JP4978066B2 - ガスバリアフィルム積層体の製造条件の評価方法 - Google Patents

ガスバリアフィルム積層体の製造条件の評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、食品や非食品および医薬品などの包装分野に用いられる包装用の積層体、または電子機器関連部材などに用いられる積層体に関し、特に高度なガスバリア性が必要とされる包装分野や電子機器部材分野で用いられる積層体に関する。さらに本発明の積層体は加熱殺菌を行ってもバリア劣化が少なく、特にボイル殺菌、レトルト殺菌などの加熱殺菌が必要な包装分野に用いられる。また本発明の積層体の用途はこの分野だけに限定されず要求さえあれば応用展開可能である。
近年、食品や非食品および医薬品などの包装に用いられる包装材料は、内容物の変質を抑制しそれらの機能や性質を保持するために、包装材料を透過する酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体による影響を防止する必要があり、これらを遮断するガスバリア性などを備えることが求められている。そのため従来から、温度・湿度などの影響が少ないアルミなどの金属箔をガスバリア層として用いた包装材料が一般的に用いられてきた。
ところが、アルミなどの金属箔を用いた包装材料は、温度・湿度の影響がなく高度なガスバリア性に優れるが、包装材料を透視して内容物を確認することができない、使用後の廃棄の際は不燃物として処理しなければならない、検査の際に金属探知器を使用できないなどの欠点を有し、問題があった。
そこで、これらの欠点を克服した包装材料として、例えば特許文献1、2に記載されているような、高分子フィルム上に、真空蒸着法やスパッタリング法などの形成手段により酸化珪素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物の蒸着膜を形成したフィルムが開発されている。これらの蒸着フィルムは、透明性および酸素、水蒸気などのガス遮断性を有していることが知られ、金属箔などでは得ることのできない透明性、ガスバリア性を有する包装材料として好適とされている。
しかしながら、従来のように基材に無機酸化物を蒸着しただけのフィルムでは、基材と蒸着膜の密着性が弱く、更にボイル、レトルト処理などの加熱殺菌処理を行うとデラミネーションを引き起こすという欠点があった。また密着性が弱いということから高いガスバリア性を得ることもできない。
この問題を解決するために、従来からプラズマを用いることによって、インライン前処理によりプラスチック基材上の無機酸化物蒸着の密着性を改善するという試みがなされている。
このような蒸着フィルムは、印刷適性、シール性などのバリア性以外の機能を付与するために、無機酸化物蒸着層上にコーティング層を設けたり、他のフィルムと貼り合わせたりして積層体として使用される場合が多い。例えば、包装材料として用いる場合にはシーラントと貼り合わせて用いる。ところが、プラスチック基材上に上記したようなプラズマ処理などを施して密着性を向上させたガスバリアフィルムは貼り合わせなどを行った後では、処理が施されているかどうかの確認を行うことが困難であるという問題が生じる。
米国特許第3442686号明細書 特公昭63−28017号公報
本発明は、ガスバリアフィルムを積層体として用いる際に、積層体にした後でも基材への処理の有無を確認できるようなガスバリアフィルム積層体を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するための請求項1記載の発明は、プラスチック基材(1)の少なくとも一方の面に厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層(2)を設けたガスバリアフィルムの無機酸化物蒸着層側と他のプラスチックフィルム(5)とをドライラミネートすることにより作製したガスバリアフィルム積層体において、この積層体を剥離面に水を塗布しながら剥離すると、ガスバリアフィルムの基材(1)の表層で剥離が起こり、さらに剥離面のプラスチックフィルム(5)側をX線光電子分光測定(XPS)した時に、剥離面から検出される無機酸化物蒸着層に含まれる無機物に由来する元素の合計比率が9.0atomic%以下であることを特徴とするガスバリアフィルム積層体である。
