JP5727167B2 - Ncxを標的とした単離膵島ならびに移植膵島障害の新規制御法 - Google Patents

Ncxを標的とした単離膵島ならびに移植膵島障害の新規制御法 Download PDF

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Description

本発明は、膵島細胞保護剤に関する。
国内の糖尿病患者数は、約890万人(2007年度糖尿病実態調査報告)ともいわれており、このうち重症糖尿病患者約10万人は、生涯にわたってインスリンを注射し続けなければならない。このような重症糖尿病患者をインスリン注射から解放する究極の治療法として、インスリンを作る膵島細胞を糖尿病患者の肝臓内に移植し、永久定着させ、糖尿病を完治させるという試みがなされている。
上記治療法についての臨床報告は、世界では2000年から500症例以上存在し、日本国内でも2004年の初症例から現在までに18症例が存在する。しかし、上記治療法には、未解決の2つの大きな問題点がある。第一は、膵島細胞提供者が限られており、膵島細胞の不足が深刻な問題となっているため、効率的な膵島単離法が求められていることである。第二は、免疫抑制剤を使用しても、他人の臓器を移植した後、数時間のうちに起こる早期拒絶反応によって、移植した膵島細胞が破壊されることである。すなわち、この破壊のため、1人から採取した膵島細胞全てを移植しても治療効果は得られず、2〜3回の移植、すなわち2〜3人から採取した膵島細胞を1人に移植しないと治療効果が得られないという問題がある。
特許文献1には、健康な膵島を糖尿病患者に移植する「エドモントンプロトコール」では、膵島は、脆弱な三次元構造を有しており、増殖及び生着率向上のために多量の酸素を必要とすることが記載されている。また、特許文献1には、このプロセス中、膵島は、酸素送達の条件が最適でなければ損傷又は破壊され、所定のドナー膵臓から取り出される健康な膵島の収率に影響を及ぼすとされている。特許文献1では、細胞単離及び移植の前に、一種以上の乳化されたパーフルオロカーボン(ePFC)をドナー膵臓に注入することで、膵島の健康状態及び生着率を高め、それらが厳しい単離処置に耐えることができるようにするとされている。
特許文献2には、IL−6阻害剤を有効成分として含有する、膵島移植における移植膵島障害抑制剤が記載されている。特許文献2では、抗IL受容体抗体を投与することにより、移植後湿潤細胞の炎症性サイトカイン産生が抑制されるとされている。
特許文献3には、移植直前、移植2時間後、4時間後に抗凝固薬の活性化プロテイン(APC)をランゲルハンス島β細胞の機能を特異的に低下させたマウス尾静脈より投与することにより、生殖後膵島グラフトの障害を防ぎ、生着した膵島数を増加させ、血糖値のコントロールが示されたとされている。
特許文献4では、トロンボモジュリンを含有する薬剤を膵島移植を受ける糖尿病患者及び/又は膵島移植を受けた糖尿病患者に用いることにより、糖尿病患者の膵島移植後の血糖値を正常化することができるとされている。また、トロンボモジュリンを含有する薬剤により、膵島移植後の移植膵島細胞の生着率を改善することができ、移植膵島細胞の生存期間を延長することができ、さらには血漿中のインスリン濃度を正常化することができ、糖尿病をより効果的に治療及び/又は改善することが可能となるとされている。
特表2008−532547号公報 国際公開第2007/043641号パンフレット 特開2008−24591号公報 特開2008−189574号公報 国際公開第99/20598号パンフレット 国際公開第98/43943号パンフレット 特開平10−218844号公報 特開平10−265460号公報 特開平11−49752号公報
Annual Review of Physiology、52巻、467−485頁、1990年 Nippon Yakurigaku Zasshi、111巻、105−115頁、1998年 The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、296巻、412−419頁、2001年 The Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics、298巻、249−256頁、2001年 European Journal of Pharmacology 458巻、155−162頁、2003年
しかしながら、上記文献の技術では、以下の点で改善の余地を残していた。
特許文献1の技術では、細胞単離及び移植の前における膵島の酸素化を高めることができるが、移植後のレピシェント側で起こる拒絶反応は考慮されていない。
