JP5184935B2 - オイルテンパー線の製造方法、及びばね - Google Patents

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本発明は、自動車のエンジン用弁ばねなど、耐疲労性が要求されるばねに使用されるオイルテンパー線とその製造方法に関する。特に、コイリング性ならびに疲労特性に優れたオイルテンパー線とその製造方法に関する。
自動車のエンジン用弁ばねに使用される鋼線としては、従来からSiCr鋼のオイルテンパー線が使用されている。
通常、オイルテンパー線は、鋼の溶製→鋳造→圧延→パテンチング→(皮剥ぎ→焼鈍)→伸線→オイルテンパー処理を経て製造され、このようにして製造されたオイルテンパー線をばね加工(コイリング)することで、ばねが製造される。
近年、自動車のエンジンやトランスミッションの小型軽量化が進められており、それに伴い、エンジン用弁ばねやトランスミッション用ばねに負荷される応力も増大する傾向にあるため、ばねの耐疲労性を向上させることが望まれる。このような要望に応えるためには、ばねに使用されるオイルテンパー線自体の疲労特性を改善する必要がある。
オイルテンパー線の疲労特性を改善する技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1では、SiCr鋼のC量を増やし、更にVを添加することで、高強度化を図り、オイルテンパー線の疲労特性を向上させている。
また、特許文献2には、オイルテンパー処理を施した後、電解研磨、化学研磨、又はショットピーニングといった表面処理を施すことにより、オイルテンパー線表面を清浄化することが記載されている。
特開平2‐247354号公報 特開平7‐150400号公報(段落0009)
しかし、従来のオイルテンパー線は、コイリング性と高い疲労特性を両立することが難しい。
特許文献1に記載のオイルテンパー線は、鋼線を高強度化することで、疲労特性を向上させている。しかし、高強度の鋼線は、疵感受性が高く、表面の微小な疵が疲労特性に影響を及ぼすことが知られており、疲労限の向上に限界がある。
特許文献2に記載のオイルテンパー線は、上記の表面処理が施されているため、表面の平滑性に優れ、表面疵も低減されていると推測されるが、オイルテンパー処理により生成された表面の酸化膜(スケール)も除去されている。オイルテンパー線表面のスケールは、コイリング時に鋼線とばね加工用ツールとの間で潤滑剤として作用するため、特許文献2に記載のオイルテンパー線は、コイリング性が低い。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、コイリング性ならびに疲労特性に優れたオイルテンパー線とその製造方法を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、上記オイルテンパー線からなるばねを提供することにある。
本発明者らは、オイルテンパー線の表面にスケールを残存させつつ、線表面の疵を低減する手法を見出した。
本発明のオイルテンパー線の製造方法は、鋼線を伸線加工する工程と、伸線加工した鋼線にオイルテンパー処理を施す工程とを具え、伸線加工した後、オイルテンパー処理する前に、鋼線の表面粗さをRzで5.0μm以下とする平滑化処理を施す工程を具えることを特徴とする。
本発明のオイルテンパー線は、鋼線表面にスケールを有し、表面粗さがRzで5.0μm以下であることを特徴とする。
通常、伸線加工後の鋼線は、伸線加工した際に不可避的に表面にシワ疵などが発生するため、表面粗さがRzで10μm程度である。また、伸線加工条件によっては表面粗さを小さくすることも可能であるが、5μm以下にすることは実用上不可能である。
本発明の製造方法によれば、伸線加工した後に鋼線表面を平滑化処理し、鋼線の表面粗さをRzで5.0μm以下とするため、伸線加工時に鋼線表面に発生した疵を十分に低減することができる。また、この平滑化処理は、オイルテンパー処理する前に実施するため、表面のスケールが除去されることもない。
本発明のオイルテンパー線によれば、鋼線表面にスケールを有しており、コイリング時に鋼線とばね加工用ツール間の潤滑不良によるコイリング疵が付き難く、コイリング性に優れる。また、表面粗さがRzで5.0μm以下であり、表面疵が少なく、表面平滑性に優れていることから、疲労限が向上し、疲労特性に優れている。ここでいう表面粗さとは、ISO468‐1982による十点平均粗さ(Rz)の定義による。
