JP2009167821A - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】メイン噴射に先立ってパイロット噴射を実行可能としたディーゼルエンジンに対し、パイロット噴射の噴射形態の適正化を図る。
【解決手段】気筒内の圧縮ガス温度と燃料の自着火温度との差から総パイロット噴射量を算出する。パイロット噴射として、複数回の分割パイロット噴射を行い、分割パイロット噴射1回当たりの噴射量をインジェクタの最小限界噴射量に設定することで、各分割パイロット噴射量を抑制し、燃料の貫徹力を低く抑えて、燃料の壁面付着を回避すると共に、燃料を気筒内中央部に滞留させる。
【選択図】図4
【解決手段】気筒内の圧縮ガス温度と燃料の自着火温度との差から総パイロット噴射量を算出する。パイロット噴射として、複数回の分割パイロット噴射を行い、分割パイロット噴射1回当たりの噴射量をインジェクタの最小限界噴射量に設定することで、各分割パイロット噴射量を抑制し、燃料の貫徹力を低く抑えて、燃料の壁面付着を回避すると共に、燃料を気筒内中央部に滞留させる。
【選択図】図4
Description
本発明は、ディーゼルエンジンに代表される内燃機関の燃料噴射制御装置に係る。特に、本発明は、燃料噴射弁からの主噴射(以下、メイン噴射と呼ぶ場合もある)に先立つ副噴射(以下、パイロット噴射と呼ぶ場合もある)が実行可能な圧縮自着火式の内燃機関に対し、この副噴射の噴射形態の改良に関する。
従来から周知のように、自動車用エンジン等として使用されるディーゼルエンジンでは、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて、燃料噴射弁(以下、インジェクタと呼ぶ場合もある)からの燃料噴射時期や燃料噴射量を調整する燃料噴射制御が行われている。
ところで、ディーゼルエンジンの燃焼は、予混合燃焼と拡散燃焼とによって成り立っている。燃料噴射弁からの燃料噴射が開始されると、まず燃料の気化拡散により可燃混合気が生成される(着火遅れ期間)。次に、この可燃混合気が燃焼室の数ヶ所でほぼ同時に自己着火し、急速に燃焼が進む(予混合燃焼)。さらに、燃焼室内への燃料噴射が継続され、燃焼が継続的に行われる(拡散燃焼)。その後、燃料噴射が終了した後にも未燃燃料が存在するため、しばらくの間、熱発生が続けられる(後燃え期間)。
また、ディーゼルエンジンでは、着火遅れ期間が長くなるほど、あるいは着火遅れ期間における燃料の気化が激しいほど、着火後の火炎伝播速度が増大する。この火炎伝播速度が大きくなると、一時に燃える燃料の量が多くなり過ぎて、シリンダ内の圧力が急激に増大し、振動や騒音が発生する。こうした現象はディーゼルノッキングとよばれており、特に低負荷運転時に発生することが多い。また、このような状況では、燃焼温度の急激な上昇に伴って窒素酸化物(以下、「NOx」と呼ぶ)の発生量も増大し、排気エミッションが悪化してしまう。
そこで、こうしたディーゼルノッキングを防止したり、NOx発生量を低減するために、各種の燃料噴射制御装置が開発されている。例えば、エンジンのトルク発生に寄与する燃焼を行わせるメイン噴射に先立って、少量の燃料を噴射するパイロット噴射を行うものが挙げられる。つまり、このパイロット噴射で噴射された燃料を気筒内で予め燃焼させておくことにより気筒内温度を上昇させ、これにより、メイン噴射の噴射タイミングにおける気筒内温度(例えば圧縮端温度)を燃料の自着火温度まで上昇させて、メイン噴射での着火遅れを抑制するようにしている(下記の特許文献1および特許文献2を参照)。
また、特許文献1には、コモンレール式の燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンにおいて、実コモンレール内圧と目標コモンレール内圧との差の絶対値が所定値以上となった場合に、パイロット噴射を2回に分割噴射することが開示されている。更に、特許文献2には、パイロット噴射を3回に分割噴射することで燃料高圧配管内の圧力脈動の影響による噴射量脈動を防止することが開示されている。
特開2003−74403号公報
特開2004−27939号公報
ところで、上記メイン噴射で噴射される燃料は、着火性を良好にしたり噴射期間を短縮化するために微粒化されていることが好ましい。そして、この燃料の微粒化のためには燃料噴射圧力を高く設定しておくことが必要である。例えば、上記各特許文献に開示されているコモンレール式の燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンにあっては、燃料噴射圧力を決定するコモンレール内圧の目標値(例えばエンジンの高負荷運転時における目標値)が400MPa程度の非常に高い値に設定され、これにより燃料の微粒化を図っている。
一方、上記パイロット噴射で燃料を噴射する際、この噴射タイミングでは、未だピストンが圧縮上死点位置よりもかなり進角側に位置しており、筒内圧力が低いために、パイロット噴射直後に燃料が燃焼する状況にはない。このため、噴射された燃料は噴霧状態のまま筒内に供給されることになる(予混合状態として供給される)。
そして、本発明の発明者らは、上述したメイン噴射時に要求される燃料の状態とパイロット噴射で噴射された燃料の状態とを考慮し、パイロット噴射実行時の噴射形態を決定するための手法に関して以下の点について考察し、その決定手法の構築化を検討した。
上述した如くメイン噴射での燃料の微粒化を図るべく、コモンレール内圧が高く設定されている場合、パイロット噴射で噴射される燃料も高い噴射圧力で筒内に噴射される状況となる。
このような状況で、1回当たりのパイロット噴射量が比較的多く設定されていると、このパイロット噴射で噴射された燃料の貫徹力(ペネトレーション)が非常に高くなっており、その噴霧のうちのかなりの量が筒内壁面(シリンダ内壁面)に達し、このシリンダ内壁面に達した燃料による潤滑油の希釈やシリンダ内壁面の潤滑油を洗い流す所謂ボアフラッシングが発生してしまう可能性がある。また、このシリンダ内壁面に付着した燃料が原因で排気中のHCやCOが増加してしまって排気エミッションの悪化に繋がる可能性もある。
一方、シリンダ内壁面に達しない燃料(噴霧)は、上記高貫徹力によってシリンダ内壁面付近にまで達しており、気筒内の広範囲に亘って拡散されている。このため、気筒内全体に亘って空燃比としては大幅なリーン状態となってしまう。その結果、圧縮行程が進んでも、このパイロット噴射で噴射された燃料の着火が行われず、パイロット噴射を行ったことによる効果が得られなくなる可能性がある。
このような不具合を解消するために、コモンレール内圧を低く設定してパイロット噴射での噴射圧力を低く抑えることが考えられるが、これでは、メイン噴射で噴射される燃料の微粒化が損なわれて着火性が悪化することになりスモークの発生が懸念される状況となる。
また、パイロット噴射の噴射タイミングを遅角させることも考えられるが、これでは、気筒内圧が上昇したタイミングでパイロット噴射が行われることになり、このパイロット噴射と同時に燃料の燃焼が開始され、局所的に酸素消費量が増大し、この場合にもスモークの発生が懸念される。
更には、パイロット噴射で噴射された燃料が高貫徹力であって気筒内の広範囲に亘って拡散される状況であっても、圧縮行程が進んだ場合に着火が可能となるように空燃比をリッチ状態にするべく、パイロット噴射での燃料噴射量を増量することも考えられる。しかしながら、この場合、パイロット噴射で噴射された燃料の吸熱反応による吸熱量が大幅に増大し、パイロット噴射の着火遅れが発生してしまう可能性が高く、結果的にパイロット噴射の効果(気筒内温度を上昇させておくことでメイン噴射での着火遅れを抑制するといった効果)を十分に得ることができなくなる。そればかりでなく、燃料消費量が増大してエンジンの燃費悪化に繋がってしまう。更には、このパイロット噴射での着火遅れが原因で燃焼音が増大したり、ピストンが圧縮上死点に達する前にトルク(逆進トルク)が発生してしまう可能性もある。即ち、従来のパイロット噴射では、パイロット噴射の効果を十分に得るためには、パイロット噴射で噴射される総パイロット噴射量には限界がある。このため、特に、エンジンの冷間時などのように、パイロット噴射での予熱量を多く必要とする場合であっても、上記総パイロット噴射量が制約されるために、気筒内の十分な予熱が行えず、パイロット噴射を行っているにも拘わらずメイン噴射での着火遅れを招いてしまっているのが現状である。
上記冷間時におけるメイン噴射での着火遅れを回避するためには、エンジンの圧縮比を高く設計しておくことが挙げられるが、この場合、フリクションによる効率低下を招いたり、温間時に燃焼温度が高くなってNOx排出量が増大してしまう可能性があるため、実用的ではない。
以上のような様々な観点に鑑みてパイロット噴射の噴射形態を決定するための手法については、これまで全く提案がなされていない。本発明の発明者らは、上記の点に鑑みたパイロット噴射の噴射形態を決定するための新規な決定手法の構築化について検討し、本発明に至った。