特許文献2〜4の技術は、レピシェント側に投与して膵島細胞の定着率を向上させる処置としては有用であるが、細胞単離及び移植の前における膵島細胞の保護は考慮されていない。
このように、移植前における膵島細胞へのダメージを抑制しつつ、移植後に生じる拒絶反応を抑制して、膵島細胞の定着率を向上できる技術は知られていなかった。
本発明は、
[1]NCX(ナトリウム・カルシウム交換系)阻害活性を示す化合物又はその医薬上許容される塩を含有する、膵島単離及び/又は膵島移植における膵島細胞保護剤、
[2]NCX阻害活性を示す化合物が、式(1)
[式(1)中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を示し、Xは
を示す。R4は水素原子、置換若しくは無置換のC1〜C6アルキル基又は置換若しくは無置換のC1〜C6アルコキシ基を示し、Zはニトロ基、アミノ基又はNHC(O)CH 基を示し、R5は水素原子、置換若しくは無置換のC1〜C6アルキル基、置換若しくは無置換のC1〜C6アルコキシ基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、C2〜C7アシロキシ基、NR67又は
を示し、R6及びR7は同一又は異なって水素原子、置換若しくは無置換のC1〜C6アルキル基、N―メチル―4―ピペリジニル基を示し、R8は水素原子、ヒドロキシ基又はC2〜C7アルコキシカルボニル基を示し、Yはメチレン基、エポキシ基、チオ基又はNR9基を示し、nは1から4の整数を示す。R9は水素原子、置換若しくは無置換のC1〜C6アルキル基又は置換若しくは無置換のフェニル基を示す。]で表わされる化合物である、[1]に記載の膵島細胞保護剤、
[3]NCX阻害活性を示す化合物が、2−[4−[(2,5−ジフルオロフェニル)メトキシ]フェノキシ]−5−エトキシアニリンである、[1]又は[2]に記載の膵島細胞保護剤、又は
[4]糖尿病の治療に用いられる[1]〜[3]のいずれかに記載の膵島細胞保護剤である。
本発明によれば、式(1)のNCX阻害活性を示すフェノキシアニリン誘導体及びフェノキシピリジン誘導体を用いることにより、膵島細胞を低酸素状態から保護することができ、かつ、膵島移植後の拒絶反応から膵島細胞を保護することができる。したがって、移植前における膵島細胞に対するダメージを抑制しつつ、移植後に生じる拒絶反応を抑制して、膵島細胞の定着率を向上させることが可能になる。
本発明によれば、移植前における膵島細胞へのダメージを抑制しつつ、移植後に生じる拒絶反応を抑制して、膵島細胞の定着率を向上させることができる。
膵島細胞の低酸素誘発細胞死に対するSEA0400の効果を示す結果である。 膵島細胞からのHMGB1放出に対するSEA0400の効果を示す結果である。 STZ誘発糖尿病マウスにおける膵島細胞移植後の血漿グルコース値に対するSEA0400の効果を示す結果である。 マウスの心臓、脳及び膵島におけるNCX1、NCX2及びNCX3のmRNA量の定量をリアルタイムPCRで行った結果である。 マウスの膵島におけるNCX1、NCX2及びNCX3のタンパク質の存在をウエスタンブロッティングで確認した結果である。 SEA0400存在下での単離操作により得られた膵島細胞をSTZ誘発糖尿病マウスに移植した後の血漿グルコース値の変化を示す結果である。 SEA0400存在下での単離操作により得られた膵島細胞を低酸素条件下で培養した際の細胞障害の程度を示す結果である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の1つの態様は、NCX阻害活性を示す化合物又はその医薬上許容される塩を含有する、膵島単離及び/又は膵島移植における膵島細胞保護剤である。
本発明において、「NCX阻害活性を示す化合物」としては、脳(特に、グリア細胞)由来NCX活性を3μMの濃度で50%以上阻害するものが好ましい。なお、NCX活性の測定方法は、非特許文献4(特に、250頁、右カラム、「Cell Culture」、「Na−Ca2+ Exchange Activity」参照)及びこれに引用された文献に記載されている。
