JP4304473B2 - 超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法 - Google Patents

超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、超微細な結晶粒を有する熱延鋼板の製造方法に関する。詳しくは、自動車用、家電用、機械構造用、建築用等の用途に用いられる素材として好適な機械的強度及び加工性に優れた超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法に関する。
自動車をはじめとする輸送用機械や各種産業機械の構造用部材等には、強度、加工性、靱性などに優れた機械的特性が求められる。これらの機械特性を総合的に高めるには、組織を微細化することが有効である。そのため、微細な組織を得るための製造方法が数多く提案されてきている。
従来技術による組織微細化の手段を総括すると、(1)大圧下圧延法、(2)制御圧延法、(3)合金元素添加法、もしくはこれらの組み合わせである。
(1)大圧下圧延法は、圧下率を50%程度以上と大きくして、1パスの圧延で大きな歪みを蓄積させ、その後オーステナイトから微細フェライトへと変態させるか、もしくは大歪みを利用して比較的粗大なフェライトを微細フェライトへ再結晶させる手法である。これによって、600℃近傍の低温域の圧延では、粗大粒化し易い単純組成の低炭素鋼においてすら、1μm近傍の超微細フェライト組織が得られる。しかし、600℃近傍の温度の大圧下は、工業的には困難である。一方、工業的に容易な800℃程度以上の温度における圧延では、フェライト粒径は一般に3μm程度以上となってしまう。
(2)制御圧延法は、一般的に800℃程度以上で、圧延パス当たりの圧下率を20〜40%以下として、多パスの圧延を施した後、冷却する方法である。圧延温度をAr3点近傍の狭い温度域にする方法、圧延のパス間時間を短縮する方法、また、歪み速度と温度を制御してオーステナイトを動的再結晶させる方法などの多くの方法が開示されている。しかし、圧延後の冷却に関する検討は十分には行われていない。圧延の直後から水冷するほうが好ましいとされているが、直後冷却といっても圧延後0.2秒以上経過してからの冷却開始で、冷却速度もせいぜい250℃/秒程度である。このような方法では、単純組成の低炭素鋼のフェライト粒径は5μm程度にしかならない。
(3)合金元素添加法は、オーステナイトの再結晶化や回復を抑制する合金元素の微量の添加によってフェライト粒の微細化を促進するものである。Nb、Ti、Mo、V等の合金元素は、炭化物を形成したり、粒界に偏析して、オーステナイトやフェライトの回復と再結晶を抑制するため、これらを添加するとフェライト粒が微細化する。この(3)合金元素添加法は、上記の(1)の大圧下圧延法や(2)の制御圧延法と組み合わせて用いる場合が多い。しかし、この場合でも、フェライト粒径の下限は2μmである。また、この(3)の合金元素添加法は、添加する合金元素の分だけ、原料コストが嵩むという問題点がある。
これらの(1)大圧下圧延法、(2)制御圧延法及び(3)合金元素を添加する方法に言及した先行文献として、特許文献1がある。ここでは、Ar1+50℃からAr3+100℃の温度域で1秒以内に一回もしくは二回以上の合計圧下率が50%以上の加工を加え、加工終了後の600℃以上の温度域で20℃/秒以上の冷却速度の強制冷却を行う方法が開示されている。
さらに、特許文献2には、動的再結晶温度域での圧下を5スタンド以上の圧下パスにて行い、かつ、この動的再結晶温度域で圧下を加える最初のスタンド入り側と最後のスタンド出側の温度差を60℃以下にする方法が開示されている。
このように、結晶粒の微細な鋼板を得るための熱延方法に関して多くの提案がなされているが、未だ、工業的に容易な800℃程度以上の圧延によって、単純組成鋼のフェライト結晶粒径を十分にかつ安定して微細化し、安価で高強度の鋼板を実現する方法は見いだされていない。
特開昭59−205447号公報
特開平11−152544号公報
本発明は、工業的に容易な800℃程度以上の圧延によって、Nb、Ti等の合金元素の有無にかかわらず、超微細な結晶粒を持ち、機械特性に優れた熱延鋼板を製造する方法を提供することにある。
本発明者らは、Ar3点以上の温度での圧延を行うことを前提に、微細な結晶粒を持ち、機械的特性に優れた熱延鋼板を製造する方法を得るべく、熱延鋼板の化学組成や圧延後の冷却方法について、種々検討した。
その結果、多パス熱間圧延をAr3点以上の温度で終了しその後に冷却する際、圧延終了後から0.4秒以内に720℃の温度までの冷却を完了することがフェライトの微細化にとって最も重要であるとの知見を得た。
