JPH08121555A - 遊星歯車式変速装置 - Google Patents

遊星歯車式変速装置

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JPH08121555A
JPH08121555A JP6281401A JP28140194A JPH08121555A JP H08121555 A JPH08121555 A JP H08121555A JP 6281401 A JP6281401 A JP 6281401A JP 28140194 A JP28140194 A JP 28140194A JP H08121555 A JPH08121555 A JP H08121555A
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 前進4段型と前進5段型の遊星歯車式変速装
置間で最大限の部品共通化を達成する。 【構成】 3組の遊星歯車装置G31、G32、G3
3、3個のクラッチK1、K2、K3、2個のブレーキ
B1、B2からなる前進4段型の遊星歯車式変速装置
に、遊星歯車装置G34とブレーキB3を付加して前進
5段型の遊星歯車式変速装置とする。前進4段型の1速
〜4速が前進5段型の2速〜5速となり、遊星歯車装置
G34を変速動作に関与させる1速が新たに追加され
る。前進4段型でもオーバードライブ(4速)による低
燃費を確保できる。遊星歯車装置G31、G32をリン
グギヤ入力としているため、歯面負荷が小さく、遊星歯
車装置G31、G32の薄型化、小口径化を通じて、自
動変速機の小型化、軽量化が達成される。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、自動車や鉄道車両等の
多段自動変速機に用いられる遊星歯車式変速装置に関す
る。
【0002】
【従来の技術】遊星歯車式変速装置にトルクコンバータ
ーを組み合わせた自動変速機が実用化されている。遊星
歯車式変速装置は、複数の遊星歯車装置に複数のクラッ
チやブレーキを組み合わせて構成されており、複数のク
ラッチやブレーキの断続の組み合わせを変更して、変速
比(=入力回転数/出力回転数)を複数通りに切り替え
ることができる。遊星歯車装置は、外側のリングギヤと
中心のサンギヤとの間に1〜2段のピニオンギヤを配置
し、複数のピニオンギヤがピニオンキャリヤに拘束され
て一体に遊星運動する。遊星歯車装置のリングギヤ、ピ
ニオンキャリヤ、サンギヤ、および複数のクラッチやブ
レーキの各要素間は、トルク伝達を担う殻構造や一方向
クラッチによって、適当な組み合わせで相互に連結され
る。
【0003】従来の自動車用の自動変速機における遊星
歯車式変速装置は、前進3段、後退1段の変速が可能な
前進3段型や、前進4段、後退1段の変速が可能な前進
4段型が一般的であったが、現在では、これらに変速比
が1以下のいわゆるオーバードライブ変速段を追加した
前進4段型や前進5段型が開発され、実用化されてい
る。オーバードライブ変速段ではエンジン回転数が抑制
されて、高速道路の走行等における燃費が向上する。こ
こで、前進5段型の遊星歯車式変速装置は、通常、前進
4段型の自動変速機に対してその上位車種用や高級仕様
向けとして採用されるが、両者の間で部品の共通化が望
まれている。
【0004】そして、前進4段型と前進5段型の遊星歯
車式変速装置の部品共通化を目的とする発明が特開昭4
7−43658号公報に示される。ここでは、3組の遊
星歯車装置を含む前進4段型の遊星歯車式変速装置の出
力軸側に副変速装置を連結して前進5段型としており、
副変速装置は、1組の遊星歯車装置と2つの締結要素
(クラッチとブレーキ)で構成される。従って、前進4
段型の遊星歯車式変速装置の主要構成部品を前進5段型
でもそのまま使用して、比較的に安価に前進5段型の遊
星歯車式変速装置を提供できる利点がある。また、前進
4段型では3組の遊星歯車装置を使用し、前進5段型で
は4組の遊星歯車装置を使用するため、それぞれの遊星
歯車装置の歯数比を調整して定める変速比の自由度が高
く、前進4段型と前進5段型の両方で変速の各段におけ
る変速比の分布を最適に選択できる利点がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述の特開昭47−4
3658号公報の遊星歯車式変速装置では、副変速装置
によってオーバードライブ変速段が追加される構成であ
るから、前進4段型とした場合にオーバードライブ変速
段が失われる問題がある。高速道路の整備、道路事情の
改善によってオーバードライブ変速段の利用機会が増し
ており、発進から変速比1に至るまでの変速段の数を1
つ削減してもオーバードライブ変速段を確保したい場合
がある。オーバードライブ変速段が無いと、車両の燃料
消費に大きな影響を及ぼし、特に高速走行における燃料
消費の悪化が顕著である。また、公害防止やエンジン騒
音の観点からもオーバードライブ変速段の確保が望まれ
ている。
【0006】上述の特開昭47−43658号公報の遊
星歯車式変速装置では、また、変速に関与して負荷状態
に晒される遊星歯車装置がサンギヤ入力であるという問
題がある。サンギヤは遊星歯車装置の最も内側に位置す
るため、他のリングギヤ入力やピニオンキャリヤ入力に
比較して、サンギヤ入力では同じトルクを伝達する場合
に歯面加重が著しく大きくなる。従って、サンギヤ入力
では歯面の磨耗や衝突騒音も大きく、遊星歯車装置の薄
型化、小型化、長寿命化が困難で、遊星歯車式変速装置
の全体の大型化や重量増にも結び付く。
【0007】上述の特開昭47−43658号公報の遊
星歯車式変速装置では、さらに、変速の各段で変速に関
与して負荷状態に晒される遊星歯車装置の組数が多いと
いう問題がある。負荷状態に晒される遊星歯車装置の組
数が多いと、歯面の摩擦やオイル攪拌による損失が増大
して燃費に悪影響を及ぼすし、騒音や機械寿命の観点か
らも望ましくない。特に、高速走行に利用され、長時間
に渡って連続使用される機会が多いオーバードライブ変
速段で2組以上の遊星歯車装置が負荷状態に晒されるこ
とは致命的である。
【0008】本発明は、前進4段型と前進5段型の間で
部品の共通化を達成しつつ、燃費や騒音や機械寿命が改
善され、しかも、遊星歯車装置のさらなる薄型化、小口
径化が可能で遊星歯車式変速装置の小型化、計量化も容
易な遊星歯車式変速装置を提供することを目的としてい
る。
【0009】
【課題を解決するための手段】請求項1の遊星歯車式変
速装置は、入力部材および出力部材の回転軸線上に配置
されたシングルピニオン型の第1遊星歯車装置、第2遊
星歯車装置、および第3遊星歯車装置を有する遊星歯車
式変速装置において、第1遊星歯車装置のリングギヤを
前記入力部材に対して締結可能な第1クラッチと、第1
遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締結可
能な第2クラッチと、第2遊星歯車装置のサンギヤを前
記入力部材に対して締結可能な第3クラッチと、第2遊
星歯車装置のサンギヤの回転を停止可能な第1ブレーキ
と、第3遊星歯車装置のピニオンキャリヤの回転を停止
可能な第2ブレーキと、第1遊星歯車装置のピニオンキ
ャリヤと第2遊星歯車装置のピニオンキャリヤと第3遊
星歯車装置のリングギヤと前記出力部材の間を回転連絡
する第1連絡手段と、第1遊星歯車装置のサンギヤと第
2遊星歯車装置のリングギヤの間を回転連絡する第2連
絡手段と、第2遊星歯車装置のサンギヤと第3遊星歯車
装置のサンギヤの間を回転連絡する第3連絡手段と、を
有するものである。
【0010】請求項2の遊星歯車式変速装置は、請求項
1の前進4段型の構成(ただし、第1連絡手段は出力部
材に直接連絡していない)に追加して、第1連絡手段の
回転を入力して減速し、前記出力部材に出力する副変速
装置を設けており、前記副変速装置が、前記回転軸線上
に配置されたシングルピニオン型またはダブルピニオン
型の第4遊星歯車装置と、第4遊星歯車装置のリングギ
ヤ、ピニオンキャリヤ、サンギヤのうち1つの回転を停
止可能な第3ブレーキと、第4遊星歯車装置のリングギ
ヤ、ピニオンキャリヤ、サンギヤのうち2つの相対回転
をロック可能な第4クラッチとを有する。
【0011】請求項3の遊星歯車式変速装置は、請求項
1の前進4段型の構成に追加して、第1連絡手段の回転
から戻し出力を形成して、第3遊星歯車装置のピニオン
キャリヤに入力する副変速装置を設けており、前記副変
速装置が、前記回転軸線上に配置されたシングルピニオ
ン型またはダブルピニオン型の第4遊星歯車装置と、第
4遊星歯車装置のリングギヤ、ピニオンキャリヤ、サン
ギヤのうち1つの回転を停止可能な第3ブレーキとを有
する。
【0012】請求項4の遊星歯車式変速装置は、請求項
1、2、または3の構成において、第3連絡手段は、第
3遊星歯車装置のサンギヤおよび第1ブレーキを一体に
回転させる連結部材と第2遊星歯車装置のサンギヤとの