「NCX阻害活性を示す化合物」としては、さらに副作用を防止する目的からNCXを特異的に阻害する化合物がより好ましい。本発明において、「NCXを特異的に阻害する化合物」とは、NCXを阻害する濃度で他のイオンチャンネル、トランスポーター、酵素、受容体を殆ど阻害しない化合物をいい、具体的には、例えば3μMの濃度においてCa2+channel、Nachannel、Kchannel、Na/Htransporter、norepinephrine transporter、Na,K−ATPase、Ca2+−ATPase、phospholipase A、phospholipase C、5−lipoxygenase、inducible nitric−oxidesynthetase、constitutive nitric−oxide synthetase、adenosine receptor、adrenergic receptor、glutamate receptor、bradykinin receptor、LTB4 receptor、PAF receptorを50%以上阻害しないことが好ましい。
また、NCXには複数のサブタイプがあり、例えばNCX1、NCX2、NC3のサブタイプが挙げられるが、これらのサブタイプのいずれか1つ又は複数を阻害する化合物が好ましい。膵島ではNCX1の発現量が非常に高いことから、NCX1を阻害する化合物が特に好ましい。
なお、各々のイオンチャンネル、トランスポーター、酵素、レセプターを用いた測定方法は、非特許文献4及びこれに引用された文献に記載されている。
NCXを特異的に阻害する化合物の例としては、フェノキシアニリン誘導体及びフェノキシピリジン誘導体を挙げることができる。例えば、式(1)で示される化合物が挙げられる。
式(1)において C1〜C6アルコキシ基とは、炭素原子数1〜6の直鎖又は分枝状のアルコキシ基を意味し、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、 tert−ブトキシ基、ペンチロキシ基、イソペンチロキシ基、ネオペンチロキシ基、tert−ペンチロキシ基、1−メチルブトキシ基、2−メチルブトキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、ヘキシロキシ基、イソヘキシロキシ基等が挙げられる。
置換C1〜C6アルコキシ基の置換基としては、クロロ基、フルオロ基、ニトロ基、アミノ基、ジメチルアミノ基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェニル基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルバモイル基等が挙げられる。
ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子をいう。
1〜C6アルキル基とは、炭素原子数1〜6の直鎖又は分枝状のアルキル基を意味し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基等が挙げられる。
置換C1〜C6アルキル基の置換基としては、クロロ基、フルオロ基、ニトロ基、アミノ基、ジメチルアミノ基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルバモイル基等が挙げられる。
2〜C7アシロキシ基とは、炭素原子数2〜7の直鎖又は分枝状のアシロキシ基を意味し、アシル部分は、環状であっても、芳香族基を含んでいてもよい。例えばアセトキシ基、プロピオニロキシ基、イソプロピオニロキシ基、シクロヘキシニロキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
2〜C7アルコキシカルボニル基とは、炭素原子数2〜7の直鎖又は分枝状のアルコキシカルボニル基を意味し、アルコキシル部分は、環状であっても、芳香族基を含んでいてもよい。具体的には、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、ペンチロキシカルボニル基、イソペンチロキシカルボニル基、ネオペンチロキシカルボニル基、tert−ペンチロキシカルボニル基、1−メチルブトキシカルボニル基、2−メチルブトキシカルボニル基、1,2−ジメチルプロポキシカルボニル基、ヘキシロキシカルボニル基、イソヘキシロキシカルボニル基等が挙げられる。
置換フェニル基の置換基としては、クロロ基、フルオロ基、ニトロ基、アミノ基、ジメチルアミノ基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルバモイル基等が挙げられる。
「その医薬上許容される塩」とは、例えば塩酸、臭化水素酸、硫酸、燐酸などの鉱酸との塩、酢酸、シュウ酸、乳酸、酒石酸、フマール酸、マレイン酸、コハク酸、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、グルコン酸、ベンゼンスルホン酸、クエン酸等の有機酸との塩を挙げることができる。なお、本発明の化合物は、各種溶媒和物としても存在し得る。また、医薬としての適用性の面から水和物の場合もある。
