以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されない。
<第1実施形態>
第1実施形態について説明する。図1は第1実施形態に係る露光装置EXを示す概略構成図である。図1において、露光装置EXは、マスクMを保持して移動可能なマスクステージMSTと、基板Pを保持する基板ホルダPHを有し、基板Pを保持した基板ホルダPHを移動可能な基板ステージPSTと、マスクステージMSTに保持されているマスクMを露光光ELで照明する照明光学系ILと、露光光ELで照明されたマスクMのパターン像を基板P上に投影する投影光学系PLと、露光装置EX全体の動作を制御する制御装置CONTとを備えている。制御装置CONTには、露光処理に関する情報を記憶した記憶装置MRYと、露光処理に関する情報を入力する入力装置INPと、露光処理に関する情報を表示する表示装置DYとが接続されている。入力装置INPは、例えばキーボードあるいはタッチパネル等を含む。表示装置DYは、例えば液晶ディスプレイ等のディスプレイ装置を含む。また、露光装置EXは、基板ステージPSTに対して基板Pを搬送する搬送装置Hを備えている。
本実施形態の露光装置EXは、露光波長を実質的に短くして解像度を向上するとともに焦点深度を実質的に広くするために液浸法を適用した液浸露光装置であって、投影光学系PLの像面近傍における露光光ELの光路空間K1を液体LQで満たすための液浸機構1を備えている。液浸機構1は、光路空間K1の近傍に設けられ、液体LQを供給する供給口12及び液体LQを回収する回収口22を有するノズル部材70と、供給管13、及びノズル部材70に設けられた供給口12を介して液体LQを供給する液体供給装置11と、ノズル部材70に設けられた回収口22、及び回収管23を介して液体LQを回収する液体回収装置21とを備えている。ノズル部材70は、基板P(基板ステージPST)の上方において、投影光学系PLを構成する複数の光学素子のうち、投影光学系PLの像面に最も近い最終光学素子LS1を囲むように環状に形成されている。
また、本実施形態の露光装置EXは、投影光学系PLの投影領域ARを含む基板P上の一部の領域に、投影領域ARよりも大きく且つ基板Pよりも小さい液体LQの液浸領域LRを局所的に形成する局所液浸方式を採用している。露光装置EXは、少なくともマスクMのパターン像を基板Pに投影している間、液浸機構1を使って、投影光学系PLの像面に最も近い最終光学素子LS1と、最終光学素子LS1と対向する位置に配置された基板Pとの間の露光光ELの光路空間K1を液体LQで満たすことによって、基板P上に液体LQの液浸領域LRを形成し、投影光学系PLと液浸領域LRの液体LQとを介してマスクMを通過した露光光ELを基板P上に照射することによって、マスクMのパターン像を基板Pに投影する。制御装置CONTは、液浸機構1の液体供給装置11を使って液体LQを所定量供給するとともに、液体回収装置21を使って液体LQを所定量回収することで、光路空間K1を液体LQで満たし、基板P上の一部の領域に液体LQの液浸領域LRを局所的に形成する。
なお、本実施形態においては、液浸領域LRは基板P上に形成されるものとして説明する場合があるが、投影光学系PLの像面側において、最終光学素子LS1と対向する位置に配置された物体上、例えば基板Pを含む基板ステージPSTの上面などにも形成可能である。
また、露光装置EXは、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力(付着エネルギー)を計測する計測装置60を備えている。本実施形態においては、計測装置60は、搬送装置Hの搬送経路上に設けられている。
本実施形態では、露光装置EXとしてマスクMと基板Pとを走査方向に同期移動しつつマスクMに形成されたパターンで基板Pを露光する走査型露光装置(所謂スキャニングステッパ)を使用する場合を例にして説明する。以下の説明において、水平面内においてマスクMと基板Pとの同期移動方向(走査方向)をY軸方向、水平面内においてY軸方向と直交する方向をX軸方向(非走査方向)、X軸及びY軸方向に垂直で投影光学系PLの光軸AXと一致する方向をZ軸方向とする。また、X軸、Y軸、及びZ軸まわりの回転(傾斜)方向をそれぞれ、θX、θY、及びθZ方向とする。なお、ここでいう「基板」は半導体ウエハ等の基材上に感光材(レジスト)を塗布したものを含み、「マスク」は基板上に縮小投影されるデバイスパターンを形成されたレチクルを含む。
照明光学系ILは、露光用光源、露光用光源から射出された光束の照度を均一化するオプティカルインテグレータ、オプティカルインテグレータからの露光光ELを集光するコンデンサレンズ、リレーレンズ系、及び露光光ELによるマスクM上の照明領域を設定する視野絞り等を有している。マスクM上の所定の照明領域は照明光学系ILにより均一な照度分布の露光光ELで照明される。照明光学系ILから射出される露光光ELとしては、例えば水銀ランプから射出される輝線(g線、h線、i線)及びKrFエキシマレーザ光(波長248nm)等の遠紫外光(DUV光)、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)及びF2レーザ光(波長157nm)等の真空紫外光(VUV光)などが用いられる。本実施形態においてはArFエキシマレーザ光が用いられる。
本実施形態においては、液体LQとして純水が用いられている。純水は、ArFエキシマレーザ光のみならず、例えば、水銀ランプから射出される輝線(g線、h線、i線)及びKrFエキシマレーザ光(波長248nm)等の遠紫外光(DUV光)も透過可能である。
マスクステージMSTは、マスクMを保持して移動可能である。マスクステージMSTは、マスクMを真空吸着(又は静電吸着)機構などを使って保持する。マスクステージMSTは、制御装置CONTにより制御されるリニアモータ等を含むマスクステージ駆動装置MSTDの駆動により、マスクMを保持した状態で、投影光学系PLの光軸AXに垂直な平面内、すなわちXY平面内で2次元移動可能及びθZ方向に微少回転可能である。マスクステージMST上には移動鏡91が設けられている。また、所定位置にはレーザ干渉計92が設けられている。マスクステージMST上のマスクMの2次元方向の位置、及びθZ方向の回転角(場合によってはθX、θY方向の回転角も含む)は移動鏡91を用いてレーザ干渉計92によりリアルタイムで計測される。レーザ干渉計92の計測結果は制御装置CONTに出力される。制御装置CONTは、レーザ干渉計92の計測結果に基づいてマスクステージ駆動装置MSTDを駆動し、マスクステージMSTに保持されているマスクMの位置制御を行う。
投影光学系PLは、マスクMのパターンを所定の投影倍率βで基板Pに投影露光するものであって、複数の光学素子で構成されており、それら光学素子は鏡筒PKで保持されている。本実施形態において、投影光学系PLは、投影倍率βが例えば1/4、1/5、あるいは1/8の縮小系である。なお、投影光学系PLは等倍系及び拡大系のいずれでもよい。また、投影光学系PLは、反射光学素子を含まない屈折系、屈折光学素子を含まない反射系、反射光学素子と屈折光学素子とを含む反射屈折系のいずれであってもよい。また、本実施形態において、投影光学系PLを構成する複数の光学素子は、投影光学系PLの像面に最も近い最終光学素子LS1のみが液体LQと接触するように、鏡筒PKによって保持されている。
基板ステージPSTは、基板Pを保持する基板ホルダPHを有し、投影光学系PLの像面側において、ベース部材BP上で移動可能である。基板ホルダPHは、例えば真空吸着機構などを使って基板Pを保持する。基板ステージPST上には凹部96が設けられており、基板Pを保持するための基板ホルダPHは凹部96に配置されている。そして、基板ステージPSTのうち凹部96以外の上面97は、基板ホルダPHに保持された基板Pの表面とほぼ同じ高さ(面一)になるような平坦面となっている。なお、光路空間K1に液体LQを満たし続けることができるならば、基板ステージPSTの上面97と基板ホルダPHに保持された基板Pの表面とに段差があってもよい。
基板ステージPSTは、制御装置CONTにより制御されるリニアモータ等を含む基板ステージ駆動装置PSTDの駆動により、基板Pを基板ホルダPHを介して保持した状態で、ベース部材BP上でXY平面内で2次元移動可能及びθZ方向に微小回転可能である。更に基板ステージPSTは、Z軸方向、θX方向、及びθY方向にも移動可能である。したがって、基板ステージPSTに保持された基板Pの表面は、X軸、Y軸、Z軸、θX、θY、及びθZ方向の6自由度の方向に移動可能である。
基板ステージPSTの側面には移動鏡93が設けられている。また、所定位置にはレーザ干渉計94が設けられている。基板ステージPST上の基板Pの2次元方向の位置、及び回転角は移動鏡93を用いてレーザ干渉計94によりリアルタイムで計測される。また、図示はされていないが、露光装置EXは、基板ステージPSTに保持されている基板Pの表面の面位置情報を検出するフォーカス・レベリング検出系を備えている。フォーカス・レベリング検出系は、基板Pの表面の面位置情報(Z軸方向の位置情報、及びθX及びθY方向の傾斜情報)を検出する。レーザ干渉計94の計測結果は制御装置CONTに出力される。フォーカス・レベリング検出系の検出結果も制御装置CONTに出力される。制御装置CONTは、フォーカス・レベリング検出系の検出結果に基づいて、基板ステージ駆動装置PSTDを駆動し、基板Pのフォーカス位置(Z位置)及び傾斜角(θX、θY)を制御して基板Pの表面と投影光学系PL及び液体LQを介した像面との位置関係を調整するとともに、レーザ干渉計94の計測結果に基づいて、基板PのX軸方向、Y軸方向、及びθZ方向における位置制御を行う。