圧延直後の冷却条件は、従来、最も速いものでも、圧延終了直後から0.2秒後に強制冷却を開始し、最大250℃/秒の冷却速度で冷却されている。したがって、たとえば、Ar3点が800℃の低炭素鋼を例にとると、低炭素鋼をAr3点である800℃以上から720℃以下の温度まで冷却する間に、従来は0.52秒以上経過していたのである。
Ar3点以上の温度域で圧延されると、オーステナイト結晶粒内に歪みが蓄積される。Ar3点以上の温度域で圧延された後、0.4秒以内に720℃までの冷却を完了すると、この歪みは解放されることなく、オーステナイト粒内に蓄積されたままになり、そして、720℃以下の温度になってはじめて、オーステナイトからフェライトへの変態が活発化し、蓄積された歪みを核としてフェライト粒が多数発生し、微細なフェライト組織が形成されると考えられる。これに対して、Ar3点以上の温度域で圧延された後、0.4秒を超える時間をかけて720℃までの冷却を行うと、720℃以上の高温下で歪みが容易に解放されるだけでなく、残存する歪みの存在形態が変化するため、微細なフェライト組織を形成するための核が有効に発生しなくなると推定される。
本発明は、このような知見に基づいて完成したものであり、本発明に係る超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法の要旨とするところは、次の(1)〜(7)のとおりである。以下、それぞれ、本発明(1)〜本発明(7)ということがある。なお、本発明(1)〜本発明(7)を総称して、本発明という。また、本明細書において、特に断らない限り、%は質量%を示す。
(1)C:0.01〜0.3質量%を含有する炭素鋼又は低合金鋼からなる鋼板又はスラブを多パス熱間圧延して熱延鋼板を製造する方法であって、最終圧延パスをAr3点以上の温度で終了し、その後0.4秒以内に720℃以下まで冷却することを特徴とする、超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
(2) C:0.01〜0.3質量%を含有する炭素鋼又は低合金鋼からなる鋼板又はスラブを多パス熱間圧延して熱延鋼板を製造する方法であって、最終の圧延パスをAr3点以上の温度で終了し、その後400℃/秒以上の冷却速度で0.2秒以内に720℃以下まで冷却することを特徴とする、超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
(3)圧延終了後の冷却に際して、720℃から500℃の間の温度で1秒以上保持することを特徴とする、上記(1)又は(2)の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
(4)圧延終了後30秒以内に350℃以下の温度まで冷却し、体積率で50%以上のフェライト及び体積率で1%以上のマルテンサイトを鋼板中に生成させることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかの超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
(5)炭素鋼又は低合金鋼が、Si(質量%)+Mn(質量%):1.0%を満たす量のSiとMnを含有することを特徴とする、上記(4)の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
(6)圧延終了後30秒以内に500℃まで冷却し、その後、500〜350℃の間で1分以上保持して、体積率で50%以上のフェライト及び体積率で3〜30%の残留オーステナイトを鋼板中に生成させることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかの超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
(7)炭素鋼又は低合金鋼が、Si(質量%)+Al(質量%):1.0〜%を満たすSiとAlを含有しかつMn(質量%)≧0.5%のMnを含有することを特徴とする、上記(6)の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
なお、本発明に用いる炭素鋼又は低合金鋼は、C:0.01〜0.3%を含有するが、さらに、Si、Mn、Al、P、Ti、Nb、V、Cr、Cu、Mo、Ni、Ca、REM、Bのうちの1種又は2種以上を含有してもよい。
本発明によれば、工業的に容易な800℃程度以上の圧延を行った後の冷却条件を規定するだけで、Nb、Ti等の合金元素の添加の有無にかかわらず、微細な結晶粒を持ち、機械特性に優れた熱延鋼板を製造することができる。