請求項2記載の発明は、前記無機酸化物が、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムまたはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項3記載の発明は、前記プラスチック基材(1)に無機酸化物蒸着層(2)を設ける前に、リアクティブイオンエッチング(RIE)を利用したプラズマ前処理を施すことを特徴とする請求項1または2記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項4記載の発明は、前記RIEによる前処理が、その自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、Ed=(プラズマ密度)×(処理時間)で定義されるEd値を100W・m-2・sec以上10000W・m-2・sec以下とした低温プラズマによる処理であることを特徴とする請求項3記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項5記載の発明は、前記リアクティブイオンエッチングによる前処理と、前記無機酸化物の蒸着が、同一の製膜機(インライン製膜機)にて行われることを特徴とする請求項3または4記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項6記載の発明は、前記無機酸化物蒸着層(2)の上に、さらに水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液または水/アルコール混合溶液を塗布し加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層(3)を設けたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項7記載の発明は、前記金属アルコキシドが、テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項6記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項8記載の発明は、前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、およびデンプンのうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項6または7記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項9記載の発明は、前記無機酸化物蒸着層(2)の上に、Si(OR14およびR2Si(OR33(ここで、OR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物またはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子を混合した溶液を塗布し加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層(3’)を設けたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項10記載の発明は、前記加水分解性基を構成するR1およびR3が、CH3、C25、またはC24OCH3であることを特徴とする請求項9記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項11記載の発明は、前記有機官能基R2がγ−グリシドキシプロピル基またはβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)基であることを特徴とする請求項9または10記載のガスバリアフィルム積層体である。
請求項12記載の発明は、
Si(OR14をSiO2に換算し、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算した場合、R2Si(OH)3の固形分が全固形分に対し1〜50重量%であり、固形分の配合比が重量比率でSiO2/(R2Si(OH)3+水溶性高分子)=100/100〜100/30の範囲内であることを特徴とする請求項9ないし11のいずれかに記載のガスバリアフィルム積層体である。
本発明に係るガスバリアフィルム積層体は、プラスチック基材(1)の少なくとも一方の面に厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層(2)を設けたガスバリアフィルムの無機酸化物蒸着層側と他のプラスチックフィルム(5)とをドライラミネートすることにより作製したものであって、この積層体を剥離面に水を塗布しながら剥離すると、ガスバリアフィルムの基材(1)の表層で剥離が起こり、さらに剥離面のプラスチックフィルム(5)側をX線光電子分光測定した時に、剥離面から検出される無機酸化物蒸着層に含まれる無機物に由来する元素の合計比率が9.0atomic%以下である。このような条件を満たすガスバリアフィルム積層体は、良好な密着性およびガスバリア性を示す。
このようなガスバリアフィルム積層体は、レトルトなどの加熱殺菌を行っても、密着性、ガスバリア性の劣化が少ない。
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るガスバリアフィルム積層体の断面図である。ガスバリアフィルム積層体を構成するガスバリアフィルム7はプラスチック基材1の表面上に、リアクティブイオンエッチング(RIE)を利用したプラズマ前処理層6、無機酸化物蒸着層2、ガスバリア性被膜層3または3’を形成した構造を有する。これらの層は、基材1の両面に形成してもよく、また多層にしてもよい。また、プラズマ前処理層6および/またはガスバリア性被膜層3または3’は必要がなければ形成しなくてもよい。さらに接着剤4を介してこのガスバリアフィルム7の無機酸化物蒸着層2側と他のプラスチックフィルム5とをドライラミネートし、本発明のガスバリアフィルム積層体を作製する。
