可憐な翼を、大きく広げて。
ハワイ諸島に生息する赤い鳥の名を冠したアパパネ。
春には桜と樫の樹上に飛来し、秋には大輪の華をついばむ。
伝説となった赤き翼は、さらなる高みをめざし羽ばたいて行く。
アパパネ(Apapane)は2007年産のJRAの競走馬である。馬名の由来はハワイに生息する「アカハワイミツスイ」という鳥の別称から。JRA史上3頭目の牝馬三冠馬である。
馬主は金子真人ホールディングス、所属厩舎は国枝栄(美浦)、主戦騎手は蛯名正義。
主な勝ち鞍
2009年:阪神ジュベナイルフィリーズ(JpnI)
2010年:中央競馬牝馬三冠[桜花賞(GI)、優駿牝馬(GI)、秋華賞(GI)]
2011年:ヴィクトリアマイル(GI)
2009年JRA賞最優秀2歳牝馬
2010年JRA賞最優秀3歳牝馬
デンセツノアカイトリ
血統
父キングカメハメハ、母ソルティビット、母父Salt Lakeという血統。
父は2004年のダービー馬で初年度産駒はパッとしなかったが、その後は着実に産駒が重賞勝利を量産し大種牡馬への道を進み始めていた。アパパネは2年目の産駒にあたる。
母はOP2勝。血統を辿ると彼女の母父には1979年の米国二冠馬Spectacular Bidがいる。
2歳(2009年)
福島競馬場の芝1800mの新馬戦で蛯名正義を鞍上にデビュー、3番人気に支持されるも勝ち馬に水を開けられ3着に終わる。以降、アパパネの手綱は一貫して蛯名が取り続けている。放牧を挟んで迎えた2戦目・東京競馬場の未勝利戦を快勝すると、次戦の赤松賞(500万下)を1分34秒5のレコードで圧勝する。
赤松賞後、陣営は栗東留学を敢行。栗東トレーニングセンターにて阪神ジュベナイルフィリーズへ向けて調整を行う。奇しくも、アパパネの母のソルティビットも栗東留学を踏んで阪神ジュベナイルフィリーズへと駒を進めていた。その時の鞍上も蛯名正義だった。
12月13日、赤松賞のレコードが評価され2番人気で迎えた阪神JFは18番の大外枠という不利を克服し、4コーナーで広がった馬群を器用に縫って、追いすがるアニメイトバイオの追撃を振り切り、初のGI制覇を成し遂げた。調教師の国枝が盛んに取り入れる栗東留学が奏功したとも言える。この勝利が評価され、2009年の最優秀2歳牝馬に選出される。
伝説の序章
まずひとつ。
そうだこれは
最初の1ページ
まだ序章にすぎない。
3歳(2010年)
翌2010年はチューリップ賞より始動。一番人気に支持されるが道中掛かり通し、道悪の馬場にもあってか直線伸びを欠き2着に敗れる。チューリップ賞後も栗東に滞在し、桜花賞に向けて調整を続けた。
4月11日、本戦のクラシック一冠目・桜花賞では1番人気に支持され、道中4、5番手から掛かりながらレースを進め、直線で鞭を入れられると鋭く伸びて逃げ粘るオウケンサクラを1/2馬身差で差し切ってGI2勝目、クラシック一冠目を制した。調教師の国枝栄、騎手の蛯名正義ともに桜花賞初制覇となった。
5月23日、桜花賞に続くクラシック二戦目の優駿牝馬(オークス)でも一番人気に支持される。母が短距離馬である故の血統的距離不安、折り合い、道悪、大外枠と不安要素があげられるなかでの出走となった。スタート後は中段でレースを進め、直線で外に持ち出すと先に抜け出したサンテミリオンとの一騎打ちとなり、ラスト200mからゴールまでサンテミリオンと並んだままゴールに飛び込んだ。両馬が同時に入線したため、写真判定は15分にも及んだ。長きにわたる写真判定の帰趨は、JRAGIでは史上初となる1着同着となりアパパネはGI3勝目、牝馬クラシック二冠を達成した。
夏は放牧に出さず美浦トレセンで調整を続け、最後の一冠・秋華賞へ向けて秋の初戦をローズステークスに据えて出走した。圧倒的1番人気に支持されたレースであったが、馬体重の大幅増と道中折り合いを欠き、伸びあぐねて4着に敗れてしまう。