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、メイン噴射に先立ってパイロット噴射を実行可能とした内燃機関に対し、パイロット噴射の噴射形態の適正化を図ることが可能な噴射形態の決定手法を利用して燃料噴射を行うことにより上記不具合を解消することにある。
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、副噴射を実行するに際し、この副噴射で要求される総副噴射量を複数回の分割副噴射によって分割すると共に個々の分割副噴射で噴射される燃料の貫徹力を低く抑えることで、この燃料を壁面付着させることなしに局部的に滞留させ、これによって、上記の各不具合を解消するようにしている。
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、副噴射を実行するに際し、この副噴射で要求される総副噴射量を複数回の分割副噴射によって分割すると共に個々の分割副噴射で噴射される燃料の貫徹力を低く抑えることで、この燃料を壁面付着させることなしに局部的に滞留させ、これによって、上記の各不具合を解消するようにしている。
−解決手段−
具体的に、本発明は、燃料噴射弁からの燃料噴射動作として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置を前提とする。この燃料噴射制御装置に対し、上記副噴射で要求される総副噴射量を求める総副噴射量算出手段と、この総副噴射量算出手段によって求められた総副噴射量を、複数回の分割副噴射によって分割することで間欠的に上記燃料噴射弁から噴射させる副噴射制御手段とを備えさせる。そして、上記分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量または燃料噴射弁の開弁期間を、燃料噴射弁から噴射される燃料の貫徹力が、気筒内壁面に燃料が達することのない大きさに制限された値として設定している。
具体的に、本発明は、燃料噴射弁からの燃料噴射動作として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置を前提とする。この燃料噴射制御装置に対し、上記副噴射で要求される総副噴射量を求める総副噴射量算出手段と、この総副噴射量算出手段によって求められた総副噴射量を、複数回の分割副噴射によって分割することで間欠的に上記燃料噴射弁から噴射させる副噴射制御手段とを備えさせる。そして、上記分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量または燃料噴射弁の開弁期間を、燃料噴射弁から噴射される燃料の貫徹力が、気筒内壁面に燃料が達することのない大きさに制限された値として設定している。
言い換えると、上記分割副噴射により噴射される燃料の飛行距離が気筒内壁面にまで達することのない大きさの貫徹力となるように、この分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量または燃料噴射弁の開弁期間を制限したものである。この場合、燃料圧力が比較的高い場合には分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量または燃料噴射弁の開弁期間を規制しなければ上記飛行距離に制限を与えることができないが、燃料圧力が比較的低い場合には、上記飛行距離が制限距離内(例えばピストン頂面に形成されたキャビティ(凹部)内)に抑えられる範囲であれば、分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量または燃料噴射弁の開弁期間の規制を緩和することが可能である。
上記特定事項により、各分割副噴射において気筒内に噴射される燃料は、低貫徹力であるために気筒内壁面に達するものは殆ど無い。つまり、燃料の壁面付着を抑制でき、これにより、燃料による潤滑油の希釈や上記ボアフラッシングの発生が防止できる。また、気筒内壁面に付着した燃料が原因で発生していた排気中のHCやCOの発生量を大幅に減少させることができ、排気エミッションの改善が図れる。
また、総副噴射量のうち大部分の燃料を気筒内において局部的(例えば気筒内の中央部分)に存在(浮遊)させ、その部分において空燃比のリッチ状態を確保することができる。このため、圧縮行程が進んだ際には副噴射で噴射された燃料の着火が良好に行え、副噴射を実行したことによる効果(気筒内温度を上昇させておくこと)を良好に得ることができて、主噴射での着火時期を適切に得ることが可能になる。例えば、主噴射での目標着火時期をピストンの圧縮上死点(TDC)に設定した場合に、主噴射で噴射された燃料の着火時期をこの目標着火時期に合致させることが可能となる。
加えて、分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量は低貫徹力を得るために少量となっており、この分割副噴射時における燃料の吸熱反応による吸熱量は僅かである。従って、副噴射の着火遅れが発生することはなく、気筒内温度を上昇させておくといった副噴射の効果を十分に確保することができる。また、副噴射の着火遅れが原因で燃焼音が増大したりピストンが圧縮上死点に達する前にトルク(逆進トルク)が発生してしまうといったこともない。
以上のことから、従来では制約を受けていた総副噴射量に対して、本解決手段によれば制約を解除することができ、内燃機関の運転状態に応じた量の総副噴射量を気筒内に供給することが可能になる。例えば、内燃機関の冷間時などのように、気筒内温度の温度上昇量を多く必要とする場合(総副噴射量を多く必要とする場合)には、それに応じた比較的多量の総副噴射量を確保することが可能であり、副噴射で噴射された燃料の殆どを有効に使用して気筒内の予熱を十分に行うことが可能である。
上記副噴射制御手段により設定される分割副噴射の燃料噴射量としては、その分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量を、燃料噴射弁の最小限界噴射量に設定するようにしている。
また、上記副噴射制御手段により設定される燃料噴射弁の開弁期間としては、その分割副噴射の1回当たりにおける開弁期間を、燃料噴射弁の最短開弁期間に設定するようにしている。
これらの構成によれば、分割副噴射時における燃料の吸熱反応による吸熱量を最小限に抑えることができ、副噴射で噴射された燃料の着火遅れが発生することがない。このため、気筒内温度を上昇させておくといった副噴射の効果を確実に得ることができる。
上記総副噴射量算出手段によって求められる総副噴射量として具体的には、上記副噴射で噴射される燃料が、その燃焼により、内燃機関の圧縮行程中における気筒内の圧縮ガス温度を燃料の自着火温度まで上昇させるための熱源として用いられる場合に、上記気筒内の圧縮ガス温度が燃料の自着火温度よりも低いほど総副噴射量を多く設定するようにしている。
つまり、圧縮ガス温度の温度上昇量を多く必要とする場合ほど総副噴射量を多く設定し、燃料の燃焼によって得られる熱エネルギが多く得られるようにしている。この場合にも、各分割副噴射において気筒内に噴射される燃料は低貫徹力となっている。そのため、総副噴射量が多く設定されるほど総副噴射量に対する分割回数(分割副噴射の回数)は多くなる。
上記複数回実行される分割副噴射で噴射される燃料を特定の領域(例えば気筒内の中央部分)において均等に滞留させるための構成として以下のものが挙げられる。つまり、上記副噴射制御手段が、各分割副噴射で噴射され且つ気筒内のスワール流に沿って流れる燃料に対して重畳しないタイミングで燃料が噴射されるように、各分割副噴射の噴射タイミングをそれぞれ設定するようにしている。
この場合、分割副噴射の具体的な噴射タイミングとしては、相前後する分割副噴射の噴射間隔(分割副噴射間インターバル)をクランク回転角度(CA)に換算した値によって規定することができ、以下のように設定される。つまり、下記の式(1)
(分割副噴射の噴射回数)=(副噴射で要求される総副噴射量)/(燃料噴射弁の最小限界噴射量) …(1)
で算出される分割副噴射の噴射回数に対して、下記の式(2)
(分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値)=360/(燃料噴射弁の噴孔数)/(分割副噴射の噴射回数)/(スワール比) …(2)
で算出される分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値毎に上記分割副噴射を実行するようにしている。
(分割副噴射の噴射回数)=(副噴射で要求される総副噴射量)/(燃料噴射弁の最小限界噴射量) …(1)
で算出される分割副噴射の噴射回数に対して、下記の式(2)
(分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値)=360/(燃料噴射弁の噴孔数)/(分割副噴射の噴射回数)/(スワール比) …(2)
で算出される分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値毎に上記分割副噴射を実行するようにしている。