次に、液浸機構1について説明する。液浸機構1の液体供給装置11は、液体LQを収容するタンク、加圧ポンプ、供給する液体LQの温度を調整する温度調整装置、供給する液体LQの気体成分を低減する脱気装置、及び液体LQ中の異物を取り除くフィルタユニット等を備えている。液体供給装置11には供給管13の一端部が接続されており、供給管13の他端部はノズル部材70に接続されている。液体供給装置11の液体供給動作は制御装置CONTにより制御される。制御装置CONTは、液体供給装置11を制御することで、供給口12からの単位時間当たりの液体供給量を調整可能である。なお、液体供給装置11のタンク、加圧ポンプ、温度調整装置、脱気装置、フィルタユニット等は、その全てを露光装置EXが備えている必要はなく、露光装置EXが設置される工場等の設備を代用してもよい。
液浸機構1の液体回収装置21は、真空ポンプ等の真空系、回収された液体LQと気体とを分離する気液分離器、及び回収した液体LQを収容するタンク等を備えている。液体回収装置21には回収管23の一端部が接続されており、回収管23の他端部はノズル部材70に接続されている。液体回収装置21の液体回収動作は制御装置CONTにより制御される。制御装置CONTは、液体回収装置21を制御することで、回収口22を介した単位時間当たりの液体回収量を調整可能である。なお、液体回収装置21の真空系、気液分離器、タンク等は、その全てを露光装置EXが備えている必要はなく、露光装置EXが設置される工場等の設備を代用してもよい。
液体LQを供給する供給口12及び液体LQを回収する回収口22はノズル部材70の下面70Aに形成されている。ノズル部材70の下面70Aは、基板Pの表面、及び基板ステージPSTの上面97と対向する位置に設けられている。ノズル部材70は、最終光学素子LS1の側面を囲むように設けられた環状部材であって、供給口12は、ノズル部材70の下面70Aにおいて、投影光学系PLの最終光学素子LS1(投影光学系PLの光軸AX)を囲むように複数設けられている。また、回収口22は、ノズル部材70の下面70Aにおいて、最終光学素子LS1に対して供給口12よりも外側に(供給口12よりも離れて)設けられており、最終光学素子LS1及び供給口12を囲むように設けられている。
そして、制御装置CONTは、液体供給装置11を使って光路空間K1に液体LQを所定量供給するとともに、液体回収装置21を使って光路空間K1の液体LQを所定量回収することで、投影光学系PLと基板Pとの間の露光光ELの光路空間K1を液体LQで満たし、基板P上に液体LQの液浸領域LRを局所的に形成する。液体LQの液浸領域LRを形成する際、制御装置CONTは、液体供給装置11及び液体回収装置21のそれぞれを駆動する。制御装置CONTの制御のもとで液体供給装置11から液体LQが送出されると、その液体供給装置11から送出された液体LQは、供給管13を流れた後、ノズル部材70の供給流路を介して、供給口12より投影光学系PLの像面側に供給される。また、制御装置CONTのもとで液体回収装置21が駆動されると、投影光学系PLの像面側の液体LQは回収口22を介してノズル部材70の回収流路に流入し、回収管23を流れた後、液体回収装置21に回収される。
図2は基板Pを露光するときの液浸領域LRと基板Pを保持した基板ステージPSTとの位置関係の一例を説明するための図である。図2に示すように、基板P上にはマトリクス状に複数のショット領域S1〜S21が設定されている。上述のように、本実施形態の露光装置EXは、マスクMと基板PとをY軸方向(走査方向)に移動しながらマスクMのパターンを基板Pに投影露光するものであり、基板Pのショット領域S1〜S21のそれぞれを露光するとき、制御装置CONTは、図2中、例えば矢印y1で示すように、投影光学系PLの投影領域AR及びそれを覆う液浸領域LRと基板Pとを相対的に移動しつつ、液浸領域LRの液体LQを介して基板P上に露光光ELを照射する。制御装置CONTは、投影光学系PLの投影領域AR(露光光EL)が基板Pで矢印y1に沿って移動するように、基板ステージPSTの動作を制御する。制御装置CONTは、1つのショット領域の露光終了後に、基板P(基板ステージPST)をステッピング移動して次のショット領域を走査開始位置に移動し、以下、ステップ・アンド・スキャン方式で基板Pを移動しながら各ショット領域S1〜S21を順次走査露光する。また制御装置CONTは、所望状態の液浸領域LRを形成するために、液浸機構1の動作を制御し、液体LQの供給動作と回収動作とを並行して行う。
図3(A)及び図3(B)は基板Pの一例を説明するための断面図である。図3(A)に示す基板Pは、基材Wと、その基材Wの上面に形成された第1膜Rgとを有している。基材Wはシリコンウエハを含むものである。第1膜Rgはフォトレジスト(感光材)によって形成されており、基材Wの上面の中央部の殆どを占める領域に所定の厚みで被覆されている。また、図3(B)に示す基板Pは、第1膜Rgの表面を覆う第2膜Tcを有している。第2膜Tcは、例えばトップコート膜と呼ばれる保護膜又は反射防止膜である。
このように、基板Pの表面には、フォトレジスト等からなる第1膜Rg、あるいはこの第1膜Rgの上層に設けられるトップコート膜等の第2膜Tcが形成されている。したがって、基板P上の最上層(基板Pの表面)に設けられた膜が、液浸露光時において液体LQに接触する液体接触面を形成する。
次に、図4を参照しながら計測装置60について説明する。図4において、計測装置60は、基板Pを保持する保持部材61と、保持部材61に保持されている基板Pの表面に対して液体LQの液滴を滴下可能な滴下部材62と、基板Pの表面における液体LQ(液滴)の状態を観察可能な観察装置63と、基板Pの表面の液体LQ(液滴)を照明する照明装置64とを備えている。
基板Pは搬送装置Hによって保持部材61にロード(搬入)されるようになっており、保持部材61は搬送装置Hによって搬送された基板Pを保持する。搬送装置Hは、露光処理前の基板Pを保持部材61に搬送する。計測装置60は、露光処理前の基板Pを計測する。
観察装置63は、光学系、及びCCD等によって構成されている撮像素子等を備えている。撮像素子は、液体LQの画像(光学像)を光学系を介して取得可能である。本実施形態においては、観察装置63は、保持部材61に保持された基板Pの+X側(一方側)に配置されており、基板P及び保持部材61と離れた位置から、基板P上の液体LQの液滴の状態を観察する。
照明装置64は、基板P(保持部材61)を挟んで観察装置63と対向する位置に設けられている。すなわち、照明装置64は、保持部材61に保持された基板Pの−X側(他方側)に配置されており、基板P及び保持部材61と離れた位置から、基板P上の液体LQの液滴を照明する。したがって、観察装置63は、照明装置64によって照明された液体LQの液滴の画像を取得する。
観察装置63と制御装置CONTとは接続されており、観察装置63は、取得した液体LQの液滴の画像を電気信号に変換し、その信号(画像情報)を制御装置CONTに出力する。制御装置CONTは、観察装置63からの画像情報を表示装置DYに表示可能である。したがって、表示装置DYには、基板Pの表面における液体LQの液滴の画像が表示される。
計測装置60は、基板Pを保持した保持部材61を回転(傾斜)させる駆動システム65を備えている。駆動システム65の動作は制御装置CONTに制御され、保持部材61は、基板Pを保持した状態で回転(傾斜)可能となっている。本実施形態においては、基板Pを保持した保持部材61は、駆動システム65の駆動により、θX方向に回転(傾斜)するようになっている。
計測装置60は、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力(付着エネルギー)E、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θ、及び基板Pの表面における液体LQの滑落角αを計測可能である。付着力(付着エネルギー)Eとは、物体の表面(ここでは基板Pの表面)で液体を移動させるのに必要な力である。ここで、図5を参照しながら、付着力Eについて説明する。
図5において、基板P上での液滴の外形を円の一部と仮定した場合、すなわち、図5における基板P上での液滴の表面が理想的な球面であると仮定した場合、付着力Eは、
E=(m×g×sinα)/(2×π×R) …(1)と定義される。
但し、
m:基板P上での液体LQの液滴の質量、
g:重力加速度、
α:水平面に対する滑落角、
R:基板P上での液体LQの液滴の半径、である。
滑落角αとは、物体の表面(ここでは基板Pの表面)に液体の液滴を付着させた状態で、その物体の表面を水平面に対して傾斜させたとき、物体の表面に付着していた液体の液滴が、重力作用によって下方に滑り出す(移動を開始する)ときの角度を言う。換言すれば、滑落角αとは、液体の液滴が付着した物体の表面を傾けたとき、その液滴が滑り落ちる臨界角度を言う。
また、図5中、θは、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角を示している。接触角θは、物体の表面(ここでは基板Pの表面)に液体の液滴を付着させ、静止した状態での液滴の表面と物体の表面とがなす角度(液体の内部にある角度をとる)を言う。
ここで上述のように、液滴の外形は円の一部と仮定されており、図5では、傾斜面における液体LQの接触角をθとして図示しているが、接触角θは水平面と平行な面における接触角である。また、滴下部材62は、滴下する液滴の質量(又は体積)mを調整可能であり、その質量(又は体積)mが既知である場合には、接触角θを計測することにより、その接触角θに基づいて、幾何学的に半径Rを導出することができる。更に、接触角θが分かれば、液滴と基板Pの表面とが接触する接触面の半径r(以下、適宜「着液半径r」と称する)も幾何学的に導出することができる。同様に、接触角θが分かれば、基板Pの表面に対する液滴の高さhも導出することができる。すなわち、基板Pの表面における液体LQの液滴の半径Rは、液体LQの接触角θに応じた値であり、液体LQの接触角θを求めることによって、上述の(1)式の半径Rを求めることができる。
