figure 0004606050
式(1)中、Rは炭素数1〜10の炭化水素基を示し、各々同一でも異なっていてもよい。ここでいう炭素数1〜10の炭化水素基としては、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を示し、これらはフッ素を含んでいてもよい。特にRとしては、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、より好ましくは炭素数1又は2のアルキル基、特にメチル基であることが望ましい。
上記シリコーンオイルとしては、具体的には、ジメチルシリコーン、ジメチルシリケート、トリフルオロプロピルメチルシリコーン等が挙げられる。
シリコーンオイルとしては、通常25℃における動粘度は0.5〜100mm2/s未満のものもあるが、本発明においては、25℃における動粘度が100〜350,000mm2/sの高粘度のものであることが必要であり、好ましくは300〜100,000mm2/s、より好ましくは1,000〜10,000mm2/s、特に好ましくは2,000〜5,000mm2/sである。25℃における動粘度が100mm2/s未満の場合、高温における摺動面への潤滑油の広がり性向上効果が小さく、摩耗防止性向上効果が小さい。
本発明の潤滑油組成物における(A)シリコーンオイルの含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、好ましくは1〜100質量ppm、より好ましくは5〜80質量ppm、さらに好ましくは10〜60質量ppm、特に好ましくは20〜60質量ppm、最も好ましくは30〜60質量ppmである。(A)成分の含有量が1質量ppm未満の場合、高温における摺動面への潤滑油の広がり性を向上させにくく、また、100質量ppmを超える場合は、含有量に見合うだけの効果が期待できないばかりでなく、発生した泡が消えにくいためかえって摩耗防止性を悪化させやすくなるため好ましくない。
本発明の潤滑油組成物は(B)無灰分散剤を含有することが好ましい。
(B)無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤が使用でき、例えば、炭素数40〜400、好ましくは60〜350の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体、マンニッヒ系分散剤、あるいはアルケニルコハク酸イミドの変性品等が挙げられる。使用に際してはこれらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
前記含窒素化合物又はその誘導体のアルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は、潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するためそれぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
(B)成分としては、例えば、以下の(B−1)成分〜(B−3)成分から選択される1種又は2種以上の化合物を用いることができる。
(B−1)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(B−2)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(B−3)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体。
(B−1)成分としては、式(2)又は(3)で示される化合物等が例示できる。
Figure 0004606050
式(2)中、R20は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。一方、式(3)中、R21及びR22は、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、特に好ましくはポリブテニル基である。またiは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
(B−1)成分には、ポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した式(2)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した式(3)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが含まれるが、本発明の潤滑油組成物には、それらのいずれも、あるいはこれらの混合物が含まれていても良い。
これら(B−1)成分であるコハク酸イミドの製法は特に制限はなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を、無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得られる。
ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
(B−2)成分としては、具体的には式(4)で表される化合物等が例示できる。
Figure 0004606050
式(4)中、R23は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
この(B−2)成分であるベンジルアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させることにより得られる。
(B−3)成分としては、具体的には、式(5)で表される化合物等が例示できる。
24‐NH−(CH2CH2NH)k−H (5)
式(5)中、R24は炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
この(B−3)成分であるポリアミンの製法は特に制限はなく、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、又はペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得られる。