以下に、本発明に係る超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法について、説明する。
1.化学組成について
C:
Cは、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させて、熱延の仕上げ温度を低下させることができるので、フェライト結晶粒の微細化を促進するのに有用な元素である。また、強度を確保するための元素である。このため、0.01%以上含有させる。ただし、過度に含有させると、熱延後のフェライト変態が遅延し、フェライトの体積率が低下するため、また溶接性が劣化するため0.3%以下とする。より好ましくは、0.03%以上、0.2%以下である。
Si:
Siは、延性を向上して、強度を確保するため、含有させることが好ましい。ただし、過剰に添加すると、逆に延性が低下したり、熱延時の表面酸化の問題が生じるので、3%を上限とする。下限は不純物レベルでもよいが、フェライト組織中に残留オーステナイトを生成させる場合には、Si+Alの総量で1.0質量%以上含有させることが好ましい。
Mn:
Mnは、強度確保のため、含有させることが好ましい。また、オーステナイトからフェライトへの変態温度を低下させて、熱延の仕上げ温度を低下させることができるので、フェライト結晶粒の微細化を促進するため、含有させることが好ましい。ただし、過度に含有させると、熱延後のフェライト変態が遅延し、フェライトの体積率が低下するため、3%以下とする。下限は不純物レベルでもよいが、より好ましくは、0.5%以上、2.7%以下である。フェライト組織中に残留オーステナイトを生成させるためには、0.5%以上含有させることが好ましく、0.8%以上がより好ましい。また、フェライト組織中にマルテンサイトを生成するためには、Si+Mnの総量で1.0%以上含有させるのが好ましく、1.5%以上がより好ましい。
Al:
Alは、延性を向上させるため添加してもよい。過剰に含有させると、高温でのオーステナイトが不安定化し熱延の仕上げ温度を過度に上昇させる必要がでてくること、また、安定した連続鋳造を困難にするため、3%を上限とする。下限は不純物レベルでもよいが、フェライト組織中に残留オーステナイトを生成させるためには、Si+Alの総量で1.0%以上含有させることが好ましい。
P:
Pは、強度を増加させるため、添加しても良い。しかし、粒界偏析による脆化が生じるので、添加する場合には、0.5%を上限とする。より好ましくは0.2%以下、さらに好ましくは、0.1%以下である。下限は不純物レベルでもよいが、通常、製鋼段階で0.01%程度混入してくる。
Ti:
Tiは、炭化物又は窒化物として析出し強度を増加させるため、また、この析出物がオーステナイトやフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、添加しても良い。ただし、過度に含有させると、熱延以前の加熱時に粗大なTi炭化物又は窒化物が多量に発生して、延性や加工性を阻害するので、0.5%を上限とする。好ましくは0.3%以下である。なお、含有させる場合の下限は、0.01%が好ましい。
Nb:
Nbは、炭化物又は窒化物として析出し強度を増加させるため、また、この析出物がオーステナイトやフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、添加しても良い。ただし、過度に含有させると、熱延以前の加熱時に粗大なNb炭化物又は窒化物が多量に発生して、延性や加工性を阻害するので、0.1%を上限とする。好ましくは0.06%以下である。なお、含有させる場合の下限は、0.005%が好ましい。
V:
Vは炭化物として析出し強度を増加させるため、また、この析出物がフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、添加しても良い。ただし、Ti、Nbと同様な理由で、延性や加工性を阻害するので、その含有量は1%を上限とする。好ましくは0.5%以下である。より好ましくは0.3%以下である。なお、含有させる場合の下限は、0.01%が好ましい。
Cr:
Crは、焼き入れ性を増加させ、フェライト組織中にマルテンサイトやベイナイトを生成するために、添加しても良い。ただし、多量に含有させるとフェライトの生成が抑制されるため、1%を上限とする。なお、含有させる場合の下限は、0.1%が好ましい。
Cu:
Cuは、低温で析出して、強度を増加させるため添加してもよい。ただし、スラブの粒界割れなどを引き起こすおそれがあるため、その含有量は3%を上限とする。好ましくは2%以下である。なお、含有させる場合の下限は、0.1%が好ましい。