間に直列に配置した一方向クラッチと、前記一方向クラ
ッチと並列に配置した第5クラッチとを有するものであ
る。
【0013】
【作用】請求項1の遊星歯車式変速装置は、シングルピ
ニオン型の3組の遊星歯車装置と3個のクラッチと2個
のブレーキとを含む前進4段型のものであるが、1組の
シングルピニオン型またはダブルピニオン型の遊星歯車
装置と、1〜2組の締結要素(クラッチ、ブレーキ)を
追加すれば前進5段型に変更できる。請求項1の構成に
対する遊星歯車装置と締結要素の配置と接続に関する例
が請求項2〜3に示される。連絡手段は、双方向の回転
トルクを伝達する相互に固定された構造としてもよく、
一方向の回転トルクを伝達して逆方向の回転駆動を空転
させる一方向クラッチや、一方向クラッチとクラッチを
並列に組み合わせた構造としてもよい。連絡手段に一方
向クラッチを採用した例が請求項4に示される。
【0014】請求項1の遊星歯車式変速装置における1
速および2速では、第2遊星歯車装置をリングギヤ入力
としてピニオンキャリヤから出力を取り出す。1速で
は、第3遊星歯車装置を補助的に機能させ、第3遊星歯
車装置が出力から形成した逆回転を第2遊星歯車装置の
サンギヤに戻し入力して、出力となるピニオンキャリア
の回転速度を2速よりも低下させる。2速では、サンギ
ヤを停止させた第2遊星歯車装置のみによって出力が形
成される。3速では、第1遊星歯車装置のリングギヤと
サンギヤに同時入力して両者の相対回転を失わせること
によって、第1遊星歯車装置全体をロックさせて出力部
材と一体に回転させる。ピニオンキャリヤからは、出力
部材と同じ回転速度が取り出される。4速では、リング
ギヤ入力でピニオンキャリヤから出力を取り出される第
1遊星歯車装置に対して第2遊星歯車装置を補助的に機
能させる。第2遊星歯車装置が出力から形成した増速回
転を第1遊星歯車装置のサンギヤに戻し入力する。リン
グギヤ以上の回転速度でサンギヤが順方向に回転する第
1遊星歯車装置によって変速比1以下の増速出力が形成
される。後退では、ピニオンキャリヤを停止させた第3
遊星歯車装置をサンギヤ入力とすることによって、リン
グギヤから減速された逆回転を出力させる。
【0015】請求項2の遊星歯車式変速装置では、副変
速装置が請求項1の構成による1速と2速をさらに減速
させる。そして、請求項1の構成による3速の変速段を
減速させた新しい1つの変速段を請求項1の構成による
3速の下に追加する。副変速装置は、第3ブレーキを締
結することによって減速機として機能する。一方、第4
クラッチを締結することによってロックされて一体に回
転し、請求項1の構成における出力部材の回転をそのま
ま出力部材に伝達する。なお、(1) 第4遊星歯車装置を
シングルピニオン型とダブルピニオン型のどちらとする
かの別、(2) 第4遊星歯車装置のどの回転要素を入力、
出力とし、ブレーキB3に接続するかの別を調整して、
第1連絡手段の出力を増速して出力部材に伝達すること
とすれば、請求項1の構成による1速と2速の間に1段
の変速段を配置することも可能である。
【0016】請求項3の遊星歯車式変速装置では、請求
項1の構成による1速の変速段の下にさらに低い回転数
(高い変速比)の変速段が追加される。この追加された
変速段においては、第2遊星歯車装置、第3遊星歯車装
置、第4遊星歯車装置の3つが協働して減速を行う。第
3ブレーキによってピニオンキャリヤをロックされた第
4遊星歯車装置は、「第2遊星歯車装置に対して補助的
に機能する第3遊星歯車装置」に対して補助的に機能す
る。第4遊星歯車装置が出力から形成した逆回転の戻し
出力が第3遊星歯車装置のピニオンキャリヤにされる
と、第3遊星歯車装置のサンギヤの逆回転の速度が高ま
り、第1遊星歯車装置のピニオンキャリヤの回転速度が
請求項1の構成による1速の場合よりもさらに低下す
る。なお、(1) 第4遊星歯車装置をシングルピニオン型
とダブルピニオン型のどちらとするかの別、(2) 第4遊
星歯車装置のどの回転要素を入力、出力とし、ブレーキ
B3に接続するかの別を調整して、第1連絡手段から順
方向の戻し出力を形成した場合には、第3遊星歯車装置
のサンギヤの逆回転の速度が低下して、第1遊星歯車装
置のピニオンキャリヤの回転速度が請求項1の構成によ
る1速の場合よりも高まる。
【0017】請求項4の遊星歯車式変速装置では、一方
向クラッチが第2遊星歯車装置のサンギヤの順方向の駆
動を空転させる。これにより、請求項1の構成による1
速、2速、請求項2の構成による1速、2速、請求項3
の構成による、1速、2速、3速におけるエンジンブレ
ーキが遮断される。第5クラッチは、一方向クラッチに
よる片方向の伝達を両方向に戻して、エンジンブレーキ
を有効にする。
【0018】
【実施例】図1〜図4を参照して第1実施例の遊星歯車
式変速装置を説明する。第1実施例の遊星歯車式変速装
置は、第2〜第6実施例の基礎となる前進4段型のもの
であって、図示しないトルクコンバーターやオイルポン
プに組み合わせて自動車用の自動変速機(オートマチッ
クトランスミッション)に組み立てられる。図1〜図4
では、遊星歯車式変速装置の構成が、構成部品の配置と
接続状態を表して中心線から下側を図示略したスケルト
ンで示されている。図1は第1実施例の遊星歯車式変速
装置の構成の説明図、図2、図3は各変速段における遊
星歯車装置の作動図、図4は遊星歯車装置の配置と接続
の変形例である。図1中、(a)はスケルトン、(b)
は各変速段におけるクラッチおよびブレーキの締結状態
と変速比を示す。図2中、(a)は1速、(b)は2速
の作動状態をそれぞれ示す。図3中、(a)は3速、
(b)は4速、(c)は後退の作動状態をそれぞれ示
す。図4の(a)、(b)はそれぞれ別の変形例を示
す。
【0019】図1の(a)において、入力軸E1と同一
の回転軸線上に左から3組のクラッチK1、K2、K
3、2組のブレーキB1、B2、3組の遊星歯車装置G
11、G12、G13、および出力軸E2が配置され
る。上方にハッチングで示した筐体D1は、これらの機
構を格納するとともに、入力軸E1および出力軸E2を
回転可能に支持する。遊星歯車装置G11は、外周のリ
ングギヤR11と中心のサンギヤS11の間に複数のピ
ニオンギヤP11を配置して噛み合わせ、複数のピニオ
ンギヤP11をピニオンキャリヤC11で一体に拘束す
る。遊星歯車装置G12は、外周のリングギヤR12と
中心のサンギヤS12の間に複数のピニオンギヤP12
を配置して噛み合わせ、複数のピニオンギヤP12をピ
ニオンキャリヤC12で一体に拘束する。遊星歯車装置
G13は、外周のリングギヤR13と中心のサンギヤS
13の間に複数のピニオンギヤP13を配置して噛み合
わせ、複数のピニオンギヤP13をピニオンキャリヤC
13で一体に拘束する。
【0020】クラッチK1は、入力軸E1を遊星歯車装
置G11のリングギヤR11に対して締結可能である。
クラッチK2は、入力軸E1を遊星歯車装置G11のサ
ンギヤS11および遊星歯車装置G12のリングギヤR
12に対して締結可能である。クラッチK3は、入力軸
E1を遊星歯車装置G12、G13のサンギヤS12、
S13に対して締結可能である。ブレーキB1は、筐体
D1に対して遊星歯車装置G12、G13のサンギヤS
12、S13をロックして、サンギヤS12、S13の
回転を停止可能である。ブレーキB2は、筐体D1に対
して遊星歯車装置G13のピニオンキャリヤC13をロ
ックして、ピニオンキャリヤC13の回転を停止可能で
ある。
【0021】遊星歯車装置G11、G12のピニオンキ
ャリヤC11、C12と遊星歯車装置G13のリングギ
ヤR13と出力軸E2の間に連絡部材N11が配置され
る。遊星歯車装置G11のサンギヤS11と遊星歯車装
置G12のリングギヤR12の間に連絡部材N12が配
置される。遊星歯車装置G12、G13のサンギヤS1
2、S13の間に連絡部材N13が配置される。連絡部
材N13は、クラッチK3およびブレーキB1を遊星歯
車装置G12のサンギヤS12に連絡する部材を兼ねて
いる。連絡部材N11、N12、N13は、トルク伝達
用の殻構造や軸方向の噛み合わせ構造や多重の軸構造に
よって構成され、相対回転を固定して正逆両方向に回転
トルクを伝達する。
【0022】図1の(b)において一覧表として示すよ
うに、1速ではクラッチK2とブレーキB2の組み合わ
せが締結される。2速ではクラッチK2とブレーキB1
の組み合わせが締結される。3速ではクラッチK1、K
2の組み合わせが締結される。4速ではクラッチK1と
ブレーキB1の組み合わせが締結される。後退ではクラ
ッチK3とブレーキB2の組み合わせが締結される。こ
れらの変速段における変速比は、遊星歯車装置G11、
G12、G13の歯数比α1 、α2 、α3 を用いて右側
の数式のように求められる。この数式を用いて歯数比α
1 、α2 、α3をそれぞれ0.40、0.60、0.4
0と定めた場合の具体的な変速比の数値が右端の欄に示
される。
【0023】次に、図2、図3を参照して、前進4段、