前記(B)成分の1例として挙げた含窒素化合物の誘導体としては、例えば、前述の含窒素化合物に炭素数1〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸若しくはこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆる含酸素有機化合物による変性化合物;前述の含窒素化合物にホウ酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性化合物;前述の含窒素化合物にリン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるリン酸変性化合物;前述の含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物;及び前述の含窒素化合物に含酸素有機化合物による変性、ホウ素変性、リン酸変性、硫黄変性から選ばれた2種以上の変性を組み合わせた変性化合物等が挙げられる。これらの誘導体の中でもアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物、特にビスタイプのアルケニルコハク酸イミドのホウ酸変性化合物は(A)成分と併用することで摩耗防止性、耐焼付き性を格段に向上させることができるので特に好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、窒素量として0.005〜0.4質量%、好ましくは0.01〜0.2質量%、さらに好ましくは0.01〜0.1質量%、特に好ましくは0.02〜0.05質量%である。また、(B)成分として、ホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、そのホウ素含有量と窒素含有量との質量比(B/N比)は特に制限はないが、好ましくは0.5〜1、より好ましくは0.7〜0.9である。B/N比が高いほど摩耗防止性、耐焼付き性を向上しやすく、1を超える場合は、安定性に懸念があるため望ましくない。また、ホウ素含有無灰分散剤を使用する場合、その含有量に特に制限はないが、組成物全量基準で、ホウ素量として、好ましくは0.001〜0.1質量%、より好ましくは0.005〜0.05質量%、特に好ましくは0.01〜0.04質量%である。本発明においては、(B)成分として、ホウ素含有量が0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは1.5質量%以上、特に好ましくは1.8質量%のホウ素含有無灰分散剤、特にビスタイプのホウ素含有コハク酸イミド系無灰分散剤を含有させることが最も望ましい。なお、ここでいうホウ素含有量が0.5質量%以上のホウ素含有無灰分散剤は、10〜90質量%、好ましくは30〜70質量%の希釈油(例えば鉱油、合成油等)を含んでいても良く、そのホウ素含有量は、通常、希釈油を含んだ状態でのホウ素含有量を意味する。
本発明において、(A)シリコーンオイルと(B)無灰分散剤の添加だけで摩耗防止性、耐焼付き性に不十分である場合は、さらに(C)少なくとも一種の極圧剤を含有させることができる。
本発明の潤滑油組成物に用いることができる(C)極圧剤としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。
本発明においては、ジチオリン酸亜鉛及び/又はポリサルファイド類を使用することが好ましい。
本発明の潤滑油組成物において、(C)成分を使用する場合、その含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜5質量%、好ましくは0.1〜2質量%、特に好ましくは0.2〜1質量%である。本発明において、(C)成分を含有させる場合、0.1質量%未満の場合は、摩耗防止性、耐焼付き性をさらに向上させる効果が少なく、一方、5質量%を越える場合は、組成物の高温清浄性が大幅に悪化するためそれぞれ好ましくない。
本発明の潤滑油組成物は、上記構成に加え、その性能を更に向上させるため又は他に要求される性能を付加するために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤をさらに添加することができる。このような添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、及び着色剤等の添加剤を挙げることができる。
金属系清浄剤としては、特に制限はなく、公知のアルカリ金属又はアルカリ土類金属スルホネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属フェネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ナフテネート系清浄剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属ホスホネート系清浄剤及びこれらの混合物(コンプレックスタイプも含む)等が挙げられる。
ここでいうアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム、バリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属であることが好ましく、カルシウム又はマグネシウムであることが特に好ましい。
金属系清浄剤の塩基価は、特に制限はないが、通常0〜500mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは150〜450mgKOH/g、特に好ましくは250〜450mgKOH/gである。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
本発明においては、塩基価200〜450mgKOH/gの過塩基性スルホネート系清浄剤及び/又は過塩基性フェネート系清浄剤を使用することが好ましく、塩基価350〜450mgKOH/gの過塩基性スルホネート系清浄剤及び/又は塩基価200〜300mgKOH/gの過塩基性フェネート系清浄剤を使用することが特に好ましい。
本発明において、金属系清浄剤の含有量は特に制限はないが、組成物全量基準で、通常、希釈油混合品ベースで、1〜30質量%であり、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは10〜25質量%以上、さらに好ましくは15〜25質量%である。
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。これらの含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
摩擦調整剤としては、脂肪酸エステル系、脂肪族アミン系、脂肪酸アミド系等の無灰摩擦調整剤、モリブデンジチオカーバメート、モリブデンジチオホスフェート等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。これらの含有量は、組成物全量基準で、通常0.1〜5質量%である。
粘度指数向上剤としては、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−ジエン共重合体系粘度指数向上剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度指数向上剤又はポリアルキルスチレン系粘度指数向上剤等が挙げられる。これら粘度指数向上剤の重量平均分子量は、通常800〜1,000,000、好ましくは100,000〜900,000である。また、粘度指数向上剤の含有量は、組成物全量基準で通常0.1〜20質量%である。
