民芸品
民芸品
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 03:10 UTC 版)
民芸品店で販売されるウイチョル族の民芸品は毛糸絵(西: cuadro de estambre; 英: yarn painting)とビーズ細工とに大別される。 このうち毛糸絵はニエリカ(ウイチョル語: niérika、nierika)とも呼ばれ、本来はシャーマンが世界を知るために用いる呪物、つまり特別な力を有する道具で、天の世界をのぞくための窓を象ったものであるとされている。Schaefer & Furst (1996:527) もニエリカの語義を「異世界への入り口」としている。道具としてのニエリカは形も用途も様々で、Fresán Jiménez (2002:65–67) はニエリカの形を以下のように分類している。 葦を輪の形に編んだもの 糸を蜘蛛の巣のように張って輪状にしたもの 竹ひごで編んだもの 石製や木製の板に彫刻や毛糸貼りで鹿やトウモロコシを描いたもの 毛糸絵 円形の鏡 小型のものの多くは呪物として用いられる矢に取り付けられ、一方大型のものは神殿の壁にはめ込まれたり屋根からぶら下げられたりしている(Lumholtz & Cruz 1997: 62)。しかし、今日呪物として製作されるニエリカの大半は、円形の小さな板を基本としてその中央に、 ガラスや鏡をはめ込んだもの 穴を開けたもの 太陽を描いたもの のいずれかとなっている(Negrín 1977: 31)。 こうした呪物としてのニエリカからやがて商品としての毛糸絵が派生する訳であるが、この発展はウイチョル族自らの手による自発的な取り組みによるものではなく、1934年あるいは1935年頃から見られた(Maclean 2010: 68)外部からの働きかけを契機とするものである。その後1953年にメキシコシティにポピュラーアート・産業博物館(西: Museo de Artes e Industrias Populares)が設立されるが、この頃からウイチョル族の毛糸絵製作が盛んになり始める。はじめのうち、毛糸絵は小型かつ簡素なデザインであった。しかし、サポパン大聖堂(英語版)のフランシスコ会神父エルネスト・ロエラ・オチョア(Ernesto Loera Ochoa)の助言を受けたウイチョル族のシャーマンラモン・メディナ・シルバ(Ramón Medina Silva)が、同大聖堂のウイチョル族博物館での展示販売を目的として(Kindl & Neurath 2003: 443)ウイチョル族の神話を毛糸絵に表現することを始めた。こうしてウイチョル族の世界観が編み込まれた毛糸絵は、その独特かつ緻密な製作技法とデザインのサイケデリックさとが高く評価され、民芸品からアートへと昇華させられた。またこの毛糸絵により、ウイチョル族は「伝統的な生活を保つ先住民」、また「芸術家」としてメキシコ内外で知られることとなった。 ついでビーズ細工だが、これには2つの系統が存在する。一方はイヤリングやネックレス、指輪、ブレスレット、ペンダントといった装身具で、もう一方は呪物ニエリカより発展した毛糸絵から更に派生したものと思われ、四角い木製板やヒョウタンの器、仮面や動物の像に蜜蝋を塗り、その上にビーズによる絵や模様を貼り付けるものである。いずれの系統のものも19世紀末に関連する記録が存在し、前者は女性用のビーズ製イヤリングやブレスレット、足首の装身具についてサンタ・カタリナ・クエスコマティトランに派遣された政府の役人が(Castelló Yturbide & Mapelli Mozzi 1998: 54)、後者はヒョウタンや土でできた器型の呪物 jícara が彩色とビーズで飾られ、神に捧げられているとルムホルツが記録している。ただし動物の像にビーズを飾る手法はウイチョル族固有のものではなく、ジャガーの頭部を模した像に彩色などの飾りつけをするゲレーロ州の民芸品から着想を得たものと考えられている(Barajas Zendejas 2009: 121; Rajsbaum Gorodezki 1994: 72)。2015年の時点でビーズ細工は毛糸絵よりも主流の民芸品となっており、2010年にはメキシコの芸術活動のシンボル的なものとして、フォルクスワーゲン社の旧ビートルの車体全体および内装にビーズ細工を施した巨大な作品 El Vochol (en) が、ポピュラーアート美術館(英語版)(西: Museo de Arte Popular)の下で大勢のウイチョル族の参加によって製作された。 ウイチョル族の毛糸絵やビーズ製作が国内外の注目を集めてきた一方で、こうした民芸品によって得られるはずの収益が当のウイチョル族に十分行き渡っていない状況も指摘されている。山森 (2017) は、民芸品の販売についての現地での実態調査を経た上で、ウイチョル族は資金力や商売の知識に乏しく、同族意識や同郷意識が希薄な一方で、民芸品の販売にも家族単位や親族単位であたろうとするなどの「狩猟採取民的な特質」があると指摘し、民芸品製作販売によるウイチョル族自身への収益が思わしくない理由を、ウイチョル族が本来は狩猟採集民であった説と関連付けて分析している。またビーズ細工は比較的容易に製作が可能であることから、ウイチョル族以外の人間により同じ様式の工芸品の製作や販売が行われる「文化の剽窃(英語版)」も起きている(橋本 1999: 180)。
※この「民芸品」の解説は、「ウイチョル族」の解説の一部です。
「民芸品」を含む「ウイチョル族」の記事については、「ウイチョル族」の概要を参照ください。
「民芸品」の例文・使い方・用例・文例
民芸品と同じ種類の言葉
- 民芸品のページへのリンク