JP2004143518A - 熱延鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】強度、延性、穴拡げ性及び耐疲労特性に優れ、各種の高強度構造部材の素材として好適な熱延鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.05〜0.2%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.001〜0.2%、Al:0.001〜3%、V:0.1%を超えて1.0%までを含み、残部はFe及び不純物からなり、組織が平均粒径1〜5μmのフェライトを主相とし、フェライト粒内に平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することを特徴とする熱延鋼板。
【選択図】なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や各種の産業機械に用いられる高強度部材の素材として好適な熱延鋼板、なかでも熱延のままで細粒組織を有する加工性と耐疲労特性に優れた熱延鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車を初めとする輸送用機械や各種産業機械の構造部材の素材として用いられる鋼材には、強度、加工性及び靱性などの機械的性質に優れることが要求される。こうした機械的性質を総合的に向上させるためには鋼材の組織を微細化することが有効であり、鋼材の組織微細化による高強度化は、合金成分を節減できるので製品コストの低減にも有効である。このため、従来から微細な組織を得るための製造方法が数多く検討されてきた。
【0003】
従来技術における組織の微細化手段としては、例えば、特許文献1〜3に「大圧下圧延」に関する技術が、又、特許文献4及び5に「制御圧延・制御冷却」に関する技術が提案されている。
【0004】
すなわち、特許文献1には、連続熱間圧延の後段において、圧下率が40%以上、平均歪速度が60秒−1の圧下を加え、更に、2秒以内に連続して圧下率が40%以上の圧下を加える大圧下圧延により組織を微細化する技術が開示されている。しかし、上記の特許文献1で提案された技術は、1パス当たりの圧下量を40%以上にする必要があり、一般的なホットストリップミルでは実現し難い。更に、板厚形状の制御も困難である。
【0005】
特許文献2には、圧延直後、0.5秒以内の圧延歪を蓄積した状態から急冷して鋼の組織を微細化する技術が開示されている。しかし、この特許文献2で提案された方法では、通常仕上げタンデム圧延機の出側で行う、温度計測と板厚及び板幅の計測に支障をきたすため、生産性が低下する。
【0006】
特許文献3には、いわゆる「C−Si−Mn鋼」を動的再結晶域で多パス圧延し、平均粒径で2μm未満の細粒組織とする技術が開示されている。しかし、一般的なホットストリップミルにおいて、圧延温度を安定して動的再結晶温度域に制御することは極めて困難である。
【0007】
特許文献4には、いわゆる「C−Si−Mn鋼」の仕上げ圧延前に表面を強制冷却し、表層部が細粒の熱延鋼板を得る技術が開示されている。しかし、この特許文献4で提案された技術の場合、鋼板の内部における粒径は10μm以上と大きいし、表層部の細粒化を行っただけでは鋼材全体の強化への寄与は極めて僅かしかない。
【0008】
特許文献5には、いわゆる「C−Si−Mn−Ti鋼」において、1100〜950℃の温度範囲で圧下量が20%以上となる圧延を施して動的再結晶させる第1段階の圧延工程と、950℃未満で700℃以上の温度範囲で5℃/秒以上の冷却速度で冷却しながら1パス当たりの圧下量が20%以上で、累積圧下率が50%以上となる圧延を行って静的再結晶を繰り返す第2段階の圧延工程とによって、平均粒径が2μm以下の鋼板を得る技術が開示されている。しかし、Tiの含有量が規定値を下回る鋼の場合には、上記第1段階の動的再結晶が不十分となって結晶粒を微細化し難いし、Ti無添加の鋼の場合には、上記の圧延技術を適用してもその粒径は11μm以上のものでしかない。
【0009】
【特許文献1】
特公平5−65564号公報
【特許文献2】
特公平4−11608号公報
【特許文献3】
特開平11−152544号公報
【特許文献4】
特開平9−137248号公報
【特許文献5】