例えば、分割副噴射の噴射回数が、式(1)によって「3回」に設定され、燃料噴射弁の噴孔数が「10個」、スワール比(クランクシャフト1回転当たりにおける気筒内の周方向におけるスワール流の回転数)が「2」であった場合には、分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値は6°CAとして求められる。つまり、クランクシャフトの回転角度が6°CA進む毎に分割副噴射を間欠的に実行することで各分割副噴射で噴射された燃料(各噴孔から3回ずつ噴射された燃料)は互いに重なり合うことなく、気筒内の中央部分において均等に噴射されることになる。
これにより、複数回実行される分割副噴射で噴射される燃料が重なり合う(重畳する)ことなく、例えば気筒内の中央部分において均等(等角度間隔)に噴射されることになる。これにより、局所的に酸素消費量が増大してスモークの発生が懸念されるといった状況を回避しながらも、空燃比の比較的リッチな領域を確保して、副噴射の着火遅れを回避し、これによって気筒内温度を上昇させておくといった副噴射の効果を確実に得ることができる。また、副噴射の着火遅れが原因で燃焼音が増大してしまったりピストンが圧縮上死点に達する前にトルク(逆進トルク)が発生してしまうといったことも回避できる。
本発明では、圧縮自着火式の内燃機関において、主噴射に先立って副噴射を実行するに際し、この副噴射で要求される総副噴射量を複数回の分割副噴射によって分割すると共に個々の分割副噴射で噴射される燃料の貫徹力を低く抑えることで、この燃料を壁面付着させることなしに局部的に滞留させるようにしている。これにより、副噴射の噴射形態を決定するための新規な決定手法による副噴射の実行が可能になり、排気エミッションの改善と主噴射時の燃焼の安定化とを図ることができる。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車に搭載されたコモンレール式筒内直噴型多気筒(例えば直列4気筒)ディーゼルエンジン(圧縮自着火式内燃機関)に本発明を適用した場合について説明する。
−エンジンの構成−
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1およびその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3およびその周辺部を示す断面図である。
先ず、本実施形態に係るディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)の概略構成について説明する。図1は本実施形態に係るエンジン1およびその制御系統の概略構成図である。また、図2は、ディーゼルエンジンの燃焼室3およびその周辺部を示す断面図である。
図1に示すように、本実施形態に係るエンジン1は、燃料供給系2、燃焼室3、吸気系6、排気系7等を主要部として構成されるディーゼルエンジンシステムである。
燃料供給系2は、サプライポンプ21、コモンレール22、インジェクタ(燃料噴射弁)23、遮断弁24、燃料添加弁26、機関燃料通路27、添加燃料通路28等を備えて構成されている。
上記サプライポンプ21は、燃料タンクから燃料を汲み上げ、この汲み上げた燃料を高圧にした後、機関燃料通路27を介してコモンレール22に供給する。コモンレール22は、サプライポンプ21から供給された高圧燃料を所定圧力に保持(蓄圧)する蓄圧室としての機能を有し、この蓄圧した燃料を各インジェクタ23に分配する。インジェクタ23は、その内部に圧電素子(ピエゾ素子)を備え、適宜開弁して燃焼室3内に燃料を噴射供給するピエゾインジェクタにより構成されている。このインジェクタ23からの燃料噴射制御の詳細については後述する。
また、上記サプライポンプ21は、燃料タンクから汲み上げた燃料の一部を、添加燃料通路28を介して燃料添加弁26に供給する。添加燃料通路28には、緊急時において添加燃料通路28を遮断して燃料添加を停止するための上記遮断弁24が備えられている。
また、上記燃料添加弁26は、後述するECU100による添加制御動作によって排気系7への燃料添加量が目標添加量(排気A/Fが目標A/Fとなるような添加量)となるように、また、燃料添加タイミングが所定タイミングとなるように開弁時期が制御される電子制御式の開閉弁により構成されている。つまり、この燃料添加弁26から所望の燃料が適宜のタイミングで排気系7(排気ポート71から排気マニホールド72)に噴射供給される構成となっている。
吸気系6は、シリンダヘッド15(図2参照)に形成された吸気ポート15aに接続される吸気マニホールド63を備え、この吸気マニホールド63に、吸気通路を構成する吸気管64が接続されている。また、この吸気通路には、上流側から順にエアクリーナ65、エアフローメータ43、スロットルバルブ62が配設されている。上記エアフローメータ43は、エアクリーナ65を介して吸気通路に流入される空気量に応じた電気信号を出力するようになっている。
排気系7は、シリンダヘッド15に形成された排気ポート71に接続される排気マニホールド72を備え、この排気マニホールド72に対して、排気通路を構成する排気管73,74が接続されている。また、この排気通路には、後述するNOx吸蔵触媒(NSR触媒:NOx Storage Reduction触媒)75およびDPNR触媒(Diesel Paticulate−NOx Reduction触媒)76を備えたマニバータ(排気浄化装置)77が配設されている。以下、これらNSR触媒75およびDPNR触媒76について説明する。
NSR触媒75は、吸蔵還元型NOx触媒であって、例えばアルミナ(Al2O3)を担体とし、この担体上に例えばカリウム(K)、ナトリウム(Na)、リチウム(Li)、セシウム(Cs)のようなアルカリ金属、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)のようなアルカリ土類、ランタン(La)、イットリウム(Y)のような希土類と、白金(Pt)のような貴金属とが担持された構成となっている。
このNSR触媒75は、排気中に多量の酸素が存在している状態においてはNOxを吸蔵し、排気中の酸素濃度が低く、かつ還元成分(例えば燃料の未燃成分(HC))が多量に存在している状態においてはNOxをNO2若しくはNOに還元して放出する。NO2やNOとして放出されたNOxは、排気中のHCやCOと速やかに反応することによってさらに還元されてN2となる。また、HCやCOは、NO2やNOを還元することで、自身は酸化されてH2OやCO2となる。すなわち、NSR触媒75に導入される排気中の酸素濃度やHC成分を適宜調整することにより、排気中のHC、CO、NOxを浄化することができるようになっている。本実施形態のものでは、この排気中の酸素濃度やHC成分の調整を上記燃料添加弁26からの燃料添加動作によって行うことが可能となっている。
一方、DPNR触媒76は、例えば多孔質セラミック構造体にNOx吸蔵還元型触媒を担持させたものであり、排気ガス中のPMは多孔質の壁を通過する際に捕集される。また、排気ガスの空燃比がリーンの場合、排気ガス中のNOxはNOx吸蔵還元型触媒に吸蔵され、空燃比がリッチになると、吸蔵したNOxは還元・放出される。さらに、DPNR触媒76には、捕集したPMを酸化・燃焼する触媒(例えば白金等の貴金属を主成分とする酸化触媒)が担持されている。
ここで、ディーゼルエンジンの燃焼室3およびその周辺部の構成について。図2を用いて説明する。この図2に示すように、エンジン本体の一部を構成するシリンダブロック11には、各気筒(4気筒)毎に円筒状のシリンダボア12が形成されており、各シリンダボア12の内部にはピストン13が上下方向に摺動可能に収容されている。
ピストン13の頂面13aの上側には上記燃焼室3が形成されている。つまり、この燃焼室3は、シリンダブロック11の上部にガスケット14を介して取り付けられたシリンダヘッド15の下面と、シリンダボア12の内壁面と、ピストン13の頂面13aとにより区画形成されている。そして、ピストン13の頂面13aの略中央部には、キャビティ13bが凹設されており、このキャビティ13bも燃焼室3の一部を構成している。
このピストン13は、コネクティングロッド18の小端部18aがピストンピン13cにより連結されており、このコネクティングロッド18の大端部はエンジン出力軸であるクランクシャフトに連結されている。これにより、シリンダボア12内でのピストン13の往復移動がコネクティングロッド18を介してクランクシャフトに伝達され、このクランクシャフトが回転することでエンジン出力が得られるようになっている。また、燃焼室3に向けてグロープラグ19が配設されている。このグロープラグ19は、エンジン1の始動直前に電流が流されることにより赤熱し、これに燃料噴霧の一部が吹きつけられることで着火・燃焼が促進される始動補助装置として機能する。