Ni:
Niは、高温でのオーステナイトの安定度を増加する目的で添加しても良い。また、Cuを含有させる場合はスラブの粒界脆化を防止するために添加しても良い。ただし、過度に含有させると、フェライトの生成が抑制されるため、1%を上限とする。なお、含有させる場合の下限は、0.1%が好ましい。
Mo:
Moは、MoCを析出し強度を増加させるため、また、この析出物がフェライトの粗大化を抑制して、結晶粒の微細化を促進するため、添加しても良い。ただし、Ti、Nbと同様な理由で、延性や加工性を阻害するので、その含有量は1%を上限とする。好ましくは0.5%以下である。より好ましくは0.3%以下である。なお、含有させる場合の下限は、0.01%が好ましい。
Ca、REM、B:
Ca、希土類元素(REM)やBは凝固中に析出する酸化物や窒化物を微細化して、鋳片の健全性を保つため、添加しても良い。ただし、高価であるため、その含有量は総量で0.005%を上限とする。
なお、鋼中に混入する「不純物」としてはS、N、Sn等が挙げられるが、例えばS、Nについては、できればその含有量を以下のように規制するのが望ましい。
S:
Sは硫化物系介在物を形成して加工性を低下させる不純物元素であるため、その含有量は0.05%以下に抑えるのが望ましい。そして、一段と優れた加工性を確保しようとの観点からは 0.008%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.003%以下である。
N:
Nは加工性を低下させる不純物元素であり、その含有量は0.01%以下に抑えることが望ましい。より好ましくは、0.006%以下である。
2.圧延について
圧延は、レバースミルもしくはタンデムミルを用いて、オーステナイト温度域で行う。工業的生産性の上からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いるのが好ましい。
連続鋳造や鋳造・分塊により得たスラブ、ストリップキャスティングにより得たスラブなどや、必要によってはそれらに一度、熱間、もしくは冷間加工を加えたものを用い、それらが冷片であればAc3点以上の温度に再加熱して、圧延する。加熱温度はAc3点以上の温度であれば特に制限はない。一般的には900から1350℃の間の温度である。TiCやNbCなどの析出物をオーステナイト中に十分に溶解させる必要がない鋼種の場合、この範囲の中でも比較的低い温度(1100℃以下)に再加熱することが好ましい。初期のオーステナイト結晶粒が微細化し、最終のフェライト粒も微細化し易くなるためである。
圧延温度は、圧延後にオーステナイトからフェライトへと変態させるためにAr3点以上の温度とする。圧延を終了する温度はAr3点に近いほど良い。これは、圧延によってオーステナイトに導入された加工歪みの蓄積効果が大きくなり、結晶粒の微細化が促進されるためである。本発明で用いる鋼種のAr3点は、概ね780から950℃である。
圧下量は、Ar3点から「Ar3点+100℃」までの温度範囲における板厚減少率で40%以上とすることが好ましい。より好ましくは、Ar3点から+80℃以内の温度範囲で60%以上である。圧延は、1パスで行う必要はなく、連続した複数パスの圧延であっても良い。1パス当たりの圧下量は、好ましくは15〜60%である。1パス当たりの圧下量を大きく取る方がオーステナイトへの歪みを蓄積させ、変態によって生成するフェライトの粒径を微細化する意味から好ましいが、本発明の方法では、1パス当たりの圧下量を40%以下とした複数パスの圧延でも3μm以下の粒径のフェライト粒を得ることができる。
3.圧延後の冷却について
圧延を終了後、オーステナイトに導入された加工歪みを解放することなく、これを駆動力としてオーステナイトからフェライトへと変態させ、微細なフェライト粒組織を生成させるために、圧延終了から0.4秒以内に720℃以下の温度まで冷却する。好ましくは圧延終了から0.2秒以内に720℃以下の温度まで冷却する。そして、好ましくは、冷却速度を400℃/秒以上の速度とする。このとき、水冷を用いるのが望ましい。
図1は、圧延終了後、720℃まで冷却するのに要した時間(秒)とフェライト平均粒径の関係を示したものであるが、720℃まで冷却するのに要した時間(秒)が0.4秒以下になると、生成されるフェライト粒が急激に微細になることが分かる。
ここで、720℃以下の温度に冷却されるまでの時間を規定する理由は、720℃を超える温度で、冷却を停止もしくは鈍化させると、微細なフェライトが生成する以前に、加工によって導入された歪みが解放され、もしくは、歪みの存在形態が変化してフェライトの核生成に有効ではなくなり、フェライト粒が顕著に粗大化するためである。