後退1段の変速各段における遊星歯車装置の作動状態を
説明する。ここでは、クラッチおよびブレーキについて
は実線が締結状態、破線が解放状態である。遊星歯車装
置および各要素の連絡部分については、変速動作に関与
して出力に結び付く状態を実線、無関係な状態を破線で
示している。
【0024】図2の(a)の1速では、ブレーキB2に
よってピニオンキャリヤC13をロックされた遊星歯車
装置G13と、クラッチK2によってリングギヤR12
入力となる遊星歯車装置G12とによって減速が行われ
る。ピニオンキャリヤC13が停止された遊星歯車装置
G13のリングギヤR13に、遊星歯車装置G12のピ
ニオンキャリヤC12の回転が入力されると、遊星歯車
装置G13のサンギヤS13からは、リングギヤR13
と逆方向の増速された回転が出力される。この逆方向の
回転が遊星歯車装置G12のサンギヤS12に戻し入力
される。シングルピニオン型の遊星歯車装置G12で
は、ピニオンキャリヤC12の回転速度がリングギヤR
12とサンギヤS12の回転速度の中間の値(歯数比で
重み付けされた値)となる。従って、サンギヤS12が
逆回転していると、リングギヤR12の同一回転速度の
入力に対して、サンギヤS12が停止した次の2速の場
合よりもピニオンキャリヤC12の回転速度が低下す
る。図2の(b)の2速では、ブレーキB1によってサ
ンギヤS12を停止させた遊星歯車装置G12が単純な
減速を行う。遊星歯車装置G12では、サンギヤS12
の回転速度0とリングギヤR12の中間の速度が形成さ
れて、ピニオンキャリヤC12に出力される。
【0025】図3の(a)の3速では、遊星歯車装置G
11の全体をロックさせて入力軸と一体に回転させる。
遊星歯車装置G11のリングギヤR11とサンギヤS1
1に対して、それぞれクラッチK1、K2を通じて入力
軸の回転が入力される。リングギヤR11とサンギヤS
11の相対回転が失われた遊星歯車装置G11では、リ
ングギヤR11、ピニオンキャリヤC11、サンギヤS
11の噛み合わせ状態を維持したまま全体が一体に回転
して、ピニオンキャリヤC11から入力軸と等しい回転
速度が取り出される。このとき、出力軸E2の出力には
直接関与していないが、リングギヤR12とピニオンキ
ャリヤC12に対して同じ回転速度が入力される遊星歯
車装置G12でも、回転要素の相対回転が失われて全体
が一体に回転している。
【0026】図3の(b)の4速では、遊星歯車装置G
11のサンギヤS11をリングギヤR11よりも高速回
転させることによって、変速比が1以下の増速された回
転を形成してピニオンキャリヤC11に出力する。すな
わち、ブレーキB1によってサンギヤS12をロックさ
れた遊星歯車装置G12は、出力軸E2の回転を増速し
てリングギヤR12に出力する。そして、リングギヤR
12の増速された回転を遊星歯車装置G11のサンギヤ
S11に戻し入力して、遊星歯車装置G11のサンギヤ
S11をリングギヤR11よりも高速回転させる。
【0027】図3の(c)の後退では、ブレーキB2に
よってピニオンキャリヤC13をロックされた遊星歯車
装置G13が単純な反転と減速を行う。クラッチK3を
通じて入力軸の回転が遊星歯車装置G13のサンギヤS
13に入力されると、減速された逆方向の回転がリング
ギヤR13から出力される。
【0028】以上のように構成された第1実施例の遊星
歯車式変速装置によれば、前進4段型であるにもかかわ
らず、変速比1以下のオーバードライブ変速段を確保し
ているため、高速走行における燃費の悪化を避けること
ができる。さらに、走行中に常用される変速比1の変速
段では、遊星歯車装置G11、G12の噛み合いがロッ
クされるため歯面の摩擦や発熱が抑制されるから、自動
変速機の伝達効率が高まって燃費が向上するとともに、
歯面の磨耗に起因した運転騒音の増大時期が遅くなり、
遊星歯車装置の交換寿命も伸びる。また、後退を除くす
べての変速段において、直接出力に関わる遊星歯車装置
G11、G12がリングギヤR11、R12入力であ
る。また、出力についてもピニオンキャリヤC11、C
12から取り出される。従って、サンギヤを通じて入出
力する場合に比較して同じトルクを伝達する際の歯面加
重(接線力)が小さくて済み、遊星歯車装置の口径の縮
小や歯厚の薄型化を通じて、遊星歯車式変速装置の小型
化、軽量化が容易となる。なお、後退の変速段では、遊
星歯車装置G13をサンギヤS13入力で使用すること
になるが、後退の変速段の使用時間は短く、エンジンか
ら取り出されるトルクもあまり大きくないから、遊星歯
車装置G13を小型化することも困難ではない。
【0029】さらに、図1の(b)の一覧表に明らかな
ように、1速〜4速の隣接する変速段では、1つの締結
要素を共通にしたまま他の1つの締結要素を切り替えて
変速動作が実行される。従って、変速動作が円滑とな
り、2つの締結要素を順番に切り替える場合よりも短い
時間で変速動作を完了できる。そして、2つの締結要素
を同時に切り替える変速動作が無いから、変速動作に伴
って自動変速機の機構や車体にショックを与える心配も
無い。従って、動作が円滑で速く、運転者に変速動作の
有無を気付かせない自動変速機を提供できる。
【0030】第1実施例では、遊星歯車装置G11が発
明の第1遊星歯車装置、遊星歯車装置G12が発明の第
2遊星歯車装置、遊星歯車装置G13が発明の第3遊星
歯車装置に相当し、連絡部材N11が発明の第1連絡手
段、連絡部材N12が発明の第2連絡手段、連絡部材N
13が発明の第3連絡手段にそれぞれ相当する。なお、
これらの連絡手段やその他の正逆両方向で回転トルクを
伝達する部材の少なくとも1つを「一方向クラッチとク
ラッチを並列配置した連絡手段」に置き換えてもよい。
一方向クラッチによって片方向のトルク伝達として不必
要なエンジンブレーキを遮断可能とする一方、下り坂等
でエンジンブレーキが必要な場合には並列配置されたク
ラッチを締結して両方向のトルク伝達とする。また、そ
れぞれの遊星歯車装置の歯数比を変更して変速各段の変
速比を異ならせてもよい。さらに、2つのブレーキと3
つのクラッチには、特開平2−159443号の第38
図〜第48図に示されるように、多板クラッチ、バンド
ブレーキ、および、これらに一方向クラッチを組み合わ
せた構造を用途や目的に応じて任意に選択できる。
【0031】ところで、第1実施例の構成は、連絡部材
等による相互の連絡関係を維持したままであれば、3つ
の遊星歯車装置と2つのブレーキと3つのクラッチの配
置の順番や相対的な位置関係を種々に変更可能である。
そして、筐体構造や連絡状態の都合に合わせて各要素の
配置順序や連絡部材の迂回方向を調整して、連絡部材の
本数と長さを最小限にしてもよい。このとき、遊星歯車
装置の回転要素(サンギヤ、ピニオンキャリヤ、リング
ギヤ)は、左右の都合の良い側を選択して連絡部材を接
続すればよい。図4の(a)、(b)は、図1の(a)
の遊星歯車装置G11、G12、G13の配置順序を入
れ替えて、連絡部材N11、N12、N13等の形状を
調整した第1実施例の変形例を示す。
【0032】図4の(a)では、図1の(a)の遊星歯
車式変速装置における遊星歯車装置G11、G12の間
に遊星歯車装置G13を配置して、第1実施例と同様に
回転要素を接続している。図4の(b)では、図1の
(a)の遊星歯車式変速装置における遊星歯車装置G1
1よりも入力軸E1側に遊星歯車装置G13を配置して
いる。(b)の構成によれば、すべての締結要素(3つ
のクラッチK1、K2、K3と2つのブレーキB1、B
2)を近接してひとまとめに配置できるため、摩擦板を
拘束するスプラインを形成した内外の回転部材、締結要
素駆動用の油圧シリンダー、油圧回路部品等を共通化、
兼用化して、最終的な部品点数の削減や構造のコンパク
ト化を達成できる。
【0033】図5〜図7を参照して第2実施例の遊星歯
車式変速装置を説明する。第2実施例の遊星歯車式変速
装置は、第1実施例の遊星歯車式変速装置の出力軸側に
1組の遊星歯車装置と1組のクラッチと1組のブレーキ
を追加して前進5段型としたものである。図5は第2実
施例の遊星歯車式変速装置の構成の説明図、図6、図7
は各変速段における遊星歯車装置の作動図である。図5
中、(a)はスケルトン、(b)は各変速段におけるク
ラッチおよびブレーキの締結状態と変速比を示す。図6
中、(a)は1速、(b)は2速、(c)は3速の作動
状態をそれぞれ示す。図7中、(a)は4速、(b)は
5速、(c)は後退の作動状態をそれぞれ示す。
【0034】図5の(a)に示す前進5段、後退1段の
遊星歯車式変速装置は、第1実施例と共通な基本構造を
持つ主機構部A21に、副変速装置A22を連結して構
成される。副変速装置A22は、シングルピニオン型の
遊星歯車装置G24とブレーキB3とクラッチK4と出
力軸E2を含む。遊星歯車装置G24は、ブレーキB3
を締結することで減速機となり、また、クラッチK4を
締結することで全体がロックされて一体に回転する。
