灰色雁の城(Flight of the grey goose)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/25 06:07 UTC 版)
「スマイラー少年の旅」の記事における「灰色雁の城(Flight of the grey goose)」の解説
警察の追跡をすんでのところで交わして逃げ出したスマイラーは、当初ヒッチハイクで出会ったトラック運転手ボブ、野良犬のベーコンと共に旅を続けるが、他の運転手の通報が元でベーコンと共にまた逃げ出す事になる(この際警察の質問に、ボブはスマイラーの連れているベーコンの特徴を、わざと間違えて証言している)。スマイラーに結局逃げられた事を知った警官の一人は、「逃げたって何も解決しないのに。」と苦笑する。自分の素性を隠して調べた結果、父親がコックとして乗船している「ケンタッキー・マスター号」が、スコットランドの港、「グリンノック」に入港する事を知ったスマイラーは、スコットランドへ渡る決心をする。その途中で出会った「教授」と自称する博識の老人の助けを借りて、必要な物資と共にスコットランド行きの貨物列車に乗り込む事に成功する。しかし「教授」は別れの際にスマイラーのポケットから、ケネルで数ヶ月働いて貯めた紙幣の入った封筒をこっそり抜き取っており、列車の出発後、その事に気付いたスマイラーは一瞬呆然としながらも、その鮮やかな手口に苦笑するのだった。金こそ抜き取られたものの、「教授」がちゃんと調達してくれた物資のおかげで、スコットランドに着いてもしばらくはどうにか旅を続ける事のできたスマイラーとベーコンは、やがて湖水地方に辿り着く。そこでスマイラーは、猫に襲われたハイイロガンの「ラギー」を救出した事が縁で、後に恋人となる少女ローラ・マッケイと出会い、湖内にそびえる古城の城主、アレク・エルフィンストーン卿、通称「殿様」のところにローラと共にラギーを運び込むが、旅の疲れもあり殿様の前で倒れて気を失ってしまう。 目が覚めたスマイラーは、ケネルの時のように偽名は使わず殿様に自分の素性を明かす。そのうえで、父親の乗った船がスコットランド内の港に停泊し、父と再会できれば、父の力で自分の無実も明かしてもらえるので、それまで仕事をしながら父の帰りを待ちたいと告げる。話を聞いて、殿様はスマイラーの無実を信じると告げ、先日辞めて行った使用人、ウイリー・マックオーフィーの代わりに城で働く事を薦める。城の環境や、殿様の人柄に好印象を持っていたスマイラーにとって、願ってもない事であった。城で働き、治療中のラギーをはじめ城内の様々な動物達の世話に汗を流し、獣医でもある殿様の動物に対する治療の助手を務める等しながら、スマイラーはいつしか獣医になる夢を持ち始める。また、定期的にモーターボートで城に物資を届けに来るローラとも打ち解け、いつしか二人は友達以上の感情を持つようになる。それは殿様の誕生パーティーのメインディッシュとなる大鮭を、二人で協力して釣り上げた事で決定的になり、パーティーの夜、ローラと二人きりになったスマイラーは、それまで殿様にしか明かしていなかった自分の素性と目的を彼女に話し、ローラもスマイラーの腕を取り、秘密を守る事を約束するのだった。 そんな充実した日々を送るスマイラーだったが、気がかりは、既に怪我は治っているのは明らかながら、一向に飛び立とうとしないラギーの事だった。やきもきするスマイラーに対し、殿様は「君が走り幅跳びの選手で、練習中に足を折ったとしたら、治っても競技をするのを躊躇する場合もあるのではないか?」と諭し、食べ物ももらえるし住むところもあるから、今はわざわざ飛び立つ必要がないと思っているが、いずれ本能には逆らえず、必ず飛び立つと語る。 そんな折、殿様が息子夫妻に子供が生まれたため、ロンドンに行く事になり、スマイラーはしばらく城の留守を守る事になるが、ある日潜水した彼は水中に隠れた洞穴を見つけた。そこには以前殿様に聞かされていた、行方不明になっていた城の宝石が隠されていたのだった。 さっそく、物資を届けに来たローラにも見せ、これを売れば殿様の夢を実現できるだけのお金が入って来ると喜ぶ二人。だが、ローラが帰って再び城内に一人きりになったスマイラーの前に現れたのは、以前から城を物色し、強盗に入る機会を伺っていた二人組だった。二人の悪漢の様子から、スマイラーは裏で糸を引いているのが、あの評判の悪いウイリー・マックオーフィーだと感づく(二人は話さないがそれは正解だった)。どんなに脅されようとガンとして、二人の狙っている「銀器」の隠し場所を言わないスマイラーだったが、「船長」こと「ビリー・モーガン」は、どうしても言わないならこうすると、今度は動物達に向けて持って来た銃を発砲する。弾丸は命中せずに済んだが、それがきっかけとなり、飛ぶ事を躊躇していたラギーもついに飛び立った。一時は、動物たちの命には代えられないと観念し、銀器や、一緒にしまっておいた宝石も悪漢たちの手に渡したスマイラーだが、これは作戦でもあり、隙をついて再び銀器と宝石を取り返す事に成功した。しばらくは身を隠したスマイラーを捜索する二人組だったが、折から暴風雨が辺り一帯を覆い、あまり長居できない事情もあり、悔しがりながら城を後にする事になる。 スマイラーは強盗達の隙を突いてローラ向けに合図を送り、その知らせが届いたローラは暴風雨の中、城へ向けてボートを出す。悪戦苦闘の末、どうにか城にたどり着いたローラだが、スマイラーの姿が見えず、殿様の銀器も宝石も消えている事にショックを受ける。翌朝湖内に点在する島を見回ったローラは、ある島の岸で銀器と宝石の入ったリュックを背負ったまま倒れているスマイラーを見つけ、上陸して彼を抱き締める。城に戻ったスマイラーはローラの看病を受けながら、事の顛末を話して聞かせる。ローラも、スマイラーの言う二人組に心当たりはなかったが、もしウイリー・マックオーフィーが裏で糸を引いているなら、きっと後悔する事になると言う。そして、話の流れの中、スマイラーは、ローラに向けて、将来自分が獣医になれたら結婚して欲しいと告げる。突然の事に驚いたローラだが、少なくとも拒否はしなかった。やがて殿様が帰って来た。スマイラーが宝石を見つけ、その宝石を強盗から守り通した事を知った殿様は、スマイラーは勇敢で立派な少年だ、と、感謝の言葉を伝える。 しかし、平穏な時は続かなかった。古城滞在中にひょんな事からスマイラーの「正体」を知った強盗達は、お宝を取り損ねた腹いせに、匿名で警察にスマイラーの事を通報したのだ。無視するわけにもいかない警察は、遂に城にやって来て殿様と話をする。隠れて聞いているうちに父親が、乗っているはずだった船に乗っていない事を知ったスマイラーは愕然とする。ショックを受けながらも捕まるわけにはいかないと逃げる準備を始めるスマイラー。傍にいたローラは反対するが、彼の決心が固い事を感じると、それが決して正しい方法ではないと言いながらも協力する。城を抜け出した二人は、最後にお互いを抱き締め、唇を合わせる。そして、ローラに「必ず帰ってくる。」と告げるスマイラー、それに対してローラは、直接な表現ではないものの、以前のスマイラーのプロポーズを、改めてしに来る事を決して忘れないから、と返し、彼がいない事に気づいた警察が追いかけてくる前に逃げるよう促すのであった。
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