本発明のガスバリアフィルム積層体のガスバリアフィルム7と他のプラスチックフィルム5とを剥離面に水を塗布しながら剥離すると、ガスバリアフィルム7のプラスチック基材1の表層破壊または基材1の凝集破壊によって剥離が起こる。本発明においては、この剥離した後の積層体のプラスチックフィルム5側の表面をX線光電子分光法による測定(XPS測定)によって分析した時に、剥離面から検出される無機酸化物蒸着層に含まれる無機物に由来する元素の合計比率が9.0atomic%以下である。ここで無機酸化物蒸着層中の無機物とは、例えば、無機酸化物蒸着層が酸化アルミニウムからなるものであればアルミニウム、酸化珪素からなるものであれば珪素、それらの混合物であればアルミニウムと珪素の両方を示す。
無機酸化物蒸着層に含まれる無機物由来の元素の合計比率が9.00atomic%より多い場合、剥離箇所は基材1の極最表層であるか、または無機酸化物蒸着層2との界面である。このことは、剥離強度が非常に弱い、即ち密着性が悪い積層体であることを示している。この場合、積層体はガスバリア性に乏しく、さらにレトルト処理などを行うとデラミネーションを引き起こし、ガスバリア性が大きく劣化する。無機酸化物蒸着層に含まれる無機物由来の元素の合計比率が9.0atomic%以下の場合には、剥離は基材1の凝集破壊によって起こる。このことは、基材1と無機酸化物蒸着層2との密着が良好で、ガスバリア性もよい積層体であることを示している。
本発明は、ガスバリアフィルム積層体がプラズマ前処理を施されたものであるかどうか、およびガスバリアフィルム積層体が所望のガスバリア性を示すかどうかを判定する方法としても実施できる。すなわち、プラスチック基材(1)の少なくとも一方の面に厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層(2)を設けたガスバリアフィルムの無機酸化物蒸着層側と他のプラスチックフィルム(5)とをドライラミネートすることにより作製したガスバリアフィルム積層体を、剥離面に水を塗布しながら剥離する。剥離面に水を塗布しながら剥離するのは、剥離しやすい部位において水の塗布により剥離を助長するためである。その後、剥離面のプラスチックフィルム(5)側をX線光電子分光測定する。このとき、剥離面から検出される無機酸化物蒸着層に含まれる無機物に由来する元素の合計比率が9.0atomic%以下であるかどうかを調べる。9.0atomic%以下であれば、剥離が基材の凝集破壊によって起こっていることを示し、プラズマ前処理を施されたものであることを判定できる。また、ガスバリアフィルム積層体が所望のガスバリア性を示すことを判定することができる。
以下、ガスバリアフィルム7について詳細に説明する。
基材1はプラスチック材料であり、蒸着薄膜層の透明性を生かすために、可能であれば透明なフィルム基材であることが好ましい。基材の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)およびポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステルフィルム、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリルニトリルフィルム、ポリイミドフィルムなどが挙げられる。基材は、延伸、未延伸のどちらでもよく、また機械的強度や寸法安定性を有するものがよい。これらのうち、二軸方向に任意に延伸されたポリエチレンテレフタレートフィルムやポリアミドフィルムが好ましく用いられる。またこの基材の蒸着層が設けられる面と反対側の表面に、周知の種々の添加剤や安定剤、例えば帯電防止剤、紫外線防止剤、可塑剤、滑剤などが使用されていてもよい。
基材の厚さはとくに制限されず、また包装材料としての適性を考慮して単体フィルム以外に異なる性質のフィルムを積層したフィルムを使用できる。なお、プライマー層、無機酸化物からなる蒸着薄膜層、ガスバリア性被膜層を形成する際の加工性を考慮すると、実用的には3〜200μmの範囲が好ましく、特に6〜30μmとすることが好ましい。
無機酸化物蒸着層2について詳しく説明する。無機酸化物蒸着層は、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化錫、酸化マグネシウム、またはそれらの混合物などの無機酸化物の蒸着膜からなり、透明性を有しかつ酸素、水蒸気などのガスバリア性を有する層であればよい。各種加熱殺菌耐性を配慮すると、これらの中では、特に酸化アルミニウムおよび酸化珪素を用いることがより好ましい。ただし本発明の蒸着層は、上述した無機酸化物に限定されず、上記条件に適合する材料であれば用いることが可能である。