「NCXを特異的に阻害する化合物」の具体的な例としては、
で表される化合物2−[4−[(2,5−ジフルオロフェニル)メトキシ]フェノキシ]−5−エトキシアニリン(SEA0400)を挙げることができる。なお、式(1)であらわされる化合物は、特許文献5〜9に記載の製造方法により合成することができる(特に、特許文献5の実施例1〜17、特許文献6の実施例1〜24、特許文献7の実施例1〜8、特許文献8の実施例1〜37、特許文献9の実施例1〜25参照)。
本発明において、「膵島単離」とは、膵臓より膵島を採取する方法であり、具体的には摘出したドナー膵臓の膵管よりコラゲナーゼ等の消化酵素を注入することにより膵臓を消化し、膵島を膵臓の他の主構成細胞である外分泌細胞より分離し(消化工程)、その後膵島を純化する処理(純化工程)のことをいう。膵島を純化する方法としては、例えば内分泌細胞と外分泌細胞の比重差を利用した比重遠心法が用いられている。本発明の膵島細胞保護剤をドナー膵臓に投与することで、こうした膵島単離処理におけるダメージから膵島細胞を保護することができる。
本発明において、「膵島移植」とは、単離した膵島細胞を移植することをいう。移植の方法としては、例えば、経皮経肝的に門脈内に留置した管(カテーテル)を通して膵島細胞を注入することを行う手法がある。本発明の膵島細胞保護剤をドナー膵臓又は単離した膵島細胞に投与することで、ダメージの少ない正常な膵島細胞を移植することができる。
本発明の膵島細胞保護剤は、糖尿病の治療において使用することが可能である。糖尿病には、1型糖尿病、2型糖尿病、膵性糖尿病、妊娠糖尿病等が含まれる。また、膵炎やステロイド剤使用などによって二次的に起こる場合や、特定の遺伝子に異常がある場合等の特定の原因による糖尿病も、上記糖尿病に含まれるものとする。本発明における「糖尿病患者」は、好ましくは1型糖尿病を発症する患者である。血糖を下げるホルモンであるインスリンの分泌が極度に低下するかほとんど分泌されなくなるため、血中の糖が異常に増加し糖尿病性ケトアシドーシスを起こす危険性が高い。そのためインスリン注射などの強力な治療を常に必要とすることがほとんどである。また、血糖値が十分にコントロールされない状態が長期間続くと糖尿病網膜症、糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、脳血管障害、虚血性心疾患、下肢動脈閉塞等の糖尿病合併症が問題となる。したがって、本発明の移植方法は、これらの糖尿病合併症の予防又は治療にも有効である。
本発明の1つの態様は、NCX阻害活性を示す化合物又はその医薬上許容される塩をドナー膵臓又はドナーから単離した膵島に生体外で添加し、添加後の膵島を糖尿病患者に移植する工程を含む、糖尿病患者において膵島移植後の膵島細胞の障害を抑制する方法である。
また、本発明の態様には、膵島移植を行う糖尿病患者にNCX阻害活性を示す化合物又はその医薬上許容される塩を投与する工程を含んでいてもよい。
本発明の膵島細胞保護剤は膵島移植において使用可能である。膵島移植には膵島細胞提供者(ドナー)が必要であり、脳死ドナー膵島移植、心停止ドナー膵島移植および生体膵島移植などが含まれる。膵島細胞提供者は、哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。また、本発明の膵島を移植される糖尿病患者(レピシェント)は、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。膵島細胞提供者と糖尿病患者とは、同種であっても異種であってもよいが、同種であることが好ましい。
本発明における膵島単離又は膵島移植における膵島細胞保護剤の投与または添加方法としては、膵島細胞提供者の体内に投与する方法、膵島細胞提供者から摘出する前の膵臓に直接投与する方法、膵島細胞提供者から全部又は一部を摘出した後の膵臓に生体外で添加する方法、単離処理中の膵島細胞に添加する方法、単離した後糖尿病患者に移植される前の膵島細胞に添加する方法が挙げられる。本発明の膵島細胞保護剤の安全性が確保されている場合は、移植前の糖尿病患者の体内に投与する方法、移植後の糖尿病患者の体内に投与する方法も可能である。