本発明において、表面粗さは、オイルテンパー線の状態、即ち表層にスケールが形成された状態で測定して求めた値である。通常、スケールは極めて薄く(1μm以下)、また鋼線表面の凹凸に倣って形成されるため、オイルテンパー処理する前の鋼線の表面粗さとオイルテンパー線の表面粗さとはほぼ同じと考えてよい。
また、表面粗さが小さいほど、表面疵が低減されていることから、疲労限が向上する傾向が認められる。そのため、表面粗さは、Rzで5μm未満、特に4μm以下、更には特に3μm以下とすることが好ましく、下限は、製造上の観点から1μm以上とすることが好ましい。
本発明において、鋼線表面のスケールは、コイリング性を考慮すれば、厚さを0.2μm以上とすることが好ましい。このような厚さのスケールを形成するには、例えばオイルテンパー処理での焼入れ条件を、加熱温度:850〜1050℃とすればよい。
また、鋼線表面のスケールは、鉄の酸化物、具体的には、酸化第一鉄(FeO)、三酸化二鉄(Fe2O3)及び四酸化三鉄(Fe3O4)で構成されている。この中でも特にFeOは脆く、コイリング時に鋼線表面から剥離してコイリング疵を生じさせる原因となり易いので、スケール中のFeOの比率は、15%以下とすることが好ましく、下限は、製造上の観点から1%以上とすることが好ましい。ここでいうスケール中のFeOの比率とは、鋼線表面のスケールのX線回折結果から、FeO、Fe2O3、及びFe3O4の最大ピーク強度をそれぞれ測定し、各ピーク強度の合計に対するFeOのピーク強度の割合(比)である。
本発明の製造方法における平滑化処理としては、鋼線の表面性状を平滑化する方法、具体的には、電解研磨、化学研磨、機械研磨、ショットブラストなどが挙げられ、これらの中から一種以上を選択し、単独で又は組み合わせて用いることができる。機械研磨としては、例えば、砥石を用いた研削加工や、研磨紙或いは遊離砥粒を用いた研磨加工が挙げられる。
また、鋼線の表面粗さをRzで5.0μm以下とするには、ショットブラストを選択する場合、粒径が50μm以上300μm以下の投射材を使用することが好ましく、研磨紙を用いた研磨加工の場合、粒度#400以上の研磨紙を使用することが好ましい。
本発明のオイルテンパー線における鋼線は、化学成分として、C、Si、Mn、Cr及びVを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることが好ましい。以下、上記化学成分の好ましい含有量とその限定理由を説明する。
(C:0.5〜0.8質量%)
Cは、鋼線の強度を決定する重要な元素であり、0.5質量%未満では十分な強度が得られず、0.8質量%超では靭性が低下するため、0.5〜0.8質量%が好ましい。
(Si:1.0〜2.5質量%)
Siは、鋼の溶製時に脱酸剤として作用する。また、フェライト中に固溶して耐熱性を向上させ、コイリング後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理による鋼線の軟化を防止する効果がある。1.0質量%未満では十分な耐熱性向上効果が得られず、2.5質量%超では靭性が低下するため、1.0〜2.5質量%が好ましい。
(Mn:0.2〜1.0質量%)
Mnは、Siと同様に、鋼の溶製時に脱酸剤として作用する。0.2質量%未満では十分な脱酸効果が得られず、1.0質量%超ではパテンチング時にマルテンサイトが生成され易くなり、伸線加工中の断線の原因となるため、0.2〜1.0質量%が好ましい。
(Cr:0.5〜2.5質量%)
Crは、鋼の焼入れ性を向上させ、焼入れ焼戻し(オイルテンパー処理)後の軟化抵抗を増大させるため、コイリング後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理による鋼線の軟化を防止する効果がある。0.5質量%未満では十分な軟化防止効果が得られず、2.5質量%超ではパテンチング時にマルテンサイトが生成され易くなり、伸線加工中の断線の原因となると共に、オイルテンパー処理後の靭性が低下するため、0.5〜2.5質量%が好ましい。
(V:0.05〜0.5質量%)
Vは、焼戻し時に炭化物を形成し、軟化抵抗を増大させる効果がある。また、コイリング後の窒化処理時にα‐Feの格子間で窒化物を形成し、表面硬度を向上させる効果が期待でき、疲労限の向上に寄与する。0.05質量%未満ではその効果が十分に得られず、0.5質量%超では靭性が低下するため、0.05〜0.5質量%が好ましい。
更に、本発明のオイルテンパー線における鋼線は、化学成分として、Co、Ni及びMoの群から選択される少なくとも一種を含有してもよい。以下、Co、Ni及びMoの好ましい含有量とその限定理由を説明する。
(Co:0.02〜1.0質量%)