図3(A)及び図3(B)を参照して説明したように、基板P上の最上層に設けられた膜(第1膜Rg、第2膜Tc)が、液浸露光時において液体LQに接触する液体接触面を形成するが、その膜の種類(物性)によって、上述の接触角θ、及び滑落角αが変化する。計測装置60は、接触角θ、及び滑落角αを計測して、付着力Eを基板P毎に求めることができる。
次に、図6のフローチャート図を参照しながら、計測装置60を使った計測手順及び基板Pを露光するときの露光手順の一例について説明する。
搬送装置Hによって露光処理前の基板Pが計測装置60の保持部材61にロードされると、制御装置CONTは、計測装置60を使った計測動作を開始する。まず、計測装置60は、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θを計測する(ステップSA1)。基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θを計測するとき、計測装置60は、保持部材61に保持された基板Pの表面が水平面(XY平面)とほぼ平行となるように、駆動システム65を介して保持部材61の位置(姿勢)を調整する。そして、計測装置60は、水平面とほぼ平行となっている基板Pの表面に対して、滴下部材62より液体LQの液滴を滴下する。滴下部材62は、滴下する液滴の質量(又は体積)mを調整可能であり、基板Pの表面に質量mの液滴を滴下する。基板Pの表面に質量mの液滴が配置された後、計測装置60は、照明装置64で基板Pの表面に配置された液滴を照明するとともに、観察装置63を使って液滴の画像を取得する。観察装置63は、取得した画像に関する画像情報を制御装置CONTに出力する。制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号(画像情報)に基づいて、基板Pの表面における液滴の画像を表示装置DYで表示する。また、制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号を演算処理(画像処理)し、その処理結果に基づいて、基板Pの表面における液体LQの液滴の接触角θを求める。こうして、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θが、制御装置CONTを含む計測装置60によって計測される。
また、制御装置CONTを含む計測装置60は、基板P上での液体LQの液滴の半径Rを導出する(ステップSA2)。上述のように、滴下部材62は滴下する液滴の質量mを調整可能であり、半径Rは幾何学的に導出することができるため、制御装置CONTを含む計測装置60は、既知の値である液滴の質量mと、計測結果である接触角θとに基づいて、所定の演算処理を行うことにより、基板P上での液体LQの液滴の半径Rを求めることができる。
なおここでは、滴下部材62は滴下する液滴の質量mを調整可能として説明しているが、液体LQの密度(比重)ρが既知であり、滴下部材62が滴下する液滴の体積Vを調整可能であるならば、密度ρと体積Vとに基づいて、質量mを導出することができる(m=ρ×V)。
次に、計測装置60は、基板Pの表面における液体LQの滑落角αを計測する(ステップSA3)。基板Pの表面における液体LQの滑落角αを計測するとき、計測装置60は、基板Pの表面に質量mの液滴を配置した状態で、その基板Pを保持した保持部材61を、図4中の矢印K1で示すように、駆動システム65を用いてθX方向に回転(傾斜)する。保持部材61の回転(傾斜)に伴って、基板Pの表面も回転(傾斜)する。基板Pを回転している間においても、観察装置63は基板Pの表面に配置されている液滴を観察し続けている。基板Pを回転するにしたがって、図4中の矢印K2で示すように、基板Pの表面に付着していた液滴は、重力作用によって下方に滑り出す(移動を開始する)。観察装置63は、液滴が滑り出したことを観察可能であり、取得した画像に関する画像情報を制御装置CONTに出力する。すなわち、制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号(画像情報)に基づいて、基板Pの表面の液滴が移動を開始した時点(滑り出した時点)を求めることができる。また、制御装置CONTは、基板Pの表面の液滴が移動を開始した時点での基板Pの表面の角度(すなわち滑落角)αを、駆動システム65による保持部材61の駆動量(傾斜量)より求めることができる。すなわち、制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号(画像情報)と、駆動システム65による保持部材61の駆動量とに基づいて、基板Pの表面における液体LQの液滴の滑落角αを求めることができる。このように、基板Pの表面における液体LQの滑落角αが、制御装置CONTを含む計測装置60によって計測される。
なお、液滴の状態を表示装置DYに表示し、目視によって、基板Pの表面の液滴が移動を開始したときの基板Pの表面の角度(すなわち滑落角)αを計測してもよい。
次に、計測装置60は、基板Pと液体LQとの間に作用する付着力Eを求める(ステップSA4)。上述のステップSA1〜SA3により、基板P上での液体LQの液滴の質量m、基板P上での液体LQの液滴の半径R、及び滑落角αが求められているため、これらの値を上述の(1)式に代入することによって、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力(付着エネルギー)Eを求めることができる。
上述のように、基板P上での液体LQの液滴の半径Rは、液体LQの接触角θに応じた値であるため、付着力Eは、基板Pの表面における液体LQの接触角θ、及び基板Pの表面における液体LQの滑落角αに応じて定められる値である。
なお、上述のステップSA1〜SA3において、接触角θ及び滑落角αを計測する場合に、液滴の質量(又は体積)mを変えつつ接触角θ及び滑落角αの計測動作を複数回行い、これら各計測動作で得られた接触角θ、半径R、滑落角αの平均値を用いて、付着力Eを導出するようにしてもよい。
次に、制御装置CONTは、計測装置60の計測結果に基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する(ステップSA5)。すなわち、制御装置CONTは、ステップSA4で導出した、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eに応じて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。上述のように、付着力Eは、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θ、及び基板Pの表面における液体LQの滑落角αに応じて定められるため、制御装置CONTは、ステップSA1で計測した計測結果である基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θと、ステップSA3で計測した計測結果である基板Pの表面における液体LQの滑落角αとに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定することとなる。
ここで、露光条件は、基板Pを移動するときの移動条件、及び液浸領域LRを形成するときの液浸条件の少なくとも一方を含む。
基板Pの移動条件は、基板Pの移動速度、加速度、減速度、移動方向、及び一方向への連続的な移動距離の少なくとも一部を含む。
また、液浸条件は、液浸領域LRを形成するために液体LQを供給するときの供給条件と、液浸領域LRを形成する液体LQを回収するときの回収条件との少なくとも一方を含む。供給条件は、供給口12から光路空間K1に対する単位時間当たりの液体供給量を含む。回収条件は、回収口22からの単位時間当たりの液体回収量を含む。
なお、露光条件とは、基板P上の各ショット領域に露光光ELを照射している露光中のみならず、各ショット領域の露光前、及び/又は露光後を含む。
また、基板P表面の膜と液体LQとの静的な接触角θなどに応じて、液体LQの圧力が変化し、投影光学系PL(最終光学素子LS1)の変動に起因する投影光学系PLの光学特性の変動が生じる可能性がある場合には、光学特性の変動を補償するための投影光学系PLの調整条件を露光条件として、記憶装置MRYに記憶してもよい。
記憶装置MRYには、付着力Eに対応した最適露光条件に関する情報が予め記憶されている。具体的には、記憶装置MRYは、液浸露光時において基板P上の液体LQに接触する液体接触面に形成されている膜と液体LQとの間に作用する付着力Eと、その付着力Eに対応する最適露光条件との関係が複数マップデータとして記憶されている。この付着力Eに対応した最適露光条件に関する情報(マップデータ)は、予め実験又はシミュレーションによって求めることができ、記憶装置MRYに記憶される。
本実施形態においては、説明を簡単にするために、記憶装置MRYには、付着力Eに対応する最適露光条件として、付着力Eに対応する基板Pの最適な移動速度に関する情報と、付着力Eに対応する単位時間当たりの最適な液体供給量に関する情報とが記憶されている。