特開平11−92859号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、その目的は、自動車や各種の産業機械に用いられる高強度部材の素材として好適な熱延鋼板を提供することである。具体的には、溶接性を満足できる範囲のC含有量で、延性、穴広げ性及び耐疲労特性が良好な熱延鋼板を安定して提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)、(2)に示す熱延鋼板にある。
【0012】
(1)質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.001〜0.2%、Al:0.001〜3%、V:0.1%を超えて1.0%までを含み、残部はFe及び不純物からなり、組織が平均粒径1〜5μmのフェライトを主相とし、フェライト粒内に平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することを特徴とする熱延鋼板。
【0013】
(2)質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.001〜0.2%、Al:0.001〜3%、V:0.1%を超えて1.0%までを含み、更に、下記(a)群から(c)群までのうちの1群以上から選ばれる少なくとも1種以上の成分を含み、残部はFe及び不純物からなり、組織が平均粒径1〜5μmのフェライトを主相とし、フェライト粒内に平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することを特徴とする熱延鋼板。
【0014】
(a)Nb:0.005〜0.10%及びTi:0.005〜0.20%、
(b)Ca:0.0002〜0.010%、Zr:0.01〜0.10%及びREM(希士類元素):0.002〜0.10%、
(c)Cr:0.05〜1.0%及びMo:0.05〜1.0%。
【0015】
ここで、フェライトの「平均粒径」とは、いわゆる「切片法」で求めた平均切片長さを1.128倍して得たものを指す。
【0016】
「主相」とは「組織に占める割合が50%を超える相」をいう。
【0017】
本発明でいう炭窒化物には、「炭化物」と「窒化物」が含まれる。すなわち、Vの炭窒化物には、Vの「炭窒化物」だけではなくVの「炭化物」とVの「窒化物」も含まれる。
【0018】
更に、Vの「炭窒化物」は、「Vを含む炭窒化物」を指し、その「粒径」とは、個々の粒子の短径と長径の和の1/2で定義される値を指し、「平均粒径」は上記粒径の算術平均を指す。ここで、「Vを含む炭窒化物」とは、炭素(C)と窒素(N)を除いた部分に占めるVの割合が10%以上であるものを指す。
【0019】
「REM(希土類元素)」は、Sc、Y及びランタノイドの合計17元素の総称であり、REMの含有量は上記元素の合計含有量を指す。
【0020】
以下、上記(1)及び(2)の熱延鋼板に係る発明をそれぞれ(1)及び(2)の発明という。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前記した目的を達成するために種々検討を行い、下記(イ)〜(ホ)の知見を得た。
【0022】
(イ)フェライト粒を微細化し、そのフェライト粒内にVを含む炭窒化物を極めて微細に析出させることにより、延性、穴広げ性及び耐疲労特性特に優れた熱延鋼板が得られる。
【0023】
(ロ)TiやNbの多量の添加では粗圧延前に未固溶の炭窒化物が増加するため、延性、穴広げ性及び耐疲労特性の劣化を招くが、Vは多量の添加でも未固溶の炭窒化物を形成し難く、これらの特性劣化がない。
【0024】
(ハ)VにTiやNbを複合添加した場合でも、TiやNbの含有量を適正化すれば、つまり、TiやNbを添加したときに未固溶の炭窒化物が形成されない条件とすれば、TiやNbの添加によって未固溶の炭窒化物が増加することはなく、延性、穴広げ性及び耐疲労強度が向上する。
【0025】
なお、上述の組織によって加工性と耐疲労特性に優れる理由は必ずしも明らかではないが、フェライト粒の微細化によるマクロ的な組織の均一化と、Vを含む微細炭窒化物によりフェライト粒内がより均一に強化されることに基づくものと推測される。
【0026】