上記シリンダヘッド15には、燃焼室3へ空気を導入する吸気ポート15aと、燃焼室3から排気ガスを排出する上記排気ポート71とがそれぞれ形成されていると共に、吸気ポート15aを開閉する吸気バルブ16および排気ポート71を開閉する排気バルブ17が配設されている。これら吸気バルブ16および排気バルブ17はシリンダ中心線Pを挟んで対向配置されている。つまり、本エンジンはクロスフロータイプとして構成されている。また、シリンダヘッド15には、燃焼室3の内部へ直接的に燃料を噴射する上記インジェクタ23が取り付けられている。このインジェクタ23は、シリンダ中心線Pに沿う起立姿勢で燃焼室3の略中央上部に配設されており、上記コモンレール22から導入される燃料を燃焼室3に向けて所定のタイミングで噴射するようになっている。
更に、図1に示す如く、このエンジン1には、過給機(ターボチャージャ)5が設けられている。このターボチャージャ5は、タービンシャフト5Aを介して連結されたタービンホイール5Bおよびコンプレッサホイール5Cを備えている。コンプレッサホイール5Cは吸気管64内部に臨んで配置され、タービンホイール5Bは排気管73内部に臨んで配置されている。このためターボチャージャ5は、タービンホイール5Bが受ける排気流(排気圧)を利用してコンプレッサホイール5Cを回転させ、吸気圧を高めるといった所謂過給動作を行うようになっている。本実施形態におけるターボチャージャ5は、可変ノズル式ターボチャージャであって、タービンホイール5B側に可変ノズルベーン機構(図示省略)が設けられており、この可変ノズルベーン機構の開度を調整することにより、エンジン1の過給圧を調整することができる。
吸気系6の吸気管64には、ターボチャージャ5での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ61が設けられている。このインタークーラ61よりも更に下流側に設けられた上記スロットルバルブ62は、その開度を無段階に調整することができる電子制御式の開閉弁であり、所定の条件下において吸入空気の流路面積を絞り、この吸入空気の供給量を調整(低減)する機能を有している。
また、エンジン1には、吸気系6と排気系7とを接続する排気還流通路(EGR通路)8が設けられている。このEGR通路8は、排気の一部を適宜吸気系6に還流させて燃焼室3へ再度供給することにより燃焼温度を低下させ、これによってNOx発生量を低減させるものである。また、このEGR通路8には、電子制御によって無段階に開閉され、同通路を流れる排気流量を自在に調整することができるEGRバルブ81と、EGR通路8を通過(還流)する排気を冷却するためのEGRクーラ82とが設けられている。
−センサ類−
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
エンジン1の各部位には、各種センサが取り付けられており、それぞれの部位の環境条件や、エンジン1の運転状態に関する信号を出力する。
例えば、上記エアフローメータ43は、吸気系6内のスロットルバルブ62上流において吸入空気の流量(吸入空気量)に応じた検出信号を出力する。吸気温センサ49は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気の温度に応じた検出信号を出力する。吸気圧センサ48は、吸気マニホールド63に配置され、吸入空気圧力に応じた検出信号を出力する。A/F(空燃比)センサ44は、排気系7のマニバータ77の下流において排気中の酸素濃度に応じて連続的に変化する検出信号を出力する。排気温センサ45は、同じく排気系7のマニバータ77の下流において排気ガスの温度(排気温度)に応じた検出信号を出力する。レール圧センサ41はコモンレール22内に蓄えられている燃料の圧力に応じた検出信号を出力する。スロットル開度センサ42はスロットルバルブ62の開度を検出する。
−ECU−
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
ECU100は、図3に示すように、CPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104などを備えている。ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
以上のCPU101、ROM102、RAM103およびバックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース105および出力インターフェース106と接続されている。
入力インターフェース105には、上記レール圧センサ41、スロットル開度センサ42、エアフローメータ43、A/Fセンサ44、排気温センサ45、吸気圧センサ48、吸気温センサ49が接続されている。さらに、この入力インターフェース105には、エンジン1の冷却水温に応じた検出信号を出力する水温センサ46、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ47、および、エンジン1の出力軸(クランクシャフト)が一定角度回転する毎に検出信号(パルス)を出力するクランクポジションセンサ40などが接続されている。一方、出力インターフェース106には、上記インジェクタ23、燃料添加弁26、スロットルバルブ62、および、EGRバルブ81などが接続されている。
そして、ECU100は、上記した各種センサの出力に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。さらに、ECU100は、後述するインジェクタ23の燃料噴射制御も実行する。
上記インジェクタ23の燃料噴射を実行する際の燃料噴射圧は、コモンレール22の内圧により決定される。このコモンレール内圧としては、一般に、コモンレール22からインジェクタ23へ供給される燃料圧力の目標値、すなわち目標レール圧が、エンジン負荷(機関負荷)が高くなるほど、および、エンジン回転数(機関回転数)が高くなるほど高いものとされる。すなわち、エンジン負荷が高い場合には燃焼室3内に吸入される空気量が多いため、インジェクタ23における燃焼室3内の圧力が高いと共に多量の燃料を噴射しなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。また、エンジン回転数が高い場合には噴射時間が短いため、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くしなければならず、よってインジェクタ23からの噴射圧力を高いものとする必要がある。このように、目標レール圧は一般にエンジン負荷およびエンジン回転数に基づいて設定される。
後述するメイン噴射などの燃料噴射における燃料噴射パラメータについて、その最適値はエンジンや吸入空気等の温度条件によって異なるものとなる。
例えば、上記ECU100は、コモンレール圧がエンジン運転状態に基づいて設定される目標レール圧と等しくなるように、即ち燃料噴射圧が目標噴射圧と一致するように、サプライポンプ21の燃料吐出量を調量する。また、ECU100はエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量および燃料噴射形態を決定する。具体的には、ECU100は、クランクポジションセンサ40の検出値に基づいてエンジン回転速度を算出するとともに、アクセル開度センサ47の検出値に基づいてアクセルペダルへの踏み込み量(アクセル開度)を求め、このエンジン回転速度およびアクセル開度に基づいて燃料噴射量を決定する。
更に、ECU100は、これらエンジン回転速度および燃料噴射量に基づいて、燃料噴射形態を、パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、ポスト噴射が適宜組み合わされた各種噴射モードに設定する。以下、本実施形態における上記パイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射、アフタ噴射、ポスト噴射の各動作の概略について説明する。
(パイロット噴射)
パイロット噴射(副噴射)とは、インジェクタ23からのメイン噴射(主噴射)に先立ち、予め少量の燃料を噴射する噴射動作である。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するための噴射動作(予熱用燃料の供給動作)である。つまり、本実施形態におけるパイロット噴射の機能は、気筒内の予熱に特化したものとなっている。
パイロット噴射(副噴射)とは、インジェクタ23からのメイン噴射(主噴射)に先立ち、予め少量の燃料を噴射する噴射動作である。つまり、このパイロット噴射の実行後、燃料噴射を一旦中断し、メイン噴射が開始されるまでの間に圧縮ガス温度(気筒内温度)を十分に高めて燃料の自着火温度に到達させるようにし、これによってメイン噴射で噴射される燃料の着火性を良好に確保するための噴射動作(予熱用燃料の供給動作)である。つまり、本実施形態におけるパイロット噴射の機能は、気筒内の予熱に特化したものとなっている。