ドナー膵臓に本発明の膵島細胞保護剤を投与する手法としては、例えば、膵管から投与する方法が挙げられる。この場合、本発明の膵島細胞保護剤は、保存液または緩衝液等に溶解した形で使用されることが好ましい。このとき使用される保存液または緩衝液としては、例えばUW(University of Wisconsin)液、ET−Kyoto液、ハンクス液が挙げられる。また、膵島単離処理の消化工程において、消化酵素を含む緩衝液に溶解させて膵管から共に注入してもよい。投与量は、ヒトの膵臓に投与する場合、1μM〜100μMとすることができる。
また、単離処理中の膵島細胞に投与する場合は、膵臓を消化して膵島を分離した後、比重遠心法による純化工程を実行する際に、本発明の膵島細胞保護剤存在下に純化工程を行うことができる。
また、本発明の膵島細胞保護剤を単離した膵島細胞に投与する手法としては、本発明の膵島細胞保護剤を溶解した液体で湿漬させる方法が挙げられる。この場合、膵島細胞保護剤を溶解させ、かつ、膵島細胞と等張の液体を用いることが好ましいが、例えば、培養液(例えば、D−MEM)を用いることが好ましい。必要に応じてBSA(ウシ血清アルブミン)を加えても良い。また、糖尿病患者に膵島移植する際に用いられる液体を用いてもよい。膵島細胞を湿漬させる液体には、膵島細胞の生命維持のための栄養等(例えば、糖、アミノ酸)を含んでいてもよい。細胞を処理する際の薬剤の濃度はNCXを十分に阻害する濃度が必要であり、好ましくは、0.1μM〜1000μM、さらに好ましくは、1μM〜100μMとすることができ、5μM〜100μMとするとより好ましい。湿漬させる時間は、30分〜72時間が好ましく、5時間〜48時間がより好ましい。湿漬させるときの温度は、30℃〜40℃が好ましいが、膵島細胞提供者の体内温度にするとより好ましい。糖尿病患者に膵島を移植する際には当該細胞保護剤はできる限り除去することが好ましいが、当該細胞保護剤の安全性が確保されている場合は、膵島からの薬剤の除去は必須ではない。
本発明の膵島細胞保護剤を膵島細胞提供者又は糖尿病患者に投与する場合は、適宜公知の担体、希釈剤等を用いて適宜の医薬組成形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、ドライシロップ、注射剤、貼付剤など)に調製して経口的又は非経口的に使用できる。例えば注射剤としては、皮下注射剤、筋肉注射剤、あるいは腹腔内注射剤等を挙げることができる。本発明の膵島細胞保護剤を糖尿病患者に投与する場合は、膵島移植の前であってもよいし、膵島移植と同時、または膵島移植の後であってもよい。また、膵島細胞保護剤の投与は一回であってもよいし、連続して投与することもできる。また、膵島細胞を糖尿病患者の門脈から投与する場合に、膵島細胞と同時に、または時間をずらして本発明の膵島細胞保護剤を投与することも可能である
固形剤を製造するには種々の添加剤、例えば賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング基剤を用い、攪拌造粒法、流動層造粒法、破砕造粒法で製造できる。その他必要に応じて抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を加えることができる。非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤を含有する。
本発明の膵島細胞保護剤を糖尿病患者に直接投与する場合、投与量は年齢、体重、投与形態等により異なるが、通常成人に対し0.1〜1000mg/日であり、これを1日1回又は数回に分け投与することができる。
本発明の膵島細胞保護剤は、少なくとも1つの既知の化学療法剤と共に薬学的組成物の一部として投与されてもよい。
また、本発明の膵島細胞保護剤を投与された膵島細胞を移植した後の糖尿病患者に対し、少なくとも1つの既知の化学療法剤が投与されてもよい。例えば、少なくとも1つの既知の免疫抑制剤が投与されてもよい。
また、本発明の膵島細胞保護剤を糖尿病患者に直接投与する場合は、少なくとも1つの既知の化学療法剤が併用して投与されてもよく、同時に投与されてもよい。例えば、少なくとも1つの既知の免疫抑制剤が併用して投与されてもよく、同時に投与されてもよい。
本発明において「膵島細胞保護」とは、移植された膵島細胞の生着率が向上したことを意味する。膵島細胞の生着率が向上したか否かの確認は、実施例に記載の方法通り、生体中の血糖値を測定することで行うことができる。例えば、血糖値の測定は、血漿分離後にベックマングルコースアナライザーにより行うことも出来る。
また、「膵島細胞保護」には、膵島細胞が低酸素状態から保護されることにより膵島細胞の生着率が向上したことが含まれる。つまり、「膵島細胞保護」には、低酸素状態における膵島細胞の細胞死が抑制されることが含まれる。ここでいう「低酸素状態」とは、膵島細胞が暴露される液体又は気体中において、酸素濃度が5%以下であり、好ましくは酸素濃度が3%以下であり、より好ましくは酸素濃度が1%以下である。また、正常酸素状態とは、通常、酸素濃度が15%〜25%である。
