JP3941056B2 - 乳製品用の品質改良剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は乳製品用の安定剤及び/または食感改良剤として有用な食品添加組成物、当該組成物を含有する乳製品、ならびに当該乳製品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
乳製品には、食感(口当たり)や外観(光沢)といった官能的性質だけでなく、保形性や保水性などの機能の向上を目的として、従来よりゼラチンや乳清たんぱく(αラクトアルブミン、βラクトグロブリン)に代表される動物性たんぱくが配合されている。
【0003】
しかし昨今のBSE(牛海綿状脳症)や食物アレルギー問題を契機として、乳製品中の動物性たんぱくの配合量を削減あるいは低減する必要性が急速に高まってきている。ゼラチンや乳清たんぱく等の削減あるいは低減は、ヒトの嗜好に関わる粘弾性等の物理特性値を低下させるだけでなく、食品構造にも悪影響を与え、保存安定性の劣化(乳漿分離)の原因となる。
【0004】
動物性たんぱくの代替として、大豆や小麦由来の植物性たんぱくが使用される場合もあるが、特に風味の点で改善すべき点が多く、汎用されるに至っていない。また、動物(牛、羊、山羊)乳の代わりに豆乳などの植物乳を使用する場合もあるが、動物乳を使用した製品のような食感、風味、機能性は再現できていない。
【0005】
一方、油脂およびカロリーの過剰摂取による肥満、成人病の問題も依然として根深い。このため、食品業界における低脂肪・低カロリー食品へのニーズは相変わらず高く、特に乳製品のような健康志向の強い食品では、その傾向が強い。しかし、食品中の油脂は、濃厚感に代表されるいわゆる高級イメージの食感には必要不可欠な成分であり、単純に油脂を削減したり低減することは嗜好性の大幅な低下を招く場合が多い。
【0006】
嗜好性や機能性を低下させることなく乳製品中のたんぱく素材や油脂成分を他の成分で代替する方法として、例えば化工澱粉を利用する方法が提案されている。具体的には、化工澱粉の乳製品への利用については、「ペースト状食品類」に関する特許公報(例えば、特許文献1等参照のこと)にみられるように、架橋型ヒドロキシプロピルリン酸澱粉および/または酢酸澱粉を配合することによりその保存安定性を改良する方法、および「ゲル化剤、増粘剤および安定剤としての使用のためのヒドロコロイド組成物」に関する公表特許公報(例えば、特許文献2等参照のこと)にみられるように、高アミロース澱粉、非ゲル化性の増粘用澱粉、および非ゲル化性の安定化用澱粉からなる組成物を用いて、乳製品中のゼラチン、ガム、および脱脂紛乳の少なくとも一部を代替する方法が知られている。また、多糖類の利用も提案されている。具体的には「澱粉を含まない貯蔵安定性のあるヨーグルト製品」に関する公開特許公報(例えば、特許文献3参照のこと)にみられるように、アルギニン、カラギナン、およびペクチンから選ばれる少なくとも1種類以上の多糖類を配合することにより、乳製品の貯蔵安定性を改良する方法が知られている。
【0007】
このように乳製品中の動物性たんぱくまたは油脂成分の代替法として、従来より化工澱粉あるいは多糖類をそれぞれ単独で使用する方法が知られている。しかしながら、通常、安定剤として化工澱粉を乳製品に配合した場合、機能的には保水性の向上、食感的には濃厚感の付与等の効果があるものの、十分な保形性が得られないこと、糊的な食感が強く口どけ感が悪くなること、およびフレーバーリリースが低下すること等の問題がある。一方、安定剤として澱粉以外の多糖類を乳製品に配合した場合、機能的には保形性の向上、食感的には口どけ感の改良効果があるものの、十分な保水性が得られないこと、油脂様の濃厚感が得られないこと等の問題がある。即ち、従来の技術で乳製品に期待される全ての特性を満足することはできないのが現状である。
【0008】
一方、化工澱粉と多糖類とを併用した例としては例えば「ヨーグルト類の製造方法及びヨーグルト類加工品」に関する特許公報(例えば、特許文献4等参照のこと)を挙げることができる。ここでは、安定剤として化工澱粉を主剤にして、これにガム類を併用する方法が記載されている。しかしながら、使用すべき化工澱粉とガム類の種類が特定されておらず、また上記特許公報にガム類として列記されているキサンタンガムやセルロース誘導体を使用した場合、ヨーグルトの最終品質を大幅に低下させることもある。
【0009】
このように、従来より乳製品に関して、嗜好性(食感)と機能性の両面から動植物性たんぱくや油脂に代替しえる食品素材が求められているにも拘わらず、未だ満足できるものがないのが現状である。
【0010】
【特許文献1】
特公昭63-8741号公報
【0011】
【特許文献2】
特表2002-514395号公報
【0012】
【特許文献3】
特開昭63-133940号公報
【0013】
【特許文献4】
特許第3240917号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はかかる事情に鑑みて開発されたものであり、保形性や保水性等の機能性および/または濃厚感・クリーミー感に代表される食感に優れた乳製品、当該乳製品の製造方法、および当該乳製品の調製に有用な食品添加組成物を提供することを目的とする。また、乳製品中に存在する動植物性たんぱく質および/もしくは油脂を低減した乳製品、当該製造法、および当該乳製品の調製に有用な食品添加組成物を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記従来技術の問題点に鑑み、鋭意研究を重ねていたところ、(a)化工澱粉、特にワキシーコーン若しくはタピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉または/および水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、(b)カルシウム反応性ゲル化剤である低メトキシル(LM)ペクチン、および(c)中性多糖類である寒天の三成分を含有する組成物が、乳製品の嗜好性や機能性の両面から、本来配合されるべき動植物性たんぱくや油脂に代替できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は下記に掲げるものである:
項1−1. (a)化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天を含有することを特徴とする乳製品。
項1−2. (a)化工澱粉が、 (a) ワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種である項1−1に記載の乳製品。
項2. ヨーグルトである項1−1または項1−2に記載の乳製品。
項3. 製造原料の一部として、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いることを特徴とする乳製品の製造方法。
項4. 製造原料として、動植物性たんぱくおよび/または油脂の一部または全てに代えて、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、 (b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いることを特徴とする乳製品の製造方法。
項5. 均質化工程を経て調製される乳製品の製造方法であって、当該均質化工程前に原料の温度が(To-5)℃〜(To+5)℃〔ここで、Toは化工澱粉の膨潤開始温度(℃)を意味する。〕の範囲になるように温度調整処理を行うことを特徴とする項3または4に記載の乳製品の製造方法。
項6. 乳製品がヨーグルトである項5に記載の乳製品の製造方法。
項7. 原料成分の一部として、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いて、乳製品を調製することを特徴とする、乳製品の安定性改良方法。
項8. 乳製品の保形性および保水性を改良する方法である、項7に記載の乳製品の安定性改良方法。
項9. 原料成分の一部として、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いて、乳製品を調製することを特徴とする、乳製品の食感改良方法。