制御装置CONTは、計測装置60の計測結果と、記憶装置MRYの記憶情報とに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。すなわち、制御装置CONTは、ステップSA4で求めた基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eと、記憶装置MRYに予め記憶されている、付着力Eに対応した最適露光条件に関する情報(マップデータ)とに基づいて、記憶装置MRYの記憶情報(マップデータ)の中から、露光処理されるべき基板Pに対する最適露光条件を選択し、決定する。
本実施形態では、制御装置CONTは、付着力Eに応じて、基板Pの移動速度と、液浸機構1による光路空間K1に対する単位時間当たりの液体供給量とを決定する。
そして、制御装置CONTは、計測装置60で計測を終えた基板Pを搬送装置Hを使って基板ステージPSTにロードし、ステップSA5で決定した露光条件に基づいて、基板Pを液浸露光する(ステップSA6)。
本実施形態では、制御装置CONTは、ステップSA5で決定された露光条件に基づいて、基板Pの移動速度と、液浸機構1による光路空間K1に対する単位時間当たりの液体供給量とを調整しつつ、基板Pの各ショット領域を露光する。
例えば、露光処理されるべき基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eが大きい場合、基板Pの移動速度を高速化すると、光路空間K1を液体LQで良好に満たすことが困難となる可能性があるため、制御装置CONTは、付着力Eに応じて、基板Pの移動速度を遅くする。こうすることにより、光路空間K1を液体LQで良好に満たした状態で、基板Pを露光することができる。一方、付着力Eが小さい場合には、基板Pの移動速度を高速化することができ、スループットを向上することができる。
ここで、基板Pの移動速度には、Y軸方向(走査方向)に関する移動速度はもちろん、X軸方向(ステッピング方向)に関する移動速度も含まれる。
また、制御装置CONTは、決定された露光条件に基づいて、液浸機構1の動作を制御し、光路空間K1に対する単位時間当たりの液体供給量を調整する。例えば、露光処理されるべき基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eが小さい場合、液体LQ中に気泡が生成し易くなる可能性がある。したがって、付着力Eが小さい場合には、制御装置CONTは、付着力Eに応じて、光路空間K1に対する単位時間当たりの液体供給量を多くして、供給口12より脱気された液体LQを光路空間K1に多量に供給するようにする。こうすることにより、光路空間K1の液体LQ中に気泡が存在する場合でも、その気泡を脱気された液体LQに溶かし込んで、低減又は消失させることができる。したがって、光路空間K1を所望状態の液体LQで満たした状態で、基板Pを露光することができる。
また、仮に光路空間K1に気泡が生成されても、多量に供給された液体LQによって、その気泡を光路空間K1から直ちに退かすことができる。一方、付着力Eが大きい場合には、光路空間K1に対する単位時間当たりの液体供給量を少なくすることができ、使用する液体LQの量を抑えることができる。
以上説明したように、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eに応じて、基板Pを露光するときの露光条件を決定するようにしたので、異なる種類の膜が形成された複数の基板Pのそれぞれに対して液浸露光を良好に行うことができる。したがって、液浸露光装置EXの汎用性を向上することができる。
なお、上述したように、基板Pの移動条件としては、基板Pを移動するときの加減速度、及び光路空間K1に対する移動方向(移動軌跡)なども含めることができる。制御装置CONTは、付着力Eに基づいて、加減速度、移動方向(移動軌跡)を決定し、その決定された加減速度、移動方向(移動軌跡)に基づいて、基板ステージPSTの動作を制御しつつ、基板Pを液浸露光することができる。この場合も、記憶装置MRYには、付着力Eに対応した最適な加速度、移動方向(移動軌跡)などに関する情報が予め記憶されており、制御装置CONTは、付着力Eと記憶装置MRYの記憶情報とに基づいて、基板Pを露光するときの最適な加速度、移動方向(移動軌跡)を決定することができる。一例として、付着力Eが大きい場合、基板Pの加速度を高速化すると、光路空間K1を液体LQで良好に満たすことが困難となる可能性があるため、基板Pの加速度を小さくする。一方、付着力Eが小さい場合には、基板Pの加速度を大きくすることができる。
また、上述の供給条件としては、光路空間K1に対する液体供給位置(距離)、供給方向なども含めることができる。すなわち、供給条件としては、光路空間K1に対する供給口12の位置、距離、数なども含めることができる。制御装置CONTは、付着力Eに基づいて、これら供給条件を決定し、その決定された供給条件に基づいて、液浸機構1の動作を制御しつつ、基板Pを液浸露光することができる。この場合も、記憶装置MRYには、付着力Eに対応した最適な供給位置(距離)、供給方向などに関する情報が予め記憶されており、制御装置CONTは、付着力Eと記憶装置MRYの記憶情報とに基づいて、基板Pを露光するときの最適な供給条件を決定することができる。制御装置CONTは、付着力Eに応じて、液体LQを供給するときの供給条件を調整することで、液体LQを良好に供給し、所望状態の液浸領域LRを形成することができる。
また、上述したように、液浸条件としては、光路空間K1の液体LQを回収するときの回収条件も含まれる。回収条件としては、光路空間K1からの単位時間当たりの液体回収量のみならず、光路空間K1に対する液体回収位置(距離)、回収方向なども含めることができる。すなわち、回収条件としては、液体回収装置21の回収力(吸引力)、光路空間K1に対する回収口22の位置、距離、数などを含めることができる。制御装置CONTは、付着力Eに基づいて、これら回収条件を決定し、その決定された回収条件に基づいて、液浸機構1の動作を制御しつつ、基板Pを液浸露光することができる。この場合も、記憶装置MRYには、付着力Eに対応した最適な単位時間当たりの液体回収量、回収位置(距離)、回収方向などに関する情報が予め記憶されており、制御装置CONTは、付着力Eと記憶装置MRYの記憶情報とに基づいて、基板Pを露光するときの最適な回収条件を決定することができる。付着力Eに応じて、液体LQを回収するときの液浸機構1による回収性(回収能力)が変動する可能性があるが、制御装置CONTは、付着力Eに応じて、液体LQを回収するときの回収条件を調整することで、液体LQを良好に回収し、所望状態の液浸領域LRを形成することができる。
なお、本実施形態において、記憶装置MRYに記憶されている条件は、基板Pの移動条件と液浸条件とが最適化されていることは言うまでもない。例えば、基板Pの移動速度が高速の場合には、単位時間当たりの液体供給量を多くするとともに、その液体供給量に応じた液体回収量で液体LQを回収することで、光路空間K1を液体LQで良好に満たすようにする。一方、基板Pの移動速度が比較的低速である場合には、単位時間当たりの液体供給量を少なくすることができる。
なお、上述の実施形態においては、1つの計測装置60によって、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θと、基板Pの表面における液体LQの滑落角αとを計測しているが、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θを計測する第1の計測装置と、基板Pの表面における液体LQの滑落角αを計測する第2の計測装置とを別々に設けてもよい。
また、上述の実施形態においては、計測装置60は搬送装置Hの搬送経路上に設けられているが、計測装置60の設置位置としては、搬送装置Hの搬送経路上以外の位置でもよい。
また、上述の実施形態においては、基板P毎に計測装置60での計測を行っているが、表面に形成されている膜が、先に計測された基板Pと同じ場合には、計測装置60での計測を省略してもよい。例えば、複数枚の基板Pで構成される一つのロットの先頭の基板Pのみを計測装置60で計測するようにしてもよい。
また、上述の実施形態においては、計測装置60での計測結果に基づいて、その計測後の基板Pに対する露光条件を決定しているが、その計測後の基板P上のショット領域毎に異なる露光条件を設定してもよい。
なお、上述の実施形態においては、液体LQとして純水を用い、その液体LQに対する基板Pの付着力Eを求め、その付着力Eに応じて基板Pを露光するときの露光条件を決定しているが、液体LQを例えばフッ素系オイルにするなど、液体LQの種類(物性)を変えることによって、付着力Eを所望値にするようにしてもよい。また、その付着力Eに応じて、露光条件を決定するようにしてもよい。あるいは、液体(純水)LQに所定の材料(添加物)を添加することによって、その液体(純水)LQの物性を変えるようにしてもよい。
なお、上述の第1実施形態においては、デバイスを製造するために実際に露光される基板Pの表面に液体LQの液滴を配置し、その基板Pを傾斜させたときの液滴の状態を計測装置60で計測するように説明したが、例えば実際に露光される基板Pの表面とほぼ同様の表面を有する物体(例えばテスト基板等)上に液滴を配置し、その物体の表面を傾斜させたときの液滴の状態を計測するようにしてもよい。
<第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