なお、圧延終了から0.4秒以内に700℃以下の温度に冷却されるのが好ましい。0.2秒以内とすると、さらに好ましい。
温度が720℃以下に達すると、フェライト変態が活発化する変態温度域に入る。フェライト変態温度域は、この温度から500℃までの間の温度域である。したがって、720℃以下に達した後、冷却を一次停止、もしくはその速度を鈍化させて、500〜720℃の温度域で1秒以上滞留させることが好ましい。より好ましくは、550〜700℃であり、さらに好ましくは600〜700℃の温度域である。また、滞留時間は、より好ましくは2秒以上、さらに好ましくは4秒以上である。なお、この温度域を1秒以内に通過する冷却を行うと、焼き入れ性の高い鋼種では、ベイナイトやマルテンサイトが過度に発生し易くなる場合がある。
微細なフェライト粒組織を主とし、その中に体積率で1%以上のマルテンサイトを分散させた複相組織鋼とする場合は、上述の冷却の後、圧延終了後から30秒以内に350℃以下の温度まで冷却することが好ましい。250℃以下の温度まで20秒以下の時間で冷却するのが、より好ましい。なお、350℃以下の温度までの冷却に30秒以上かけると、ベイナイトが発生し易くなって、マルテンサイト生成を阻害し易くなる場合がある。
一方、微細なフェライト粒組織を主とし、体積率で3〜30%の残留オーステナイトが分散した複相組織鋼とする場合は、上述の冷却の後、圧延終了後から30秒以内に500℃まで冷却し、その後、500〜350℃の間で1分以上保持することが好ましい。圧延終了後から20秒以内に500℃まで冷却し、その後、500〜350℃の間で5分以上保持するのが、より好ましい。なお、500℃以下の温度までの冷却に30秒以上かけるか、もしくは500〜350℃の間の温度を1分以内の時間で冷却すると、残留オーステナイトが発生し難くなる場合がある。
4.冷却設備について
本発明では上記の冷却を行う設備を限定しない。工業的には、水量密度の高い水スプレー装置を用いることが好適である。例えば、圧延板搬送ローラーの間に水スプレーヘッダーを配置し、板の上下から十分な水量密度の高圧水を噴射することで冷却することができる。
5.本発明に係る熱延鋼板の組織について
本発明(1)〜本発明(3)のいずれかによって得られる熱延鋼板は、フェライトを主相とし、主相とフェライト以外の第2相とからなる組織を持つ鋼板である。主相のフェライトは、体積率で少なくとも50%以上とすることが好ましく、より好ましくは60%以上、よりより好ましくは70%以上とする。第2相は、パーライト、セメンタイト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイトのうちの1種以上からなる。
そして、本発明(4)又は本発明(5)によって得られる熱延鋼板は、特に延性を向上させるために、体積率で50%以上のフェライトと、1%以上のマルテンサイトを含む組織からなるものである。フェライトの体積率を50%以上とするだけでも延性は向上するが、さらにマルテンサイトの体積率を1%以上とすることによって、フェライトの加工硬化が促進され、もって鋼板の歪み分布が一様化されるので、一層延性が向上する。ここで、フェライトの体積率は、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。そして、マルテンサイトの体積率は、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは5%以上である。
また、本発明(6)又は本発明(7)によって得られる熱延鋼板は、特に延性を向上させるために、体積率で50%以上のフェライトと3〜30%の残留オーステナイトを含む組織からなるものである。フェライトの体積率を50%以上とするだけでも延性は向上するが、さらに残留オーステナイトが加工誘起によってマルテンサイト変態され、もって鋼板の歪み分布が一様化されるので、一層延性が向上する。ここで、フェライトの体積率は、延性向上の観点から、60%以上が好ましく、70%以上がさらに好ましい。そして、残留オーステナイトを体積率は、より好ましくは5〜30%である。また、マルテンサイトの体積率は、より好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。
本発明によって得られる熱延鋼板におけるフェライトの粒径は、平均粒径で3μm以下である。フェライト粒の微細化により、従来の鋼板に比べ、少ない合金添加量で目標とする強度を確保でき、強度以外の特性の劣化が少なく、しかもその後のめっき性も良好となる。強度増加の点からは、より好ましくは2μm以下である。一方、加工性の点から、平均粒径の下限は、好ましくは1μm以上とする。なお、平均粒径が3μmを越えると微細化による強度増加分が著しく少なくなり、合金元素の添加量の増加を招く。