項10. 食感が濃厚感および口どけ感である、項9に記載の乳製品の食感改良方法。
項11. (a)化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を含有することを特徴とする乳製品用の食品添加組成物。
項12. (b) LMペクチンが、DE(エステル化度)が20〜35の範囲にあるものである、項11に記載の食品添加組成物。
項13. (c) 寒天が、水に対する溶解温度が70〜90℃の範囲にあるものである、項11または12に記載の食品添加組成物。
項14. (a) 化工澱粉を45〜95重量%、(b) LMペクチンを2.5〜25重量%、および(c) 寒天を2.5〜25重量%の割合で含む、項11乃至13のいずれかに記載の食品添加組成物。
項15. 乳製品の安定剤として用いられる項11乃至14のいずれかに記載の食品添加組成物。
項16. 乳製品の食感改良剤として用いられる項11乃至14のいずれかに記載の食品添加組成物。
項17. 乳製品に対して、動植物性たんぱくおよび/または油脂の代替品として用いられる項11乃至16のいずれかに記載の食品添加組成物。
【0017】
【発明の実施の形態】
(1)乳製品及びその製造方法
本発明は、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、および(c)寒天の三成分を含有することを特徴とする乳製品を提供する。
【0018】
一般に、乳製品とは、牛乳またはその一部を原料とし、これを加工した製品を意味するものであり、例えばクリーム、バター、バターオイル、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、発酵乳、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3%以上を含むもの)及び乳飲料が含まれる。本発明においては、乳製品とは上記規定の乳製品に加えて、乳成分が主要原材料である食品(例えば、無脂乳固形分3%未満の乳酸菌飲料)、並びに牛乳以外の山羊やめん羊などの動物乳や豆乳などの植物乳またはそれらの一部を原料とし、これを上記の如く加工した製品も含まれる。好ましくは、発酵乳、チーズ、バター、アイスクリーム類、クリーム、乳酸菌飲料(3%以上及び3%以下の無脂乳固形分を含むものがいずれも含まれる)、及び乳飲料等を挙げることができる。より好ましくは発酵乳、チーズ、バター、アイスクリーム類、及びクリームであり、さらにより好ましくは発酵乳である。
【0019】
ここで発酵乳には、酸乳、ヨーグルト、発酵バターミルク、アシドフィラスミルク、スキール、及びテッテなどの乳酸発酵を主体とした酸乳;並びにケフィアやクミスなどの乳酸発酵とアルコール発酵の混合発酵製品であるアルコール発酵乳が含まれる。好ましくは乳酸発酵を主体とした酸乳であり、中でも好適にはヨーグルトを挙げることができる。なお、ヨーグルトの種類は特に制限されず、公知の種類、例えばプレーンヨーグルト、ハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルト(液状ヨーグルト)、ヨーグルトデザート、フローズンヨーグルト等がいずれも含まれる。
【0020】
また、アイスクリーム類には、アイスクリーム、アイスミルク、及びラクトアイスが含まれる。さらに、クリームとしては、脂肪率が10〜18%のハーフクリーム、20%前後のライトクリーム、40%程度のヘビークリーム、45%以上のダブルクリームのいずれもが含まれる。クリームの種類(用途)は特に制限されず、コーヒークリーム、生クリーム、カスタードクリーム、ホイップクリーム、発酵クリーム、サワークリームを挙げることができる。好ましくは生クリーム、カスタードクリーム、ホイップクリームである。
【0021】
本発明の乳製品に含有される化工澱粉(変性澱粉、加工澱粉ともいわれる)とは、トウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、もち米、タピオカ、サゴヤシ等の澱粉を原料とし、これらに物理的、化学的あるいは酵素処理を施したものである。なお、これらの澱粉原料は1種単独で用いても、また2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。澱粉原料として好ましくは、トウモロコシまたはタピオカである。トウモロコシの種類として、デント種(馬歯種)、フリント種(硬粒種)、ソフト種(軟粒種)、スイート種(甘味種)、ポップ種(爆裂種)及びワキシー種(もち種)が知られている。本発明においても特に制限されず任意の種類のトウモロコシを澱粉原料として用いることができるが、好ましくは澱粉がもち性であるワキシー種のトウモロコシ(本明細書においては、単に「ワキシーコーン」ともいう)である。
【0022】
澱粉に物理的、化学的あるいは酵素的処理を施した化工澱粉としては、α化澱粉、湿熱処理澱粉、酸化澱粉、デキストリン、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、架橋澱粉、グラフト化澱粉等を挙げることができる。
【0023】
これらの化工澱粉は食品業界で広く用いられており、その製造方法も公知である(例えば、参考文献1:「加工澱粉の具体的使用方法について」食品技術加工 Vol. 18 No. 3 pp.30-35 (1998);参考文献2:Handbook of Water Soluble Gums and Resins, R.L. Davidson (Ed), Mc Grawhill, Inc., NY, 1980;参考文献3: Starch Chemistry and Technology, 2nd ed, Whistler et al. (Ed), Academic Press, Inc., Orlando, 1984;参考文献4:Modified Starch: Properties and Uses, Wurzburg, O.B., CRC Press, Inc., Florida, 1986等を参照のこと)。例えば、α化澱粉は非加熱状態でも容易に糊状となるためインスタント食品に使用されている。また、澱粉のヒドロキシル基にエステル基やエーテル基を導入したエステル化澱粉やエーテル化澱粉(安定化澱粉)は、糊化温度が低下しまた老化抑制や冷凍・解凍耐性が高まることから、さらにこれらの官能基を架橋させた架橋澱粉(安定化架橋澱粉)は機械耐性が高まることから、いずれも加工食品全般に用いられている。
【0024】
本発明においては、化工澱粉として、架橋澱粉、特に安定化架橋澱粉が好適に用いられる。ここで架橋澱粉及び安定化架橋澱粉の製造方法は、前述するように公知である(参考文献1〜4等)。例えば、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(安定化架橋澱粉の一種)の調製方法として、具体的には、原料として用いる澱粉を、プロピレンオキサイドを用いてヒドロキシプロピルエーテル化処理し、安定化させた後、オキシ塩化リンを用いてリン酸架橋処理を施し、架橋化する方法を例示することができる。
【0025】
また、本発明における化工澱粉として、澱粉のヒドロキシル基にエステル基やエーテル基を導入したエステル化澱粉やエーテル化澱粉(安定化澱粉)も好適に用いることができる。
【0026】
ここでエステル基としては、酢酸基、コハク酸基およびリン酸基等を、またエーテル基としてはカルボキシメチル基やヒドロキシエチル基等を例示することができる。好ましくは、澱粉のヒドロキシル基にヒドロキシプロピル基を導入してなるヒドロキシプロピル化澱粉(St-O-CH2HCOH(CH)3 [St:Starch]:澱粉の−OH基と−CH2CHOHCH3基とがエーテル結合した澱粉)である。
【0027】
本発明で用いられる化工澱粉は、その水流動度(WF)を特に制限するものではなく、目的に応じて水流動度(WF)を適宜調整することができる。例えば、水流動度(WF)の調整は、上記化工処理に加えて適宜、酸化処理、酵素処理、または酸分解等の処理を組み合わせることによって行うことができる。本発明の食品添加組成物は、使用する化工澱粉の特に水流動度(WF)に基づいて、乳製品の糊的な食感(粘稠感、濃厚感)を調節することができる。
