00年代の牽引者、アジカン後藤正文のソロ・アルバムをハイレゾでリリース! 総勢15人のクロスレヴューで日本語ロックの未来を紐解く
Gotchが、日本語ロックの未来、そしてハイレゾの未来にとって、大きな希望を打ち鳴らした。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が"Gotch"のソロ名義でリリースした本作。自身で鳴らせるものはビートの打ち込みからハーモニカまで、そしてほしい音は信頼の置けるサポート・ミュージシャン(ストレイテナーのホリエアツシをはじめ、the chef cooks me下村亮介やTurntable Films井上陽介、8ottoのTORAなど)たちに鳴らしてもらい、ちゃんと自分の手の届く範囲で、"自分の好きな音"のためにつくられた気負いのない作品。00年代日本語ロックのアイコンの立場から離れてつくられたこの作品は、結果的に、画一的に語られがちな日本語ロックに風穴をあける作品になったにちがいない。
さらに、ミックスはトータスの中心人物ジョン・マッケンタイア(ヨ・ラ・テンゴ、パステルズ他)、マスタリング・エンジニアをL.Aのスティーブン・マーカソンと、夢のような布陣による奥行きのある緻密な音作り。その音の構造はハイレゾだからこそより鮮明に感じてもらえるだろう。ハイレゾで聴くということは、彼が制作時に聴いている音、彼が届けたい音に近いということを、若いリスナーに知ってもらえればと思う。なんといっても、現在、後藤の作品のなかで唯一のハイレゾ作品だ。
さて、今回は総勢15名によるクロスレヴューで紐解きます! 1人は音楽評論家、岡村詩野。そして岡村がオトトイの学校にて開講している「音楽ライター講座」の受講生14名によるレヴューが揃いました。多様な見方、多用な表現の仕方。音楽を言葉で表すことの楽しみを、ぜひ味わってください。
Gotch / Can't Be Forever Young(24bit/48kHz)
【価格】
wav / alac / flac : 単曲 257円 / まとめ購入 1,851円
【Track List】
01. Wonderland / 不思議の国 / 02. Humanoid Girl / 機械仕掛けのあの娘 / 03. The Long Goodbye / 長いお別れ / 04. Stray Cats in the Rain / 野良猫たちは雨の中 / 05. Can't Be Forever Young / いのちを燃やせ / 06. Nervous Breakdown / 軽いノイローゼ / 07. Aspirin / アスピリン / 08. Great Escape from Reality / 偉大なる逃避行 / 09. Blackbird Sings at Night / 黒歌鳥は夜に鳴く / 10. Sequel to the Story / 話の続き / 11. A Girl in Love / 恋する乙女 / 12. Lost / 喪失
クイック・ガイド! ファイル形式はどれがいい?
【WAV】
様々なビットレートに対応し、高音質再生が可能だが、非圧縮で容量が大きく、アーティスト名などのメタ情報が入力されていないなど扱いにくい場合がある。が、総じて、どのようなプレイヤー、機器でも再生できる。
【ALAC】
Appleが開発した可逆圧縮の音声ファイル形式、Apple Lossless Audio Codecの略称。同ビットレート/周波数であればWAVと同音質で、24bitのハイレゾ音源にも対応。70%から50%のファイルサイズの圧縮ができる。メタ情報も入っているので管理もしやすい。iTunes派はこちらがオススメ。OTOTOYの場合は、アーティスト名 / アルバム・タイトル / トラック番号 / ジャケット画像の情報が埋め込まれているので、iTunesのライブラリでスッキリ管理ができます。
【FLAC】
可逆圧縮の音声ファイル形式。こちらも音質の劣化なく、70%から50%のファイルサイズの圧縮ができる。メタ情報も埋め込めるなどALACと非常に近い利便性があるがiTunesには対応していない。24bit音源にも対応しているため、ハイレゾ器機やプレイヤーの多くで再生が可能。OTOTOYの場合、ALACと同様、細かなメタ情報が埋め込まれています。