10月17日、迎えた秋華賞ではJRA史上3頭目の牝馬三冠がかかったレースとなり、単勝2.3倍の1番人気に支持された。好スタートから控えて3コーナーまでは中段でレースを進めると、3~4コーナーで強気に外から進出し、4コーナーでも大外を回りながら直線で力強く伸び、ゴール前で急伸したアニメイトバイオを1/2馬身差で抑えて勝利。4つ目のGIを得ると同時に、7年ぶり3頭目の牝馬三冠を達成した。
上の蛯名正義は関東騎手初の牝馬三冠騎手となり、馬主の金子真人はディープインパクトでのクラシック三冠と共に、3歳牡牝三冠を成し遂げた。なおオークス1着同着のサンテミリオンはシンガリ負け。オークス1着同士で明暗がクッキリ分かれる結果となった。
11月14日のエリザベス女王杯でも一番人気に支持されるが、秋華賞の激走が響いたのか直線で伸びあぐね、外国馬のスノーフェアリーに離された3着に敗れる。しかし牝馬三冠は評価され、JRA賞最優秀3歳牝馬に選出された。
4歳(2011年)
2011年は中山記念から始動する予定だったが、熱発により回避。仕切り直しの復帰戦はマイラーズカップにあてられ、中段の追走から上がり33.2の豪脚を繰り出すがシルポートの4着に敗れる。
5月15日、迎えたヴィクトリアマイルは2010年の最優秀3歳牝馬アパパネと2009年の最優秀3歳牝馬ブエナビスタとの対決に脚光を浴びた。人気はブエナビスタに次ぐ2番人気に甘んじるが、単勝オッズが一ケタ台の馬はアパパネとブエナビスタのみであり、2頭の一騎打ちという構図であった。レースは逃げるオウケンサクラが600M通過タイム33.5の超ハイペースで進められ、アパパネは中段、ブエナビスタはその後ろでアパパネを見ながら4コーナーを迎えた。進路を外に取ったアパパネは、直線入口からロングスパートを敢行すると先行したレディアルバローザをゴール前でとらえ、アパパネの外から急追するブエナビスタをクビ差で抑え、1分31秒9の好タイムでGI5勝目を飾った。スティルインラブ以後牝馬三冠を達成した馬はそれ以降勝てなくなる、と囁かれていたジンクスを打ち破る勝利だった。
6月5日、春3戦目はGI安田記念に狙いを定め、ヴィクトリアマイルから中二週で参戦することになった。初の牡馬混合GIでも1番人気に支持され、道中は普段より前目でレースを進めるが、直線で伸びを欠き3歳馬リアルインパクトの6着に敗れ、デビュー戦以来外さなかった掲示板を初めて外してしまう。前走の激走から疲労が取れなかったことが敗因としてあげられる。
秋は勝てば牝馬GI完全制覇となるエリザベス女王杯を目指し、府中牝馬Sから始動。しかし結果は14着と生涯初の惨敗を喫してしまう。
11月13日、本番であるエリザベス女王杯では前年規格外の走りでこのレースを制したスノーフェアリーの参戦、そして前走の大敗も響き4番人気に留まる。レースはシンメイフジが大きく逃げる中、道中を好位で進み、最後の直線ではアヴェンチュラ・ホエールキャプチャらと競り合うも、またもやすさまじい勢いで伸び出来たスノーフェアリーに交わされ3着に敗れた。娘のアカイトリノムスメもエリ女を勝てなかったし、鬼門だったのだろうか。
この走りに復調を感じ取った陣営は適距離である香港マイルに出走するが、輸送中のトラブルの影響からか、またもや13着と大敗してしまう。
2012年(5歳)
4月7日、阪神牝馬Sから始動。主戦である蛯名正義が落馬負傷したため、岩田康誠が代打騎乗。これが影響したのか直線では伸びず、7着に敗れる。
5月13日、史上初の連覇を目指してヴィクトリアマイルに出走。1番人気に支持されるが、またもや直線で伸びず、ホエールキャプチャの5着に敗れる。去年同様安田記念に出走するが、見せ場を作ることもなく、16着と惨敗してしまう。
明らかに衰えが見える中、なおも牝馬GI完全制覇を目指し調整が続けられていたが、屈腱炎を発症。引退・繁殖入りが決まった。通算成績16戦7勝(内GI5勝)。