【0028】
なお、ここで水流動度(WF)とは、0〜90の尺度範囲に割付された粘度の経験的測定値であり、粘度の逆数を意味する指標である。その測定方法としては、特表2002-514395号公報の[0030]に記載されるように、100回転に23.12±0.05を要する、24.73mPa・s(cps)の粘度を有する基準油を用いて30℃で校正されたThomas Rotational Shear型粘度計(Arthur A.Thomas Co., Philadelphia, PA)を用いて測定するのが一般的である。本発明で用いられる化工澱粉の好ましい水流動度としては10〜40、更に好ましくは20〜35を挙げることができる。
【0029】
本発明において用いられる化工澱粉として、好ましくはトウモロコシ、特にワキシーコーン、またはタピオカのいずれか少なくとも1方に由来する澱粉を原料として調製される安定化澱粉、架橋澱粉、または安定化架橋澱粉を挙げることができる。より好ましくはワキシーコーンまたはタピオカのいずれか少なくとも1方に由来する澱粉を原料として調製される、ヒドロキシプロピル化澱粉(エーテル化澱粉:安定化澱粉の一種)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(安定化架橋澱粉の一種)である。特にヒドロキシプロピル化澱粉(安定化澱粉の一種)は、水流動度として10〜40を有しているものが好ましい。
【0030】
これらの化工澱粉は広く市販されており、例えば商業的に入手可能な製品として、National Starch and Chemical Company社(NJ, USA)の12211: 132-1,132-2,132-3(いずれもワキシーコーン澱粉由来)および同社の12558: 8-1,8-2(いずれもタピオカ澱粉由来)等を挙げることができる。
【0031】
本発明の乳製品における化工澱粉の機能としては、適用する乳製品に対するリセット力(機械的負荷をかけた後の物性の回復力)の付与、または保水性の改良などを挙げることができる。また食感的には、乳製品に対する濃厚感の付与効果を挙げることができる。
【0032】
なお、本発明の乳製品における化工澱粉の含有割合は、上記三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)の総計100重量%中、通常45〜95重量%であり、好ましくは60〜90重量%、更に好ましくは70〜85重量%である。
【0033】
ペクチンは、例えば野菜や果物に細胞壁成分として存在する、α-D-ガラクツロン酸を主鎖成分とする酸性多糖類である。食品工業の分野では、ゼリー、菓子、およびジャムの基盤素材、あるいは酸性乳飲料の安定剤として広く使用されている。ペクチンを構成するガラクツロン酸は部分的にメチルエステル化されており、エステル化度によってLMペクチンとHMペクチンに分けられる。また、LMペクチンにはC6位が部分的にアミド化されたアミドペクチンもある。
【0034】
本発明の乳製品では、LMペクチン、特にエステル化度が20〜35、好ましくは22〜32、更に好ましくは25〜30のLMペクチンが好適に用いられる。かかるLMペクチンは商業的に入手可能であり、かかる製品としてビストップD-2119(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を挙げることができる。本発明の乳製品におけるLMペクチンの機能としては、適用する乳製品の保形性の改良を挙げることができ、食感的には乳製品に対する濃厚感の付与効果を挙げることができる。
【0035】
なお、本発明の乳製品におけるLMペクチンの含有割合としては、上記三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)の総計100重量%中、通常2.5〜25重量%、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%を挙げることができる。
【0036】
本発明の乳製品に含有される寒天とは、β-D-ガラクトースと3,6-アンヒドロ-α-Lガラクトースの繰り返し構造(アガロビオース)をモノマーとする、紅藻由来の多糖類である。寒天はアガロースとアガロペクチンの2成分からなるが、ゲル化を支配するアガロースは酸性基を殆ど持たない。食品工業の分野では、主にデザートゼリー、ようかん、およびところてん等の基盤素材として古くから使用されてきている。製造方法により種々の特性を有する寒天を調製することが可能であり、これにより最近ではドレッシング、マヨネーズ、および飲料等でも寒天が使用されるようになっている。
【0037】
本発明の乳製品においては、海藻抽出液(ゾル)を直接乾燥することで寒天分子の絡み合いを少なくし、水に対する溶解温度を低下させた寒天(いわゆる易溶性寒天(即溶性寒天を含む))が好適に用いられる。常法、即ち海藻抽出液(ゾル)をいったんゲル化させた後、乾燥させる方法により製造された寒天は、通常水に溶解するには、最初に水中に5〜10分間浸漬後、加熱し、沸騰後5〜10分間煮沸する必要がある。これに対し上記の易溶性寒天は、分子構造に柔軟性があるため水に対する溶解温度が低く、70〜90℃の水に対して容易に溶解(分子分散)することができる。
【0038】
かかる溶解特性を有する易溶性寒天は、特に90℃を越えるような高温加熱処理を施さないで調製される乳製品に対して好適に用いることができる。例えば、ヨーグルトの場合、その製造には、LTLT(Low Temperature Long Time)殺菌、HTST(High Temperature Short Time)殺菌、UHT(Ultra High Temperature)殺菌などの加熱殺菌工程が採用されるが、UHT殺菌を除くと処理温度はいずれも90℃以下である場合が多い。本発明の食品添加組成物は、こうした製造工程(加熱殺菌工程)で調製されるヨーグルト等の乳製品に適用された場合にも、原料混合物中で溶解しゲル化特性を発揮するように、寒天として易溶性寒天を使用することが好ましい。商業的に入手可能な易溶性寒天としてゲルアップJ-3762(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を挙げることができる。
【0039】
本発明の乳製品における寒天の機能としては、適用する乳製品の保形性の改良、外観(光沢)の改良を挙げることができ、食感的には乳製品に対する口どけの改良効果を挙げることができる。
【0040】
なお、本発明の乳製品における寒天の含有割合は、上記三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)の総計100重量%中、通常2.5〜25重量%、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%を挙げることができる。
【0041】
本発明の乳製品は、少なくとも上記三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)を含有するものであればよいが、本発明の効果を奏する限りにおいて、他に任意の成分を配合することもできる。
【0042】
例えば、LMペクチンと同様の性質を有するカルシウム反応性ゲル化剤を、LMペクチンの効果を妨げない範囲内で併用することもできる。ここでカルシウム反応性ゲル化剤とは、分子内にアニオン性の官能基を有し、カルシウムを介したイオン結合や配位結合(いわゆるegg-boxモデル)により三次元ネットワーク構造を構築し、ゲルを形成する素材であり、具体的には、カラギナン、アルギン酸、アルギン酸の塩もしくはエステル化物、またはジェランガムなどを挙げることができる。
【0043】
カラギナンはβ-D-ガラクトースと3,6-アンヒドロα-D-ガラクトースの繰り返し構造(カラビオース)をモノマーとする、紅藻由来の酸性多糖類である。食品工業の分野では、デザートゼリーおよびプリンの基盤素材、アイスクリーム、食肉加工品、およびソース類等の安定剤、保水性改良剤、食感改良剤として広く使用されている。カラギナンは硫酸基の位置およびアンヒドロ糖の有無によって、主としてκ型、ι型、およびλ型の3種類に分類される。本発明の乳製品ではι型カラギナンが好適に用いられ、かかる商業的に入手可能な製品としてカラギニンCSI-1(三栄源エフエフアイ株式会社)を挙げることができる。