また、「膵島細胞保護」には、移植に伴う自然免疫応答の抑制により膵島細胞の生着率が向上したことが含まれる。より具体的には、拒絶反応の抑制がされ膵島細胞の生着率が向上したことが含まれる。拒絶反応の抑制は、好ましくは早期拒絶反応を意味し、早期拒絶反応とは、移植直後〜1週間以内、好ましくは移植直後から24時間以内で起こる拒絶反応をいう。さらに具体的には、本発明の「膵島細胞保護」には、膵島細胞からのHMGB1(high mobility group1)の放出を抑制することが含まれる。なお、HMGB1が細胞外に放出されることで、早期移植拒絶反応が発症することが知られている(The Journal of Clinical Investigation、120(3):735−743、2010)。
本発明の膵島単離及び/又は膵島細胞保護剤を投与することにより、血糖値の継続的な低下が表れた場合に、膵島細胞の生着率が向上したとみなすことができる。膵島の生着は糖尿病レシピシェントの血糖値が移植後に正常になるかどうかで判定することが出来る。例えば、本発明の実施例における対照群では1匹のドナーから単離可能な200個の膵島を移植した場合、高血糖のままで推移し、この場合の生着率は0%であるとみなすことが出来る。また、本発明の実施例におけるSEA0400投与群では、対照群と同数の膵島移植であるのに係わらず、全てのレシピエントの血糖は正常化し、この場合には生着率は100%であるとみなすことが出来る。
つづいて、本発明の効果について説明する。
本発明のNCX阻害作用を有するフェノキシアニリン誘導体及びフェノキシピリジン誘導体によれば、膵島単離及び/又は膵島移植の際の低酸素状態から保護するとともに、拒絶反応を抑制することができる。したがって、移植後の膵島細胞の定着性を向上させることができる。
細胞膜に存在するトランスポーターであるNCXは、心筋や種々平滑筋の収縮、神経伝達物質の放出、遺伝子発現を制御する重要なイオンである細胞内の遊離Ca2+濃度の調節に主要な役割を果たすことが知られている(非特許文献1参照)。このNCXを阻害する薬剤は、心筋、腎臓及び脳などの細胞における細胞内Ca2+濃度の異常上昇を抑制し、これらの細胞に対して細胞保護作用を有することが知られている(非特許文献2及び3参照)。
フェノキシアニリン誘導体(特許文献5から7)やフェノキシピリジン誘導体(特許文献8及び9)はNCXを阻害する化合物であることが知られており、これらのフェノキシアニリン誘導体及びフェノキシピリジン誘導体が、NCXに高い選択性を有することも知られていた(非特許文献4参照)。更に、フェノキシアニリン誘導体であるSEA0400は、脳及び心臓の虚血再灌流モデルに対して有効性が確認されていることも知られていた(非特許文献4及び5参照)。
しかしながら、NCX阻害活性を有するフェノキシアニリン誘導体及びフェノキシピリジン誘導体の膵島細胞への作用は報告されていなかった。
こうした技術背景の下、本発明者らは、本発明のNCX阻害作用を有するフェノキシアニリン誘導体及びフェノキシピリジン誘導体が、膵島を採取もしくは移植する際に生じる拒絶反応を抑制し、移植後の膵島細胞の定着性を向上させることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明のNCX阻害活性を有する式(1)の化合物は、膵島細胞に対して優れた細胞保護作用を示し、さらには、膵島を単離ならびに移植する際に生じる拒絶反応を抑制し、移植後の膵島細胞の定着性を向上させることができる。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
(試験例1)膵島細胞の低酸素誘発細胞死に対するSEA0400の効果
膵島細胞は公知の方法(Transplantation.42:689−691,1986;Endocrinol.Jpn.26:495−49,1979;Nature.244:447,1973)に従い雄性C57BL/6マウス(10−15週齢、チャールズリバー・ジャパン株式会社)の膵臓からコラゲナーゼ処理により単離した。具体的には、膵管よりコラゲナーゼ(新田ゼラチン株式会社、2mg/ml in ハンクス液、2−3ml)を注入することにより膵臓を消化し(37℃、30−40分静置)、膵島を外分泌組織より分離し、その後内分泌細胞と外分泌細胞の比重差を利用し、比重遠心法により膵島を単離した。