2020/10/08 18:00

荘厳で繊細なサウンド、聴いただけでは終われない衝撃を残して──kycoh

数多いるアーティストのなかからOTOTOY編集部がグッときた、プッシュしたいアーティストを取り上げるこのコーナー。第19回は精力的に楽曲のリリースを行い、つい先日もニュー・シングル「Purge」をリリースしたばかりのkycohにインタヴュー。初ライヴから半年で“出れんの!? スパソニ!? ”最終選考に残るなど今後の動向が楽しみでたまらない彼らは一体なにを考え、なにを伝えるべく活動しているのか?なかなかライヴに行きにくいいま、ここで素敵な出会いを。

第19回 : kycoh

熊岡李王(Drums)、足立大昂(Vocal/Guitar)、 田頭政輝(Vocal/Guitar)、玄徳(Bass/Manipulate/Synthesizer)

初めて彼らの楽曲を聴いたとき一番思ったのは“いまに媚びないかっこよさ”だった。バンド・サウンドとエレクトロ・サウンドが融合した洗練されたサウンドにヴォーカルの美しく、しなやかな歌声。私はそういったバンドによく“おしゃれでいまっぽいな”と思うが、それっきりなことも少なくなかった。それでも彼らの楽曲を聴き、ライヴで奏でられる轟音に身を任せていたくなるのはkycohから感じる“切実さ”が心地よくてたまらないのかもしれないな、と思う。

彼らの楽曲は、オートチューンがかかったヴォーカルが力強く歌う楽曲もあればアンニュイなギター・リフからはじまるどこか懐かしさを感じる楽曲まで多岐に渡るが、どの楽曲にも共通するのは1曲聴き終わったあとの充足感だ。1曲1曲の展開のすべてから普段はしまい込んでいるような感情が刹那に解き放たれる瞬間に“切実さ”を感じるのだ。現代社会で溜まっていくさまざまなフラストレーション、自分だけじゃどうにもできないこと、言いたくても言えないこと。そんな気持ちをまるで音楽に変換してくれているような気持ちになるし、そんな彼らは“バンド”という枠でなく“音楽家だな”と感じ、感銘を受けた。

その充足感はサウンドのみから生み出されるわけではなく、メイン・ヴォーカルである足立大昂のクオリティの高い歌声からでもあるし、それはライヴでより強く感じられる。kycohのライヴを見たとき、足立大昂は遠くを見つめて歌っていた。ただ、どこを見ていて、どんな景色が見えているのか私たちにはわからない。それでもそこにも、彼が伝えたい“何か”を伝えようという強い“切実さ”がまたあったのだ。そんな愚直にパフォーマンスをされたらそんなのこちらも愚直に向き合うしかないじゃないか、と胸が締め付けられる感覚に陥ったときステージ上の彼らはまた真摯に“音楽”に向き合っていて、その愚直さと切実さこそが“媚びなさ”に繋がったのだろう。そして久々にライヴに対して“非日常感”を感じられ、単純に嬉しかったのだ。

そうやって積み重ねられた感動は私の心に残ったし、あなたにもこの連載でそんな出会いが見つかれば嬉しい、そんな気持ちで今回は足立大昂(Vocal/Guitar)にメール・インタヴューを行いました。

MAIL INTERVIEW : 足立大昂(kycoh)

Q.メンバーとの出会いから結成までのきっかけを教えてください。

もともとうちのバンドのメンバー4人って、このバンドはじめるからってワケで知り合ったで会ったわけじゃないんですよね。もともと全員がそれぞれと友達で大学の学科の友達だったり、バイト先が一緒だったり、高校の頃一緒にバンド活動してたり仲が良くて、4人のグループラインがあったりした友達グループだったんですよ。そんななかで僕が以前やってたバンドが終わっちゃって、新しいことするために李王といるときにはじめてパソコンで曲を作ってみたのがkycohがはじまるきっかけでしたね。

Q.バンド名(kycoh)の由来は?