そして、本実施形態では、このパイロット噴射において要求される燃料噴射量である総パイロット噴射量を、複数回のパイロット噴射(以下、分割パイロット噴射と呼ぶ)によって分割することで間欠的にインジェクタ23から噴射させるようにしている。この総パイロット噴射量、各分割パイロット噴射それぞれにおける燃料噴射量およびその噴射タイミング等の具体的な設定手法については後述する。
(プレ噴射)
プレ噴射は、メイン噴射による初期燃焼速度を抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。具体的に、本実施形態では、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための総噴射量(プレ噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)に対して10%としてプレ噴射量が設定される。
プレ噴射は、メイン噴射による初期燃焼速度を抑制し、安定した拡散燃焼に導くための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。具体的に、本実施形態では、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための総噴射量(プレ噴射での噴射量とメイン噴射での噴射量との和)に対して10%としてプレ噴射量が設定される。
この場合、上記総噴射量が15mm3未満であった場合には、プレ噴射での噴射量が、インジェクタ23の最小限界噴射量(1.5mm3)未満となるため、プレ噴射は実行しないことになる。尚、この場合、インジェクタ23の最小限界噴射量(1.5mm3)だけプレ噴射での燃料噴射を行うようにしてもよい。一方、プレ噴射の噴射総量としてインジェクタ23の最小限界噴射量の2倍以上(例えば3mm3以上)が要求される場合には、複数回数のプレ噴射を実行することで、このプレ噴射で必要な総噴射量を確保するようにしている。これにより、プレ噴射の着火遅れを抑制し、メイン噴射による初期燃焼速度の抑制を確実に行って、安定した拡散燃焼に導くことができる。
また、このプレ噴射の噴射開始角度としては、以下の式(3)によって設定される。尚、以下で言う角度とは、クランクシャフトの回転角度に換算した値を意味している。
プレ噴射開始角度=プレ燃焼終了角度+プレ噴射期間作用角+(プレ噴射における燃焼所要時間のクランク角度換算値+着火遅れ時間のクランク角度換算値−オーバラップ時間のクランク角度換算値) …(3)
ここで、着火遅れ時間は、プレ噴射が実行されてからその燃料が着火するまでの時間遅れである。また、オーバラップ時間は、複数回のプレ噴射が行われる場合において、先行して実行されるプレ噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行されるプレ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間(2つの燃焼が同時に行われている時間)、および、最終のプレ噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行されるメイン噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間、並びに、最終のパイロット噴射による燃料の燃焼期間と、プレ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間である。
ここで、着火遅れ時間は、プレ噴射が実行されてからその燃料が着火するまでの時間遅れである。また、オーバラップ時間は、複数回のプレ噴射が行われる場合において、先行して実行されるプレ噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行されるプレ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間(2つの燃焼が同時に行われている時間)、および、最終のプレ噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行されるメイン噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間、並びに、最終のパイロット噴射による燃料の燃焼期間と、プレ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間である。
(メイン噴射)
メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。具体的に、本実施形態では、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための上記総噴射量から上記プレ噴射での噴射量を減算した噴射量として設定される。
メイン噴射は、エンジン1のトルク発生のための噴射動作(トルク発生用燃料の供給動作)である。具体的に、本実施形態では、エンジン回転数、アクセル操作量、冷却水温度、吸気温度等の運転状態に応じて決定される要求トルクを得るための上記総噴射量から上記プレ噴射での噴射量を減算した噴射量として設定される。
また、このメイン噴射の噴射開始角度としては、以下の式(4)によって設定される。
メイン噴射開始角度=メイン着火時期+メイン噴射期間作用角+(メイン噴射における燃焼所要時間のクランク角度換算値+着火遅れ時間のクランク角度換算値−オーバラップ時間のクランク角度換算値) …(4)
ここで、着火遅れ時間は、メイン噴射が実行されてからその燃料が着火するまでの時間遅れである。また、オーバラップ時間は、上記プレ噴射による燃料の燃焼期間とメイン噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間、および、メイン噴射による燃料の燃焼期間と、アフタ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間である。
ここで、着火遅れ時間は、メイン噴射が実行されてからその燃料が着火するまでの時間遅れである。また、オーバラップ時間は、上記プレ噴射による燃料の燃焼期間とメイン噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間、および、メイン噴射による燃料の燃焼期間と、アフタ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間である。
(アフタ噴射)
アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的に、本実施形態では、このアフタ噴射により供給された燃料の燃焼エネルギがエンジンのトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射を実行するようにしている。また、このアフタ噴射においても、上述したプレ噴射の場合と同様に、最小噴射率(例えば1回当たりの噴射量1.5mm3)とし、複数回数のアフタ噴射を実行することで、このアフタ噴射で必要な総アフタ噴射量を確保するようにしている。
アフタ噴射は、排気ガス温度を上昇させるための噴射動作である。具体的に、本実施形態では、このアフタ噴射により供給された燃料の燃焼エネルギがエンジンのトルクに変換されることなく、その大部分が排気の熱エネルギとして得られるタイミングでアフタ噴射を実行するようにしている。また、このアフタ噴射においても、上述したプレ噴射の場合と同様に、最小噴射率(例えば1回当たりの噴射量1.5mm3)とし、複数回数のアフタ噴射を実行することで、このアフタ噴射で必要な総アフタ噴射量を確保するようにしている。
(ポスト噴射)
ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
ポスト噴射は、排気系7に燃料を直接的に導入して上記マニバータ77の昇温を図るための噴射動作である。例えば、DPNR触媒76に捕集されているPMの堆積量が所定量を超えた場合(例えばマニバータ77の前後の差圧を検出することにより検知)、ポスト噴射が実行されるようになっている。
−パイロット噴射制御動作−
次に、本実施形態の特徴とする動作である上記パイロット噴射を実行するための制御動作について具体的に説明する。
次に、本実施形態の特徴とする動作である上記パイロット噴射を実行するための制御動作について具体的に説明する。
(噴射率)
本実施形態では、噴霧の分配や局所濃度の適正化を図るために、噴射率としては、最小噴射率(例えば1回当たりの噴射量1.5mm3)とし、複数回数の分割パイロット噴射を実行することで、パイロット噴射で必要な総パイロット噴射量を確保するようにしている。
本実施形態では、噴霧の分配や局所濃度の適正化を図るために、噴射率としては、最小噴射率(例えば1回当たりの噴射量1.5mm3)とし、複数回数の分割パイロット噴射を実行することで、パイロット噴射で必要な総パイロット噴射量を確保するようにしている。