Coは、鋼に少量含有させることにより、耐熱性を向上させ、コイリング後の歪取り焼鈍や窒化処理などの熱処理による鋼線の軟化を防止する効果がある。0.02質量%未満ではその効果が十分に得られず、1.0質量%を超えるとその効果がほぼ飽和するので、0.02〜1.0質量%が好ましい。
(Ni:0.1〜1.0質量%)
Niは、耐食性及び靭性を向上させる効果がある。0.1質量%未満ではその効果が十分に得られず、1.0質量%を超えると靭性向上効果がほぼ飽和するので、0.1〜1.0質量%が好ましい。
(Mo:0.05〜0.5質量%)
Moは、Vと同様に、焼戻し時に炭化物を形成し、軟化抵抗を増大させる効果がある。また、コイリング後の窒化処理時にα‐Feの格子間で窒化物を形成し、表面硬度を向上させる効果が期待でき、疲労限の向上に寄与する。0.05質量%未満ではその効果が十分に得られず、0.5質量%超では靭性が低下するため、0.05〜0.5質量%が好ましい。
本発明のオイルテンパー線を用いることで、耐疲労性に優れたばねを作製することができる。また、コイリング後、必要に応じて、歪取り焼鈍や窒化処理といった熱処理を行なってもよい。
本発明のオイルテンパー線の製造方法は、伸線加工した後、オイルテンパー処理する前に、鋼線表面を平滑化処理するため、オイルテンパー線表面のスケールを残存させつつ、伸線加工時に鋼線表面に発生した疵を十分に除去することができる。
本発明のオイルテンパー線は、表面にスケールを有し、且つ、表面粗さがRzで5.0μm以下であるため、コイリング性ならびに疲労特性に優れている。
表1に示す化学成分の鋼を真空溶解炉で溶製し、鋳造した鋼塊を熱間鍛造、熱間圧延することにより直径6.5mmの線材に加工した。その後、パテンチング、皮剥ぎ、焼鈍、及び伸線加工を行ない、直径1.0mmのワイヤ(鋼線)に加工し、長さ600mmの各種鋼の供試材を作製した。なお、化学成分がGの鋼は、パテンチング時にマルテンサイトが生成され、伸線加工中に断線が発生したため、化学成分Gの鋼線は作製することができなかった。
Figure 0005184935
各種鋼の供試材(但し、化学成分Gの鋼は除く)について、オイルテンパー(OT)処理を施し、オイルテンパー線を作製した。また、ショットブラスト(SB)処理を施して、表面粗さを5μm以下に調整したオイルテンパー線も作製した。ここでは、OT処理での焼入れは、900℃の電気炉に供試材を1分間保持することにより行なった。また、SB処理は、投射材として粒径が300μm或いは100μmのスチールショットを使用し、OT処理前或いはOT処理後のいずれかのタイミングで行なった。
作製した各オイルテンパー線について、表面粗さ、スケール中のFeOの比率、疲労特性、及びコイリング性の測定或いは評価を下記の測定方法或いは評価方法に基づいて行なった。その結果を表3に示す。
なお、表3中において、製造条件の欄が0の場合はSB処理を施していないもの、Iの場合は粒径が300μmの投射材を使用してSB処理を施したもの、IIの場合は粒径が100μmの投射材を使用してSB処理を施したもの、をそれぞれ表している。また、I或いはIIの右に付記された数字は、SB処理のタイミングを表しており、1の場合がOT処理前、2の場合がOT処理後、にSB処理を行なったことをそれぞれ表している。
(表面粗さ)
表面粗さは、ISO486‐1982に準拠して、表面粗さ測定器(株式会社東京精密製サーフコム570A)を用いて、オイルテンパー線表面の十点平均粗さ(Rz)を測定した。
(スケール中のFeOの比率)
スケール中のFeOの比率は、X線回折装置を用いてオイルテンパー線表面の組成分析を行ない、線表面のFeO((111)面)、Fe2O3((104)面)、及びFe3O4((311)面)のピーク強度をそれぞれ測定し、各ピーク強度の合計に対するFeOのピーク強度比を算出することにより求めた。ここで、OT処理後にSB処理を行なったオイルテンパー線では、線表面のスケールが完全に除去されていたため、FeOが検出されなかった。
(疲労特性)
疲労特性は、400℃×20分の熱処理を行なった後、中村式回転曲げ疲労試験を実施し、オイルテンパー線の疲労限を測定することにより評価した。ここでは、10回まで試験を行ない、破断しなかったときの最大振幅応力を疲労限とした。
(コイリング性)
コイリング性は、オイルテンパー線を表2に示すばね諸元となるようにコイリングした後、ばね表面を観察し、コイリング疵の有無を確認することにより評価した。コイリング疵の有るものを○、コイリング疵の無いものを×とした。
Figure 0005184935
Figure 0005184935