表1に示す化学組成を有する鋼を溶製し、熱間鍛造によって30mm厚さにした。その後、1100℃〜1300℃の温度域に再加熱した後、試験用小型タンデムミルにて圧延を実施し、2mmの板厚に仕上げた。全ての圧延において、圧延の仕上げ温度は、各鋼種のAr点よりも高い温度とした。得られた鋼材の組織は、走査型電子顕微鏡を用いて鋼板板厚の断面を観察した。
Figure 0004304473
フェライト粒径については、板表面から板厚の1/8、1/4および1/2の深さの位置の3箇所の各々を、切片法にて測定し、これらの算術平均値で示した。フェライト体積率については、前述のフェライト粒径測定位置と同位置をいわゆるメッシュ法にて測定し、これらの算術平均値で示した。なお、本実施例で製造した鋼板のフェライト相以外の組織は、パーライト、ベイナイト、および球状または粒界セメンタイトであった。
機械的性質については、引張特性および伸びフランジ加工性を以下の方法で調査した。引張特性はJIS5号引張試験片にて行い、引張強度TS(MPa)及び全伸びEl(%)を評価した。そして、伸びフランジ加工性は縦横100mmの正方形の試験片を採取し、その中央にポンチにて直径10mmの打ち抜き穴をあけ、先端角60°の円錐ポンチでこの穴を拡げて、穴の縁にクラックが貫通した時の穴直径から計算される限界穴拡げ率で評価した。
表2および表3には、鋼種Aを用いて、720℃まで冷却するのに要した時間が組織および機械特性に及ぼす影響を調査した結果を示す。本発明にかかる試番1〜4は3μm以下のフェライト粒径が得られる。フェライト粒径の減少に伴い、強度が上昇しても加工性は維持されることが分かる。一方、比較例にかかる試番5〜7のフェライト粒径は4μm以上であり、機械特性も劣る。また、図2及び図3は、鋼種Aにて、それぞれ、フェライト粒径とTS-ElバランスおよびTS-HERバランスとの関係を示すものであるが、3μm以下のフェライト粒径を有する本発明例は、TS-ElバランスおよびTS-HERバランスともに、優れていることが分かる。
Figure 0004304473
Figure 0004304473
表4および表5には、全鋼種を用いて調査した結果を示す。本発明にかかる試番8〜16、18および20はいずれも2μm以下のフェライト粒径が得られ、優れたTS-ElバランスおよびTS-HERバランスを有している。一方、比較例にかかる試番17、19および21のフェライト粒径はいずれも4μm以上であり、機械特性も比較的劣る。
Figure 0004304473
Figure 0004304473
表6に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間鍛造によって30mm厚さにした。その後1000〜1200℃の温度に加熱した後、Ar3点以上の温度で5パスの圧延を行った。圧下量は95%である。
Figure 0004304473
最終の圧延は概ね、Ar3点から「Ar3点+30℃」までで行った。圧延後の板厚は1.6mmであった。圧延後、表7の条件で冷却した。得られた鋼材の組織は、走査型電子顕微鏡を用いて鋼板の板厚断面を観察した。フェライト粒径については、板表面から板厚の1/8、1/4および1/2の深さ位置の3箇所の各々を、切片法にて測定し、これらの算術平均値で示した。フェライト体積率、マルテンサイト体積率については、前述のフェライト粒径測定位置と同位置をいわゆるメッシュ法にて測定し、これらの算術平均値で示した。更に圧延材からJIS5号試験片を採取し、常温引張り試験にて、降伏応力YS(MPa)、引張強度TS(MPa)及び全伸びEl(%)を評価した。
これらの機械的特性を表7に併せて示す。本発明にかかる試番A1〜A13では、いずれも2μm以下のフェライト粒径が得られており、高強度を有している。さらに、このうち、試番A1〜A11では50%以上のフェライト体積率と1%以上のマルテンサイト体積率が得られていて、高強度であるととともに高い伸び(強度-伸びバランス)が得られている。一方、比較例にかかる試番A14〜A16では、フェライト粒径が4μm以上であり、高強度が得られない。
Figure 0004304473
表8に示す化学組成の鋼を溶製し、熱間鍛造によって30mm厚さの板とした。その後1000〜1200℃の温度に加熱した後、Ar3点以上の温度で5パスの圧延を行った。圧下量は95%である。
Figure 0004304473