(ニ)上述の微細なフェライト粒とフェライト粒内にVを含む微細な炭窒化物が析出した組織は、粗圧延後のタンデム圧延機列による仕上げ圧延において、最終から1段前の圧延スタンドにおいてAr 点以上で圧延し、その後50℃/秒以上の平均冷却速度で「Ar 点−50℃」以下の温度まで冷却した後、最終スタンドにおいて20%以下の圧下を施すことによって得られる。
【0027】
このような仕上げ圧延により前記の組織が得られる理由は必ずしも明らかではないが、最終圧延前の急冷によって、最終から1段前のスタンドでの圧延でオーステナイトに付与された歪みが維持された状態のままで最終スタンドでの圧延を受けるため歪みが蓄積されることや、最終から1段前のスタンドと最終スタンドとの間でフェライト核生成の潜伏時間が消費されて最終スタンドでの圧延を受けることなどによって、(1) フェライトの核生成が促進されてフェライトが微細化することや(2) 炭素が過飽和なフェライトになり、Vの炭窒化物の微細析出が促進されることなど、によるものと推測される。
【0028】
前記(1)及び(2)の本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0029】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)熱延鋼板の化学組成
C:
Cは、鋼板の強度を高める作用を有し、0.05%以上含有させることで効果が得られる。しかし、その含有量が0.20%を超えると加工性の低下や溶接性の劣化を招く。したがって、Cの含有量を0.05〜0.2%と定めた。なお、高強度化の観点からは、Cの含有量は0.08%を超えて0.2%までとすることが好ましく、更に好ましくは0.1%を超えて0.2%までである。
【0030】
Si:
Siは、固溶強化を通じて鋼板の強度、延性及び穴広げ性を向上させる作用を有する。しかし、Siを3.0%を超えて含有させても上記作用による効果が飽和する上に、溶接性の劣化を招く。一方、下限は0%でもよいが、低減に要するコストの観点から0.001%とする。したがって、Si含有量を0.001〜3.0%とした。なお、加工性の観点からは、Siの上限を2.0%とすることが好ましい。
【0031】
Mn:
Mnは、鋼板の強度を確保するとともに、鋼中に不純物として存在するSをMnSとして固定して、連続鋳造又は熱間圧延を初めとする熱間加工中に生じる割れを抑制する作用を有する。しかし、Mnの含有量が0.5%未満の場合には前述の作用による割れ抑制の効果が得られず、一方、3.0%を超えて含有させてもその作用が飽和するだけでなく、加工性の低下を招く。このため、Mnの含有量を0.5〜3.0%と定めた。なお、高強度化の観点からのMn含有量の下限値は好ましくは1.0%である。Mn含有量の上限値は、加工性の観点から2.5%とすることが好ましく、より好ましくは2.2%未満である。
【0032】
P:
Pは、鋼板の強度を高める作用を有する。この作用を得るには0.001%以上の含有量が必要である。一方、Pを0.2%を超えて含有させると、粒界偏析による脆化だけでなく、溶接性も劣化する。したがって、Pの含有量を0.001〜0.2%とした。なお、Pの含有量の上限値は0.1%とすることが好ましく、加工性をより一層向上させるために、その上限値は0.05%とすることが一層好ましい。
【0033】
Al:
Alは、脱酸作用、主相となるフェライトが組織に占める割合の増加、更には、いわゆる「TRIP鋼」における「残留オーステナイト」の量を増やす作用を有する。しかし、その含有量が0.001%未満では前記の効果が得られない。一方、Alを3%を超えて含有させても前記の効果は飽和しコストが嵩むばかりである。したがって、Alの含有量を0.001〜3%とした。なお、脱酸のみを目的としてAlを添加する場合は、経済性の観点からAlの含有量の上限は0.10%とするのがよい。
【0034】
V:
Vは、本発明で最も重要な元素である。Vは、フェライト地に炭窒化物として微細に析出し、高強度化と、延性、穴広げ性及び耐疲労特性を向上させる作用を有する。しかし、その含有量が0.1%以下では添加効果に乏しい。一方、Vを1.0%を超えて含有させても上記の効果は飽和するし、Vの炭窒化物が粗大となって延性、穴広げ性及び、耐疲労特性が却って低下する。したがって、Vの含有量を0.1%を超えて1.0%までと定めた。なお、V含有量は0.2%〜1.0%とするのが好ましく、0.3〜1.0%とすれば一層好ましい。
【0035】