表3から明らかなように、製造条件がI-1或いはII-1のオイルテンパー線は、表面粗さがRzで5μm以下であり、表面粗さがRzで5μm超のオイルテンパー線(製造条件:0)に比べて、疲労限が向上し、疲労特性に優れていることが分かる。また、製造条件がI-1或いはII-1のオイルテンパー線は、表面にスケールを有しており、線表面のスケールが除去されたオイルテンパー線(製造条件:I-2或いはII-2)に比べて、コイリング疵が付き難く、コイリング性に優れていることが分かる。特に、化学成分A〜Eのオイルテンパー線は、靭性に優れており、化学成分F,Hのオイルテンパー線に比べて、高い疲労限を示すことが分かる。
通常、SB処理を施した場合、線表面に圧縮残留応力が付与されるために疲労特性が向上することが知られているが、OT処理前にSB処理を施したオイルテンパー線(製造条件:I-1、II-1)は、OT処理後にSB処理を施したオイルテンパー線(製造条件:I-2、II-2)に比べて、疲労限が低い。これは、OT処理前にSB処理を施したオイルテンパー線では、SB処理により線表面に付与された圧縮残留応力が、OT処理によりリセットされることが原因と考えられる。
各種鋼の供試材(但し、化学成分Gの鋼は除く)について、オイルテンパー(OT)処理と機械研磨(MP)処理を施して、表面粗さを3μm以下に調整したオイルテンパー線を作製した。OT処理は、実施例1と同じ条件で行なった。また、MP処理は、粒度#400の研磨紙で表面を研磨した後、粒度#1200の研磨紙で仕上げ研磨することにより行ない、OT処理前或いはOT処理後のいずれかのタイミングで行なった。
作製した各オイルテンパー線について、実施例1と同様にして、表面粗さ、スケール中のFeOの比率、疲労特性、及びコイリング性の測定或いは評価を行なった。その結果を表4に示す。ここで、OT処理後にMP処理を行なったオイルテンパー線では、線表面のスケールが完全に除去されていたため、FeOが検出されなかった。
なお、表4中において、製造条件の欄のIIIはMP処理を施したものを表しており、IIIの右に付記された数字は、1の場合がOT処理前、2の場合がOT処理後、のタイミングでMP処理を行なったことをそれぞれ表している。
Figure 0005184935
実施例1の表3と実施例2の表4から明らかなように、表面粗さが3μm以下のオイルテンパー線は、疲労限がより向上しており、表面粗さが小さいほど、疲労限が向上する傾向が認められる。また、製造条件がIII-1のオイルテンパー線は、表面にスケールを有しており、線表面のスケールが除去されたオイルテンパー線(製造条件:III-2)に比べて、コイリング疵が付き難く、コイリング性に優れていることが分かる。
以上の結果から、本発明のオイルテンパー線は、コイリング疵が付き難く、また高い疲労限を有することから、コイリング性ならびに疲労特性に優れていることが分かる。
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、鋼線の化学成分として、W又はNbを0.05〜0.15質量%含有してもよい。
本発明のオイルテンパー線及びその製造方法は、耐疲労性が要求されるばね、例えば自動車のエンジン用弁ばねの分野に好適に利用できる。

Claims (5)

  1. 鋼線を伸線加工する工程と、伸線加工した鋼線にオイルテンパー処理を施す工程とを具えるオイルテンパー線の製造方法であって、
    伸線加工した後、オイルテンパー処理する前に、鋼線の表面粗さをRzで5.0μm以下とする平滑化処理を施す工程を具えることを特徴とするオイルテンパー線の製造方法。
  2. 前記鋼線が、質量%で、C:0.5〜0.8%、Si:1.0〜2.5%、Mn:0.2〜1.0%、Cr:0.5〜2.5%及びV:0.05〜0.5%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる請求項1に記載のオイルテンパー線の製造方法。
  3. 更に、前記鋼線が、質量%で、Co:0.02〜1.0%、Ni:0.1〜1.0%及びMo:0.05〜0.5%の群から選択される少なくとも一種を含有する請求項2に記載のオイルテンパー線の製造方法。
  4. 前記オイルテンパー処理での焼入れ条件を、加熱温度:850〜1050℃とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のオイルテンパー線の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載のオイルテンパー線の製造方法によって得られたオイルテンパー線を用いて作製したことを特徴とするばね。
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