蒸着層の厚さは用いる無機化合物の種類・構成により最適条件が異なるが、一般的には5〜300nmの範囲内が望ましく、この範囲で適宜選択される。膜厚が5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、ガスバリア材としての機能を十分に果たすことができない場合がある。また膜厚が300nmを越える場合は薄膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引っ張りなどの外的要因により、薄膜に亀裂を生じるおそれがあるので問題がある。より好ましい蒸着層の厚さは、10〜150nmの範囲である。
無機酸化物からなる蒸着薄膜層をプラスチック基材上に形成する方法としては、たとえば、通常の真空蒸着法を用いることができる。また、その他の薄膜形成方法としてスパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマ気相成長法(CVD)などを用いることもできる。ただし生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法における加熱手段としては電子線加熱方式、抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかを用いることが好ましい。蒸着材料の選択性の幅広さを考慮すると電子線加熱方式を用いることがより好ましい。また蒸着薄膜層と基材の密着性および蒸着薄膜層の緻密性を向上させるために、プラズマアシスト法やイオンビームアシスト法を用いて蒸着することも可能である。また、蒸着膜の透明性を上げるために蒸着の際、酸素などの各種ガスなど吹き込む反応蒸着を用いてもよい。
基材1と無機酸化物層2との密着を強化するために、基材1の表面にプラズマを利用したリアクティブイオンエッチング(RIE)による前処理を施すことが有効である。このRIEによる処理を行うことで、発生したラジカルやイオンを利用してプラスチック基材の表面に官能基を持たせるなどの化学的効果と、表面をイオンエッチングし不純物などを飛ばして平滑化するという物理的効果の両方を同時に得ることができる。このような表面処理を行うことで、後に行う蒸着の際に酸化アルミニウムの緻密な薄膜を形成させることができる。その結果、基材と無機酸化物層との密着性を強化させることができ、加熱殺菌時のクラック発生防止につながるために、更なるガスバリア性向上に繋がる。
加工速度、エネルギーレベルなどで示される処理条件は、基材の種類、用途、放電装置特性などに応じ、適宜設定すべきである。ただし、プラズマの自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、Ed=(プラズマ密度)×(処理時間)で定義されるEd値を100W・m-2・sec以上10000W・m-2・sec以下とすることが好ましい。上記の値より若干低い値でも、ある程度の密着性を発現するが、未処理品に比べて優位性が低い。また、上記の値より高い値であると、強い処理がかかりすぎて基材表面が劣化し、密着性が下がる原因になる。プラズマ用の気体およびその混合比などに関してはポンプ性能や取り付け位置などによって、導入分と実効分とでは流量が異なるので、用途、基材、装置特性に応じて適宜設定すべきである。
RIEによる前処理と無機酸化物蒸着を、同一製膜機(インライン製膜機)にて行うこともできる。
次いで、ガスバリア性被膜層3について説明する。ガスバリア性被膜層3は、水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液または水/アルコール混合溶液を主剤とするコーティング剤を用いて形成される。例えば、水溶性高分子を水系(水または水/アルコール混合)溶媒で溶解させたものに、金属アルコキシドを直接混合するか、または金属アルコキシドに予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合して、溶液を調製する。この溶液を酸化アルミニウム層にコーティングした後、加熱乾燥することにより、ガスバリア性被膜層3が形成される。コーティング剤に含まれる各成分について更に詳細に説明する。
本発明においてコーティング剤に用いられる水溶性高分子は、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。特にポリビニルアルコール(以下、PVAと略す)は、本発明のコーティング剤に用いた場合に最も優れたガスバリア性を示すので好ましい。ここでいうPVAは、一般にポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものである。PVAとしては例えば、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分けん化PVAや、酢酸基が数%しか残存していない完全PVAなどを用いることができるが、これ以外のものを用いてもよい。