【0044】
アルギン酸はβ-1,4 D-ポリマンヌロン酸およびα-1,4 L-ポリグルロン酸を構成成分とする、褐藻由来の酸性多糖類である。食品工業の分野では、デザートゼリーおよびプリンの基盤素材、ドレッシングおよびソース類の安定剤として広く利用されている。日本ではアルギン酸以外にも、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸の塩、アルギン酸プロピレングリコールエステル(PGA)等のアルギン酸のエステル化物が食品添加物として認められている。本発明の乳製品ではアルギン酸ナトリウムが好適に用いられ、商業的に入手可能な製品としてキミツアルギニンFB-H(君津化学)を挙げることができる。
【0045】
ジェランガムはSphingomonas elodeaが産出する発酵多糖類であり、β-D-グルコース、β-D-グルクロン酸、β-D-グルコース、α-L-ラムノースの繰り返し構造をモノマーとする直鎖状の多糖類である。発酵直後のジェランガムは、モノマーの末端グルコースのC6位にアセチル基(置換度0.5)、及びC2位にグリセリル基を有しており(これをネイティブ型ジェランガムという)、これらの官能基はアルカリ処理によって除去することができる(こうして得られたジェランガムを脱アシル型ジェランガムという)。なお、本発明でジェランガムとは、これらのネイティブ型と脱アシル型のいずれも含むものである。かかるジェランガムは、食品工業の分野で、デザートゼリー、ゼリー飲料、プリン、ジャム、およびフィリング等の基盤素材、マイクロゲルの様態でドレッシング類や果肉飲料の分散剤、あるいは菓子類のコーティング剤として広く用いられている。本発明の乳製品では、ジェランガムとして脱アシル型ジェランガムを好適に用いることができ、かかる商業的に入手可能な製品としてケルコゲル(CPケルコ社)を挙げることができる。
【0046】
本発明の乳製品に、ペクチン以外にこうしたカルシウム反応性ゲル化剤を用いる場合、その配合割合として上記三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)とカルシウム反応性ゲル化剤との総計100重量%中、2.5〜25重量%、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%を挙げることができる。
【0047】
また、本発明の乳製品においては、寒天以外の中性多糖類を寒天の効果を妨げない範囲内で併用することもできる。ここで中性多糖類とは、分子内にイオン性の官能基を殆どあるいは全く有さない多糖類のことをいい、例えばガラクトマンナン(グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、およびこれら成分からなる同時抽出品等)、グルコマンナン(コンニャク粉を含む)などを挙げることができる。
【0048】
ガラクトマンナンは、β-1,4 D-マンナンの主鎖骨格に側鎖としてα-D-ガラクトースが1,6結合した、マメ科植物由来の中性多糖類である。グアガム、タラガム、およびローカストビーンガムが工業的に生産されており、グアガム>タラガム>ローカストビーンガムの順で側鎖基含量が高く、水への溶解性も高い。食品工業の分野では、ガラクトマンナン単独あるいはキサンタンガムやカラギナンとの併用系で、アイスクリーム類、麺類、ソース・ドレッシング類等に使用されている。本発明の組成物には精製タイプ、未精製タイプのいずれもが適応可能であり、また、酸や酵素により低分子化されたものも適応可能である。寒天との併用下でローカストビーンガムが好適に用いられる。入手可能な製品としてローカストビーンガムF(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を挙げることができる。
【0049】
グルコマンナンは食用コンニャクの主成分であり、β-D-グルコースとβ-D-マンノースを構成糖とする。コンニャクの塊茎を水洗、スライスし、乾燥、粉砕後、デンプン質を風力選別により除去したものがコンニャク粉である。コンニャク粉に含まれる不純物を、アルコール精製法により除去したものがグルコマンナンである。カラギナンとの併用により弾力性の強いゲルを形成する現象を利用し、食品工業の分野では、主にデザートゼリー(いわゆるコンニャクゼリー)の基盤素材として用いられている。本発明の組成物にはコンニャク粉、グルコマンナンのいずれも適応可能であるが、寒天との併用下でグルコマンナンが好適に用いられる。入手可能な製品としてビストップ2131(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を挙げることができる。
【0050】
本発明の乳製品へ寒天以外の中性多糖類を用いる場合、上記三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)と寒天以外の中性多糖類との総計100重量%中における寒天以外の中性多糖類の含有率は通常2.5〜25重量%であり、好ましくは3〜20重量%、更に好ましくは5〜18%重量である。
【0051】
本発明の乳製品には、本発明の効果(安定性や食感などの品質改良効果)を妨げない範囲において、他にL-アスパラギン酸ナトリウム等のアミノ酸またはその塩、5'-イノシン酸二ナトリウム等の核酸またはその塩、クエン酸一カリウム等の有機酸またはその塩、および塩化カリウム等の無機塩類に代表される調味料;カラシ抽出物、ワサビ抽出物、およびコウジ酸等の日持向上剤;シラコたん白抽出物、ポリリシン、およびソルビン酸等の保存料;α、βアミラーゼ、α、βグルコシダ−ゼ、パパイン等の酵素;クエン酸、フマル酸、コハク酸等のpH調整剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン等の乳化剤;香料;β-カロチン、アナトー色素等の着色料;水溶性大豆多糖類、キサンタンガム、カラヤガム、トラガントガム、ガッティガム、ラムザンガム、ウェランガム、カードラン、プルラン、サイリームシードガム等の増粘多糖類;膨張剤;乳清たん白質、大豆たん白質等のたん白質;ショ糖、果糖、還元デンプン糖化物、エリスリトール、キシリトール等の糖類;スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム等の甘味料;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類;鉄、カルシウム等のミネラル類等を添加することができる。
【0052】
ここで本発明が対象とする乳製品としては、前述のものを広く挙げることができる。しかしながら、本発明の三成分、即ち、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、および(c)寒天を配合することにより、乳製品中の動植物性たんぱく及び/または油脂の一部または全ての代替が可能であることから、慣用の乳製品に比して動植物性たんぱく及び/または油脂を低減してなる乳製品も対象とする。ここで油脂の低減率として、例えば、本来配合される油脂含量100重量%に対して25〜100重量%、好ましくは25〜50重量%を挙げることができる。
【0053】
本発明の乳製品は、主成分に加えて、添加成分として化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、LMペクチン及び寒天を含むものであればよく、その製造過程、好ましくは原料混合もしくは均質化工程の前において、原料成分(添加成分)として上記化工澱粉、LMペクチン及び寒天を各々別個に配合されたものであっても、または2種以上を含む組成物の形態で配合されたものであってもよい。すなわち、本発明の乳製品は、その製造工程で本発明の食品添加組成物のように化工澱粉、LMペクチン及び寒天を3成分の混合組成物として配合し調製されるものに限られない。
【0054】
特に限定されるものではないが、本発明によりヨーグルトを調製する方法として例えば以下のような方法を挙げることができる:
(1)予め混合した砂糖、脱脂紛乳、および本発明の三成分((a)化工澱粉(b) LMペクチン(c)寒天)を、イオン交換水と牛乳の混合液に添加し、撹拌しながら65℃まで加熱する。
(2)65℃で10分間加熱撹拌し、65℃で均質化(14,700kPa)する。
(3)均質化後の調製液を、90℃まで加熱し、撹拌しながら10分間殺菌する。
(4)殺菌後40℃まで冷却、スターターを添加して40℃で静置培養し、pH 4.5になるまで発酵させる。
(5)発酵後、25℃まで撹拌しながら冷却、ペースト化した発酵乳をカップ充填し、4℃で一晩放置して、ソフトヨーグルトを調製する。
【0055】
例えば上記するようにヨーグルトは均質化工程を経て製造されるが、ヨーグルト原料は当該均質化工程に供される前に、用いる化工澱粉の糊化特性を考慮して、加熱調整することが好ましい。かかる加熱温度は、好適には化工澱粉の糊化特性に応じて適宜調節される。加熱工程で澱粉が膨潤しすぎると、均質化により澱粉粒が崩壊して糊的な食感が強くなり、一方、膨潤が不十分だと食感にざらつきが残る傾向があるからである。例えば、用いる化工澱粉の膨潤開始温度をTo℃とすると、均質化工程前の原料の全混合物(原料組成物)の温度がTo±5℃([To−5]℃〜[To+5]℃)、好ましくはTo±3℃([To−3]℃〜[To+3]℃)になるように温度調整することが好ましい。ただし、均質化工程後に化工澱粉を添加する場合はこの限りではない。なお、化工澱粉の膨潤開始温度は、RVA(Rapid Visco Analyzer, Newport Scientific社)を用い、「RVAによる水稲もち米粉糊化特性の簡易検定法」(北陸作物学会報、Vol.30, 50-52, 1995)(参考文献5)に記載される方法で測定することができる。即ち、澱粉と25mLの脱イオン水をRVA測定用容器にとり、30℃から93℃まで21℃/minで昇温、93℃で7分間保持、その後93℃から30℃まで21℃/minで降温して得られたRVA曲線から、膨潤開始温度(RVA曲線の立ち上がり温度)を測定することができる。なお、この際、RVA曲線における最高粘度が400-500RVAUの範囲に入るように澱粉濃度を調整することが好ましい。
【0056】
当該均質化工程前の原料の温度調整は、ヨーグルトに限らず、均質化工程を経て製造される乳製品に広く適用することができる。均質化工程を経て製造される乳製品としては、具体的に、クリーム、チーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、発酵乳、乳酸菌飲料(無脂乳固形分3%以上を含むもの)及び乳飲料を挙げることができる。また上記規定の乳製品に加えて、乳成分が主要原材料である食品(例えば、無脂乳固形分3%未満の乳酸菌飲料)、並びに牛乳以外の山羊やめん羊などの動物乳や豆乳などの植物乳またはそれらの一部を原料とし、これを上記の如く加工した製品を例示することができる。また、均質化工程を含む製造方法として、例えば、「牛乳・乳製品の知識」(野口洋介著、幸書房、1998)に記載の方法を挙げることができる。
【0057】
本発明の製造方法において、乳製品に配合される化工澱粉、LMペクチン及び寒天の配合割合としては、化工澱粉100重量部に対して、LMペクチン1〜50重量部、好ましくは3〜25重量部、より好ましくは5〜15重量部;また寒天4〜100重量部、好ましくは8〜45重量部、より好ましくは10〜25重量部を挙げることができる。
【0058】
また、乳製品に配合される各成分(化工澱粉、LMペクチン、寒天)の量としては、対象とする乳製品の種類や嗜好性によって異なるが、通常、乳製品100重量%中の化工澱粉の量が0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%となるような範囲で適宜選択して用いることができる。なお、LMペクチン及び寒天の配合量は、上記3成分の配合比率に基づいて適宜設定することができる。
【0059】
(2)乳製品の安定性または/および食感改良方法
本発明は、乳製品の安定性改良方法を提供する。具体的には保存中の乳たんぱくの凝集による保形性の低下および保水性の低下等を防止するのに有効な方法を提供するものである。
【0060】
本発明は、また乳製品の食感改良方法を提供する。より詳細には、乳製品の食感について、「濃厚感」と「口溶け感」といった互いに相反する食感を同時に備えるように改良する方法を提供するものである。
【0061】
近年の健康志向に則った低脂肪で低カロリーの乳製品の調製には、乳たんぱくや乳脂肪含量の低減化は必要不可欠である。しかしながら、βラクトグロブリンやαラクトアルブミンに代表される動物乳由来のたんぱく質や油脂は、乳製品の食品構造、物性および食感に大きく寄与する成分であるため、それらの成分の低減化は、乳製品の保水性や保形性の低下、並びに食感における濃厚感の低下をもたらし、食品としての外観や嗜好性を著しく低下させることになる。
【0062】
乳製品の嗜好性には、食感的な濃厚感が大きく貢献している。ここで濃厚感とは、滑らかでざらつきがなく(クリーミー)、ボディがあって、食品を飲み込んだ後に舌上で皮膜を形成する食感のことをいう。一方、濃厚感と相反する特性として口どけ感がある。口どけ感とは食品が舌にまとわりつかず、口中から適度な時間で消失する性質のことをいう。適度な濃厚感と口どけ感を併せ持つことが、乳製品の理想的な食感といえる。
【0063】
本発明の三成分((a)化工澱粉(b)LMペクチン(c)寒天)を乳製品に配合することにより、乳製品に含まれる乳由来の動植物性たんぱくおよび油脂、または添加成分(例えば安定化剤や食感改良剤等の食品添加物)として配合される動植物性たんぱくおよび油脂の一部または全てを代替しても、保存中の乳たんぱくの凝集による保形性の低下および保水性の低下が防止され、かつ「濃厚感」と「口どけ感」という相反する食感を同時に再現することができる。
【0064】
当該方法は、乳製品の原料成分の一部として、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、および(c)寒天の三成分を用いて乳製品を調製することによって実施することができる。なお、これらの三成分は、乳製品の製造において通常の原料に追加的に用いられてもよいし、乳製品の製造に用いられる動植物性たんぱくおよび/または油脂の一部または全てに代えて用いることもできる。ここで対象とする乳製品の種類、化工澱粉、LMペクチン及び寒天の具体的な例示については、上記(1)章において詳述したものを同様に挙げることができる。
【0065】
本発明の方法において、乳製品に配合する化工澱粉、LMペクチン及び寒天の配合割合としては、化工澱粉100重量部に対して、LMペクチン1〜50重量部、好ましくは3〜25重量部、より好ましくは5〜15重量部;また寒天4〜100重量部、好ましくは8〜45重量部、より好ましくは10〜25重量部を挙げることができる。また、乳製品に配合される各成分(化工澱粉、LMペクチン、寒天)の量としては、対象とする乳製品の種類や嗜好性によって異なるが、通常、乳製品100重量%中の化工澱粉の量が0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%となるような範囲で適宜選択して用いることができる。なお、LMペクチン及び寒天の配合量は、上記3成分の配合比率に基づいて適宜設定することができる。これら三成分の乳製品への配合方法は、特に制限されず、上記(1)章で詳述するように、乳製品の製造過程、好ましくは原料混合もしくは均質化工程の前において、原料成分として上記三成分を各々別個に配合しても、また2種以上を含む組成物の形態(例えば、本発明の食品添加組成物の態様)で配合してもよい。
【0066】
例えば、ヨーグルト、クリーム、チーズ、アイスクリーム類、乳酸菌飲料等のように、均質化工程を経て調製される乳製品の場合、均質化工程前に原料の全混合物(原料組成物)の温度をTo±5℃([To−5]℃〜[To+5]℃)、好ましくはTo±3℃([To−3]℃〜[To+3]℃)(ここで、Toは用いる化工澱粉の膨潤開始温度℃を意味する)になるように調整することが好ましい。ただし、均質化工程後に化工澱粉を添加する場合はこの限りではない。
【0067】