単離された膵島細胞はシャーレ中に播種され(200−500個/シャーレ、培養液(D−MEM+0.2%BSA))、チャンバー中に置かれた。チャンバー内は通常ガス(空気(95%)と二酸化炭素(5%)との混合ガス)又は低酸素ガス(酸素(1%)と二酸化炭素(5%)と窒素(94%)との混合ガス)存在下、温度は、37℃とし、当該環境下で膵島細胞は6時間培養された。低酸素ガス存在下でのチャンバー内の酸素分圧は、通常ガス存在時の約1/6であった。通常ガスを用いた場合を「正常酸素状態」とし、低酸素ガスを用いた場合を「低酸素状態」とした。NCX阻害物質であるSEA0400(終濃度10μM)は、シャーレに膵島細胞が播種された後チャンバー内に置かれる直前にシャーレ中に添加された。コントロールとしては、SEA0400の代わりにDMSO(ジメチルスルホキシド)をシャーレに添加したものを用いた。
チャンバー内で6時間培養された細胞は、Hoechst 33342(HO342、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)とPI試薬(プロピジウムアイオダイド、シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社)で2重染色された。細胞死は、蛍光顕微鏡(ライカ社製、DM IRB)で観察することにより確認した(図1)。HO342はUV励起可能な核酸染色色素で青色蛍光を示し(図1では濃い灰色として表示される)、一方、PIは原形質膜が損傷している細胞にのみ取り込まれる。PIが取り込まれた細胞は赤色を呈し(図1では白色、又は薄い灰色として表示される)、細胞死が生じていることを意味する。通常ガスの存在下では、膵島細胞の細胞死はほとんど認められなかった。一方、低酸素ガス存在下6時間培養した細胞では細胞死(PI陽性)が観察された(低酸素状態のコントロール)。この低酸素誘発細胞死は、10μMのSEA0400が共存することにより顕著に抑制された(低酸素状態のSEA0400添加試料)。このようにSEA0400は膵島細胞に対し、インビドロで細胞保護作用を示した。
(試験例2)膵島細胞からのHMGB1放出に対するSEA0400の効果
試験例1と同様に、膵島細胞はチャンバー内で通常ガス(空気(95%)と二酸化炭素(5%)との混合ガス)又は低酸素ガス((酸素(1%)と二酸化炭素(5%)と窒素(94%)との混合ガス))存在下、6、12又は24時間培養された。NCX阻害物質であるSEA0400(終濃度10μM)は、シャーレに膵島細胞が播種された後チャンバー内に置かれる直前にシャーレ中に添加された。コントロールとしては、試験例1と同様にSEA0400の代わりにDMSO(ジメチルスルホキシド)シャーレに添加したものを用いた。
チャンバー内で培養された細胞から培養上清を採取し、培養液中に放出されたHMGB1の量を測定した。HMGB1の量は、HMGB1 ELISAキット(シノテスト株式会社)を用いて定量された。図2で示すとおり、低酸素状態では膵島細胞から放出されるHMGB1量が増加した(図2中、Hypoxia)。このHMGB1量の増加は、10μMのSEA0400が共存することにより顕著に抑制された(図2中、Hypoxia SEA0400)。HMGB1の細胞外放出は、移植膵島細胞の早期拒絶反応と関連する現象だと考えられているが、SEA0400がこのHMGB1の細胞外放出を抑制することが示された。
(試験例3)STZ誘発糖尿病マウスにおける膵島細胞移植後の血漿グルコース値に対するSEA0400の効果
ストレプトゾトシン(STZ)誘発糖尿病マウスは、雄性C57BL/6マウス(10−15週齢、チャールズリバー・ジャパン株式会社)にストレプトゾトシン(180mg/kg)を静脈内投与して作製した。STZ投与後3日目の糖尿病マウスに試験1の方法に従って単離した膵島細胞200個/匹を肝内に経門脈的に移植した。単離した膵島細胞はマウスに移植される1時間、3時間又は24時間前にSEA0400溶液(1μM又は10μM)に、1時間、3時間又は24時間湿漬された(200個/シャーレ、培養溶媒(D−MEM+0.2%BSA))。移植後の血漿グルコース値の測定は、マウスのorbital sinusより採血し、血漿分離後にベックマングルコースアナライザー(ベックマン・ジャパン)により行った。
結果を図3に示す。膵島を移植しなかった場合は全てのマウス(7匹)は高血糖で推移したが(図示せず)、膵島細胞を移植しただけでは、全てのマウス(3匹)において、この高血糖状態は改善されなかった(コントロール群)。一方、10μMのSEA0400で1時間、3時間又は24時間処理した膵島細胞を移植したすべてのマウス(1時間処理した膵島細胞について4匹、3時間処理した膵島細胞について4匹、24時間処理した膵島細胞について4匹)では、顕著な血糖降下作用が認められた。