>>FLACの解説・聴き方の詳細はこちら
【MP3】
不可逆圧縮音源なので容量が小さく小回りが利くが、音質がCDの音質より劣る。
日常とパブリックの関係がメビウスの輪状態から解放された今
あらゆる音が緊張をしていない。本作の魅力のひとつはまずそこにあると言っていいだろう。そもそも後藤正文という本名ではなくGotchというニックネームで発表するということにもその気安さが現れているし、アジカン本体にゲストが参加することなど滅多にないのに、ここにはツアー・メンバーにも抜擢されたTurntable Filmsの井上陽介ら日頃から交流のある仲間が多数集まっている。それも、フラリと遊びにきたついでに音を出したようなリラックスした演奏で、後藤自身も、例えば「Wonderland/不思議の国」の冒頭のギター・リフにも現れているように、音そのものに自分がゆるく乗っかっているようなプレイが印象的だ。
かように表向きは確かに日常に近い場で平熱のまま音を出すことに腐心した作品と言っていい。だが、それは現実からの離脱、逃避を意味するものではなく、むしろ日常とそれ以外の乖離を融和させる姿勢を意味しているのではないか。例えば、本作は初期ベックと比較されることが少なくないが、あえてそこに目を向けるとするなら、スライド・ギターを用いているとか、全体的にロウ・ファイだとかといった表面的なところではなく、ベックのファースト『ワン・フット・イン・ザ・グレイヴ』同様、密室的なところから広い世界へ向かって放たれた飄々たるシニシズムを宿しているという点で共通している。そして、そこから現実を突破しようとしているという点においても然りではないだろうかと。ここでの演奏そのものは確かに緩い。歌詞もいつになく普段着のままの、やや乱暴な言い回しをそのまま音に寄り添わせている。後藤は敢えてこうした極端なスタイルを徹底させることで、巨大化したアジカンという組織、あるいは影響力のあるアーティストというポジションに今一度風穴を開けようとしているのかもしれない。あくまで一人の音楽愛好家として。
そう考えると、近年は90年代当時よりも、より素材を生かした音作りを指向するようになっているジョン・マッケンタイア(トータス他)がミックスを担当しているというのも納得ができる。日常とパブリックの関係がメビウスの輪状態から解放された、まさに今、後藤正文というアーティストは確実に次のシーズンへと向かうことができるはずだ。(text by 岡村詩野)
岡村詩野音楽ライター講座生14人によるクロスレヴュー
■Text by 大西真衣子
正直、最近のASIAN KUNG-FU GENERATIONやその周辺の事情にはほとんど疎かった。私が持っている後藤正文に関する情報といえば、わかりやすいメロディに乗せて文学的な言葉を力強く吐き出す姿と、3年前の震災の後、政治的な発言をしたり震災に関する新聞を発行したり、そういったことに精力的に関わっているらしい、という程度だった。だから、今回アル… >>続きはこちら
■Text by 梶原綾乃
大きなバンドを持つ、音楽のプロとしての悩みがあったのだろう。ゴッチは自身の日記にて、「アジカンは巨大ロボットのような感じで、操縦席に乗るだけでも大変なことだ」「その隅々まで把握することが難しくなった」「そのお陰で音楽だけに集中していれば良くなったわけだけれども、どこかに寂しさを抱えている」などと語っている。アジカンという大きな組織… >>続きはこちら
■Text by 小林翔
柔らかなアコースティック・ギターの音がループする。リラックスして歌うヴォーカルのメロディー・ラインはキャッチーだ。その上にシンセやトロンボーンやエレキ・ギターの音が控えめに乗っている。様々な音の角が丁寧に落とされ調和していて、心地よく通り過ぎていくロックンロール。ただその流れが、時折ふっと淀む。聴き手ははっと立ち止まって考える。感受性… >>続きはこちら
■Text by 小沼理