【0035】図5の(a)において、入力軸E1と同一
の回転軸線上に左から3組のクラッチK1、K2、K
3、3組のブレーキB1、B2、B3、4組の遊星歯車
装置G21、G22、G23、G24および出力軸E2
が配置される。入力軸E1側の筐体D21は、クラッチ
K1、K2、K3、ブレーキB1、B2、遊星歯車装置
G21、G22、G23、および入力軸E1を格納して
回転可能に保持する。出力軸E2側の筐体D22は、遊
星歯車装置G24、ブレーキB3、クラッチK4、およ
び出力軸E2を格納して回転可能に保持する。
【0036】遊星歯車装置G21は、外周のリングギヤ
R21と中心のサンギヤS21の間に複数のピニオンギ
ヤP21を配置して噛み合わせ、複数のピニオンギヤP
21をピニオンキャリヤC21で一体に拘束する。遊星
歯車装置G22は、外周のリングギヤR22と中心のサ
ンギヤS22の間に複数のピニオンギヤP22を配置し
て噛み合わせ、複数のピニオンギヤP22をピニオンキ
ャリヤC22で一体に拘束する。遊星歯車装置G23
は、外周のリングギヤR23と中心のサンギヤS23の
間に複数のピニオンギヤP23を配置して噛み合わせ、
複数のピニオンギヤP23をピニオンキャリヤC23で
一体に拘束する。遊星歯車装置G24は、外周のリング
ギヤR24と中心のサンギヤS24の間に複数のピニオ
ンギヤP24を配置して噛み合わせ、複数のピニオンギ
ヤP24をピニオンキャリヤC24で一体に拘束する。
第2実施例における遊星歯車装置G21、G22、G2
3は、クラッチK1、K2、K3、ブレーキB1、B2
との接続状態や対応する変速段における機能について
は、第1実施例における遊星歯車装置G11、G12、
G13と同じである。ただし、歯数比α1 、α2 、α3
を異ならせて、最終的な変速比の分布を調整している。
【0037】クラッチK1は、入力軸E1を遊星歯車装
置G21のリングギヤR21に対して締結可能である。
クラッチK2は、入力軸E1を遊星歯車装置G21のサ
ンギヤS21および第2遊星歯車装置G22のリングギ
ヤR22に対して締結可能である。クラッチK3は、入
力軸E1を遊星歯車装置G22、G23のサンギヤS2
2、S23に対して締結可能である。クラッチK4は、
遊星歯車装置G24のピニオンキャリアC24とサンギ
ヤS24の相対回転をロック可能である。ブレーキB1
は、筐体D21に対して遊星歯車装置G22、G23の
サンギヤS22、S23をロックして、サンギヤS2
2、S23の回転を停止可能である。ブレーキB2は、
筐体D21に対して遊星歯車装置G23のピニオンキャ
リヤC23をロックして、ピニオンキャリヤC23の回
転を停止可能である。ブレーキB3は、筐体D22に対
して遊星歯車装置G24のサンギヤS24をロックして
サンギヤS24の回転を停止可能である。
【0038】遊星歯車装置G21、G22のピニオンキ
ャリヤC21、C22と遊星歯車装置G23、G24の
リングギヤR23、R24の間に連絡部材N21が配置
される。遊星歯車装置G21のサンギヤS21と遊星歯
車装置G22のリングギヤR22の間に連絡部材N22
が配置される。遊星歯車装置G22、G23のサンギヤ
S22、S23の間に連絡部材N23が配置される。連
絡部材N21、N22、N23は、2以上の回転要素の
相対回転を固定して、正逆両方向に回転トルクを伝達す
る。
【0039】図5の(b)において一覧表として示すよ
うに、1速ではクラッチK2とブレーキB2、B3の組
み合わせが締結される。2速ではクラッチK2とブレー
キB1、B3の組み合わせが締結される。3速ではクラ
ッチK1、K2とブレーキB3の組み合わせが締結され
る。4速ではクラッチK1、K2、K4の組み合わせが
締結される。5速ではクラッチK1、K4とブレーキB
1の組み合わせが締結される。そして、後退ではクラッ
チK3とブレーキB2、B3の組み合わせが締結され
る。それぞれの変速段における変速比は、遊星歯車装置
G21、G22、G23、G24の歯数比α1 、α2 、
α3 、α4 を用いて、右側の数式のように求められる。
この数式を用いて歯数比α1 、α2 、α3 、α4 をそれ
ぞれ0.45、0.56、0.50、0.44と定めた
場合の具体的な変速比の数値が右端の欄に示される。
【0040】図5の(a)に示す前進5段、後退1段の
遊星歯車式変速装置は、遊星歯車装置G24とブレーキ
B3とクラッチK4を除去して、連絡部材N21を出力
軸E2に直結すれば、直ちに前進4段、後退1段の遊星
歯車式変速装置となる。具体的には、主機構部A21か
ら副変速装置A22を分離して、出力軸を保持する図示
しない別筐体を副変速装置A22の代わりに主機構部A
21に連結する。主機構部A21は、図1の(a)の第
1実施例の構成と実質的に同一である。第2実施例の遊
星歯車式変速装置を前進4段型とした場合、各変速段に
おける変速動作および変速比の数式表示は第1実施例と
同じである。図1の(b)と図5の(b)の比較から明
らかなように、第2実施例の遊星歯車式変速装置では、
第1実施例の1速、2速を副変速装置A22が(1+α
4 )だけ減速され、変速比1の変速段の下に新たな3速
が追加される。新たな3速では、主機構部A21による
変速比1の変速段(3速)を副変速装置A22が(1+
α4 )だけ減速する。
【0041】次に、図6、図7を参照して、前進5段、
後退1段の変速各段における遊星歯車装置の具体的な作
動状態を説明する。ここでは、主機構部A21のみによ
る前進4段型の変速段の1速を元の1速、2速を元の2
速、3速を元の3速等と呼んでいる。図6の(a)の1
速では、遊星歯車装置G22、G23を協働させて形成
した元の1速の減速出力を遊星歯車装置G24でさらに
一段と減速する。ブレーキB2によってピニオンキャリ
ヤC23を停止させた遊星歯車装置G23のリングギヤ
R23に対して、遊星歯車装置G22のピニオンキャリ
ヤC22の回転が入力される。遊星歯車装置G23は、
リングギヤR23と逆方向の増速された回転をサンギヤ
S23に出力させる。この逆方向の回転が遊星歯車装置
G22のサンギヤS22に戻し入力される。サンギヤS
22が逆回転する遊星歯車装置G22のピニオンキャリ
ヤC22の回転速度は、サンギヤS22が停止した場合
よりも低くくなる。ピニオンキャリヤC22の回転は、
ブレーキB3によってサンギヤS24をロックされた遊
星歯車装置G24のリングギヤR24に入力される。ピ
ニオンキャリヤC24からさらに減速された出力が取り
出される。
【0042】図6の(b)の2速では、遊星歯車装置G
22が形成した元の2速の減速出力を遊星歯車装置G2
4でさらに一段と減速する。ブレーキB1によってサン
ギヤS22を停止させた遊星歯車装置G22のリングギ
ヤR22に、クラッチK2を通じて入力軸E1の回転が
入力される。遊星歯車装置G22のピニオンキャリヤC
24からは、リングギヤR22の回転を単純に減速した
出力が取り出される。ピニオンキャリヤC22の回転
は、ブレーキB3によってサンギヤS24をロックされ
た遊星歯車装置G24のリングギヤR24に入力され
る。ピニオンキャリヤC24からさらに減速された出力
が取り出される。
【0043】図6の(c)の3速では、遊星歯車装置G
21の全体を入力軸と一体に回転させる元の3速を遊星
歯車速装置G24で減速する。クラッチK1、K2を通
じて入力軸E1の回転が遊星歯車装置G21のリングギ
ヤR21とサンギヤS21に同時入力されると、リング
ギヤR21とサンギヤS21の相対回転が失われて遊星
歯車装置G21の全体が入力軸E1と一体に回転する。
ピニオンキャリヤC21から取り出された出力が、ブレ
ーキB3によってサンギヤS24をロックされた遊星歯
車装置G24のリングギヤR24に入力される。ピニオ
ンキャリヤC24から一段減速された出力が取り出され
る。
【0044】図7の(a)の4速では、遊星歯車装置G
21、G24を両方ロックさせて入力軸E1の回転をそ
のまま出力軸E2に伝達する。クラッチK4を締結して
ピニオンキャリヤC24とサンギヤS24の相対回転を
失わせた遊星歯車装置G24は全体が一体に回転する。
遊星歯車装置G21をロックさせて形成した元の3速の
回転が、一体に回転する遊星歯車装置G24を経由して
出力軸E2にそのまま伝達される。
【0045】図7の(b)の5速では、遊星歯車装置G
21、G22を協働させて形成した元の4速を、一体に
回転する遊星歯車装置G24を経由して出力軸E2にそ
のまま出力させる。ブレーキB1によってサンギヤS2
2をロックされた遊星歯車装置G22は、出力軸E2の
回転を増速してリングギヤR22に出力する。リングギ
ヤR22の増速された回転は、遊星歯車装置G21のサ
ンギヤS21に戻し入力される。第1遊星歯車装置G2
1のサンギヤS21をリングギヤR21よりも高速回転
させることで、ピニオンキャリヤC21からは、変速比
1以下のオーバードライブ変速段の回転速度が出力され
る。
【0046】図7の(c)の後退では、ブレーキB2に
