単価記号
単価記号(たんかきごう)とは記号「@」。 JIS X 0208 における日本語通用名称「単価記号」に[1]後に制定された JIS X 0213 においてアットマークと言う別称が加えられた[2]。「a」を丸で囲んだ「ⓐ」とは別字。
「@」は会計において一般に用いられる略記号。例えば「商品7個 @ $2 = $14」(商品7個 各単価2ドル 小計14ドル)のように請求書などに用いられていた。レイ・トムリンソンが電子メールのメールアドレスに用いたので1990年代後半以降に身近な記号になっていった。
名称
[編集]ANSI、CCITT、Unicode による文字コード規格では、いずれも「commercial at」(コマーシャルアット)が公式名称である。Unicode はさらに「at sign」を代替名称としている[3]。英語では一般に「at @」あるいは「at symbol」などと呼ばれ、文章中では単に「at」と読まれる。
各言語で、以下のような俗称がある[要出典]。(言語によっては正式名称として扱われている[注釈 1][4])
言語 | 俗称 | 意味 |
---|---|---|
スペイン語 | arroba[注釈 2] | アローバ |
ポルトガル語 | ||
フランス語 | arobase | |
イタリア語 | chiocciola, chiocciolina | カタツムリ |
ウクライナ語 | равлик | |
エスペラント | heliko | |
ベラルーシ語 | слімак | |
オランダ語 | apenstaartje | 猿の小さな尻尾[4] |
ギリシア語 | παπάκι | 小さなアヒル |
スウェーデン語 | snabel-a | 象の鼻のa |
デンマーク語 | ||
ノルウェー語 | krøllalfa | カールしたα(アルファ) |
フィンランド語 | kissanhäntä | 猫の尾 |
スロベニア語 | afna | 猿 |
チェコ語 | zavináč | ロールモップス(巻きニシン) |
スロバキア語 | ||
トルコ語 | kuyruklu a | 尾のa |
ルーマニア語 | a rond | 丸囲みのa |
中国語(中国大陸) | 艾特(アイ・テ) | 「at」の音声転写 |
圈a | 丸a | |
花a | 花体のa | |
中国語(台湾) | 小老鼠 | 小さな鼠 |
韓国語 | 골뱅이 | 巻貝 |
ドイツ語 | Klammeraffe | クモザル |
日本語 | アットマーク | |
ハンガリー語 | kukac | 蠕虫 |
ブルガリア語 | маймунка | 小さな猿 |
ヘブライ語 | שטרודל | シュトゥルーデル |
ポーランド語 | małpa | 猿 |
ロシア語 | собака, собачка | 犬 |
ベトナム語 | a còng | 湾曲したa |
a móc | 鈎付きのa |
起源
[編集]起源にはいくつかの説がある。
- ギリシャの水量の単位@から来ている。
- ラテン語の「アンフォラ」(取っ手が付いたツボ)という意味の記号である。1つの「アンフォラ」に入る量が「1アンフォラ」とされ、その後に単価を表すマークになった。
- スペイン語圏・ポルトガル語圏の質量の単位アローバ (arroba) の記号。1448年のアラゴンや、1537年のヴェネツィアに用例がある[5]。
- ラテン語の前置詞 ad(英語の at にあたる接頭字)の合字。
- フランス語の前置詞 à(英語の at にあたる)の変形。
- 英語の each at から、e と a の合字。
歴史
[編集]最古の登場は、12世紀のビサンツ帝国の年譜記録者コンスタンティノス・マナセルによる、ある写本の1345年のブルガリア語訳だった(当の写本は今はバチカン図書館にある)。そこでは「アーメン」という単語の「A」の字の代わりに@が登場する[4]。
1448年のスペイン語の文章、1536年のイタリア語の文章、1674年のフランス語の文章に@の印が見つかっている[4]。
意味
[編集]単価
[編集]たとえば @$300 と書いて、単価(1個の価格)が300ドルであることを意味する。ただし英単語の at の意味は「単価」ではなく「~の値段で」で、単価300ドルは正確には at $300 apiece などという。
メールアドレス
[編集]現在では、atの代わりに幅広く使われだしており、特に、インターネットの電子メールのアドレスで、ユーザ名とドメイン名を分けるのに使われる。これは、1971年、レイ・トムリンソンが、前述のように単価を表す文字として使われていた@を「このユーザーは、ローカルマシン上(at the local machine)ではなく、他のホスト上(at another host)に居る」と言う意味を込めるために採用したことに始まる[6][4]。
プログラム言語
[編集]- Pythonにおいて@は宣言したデコレータを呼び出す際に用いる。
- Rubyにおいて@はインスタンス変数の識別子を表し、@hogeでインスタンス間での変数のやりとりが可能となる。
- Perlにおいて@は配列変数を宣言する。
- PHPにおいて@はエラー制御演算子を表し、@func(funcは予約関数)で、一定のエラー表示を抑制することができる。
- Vue.jsにおいて@はv-onディレクティブの省略記法となっている。v-on:clickの場合は@clickと記述することができる。
自然言語
[編集]- 英単語の at の略記に使う。
- メールアドレスでの用法から派生し、自然言語でも、電子メール中などで「人名@企業・団体名」というような使い方をすることがある。
- 特にアメリカでは、スポーツ競技のホームアンドアウェイでの対戦カードを「アウェイチーム@ホームチーム」で表記することが多い。これは、アウェイチームから見て「相手チームのホームで (at) 試合をする」という意味がある。
- Leet (ハッカー語)では「a」や「at」の代わりに使うことがある。例:THE IDOLM@STER(この場合はTHE IDOLMASTERと発音する)。
- コンピューターゲームの『ローグ』において主人公を示す記号に@が使われた事から、ローグライクゲームにおける自機の総称、通称として@を用いることがある。
- 日本語では英語 at にかけたインターネットスラングとして、いくつかの用法がある。
- 英語のatの意味から派生して、場所を表す表現に用いる。例えば、「今日は暑かった@渋谷」で渋谷周辺に言及していることを表す。