上述の実施形態においては、露光処理されるべき基板Pと液体(純水)LQとの付着力Eに応じて、基板Pを露光するときの露光条件を決定(調整)しているが、付着力Eの許容範囲を設定し、基板Pを露光する前に、その基板Pが液体(純水)LQに対して許容範囲の付着力Eとなる膜を有するか否か、すなわち液浸露光処理するのに適当な膜を有する基板Pか否かを判断するようにしてもよい。例えば、記憶装置MRYに、液浸露光処理するのに適当な付着力Eか否かを判断するための指標値(許容値)を記憶しておき、この指標値に応じて、液浸露光処理するのに適当な付着力Eか否かを判断することができる。この指標値は、例えば実験あるいはシミュレーションによって予め求めることができる。そして、上述の判断結果に基づいて、不適当な膜を有する基板Pは露光処理しないようにすることができる。例えば、搬送装置Hによって計測装置60に搬送された基板Pの液体(純水)LQに対する付着力Eを計測し、計測された付着力Eが予め定められた許容範囲以外となったとき、その基板Pを基板ステージPSTにはロードしないようにする。こうすることにより、液浸露光処理するのに不適当な膜を有する基板Pを露光しなくてすみ、液体LQの漏出などが防止され、露光装置EXの稼動率の向上に寄与することができる。
また、本実施形態においても、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eが許容範囲となるように、液体LQの種類(物性)を変えるようにしてもよい。あるいは、液体(純水)LQに所定の材料(添加物)を添加することによって、基板Pの表面と液体LQとの間に作用する付着力Eを許容範囲にするようにしてもよい。
<第3実施形態>
次に第3実施形態について説明する。上述の第1及び第2実施形態においては、露光装置EX内の計測装置60で基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θと、基板Pの表面における液体LQの滑落角αとを計測しているが、露光装置EX内に計測装置60を搭載せずに、静的な接触角θと滑落角αとを露光装置EXとは別の装置で計測することができる。本実施形態では、基板Pを露光するときの露光条件を決定するために、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θの情報と、基板Pの表面における液体LQの滑落角αの情報とが、入力装置INPを介して制御装置CONTに入力される。制御装置CONTは、入力装置INPから入力された接触角θの情報と、滑落角αの情報とに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。すなわち、制御装置CONTは、入力装置INPから入力された接触角θの情報と滑落角αの情報とに基づいて、上述の実施形態同様、付着力Eを導出し、その導出した付着力Eと、記憶装置MRYに予め記憶されている、付着力Eに対応した最適露光条件に関する情報(マップデータ)とに基づいて、露光処理されるべき基板Pに対する最適露光条件を決定する。
なお、入力装置INPに入力されるデータとしては、計測された静的な接触角θと滑落角αとに基づいて計算された付着力Eであってもよい。あるいは、計測を行わずに、予め分かっている物性値データ(静的な接触角θと滑落角α、あるいは付着力E)であってもよい。
また、上述の第1〜第3実施形態において、記憶装置MRYに付着力(静的な接触角及び滑落角)と最適露光条件との関係を記憶しているが、実験又はシミュレーションの結果に基づいて決定された関数を記憶装置MRYに記憶しておき、その関数を使って、付着力Eに対する最適な露光条件を求めるようにしてもよい。
<第4実施形態>
次に第4実施形態について説明する。上述の第1〜第3実施形態においては、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θと、基板Pの表面における液体LQの滑落角αとに基づいて、付着力Eを導出し、その付着力Eに応じて、基板Pを露光するときの露光条件を決定しているが、本実施形態の特徴的な部分は、基板Pを露光するときの露光条件を、式(θ−t×α)に基づいて決定する点にある。
本実施形態においては、制御装置CONTは、次の(2)式で定義される値U
U=(θ−t×α) …(2)に基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。
但し、
θ:基板Pの表面における液体LQの静的な接触角、
α:基板Pの表面における液体LQの滑落角、
t:所定の定数、である。
本発明者は、値U(=θ−t×α)に応じて、基板P上で液浸領域LRを所望状態に維持可能な露光条件(基板Pの移動条件、液浸条件等)が変化することを見出した。すなわち、露光装置EXの最終光学素子LS1と基板Pの膜との間の光路空間K1を液体LQで満たして基板P上に液体LQの液浸領域LRを形成したときに、液浸領域LRを所望状態に維持することができる露光条件が、基板Pの膜と液体LQとに対応する値Uに応じて変化することを見出した。したがって、値Uに応じて最適な露光条件を設定することによって、液体LQの流出、及び液体LQ中での気泡の生成等の不具合を生じることなく、基板Pを露光することができる。
例えば、上述の露光条件には、基板Pの移動条件が含まれる。すなわち、露光装置EXの最終光学素子LS1と基板Pの膜との間の光路空間K1を液体LQで満たして膜上に液体LQの液浸領域LRを形成した状態で基板P(膜)を移動したときに、液浸領域LRを所望状態に維持することができる最大の速度(以下、許容速度、と称する)は、基板Pの膜と液体LQとに対応する値Uに応じて変化する。したがって、値Uに対応する許容速度以下で基板Pを移動すれば、液体LQの流出、及び液体LQ中での気泡の生成等の不具合の発生を抑えつつ、基板Pを露光することができる。
本実施形態においては、制御装置CONTは、上述の値Uに基づいて、基板Pを移動するときの移動条件(基板Pの移動速度)を決定することとする。
図7は値Uと許容速度との関係を導出するために行った実験結果の一例を示すものである。実験は、基板P上の最上層(基板Pの表面)に設けられる膜の種類を変え、それら複数の種類の膜のそれぞれにおける液体LQの静的な接触角θ、及び液体LQの滑落角αを計測するとともに、各膜のそれぞれについての値U、及び各膜のそれぞれについての基板Pの許容速度を求めた。なお、図7の実験例に示されている基板Pの許容速度とは、光路空間K1を液体LQで満たしつつ、液体LQを流出させることなく(基板P上に液体LQの滴及び膜を残すことなく)、基板Pを移動させることができる速度である。また、図7に示すように、本実験例では、26種類の膜を用意し、それら複数の膜のそれぞれについての各データを取得した。
上述のように、計測装置60は、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θ、及び基板Pの表面における液体LQの滑落角αを計測可能であり、本実験例では、各膜の表面に所定量(例えば、50マイクロリットル)の液体LQの滴をたらし、計測装置60を用いて、各膜における液体LQの静的な接触角θ、及び滑落角αを求めた。また、所定の定数tは、例えばノズル部材70の構造、能力(液体供給能力、液体回収能力など)等に応じて定められる値であり、実験又はシミュレーションによって導出可能である。
そして、本実験例では、所定の定数t=1とし、計測装置60の計測結果に基づいて、各膜のそれぞれについての値U(すなわちθ−α)を導出するとともに、各膜のそれぞれについての許容速度を求めた。上述のように、基板P上の膜は液浸露光時において液体LQと接触する液体接触面を形成するため、図7に示すように、膜の種類(物性)に応じて、すなわち値Uに応じて許容速度が変化する。
図8は値U(但し、t=1)と許容速度との関係を示す図、すなわち図7の実験結果をグラフ化したものである。図8では、上述の実験結果に対応する点と、それら実験結果をフィッティングした近似曲線とが示されている。図8に示すように、値U=(θ−t×α)に応じて、許容速度が変化することが分かる。具体的には、値Uが大きくなるほど、許容速度が大きくなることが分かる。したがって、基板P上に値Uが大きい膜を設けることにより、最終光学素子LS1と基板P(膜)との間を液体LQで満たした状態で、基板Pを高速に移動しつつ、その基板Pを露光することができる。
次に、計測装置60を使った計測手順及び基板Pを露光するときの露光手順の一例について説明する。所定の膜を有する基板Pを露光するとき、制御装置CONTは、その基板Pを露光する前に、計測装置60を用いて、基板Pの表面(膜)における液体LQの静的な接触角θを計測する。また、制御装置CONTは、計測装置60を用いて、基板Pの表面(膜)における液体LQの滑落角αを計測する。そして、制御装置CONTは、計測装置60の計測結果に基づいて、値U(=θ−t×α)を求める。記憶装置MRYには、値U(静的な接触角θと滑落角αと)に対応する基板Pの許容速度を導き出すための情報(関数、マップデータ等)が予め記憶されている。本実施形態では、記憶装置MRYは、値Uをパラメータとして、その値Uに対応する基板Pの許容速度を導き出す関数(例えば、図8の近似曲線に対応する関数)が記憶されている。上述したように、この値Uに対応した基板Pの許容速度に関する情報は、予め実験又はシミュレーションによって求めることができ、記憶装置MRYに記憶される。
制御装置CONTは、計測装置60の計測結果と、記憶装置MRYの記憶情報とに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件(基板Pの移動速度)を決定する。すなわち、制御装置CONTは、求めた値U(静的な接触角θ及び滑落角αの情報)と、記憶装置MRYに予め記憶されている、値Uに対応した基板Pの許容速度に関する情報とに基づいて、露光処理されるべき基板Pの移動速度を、許容速度を超えないように、決定する。