よってピニオンキャリヤC23をロックされた遊星歯車
装置G23が単純な反転と減速を行うとともに、遊星歯
車装置G24がこの反転出力をさらに一段減速する。ク
ラッチK3を通じて入力軸E1の回転が遊星歯車装置G
23のサンギヤS23に入力されると、減速された逆方
向の回転がリングギヤR23から出力されて、遊星歯車
装置G24のリングギヤR24に入力される。ブレーキ
B3によってサンギヤS24をロックされた遊星歯車装
置G24は、リングギヤR24の回転を一段減速してピ
ニオンキャリヤC24に出力する。
【0047】以上のように構成された第2実施例の遊星
歯車式変速装置によれば、副変速装置A22の有無によ
って、遊星歯車式変速装置の前進4段型と前進5段型を
容易に変更できる。従って、前進4段型と前進5段型の
遊星歯車式変速装置の間で最大限の部品共有化が実現で
きる。そして、前進4段型とした場合には、第1実施例
と同様な効果を発揮する。また、走行中に常用され、長
時間に渡って選択され続ける可能性の高い変速比1の変
速段やオーバードライブ変速段では、遊星歯車装置G2
4の噛み合いをロックさせて一体に回転させるため歯面
の摩擦や発熱が抑制される。従って、前進4段型とした
場合に比較しても燃費が悪化することがない。
【0048】第2実施例では、遊星歯車装置G21が発
明の第1遊星歯車装置、遊星歯車装置G22が発明の第
2遊星歯車装置、遊星歯車装置G23が発明の第3遊星
歯車装置、遊星歯車装置G24が発明の第4遊星歯車装
置にそれぞれ相当し、ブレーキB3が発明の第3ブレー
キ、クラッチK4が発明の第4クラッチにそれぞれ相当
し、連絡部材N21が発明の第1連絡手段、連絡部材N
22が発明の第2連絡手段、連絡部材N23が発明の第
3連絡手段にそれぞれ相当する。なお、第2実施例で
は、主機構部A21に副変速装置A22を連結する構成
としたが、前進5段型に適合させた共通の筐体の内部か
ら、遊星歯車装置G24、ブレーキB3、クラッチK5
を除去して前進4段型とする構成としてもよい。また、
遊星歯車装置G24の配置は、出力軸E2の側に限定さ
れず、図4を参照して第1実施例で説明したように種々
変更可能である。また、副変速装置A22における遊星
歯車装置G24に対するブレーキB3、クラッチK4の
接続を異ならせてもよい。例えば、遊星歯車装置G24
のリングギヤR24とサンギヤS24の間にクラッチK
4を設けてもよい。また、遊星歯車装置G24をダブル
ピニオン型として、そのサンギヤを連絡部材N21に、
そのリングギヤを出力軸E2に接続し、ブレーキB3で
ピニオンキャリヤをロックする構成としてもよい。つま
り、順方向の減速出力を取り出し得るように、入力、出
力、ブレーキとの接続を調整することによって、遊星歯
車装置G24をダブルピニオン型とすることが可能であ
る。
【0049】図8〜図10を参照して第3実施例の遊星
歯車式変速装置を説明する。第3実施例の遊星歯車式変
速装置は、第1実施例の遊星歯車式変速装置の出力軸側
に副変速装置(1組の遊星歯車装置と1組のクラッチと
1組のブレーキ)を追加して前進5段型としたものであ
る。図8は第3実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説
明図、図9、図10は各変速段における遊星歯車装置の
作動図である。図8中、(a)はスケルトン、(b)は
各変速段におけるクラッチおよびブレーキの締結状態と
変速比を示す。図9中、(a)は1速、(b)は2速、
(c)は3速の作動状態をそれぞれ示す。図10中、
(a)は4速、(b)は5速、(c)は後退の作動状態
をそれぞれ示す。
【0050】図8の(a)において、第1実施例と共通
な基本構造を持つ主機構部A31に遊星歯車装置G34
とブレーキB3と連絡部材N34、N35を追加するこ
とにより、前進5段型の遊星歯車式変速装置が構成され
る。ブレーキB3を締結すると、遊星歯車装置G34が
出力軸E2の反転出力を形成して、遊星歯車装置G33
のピニオンキャリヤC34に戻し入力する。
【0051】入力軸E1と同一の回転軸線上に左から3
組のクラッチK1、K2、K3、3組のブレーキB1、
B2、B3、4組の遊星歯車装置G31、G32、G3
3、G34および出力軸E2が配置される。筐体D31
は、前進5段型と前進4段型に共通なもので、これらの
回転要素を格納して回転可能に保持するが、遊星歯車装
置G34、ブレーキB3、および連絡部材N34、N3
5については、取り付け取り外しが容易に形成されてい
る。
【0052】遊星歯車装置G31は、外周のリングギヤ
R31と中心のサンギヤS31の間に複数のピニオンギ
ヤP31を配置して噛み合わせ、複数のピニオンギヤP
31をピニオンキャリヤC31で一体に拘束する。遊星
歯車装置G32は、外周のリングギヤR32と中心のサ
ンギヤS32の間に複数のピニオンギヤP32を配置し
て噛み合わせ、複数のピニオンギヤP32をピニオンキ
ャリヤC32で一体に拘束する。遊星歯車装置G33
は、外周のリングギヤR33と中心のサンギヤS33の
間に複数のピニオンギヤP33を配置して噛み合わせ、
複数のピニオンギヤP33をピニオンキャリヤC33で
一体に拘束する。遊星歯車装置G34は、外周のリング
ギヤR34と中心のサンギヤS34の間に複数のピニオ
ンギヤP34を配置して噛み合わせ、複数のピニオンギ
ヤP34をピニオンキャリヤC34で一体に拘束する。
第3実施例における遊星歯車装置G31、G32、G3
3は、クラッチK1、K2、K3、ブレーキB1、B2
との接続状態や対応する変速段における機能について
は、第1実施例における遊星歯車装置G11、G12、
G13と同じである。ただし、歯数比α1 、α2 、α3
を異ならせて、最終的な変速比の分布を調整している。
【0053】クラッチK1は、入力軸E1を遊星歯車装
置G31のリングギヤR31に対して締結可能である。
クラッチK2は、入力軸E1を遊星歯車装置G31のサ
ンギヤS31および第2遊星歯車装置G32のリングギ
ヤR32に対して締結可能である。クラッチK3は、入
力軸E1を遊星歯車装置G32、G33のサンギヤS3
2、S33に対して締結可能である。ブレーキB1は、
筐体D31に対して遊星歯車装置G32、G33のサン
ギヤS32、S33をロックして、サンギヤS32、S
33の回転を停止可能である。ブレーキB2は、筐体D
31に対して遊星歯車装置G33のピニオンキャリヤC
33をロックして、ピニオンキャリヤC33の回転を停
止可能である。ブレーキB3は、筐体D31に対して遊
星歯車装置G34のピニオンキャリヤC34をロックし
てピニオンキャリヤC34の回転を停止可能である。
【0054】遊星歯車装置G31、G32のピニオンキ
ャリヤC31、C32と、遊星歯車装置G33のリング
ギヤR33と、出力部材E2の間に連絡部材N31が配
置される。遊星歯車装置G31のサンギヤS31と遊星
歯車装置G32のリングギヤR32の間に連絡部材N3
2が配置される。遊星歯車装置G32、G33のサンギ
ヤS32、S33の間に連絡部材N33が配置される。
遊星歯車装置G34のリングギヤR34と連絡部材N3
1の間に連絡部材N34が配置される。遊星歯車装置G
33のピニオンキャリヤC33と遊星歯車装置G34の
サンギヤS34の間に連絡部材N35が配置される。こ
れらの連絡部材N31、N32、N33、N34、N3
5は、複数の回転要素の相対回転を固定して、正逆両方
向に回転トルクを伝達する。
【0055】図8の(b)において一覧表として示すよ
うに、1速ではクラッチK2とブレーキB3の組み合わ
せが締結される。2速ではクラッチK2とブレーキB2
の組み合わせが締結される。3速ではクラッチK2とブ
レーキB1の組み合わせが締結される。4速ではクラッ
チK1、K2の組み合わせが締結される。5速ではクラ
ッチK1とブレーキB1の組み合わせが締結される。そ
して、後退ではクラッチK3とブレーキB3の組み合わ
せが締結される。それぞれの変速段における変速比は、
遊星歯車装置G31、G32、G33、G34の歯数比
α1 、α2 、α3 、α4 を用いて、右側の数式のように
求められる。この数式を用いて歯数比α1 、α2 、α3
、α4 をそれぞれ0.57、0.44、0.54、
0.77と定めた場合の具体的な変速比の数値が右端の
欄に示される。
【0056】図8の(a)に示す前進5段型の遊星歯車
式変速装置は、遊星歯車装置G34とブレーキB3を除
去すれば、直ちに前進4段型となる。連絡部材N34、
N35を一緒に除去してもよい。筐体D31の内部に
は、遊星歯車装置G34やブレーキB3を格納していた
空間が残るが、第1実施例のように出力軸E2を交換す
る必要が無い。主機構部A31は、図1の(a)に示す
第1実施例の構成と実質的に同一である。第3実施例の
遊星歯車式変速装置を前進4段型とした場合、各変速段
における変速動作および変速比の数式表示は第1実施例
と同じである。図1の(b)と図8の(b)の比較から
明らかなように、第3実施例の遊星歯車式変速装置で