前記(1)の発明に記載の熱延鋼板の化学組成は、上記のCからVまでの元素と、残部がFe及び不純物からなるものである。
【0036】
前記(2)の発明に記載の熱延鋼板の化学組成は、前記(1)の発明に記載の鋼のFeの一部に代えて、下記(a)群から(c)群までのうちの1群以上から選ばれる少なくとも1種以上の成分を含むものである。
【0037】
(a)Nb:0.005〜0.10%及びTi:0.005〜0.20、
(b)Ca:0.0002〜0.010%、Zr:0.01〜0.10%及びREM(希士類元素):0.002〜0.10%、
(c)Cr:0.05〜1.0%及びMo:0.05〜1.0%。
【0038】
ここで上記(a)群に記載のNbとTiはフェライト地に炭窒化物として析出し、析出強化によって強度を一層高める作用を有するので、NbとTiは、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、複合して含有させてもよい。
【0039】
(b)群に記載のCaからREM(希土類元素)までのいずれの元素も介在物の形状を調整して冷間加工性を改善する作用を有するので、CaからREMまでの元素は、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、2種以上を複合して含有させてもよい。
【0040】
なお、REMは、前述のとおりSc、Y及びランタノイドの合計17元素を指し、ミッシュメタルの形で添加してもよい。本発明でいうREMの含有量が上記元素の合計含有量を指すことは既に述べたとおりである。
【0041】
又、上記(c)群に記載のCrとMoはいずれも固溶強化によって強度を高める作用を有するので、CrとMoは、以下に述べる範囲内でそれぞれを単独で含有させてもよいし、複合して含有させてもよい。
【0042】
(a)群(Nb及びTi):
Nb及びTiは、いずれもフェライト地に炭窒化物として析出し、析出強化によって強度を一層高める作用を有する元素である。この効果を確実に得るには、Nb及びTiのいずれも0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Nbを0.10%を超えて、又、Tiを0.20%を超えて含有させても上記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Nb及びTiを添加する場合には、その含有量はそれぞれ0.005〜0.10%、0.005〜0.20%とするのがよい。
【0043】
なお、粗圧延前に未固溶のTiやNbの炭窒化物の量を低減し、強度、延性、穴広げ性及び耐疲労特性を一層向上させるという観点からは、Ti及びNbの含有量は、上記の規定に加えて下記▲1▼式で表される値が0.0190以下を満たすことが好ましい。より好ましくは0.0165以下、更に好ましくは0.0145以下である。
【0044】
{(48/93)Nb(%)+Ti(%)}×C(%)・・・▲1▼。
【0045】
(b)群(Ca、Zr及びREM):
Ca、Zr及びREMは、いずれも介在物の形状を調整して冷間加工性を改善する作用を有する元素である。この効果を確実に得るには、Caは0.0002%以上、Zrは0.01%以上、REMは0.002%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Ca、Zr、REMの含有量が、それぞれ0.010%、0.10%、0.10%を超えると、鋼中の介在物が多くなりすぎて加工性が劣化することがある。したがって、Ca、Zr及びREMを添加する場合には、その含有量はそれぞれ0.0002〜0.010%、0.01〜0.10%、0.002〜0.10%とするのがよい。
【0046】
(c)群(Cr及びMo):
Cr及びMoは、いずれも固溶強化によって鋼板の強度を高める作用を有する元素である。この効果を確実に得るには、Cr及びMoいずれも0.05%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Cr、Moをいずれも1.0%を超えて含有させても上記の効果は飽和し、コストが嵩むばかりである。したがって、Cr及びMoを添加する場合には、その含有量はいずれも0.05〜1.0%とするのがよい。
【0047】
上記の(a)群から(c)群までの元素については、複数の群から選ばれる元素を複合して含有させてもよい。