そして、制御装置CONTは、決定した露光条件(基板Pの移動速度)に基づいて、基板Pを液浸露光する。例えば、露光処理されるべき基板Pの表面と液体LQとに応じた値Uが小さい場合、基板Pの移動速度を高速化すると、光路空間K1を液体LQで良好に満たすことが困難となる可能性があるため、制御装置CONTは、値Uに応じて、基板Pの移動速度を遅くする。こうすることにより、光路空間K1を液体LQで良好に満たした状態で、基板Pを露光することができる。一方、値Uが大きい場合には、基板Pの移動速度を高速化することができ、スループットを向上することができる。
なお、スループットを考慮すれば、基板Pの移動速度は、値Uに対応する許容速度に設定されることが望ましい。
また、基板Pの移動速度は、基板P上に露光光ELが照射されている露光中の移動速度(スキャン速度)だけでなく、ショット間に行われるステッピング中の移動速度(ステッピング速度)も含む。
以上説明したように、式(θ−t×α)に基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定するようにしたので、異なる種類の膜が形成された複数の基板Pのそれぞれに対して液浸露光を良好に行うことができる。したがって、液浸露光装置EXの汎用性を向上することができる。
なお、本実施形態では、値Uに基づいて、基板Pの移動速度を決定しているが、基板Pの加速度、減速度、移動方向(移動軌跡)、及び一方向への連続的な移動距離の少なくとも一部を決定することができる。すなわち、基板P上で液浸領域LRを所望状態に維持可能な最大の加速度、最大の減速度、最大の移動距離の少なくとも一部と値Uとの関係を予め求めておき、基板Pの膜と液体LQとに対応する値Uから求められる許容値を超えないように、加速度、減速度、移動距離の少なくとも一部を決定してもよい。また、値Uが小さい場合、基板Pの移動方向によっては、液浸領域LRを所望状態に維持できない可能性もあるので、値Uに応じて、基板Pの移動方向を制限したり、基板Pを所定方向へ移動するときの速度をその他の方向へ移動するときの速度よりも小さくするようにしてもよい。
また、値Uに基づいて、液浸領域LRを形成するために液体LQを供給するときの供給条件、及び液浸領域LRを形成する液体LQを回収するときの回収条件を含む、液浸領域LRを形成するときの液浸条件を決定することができる。例えば、基板P上で液浸領域LRを所望状態に維持可能な最大の液体供給量と値Uとの関係を予め求めておけば、値Uから求められる許容値を超えないように液体LQの供給量を決定してもよい。
また、第4実施形態において、値Uの許容範囲を設定し、基板Pを露光する前に、その基板Pが液体(純水)LQに対して許容範囲の値Uとなる膜を有するか否か、すなわち液浸露光処理するのに適当な膜を有する基板Pか否かを判断するようにしてもよい。
また、第4実施形態において、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θを計測する第1の計測装置と、基板Pの表面における液体LQの滑落角αを計測する第2の計測装置とを別々に設けてもよい。
なお、上述の第4実施形態においては、デバイスを製造するために実際に露光される基板Pの表面に液体LQの液滴を配置し、その基板Pを傾斜させたときの液滴の状態を計測装置60で計測するように説明したが、例えば実際に露光される基板Pの表面とほぼ同様の表面を有する物体(例えばテスト基板等)上に液滴を配置し、その物体の表面を傾斜させたときの液滴の状態を計測するようにしてもよい。
<第5実施形態>
上述の第4実施形態において、露光装置EX内に計測装置60を搭載せずに、静的な接触角θと滑落角αとを露光装置EXとは別の装置で計測することができる。そして、基板Pを露光するときの露光条件を決定するために、基板Pの表面における液体LQの静的な接触角θの情報と、基板Pの表面における液体LQの滑落角αの情報とが、入力装置INPを介して制御装置CONTに入力される。制御装置CONTは、入力装置INPから入力された接触角θの情報と、滑落角αの情報とに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。すなわち、制御装置CONTは、入力装置INPから入力された接触角θの情報と滑落角αの情報とに基づいて、上述の実施形態同様、値Uを導出し、その導出した値Uと、記憶装置MRYに予め記憶されている、値Uから液浸領域LRを所望状態に維持できる条件を導出する情報とに基づいて、露光処理されるべき基板Pに対する最適露光条件を決定する。もちろん、入力装置INPから値Uを入力して、最適露光条件を決定してもよい。
<第6実施形態>
次に第6実施形態について説明する。本実施形態の特徴的な部分は、基板Pの表面を傾斜させたときの基板Pの表面における液体LQの後退接触角に基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する点にある。
本実施形態においては、制御装置CONTは、基板Pの表面を傾斜させたときの基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。
図9の模式図を参照しながら後退接触角θRについて説明する。後退接触角θRとは、物体の表面(ここでは基板Pの表面)に液体LQの液滴を付着させた状態で、その物体の表面を水平面に対して傾斜させたとき、物体の表面に付着していた液体LQの液滴が、重力作用によって下方に滑り出す(移動を開始する)ときの、液滴の後側の接触角を言う。換言すれば、後退接触角θRとは、液体LQの液滴が付着した物体の表面を傾けたとき、その液滴が滑り落ちる滑落角αの臨界角度における、液滴の後側の接触角を言う。なお、物体の表面に付着していた液体LQの液滴が、重力作用によって下方に滑り出す(移動を開始する)ときとは、液滴が移動を開始する瞬間を意味するが、移動を開始する直前、及び移動を開始する直後の少なくとも一部の状態であってもよい。
本発明者は、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRに応じても、基板P上で液浸領域LRを所望状態に維持可能な露光条件(基板Pの移動条件、液浸条件等)が変化することを見出した。すなわち、本発明者は、露光装置EXの最終光学素子LS1と基板Pの膜との間を液体LQで満たして基板P上に液体LQの液浸領域LRを形成したときに、液浸領域LRを所望状態に維持できる露光条件が、基板Pの膜と液体LQとに対応する後退接触角θRに応じて変化することを見出した。したがって、後退接触角θRに応じて最適な露光条件を設定することによって、液体LQの流出、及び液体LQ中での気泡の発生等の不具合を生じることなく、基板Pを露光することができる。
例えば、露光条件には基板Pの移動速度が含まれる。すなわち、露光装置EXの最終光学素子LS1と基板Pの膜との間を液体LQで満たして、基板P上に液体LQの液浸領域LRを形成したときに、液浸領域LRを所望状態に維持できる最大の速度(許容速度)が、基板Pの膜と液体LQとに対応する後退接触角θRに応じて変化する。したがって、後退接触角θRに対応する許容速度以下で基板Pを移動すれば、液体LQの流出、及び液体LQ中での気泡の生成等の不具合の発生を抑えつつ、基板Pを露光することができる。
後退接触角θRは、上述の計測装置60を用いて計測可能である。基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRを計測するとき、まず、計測装置60は、保持部材61に保持された基板Pの表面が水平面(XY平面)とほぼ平行となるように、駆動システム65を介して保持部材61の位置(姿勢)を調整する。そして、計測装置60は、水平面とほぼ平行となっている基板Pの表面に対して、滴下部材62より液体LQの液滴を滴下する。そして、図4を参照して説明した手順と同様、計測装置60は、基板Pの表面に液滴を配置した状態で、その基板Pを保持した保持部材61を、駆動システム65を用いてθX方向に回転(傾斜)する。保持部材61の回転(傾斜)に伴って、基板Pの表面も回転(傾斜)する。基板Pの表面を回転(傾斜)するにしたがって、基板Pの表面に付着していた液滴は、重力作用によって下方に滑り出す(移動を開始する)。このとき、計測装置60は、照明装置64で基板Pの表面に配置された液滴を照明するとともに、観察装置63を使って液滴の画像を取得する。観察装置63は、液滴が滑り出したことを観察可能であり、取得した画像に関する画像情報を制御装置CONTに出力する。制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号(画像情報)に基づいて、基板Pの表面の液滴が移動を開始した時点(滑り出した時点)を求めることができる。そして、制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号を演算処理(画像処理)し、その処理結果に基づいて、基板Pの表面における液体LQの液滴の後退接触角θRを求めることができる。こうして、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRが、制御装置CONTを含む計測装置60によって計測される。
また、制御装置CONTは、基板Pの表面の液滴が移動を開始した時点での基板Pの表面の角度(すなわち滑落角)αを、駆動システム65による保持部材61の駆動量(傾斜量)より求めることができる。すなわち、制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号(画像情報)と、駆動システム65による保持部材61の駆動量とに基づいて、基板Pの表面における液体LQの液滴の滑落角αを求めることができる。このように、基板Pの表面における液体LQの滑落角αが、制御装置CONTを含む計測装置60によって計測される。