金属アルコキシドは、一般式M(OR)n(M:Si、Ti、Al、Zrなどの金属、R:CH3、C25などのアルキル基)で表される化合物である。具体的にはテトラエトキシシラン〔Si(OC254〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O−iso−C373〕などが挙げられる。なかでもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムは加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
コーティング剤中には、ガスバリア性を損なわない範囲で、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、分散剤、安定化剤、粘度調整剤、着色剤などの公知の添加剤を必要に応じて加えることもできる。
更にガスバリア性被膜層3’について詳しく説明する。ガスバリア性被膜層3’は、Si(OR14およびR2Si(OR33(ここでOR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物またはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子を混合した溶液を塗布し加熱乾燥して形成したものである。
金属アルコキシドは加水分解後に縮合し、ガラスなどのセラミック膜を形成することは周知の事実である。しかし金属酸化物は硬く、さらに縮合時の体積縮小による歪みによりクラックが入りやすいため、フィルム上に薄く透明で均一な縮合体被膜を形成することは非常に困難である。そこで、高分子を添加することによって構造体に柔軟性を付与しクラックを防止して造膜することができる。しかし、高分子を添加した場合、目視では均一でも、微視的には金属酸化物と高分子部分とに分離していることが多く、ガスはこの分離した部分を通るために高いバリア性が得られない。そこで、水酸基をもつ高分子を添加することにより、高分子の水酸基と金属アルコキシドの加水分解物の水酸基との強い水素結合を利用して、金属酸化物が縮合する際に高分子にうまく分散し、セラミックに近い高いバリア性を発現する。
しかし金属アルコキシドまたはその加水分解物と水酸基を有する水溶性高分子とを混合したガスバリア性被膜層3’は、水素結合を含むため水に膨潤しやすい。蒸着層との積層構造による相乗効果があっても過酷な条件での処理ではバリア劣化は避けられない。そこで、R2Si(OR33(OR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)、いわゆるシランカップリング剤を添加することによって、この膨潤を防ぐことができる。R2Si(OR33は、加水分解性基により水溶性高分子と水素結合を形成するため分散性がよく、一方で有機官能基R2によりネットワークを形成するため水素結合の存在に基づく膨潤を防ぐことができる。なかでも、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、イソシアネート基を持つものは、官能基が疎水性であるため、耐水性がさらに向上する。特に、有機官能基R2はγ−グリシドキシプロピル基またはβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)基であることが好ましい。
Si(OR14をSiO2に換算し、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算したとき、R2Si(OR33の固形分が全固形分に対し1〜50重量%であることが望ましい。1重量%未満であると耐水性効果は低く、50重量%を超えると官能基がバリアの孔になるため好ましくない。ボイル、レトルト殺菌処理に必要な耐水性と、高いバリア性を考慮すると、5〜30重量%であることがより好ましい。
Si(OR14をSiO2に換算し、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算した場合、固形分の配合比が重量比率でSiO2/(R2Si(OH)3+水溶性高分子)=100/100〜100/30の範囲内であれば、ボイル・レトルト殺菌処理に必要な耐水性と高いバリア性はもちろん、包装材料として考えた場合の被膜柔軟性によるフレキシブル性が十分付与され好ましい。
本発明でガスバリア性被膜層中のSi(OR14におけるR1は、CH3、C25、C24OCH3などで表せるものであればいずれも使用することができる。なかでも、テトラエトキシシランが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるため好ましい。同様に、R2Si(OR33におけるR3も、CH3、C25、またはC24OCH3であることが好ましい。