もともと、ブランドのHykeみたいに日本語を当て字で英語で書いたらおもしろいんじゃないか、とか検索して他のものが引っかからないバンド名がいいな、とか案出ししてたんですよ。「それじゃあ名前はkycohにしよう」って田頭が最初に言ったんですけど、それぞれで出会っていた4人が集まってバンドをする、邂逅(かいこう)するっていいなって話してすんなり決まりました。よく名前をkycohじゃなくてkychoって間違われるんですけど、実は当て字の発想はtychoとかじゃなくてRICOHから取っているのでkycohです(笑) 。

Q.好きなジャンルや普段聴いている音楽の魅力を教えてください。

あんまりジャンルで絞って聴いているわけではなくて、かっこいいと思ったら好き、ぐらいなニュアンスで音楽聴いてるんですよね。だいたい自分の審美眼にかなうプロダクトに共通してるものは、曲に限らず聴いたり見たりして圧倒されたり、認識した後になにかじっくり考えさせられるものなんですよね。だから曲だったらドラマチックで意味を感じさせられる曲が好きだったりします。そういうふうに表現されてないと印象に残らないから。わかりやすい曲は自分のなかで思考停止してしまうんです、通り過ぎていかないでインパクトを残してくれる曲は自分なりに考え込んでしまうんですよ。そういう心構えで音楽を聞いたり映画を見たりして影響を受けているから、そのおかげで広い振り幅の中で曲を作れてると思っています。

Q.バンドとしての強みを教えてください。

端的に言うとメンバー全員が思慮深いことが一番の強みかなと思ってます。それぞれが私生活でも違うバックボーンを持っていて、僕はデザインの勉強をしていたり、田頭はカメラが好きで、その開発の仕事してたり、玄徳は大学院の博士課程で研究してたり、李王はもう一つのバンドでめちゃくちゃ精力的に活動してたり。ぜんぜん違うんです、生活スタイルが(笑) 。でもやっぱりなんでか音楽を作る上で共通する価値観があって、それについて対話ができるからジャンルに頼らない新しいものがマジックみたいに生まれてくる。これがやっぱりうちのバンドの魅力であり、強みかなって思います。

Q.kycohとして影響を受けたアーティストはいますか?

kycohに限らず、音楽やる上でのベースは後にも先にもRadioheadです。

Radiohead “2 + 2 = 5”
Radiohead “2 + 2 = 5”

Q.楽曲制作する上で、なにを1番大切にしているか教えてください。

常に新しい曲を作り続けることと、その上で自分に対して嘘をつかないことですね。人が聞いたことないような曲を作りたいし、さっき好きな曲の話で言ったことの裏返しで、人にインパクトを与えて解釈してもらえる曲が書きたいって思いで作ってます。

Q.作詞・作曲は誰が作り、何を使って楽曲制作をしていますか?

僕がパソコンのLogic pro Xっていうソフトで原型を作ります。結構作り込んで持っていくタイプなんですけど、納得できるラインに来たらメンバーに聞かせますね。その後はちょっと変わってるんですけど、メンバーの家に集まってみんなでパソコン見ながら作業します。このときにメンバーに具現化したものがあることと、その概要を伝えると建設的な目線で批判してくれて、”足立はこういうのが作りたいはずだ”って意見を踏まえて構成やら音やらいじったりするんです。自分では見えない自分のことを気のおけない仲間が知っているから、その過程で表現したいことを100%にして作り上げていくんです。

Q.歌詞を書く上で大切にしていることはありますか?

直接的なことはあんまり書かないようにしてますね。聞いてくれた人のひとりひとりに衝撃を与えたいって視点にもリンクするんですけど、多角的に見れる歌詞を書いていくことでそれぞれが自分なりに歌詞を理解して汲み取ってほしいな、通り過ぎないで考える曲になってほしいなって思って書いてます。

Q.いままで楽曲制作をして1番苦労したこと、記憶に残ったエピソードを教えてください。

kycohを立ち上げる三ヶ月前にパソコンで音楽を作り始めたんですけど、1st E.P.の 『WOKE』 に収録されている4曲にあるようなバンドとしての形式、フォーマットづくりには苦労したし、めちゃくちゃ時間かけましたね。今回(10月7日)にリリースした「Purge」では初めてリリース用のミキシングをしたので、それにも苦労しました。

Q.今回(2020年10月7日(水))リリースされた「Purge」はどんなイメージで制作されましたか?