こうすることにより、乳製品中の動植物性たんぱくや油脂が低減された場合であっても、保存中の乳たんぱくの凝集による保形性の低下および保水性の低下等を防止し、「濃厚感」と「口溶け感」という相反する特性を同時に発現するように食感が改良されて、機能性および嗜好性(食感)の両面に優れた乳製品を提供することができる。
【0068】
(3)食品添加組成物
本発明における食品添加組成物は、(a) 化工澱粉、好ましくはワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度10〜40のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、および(c)寒天の三成分を含有することを特徴とする、乳製品、特に乳製品の安定性および/または食感改良に好適に用いられる組成物である。
【0069】
本発明の食品添加組成物における化工澱粉の含有割合は、食品添加組成物100重量%中、通常45〜95重量%であり、好ましくは60〜90重量%、更に好ましくは70〜85重量%である。
【0070】
本発明の食品添加組成物におけるLMペクチンの含有割合としては、食品添加組成物100重量%中、通常2.5〜25重量%、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%を挙げることができる。
【0071】
本発明の食品添加組成物における寒天の含有割合は、食品添加組成物100重量%中、通常2.5〜25重量%、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%を挙げることができる。
【0072】
本発明の食品添加組成物は、少なくとも上記三成分を含有するものであればよいが、本発明の効果を奏する限りにおいて、他に任意の成分を配合することもできる。
【0073】
例えば、LMペクチンと同様の性質を有するカルシウム反応性ゲル化剤を、LMペクチンの効果を妨げない範囲内で併用することもできる。ここでカルシウム反応性ゲル化剤とは、分子内にアニオン性の官能基を有し、カルシウムを介したイオン結合や配位結合(いわゆるegg-boxモデル)により三次元ネットワーク構造を構築し、ゲルを形成する素材であり、具体的には、カラギナン、アルギン酸、アルギン酸の塩もしくはエステル化物、またはジェランガムなどを挙げることができる。
【0074】
本発明の食品添加組成物に、ペクチン以外にこうしたカルシウム反応性ゲル化剤を用いる場合、その配合割合として食品添加組成物100重量%中、2.5〜25重量%、好ましくは3〜10重量%、更に好ましくは4〜8重量%を挙げることができる。
【0075】
また、本発明の食品添加組成物においては、寒天以外の中性多糖類を寒天の効果を妨げない範囲内で併用することもできる。ここで中性多糖類とは、分子内にイオン性の官能基を殆どあるいは全く有さない多糖類のことをいい、例えばガラクトマンナン(グアガム、タラガム、ローカストビーンガム、およびこれら成分からなる同時抽出品等)、グルコマンナン(コンニャク粉を含む)などを挙げることができる。
【0076】
本発明の食品添加組成物100重量%中における寒天以外の中性多糖類の含有率は通常2.5〜25重量%であり、好ましくは3〜20重量%、更に好ましくは5〜18%重量である。
【0077】
本発明の乳製品用の食品添加組成物には、その効果を妨げない範囲において、他にL-アスパラギン酸ナトリウム等のアミノ酸またはその塩、5'-イノシン酸二ナトリウム等の核酸またはその塩、クエン酸一カリウム等の有機酸またはその塩、および塩化カリウム等の無機塩類に代表される調味料;カラシ抽出物、ワサビ抽出物、およびコウジ酸等の日持向上剤;シラコたん白抽出物、ポリリシン、およびソルビン酸等の保存料;α、βアミラーゼ、α、βグルコシダ−ゼ、パパイン等の酵素;クエン酸、フマル酸、コハク酸等のpH調整剤;ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、レシチン等の乳化剤;香料;β-カロチン、アナトー色素等の着色料;水溶性大豆多糖類、キサンタンガム、カラヤガム、トラガントガム、ガッティガム、ラムザンガム、ウェランガム、カードラン、プルラン、サイリームシードガム等の増粘多糖類;膨張剤;乳清たん白質、大豆たん白質等のたん白質;ショ糖、果糖、還元デンプン糖化物、エリスリトール、キシリトール等の糖類;スクラロース、ソーマチン、アセスルファムカリウム、アスパルテーム等の甘味料;ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類;鉄、カルシウム等のミネラル類等を添加することができる。
【0078】
本発明の乳製品用の食品添加組成物は、例えば、化工澱粉、LMペクチン、および寒天をそれぞれ粉体混合して調製することができる。
【0079】
本発明の食品添加組成物は、乳製品の安定性改良、具体的には保存中の乳たんぱくの凝集による保形性の低下および保水性の低下等を防止するのに有効である。ゆえに本発明の食品添加組成物は、乳製品の安定剤、特に乳製品の保形安定剤、凝集抑制剤または離水防止剤として好適に用いることができる。
【0080】
また、本発明の食品添加組成物は、乳製品の食感改良、具体的には濃厚感とともに口溶け感を付与するのに有効であり、乳製品の食感改良剤、特に乳製品に濃厚感及び口溶け感を付与する食感改良剤として好適に用いることができる。
【0081】
これらのことから、本発明は食品添加組成物として、乳製品の品質改良剤(乳製品用の安定剤および/または食感改良剤)を提供するものでもある。
【0082】
かかる本発明の食品添加組成物(乳製品用の安定剤および/または食感改良剤)の乳製品への添加の方法としては、粉体混合して調製した本発明の組成物を脱脂粉乳や砂糖等の粉体原料と一剤化(粉体混合)した後、これを原料乳に溶解する方法が一般的であるが、特に限定されるものではない。例えば、ヨーグルトのような発酵乳の製造においては、本発明の食品添加組成物(乳製品用の安定剤および/または食感改良剤)を予め原料乳に溶解後、スターターを接種して発酵させる方法と、原料乳を発酵させた後、これに本発明の食品添加組成物(乳製品用の安定剤および/または食感改良剤)を粉体のまま、あるいは水などの溶媒に分散、溶解させた後に添加する方法のいずれをも採用することができる。
【0083】
このように本発明の食品添加組成物(乳製品用の安定剤および/または食感改良剤)は、プレーンヨーグルト、ハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルト、および果肉やジャムを分散させたヨーグルトデザート等のヨーグルトに代表される発酵乳;チーズ;バター;アイスクリーム類;並びに生クリーム、カスタードクリーム、ホイップクリーム等のクリーム等の、種々の乳製品の調製に用いることができる。
【0084】
本発明の食品添加組成物によれば、乳製品に含まれる乳由来の動植物性たんぱくおよび油脂、または添加成分(例えば安定化剤や食感改良剤等の食品添加物)として配合される動植物性たんぱくおよび油脂の一部または全てを代替しても、保存中の乳たんぱくの凝集による保形性の低下および保水性の低下が防止され、かつ「濃厚感」と「口どけ感」という相反する食感を同時に再現することができる。このため、本発明の食品添加組成物によれば、動植物性たんぱくや油脂が低減され、低脂肪で低カロリーでありながらも嗜好性の高い乳製品を調製することができる。ゆえに、本発明の食品添加組成物は、乳製品における動植物性たんぱくおよび/または油脂の代替品として、有効に使用することができる。
【0085】
【実施例】
以下、本発明の内容を以下の実験例、実施例、並びに比較例を用いて具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り、「部」は「重量部」を、「%」は、「重量%」を意味するものとする。
【0086】
実験例1
(1)食品添加組成物の調製