アジカンが音楽の原体験だという人は少なくないと思う。僕たちを代弁しているように聴こえた歌、真意を汲めなくても十分魅力的だった歌詞。鋭いギターに憧れて音楽を始めた人も沢山いるだろう。そういえば文化祭ではいつも誰かがアジカンの曲をコピーしていた。少年少女がギターに向かう衝動はたとえ上手くなくても力強く、それを肯定するアジカンの音楽は絶対的… >>続きはこちら
■Text by 佐久間義貴
大好きな色のクレヨンで描きたい絵を描く。大好きなおもちゃで好きなように遊ぶ。それは正に自由と楽しさ満ちた純粋無垢な行為。こういった《自由》は恐らくすべての人が幼少時代に経験していることだろう。制約や気負うものが何もないというのは実に気楽なものである。Gotchの『Can't be forever young』はそんな制約や気負うものから解き放たれた一人のアー… >>続きはこちら
■Text by 佐藤優太
本作の最後に収録された「LOST」にはこんな歌詞が出てくる。〈全てを失うために/全てを手に入れようぜ/ほら〉。もともとは2011年の震災の後に、後藤正文の名義で発表されたこの曲は、そのタイミングでは、まず何よりも震災からの回復への真っ直ぐな願いとして響くものだった。だが、今にして思えば、震災と復興を焦点にジャーナリスティックな視点から発… >>続きはこちら
■Text by 島田和彰
アルバムは先行シングルである「Wonder Land」から幕を開ける。スネアの音は軽く、ベースラインと絡まり生まれるビートはとてもグルーヴィ。そこに少しばかり不協和音を伴ったギター・ストロークとスクラッチ音が重なる。ヒップホップにフォーク・サウンドを足したスタイルからはベックの姿を連想せずにはいられない。しかしこれだけではない。オアシス直系… >>続きはこちら
■Text by 中村文泰
初めて「Wonderland」を聴いたときに懐かしさを感じた。頭の中をよぎったのはイールズ。単純にスクラッチの音と、リズムによるものなのか。僕の感覚があっているのかは分からない、けれど1990年代終わりから2000年にかけてオルタナティヴ・ロックという言葉が消えていき、それと共にラップ的なもの、R&B、ブルース、カントリーのような色々な曲調をミック… >>続きはこちら
■Text by 新垣友海
「Wonderland/不思議の国」というタイトルからは想像できなかったこと。それは軽快なリズムに身を委ね、油断して聴いているとチクッと突然棘に刺されたかのようにハッとする瞬間があった。「このままでいいの?」と言われて痛いところを突かれたような、困ってしまう瞬間がまさにそれで、Gotchなりの表現で提言しているのかもしれない。そして、「出口なき… >>続きはこちら
■Text by 半澤良平
演奏は実にシンプルでミニマルだ。エレキ・ギターは鳴りを潜め、アコースティック・ギターがそれに取って代わる。音の配置が心地良い。感情の爆発はなく、ヒップホップのトラックのように、淡々と言葉を際立たせている。この作品を生み出すにあたって、昨今の日本語ラップ・シーンの活気が影響しているのは間違いない。そして随所に、後藤正文の音楽遍歴による… >>続きはこちら
■Text by 藤森未起
ふかふかした土壌の中に包まれているようなやさしい感覚の中で、曲とともに自分の心臓や血液の巡る音も一緒に聴こえてくる…Gotchのニューアルバム は、そんな手触りやぬくもりと一緒に、生身の人間の熱いものが感じられるアルバムだ。とは言っても、普段アジカンで見せるような衝動のかぎり叫ぶなんてスタイルは見られず、アコースティックな曲が多く、体を… >>続きはこちら
■Text by 堀中敦志
まず、実に面倒な作品だな、と思った。CDでの発売に先駆けて、自身がアンバサダーを務めるRecord Store Dayに合わせて12Inch LPフォーマットでの先行発売。しかも、その発売日から1週間はオンラインでの販売もできない。要は真っ先に聴きたければレコードショップに出向いて手に入れるしか無い作品だったからだ。しかし、このようなリリース形態をとっ… >>続きはこちら
■Text by 目黒愛里彩
私だって、君だって、あの娘だって歳をとる。誰だっていつかは灰になる。だったら限りある人生をどう生きようか。ほら、いのちを燃やせよ。アルバムのタイトル曲でもある「Can't Be Forever Young」(=いつまでも若くいることはできない)に「いのちを燃やせ」という邦題をつけるのはおそらくGotchくらいだろう。一見、悲観的なタイトルだが、それを踏まえたうえ… >>続きはこちら