例えば、総パイロット噴射量が3mm3であった場合には、インジェクタ23の最小限界噴射量である1.5mm3の分割パイロット噴射が2回行われる。また、総パイロット噴射量が4.5mm3であった場合には、インジェクタ23の最小限界噴射量である1.5mm3の分割パイロット噴射が3回行われる。更に、総パイロット噴射量が5mm3であった場合には、インジェクタ23の最小限界噴射量である1.5mm3の分割パイロット噴射が2回行われ、その後、2.0mm3の噴射が1回行われることになる。また、総パイロット噴射量が2.0mm3であった場合には、インジェクタ23の最小限界噴射量である1.5mm3の分割パイロット噴射が2回行われ、必要噴射量以上のパイロット噴射量が確保されるようにしている。
図4は、3回の分割パイロット噴射が実行される場合(例えば総パイロット噴射量が4.5mm3である場合)におけるパイロット噴射、プレ噴射、メイン噴射の各噴射パターン、および、その際の熱発生率を示している。この図に示すように、パイロット噴射を構成する各分割パイロット噴射では、インジェクタ23に備えられているニードルバルブのリフト量が制限されて上記最小噴射率での噴射が行われている。また、3回の分割パイロット噴射が完了した直後に、気筒内の圧力上昇に伴って燃料が着火して、気筒内の予熱を行うための適正な熱発生率が得られている。
このようにして、最小限界噴射量での分割パイロット噴射が複数回実行されることで総パイロット噴射量を確保するようにしている。このような分割パイロット噴射を実行することにより、この分割パイロット噴射の1回当たりの燃料噴射量としては、燃料の貫徹力が非常に小さいものとして設定されることになり、この分割パイロット噴射で噴射された燃料の飛行距離も短く抑えられて、シリンダ内壁面にまで達する燃料は殆ど無いものとなる。図5は、分割パイロット噴射実行時におけるエンジン1の燃焼室3およびその周辺部を示す断面図である。この図に示すように、分割パイロット噴射で噴射される燃料の貫徹力は非常に小さいものとなって、その飛行距離も短く抑えられているため、その燃料の殆どは、ピストン頂面13aの略中央部に形成されたキャビティ13bに対面する領域に滞留することとなり、ピストン13が圧縮上死点に達した時点では、この燃料の殆どがキャビティ13b内に流れ込み、このキャビティ13b内で滞留することになる。
(総パイロット噴射量)
また、上記総パイロット噴射量は、気筒内の圧縮ガス温度と燃料の自着火温度とに基づいて算出される。つまり、気筒内の圧縮ガス温度が燃料の自着火温度よりも低いほど総パイロット噴射量としては多く設定されるようになっている(総副噴射量算出手段による総副噴射量の算出動作)。以下、この総パイロット噴射量の算出動作の一例について説明する。
また、上記総パイロット噴射量は、気筒内の圧縮ガス温度と燃料の自着火温度とに基づいて算出される。つまり、気筒内の圧縮ガス温度が燃料の自着火温度よりも低いほど総パイロット噴射量としては多く設定されるようになっている(総副噴射量算出手段による総副噴射量の算出動作)。以下、この総パイロット噴射量の算出動作の一例について説明する。
この総パイロット噴射量の算出動作にあっては、先ず、燃料着火前における目標着火温度(Treq)を取得する。この目標着火温度は、エンジン1に使用されている燃料の自着火温度に相当する。尚、この燃料の自着火温度は燃焼室3内の圧力に応じて変化する。つまり、燃焼室3内の圧力が高いほど燃料の自着火温度は低くなる。このため、例えば燃焼室3内の圧力に応じた目標着火温度を求めるための目標着火温度マップを上記ROM102に記憶させておき、この目標着火温度マップを参照することで上記目標着火温度(Treq)を取得する。
また、目標着火時期(Aign)を取得する。これは、メイン噴射が行われた際に、それに伴う燃料の着火開始タイミングにおけるピストン位置として取得される。例えば圧縮上死点(クランク角度CA=0°)等として設定される。尚、この目標着火時期(Aign)としてはピストン13の圧縮上死点に限られるものではなく、例えば排気エミッションに応じて適宜遅角させる場合もある。つまり、エンジン1のトルクを重視した運転の場合には、目標着火時期は上記圧縮上死点付近に設定され、NOx排出量の抑制を重視した運転の場合には、目標着火時期は圧縮上死点よりも遅角側に設定される。
そして、上記取得した目標着火時期における圧縮ガス温度(Treal)を推定する。この圧縮ガス温度は、パイロット噴射を実行しないと仮定した場合、つまり、パイロット噴射に起因するガス温度の上昇がないと仮定した場合であって、圧縮行程時の気筒内ガスの圧縮のみにより上昇する圧縮ガス温度である。上述した如く、目標着火時期(Aign)がピストン13の圧縮上死点として取得されている場合には、圧縮室容積が最小となった時点での圧縮ガス温度として取得されることになる。
具体的に、この圧縮ガス温度の推定動作としては、上記吸気圧センサ48によって検出された吸入空気圧力と、吸気温センサ49によって検出された吸入空気温度とによって、目標着火時期における圧縮ガス温度(Treal)を推定するようにしている。この推定は、所定の演算式による算出、または、予めROM102に記憶されたマップを参照することで行われる。
以上のようにして、目標着火温度(Treq)および目標着火時期における圧縮ガス温度(Treal)が取得された後、目標着火温度と圧縮ガス温度とを比較し、圧縮ガス温度が目標着火温度未満(Treq>Treal)であるか否かを判定する
圧縮ガス温度が目標着火温度未満である場合には、メイン噴射に先立ってパイロット噴射が実行されるようにする。一方、圧縮ガス温度が目標着火温度以上である場合には、メイン噴射に先立つパイロット噴射を実行しないようにする。
圧縮ガス温度が目標着火温度未満である場合には、メイン噴射に先立ってパイロット噴射が実行されるようにする。一方、圧縮ガス温度が目標着火温度以上である場合には、メイン噴射に先立つパイロット噴射を実行しないようにする。
パイロット噴射を実行する場合、必要温度差(dT)を以下の式(5)より求める。
dT=Treq−Treal …(5)
そして、筒内ガス量(Gcyl)、筒内に存在するガスの比熱(Cg)、使用している燃料の単位体積当たりの発熱量(Efuel)を算出し、以下の式(6)より総パイロット噴射量(Qp)を算出する。
そして、筒内ガス量(Gcyl)、筒内に存在するガスの比熱(Cg)、使用している燃料の単位体積当たりの発熱量(Efuel)を算出し、以下の式(6)より総パイロット噴射量(Qp)を算出する。
Qp=Gcyl・dT・Cg/Efuel …(6)
(パイロット噴射開始タイミング)
以上の動作により総パイロット噴射量を求めた後、パイロット噴射の噴射開始タイミングを設定する。このパイロット噴射の噴射開始タイミングとしては、例えばクランク角度で、ピストン13の圧縮上死点前(BTDC)80°以降であって、以下の式(7)によって設定される。
(パイロット噴射開始タイミング)
以上の動作により総パイロット噴射量を求めた後、パイロット噴射の噴射開始タイミングを設定する。このパイロット噴射の噴射開始タイミングとしては、例えばクランク角度で、ピストン13の圧縮上死点前(BTDC)80°以降であって、以下の式(7)によって設定される。
パイロット噴射開始角度=パイロット燃焼終了角度+パイロット噴射期間作用角+(1回の分割パイロット噴射における燃焼所要時間のクランク角度換算値×分割パイロット噴射の噴射回数+着火遅れ時間のクランク角度換算値−オーバラップ時間のクランク角度換算値) …(7)
ここで、パイロット燃焼終了角度は、プレ噴射の開始前にパイロット噴射による燃焼を完了するために設定される角度である。また、着火遅れ時間は、パイロット噴射が実行されてからその燃料が着火するまでの時間遅れである。また、オーバラップ時間は、先行して実行される分割パイロット噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行される分割パイロット噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間(2つの燃焼が同時に行われている時間)および最終の分割パイロット噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行されるプレ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間である。
ここで、パイロット燃焼終了角度は、プレ噴射の開始前にパイロット噴射による燃焼を完了するために設定される角度である。また、着火遅れ時間は、パイロット噴射が実行されてからその燃料が着火するまでの時間遅れである。また、オーバラップ時間は、先行して実行される分割パイロット噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行される分割パイロット噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間(2つの燃焼が同時に行われている時間)および最終の分割パイロット噴射による燃料の燃焼期間と、後続して実行されるプレ噴射による燃料の燃焼期間とのオーバラップ時間である。
(噴射インターバル)