は、ブレーキB3を締結した変速段でのみ遊星歯車装置
G34が出力に関与する。第1実施例の1速〜4速がそ
のまま2速〜5速にシフトして、第1実施例の1速の下
に遊星歯車装置G34を関与させた新しい1速が追加さ
れる。後退でも遊星歯車装置G34による減速が付加さ
れる。
【0057】次に、図9、図10を参照して、前進5
段、後退1段の変速各段における遊星歯車装置の具体的
な作動状態を説明する。ここでは、主機構部A31のみ
による前進4段型の変速段の1速を元の1速、2速を元
の2速、3速を元の3速等と呼んでいる。図9の(a)
の1速では、遊星歯車装置G32、G33、G34を協
働させて減速を行う。リングギヤR32入力を減速して
ピニオンキャリヤC32に出力する遊星歯車装置G32
に対して遊星歯車装置G33が補助的に機能し、遊星歯
車装置G33に対して遊星歯車装置G34が補助的に機
能する。ブレーキB3によってピニオンキャリヤC34
を停止させた遊星歯車装置G34のリングギヤR34に
対して、遊星歯車装置G32のピニオンキャリヤC32
の回転が入力される。遊星歯車装置G34は、リングギ
ヤR34と逆方向の増速された回転をサンギヤS34に
出力する。この逆方向の回転が遊星歯車装置G33のピ
ニオンキャリヤC33に戻し入力される。遊星歯車装置
G34によってピニオンキャリヤC33を逆回転された
遊星歯車装置G33のリングギヤR33に対して、遊星
歯車装置G32のピニオンキャリヤC32の回転が入力
される。遊星歯車装置G33は、リングギヤR33と逆
方向の増速された回転をサンギヤS33に出力させる。
サンギヤS33の逆方向の回転速度は、ピニオンキャリ
ヤC33が逆方向に回転しているため、ピニオンキャリ
ヤC33が停止された元の1速の場合よりも高まってい
る。この回転速度を高められた逆方向の回転が遊星歯車
装置G32のサンギヤS32に戻し入力される。サンギ
ヤS32が高い回転速度で逆回転する遊星歯車装置G3
2のピニオンキャリヤC32からは、サンギヤS32が
低い回転速度で逆回転する場合よりも一段と低い回転速
度が出力される。
【0058】図9の(b)の2速、図9の(c)の3
速、図10の(a)の4速、図10の(b)の5速で
は、ブレーキB3を解放した遊星歯車装置G34が空転
状態となって出力にまったく関与しない。従って、遊星
歯車装置G31、G32、G33を第1実施例の遊星歯
車装置G11、G12、G13と同様に機能させて、元
の1速、2速、3速、4速と同様な変速が行われる。
【0059】図10の(c)の後退では、遊星歯車装置
G33による反転と減速に遊星歯車装置G34が補助的
に機能する。ブレーキB3によってピニオンキャリヤC
34を停止させた遊星歯車装置G34のリングギヤR3
4に対して、遊星歯車装置G33のリングギヤR33の
回転(逆方向)が入力される。遊星歯車装置G34は、
リングギヤR34と逆方向の増速された回転(順方向)
をサンギヤS34に出力する。この順方向の回転が遊星
歯車装置G33のピニオンキャリヤC33に戻し入力さ
れる。ピニオンキャリヤC33が順方向に回転する星歯
車装置G33のリングギヤR33からは、ピニオンキャ
リヤC33が停止された元の後退の場合よりも減速され
た逆方向の回転が出力される。
【0060】以上のように構成された第3実施例の遊星
歯車式変速装置によれば、遊星歯車装置G34とブレー
キB3の有無によって、遊星歯車式変速装置の前進4段
型と前進5段型を容易に変更できる。従って、前進4段
型と前進5段型の遊星歯車式変速装置の間で最大限の部
品共有化が実現できる。そして、前進4段型とした場合
には、第1実施例と同様な効果を発揮する。また、使用
される機会の少ない1速と後退の変速段でのみ遊星歯車
装置G34を機能させて、その他の変速段では遊星歯車
装置G34を空転状態として歯面の摩擦や発熱を抑制し
ているから、前進4段型とした場合に比較して燃費が悪
化しない。さらに、1速と後退の変速段について変速比
を高めているから、ぬかるみの脱出や牽引発進等で強大
なパワーを要求されても十分な対応が可能である。
【0061】第3実施例では、遊星歯車装置G31が発
明の第1遊星歯車装置、遊星歯車装置G32が発明の第
2遊星歯車装置、遊星歯車装置G33が発明の第3遊星
歯車装置、遊星歯車装置G34が発明の第4遊星歯車装
置にそれぞれ相当し、ブレーキB3が発明の第3ブレー
キに相当し、連絡部材N31が発明の第1連絡手段、連
絡部材N32が発明の第2連絡手段、連絡部材N33が
発明の第3連絡手段にそれぞれ相当する。なお、第3実
施例では、前進4段型と前進5段型の間で筐体D31を
共有する構成としたが、第2実施例のように筐体を分割
して、前進4段型に適合させた容量の筐体を使用しても
よい。また、後退の変速段で遊星歯車装置G34を機能
させない等、図8の(a)の構成を用いて図8の(b)
に示された以外の締結要素の組み合わせを利用すること
も可能である。また、遊星歯車装置G34は連絡部材N
31の回転から逆方向の戻し出力を形成できるように、
回転要素を選択して入力、出力、およびブレーキB3に
それぞれ接続したダブルピニオン型の遊星歯車装置で遊
星歯車装置G34を置き換えてもよい。いずれにせよ、
「出力軸E2の回転から逆方向の戻し出力を形成して遊
星歯車装置G33のピニオンキャリヤC33に戻し入力
する機能」を満たせるならば、第1実施例の1速の下に
新しい変速段を追加できる。ところで、シングルピニオ
ン型またはダブルピニオン型の遊星歯車装置を使用して
「出力軸E2の回転から順方向の戻し出力を形成して遊
星歯車装置G33のピニオンキャリヤC33に戻し入力
させる」場合には、第1実施例の1速よりも出力軸E2
が増速される。このようにして、第1実施例の1速と2
速の間に新しい変速段を追加することも可能である。さ
らに、遊星歯車装置G34の配置は、出力軸E2の側に
限定されず、図4を参照して第1実施例で説明したよう
に種々変更可能である。
【0062】図11は第4実施例の遊星歯車式変速装置
の説明図である。図中、(a)はスケルトン、(b)は
各変速段におけるクラッチおよびブレーキの締結状態と
変速比を示す。ここでは、第1実施例の連絡部材N13
に一方向クラッチを組み込んで不必要なエンジンブレー
キを遮断している。第4実施例の遊星歯車装置G11、
G12、G13、クラッチK1、K2、K3、ブレーキ
B1、B2は、第1実施例と同一に構成され、同一に配
置、接続されている。これらの共通する部分については
説明を省略する。
【0063】図1の(a)の連絡部材N13は、ブレー
キB1に接続された部材と遊星歯車装置G13のサンギ
ヤS13に接続された部材が途中で合流しており、合流
後の端部が遊星歯車装置G12のサンギヤS12まで導
かれて接続されている。図11の(a)において、第4
実施例では、この合流部分と遊星歯車装置G12のサン
ギヤS12の間に一方向クラッチF1を直列に配置し、
さらに、一方向クラッチF1に対してクラッチK5を並
列に配置している。一方向クラッチF1は、遊星歯車装
置G12のサンギヤS12の片方向の回転について合流
点側の部分(ブレーキB1、サンギヤS13)を連動さ
せるが、逆方向の回転に対しては連動させない空転とす
る。一方向クラッチF1は、図2、図3の該当する部材
が実線で示される変速段において出力に関与する。クラ
ッチK5は、締結されると両方向の回転駆動を伝達し
て、一方向クラッチF1による動作を不可能にする。
【0064】図11の(b)において、Kを丸で囲んで
駆動時の動作または締結、Eを丸で囲んでエンジンブレ
ーキ時の動作または締結を示す。一方向クラッチF1
は、1速、2速の駆動時に動作して、ブレーキB1また
は遊星歯車装置G13のサンギヤS13に遊星歯車装置
G12のサンギヤS12を連動させて、リングギヤR1
2からピニオンキャリヤC12への動力伝達(駆動)を
可能とするが、1速、2速の惰性走行時(エンジンブレ
ーキが不必要)には、遊星歯車装置G12のサンギヤS
12を空転させてピニオンキャリヤC12からリングギ
ヤR12への動力伝達(エンジンブレーキ)を遮断す
る。従って、1速、2速でエンジンブレーキが必要な場
合には、クラッチK5を締結して第1実施例のような両
方向の伝達とし、ブレーキB1または遊星歯車装置G1
3のサンギヤS13に遊星歯車装置G12のサンギヤS
12を両方向に連動させて、遊星歯車装置G12のピニ
オンキャリヤC12からリングギヤR12への動力伝達
(エンジンブレーキ)も可能にする。一方、4速では遊
星歯車装置G12のピニオンキャリヤC12からリング
ギヤR12への動力伝達するから、図2の(b)と図3
の(b)の比較で明らかなようにサンギヤS12への負
荷状態が1速、2速とは逆となる。そこで、クラッチK
5を締結して、遊星歯車装置G11のサンギヤS11へ
の戻し回転を有効にすることによって、リングギヤR1
1(入力軸E1)からピニオンキャリヤC11(出力軸
E2)への動力伝達を可能にしている。