以上の結果から、SEA0400が移植膵島障害を軽減し、膵島生着の改善をもたらし、高血糖を是正することが示された。すなわち、SEA0400が膵島細胞保護剤として使用可能であることが示された。
(試験例4)マウスの心臓、脳及び膵島におけるNCX1、NCX2及びNCX3のmRNA量の定量
雄性C57BL/6マウス(10−15週齢、チャールズリバー・ジャパン株式会社)の心臓、脳及び膵島からのmRNAの抽出及びリアルタイムPCRによるNCX1、NCX2及びNCX3のmRNA量の定量は、Jing−Ping Li et al, Endocrinology.2007、May;148(5):2116−25の記載に基づき実施した。
図4に示すとおり、膵島細胞においてNCX1が高発現していることが認められた。この結果からSEA0400のようなNCX1を強く阻害する化合物が膵島細胞保護剤として使用可能であることが示された。
(試験例5)マウスの膵島におけるNCX1、NCX2及びNCX3のタンパク質発現の確認
常法(Biochemistry 37(49):17230−17238,1998を参照)により、単離膵島の抽出液(FEBS Lett. 329,227−231,1993を参照)を用いてウエスタンブロッティングを行った。その結果、膵島細胞にNCX1,NCX2,NCX3が存在することが明らかになった。
(試験例6)膵島単離操作に伴う膵島細胞の低酸素障害に対するSEA0400の効果
膵島細胞は、膵管よりコラゲナーゼを注入することにより膵臓を消化し、膵島を外分泌組織より分離し、その後内分泌細胞と外分泌細胞の比重差を利用し、比重遠心法により単離されるが、この単離操作過程で、膵島は低酸素状態に置かれ、障害を受けることが考えられる。そこで、試験例1で説明した方法に従って、コラゲナーゼ液にSEA0400(終濃度10μM)を加えた混合液を膵管から注入することにより膵島細胞を単離した。ついで、単離直後の膵島細胞200個を試験例3で説明した方法により作製したストレプトゾトシン糖尿病マウスの経門脈的肝内に移植した。なお、SEA0400に代えてコラゲナーゼ液にDMSOを添加したものをコントロール群とした。コントロール群では全てのマウス(5匹)において高血糖状態が維持されたが、SEA0400を含むコラゲナーゼ液を使用して単離した膵島細胞を移植された群では全てのマウス(6匹)が正常血糖になった(図6)。この知見は膵島単離操作に伴う膵島細胞の低酸素障害がSEA0400により制御され、移植後の生着率が向上したことを示している。
(試験例7)
上記試験例6と同様に、コラゲナーゼ液にDMSO(コントロール群)もしくはSEA0400 10μM(SEA0400群)を加えた状態で膵島細胞の単離操作を実施し、単離した膵島細胞はシャーレ中に播種され、チャンバー中に置かれた(200個/シャーレ、培養溶媒(D−MEM+0.2%BSA))。試験例1と同様に正常酸素状態もしくは低酸素状態で6時間培養した後に、それぞれの細胞にPI染色及びHO342で2重染色を行い、蛍光顕微鏡で観察することにより細胞死を確認した(図7)。試験例1で説明したようにHO342はUV励起可能な核酸染色色素で青色蛍光を示し(図7では濃い灰色として表示される)、一方、PIは原形質膜が損傷している細胞にのみ取り込まれる。PIが取り込まれた細胞は赤色を呈し(図7では白色、又は薄い灰色として表示される)、細胞死が生じていることを意味する。図示するように低酸素状態で培養した対照群の膵島細胞では多数のPI陽性細胞が中心部に認められたがSEA0400群の膵島細胞ではPI陽性細胞が散見される程度で明らかに陽性細胞数は減少していた。この知見は、SEA0400存在下での単離操作により得られた膵島細胞はその後の低酸素状態による障害に対して抵抗性を有することを示している。
以上のことから、本発明では、膵島の生着を向上させる、新たな膵島細胞保護剤の提供が可能となった。

Claims (2)

  1. NCX(ナトリウム・カルシウム交換系)阻害活性を示す化合物又はその医薬上許容される塩を含有する、膵島単離及び/又は膵島移植における膵島細胞保護剤であって、
    前記NCX阻害活性を示す化合物が、2−[4−[(2,5−ジフルオロフェニル)メトキシ]フェノキシ]−5−エトキシアニリンである、膵島細胞保護剤
  2. 糖尿病の治療に用いられる請求項1に記載の膵島細胞保護剤。
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