更に、複数回の分割パイロット噴射を行う場合、各分割パイロット噴射同士の間の時間間隔である(噴射インターバル)が以下のようにして求められる。
更に、複数回の分割パイロット噴射を行う場合、各分割パイロット噴射同士の間の時間間隔である(噴射インターバル)が以下のようにして求められる。
この噴射インターバルは、複数回の分割パイロット噴射で噴射された噴霧同士が互いに重なり合わない(重畳しない)ように設定される。以下、具体的に説明する。
エンジン1の吸入行程では吸気ポート15aから気筒内に流入する空気の流れとしては上記シリンダ中心線Pを回転中心とするスワール流が発生しており、このスワール流は圧縮行程においても継続して気筒内で生じている。
このため、分割パイロット噴射で噴射された燃料は、このスワール流によって気筒内を周方向に流れることになる。つまり、圧縮行程での時間の経過と共に、分割パイロット噴射で噴射された燃料(噴霧の塊)はインジェクタ23の噴孔に対面する位置(噴射直後の位置)からスワール流に沿った周方向に流されていくことになる。
従って、先行して実行された分割パイロット噴射の後に、後続する分割パイロット噴射を実行する時点にあっては、上記先行して実行された分割パイロット噴射で噴射されていた燃料は既に気筒内を周方向に流れており、同一噴孔から噴射される2つの分割パイロット噴射同士の燃料は重なり合うことはない(両噴射の燃料塊同士が合体することはない)。
この場合、スワール流れ方向の上流側の噴孔から噴射された分割パイロット噴射の燃料が、スワール流れ方向の下流側の噴孔に対向する位置に向かって流れているので、後続する分割パイロット噴射の噴射タイミングを調整することで、各分割パイロット噴射で噴射された燃料同士を合体させないようにして各噴霧を均等に分散させることが可能になる。
より具体的には、ピストン13が下死点から上死点に達するまでの間に(クランク角度で180°移動するまでの間に)、スワール流が気筒内を周方向に1回転する場合を考える。つまり、スワール比が「2」の場合である。また、インジェクタ23の噴孔数が「10」であって、分割パイロット噴射として3回の燃料噴射(第1分割パイロット噴射、第2分割パイロット噴射、第3分割パイロット噴射)が行われる場合を考える。
この場合、各分割パイロット噴射同士のインターバルを気筒内の周方向で12°(クランク角度で6°)とすれば、各分割パイロット噴射で噴射された燃料同士を重なり合わせないようにすることができる。
つまり、以下の式(1)および式(2)が成立するように各分割パイロット噴射のインターバルを設定することで各噴霧を均等に分散させることが可能になる。
(分割パイロット噴射の噴射回数)=(パイロット噴射で要求される総パイロット噴射量)/(インジェクタの最小限界噴射量) …(1)
(分割パイロット噴射間インターバルのクランク回転角度換算値)=360/(インジェクタの噴孔数)/(分割パイロット噴射の噴射回数)/(スワール比) …(2)
図6は、上記第1、第2、第3の各分割パイロット噴射が行われた際の気筒内における噴霧の状態を示す平面図である。この図6では、第1分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧を符号Aで示し、第2分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧を符号Bで示し、第3分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧を符号Cで示している。
(分割パイロット噴射間インターバルのクランク回転角度換算値)=360/(インジェクタの噴孔数)/(分割パイロット噴射の噴射回数)/(スワール比) …(2)
図6は、上記第1、第2、第3の各分割パイロット噴射が行われた際の気筒内における噴霧の状態を示す平面図である。この図6では、第1分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧を符号Aで示し、第2分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧を符号Bで示し、第3分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧を符号Cで示している。
また、図6(a)は第1分割パイロット噴射実行時の噴霧Aの状態を、図6(b)は第2分割パイロット噴射実行時の噴霧A,Bの状態を、図6(c)は第3分割パイロット噴射実行時の噴霧A,B,Cの状態をそれぞれ示している。図6(b)および図6(c)に示すように、第1分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧Aおよび第2分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧Bは、時間の経過と共にスワール流によって気筒内の周方向に流されている。
このように、上記式(1)および式(2)が成立するように各分割パイロット噴射のインターバルを設定すれば、先行する分割パイロット噴射で噴射された燃料の噴霧と、後続する分割パイロット噴射で噴射される燃料の噴霧とが合体することがなく、各噴霧をキャビティ13b内で均等に滞留させることが可能になる。
尚、この各分割パイロット噴射のインターバルとしては、インジェクタ23の応答性(開閉動作の速さ)によって決定するようにしてもよい。例えば、インジェクタ23の性能によって決定される最短開閉期間として例えば200μsに設定されるようにしてもよい。このパイロット噴射のインターバルは上記値に限定されるものではない。
以上のようにして、分割パイロット噴射の噴射率、総パイロット噴射量、パイロット噴射の噴射開始タイミング、分割パイロット噴射の噴射インターバルが求められた後、これら値に従ってパイロット噴射が実行されるようにインジェクタ23の燃料噴射制御が行われる。つまり、上述した如く、最小噴射率(例えば1回当たりの噴射量1.5mm3)で複数回に亘ってパイロット噴射を実行することで(副噴射制御手段による間欠的な燃料噴射動作)、このパイロット噴射で必要な総パイロット噴射量(Qp)を確保するようにインジェクタ23の制御が行われる。
以上説明したように、本実施形態では、パイロット噴射で要求される総パイロット噴射量を複数回の分割パイロット噴射によって分割すると共に個々の分割パイロット噴射で噴射される燃料の貫徹力を低く抑えることで、この燃料を壁面付着させることなしに局部的に滞留させるようにしている。
これにより、メイン噴射で噴射される燃料の微粒化を図るべく燃料圧力(コモンレール内圧)を高く設定している場合であっても、パイロット噴射で噴射される燃料の噴射形態としては、燃料圧力が低く設定されている場合と同様の低貫徹力によって気筒内に供給されることになる。つまり、図4における噴射圧力の変化を示すタイミングチャート(最下段のタイミングチャート)に示すように、実際の燃料噴射圧力としては、高い値が継続的に維持されているにも拘わらず、パイロット噴射で噴射される燃料の噴射形態としては、図中に破線で示す噴射圧力(仮想噴射圧力)で燃料噴射を行った場合と同様の噴射形態を実現することが可能となり、低貫徹力での燃料噴射が行われることとなる。
これにより、パイロット噴射で噴射される燃料の壁面付着を抑制でき、これにより、燃料による潤滑油の希釈や上記ボアフラッシングの発生が防止できる。また、シリンダ内壁面に付着した燃料が原因で発生していた排気中のHCやCOの発生量を大幅に減少させることができ、排気エミッションの改善が図れる。
また、総パイロット噴射量の大部分の燃料を気筒内において局部的(例えば気筒内の中央部分)に存在(浮遊)させ、その部分において空燃比のリッチ状態を確保することができるため、圧縮行程が進んだ場合にはパイロット噴射で噴射された燃料の着火が良好に行え、パイロット噴射を実行したことによる効果(気筒内温度を上昇させておくこと)を良好に得ることができて、メイン噴射での着火時期を適切に得ることが可能になる。例えば、メイン噴射での目標着火時期をピストン13の圧縮上死点(TDC)に設定した場合に、メイン噴射で噴射された燃料の着火時期をこの目標着火時期に合致させることが可能となる。
加えて、各分割パイロット噴射における噴射量は低貫徹力を得るために少量となっており、この分割パイロット噴射時における燃料の吸熱反応による吸熱量は僅かであり、パイロット噴射の着火遅れが発生することはなく、気筒内温度を上昇させておくといったパイロット噴射の効果を十分に得ることができる。また、パイロット噴射の着火遅れが原因で燃焼音が増大したりピストン13が圧縮上死点に達する前にトルク(逆進トルク)が発生してしまうといったこともない。