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物等が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステル等が挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が0.1〜100mm2/s未満のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール、アルミニウムステアレート、オレイン酸カリウム、N−ジアルキル−アリルアミンニトロアミノアルカノール、イソアミルオクチルホスフェートの芳香族アミン塩、アルキルアルキレンジホスフェート、チオエーテルの金属誘導体、ジスルフィドの金属誘導体、脂肪族炭化水素のフッ素化合物、トリエチルシラン、ジクロロシラン、アルキルフェニルポリエチレングリコールエーテルスルフィド、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ通常0.005〜5質量%、金属不活性化剤では通常0.005〜1質量%、消泡剤では通常0.0005〜1質量%の範囲から選ばれる。
なお、本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、特に制限はないが、好ましくは6〜50mm2/s、より好ましくは9.3〜30mm2/s、特に好ましくは12.5〜21.9mm2/sである。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。
また、本発明の潤滑油組成物の塩基価は、特に制限はないが、アスファルテンを含有する高硫黄燃料を使用する場合に対しても優れた高温清浄性と酸中和性能を付加するためには、好ましくは5〜100mgKOH/g、より好ましくは10mgKOH/g以上、さらに好ましくは20mgKOH/g以上であり、より好ましくは80mgKOH/g以下、さらに好ましくは50mgKOH/g以下である。ここで塩基価とは、ASTM D−2896により測定される塩基価を示す。
また、本発明の潤滑油組成物の硫酸灰分量は、特に制限はないが、好ましくは1.2質量%以上、より好ましくは2質量%以上、特に好ましくは3質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。なお、ここでいう硫酸灰分とは、JIS K2272の5.「硫酸灰分の試験方法」に規定される方法により測定される値を示し、主として金属含有添加剤に起因するものである。
本発明の潤滑油組成物は、高温における摺動面への広がり性に優れ、摩耗防止性、耐焼付き性に優れるものであり、クロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として好適であり、特に、最新型の、ボアサイズが70cm以上に大型化され、平均ピストン速度で8m/s以上、さらには8.5m/s以上となるような超ロングストローク、燃焼圧力が正味有効圧力(BMEP)で1.8MPa以上、さらには1.9MPa以上、シリンダー壁温250℃以上、さらには260℃以上、特に270℃以上となるような条件のいずれかあるいは全てを満たす条件で運転される2ストロークサイクルディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物として特に優れた効果を発揮する。
以下、本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
(実施例1〜3、比較例1〜2、参考例1〜2)
表1に示す組成の本発明の潤滑油組成物(実施例1〜3)、比較用および参考用の潤滑油組成物(比較例1〜2、参考例1〜2)をそれぞれ調製した。得られた組成物について、高速往復動試験機により、下記に示す条件によって焼付き荷重を測定し、その結果を表1に併記した。なお、ここで使用した基油は、SAE30のグループI基油(硫黄分0.03質量%以上、飽和分90質量%未満、粘度指数80〜120)とブライトストックを組み合わせたものであり、添加剤を処方した状態で、組成物の100℃における動粘度20mm2/sとなるよう調整した。パッケージAは過塩基性スルホネートと過塩基性フェネートのみからなる添加剤パッケージであり、組成物の塩基価が70mgKOH/gになるよう添加してある。
<高速往復動試験機の試験条件>
1.ディスクの直径:190mm、回転速度:1600rpm
2.最大すべり速度:12.5m/s(直径150mmの位置)
平均のすべり速度:8.0m/s
3.往復動の速度(リングの揺動速度):100rpm
4.ライナ材:ターカロイC(実機で使用の材質)
リング材:片状黒鉛鋳鉄(実機で使用の材質)
自乗平均平方根粗さ:0.38〜0.40μm
5.給油量:1分に1滴(約0.5mg/s)
表1の結果から明らかなように、本発明における(A)成分を含有しない組成物では、ホウ素を含有しないコハク酸イミドを2質量%及び5質量%含有させた場合(比較例1及び2)では焼付き荷重が4MPa程度と低く、ホウ素を含有しないコハク酸イミドの耐焼付き性向上効果は見られない。しかし、(A)成分を50質量ppm(0.005質量%)とごくわずかに含有させただけで、焼付き荷重が5MPaまで高くなり(実施例1)、ホウ素を含有しないコハク酸イミドに代えてホウ素含有コハク酸イミドと併用すれば6MPaまで高くなる(実施例2)。さらにホウ素含有コハク酸イミドを半減しても、極圧剤を併用した場合にはさらに焼付き荷重が高くなることがわかる(実施例3)。
なお、(A)成分を含有せず、ホウ素化コハク酸イミドや極圧剤を配合した場合、焼付き荷重が5MPaまで向上する(参考例1及び2)ものの、実施例1の組成物と同程度であり、実施例1の組成物に比べてコスト的には不利となる。
Figure 0004606050

Claims (4)

  1. 潤滑油基油に、(A)25℃における動粘度が2000〜5000mm/sのシリコーンオイル及び(B)ホウ素含有無灰分散剤を組成分全量基準で、それぞれ1〜100質量ppm、及びホウ素量として0.001〜0.1質量%含むことを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
  2. 前記(B)ホウ素含有無灰分散剤がホウ素含有コハク酸イミドであることを特徴とする請求項1に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
  3. さらに(C)少なくとも一種類の極圧剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物。
  4. (A)25℃における動粘度が2000〜5000mm/sのシリコーンオイル及び(B)ホウ素含有無灰分散剤を組成分全量基準で、それぞれ1〜100質量ppm、及びホウ素量として0.001〜0.1質量%をクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダー潤滑油組成物に含有させることを特徴とするクロスヘッド型ディーゼル機関用シリンダーの摩耗防止性及び/又は耐焼付き性を向上する方法。
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