最終の圧延は概ね、Ar3点+70℃以内で行った。圧延後の板厚は1.5mmであった。圧延後、表9の条件で冷却した。得られた鋼材の組織は、走査型電子顕微鏡を用いて鋼板板厚の断面を観察した。フェライト粒径については、板表面から板厚の1/8、1/4および1/2の深さの位置の3箇所の各々を、切片法にて測定し、これらの算術平均値で示した。フェライト体積率については、前述のフェライト粒径測定位置と同位置をいわゆるメッシュ法にて測定し、これらの算術平均値で示した。また残留オーステナイト量はX線回折測定から求めた。更に圧延材からJIS5号試験片を採取し、常温引張り試験にて、降伏応力YS(MPa)、引張強度TS(MPa)及び全伸びEl(%)を評価した。
Figure 0004304473
表10に試料の組織とこれらの機械特性を、図4に代表的な組織として試番2の走査型電子顕微鏡写真を示す。図4のうち、(a)は表層から1/8板厚、(b)は表層から1/4板厚、(c)は表層から1/2板厚における組織を、それぞれ示す。
Figure 0004304473
本発明にかかる試番1〜8では、2μm以下のフェライト粒径かつ3%以上の残留オーステナイト量が得られ、高強度であるとともに良好な伸び特性が得られる。一方、比較例に係る試番9、11では3%以上の残留オーステナイト量が得られるがフェライト粒径が4μm以上であるため、本発明鋼に比べて強度が低く機械特性も比較的劣る。
また、比較例に係る試番10、12、13ではフェライト粒径が5μm以上であり、更にフェライト体積率が30%以下となったり、パーライトやマルテンサイトが生成するため、機械特性が大きく劣る。
本発明によれば、工業的に容易な800℃程度以上の圧延によって、Nb、Ti等の合金元素を添加しなくても、超微細な結晶粒を持ち、機械特性に優れた熱延鋼板を製造することができる。
720℃まで冷却するのに要した時間とフェライト粒径の関係を示す。 鋼種Aにて、調査したフェライト粒径とTS-Elバランスの関係を示す。 鋼種Aにて、調査したフェライト粒径とTS-HERバランスの関係を示す。 試番2の走査型電子顕微鏡写真を示す。ただし、(a)表層から1/8板厚、(b)表層から1/4板厚、(c)表層から1/2板厚を、それぞれ示す。

Claims (7)

  1. C:0.01〜0.3質量%を含有する炭素鋼又は低合金鋼からなる鋼板又はスラブを多パス熱間圧延して熱延鋼板を製造する方法であって、最終圧延パスをAr3点以上の温度で終了し、その後0.4秒以内に720℃以下まで冷却することを特徴とする、超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
  2. C:0.01〜0.3質量%を含有する炭素鋼又は低合金鋼からなる鋼板又はスラブを多パス熱間圧延して熱延鋼板を製造する方法であって、最終の圧延パスをAr3点以上の温度で終了し、その後400℃/秒以上の冷却速度で0.2秒以内に720℃以下まで冷却することを特徴とする、超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
  3. 圧延終了後の冷却に際して、720℃から500℃の間の温度で1秒以上保持することを特徴とする、請求項1又は2に記載の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
  4. 圧延終了後30秒以内に350℃以下の温度まで冷却し、体積率で50%以上のフェライト及び体積率で1%以上のマルテンサイトを鋼板中に生成させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
  5. 炭素鋼又は低合金鋼が、Si(質量%)+Mn(質量%)≧1.0%を満たす量のSiとMnを含有することを特徴とする、請求項4に記載の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
  6. 圧延終了後30秒以内に500℃まで冷却し、その後、500〜350℃の間で1分以上保持して、体積率で50%以上のフェライト及び体積率で3〜30%の残留オーステナイトを鋼板中に生成させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれかに記載の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
  7. 炭素鋼又は低合金鋼が、Si(質量%)+Al(質量%):1.0〜%を満たすSiとAlを含有しかつMn(質量%)≧0.5%のMnを含有することを特徴とする、請求項6に記載の超微細結晶粒熱延鋼板の製造方法。
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