【0048】
なお、鋼中に混入する不純物としては、S、Nなどが挙げられるが、例えばS、Nについては、できればその含有量を以下のように規制するのが望ましい。
【0049】
S:
Sは硫化物系介在物を形成して加工性を低下させるため、その含有量は0.05%以下に抑えるのが望ましい。なお、一段と優れた加工性を確保するために、Sの含有量は0.008%以下とすることが一層好ましく、0.003%以下とすれば極めて好ましい。
【0050】
N:
Nは加工性を低下させるため、その含有量は0.01%未満に抑えることが望ましい。なお、Nの含有量は0.006%以下とすることが一層好ましい。
【0051】
又、Cu、Niは変態強化及び耐食性向上の作用を有するため、それぞれ0.05〜1.0%を含有させてもよい。
【0052】
上述の組成を有する鋼は、例えば転炉、電気炉又は平炉等により溶製されたリムド鋼、キャップド鋼、セミキルド鋼又はキルド鋼いずれであってもよく、更に、鋳型に注入する「造塊法」又は「連続鋳造法」のいずれの手段を用いて鋼塊とされたものであってもよい。
(B)熱延鋼板の組織
主相:
主相は平均粒径1〜5μmのフェライトとする必要がある。これはフェライト以外の相、例えばベイナイト、マルテンサイト、セメンタイト、パーライトが主相を形成すると強度が高くなって延性、穴拡げ性が低下するためである。なお、「主相」とは「組織に占める割合が50%を超える相」をいい、主相のフェライトが組織に占める割合は60%以上であることが好ましく、70%以上であれば一層好ましい。
【0053】
フェライトの平均粒径を1〜5μmと規定するのは次の理由による。
【0054】
すなわち、主相であるフェライトの平均粒径が5μm以下の場合には、従来の鋼板に比べ、少ない合金含有量で目標とする強度を確保でき、強度以外の特性の劣化も少なく、加えて、めっき性も良好となる。フェライトの平均粒径が5μmを超えると、組織微細化による強度増加の程度が著しく少なくなり、合金元素の含有量を増やす必要が生じ、コストの上昇をきたすし、延性、穴広げ性及び耐疲労特性の低下を招く。しかし、フェライトの平均粒径が1μm未満の微細組織になると、却って延性が低下して加工性の低下を招く。なお、大きな強度、良好な加工性及び優れた耐疲労特性を得るという点からは、フェライトの平均粒径の上限は、4μmとすることが好ましく、3μmとすれば一層好ましい。一方、より一層良好な加工性を確保するという観点からは、フェライトの平均粒径の下限は、2μmとするのがよい。
【0055】
したがって、本発明においては主相を平均粒径が1〜5μmのフェライトとした。
【0056】
ここで、フェライトの「平均粒径」とは、いわゆる「切片法」で求めた平均切片長さを1.128倍して得たものを指すことは既に述べたとおりである。
【0057】
主相であるフェライト以外の組織をまとめて第2相というとき、第2相は、セメンタイト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイトや未変態のオーステナイト(いわゆる「残留オーステナイト」)の1種以上から構成される。なお、穴広げ性及び耐疲労特性をより一層向上させるという観点からは、第2相としてのマルテンサイト及び残留オーステナイトの割合は、それぞれ5%未満とすることが好ましく、それぞれ3%未満であれば一層好ましい。なお、第2相としてのマルテンサイト及び残留オーステナイトの割合がいずれも0%であれば極めて好ましい。
【0058】
ここで、或る相の体積割合は面積割合に等しいことが知られており、したがって、上記フェライトが組織に占める割合は、例えば、通常の2次元的な評価方法によって求めたフェライトの割合から決定すればよい。
【0059】
フェライト粒内のV炭窒化物:
主相であるフェライトの粒内には、平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在していなければならない。
【0060】
フェライトの粒内にV炭窒化物が存在しない場合には、所望の延性、穴広げ性及び耐疲労特性特に優れた熱延鋼板が得られない。又、フェライトの粒内にV炭窒化物が存在してもその平均粒径が50nmを超える場合には、延性、穴広げ性及び耐疲労特性が低下する。
【0061】
したがって、本発明においては、主相であるフェライトの粒内には、平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することとした。