■Text by y.toyo
「時計はいつか止まってしまう/この恋もいつか終わってしまう/世間を呪うヒマなんてないさ/いのちを燃やせよ」「Can't Be Forever Young / いのちを燃やせ」で歌われるこの歌詞は本作のテーマでもありゴッチ自身が震災以降に音楽を鳴らす意思の表明でもある気がする。後藤正文(Gotch) ソロ名義での初アルバム。まず本作のオープナーでもある先行シングル… >>続きはこちら
『Can't Be Forever Young』関連作
EVENT INFORMATION
全国ツアー『Can't Be Forever Young』
2014年5月16日(金)@代官山UNIT
2014年5月21日(水)@梅田CLUB QUATTRO
2014年5月22日(木)@広島CLUB QUATTRO
2014年5月24日(土)@福岡BEAT STATION
2014年5月29日(木)@札幌PENNY LANE24
2014年6月3日(火)@金沢EIGHT HAL
2014年6月4日(水)@名古屋CLUB QUATTRO
2014年6月6日(金)@仙台CLUB JUNK BOX
2014年6月11日(水)@渋谷CLUB QUATTRO
2014年6月12日(木)@渋谷CLUB QUATTRO
■ツアーサポートメンバー
井上陽介 (Turntable Films/Subtle Control) / 佐藤亮 / 下村亮介(the chef cooks me) / 戸川琢磨 (TYN5G / ex COMEBACK MY DAUGHTERS) / YeYe / mabanua
『THE FUTURE TIMES』 Gallery & Live 2014
2014年4月29日(祝火)〜5月11日(日)@タワーレコード渋谷店8F(入場無料)
東日本大震災以降の被災地の姿を見つめ続けてきたフォトジャーナリストの方々が撮影した写真の展示と、後藤正文と他ゲストを迎えてのライヴ&トーク・ショー(※ライヴ&トーク・ショーはチケット制)
>>詳細はこちら
PROFILE
Gotch
1976年生まれ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのヴォーカル&ギターであり、全ての作詞とほとんどの作曲を手がける。これまでにキューンミュージック(ソニー)から7枚のオリジナル・アルバムを発表。2010年にはレーベル「only in dreams」を発足させ、webサイトも同時に開設。また、新しい時代やこれからの社会など私たちの未来を考える新聞「THE FUTURE TIMES」を編集長として発行するなど、 音楽はもちろんブログやTwitterでの社会とコミットした言動でも注目され、Twitterフォロワー数は現在242,000人を超える。
ソロ作品としては、ライブ会場&通販限定で2012年8月1日に7inch「LOST」、2013年4月20日のレコードストア・デイに7inch「The Long Goodbye」 、2014年3月12日「Wonderland / 不思議の国」を7inch アナログにてリリース。
そして同3タイトルが収録の初のオリジナルアルバム「Can't Be Forever Young」は後藤本人がVocals / Guitar / Harmonica / Synthesizer / Turntable / Glockenspiel / Percussion / Programmingまで多彩な楽器をプレイし、USインディー・ロックの生ける伝説"John McEntire(Tortoise/The Sea and Cake)"がMIX、マスタリングエンジニアにはL.AのStephen Marcussenが担当。
サポート・ミュージシャンにはストレイテナーのホリエアツシを始め、the chef cooks meの下村亮介やTurntable Filmsの井上陽介、8ottoのTORAなどのミュージシャンが参加。5月中旬よりバンド編成にて全国を巡るツアーも決定!