化工澱粉として、タピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(安定化架橋澱粉の一種)と水流動度20のヒドロキシプロピル化澱粉(安定化澱粉の一種)との混合物(National Starch and Chemical Company社(NJ, USA):12558 8-1および8-2)、ペクチンとしてエステル化度(DE)が約28のLMペクチン(ビストップD-2119:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、および寒天として易溶性寒天(ゲルアップJ-3762:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。なお、タピオカ由来の化工澱粉12558 8-1および8-2の膨潤開始温度は、それぞれ69.5℃および62.7℃(いずれも、於:濃度20重量%)である。これらの成分を表1に示す配合割合で粉体混合し、本発明の食品添加組成物(実施例a〜f)を調製した。比較のため、上記実施例bまたはeにおいて化工澱粉80重量部の代わりにタピオカ由来の未化工澱粉を80重量部用いて調製した食品添加組成物(比較例a)、およびゼラチン(酸処理)のみからなる食品添加物(比較例b)を調製した。
【0087】
【表1】
【0088】
(2)発酵乳(ソフトヨーグルト)の調製
上記食品添加組成物(実施例a〜f、比較例a、b)を用いて、下記の処方に従ってソフトヨーグルト(実施例1〜6、比較例1、2)を調製した。
【0089】
【表2】
【0090】
具体的には、イオン交換水と牛乳の混合液に、予め十分に混合しておいた脱脂粉乳、グラニュー糖および食品添加組成物(実施例a〜f、比較例a、b)の粉体混合物を添加し、撹拌しながら65℃で10分間加熱溶解した。これを65℃に保持したまま14.7MPaで均質化した後、90℃で10分間加熱殺菌し、40℃まで冷却した。次に、これに、予めベース乳中に分散させたスターターを接種し、40℃で約4時間培養した。pH4.5に達した時点で培養を終了し、25℃まで冷却した。得られたヨーグルトカードを攪拌によりペースト化し、直径約6cm、深さ約4cmのプラスチック製カップにその約100gを充填し、4℃で保存し、発酵乳(ソフトヨーグルト)(実施例1〜6、比較例1〜2)を調製した。
【0091】
(3)発酵乳(ソフトヨーグルト)の評価
上記の調製から3日後に、得られた発酵乳(ソフトヨーグルト)(実施例1〜6、比較例1〜2)の保形性、保水性、凝集性、外観(光沢)、および食感(濃厚感、口溶け感)について評価した。
【0092】
具体的には、カップ中央部から約5gのヨーグルトをスプーンでとり、直径7cm、深さ約0.7cmのプラスチック製蓋の上にのせ、室温で10分間放置し、その後上記各項目について評価した。上記項目の評価方法は以下の通りである。
「保形性」: カップ中央部のすくい取り跡が完全に残っている場合を5、すくい取り跡が完全に消失している場合を1として評価した。
「保水性」: 蓋の上にのせたヨーグルト片に、離水が全く認められない場合を5、離水がヨーグルト片の全体を覆う場合を1として評価した。
「凝集性」: 蓋の上にのせたヨーグルト片と離水した水の界面に、粒状凝集物が全く認められない場合を5、粒状凝集物が界面を完全に埋めた場合を1として評価した。
「光沢」: カップ中のヨーグルトを白色蛍光灯直下で光をあてたときに、表面に凹凸がなく、きらきら光ってみえる状態を5、表面があらく、光を反射しない場合を1として評価した。
「食感」: 濃厚感および口溶け感について、5段階のカテゴリー尺度法(食品ラボにおける官能評価(3)、日本食品化学工学会誌、Vol.48, No.6, 453-466 (2001)等)に従って評価した。
【0093】
評価結果を表3に示す。なお、各評価項目とも5段階(1: 悪い、2: やや悪い、3: やや良い、4: 良い、5: 非常に良い)で評価した。
【0094】
【表3】
【0095】
実施例1〜6はいずれもソフトヨーグルトとして好ましい機能性(保形性、保水性、凝集性)、並びに食感(濃厚感、口溶け感)を有していた。特に実施例2は、動物性たんぱくであるゼラチンを用いて調製した比較例2に最も近い性状を有しており、食感的には濃厚感において比較例2のヨーグルトを上回っていた。このことから本発明の食品添加組成物は、乳製品においてゼラチンのような動物性たんぱくの代替品として有効であることが示された。一方、化工澱粉に代えて未化工澱粉を用いた食品添加組成物(比較例a)で調製したヨーグルト(比較例1)は、保水性の低下および食感的な口溶け感の低下(糊的な食感が強くなる)が顕著であった。このことから、本発明の食品添加組成物の効果(保水性、食感(口溶け感))は使用する化工澱粉の種類に依るところが大きいことがうかがわれた。
【0096】
次に、実施例bの食品添加組成物について、タピオカ化工澱粉12558 8-1(安定化架橋澱粉と安定化澱粉の混合物)80重量部に代えてデキストリン(ED20)(化工澱粉の一種)80重量部、またはペクチン5重量部に代えてデキストリン(ED20)5重量部、または寒天15重量部に代えてデキストリン(ED20)15重量部をそれぞれ用いて食品添加組成物を調製した。そして、これらの3種類の食品添加組成物を用いて、表2に記載する実施例2の処方に従って3種類のソフトヨーグルトを作成し、それぞれ上記項目について評価を行った。その結果、タピオカ化工澱粉に代えてデキストリンを用いた食品添加組成物で調製したヨーグルトは光沢および食感的な口溶け感において優れるものの、保水性や食感的な濃厚感の点で劣っており、化工澱粉として安定化架橋澱粉と安定化澱粉の混合物を使用することによって保水性や食感的な濃厚感が向上することがわかった。
【0097】
一方、LMペクチンに代えてデキストリンを用いた食品添加組成物を用いて調製したヨーグルトは、保形性が低下するとともに食感的にも濃厚感が低下し、また寒天に代えてデキストリンを用いた食品添加組成物を用いて調製したヨーグルトは、保形性および光沢が低下するとともに食感的にも口溶け感が低下した。
【0098】
これらの結果から、本発明における食品添加組成物において、各構成成分は食品中で以下のような機能性を有し、互いに相補的に作用することで、乳製品の安定化及び/または食感改良において一つの協同システムを構築していることが示唆された。
化工澱粉: 保水性の改良、食感的な濃厚感の付与
LMペクチン:保形性の改良、食感的な濃厚感の付与
寒 天 :保形性の改良、光沢の改良、食感的な口どけの改良
以上の結果から、本発明の食品添加組成物によれば、特に食感の面で濃厚感と口溶け感という相反する特性を同時に再現するという、従来の技術では難しいとされてきた問題が解決できることが判明した。
【0099】
実験例2
(1)食品添加組成物の調製
化工澱粉として、ワキシーコーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(安定化架橋澱粉の一種)と水流動度35のヒドロキシプロピル化澱粉(安定化澱粉の一種)との混合物(National Starch and Chemical Company社(NJ, USA):12211 132-1, 132-2, 132-3)、ペクチンとしてエステル化度(DE)が約28のLMペクチン(ビストップD-2119:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、および寒天として易溶性寒天(ゲルアップJ-3762:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。なお、ワキシーコーン由来の化工澱粉12211 132-1、132-2および132-3の膨潤開始温度は、それぞれ68.7℃、68.9℃および69.5℃(いずれも、於:濃度20重量%)である。またその他、中性多糖類としてローカストビーンガム(ローカストビーンガムF:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。これらの成分を表4に示す配合割合で粉体混合し、実施例g〜iの食品添加組成物を調製した。また比較のため、ゼラチン(酸処理)からなる食品添加物(比較例c)を調製した。
【0100】
【表4】
【0101】
(2)発酵乳(ヨーグルト)の調製
上記食品添加組成物を用い、下記の処方に従って、実験例1と同様にヨーグルトを調製した。ヨーグルトデザートの処方を表5に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