【0062】
なお、フェライトの粒内に存在するV炭窒化物の粒径は20nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm未満である。このフェライトの粒内に存在するV炭窒化物の粒径の下限値は、延性、穴拡げ性及び耐疲労特性の観点から2nm程度とするのがよい。好ましくは4nm以上である。
【0063】
ここで、本発明でいう炭窒化物には、「炭化物」と「窒化物」が含まれること、すなわち、Vの炭窒化物には、Vの「炭窒化物」だけではなくVの「炭化物」とVの「窒化物」も含まれること、又、Vの「炭窒化物」が「Vを含む炭窒化物」を指し、その「粒径」が、個々の粒子の短径と長径の和の1/2で定義される値を指し、「平均粒径」は上記粒径の算術平均を指すこと、更に、「Vを含む炭窒化物」が、炭素(C)と窒素(N)を除いた部分に占めるVの割合が10%以上であるものを指すことは既に述べたとおりである。
【0064】
なお、より一層の延性、穴広げ性及び耐疲労特性を熱延鋼板に具備させるためには、フェライト粒界近傍の微細析出物のない領域(いわゆる「無析出帯」)の幅は0.3μm以下であることが好ましい。無析出帯のより好ましい幅は0.2μm以下であり、0.1μm以下であれば極めて好ましい。
【0065】
前記(1)及び(2)の発明に係る熱延鋼板は、例えば、(A)項で述べた成分組成を有する鋼塊や鋼片に粗圧延を施した後、粗圧延後のタンデム圧延機列による仕上げ圧延において、最終から1段前の圧延スタンドにおいてAr 点以上で圧延し、その後50℃/秒以上の平均冷却速度で「Ar 点−50℃」以下の温度まで冷却した後、最終スタンドにおいて20%以下の圧下を施すことによって製造することができる。なお、「平均冷却速度」とは、冷却前後の温度差を冷却時間で除したものをいう。
【0066】
粗圧延に供される鋼塊や鋼片は、一旦冷却された後でAc 点以上の温度に再加熱されたもの又は、鋳造後にAr 点以下の温度域まで温度低下していない鋼塊若しくは熱間加工後にAr 点以下の温度域まで温度低下していない鋼片のいずれであってもよい。なお、細粒化の観点からは一旦冷却された後でAc 点以上の温度に再加熱されたものの方が好ましい。鋳造のままで粗圧延に供する場合、保熱又は加熱を目的として、補助加熱装置を通したり加熱炉に装入しても構わない。
【0067】
なお、鋼塊や鋼片を一旦冷却した後でAc 点以上の温度に再加熱する場合の加熱温度は、オーステナイト結晶粒を粗大化させない1200℃以下とすることが好ましい。又、圧延温度の確保や圧延機の負荷を低減するために1000℃以上とすることが好ましい。より好ましくは1100℃以上である。
【0068】
又、鋳造後にAr 点以下の温度域まで温度低下していない鋼塊又は熱間加工後にAr 点以下の温度域まで温度低下していない鋼片のいずれについても、鋳造や熱間加工の後は鋼塊や鋼片を1200℃以下の温度域にまで冷却し、その後で粗圧延することが圧延中の結晶粒成長抑制のために望ましい。なお、この場合の粗圧延は圧延温度の確保や圧延機の負荷を低減するために1000℃以上の温度域から開始するのがよい。より好ましくは1100℃以上である。
【0069】
なお、熱間での粗圧延は通常の方法で行えばよい。
【0070】
仕上げ圧延中の結晶粒の成長を抑制するという観点からは、仕上げ圧延の開始温度を低くすることが好ましい。しかし、被圧延材の圧延側先端部がタンデム圧延機列に入る前の温度を低くすれば、後端部やエッジ部での温度低下が大きくなるので、被圧延材の後端部やエッジ部での温度低下を防止するために、仕上げ圧延の前に被圧延材の温度、なかでも被圧延材の後端部やエッジ部の温度を維持するために補助加熱装置を用いてもよい。この場合、補助加熱装置による加熱温度は1100℃以下にすることが好ましい。なお、上記の加熱は、仕上げ圧延としてオーステナイト領域での圧延が確保できるAc 点以上の温度への加熱であればよいが、950℃以上の温度に加熱すれば一層好ましい。
【0071】
仕上げ圧延は、タンデム圧延機列の最終から1段前の圧延スタンドにおいてAr 点以上で圧延し、その後50℃/秒以上の平均冷却速度で「Ar 点−50℃」以下の温度まで冷却した後、最終スタンドにおいて20%以下の圧下を施す。
【0072】