本発明でガスバリア性被膜層中の水酸基を有する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、でんぷん、セルロース類が好ましい。特にポリビニルアルコール(以下PVA)を本発明のコーティング剤に用いた場合にガスバリア性が最も優れる。なぜならPVAはモノマー単位中に最も多く水酸基を含む高分子であるため加水分解後の金属アルコキシドの水酸基と非常に強固な水素結合をもつ。ここで言うPVAとは、一般にポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、酢酸基が数十%残存している、いわゆる部分ケン化PVAから、酢酸基が数%しか残存していない完全ケン化PVAまでを含む。PVAの分子量は重合度が300〜数千まで多種あるがどの分子量のものを用いても効果に問題はない。一般的に、ケン化度が高くまた重合度が高い高分子量のPVAは耐水性が高いため好ましい。
Si(OR14にテトラエトキシシラン、水溶性高分子にPVAを用いた場合、金属アルコキシドまたは金属アルコキシドの加水分解物を金属酸化物(例えばSiO2)に換算したときの金属酸化物と水溶性高分子との重量比率は、特にSiO2/PVAが100/10〜100/100であることがより好ましい。PVAが100/10より少ないとガスバリア性被膜層が硬くヒビ割れやすくフレキシビリティが低くバリアが劣化しやすい。またPVAが100/100を超えると耐水性阻害の原因となる。
コーティング溶液の混合方法は、Si(OR14、R2Si(OR33、水酸基をもつ水溶性高分子をどの順番で混合しても効果は発現する。特に、Si(OR14とR2Si(OR33を別々に加水分解してから水溶性高分子に添加する方法は、SiO2の微分散およびSi(OR14の加水分解効率を考慮すると望ましい。
ガスバリア性被膜層のコーティング溶液に、インキ、接着剤との密着性、濡れ性、収縮によるクラック発生防止を考慮して、イソシアネート化合物、コロイダルシリカやスメクタイトなどの粘土鉱物、安定化剤、着色剤、粘度調整剤などの公知の添加剤などを、ガスバリア性や耐水性を阻害しない範囲で添加することができる。
ガスバリア性被膜層3および3’に使用するコーティング剤の塗布方法としては、ディッピング法、ロールコーティング法、スクリーン印刷法、スプレー法、グラビア印刷法などの従来公知の方法を用いることができる。
ガスバリア性被膜層3および3’の厚さは、コーティング剤の種類や加工機や加工条件によって最適条件が異なり、特に限定されない。ただし、乾燥後の厚さが0.01μm未満の場合は、均一な塗膜が得られず十分なガスバリア性が得られない場合があるので好ましくない。また厚さが50μmを超える場合は、膜にクラックが生じ易くなるため問題となる場合がある。厚さは0.01〜50μmの範囲が好ましく、0.1〜10μmの範囲がより好ましい。
以下、上記のガスバリアフィルム7を用いたガスバリアフィルム積層体について詳細に説明する。
ガスバリアフィルム7と他のプラスチックフィルム5とを接着剤層4によってドライラミネートして、ガスバリアフィルム積層体を形成している。接着剤の種類は特に限定されないが、二液硬化型ポリウレタン系接着剤が好ましく用いられる。特にレトルトなどの加熱殺菌を行う場合には、耐熱性を考慮してこの接着剤を用いることが好ましい。二液硬化型ポリウレタン系の接着剤は、高分子末端に水酸基を有する主剤(ポリオール)と、イソシアネート基を有する硬化剤(ポリイソシアネート)を含み、水酸基とイソシアネート基の反応によりウレタン結合を形成して硬化する。
ガスバリアフィルム7とドライラミネートされるプラスチックフィルム5としては、介在フィルム、シーラント層などがあり、積層体の用途、要求物性に応じて選択される。
介在フィルムは、袋状包装材料の破袋強度や突き刺し強度を高めるために設けられるもので、一般的に機械強度および熱安定性の面から二軸延伸ナイロンフィルム、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムおよび二軸延伸ポリプロピレンフィルムから選ばれる一種であることが好ましい。厚さは、材質や要求品質に応じて決定されるが、一般的には10〜30μmの範囲である。
更にシーラント層は袋状包装体などを形成する際に接着層として設けられるものである。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体およびそれらの金属架橋物などの樹脂が用いられる。厚さは目的に応じて決められるが、一般的には15〜200μmの範囲である。
基材1の反対面にも、必要に応じて、印刷層、介在フィルム、シーラント層などを積層させることもできる。またガスバリアフィルム7と接着剤4の間に、印刷層を積層させてもよい。
以下、本発明に係るガスバリアフィルム積層体の実施例を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[例1]