- 音の「あと」をとって追加事項を表す。例えば、「@3日」は「あと3日」、「@3人」は「あと3人」。
- さらに派生して「あと」の意味を伴わない追加事項を表す場合にも使われる。例えば、「イベント@終了」でイベントが終了したことを表すなど。
- 日本のプロゴルフツアーにアマチュア選手が参加した際、リーダーボード(順位表)の氏名にはアットマークが前置される[7][8]。
- スペイン語・ポルトガル語などでは、名詞の母音が男性形なら -o- ・女性形なら -a- となるとき通性形として -@- を使う。たとえば、amig@sは「amigos(男の友達)またはamigas(女の友達)」を意味する。
- コアリブ語 (Koalib language) の正書法では、ラテン文字の1つとしてアラビア語からの借用語に使われる。@の大文字も使う[9]。文字としての@の大文字・小文字は、国際SILによりUnicodeの私用領域に外字として登録されたが[10]、Unicodeには採用されていない。
- インターネットリレーチャット(IRC)では、チャンネルのオペレーター権限を持っていることを示すために、ニックネームの前につけられる。日本では、鳴門巻きの輪切りに似ていることから「なると」とも呼ばれる。
- ビッグモーターにおいて、車両修理の工賃と部品交換で得られる利益の合計額を表す隠語、@「アット」[11]。ビッグモーター#主な不祥事も参照。
記法
[編集]- 化学式では内包を表す。例えばN@C60は、C60(フラーレン)の中にN(窒素原子)が入った分子を表す。
- SAMPAやX-SAMPAでは ə を表す。
- スウォッチ・インターネットタイムでは、時刻を示すプレフィックスとして用いられる。「@500.00」のように時刻を表記する。
企業・団体名
[編集]- アットローンはかつて存在した日本の消費者金融。サービス名に「@Loan」の商標を用いていた。
- エフエム愛知の愛称、@FM(アットエフエム)。
- ギャラリー@KCUA、京都市立芸術大学のサテライトギャラリー「アクア」と呼ぶ。
文字コード
[編集]Unicode・JIS
[編集]記号 | Unicode | JIS X 0213 | 文字参照 | 名称 |
---|---|---|---|---|
@ | U+0040 |
1-1-87 |
@ @ |
commercial at 単価記号、アットマーク |
﹫ | U+FE6B |
- |
﹫ ﹫ |
small commercial at |
@ | U+FF20 |
1-1-87 |
@ @ |
fullwidth commercial at |
モールス符号
[編集]国際電気通信連合は2004年5月3日、国際モールス符号表[12]に@を追加することを承認した。符号は・--・-・[注釈 3]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 具体的にはスペイン語・ポルトガル語である。
- ^ arroba メートル法以前の質量あるいは体積の単位として用いられる(この言葉の由来をさらにたどると、アラビア語でロバが背負える荷物の量を指す言葉に行き着く)。
- ^ なお#起源に出てくるフランス語の前置詞 à (À) には、この符号表には載っていないものの・--・-が使われている(モールス符号#主な“ダイアクリティカルマーク”付きアルファベットなど)。
出典
[編集]- ^ 日本工業規格 (1997), p. 50.
- ^ 日本工業規格 (2000), p. 83.
- ^ The Unicode Consortium (2014).
- ^ a b c d e 『記号とシンボルの事典』青土社、2019年、27-29頁。
- ^ Willan, Philip (2000年7月31日). “Merchant@Florence Wrote It First 500 Years Ago”. The Guardian (London) 2010年4月25日閲覧。
- ^ https://openmap.bbn.com/~tomlinso/ray/firstemailframe.html
- ^ 桂川洋一 (2014年5月15日). “15歳だけじゃないアマチュア旋風!?女子ゴルフ界の下剋上が止まらない。”. Number Web - ナンバー. 2022年9月12日閲覧。
- ^ “内田琴子いきなり試練のプロ初ツアー「地元開催ということでいい結果を」 - 国内女子ゴルフ”. 日刊スポーツ (2021年7月7日). 2022年9月12日閲覧。
- ^ Unicode Technical Meeting #101, 15 -18 November 2004, Cupertino, California
- ^ https://scripts.sil.org/cms/scripts/page.php?site_id=nrsi&item_id=CharisSIL_Technical
- ^ https://www.facebook.com/mainichishimbun.+“利益隠語で競わせ叱責「不正促した」 ビッグモーター元幹部ら証言”. 毎日新聞. 2023年7月27日閲覧。
- ^ Recommendation ITU-R M1677-1 International Morse code (PDF) ITU
関連項目
[編集]参考文献
[編集]- 日本工業規格『JIS X 0208:1997 - 7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合』日本規格協会、1997年。
- 日本工業規格『JIS X 0213:2000 - 7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合』日本規格協会、2000年。
- The Unicode Consortium (2014年). “C0 Controls and Basic Latin” (PDF). The Unicode Standard, Version 7.0. Mountain View, CA: The Unicode Consortium. 2014年9月7日閲覧。
- スティーブン・ウェップ著、松浦俊輔訳『記号とシンボルの事典』青土社、2019年、27頁 arroba,arobase,apenstaartje,kukac,snabel-aの表記確認