【0065】以上のように構成された第4実施例の遊星
歯車式変速装置によれば、不必要なエンジンブレーキが
遮断されて車体の速度振動が無くなり、第1実施例に比
較して自動車の運転性が向上する。一方、下り坂等でエ
ンジンブレーキが必要な場合にはクラッチK5を締結し
て有効なエンジンブレーキを利用できる。第4実施例に
おけるクラッチK5は発明の第5クラッチ、一方向クラ
ッチF1は発明の一方向クラッチに相当する。
【0066】図12は第4実施例の変形例の説明図であ
る。ここでは、図4の(b)に示す構成と同様に、遊星
歯車装置G13を最も入力軸E1側に配置して、クラッ
チK1、K2、K3とブレーキB1、B2をひとまとめ
に配置している。そして、回転要素の相対的な連絡関係
は図11の(a)と同一である。従って、各速各段にお
ける遊星歯車装置G11、G12、G13の動作や変速
比は、第4実施例で説明したとおりである。
【0067】図13は第5実施例の遊星歯車式変速装置
の説明図である。図中、(a)はスケルトン、(b)は
各変速段におけるクラッチおよびブレーキの締結状態と
変速比を示す。ここでは、第2実施例の連絡部材N23
に一方向クラッチを組み込んで不要なエンジンブレーキ
を遮断している。第5実施例の遊星歯車装置G21、G
22、G23、G24、クラッチK1、K2、K3、K
4、ブレーキB1、B2、B3は、第2実施例と同一に
構成され、同一に配置、接続されている。また、主機構
部A23は、図5の(a)の主機構部A21に一方向ク
ラッチF1およびクラッチK5を追加した構成、副変速
装置A24は、図5の(a)の副変速装置A22に一方
向クラッチF2を追加した構成である。これらの共通す
る部分については説明を省略する。
【0068】図5の(a)の連絡部材N23は、ブレー
キB1に接続された部材と遊星歯車装置G23のサンギ
ヤS23に接続された部材が途中で合流しており、合流
後の端部が遊星歯車装置G22のサンギヤS22まで導
かれて接続されている。図13の(a)において、第5
実施例では、この合流部分と遊星歯車装置G22のサン
ギヤS22の間に一方向クラッチF1を直列に配置し、
さらに、一方向クラッチF1に対してクラッチK5を並
列に配置している。また、ブレーキB3と並列に一方向
クラッチF2を配置している。
【0069】一方向クラッチF1は、遊星歯車装置G2
2のサンギヤS22の順方向の回転についてはブレーキ
B1とサンギヤS23を連動させるが、逆方向の回転に
ついては空転する。一方向クラッチF1は、図6、図7
の該当する部材が実線で示される変速段において出力に
関与する。クラッチK5は、締結されると両方向の回転
駆動を伝達する。一方向クラッチF2は、ブレーキB3
を解放した状態でも遊星歯車装置G24のサンギヤS2
4の片方向の回転をロックし、反対方向の回転を空転さ
せる。
【0070】図13の(b)において、Kを丸で囲んで
駆動時の動作または締結、Eを丸で囲んでエンジンブレ
ーキ時の動作または締結を示す。一方向クラッチF1
は、1速、2速の駆動時に動作して、ブレーキB1また
は遊星歯車装置G23のサンギヤS23に遊星歯車装置
G22のサンギヤS22を連動させて、リングギヤR2
2からピニオンキャリヤC22への動力伝達(駆動)を
可能とするが、1速、2速の惰性走行時(エンジンブレ
ーキが邪魔)には、遊星歯車装置G22のサンギヤS2
2を空転させてピニオンキャリヤC22からリングギヤ
R22への動力伝達(エンジンブレーキ)を遮断する。
従って、1速、2速でエンジンブレーキが必要な場合に
は、クラッチK5を締結して第2実施例のような両方向
の伝達とし、ブレーキB1または遊星歯車装置G23の
サンギヤS23に遊星歯車装置G22のサンギヤS22
を両方向に連動させて、遊星歯車装置G22のピニオン
キャリヤC22からリングギヤR22への動力伝達(エ
ンジンブレーキ)も可能にする。3速では、主機構部A
23の遊星歯車装置G21、G22が一体に回転して入
力軸E2の回転がそのまま遊星歯車装置G24のリング
ギヤR24に入力されており、一方向クラッチF1では
エンジンブレーキを遮断できない。そこで、副変速装置
A24に一方向クラッチF2を設けて、遊星歯車装置G
24を一方向について空転可能にしている。すなわち、
リングギヤR24がピニオンキャリヤC24を順方向に
駆動する駆動状態では、サンギヤS24をロックする
が、ピニオンキャリアC24がリングギヤR24を順方
向に駆動する惰性走行状態(エンジンブレーキが不必
要)ではサンギアS24を空転させる。これにより、エ
ンジンブレーキは、主機構部A23には伝達されず、入
力軸E2にエンジンブレーキの負荷が及ばない。
【0071】以上のように構成された第5実施例の遊星
歯車式変速装置によれば、不必要なエンジンブレーキが
遮断されて車体の速度振動が無くなり、第2実施例に比
較して自動車の運転性が向上する。一方、下り坂等でエ
ンジンブレーキが必要な場合にはクラッチK5を締結し
て有効なエンジンブレーキを利用できる。
【0072】図14は第6実施例の遊星歯車式変速装置
の説明図である。図中、(a)はスケルトン、(b)は
各変速段におけるクラッチおよびブレーキの締結状態と
変速比を示す。ここでは、第3実施例の連絡部材N33
に一方向クラッチを組み込んで不必要なエンジンブレー
キを遮断している。第6実施例の遊星歯車装置G31、
G32、G33、G34、クラッチK1、K2、K3、
ブレーキB1、B2、B3は、第3実施例と同一に構成
され、同一に配置、接続されている。また、主機構部A
33は、図8の(a)の主機構部A31に一方向クラッ
チF1およびクラッチK5を追加した構成である。従っ
て、これらの共通する部分については説明を省略する。
【0073】図8の(a)の連絡部材N33は、ブレー
キB1に接続された部材と遊星歯車装置G33のサンギ
ヤS33に接続された部材が途中で合流しており、合流
後の端部が遊星歯車装置G32のサンギヤS32まで導
かれて接続されている。図14の(a)において、第6
実施例では、この合流部分と遊星歯車装置G32のサン
ギヤS32の間に一方向クラッチF1を直列に配置し、
さらに、一方向クラッチF1に対してクラッチK5を並
列に配置している。また、ブレーキB3と並列に一方向
クラッチF2を配置している。
【0074】一方向クラッチF1は、遊星歯車装置G3
2のサンギヤS32の片方向の回転についてはブレーキ
B3とサンギヤS33を連動させるが、逆方向の回転に
ついては空転する。一方向クラッチF1は、図9、図1
0の該当する部材が実線で示される変速段において出力
に関与する。クラッチK5は、締結されると両方向の回
転駆動を伝達する。一方向クラッチF2は、ブレーキB
3を解放した状態でも遊星歯車装置G24のサンギヤS
24の片方向の回転をロックし、反対方向の回転を空転
させる。
【0075】図14の(b)において、Kを丸で囲んで
駆動時の動作または締結、Eを丸で囲んでエンジンブレ
ーキ時の動作または締結を示す。一方向クラッチF1
は、1速、2速、3速の駆動時に動作し、ブレーキB1
または遊星歯車装置G33のサンギヤS33に遊星歯車
装置G32のサンギヤS32を連動させて、リングギヤ
R32からピニオンキャリヤC32への動力伝達(駆
動)を可能とするが、1速、2速、3速の惰性走行時
(エンジンブレーキが不必要)には、遊星歯車装置G3
2のサンギヤS32を空転させて、ピニオンキャリヤC
32からリングギヤR32への動力伝達(エンジンブレ
ーキ)を遮断する。従って、1速、2速、3速でエンジ
ンブレーキが必要な場合には、クラッチK5を締結して
第3実施例のような両方向の伝達とし、ブレーキB1ま
たは遊星歯車装置G33のサンギヤS33に遊星歯車装
置G32のサンギヤS32を両方向に連動させて、遊星
歯車装置G32のピニオンキャリヤC32からリングギ
ヤR32への動力伝達(エンジンブレーキ)も可能にす
る。ところで、1速の駆動時には、ブレーキB3を解放
して一方向クラッチF2による片方向の締結としてい
る。1速では、遊星歯車装置G34で形成した出力を遊
星歯車装置G33に戻し入力しており、出力軸E2が入
力軸E1を駆動するエンジンブレーキの状態では、ピニ
オンキャリヤC34を空転させて、この戻し入力を遮断
している。
【0076】以上のように構成された第6実施例の遊星
歯車式変速装置によれば、不必要なエンジンブレーキが
遮断されて車体の速度振動が無くなり、第3実施例に比
較して自動車の運転性が向上する。一方、下り坂等でエ
ンジンブレーキが必要な場合にはクラッチK5を締結し
て有効なエンジンブレーキを利用できる。
【0077】
【発明の効果】本発明の遊星歯車式変速装置によれば、
前進4段、後退1段の遊星歯車式変速装置に1組の遊星
歯車装置と1〜2組の締結要素を追加して、前進5段、
後退1段の遊星歯車式変速装置が得られる。従って、前
進4段型と前進5段型の遊星歯車式変速装置間で最大限
の部品共通化が可能となり、製作コストの低減や信頼性
の向上が容易となる。そして、前進4段型とした場合で