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの未処理面に、周波数13.56MHzの高周波電源を用い、印加電力120W、処理時間0.1sec、処理ガスアルゴン、処理ユニット圧力2.0Paの条件にてリアクティブイオンエッチング(RIE)を利用したプラズマ前処理を施した。この時、自己バイアスは450V、Ed値は200W・m-2・secであった。この上に、電子線加熱方式を用いた反応蒸着により、厚さ15nmの酸化アルミニウムを蒸着して無機酸化物蒸着層を形成した。次いで、下記に示すI液とII液を配合比(wt%)で60/40に混合した溶液をグラビアコート法により蒸着層上に塗布乾燥し、厚さ0.3μmのガスバリア性被膜層を形成してガスバリアフィルムを作製した。
I液:テトラエトキシシラン(TEOS)10.4gに塩酸(0.1N)89.6gを加え、30分間撹拌し加水分解させた固形分3wt%(SiO2換算)の加水分解溶液
II液:ポリビニルアルコールの3wt%水/イソプロピルアルコール溶液(水:イソプロピルアルコール重量比で90:10)
さらにこのガスバリアフィルムと厚さ70μmの未延伸ポリプロピレンとを、二液硬化型ポリウレタン系接着剤配合液を用いて、ドライラミネート法によりラミネートして、ガスバリアフィルム積層体を得た。
[例2]
上記例1における無機酸化物蒸着層を、抵抗加熱方式による真空蒸着方式により形成した厚さ約30nmの酸化珪素に代えた以外は例1と同様にして本発明のガスバリアフィルム積層体を得た。
[例3]
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの未処理面に、周波数13.56MHzの高周波電源を用い、印加電力250W、処理時間0.1sec、処理ガスアルゴン、処理ユニット圧力2.0Paの条件にてリアクティブイオンエッチング(RIE)を利用したプラズマ前処理を施した。この時、自己バイアスは650V、Ed値は450W・m-2・secであった。この上に、電子線加熱方式を用いた反応蒸着により、厚さ15nmの酸化アルミニウムを蒸着して無機酸化物蒸着層を形成した。次いで、下記に示すA液とB液とC液を配合比(wt%)70/20/10で混合した溶液をグラビアコート法により蒸着層上に塗布乾燥し、厚さ0.3μmのガスバリア性被膜層を形成して、ガスバリアフィルムを作製した。
A液:テトラエトキシシラン(TEOS)17.9gとメタノール10gに塩酸(0.1N)72.1gを加え、30分間攪拌し加水分解させた固形分5wt%(SiO2換算)の加水分解溶液
B液:ポリビニルアルコールの5wt%水/メタノール溶液(水/メタノール重量比=95/5)
C液:β−(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシランとイソプロピルアルコール(IPA溶液)に塩酸(1N)を徐々に加え、30分間攪拌し加水分解させた後、水/IPA=1/1溶液で加水分解を行い、固形分5wt%(R2Si(OH)3換算)に調整した加水分解溶液。
さらにこのガスバリアフィルムと厚さ15μmの延伸ナイロンおよび厚さ70μmの未延伸ポリプロピレンを、二液硬化型ポリウレタン系接着剤配合液を用いて、ドライラミネート法により順次ラミネートして、ガスバリアフィルム積層体を得た。
[例4]
上記例3における無機酸化物蒸着層を、抵抗加熱方式による真空蒸着方式により形成した厚さ約30nmの酸化珪素に代えた以外は例3と同様にしてガスバリアフィルム積層体を得た。
[例5]
上記例1において、印加電力250W、処理時間0.5sec、処理ガスアルゴン、処理ユニット圧力2.0Paの条件にてリアクティブイオンエッチング(RIE)を利用したプラズマ前処理を施した以外は例1と同様にして本発明のガスバリアフィルム積層体を得た。
[例6]
上記例1において、プラズマ前処理を行わず、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのコロナ処理面に酸化アルミニウムを蒸着した以外は例1と同様にして積層体を得た。
[例7]
上記例6におけるガスバリア性被膜層を、例3のガスバリア性被膜層に代えた以外は例6と同様にして積層体を得た。
[例8]
上記例6における無機酸化物蒸着層を、抵抗加熱方式による真空蒸着方式により形成した厚さ約30nmの酸化珪素に代えた以外は例6と同様にして積層体を得た。
実施例としての例1〜5および比較例としての例6〜8の積層体について、以下の評価を行った。
<評価1>
例1〜8の積層体について、PETフィルム基材とラミネートを行ったフィルムとの間のラミネート強度を、オリエンテック社テンシロン万能試験機RTC−1250を用いて測定した(JIS Z1707準拠)。ただし、測定の際に測定部位を水で湿潤させながら行った。また、剥離角度は180度とした。結果を表1に示す。
<評価2>
例1〜8の積層体について、ガスバリア性の指標として酸素透過度(cc/m2・day)および水蒸気透過率(g/m2・day)を測定した。その結果を表1に示す。測定はモコン法を用いて行い、その時の測定条件は、酸素透過率について30℃−70%RH、水蒸気透過率について40℃−90%RHとした。測定結果を表1に示す。
<評価3>