また、制御装置CONTは、観察装置63から出力された信号(画像情報)に基づいて、基板Pの表面における液滴の画像を表示装置DYで表示することができる。したがって、液滴の状態を表示装置DYに表示し、目視によって、基板Pの表面の液滴が移動を開始したときの基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRを計測してもよい。
図10は後退接触角θRと許容速度との関係を導出するために行った実験結果を示すものである。実験は、基板P上の最上層(基板Pの表面)に設けられる膜の種類を変え、それら複数の種類の膜のそれぞれにおける液体LQの後退接触角θRを計測するとともに、各膜のそれぞれについての基板Pの許容速度を求めた。なお、図10の実験例に示されている基板Pの許容速度とは、光路空間K1を液体LQで満たしつつ、液体LQを流出させることなく(基板P上に液体LQの滴及び膜を残すことなく)、基板Pを移動させることができる速度である。また、図10に示すように、本実験例では、24種類の膜を用意し、それら複数の膜のそれぞれについての各データを取得した。
上述のように、計測装置60は、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRを計測可能であり、本実験例では、各膜の表面に数十マイクロリットル(例えば、50マイクロリットル)の液体LQの滴をたらし、計測装置60を用いて、各膜における液体LQの後退接触角θRを求めた。
図11は後退接触角θRと許容速度との関係を示す図、すなわち図10の実験結果をグラフ化したものである。図11では、上述の実験結果に対応する点と、それら実験結果をフィッティングした近似曲線とが示されている。図11に示すように、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRに応じて、許容速度が変化することが分かる。具体的には、後退接触角θRが大きくなるほど、許容速度が大きくなることが分かる。したがって、基板P上に、液体LQに対する後退接触角θRが大きい膜を設けることにより、最終光学素子LS1と基板P(膜)との間を液体LQで満たした状態で、基板Pを高速に移動しつつ、その基板Pを露光することができる。
次に、計測装置60を使った計測手順及び基板Pを露光するときの露光手順の一例について説明する。所定の膜を有する基板Pを露光するとき、制御装置CONTは、その基板Pを露光する前に、計測装置60を用いて、基板Pの表面(膜)における液体LQの後退接触角θRを計測する。そして、制御装置CONTは、計測装置60の計測結果、すなわち後退接触角θRに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。本実施形態では、制御装置CONTは、露光条件の一つとして、基板Pを移動するときの移動条件(基板Pの移動速度)を決定する。
ここで、記憶装置MRYには、液体LQの後退接触角θRに対応する基板Pの許容速度を導き出すための情報(関数、マップデータ等)が予め記憶されている。本実施形態では、記憶装置MRYは、液体LQの後退接触角θRをパラメータとして、その後退接触角θRに対応する基板Pの許容速度を導出するための関数(例えば、図11の近似曲線に対応する関数)が記憶されている。この後退接触角θRに対応した基板Pの許容速度に関する情報は、予め実験又はシミュレーションによって求めることができ、記憶装置MRYに記憶される。
制御装置CONTは、計測装置60の計測結果と、記憶装置MRYの記憶情報とに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件(基板Pの移動速度)を決定する。すなわち、制御装置CONTは、求めた液体LQの後退接触角θRと、記憶装置MRYに予め記憶されている、液体LQの後退接触角θRに対応した基板Pの許容速度に関する情報とに基づいて、露光処理されるべき基板Pの最適移動速度を、許容速度を超えないように、決定する。
そして、制御装置CONTは、決定した露光条件(基板Pの移動速度)に基づいて、基板Pを液浸露光する。例えば、液体LQの後退接触角θRが小さい場合、基板Pの移動速度を高速化すると、光路空間K1を液体LQで良好に満たすことが困難となる可能性があるため、制御装置CONTは、液体LQの後退接触角θRに応じて、基板Pの移動速度を遅くする。こうすることにより、光路空間K1を液体LQで良好に満たした状態で、基板Pを露光することができる。一方、液体LQの後退接触角θRが大きい場合には、基板Pの移動速度を高速化することができ、スループットを向上することができる。
なお、スループットを考慮すれば、基板Pの移動速度は、後退接触角θRに対応する許容速度に設定されることが望ましい。
また、基板Pの移動速度は、基板P上に露光光ELが照射されている露光中の移動速度(スキャン速度)だけでなく、ショット間に行われるステッピング中の移動速度(ステッピング速度)も含む。
以上説明したように、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRに基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定するようにしたので、異なる種類の膜が形成された複数の基板Pのそれぞれに対して液浸露光を良好に行うことができる。したがって、液浸露光装置EXの汎用性を向上することができる。
なお、本実施形態では、液体LQの後退接触角θRに基づいて、基板Pの移動速度を決定しているが、基板Pの加速度、減速度、移動方向(移動軌跡)、及び一方向への連続的な移動距離の少なくとも一部を決定することができる。すなわち、基板P上で液浸領域LRを所望状態に維持可能な最大の加速度、最大の減速度、最大の移動距離の少なくとも一部と後退接触角θRとの関係を予め求めておき、基板Pの膜と液体LQとに対応する後退接触角θRから求められる許容値を超えないように、加速度、減速度、移動距離の少なくとも一部を決定してもよい。また、後退接触角θRが小さい場合、基板Pの移動方向によっては、液浸領域LRを所望状態に維持できない可能性もあるので、後退接触角θRに応じて、基板Pの移動方向を制限したり、基板Pを所定方向へ移動するときの速度をその他の方向へ移動するときの速度よりも小さくするようにしてもよい。
また、値θRに基づいて、液浸領域LRを形成するために液体LQを供給するときの供給条件、及び液浸領域LRを形成する液体LQを回収するときの回収条件を含む、液浸領域LRを形成するときの液浸条件を決定することができる。例えば、基板P上で液浸領域LRを所望状態に維持可能な最大の液体供給量と後退接触角θRとの関係を予め求めておけば、後退接触角θRから求められる許容値を超えないように液体LQの供給量を決定してもよい。
また、第6実施形態において、液体LQの後退接触角θRの許容範囲を設定し、基板Pを露光する前に、その基板Pが液体(純水)LQに対して許容範囲の後退接触角θRとなる膜を有するか否か、すなわち液浸露光処理するのに適当な膜を有する基板Pか否かを判断するようにしてもよい。
なお、上述の第6実施形態においては、デバイスを製造するために実際に露光される基板Pの表面に液体LQの液滴を配置し、その基板Pを傾斜させたときの液滴の状態を計測装置60で計測するように説明したが、例えば実際に露光される基板Pの表面とほぼ同様の表面を有する物体(例えばテスト基板等)上に液滴を配置し、その物体の表面を傾斜させたときの液滴の状態を計測するようにしてもよい。
<第7実施形態>
また、上述の第6実施形態において、露光装置EX内に計測装置60を搭載せずに、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRを露光装置EXとは別の装置で計測することができる。そして、基板Pを露光するときの露光条件を決定するために、基板Pの表面における液体LQの後退接触角θRの情報が、入力装置INPを介して制御装置CONTに入力される。制御装置CONTは、入力装置INPから入力された後退接触角θRの情報に基づいて、基板Pを露光するときの露光条件を決定する。すなわち、制御装置CONTは、入力装置INPから入力された後退接触角θRの情報と、記憶装置MRYに予め記憶されている、後退接触角θRから液浸領域LRを所望状態に維持可能な条件を導出するための情報とに基づいて、露光処理されるべき基板Pに対する最適露光条件を決定する。
なお、上述の第1〜第7実施形態において、記憶装置MRYの記憶情報を随時更新するようにしてもよい。例えば、記憶装置MRYに記憶されてない更に異なる種類の膜を有する基板Pを露光するときには、この新たな膜について実験又はシミュレーションを行って付着力(静的な接触角及び滑落角)に対応した露光条件を求め、記憶装置MRYに記憶されている記憶情報を更新すればよい。同様に、新たな膜について実験又はシミュレーションを行って後退接触角に対応した露光条件を求め、記憶装置MRYに記憶されている記憶情報を更新すればよい。また、記憶情報の更新には、例えばインターネットを含む通信装置を介して、露光装置EX(記憶装置MRY)に対して遠隔地より行うことも可能である。
また、上述の第1〜第7実施形態において、付着力E(静的な接触角及び滑落角)、又は後退接触角に基づいて基板Pの移動条件を決定した場合、その移動条件に基づいて、ドーズ制御パラメータが調整される。すなわち、制御装置CONTは、決定された基板Pの移動条件に基づいて、露光光ELの光量(強度)、レーザ光のパルス発振周期、露光光ELが照射される投影領域ARの走査方向の幅の少なくとも一つを調整して、基板P上の各ショット領域に対するドーズ量を最適化する。