上記の条件によれば、フェライトの核生成が促進されるので所望の微細なフェライトが安定且つ確実に得られる。
【0073】
最終から1段前のスタンドでの圧延は、Ar 点未満では加工フェライトの生成を招くのみならず、軟質なフェライトへの歪み集中により未変態オーステナイトへの歪み蓄積が不十分となり、フェライトの微細化が達成できないことがある。圧延歪みの蓄積の観点からは圧延温度は「Ar 点+100℃」以下が好ましく、より好ましくは「Ar 点+60℃」以下である。1段前スタンドでの圧延後の平均冷却速度が50℃/秒を下回る場合にも、フェライトの微細化が達成できないことがある。平均冷却速度は100℃/秒以上が好ましく、より好ましくは200℃/秒以上である。
【0074】
最終から1段前のスタンドで圧延した後の冷却温度が「Ar 点−50℃」を上回る場合、所望のサイズへのフェライトの微細化が達成できないことがある。。最終から1段前のスタンドで圧延した後の冷却温度は、「Ar 点−100℃」以下であることがより好ましく、「Ar 点−150℃」以下であれば極めて好ましい。
【0075】
なお、最終スタンドにおける圧延は、その1段前のスタンドにおける圧延後の冷却水が最終スタンドの出側(タンデム圧延機列の出側)に流れ出ないようにする水切りの機能や、前記1段前のスタンドとの間で被圧延材に張力を付与して通板性と板厚形状の劣化を防止する機能、更には、ロール抜熱による冷却効果をも併せ持つものである。したがって、最終スタンドにおいては、被圧延材とロールを接触させるだけとし、圧延の圧下率は0%としても構わない。但し、歪み蓄積を十分に行って、フェライトの結晶粒を一層微細にするという観点からは、最終スタンドにおける圧延の圧下率は1%以上とすることが好ましく、更に好ましくは5%以上である。一方、圧下率の上限は、20%とすることがよい。20%を上回ると加工フェライトの生成を引き起こし加工性の低下を招くことがあるし、圧下率過多のために板厚形状不良を生じることもある。圧下率の上限は、15%であれば一層好ましく、10%であれば極めて好ましい。
【0076】
なお、熱間圧延は、圧延荷重低減などを目的に潤滑剤を用いて行うのが好ましい。又、「タンデム熱延」のタンデム圧延機列の最終から2段前のスタンドまでのスタンドの間で、圧下による被圧延材の温度上昇を抑えるために冷却を行っても構わない。潤滑圧延は、最終から1段前までのスタンドで行うことが通板性の観点から好ましい。
【0077】
仕上げ圧延後は被圧延材である鋼板を冷却して巻き取ればよい。仕上げ圧延後の冷却条件、巻き取り温度や巻き取り後の冷却条件は、製造しようとする熱延鋼板の組織に応じて適宜定めればよい。
【0078】
例えば、第2相としてパーライトやセメンタイトを含む組織にしたい場合には、ベイナイトやマルテンサイトといった低温変態相の形成を回避するような条件で冷却及び巻き取りを行えばよい。又、第2相としてベイナイト又は、いわゆる「DP鋼(二相鋼)」や「TRIP鋼」のような複合組織を得たい場合には、冷却曲線上のフェライト領域のノーズを通過するような冷却を行ってフェライト変態を促進した後、パーライト変態を避けてベイナイトやマルテンサイトの領域に急冷した後、巻き取りを行えばよい。
【0079】
なお、フェライトの粒径を極めて微細にするという観点からすれば、仕上げ圧延後の極めて短時間のうちに、例えば上記仕上げ圧延後0.5秒以内に、冷却を開始することがより好ましい。しかし、このような仕上げ圧延終了直後の冷却は、温度、板厚・板幅計測に支障をきたし生産性の低下を招くため、生産性の向上には設備改良が必要になり設備コストの上昇が避けられない。
【0080】
なお、本発明に係る熱延鋼板に溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気めっきなどの表面処理を施した場合には、優れた耐食性をも兼備した表面処理鋼板を得ることができる。
【0081】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0082】
【実施例】
表1に示す化学組成の鋼を、実験圧延機を使用して、表2に示す条件で加熱し、粗圧延及び仕上圧延相当の圧延を行って板厚3.2mmの鋼板とし、更に、冷却した後に巻き取りシミュレーションを行った。
【0083】
巻き取りシミュレーションは、巻き取り温度まで冷却した鋼板を、巻き取り温度に保持した電気炉に装入し、その温度で1時間保持した後、20℃/時の平均冷却速度で冷却することにより行い、巻き取り後の温度履歴を模擬した。