繁殖牝馬としては、初年度から6年連続で同馬主の三冠馬ディープインパクトを相手とし、不受胎だった2016年と流産となった2019年を除いて4頭が産まれている。この手の配合は前例のメジロリベーラ(シンボリルドルフ×メジロラモーヌ)が成果を上げていないため疑問視されていたのだが、後述の通り全頭が勝ち上がって重賞戦線やGIにも顔を見せており、実力で不安をかき消した。とくに4番目の子で長女となるアカイトリノムスメは秋華賞を親子で制し、アパパネにGI馬の母という栄誉をもたらした。なお、ディープインパクトが早期に種付けを打ち切った2020年とすでに亡くなっている2021年はやはり同馬主でディープインパクトの全兄のブラックタイドの子が産まれている。
先輩三冠牝馬2頭が繁殖で成果を残せなかった分も、彼女には頑張ってもらいたいところである。
血統表
キングカメハメハ 2001 鹿毛 |
Kingmambo 1990 鹿毛 |
Mr.Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
Miesque | Nureyev | ||
Pasadoble | |||
*マンファス 1991 黒鹿毛 |
*ラストタイクーン | *トライマイベスト | |
Mill Princess | |||
Pilot Bird | Blakeney | ||
The Dancer | |||
*ソルティビッド 2000 栗毛 FNo.9-f |
Salt Lake 1989 鹿毛 |
Deputy Minister | Vice Regent |
Mint Copy | |||
Take Lade Anne | Queen City Lad | ||
Lovita H. | |||
Piper Piper 1987 栗毛 |
Spectacular Bid | Bold Bidder | |
Spectacular | |||
Alvarada | Hard Work | ||
Easterborn | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Northern Dancer 5×5×5(9.38%)
産駒一覧
出生年 | 馬名 | 性 | 父 | 主な勝鞍 |
---|---|---|---|---|
2014 | モクレレ | セ | ディープインパクト | 21'阿賀野川特別(2勝クラス) |
2015 | ジナンボー | 牡 | ディープインパクト | 19'ジューンS(3勝クラス) |
2017 | ラインベック | セ | ディープインパクト | 23'東風S(L) |
2018 | アカイトリノムスメ | 牝 | ディープインパクト | 21'秋華賞(GI) 21'クイーンカップ(GIII) |
2020 | アスパルディーコ | 牝 | ブラックタイド | 2歳未勝利 |
2021 | バードウォッチャー | 牡 | ブラックタイド | 2歳新馬 |
2022 | (アパパネの2022) | 牡 | ブラックタイド | (デビュー前) |
関連動画
関連静画
関連コミュニティ
関連項目
中央競馬の三冠馬 | ||
クラシック三冠 | 牡馬三冠 | セントライト(1941年) | シンザン(1964年) | ミスターシービー(1983年) | シンボリルドルフ(1984年) | ナリタブライアン(1994年) | ディープインパクト(2005年) | オルフェーヴル(2011年) | コントレイル(2020年) |
---|---|---|
牝馬三冠 | 達成馬無し | |
変則三冠 | クリフジ(1943年) | |
中央競馬牝馬三冠 | メジロラモーヌ(1986年) | スティルインラブ(2003年) | アパパネ(2010年) | ジェンティルドンナ(2012年) | アーモンドアイ(2018年) | デアリングタクト(2020年) |
|
古馬三冠 | 春古馬 | 達成馬無し |
秋古馬 | テイエムオペラオー(2000年) | ゼンノロブロイ(2004年) | |
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