以上のことから、従来では制限されていた総パイロット噴射量に対し、本実施形態によれば制限されることがなく、エンジン1の運転状態に応じた量の総パイロット噴射量を気筒内に供給することが可能になる。例えば、エンジン1の冷間時などのように、総パイロット噴射量を多く必要とする場合(気筒内温度の温度上昇量を多く必要とする場合)には、燃料の壁面付着を生じさせることなしに、比較的多量の総パイロット噴射量を確保することが可能であり、パイロット噴射で噴射された燃料の殆どを有効に使用して気筒内の予熱を十分に行うことが可能になる。このため、本実施形態にあっては、パイロット噴射で噴射される燃料の低貫徹力化と、総パイロット噴射量の増大化とを両立することが可能となる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
以上説明した実施形態は、自動車に搭載される直列4気筒ディーゼルエンジンに本発明を適用した場合について説明した。本発明は、自動車用に限らず、その他の用途に使用されるエンジンにも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(直列型エンジン、V型エンジン等の別)についても特に限定されるものではない。
また、上記実施形態および変形例では、マニバータ77として、NSR触媒75およびDPNR触媒76を備えたものとしたが、NSR触媒75およびDPF(Diesel Paticulate Filter)を備えたものとしてもよい。
また、上記実施形態は、総パイロット噴射量を算出するに際し、目標着火時期における圧縮ガス温度(Treal)を推定するものであったが、気筒内に筒内圧センサを備えさせ、この筒内圧センサによって検出された筒内圧力と、上記吸気温センサ49によって検出された吸入空気温度とによって、目標着火時期における圧縮ガス温度(Treal)を求めるようにしてもよい。
更に、分割パイロット噴射の回数としては以下の式(8)により決定するようにしてもよい。
N={(Ca・ΔT)・Kc・Kv}/(J・η) …(8)
(N:分割パイロット噴射の噴射回数、Ca:気筒内に導入された空気の熱容量、ΔT:自着火温度の未達分の温度、Kc:EGR率による熱容量補正係数、Kv:燃焼寄与の対象空間、J:1.5mm3の理論発熱量、η:燃料効率)
ここで、自着火温度の未達分の温度ΔTとは、メイン噴射時における燃料の目標着火時期(例えばピストン13が圧縮上死点に達した時期)での圧縮ガス温度と、燃料の自着火温度との差であって、この目標着火時期での圧縮ガス温度を燃料の自着火温度に到達させるのに必要な熱量に相当する。尚、上記式(8)は、1回当たりの分割パイロット噴射量を固定値(例えば1.5mm3)とし、噴射回数を設定することで必要な総パイロット噴射量を確保するようにしたものである。この分割パイロット噴射量の固定値は上記値に限定されるものではない。
(N:分割パイロット噴射の噴射回数、Ca:気筒内に導入された空気の熱容量、ΔT:自着火温度の未達分の温度、Kc:EGR率による熱容量補正係数、Kv:燃焼寄与の対象空間、J:1.5mm3の理論発熱量、η:燃料効率)
ここで、自着火温度の未達分の温度ΔTとは、メイン噴射時における燃料の目標着火時期(例えばピストン13が圧縮上死点に達した時期)での圧縮ガス温度と、燃料の自着火温度との差であって、この目標着火時期での圧縮ガス温度を燃料の自着火温度に到達させるのに必要な熱量に相当する。尚、上記式(8)は、1回当たりの分割パイロット噴射量を固定値(例えば1.5mm3)とし、噴射回数を設定することで必要な総パイロット噴射量を確保するようにしたものである。この分割パイロット噴射量の固定値は上記値に限定されるものではない。
また、上記実施形態では、分割パイロット噴射の1回当たりにおける噴射形態を、インジェクタ23の最小限界噴射量(1.5mm3)とすることで、燃料の壁面付着を生じさせない低貫徹力を実現するようにしていた。本発明はこれに限らず、分割パイロット噴射の1回当たりにおける噴射形態を、インジェクタ23の最短開弁期間(例えば200μs)とすることで、燃料の壁面付着を生じさせない低貫徹力を実現するようにしてもよい。
また、上記インジェクタ23の最小限界噴射量は、燃料圧力の影響を受けて変動するため、これら最小限界噴射量による噴射形態の規定および最短開弁期間による噴射形態の規定のうち、エンジン1の運転状態に応じて一方を選択して燃料の壁面付着を生じさせない低貫徹力を実現するようにしてもよい。例えば、分割パイロット噴射の1回当たりにおける噴射形態を、インジェクタ23の最短開弁期間として設定している場合に、燃料圧力(コモンレール内圧)が比較的低い状況では、上記分割パイロット噴射量として最小限界噴射量(1.5mm3)を確保できず、気筒内の予熱効果が十分に発揮できない可能性があるため、このような状況では、分割パイロット噴射の1回当たりにおける噴射形態を、インジェクタ23の最小限界噴射量により規定するものに切り換えて、気筒内の予熱効果が得られるようにする。逆に、分割パイロット噴射の1回当たりにおける噴射形態を、インジェクタ23の最小限界噴射量として設定している場合に、燃料圧力(コモンレール内圧)が比較的高い状況では、上記最小限界噴射量を得るためのインジェクタ23の開弁期間を実現することができない可能性があるため、このような状況では、分割パイロット噴射の1回当たりにおける噴射形態を、インジェクタ23の最短開弁期間により規定するものに切り換えるようにする。
1 エンジン(内燃機関)
12 シリンダボア
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
12 シリンダボア
23 インジェクタ(燃料噴射弁)
Claims (6)
- 燃料噴射弁からの燃料噴射動作として、少なくとも、主噴射と、この主噴射に先立って行われる副噴射とが実行可能な圧縮自着火式の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
上記副噴射で要求される総副噴射量を求める総副噴射量算出手段と、
上記総副噴射量算出手段によって求められた総副噴射量を、複数回の分割副噴射によって分割することで間欠的に上記燃料噴射弁から噴射させる副噴射制御手段とを備えており、
上記分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量または燃料噴射弁の開弁期間は、燃料噴射弁から噴射される燃料の貫徹力が、気筒内壁面に燃料が達することのない大きさに制限された値として設定されていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 上記請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
上記副噴射制御手段は、分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射量を、燃料噴射弁の最小限界噴射量に設定するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 上記請求項1記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
上記副噴射制御手段は、分割副噴射の1回当たりにおける燃料噴射弁の開弁期間を、燃料噴射弁の最短開弁期間に設定するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 上記請求項1、2または3記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
上記副噴射で噴射される燃料は、その燃焼により、内燃機関の圧縮行程中における気筒内の圧縮ガス温度を燃料の自着火温度まで上昇させるための熱源として用いられ、
上記総副噴射量算出手段は、上記気筒内の圧縮ガス温度が燃料の自着火温度よりも低いほど総副噴射量を多く設定することを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 上記請求項1〜4のうち何れか一つに記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
上記副噴射制御手段は、各分割副噴射で噴射され且つ気筒内のスワール流に沿って流れる燃料に対して重畳しないタイミングで燃料が噴射されるように、各分割副噴射の噴射タイミングをそれぞれ設定するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。 - 上記請求項5記載の内燃機関の燃料噴射制御装置において、
上記副噴射制御手段は、
下記の式(1)
(分割副噴射の噴射回数)=(副噴射で要求される総副噴射量)/(燃料噴射弁の最小限界噴射量) …(1)
で算出される分割副噴射の噴射回数に対して、下記の式(2)
(分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値)=360/(燃料噴射弁の噴孔数)/(分割副噴射の噴射回数)/(スワール比) …(2)
で算出される分割副噴射間インターバルのクランク回転角度換算値毎に上記分割副噴射を実行するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の燃料噴射制御装置。
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