また、上述の第1〜第7実施形態において、基板P表面の膜の付着力E、静的な接触角θ、滑落角α、後退接触角θRなどが、露光光ELの照射の前後で変化する場合には、露光光ELの照射の前後で基板Pの移動条件及び液浸条件などを変更するようにしてもよい。基板P表面の膜の付着力E、静的な接触角θ、滑落角α、後退接触角θRなどが露光光ELの照射の有無、液体LQとの接触時間、基板P表面の膜が形成されてからの経過時間の少なくとも一つに応じて変化する場合には、露光光ELの照射の有無、液体LQとの接触時間、基板P表面の膜が形成されてからの経過時間の少なくとも一つを考慮して、基板Pの移動条件及び液浸条件などの露光条件を決定するのが望ましい。
また、上述の第1〜第7実施形態において、付着力E(静的な接触角θ及び滑落角α)、又は後退接触角θRに基づいて露光条件を決定するようにしているが、液体LQの他の物性(粘性、揮発性、耐液性、表面張力、屈折率の温度依存性(dn/dT)、雰囲気の溶存性(液体LQと接触する気体の液体LQ中への溶けやすさなど)も考慮して、露光条件を決定するようにしてもよい。
また、上述の第1〜第7実施形態において、付着力E(静的な接触角θ及び滑落角α)、又は後退接触角θRに基づいて露光条件を決定するようにしているが、基板P表面に形成される膜と液体との界面におけるすべり状態(例えば、基板P上に液浸領域が形成されている状態で、基板P表面とほぼ平行に基板Pを所定速度で移動したときに生じる、膜と液体との界面における膜と液体との相対速度)に基づいて露光条件を決定するようにしてもよい。
また、上述の第1〜第7実施形態において、基板P表面の膜に応じて基板Pの移動条件及び液浸条件などを決定しているが、基板ステージPSTの上面97など、基板P以外の他の物体上に液浸領域を形成する場合には、その物体表面の膜に応じて、基板ステージPSTの移動条件及び基板ステージPST上での液浸条件などを決定するのが望ましい。
上述したように、本実施形態における液体LQは純水である。純水は、半導体製造工場等で容易に大量に入手できるとともに、基板P上のフォトレジスト及び・又は光学素子(レンズ)等に対する悪影響がない利点がある。また、純水は環境に対する悪影響がないとともに、不純物の含有量が極めて低いため、基板Pの表面、及び投影光学系PLの先端面に設けられている光学素子の表面を洗浄する作用も期待できる。
そして、波長が193nm程度の露光光ELに対する純水(水)の屈折率nはほぼ1.44程度と言われており、露光光ELの光源としてArFエキシマレーザ光(波長193nm)を用いた場合、基板P上では1/n、すなわち約134nmに短波長化されて高い解像度が得られる。更に、焦点深度は空気中に比べて約n倍、すなわち約1.44倍に拡大されるため、空気中で使用する場合と同程度の焦点深度が確保できればよい場合には、投影光学系PLの開口数をより増加させることができ、この点でも解像度が向上する。
本実施形態では、投影光学系PLの先端に光学素子LS1が取り付けられており、この光学素子により投影光学系PLの光学特性、例えば収差(球面収差、コマ収差等)の調整を行うことができる。なお、投影光学系PLの先端に取り付ける光学素子としては、投影光学系PLの光学特性の調整に用いる光学プレートであってもよい。あるいは露光光ELを透過可能な平行平面板であってもよい。
なお、液体LQの流れによって生じる投影光学系PLの先端の光学素子と基板Pとの間の圧力が大きい場合には、その光学素子を交換可能とするのではなく、その圧力によって光学素子が動かないように堅固に固定してもよい。
なお、本実施形態では、投影光学系PLと基板P表面との間は液体LQで満たされている構成であるが、例えば基板Pの表面に平行平面板からなるカバーガラスを取り付けた状態で液体LQを満たす構成であってもよい。
また、上述の実施形態の投影光学系は、先端の光学素子の像面側の光路空間を液体で満たしているが、国際公開第2004/019128号パンフレットに開示されているように、先端の光学素子の物体面側の光路空間も液体で満たす投影光学系を採用することもできる。
なお、本実施形態の液体LQは水であるが、上述したように水以外の液体であってもよい、例えば、露光光ELの光源がF2レーザである場合、このF2レーザ光は水を透過しないので、液体LQとしてはF2レーザ光を透過可能な例えば、過フッ化ポリエーテル(PFPE)あるいはフッ素系オイル等のフッ素系流体であってもよい。この場合、液体LQと接触する部分には、例えばフッ素を含む極性の小さい分子構造の物質で薄膜を形成することで親液化処理する。また、液体LQとしては、その他にも、露光光ELに対する透過性があってできるだけ屈折率が高く、投影光学系PL、及び/又は基板P表面に塗布されているフォトレジストに対して安定なもの(例えばセダー油)を用いることも可能である。
また、液体LQとしては、屈折率が1.6〜1.8程度のものを使用してもよい。更に、石英及び蛍石よりも屈折率が高い(例えば1.6以上)材料で光学素子LS1を形成してもよい。
なお、上記各実施形態の基板Pとしては、半導体デバイス製造用の半導体ウエハのみならず、ディスプレイデバイス用のガラス基板、薄膜磁気ヘッド用のセラミックウエハ、あるいは露光装置で用いられるマスクまたはレチクルの原版(合成石英、シリコンウエハ)等が適用される。
露光装置EXとしては、マスクMと基板Pとを同期移動してマスクMのパターンを走査露光するステップ・アンド・スキャン方式の走査型露光装置(スキャニングステッパ)の他に、マスクMと基板Pとを静止した状態でマスクMのパターンを一括露光し、基板Pを順次ステップ移動させるステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置(ステッパ)にも適用することができる。
また、露光装置EXとしては、第1パターンと基板Pとをほぼ静止した状態で第1パターンの縮小像を投影光学系(例えば1/8縮小倍率で反射素子を含まない屈折型投影光学系)を用いて基板P上に一括露光する方式の露光装置にも適用できる。この場合、更にその後に、第2パターンと基板Pとをほぼ静止した状態で第2パターンの縮小像をその投影光学系を用いて、第1パターンと部分的に重ねて基板P上に一括露光するスティッチ方式の一括露光装置にも適用できる。また、スティッチ方式の露光装置としては、基板P上で少なくとも2つのパターンを部分的に重ねて転写し、基板Pを順次移動させるステップ・アンド・スティッチ方式の露光装置にも適用できる。
また、本発明は、特開平10−163099号公報、特開平10−214783号公報、特表2000−505958号公報などに開示されているような複数の基板ステージを備えたツインステージ型の露光装置にも適用できる。
更に、特開平11−135400号公報及び特開2000−164504号公報に開示されているように、基板を保持する基板ステージと基準マークが形成された基準部材及び各種の光電センサを搭載した計測ステージとを備えた露光装置にも本発明を適用することができる。
また、上述の実施形態においては、投影光学系PLと基板Pとの間に局所的に液体を満たす露光装置を採用しているが、本発明は、特開平6−124873号公報、特開平10−303114号公報、米国特許第5,825,043号などに開示されているような露光対象の基板の表面全体が液体中に浸かっている状態で露光を行う液浸露光装置にも適用可能である。
露光装置EXの種類としては、基板Pに半導体素子パターンを露光する半導体素子製造用の露光装置に限られず、液晶表示素子製造用又はディスプレイ製造用の露光装置、薄膜磁気ヘッド、撮像素子(CCD)あるいはレチクル又はマスクなどを製造するための露光装置などにも広く適用できる。
なお、上述の実施形態においては、光透過性の基板上に所定の遮光パターン(又は位相パターン・減光パターン)を形成した光透過型マスクを用いたが、このマスクに代えて、例えば米国特許第6,778,257号公報に開示されているように、露光すべきパターンの電子データに基づいて透過パターン又は反射パターン、あるいは発光パターンを形成する電子マスクを用いてもよい。
また、国際公開第2001/035168号パンフレットに開示されているように、干渉縞を基板P上に形成することによって、基板P上にライン・アンド・スペースパターンを露光する露光装置(リソグラフィシステム)にも本発明を適用することができる。
本願実施形態の露光装置EXは、本願特許請求の範囲に挙げられた各構成要素を含む各種サブシステムを、所定の機械的精度、電気的精度、光学的精度を保つように、組み立てることで製造される。これら各種精度を確保するために、この組み立ての前後には、各種光学系については光学的精度を達成するための調整、各種機械系については機械的精度を達成するための調整、各種電気系については電気的精度を達成するための調整が行われる。各種サブシステムから露光装置への組み立て工程は、各種サブシステム相互の、機械的接続、電気回路の配線接続、気圧回路の配管接続等が含まれる。この各種サブシステムから露光装置への組み立て工程の前に、各サブシステム個々の組み立て工程があることはいうまでもない。各種サブシステムの露光装置への組み立て工程が終了したら、総合調整が行われ、露光装置全体としての各種精度が確保される。なお、露光装置の製造は温度およびクリーン度等が管理されたクリーンルームで行うことが望ましい。
半導体デバイス等のマイクロデバイスは、図12に示すように、マイクロデバイスの機能・性能設計を行うステップ201、この設計ステップに基づいたマスク(レチクル)を製作するステップ202、デバイスの基材である基板を製造するステップ203、前述した実施形態の露光装置EXによりマスクのパターンを基板に露光する処理を含むステップ204、デバイス組み立てステップ(ダイシング工程、ボンディング工程、パッケージ工程を含む)205、検査ステップ206等を経て製造される。
1…液浸機構、60…計測装置、CONT…制御装置、EL…露光光、EX…露光装置、INP…入力装置、LQ…液体、LR…液浸領域、MRY…記憶装置、P…基板、PST…基板ステージ