【0084】
【表1】
Figure 2004143518
【0085】
【表2】
Figure 2004143518
【0086】
得られた鋼板から試験片を採取し、組織、引張特性、穴拡げ性及び耐疲労特性を調査した。
【0087】
組織は、光学顕微鏡又は電子顕微鏡を用いて相の判定をするとともに、フェライトの平均粒径と面積率(したがって、体積率)、無析出帯のサイズ(幅)及びVの炭窒化物の粒径を求めた。
【0088】
引張試験は、得られた鋼板からJIS5号引張試験片を採取して行った。
【0089】
又、縦横それぞれ100mmの正方形の試験片を採取し、その中央にポンチで直径が10mmの打ち抜き穴をクリアランス12.5%であけ、頂角60°の円錐ポンチで前記の穴を拡げる試験を行い、下記▲2▼式によって穴広げ率(HER(%))を求めた。
【0090】
HER(%)={(板厚貫通割れ発生時の穴径−初期穴径)/初期穴径}×100・・・▲2▼。
【0091】
耐疲労特性は、図1に示す試験片を用いた両振り平面曲げ試験によって評価した。すなわち、幅20mmの試験片を用いて平面曲げ試験を行い、10 回の繰り返しに耐える応力(すなわち疲労限度)を求め、これを疲労強度とした。
【0092】
表3に、前記の各調査結果をまとめて示す。なお、表3には疲労限度比(疲労強度/引張強度)も併記した。
【0093】
【表3】
Figure 2004143518
【0094】
表3から明らかなように、本発明で定める化学組成と組織を有する試験番号1〜12の熱延鋼板は、強度−延性バランス(TS×El)、強度−穴広げ性バランス(TS×HER)及び耐疲労特性(疲労限度比)に優れた熱延鋼板となっている。
【0095】
これに対して、本発明で規定する条件から外れた試験番号13〜15の場合には、延性、穴拡げ性及び耐疲労特性の少なくともいずれかにおいて劣っている。
【0096】
すなわち、試験番号13は、鋼のVの含有量が本発明の規定を上回り、組織におけるV炭窒化物の粒径も大きいので、延性及び穴拡げ性が低く、更に、耐疲労特性も劣っている。
【0097】
試験番号14は、鋼のMnの含有量が本発明の規定を上回り、組織におけるフェライトの割合も36%と低いので、延性及び穴拡げ性に劣っている。
【0098】
試験番号15は、鋼のCの含有量が本発明の規定を上回り、組織におけるフェライトの割合も45%と低いので、延性及び穴拡げ性に劣っている。
【0099】
【発明の効果】
本発明の熱延鋼板は、強度、延性、穴拡げ性及び耐疲労特性に優れるので、自動車や各種の産業機械に用いられる高強度構造部材の素材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例で用いた疲労試験用の試験片を示す図である。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.001〜0.2%、Al:0.001〜3%、V:0.1%を超えて1.0%までを含み、残部はFe及び不純物からなり、組織が平均粒径1〜5μmのフェライトを主相とし、フェライト粒内に平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することを特徴とする熱延鋼板。
  2. 質量%で、C:0.05〜0.2%、Si:0.001〜3.0%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.001〜0.2%、Al:0.001〜3%、V:0.1%を超えて1.0%までを含み、更に、下記(a)群から(c)群までのうちの1群以上から選ばれる少なくとも1種以上の成分を含み、残部はFe及び不純物からなり、組織が平均粒径1〜5μmのフェライトを主相とし、フェライト粒内に平均粒径が50nm以下のVの炭窒化物が存在することを特徴とする熱延鋼板。
    (a)Nb:0.005〜0.10%及びTi:0.005〜0.20%
    (b)Ca:0.0002〜0.010%、Zr:0.01〜0.10%及びREM(希士類元素):0.002〜0.10%
    (c)Cr:0.05〜1.0%及びMo:0.05〜1.0%
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