も、必要な遊星歯車装置数が3、クラッチ数が3、ブレ
ーキ数が2にとどまり、従来の専用の前進4段型に比較
してこれらの必要数を増さないで済む。また、前進4段
型とした場合には、不要な遊星歯車装置とブレーキが除
去されるから、無駄な部品を内部に抱え込んだり、無駄
な部品が空転して損失を高めたりする心配が無い。従っ
て、遊星歯車式変速装置の小型化、軽量化、高い伝達効
率と低燃費の確保が容易となり、製作コストもさらに低
減される。また、常用される変速段では遊星歯車装置が
リングギヤ入力であるから、歯の大きさを縮小して歯数
比の自由度を高めたり、遊星歯車装置を小型化して自動
変速機の小型化、軽量化が実現される。さらに、常用さ
れる変速段では、変速に関与する遊星歯車装置の数が1
〜2と少ないため、伝達効率が高く騒音レベルも抑制さ
れる。
【0078】一方向クラッチとクラッチを並列に配置し
た連絡手段を採用して不要なエンジンブレーキを遮断す
る構成とした場合、入力部材側の出力変動に起因するエ
ンジンブレーキ効果が遮断されて車体速度に影響せず、
車体が不愉快な速度振動を起こさないで快適な惰性走行
が実現される。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説明
図である。
【図2】各変速段における遊星歯車装置の作動図であ
る。
【図3】各変速段における遊星歯車装置の作動図であ
る。
【図4】遊星歯車装置の配置と接続状態の変形例であ
る。
【図5】第2実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説明
図である。
【図6】各変速段における遊星歯車装置の作動図であ
る。
【図7】各変速段における遊星歯車装置の作動図であ
る。
【図8】第3実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説明
図である。
【図9】各変速段における遊星歯車装置の作動図であ
る。
【図10】各変速段における遊星歯車装置の作動図であ
る。
【図11】第4実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説
明図である。
【図12】遊星歯車装置の配置と接続状態の変形例であ
る。
【図13】第4実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説
明図である。
【図14】第4実施例の遊星歯車式変速装置の構成の説
明図である。
【符号の説明】
B1、B2、B3 ブレーキ K1、K2、K3、K4、K5 クラッチ E1 入力軸 E2 出力軸 D1、D21、D31 筐体 A21、A23、A31、A33 主機構部 A22、A24 副変速装置 C11、C12、C13、C21、C22、C23、C
24、C31、C32、C33、C34 ピニオンキャ
リヤ G11、G12、G13、G21、G22、G23、G
31、G32、G33遊星歯車装置 N11、N12、N13、N21、N22、N23、N
31、N32、N33、N34、N35 連絡部材 P11、P12、P13、P21、P22、P23、P
24、P31、P32、P33、P34 ピニオンギヤ R11、R12、R13、R21、R22、R23、R
24、R31、R32、R33、R34 リングギヤ

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 入力部材および出力部材の回転軸線上に
    配置されたシングルピニオン型の第1遊星歯車装置、第
    2遊星歯車装置、および第3遊星歯車装置を有する遊星
    歯車式変速装置において、 第1遊星歯車装置のリングギヤを前記入力部材に対して
    締結可能な第1クラッチと、 第1遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締
    結可能な第2クラッチと、 第2遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締
    結可能な第3クラッチと、 第2遊星歯車装置のサンギヤの回転を停止可能な第1ブ
    レーキと、 第3遊星歯車装置のピニオンキャリヤの回転を停止可能
    な第2ブレーキと、 第1遊星歯車装置のピニオンキャリヤと第2遊星歯車装
    置のピニオンキャリヤと第3遊星歯車装置のリングギヤ
    と前記出力部材の間を回転連絡する第1連絡手段と、 第1遊星歯車装置のサンギヤと第2遊星歯車装置のリン
    グギヤの間を回転連絡する第2連絡手段と、 第2遊星歯車装置のサンギヤと第3遊星歯車装置のサン
    ギヤの間を回転連絡する第3連絡手段と、を有すること
    を特徴とする前進4段、後退1段の変速が可能な遊星歯
    車式変速装置。
  2. 【請求項2】 入力部材および出力部材の回転軸線上に
    配置されたシングルピニオン型の第1遊星歯車装置、第
    2遊星歯車装置、および第3遊星歯車装置を有する遊星
    歯車式変速装置において、 第1遊星歯車装置のリングギヤを前記入力部材に対して
    締結可能な第1クラッチと、 第1遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締
    結可能な第2クラッチと、 第2遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締
    結可能な第3クラッチと、 第2遊星歯車装置のサンギヤの回転を停止可能な第1ブ
    レーキと、 第3遊星歯車装置のピニオンキャリヤの回転を停止可能
    な第2ブレーキと、 第1遊星歯車装置のピニオンキャリヤと第2遊星歯車装
    置のピニオンキャリヤと第3遊星歯車装置のリングギヤ
    の間を回転連絡する第1連絡手段と、 第1遊星歯車装置のサンギヤと第2遊星歯車装置のリン
    グギヤの間を回転連絡する第2連絡手段と、 第2遊星歯車装置のサンギヤと第3遊星歯車装置のサン
    ギヤの間を回転連絡する第3連絡手段と、を有し、 第1連絡手段の回転を入力して減速し、前記出力部材に
    出力する副変速装置を設け、 前記副変速装置は、前記回転軸線上に配置されたシング
    ルピニオン型またはダブルピニオン型の第4遊星歯車装
    置と、 第4遊星歯車装置のリングギヤ、ピニオンキャリヤ、サ
    ンギヤのうち1つの回転を停止可能な第3ブレーキと、 第4遊星歯車装置のリングギヤ、ピニオンキャリヤ、サ
    ンギヤのうち2つの相対回転をロック可能な第4クラッ
    チと、を有することを特徴とする前進5段、後退1段の
    変速が可能な遊星歯車式変速装置。
  3. 【請求項3】 入力部材および出力部材の回転軸線上に
    配置されたシングルピニオン型の第1遊星歯車装置、第
    2遊星歯車装置、および第3遊星歯車装置を有する遊星
    歯車式変速装置において、 第1遊星歯車装置のリングギヤを前記入力部材に対して
    締結可能な第1クラッチと、 第1遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締
    結可能な第2クラッチと、 第2遊星歯車装置のサンギヤを前記入力部材に対して締
    結可能な第3クラッチと、 第2遊星歯車装置のサンギヤの回転を停止可能な第1ブ
    レーキと、 第3遊星歯車装置のピニオンキャリヤの回転を停止可能
    な第2ブレーキと、 第1遊星歯車装置のピニオンキャリヤと第2遊星歯車装
    置のピニオンキャリヤと第3遊星歯車装置のリングギヤ
    と前記出力部材の間を回転連絡する第1連絡手段と、 第1遊星歯車装置のサンギヤと第2遊星歯車装置のリン
    グギヤの間を回転連絡する第2連絡手段と、 第2遊星歯車装置のサンギヤと第3遊星歯車装置のサン
    ギヤの間を回転連絡する第3連絡手段と、を有し、 第1連絡手段の回転から戻し出力を形成して、第3遊星
    歯車装置のピニオンキャリヤに入力する副変速装置を設
    け、 前記副変速装置は、前記回転軸線上に配置されたシング
    ルピニオン型またはダブルピニオン型の第4遊星歯車装
    置と、 第4遊星歯車装置のリングギヤ、ピニオンキャリヤ、サ
    ンギヤのうち1つの回転を停止可能な第3ブレーキと、
    を有することを特徴とする前進5段、後退1段の変速が
    可能な遊星歯車式変速装置。
  4. 【請求項4】 第3連絡手段は、第3遊星歯車装置のサ
    ンギヤおよび第1ブレーキを一体に回転させる連結部材
    と第2遊星歯車装置のサンギヤとの間に直列に配置した
    一方向クラッチと、 前記一方向クラッチと並列に配置した第5クラッチと、
    を有することを特徴とする請求項1、2、または3記載
    の遊星歯車式変速装置。
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