例1〜8の積層体を用いて4辺をシール部とするパウチを作製し、内容物として水を充填した。その後、121℃−30分間のレトルト殺菌を行った。このレトルト殺菌後の酸素透過率、水蒸気透過率を評価した。測定の条件は評価2と同様であった。また、レトルト殺菌後のパウチの状態を目視により観察し、デラミネーション発生の有無を確認した。その結果を表1に示す。
<評価4>
評価1で湿潤ラミネート強度を測定した後のサンプルについて、剥離面のPET基材でない方の面のX線光電子分光(XPS)測定を行い、無機酸化物蒸着層の無機物に由来する元素(AlまたはSi)の比率を求めた。XPS装置として日本電子株式会社製JPS−90MXVを用い、X線源として非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、出力100W(10kV−10mA)で測定した。検出元素の定量分析にはO1sで2.28、C1sで1.00、Al2p3で0.60、Si2p3で0.90の相対感度因子を用いて計算をした。
Figure 0004978066
本発明に係るガスバリアフィルム積層体の一例を示す断面図である。
符号の説明
1…プラスチック基材、2…無機酸化物蒸着層、3、3’…ガスバリア性被膜層、4…接着剤層、5…プラスチックフィルム、6…プラズマ前処理層、7…ガスバリアフィルム。

Claims (10)

  1. プラスチック基材(1)の少なくとも一方の面にリアクティブイオンエッチングを利用したプラズマ前処理を施し、厚さ5〜100nmの無機酸化物蒸着層(2)を設け、さらに水溶性高分子と1種以上の金属アルコキシドまたはその加水分解物を含む水溶液または水/アルコール混合溶液を塗布し加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層(3)を設けてガスバリアフィルムを作製し、前記ガスバリアフィルムの無機酸化物蒸着層側と他のプラスチックフィルム(5)とをドライラミネートすることによりガスバリアフィルム積層体を製造する製造条件を評価するにあたり、この積層体を剥離面に水を塗布しながら剥離した時に、ガスバリアフィルムの基材(1)の表層で剥離が起こり、さらに剥離面のプラスチックフィルム(5)側をX線光電子分光測定した時に、剥離面から検出される無機酸化物蒸着層に含まれる無機物に由来する元素の合計比率が9.0atomic%以下となる製造条件を選択することを特徴とするガスバリアフィルム積層体の製造条件の評価方法
  2. 前記無機酸化物が、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムまたはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1記載の方法
  3. 前記リアクティブイオンエッチングによる前処理が、その自己バイアス値を200V以上2000V以下とし、Ed=(プラズマ密度)×(処理時間)で定義されるEd値を100W・m-2・sec以上10000W・m-2・sec以下とした低温プラズマによる処理であることを特徴とする請求項1または2記載の方法
  4. 前記リアクティブイオンエッチングによる前処理と、前記無機酸化物の蒸着、同一の製膜機にて行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法
  5. 前記金属アルコキシドが、テトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウム、またはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法
  6. 前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、セルロース、およびデンプンのうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法
  7. 前記無機酸化物蒸着層(2)の上に、Si(OR14およびR2Si(OR33(ここで、OR1、OR3は加水分解性基であり、R2は有機官能基である)で表されるケイ素化合物またはその加水分解物と、水酸基を有する水溶性高分子を混合した溶液を塗布し加熱乾燥してなるガスバリア性被膜層(3’)を設けたことを特徴とする請求項1記載の方法
  8. 前記加水分解性基を構成するR1およびR3が、CH3、C25、またはC24OCH3であることを特徴とする請求項7記載の方法
  9. 前記有機官能基R2がγ−グリシドキシプロピル基またはβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)基であることを特徴とする請求項7または8記載の方法
  10. Si(OR14をSiO2に換算し、R2Si(OR33をR2Si(OH)3に換算した場合、R2Si(OH)3の固形分が全固形分に対し1〜50重量%であり、固形分の配合比が重量比率でSiO2/(R2Si(OH)3+水溶性高分子)=100/100〜100/30の範囲内であることを特徴とする請求項7ないし9のいずれかに記載の方法
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