得られたヨーグルトカードを攪拌によりペースト化した。このペースト化したヨーグルトとストロベリージャムを80:20重量部の割合で混合し、カップに充填、4℃で保存した。
【0104】
(3)ヨーグルトの評価
上記の調製から3日後に、実験例1と同様にしてヨーグルトデザートの保形性、保水性、不溶性固形分の分散性、および食感(濃厚感および口どけ感)について評価した。なお、不溶性固形分の分散性は、ジャム中の粒状物、繊維状物がヨーグルト中に均一に分散している場合を5、完全に沈殿している場合を1として評価した。
【0105】
評価結果を表6に示す。なお、各評価項目とも5段階(1: 悪い、2: やや悪い、3: やや良い、4: 良い、5: 非常に良い)で評価した。
【0106】
【表6】
【0107】
表6に示すように、実施例7〜10はいずれもヨーグルトデザートとして好ましい機能性、食感を有していた。実施例7〜10は比較例3とほぼ同等の機能性を有し、食感的には濃厚感で比較例3を上回っていた。これらの結果から、本発明の食品添加組成物はヨーグルト全体としての機能性や食感を劣化させることなく、ゼラチンのような動物性たんぱくを完全に代替できることが示された。また、実施例9と10の結果からわかるように、牛乳由来の脂肪分を70%程度低減しても全くヨーグルトの品質に劣化がみとめられないことから(実施例10)、本発明の食品添加組成物が動物性油脂の代替品としても有効であることが示された。
【0108】
通常、乳たんぱく質や乳脂肪の低減は、乳製品の機能性や食感を劣化させ、食品の嗜好性を著しく低下させるが、本発明の食品添加組成物を使用することにより、脂肪低減品でも通常品と同等の品質を有する乳製品を製造することが可能であり、また健康志向の食品開発に非常に有効であることが判明した。
【0109】
実験例3
(1)食品添加組成物の調製
化工澱粉としてワキシーコーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(安定化架橋澱粉の一種)と水流動度35のヒドロキシプロピル化澱粉(安定化澱粉の一種)との混合物{National Starch and Chemical Company社(NJ, USA):12211 132-1(膨潤開始温度68.7℃[於:濃度20重量%])}、ペクチンとしてエステル化度(DE)が約28のLMペクチン(ビストップD-2119:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)、および寒天として易溶性寒天(ゲルアップJ-3762:三栄源エフ・エフ・アイ株式会社)を用いた。これらの成分を表7に示す配合割合で粉体混合し、実施例jの食品添加組成物を調製した。また比較のため、ゼラチン(酸処理)からなる食品添加物(比較例d)を調製した。
【0110】
【表7】
【0111】
(2)発酵乳(ソフトヨーグルト)の調製
上記食品添加組成物を用い、下記の処方に従って、均質化工程前の加熱温度を変更する以外は実験例1と同様にしてソフトヨーグルトを調製した。ヨーグルトの処方を表8に示す。
【0112】
【表8】
【0113】
具体的には、均質化工程前の加熱温度を、実施例11では55℃、実施例12および比較例4では65℃、実施例13では75℃とした。
【0114】
(3)ヨーグルトの評価
上記の調製から3日後に、実験例1と同様にしてソフトヨーグルトの保形性、保水性、凝集性、光沢および食感(濃厚感および口どけ感)について評価した。
【0115】
評価結果を表9に示す。なお、各評価項目とも5段階(1: 悪い、2: やや悪い、3: やや良い、4: 良い、5: 非常に良い)で評価した。
【0116】
【表9】
【0117】
表9に示すように、実施例12(均質化工程前の加熱温度:65℃)は、動物性たんぱくであるゼラチンを用いて調製した比較例4(均質化工程前の加熱温度:65℃)に最も近い性状を有しており、食感的には濃厚感において比較例4のヨーグルトを上回っていた。さらに当該実施例12(均質化工程前の加熱温度:65℃)のヨーグルトは、実施例11(均質化工程前の加熱温度:55℃)及び実施例13(均質化工程前の加熱温度:75℃)に比べて、保水性、凝集性、光沢並びに口溶感において優れていた。
【0118】
なお、前述するように本実験例で使用した化工澱粉(ワキシーコーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉と水流動度35のヒドロキシプロピル化澱粉の混合物)の膨潤開始温度(To)は68.7℃(濃度20%での評価)である。上記の結果から、ヨーグルトの製造において均質化工程前の加熱温度を(To-5)℃〜(To+5)℃の範囲になるように調整したとき、配合した化工澱粉の機能が最も効率よく発揮されることが示された。
Claims (15)
- (a)ワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天を含有することを特徴とするヨーグルト。
- 製造原料の一部として、(a)ワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いることを特徴とするヨーグルトの製造方法。
- 製造原料として、動植物性たんぱくおよび/または油脂の一部または全てに代えて、(a)ワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いることを特徴とするヨーグルトの製造方法。
- 均質化工程を経て調製されるヨーグルトの製造方法であって、当該均質化工程前に原料の温度が(To−5)℃〜(To+5)℃〔ここで、Toは化工澱粉の膨潤開始温度(℃)を意味する。〕の範囲になるように加熱処理を行うことを特徴とする請求項2または3に記載のヨーグルトの製造方法。
- 原料成分の一部として、(a)ワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いて、ヨーグルトを調製することを特徴とする、ヨーグルトの安定性改良方法。
- ヨーグルトの保形性および保水性を改良する方法である、請求項5に記載のヨーグルトの安定性改良方法。
- 原料成分の一部として、(a)ワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種の化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を用いて、ヨーグルトを調製することを特徴とする、ヨーグルトの食感改良方法。
- 食感が濃厚感および口どけ感である、請求項7に記載のヨーグルトの食感改良方法。
- (a)化工澱粉、(b)LMペクチン、及び(c)寒天の三成分を含有し、上記(a)化工澱粉がワキシーコーンに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、タピオカに由来するヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、ワキシーコーンに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉、及びタピオカに由来する水流動度20〜35のヒドロキシプロピル化澱粉よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするヨーグルト用の食品添加組成物。
- (b)LMペクチンが、DE(エステル化度)が20〜35の範囲にあるものである、請求項9に記載の食品添加組成物。
- (c)寒天が、水に対する溶解温度が70〜90℃の範囲にあるものである、請求項9または10に記載の食品添加組成物。
- (a)化工澱粉を45〜95重量%、(b)LMペクチンを2.5〜25重量%、および(c)寒天を2.5〜25重量%の割合で含む、請求項9乃至11のいずれかに記載の食品添加組成物。
- ヨーグルトの安定剤として用いられる請求項9乃至12のいずれかに記載の食品添加組成物。
- ヨーグルトの食感改良剤として用いられる請求項9乃至12のいずれかに記載の食品添加組成物。
- ヨーグルトに対して、動植物性たんぱくおよび/または油脂の代替品として用いられる請求項9乃至14のいずれかに記載の食品添加組成物。
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