「Purge」は今年の新型コロナウィルスが流行してる時分、自粛期間って地球の人みんなが恐怖の共通意識を持っていましたよね。コロナに対してのみならずですが、みんなが共通意識で感じていた、なんならまだ感じている恐怖に対して打ち勝つために鼓舞しなければならないっていう感情を持って作曲しました。

Q.MVやアートワークにもにも強くこだわりを感じます。どのように制作されていますか?

みんなでアイデア出しのために集まって、いろんな案を出して、いっぱい喋ってって工程を踏んで、全員が納得するものをすり合わせて納得行ったものをようやくローンチしています。今回発表した”Traffic(edit)”のLife cut videoは単純に音楽聞いてもらうことが目的ではなくて、どんな人たち、どんな関係性の人たちがkycohの音楽をやっているのか、さらにどんなものをいいと思っていて生活しているのかという感性を表現することを目的にして作りました。これは音楽だけじゃなくて、視覚的に自分たちのいいと思うものを出していくことで我々を理解してもらうための表現なんです。

【Music Video】kycoh “Traffic (edit)” (from 3rd Digital Single “Purge”)
【Music Video】kycoh “Traffic (edit)” (from 3rd Digital Single “Purge”)

Q.理想とする・目指しているライヴ・パフォーマンスはありますか?

やっぱり一貫していて“見る人が叙情的な感覚に陥るライヴにしたい”って思ってます。単純に楽しかった、なんて気持ちじゃなくて持ち帰って意味を考えるような、記憶に残るパフォーマンスがしたいし、そうするための手段を常に模索していますね。

Q.今後、出演してみたいイベントやフェスなどありますか?

今年は初ライヴから半年で“出れんの!? スパソニ!? ”の最終選考まで行けて結構嬉しかったんですよね。一年以内に自分たちがやってることがかっこいいって世間に伝えたかったので。だからスパソニが延期になったのは本当に悔しくて。来年は必ず最終選考を通過してスパソニに出ようと思ってます。もちろん当たり前にフジロックにも出たいですし、もっというと日本のフェスに限らずにオースティンの〈SXSW〉とかロンドンの〈Field Day Festival〉、フェロポリスで行われている〈Melt Festival〉みたいな、グローバルに色々なフェスに出たいと思っています。オペラハウスとかでライヴしたりもしてみたいし、バンドって形態のライヴに限らない場所でライヴがしたいって話はメンバーでもよくしてますね。早くライヴができるようになると嬉しいです。

MUSIC VIDEO

【Music Video】kycoh “Box Boy” (from 1st Single “Box Boy”)
【Music Video】kycoh “Box Boy” (from 1st Single “Box Boy”)

【Music Video】kycoh “Life-size” (from 1st Digital Single “Life-size”)
【Music Video】kycoh “Life-size” (from 1st Digital Single “Life-size”)

PROFILE

kycoh

2019年9月 結成,東京を中心に活動開始.同時に1st Single “Box Boy”を配信開始,Music Videoを公開

2019年11月 1st E.P. “WOKE”をTOWER RECORDS一部店舗限定で販売開始

2020年6月 出れんの!? スパソニ!? 最終ライブ審査選出

2020年8月 MASH A&R主催「MUSH PUSH!」7月度アーティスト選出

2020年9月 ULTRA-VYBE主催コンピレーション・アルバム『S.W.I.M. #1 -polywaves- 』に収録,全国流通

Twitterhttps://twitter.com/kycoh_jp
Instagramhttps://www.instagram.com/kycoh_jp/


この記事の筆者

[インタヴュー] kycoh

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