A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1(および後述する図6,7)のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1(および後述する図6,7)のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。図5の上部には、発電単位102の一部分のYZ断面構成が拡大して示されている。また、図6は、図4のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、図7は、図4のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上下方向(第1の方向)の一方側(下側)に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側(上側)に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
電解質層112は、Z軸方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。すなわち、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
空気極114は、Z軸方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄)により形成されている。
燃料極116は、Z軸方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
中間層180は、略矩形の平板形状部材であり、GDC(ガドリニウムドープセリア)を含むように形成されている。中間層180は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する。
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
図4~6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
図4,5,7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
図4,5,7に示すように、燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
図4~6に示すように、空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素から構成されており、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、インターコネクタ150から空気極114の側(本実施形態では、Z軸負方向)に突出する凸状に形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。
なお、図4および図5に示すように、本実施形態では、空気極側集電体134とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材(以下、「金属部材190」と呼ぶ。)の内、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形状の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形状の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の集電体要素が空気極側集電体134として機能する。
図5に示すように、金属部材190の表面上に、Cr酸化物(例えば、Cr2O3(クロミア))を含有する酸化被膜層194が形成されている。また、図4および図5に示すように、金属部材190の表面(より詳細には、金属部材190の表面上に配置された酸化被膜層194における金属部材190とは反対側の表面)は、導電性のMn-Co被膜層196によって覆われている。なお、酸化被膜層194は、特許請求の範囲における第1の被膜層に相当し、Mn-Co被膜層196は、特許請求の範囲における第2の被膜層に相当する。
図4および図5に示すように、空気極114と空気極側集電体134とは、導電性の接合部138により接合されている。接合部138は、例えば、スピネル型結晶構造を有する酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5O4やMnCo2O4、ZnCo2O4、ZnMn2O4、ZnMnCoO4、CuMn2O4)により形成されている。接合部138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。先に、空気極側集電体134は空気極114の表面と接していると説明したが、正確には、空気極側集電体134と空気極114との間には接合部138が介在している。
以下の説明では、金属部材190(インターコネクタ150と空気極側集電体134との一体部材)と、金属部材190の表面上に形成された酸化被膜層194と、酸化被膜層194における金属部材190に対向する表面とは反対側の表面上に形成されたMn-Co被膜層196とを、まとめてインターコネクタ複合体200と呼ぶ。インターコネクタ複合体200は、接合部138を介して空気極114に電気的に接続されており、また、燃料極側集電体144を介して燃料極116に電気的に接続されている。インターコネクタ複合体200の構成については、後に詳述する。なお、インターコネクタ複合体200は、特許請求の範囲におけるインターコネクタ部材に相当する。
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は接合部138を介してインターコネクタ複合体200(金属部材190、酸化被膜層194、Mn-Co被膜層196の集合体)に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介してインターコネクタ複合体200に電気的に接続されている。すなわち、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
A-3.インターコネクタ複合体200の詳細構成:
図8は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の詳細構成を示す説明図である。図8には、図5のX1部(空気極側集電体134の周辺部分)の断面構成が拡大して示されている。図8の右上側には、金属部材190における(Z軸方向での)酸化被膜層194からの距離(μm)と、Niの濃度(atm%)との関係を示すグラフが示されている。図8の右下側には、Mn-Co被膜層196における(Z軸方向での)酸化被膜層194からの距離(μm)と、Niの濃度(atm%)との関係を示すグラフが示されている。なお、図8に示されている各グラフの勾配は、互いに同様となっているが、実際には、互いに若干異なる場合がある。上述したように、インターコネクタ複合体200は、金属部材190(空気極側集電体134とインターコネクタ150との一体部材)と、金属部材190の表面上に配置された酸化被膜層194と、酸化被膜層194における金属部材190とは反対側の表面上に配置されたMn-Co被膜層196とを備える。
図8に示すように、金属部材190は、Feを主成分として含有すると共に、Crを含有している。なお、本明細書において、主成分とは、最も濃度の高い成分を意味する。金属部材190は、さらに、Niを含有している。図8の右上側のグラフに示されるように、金属部材190における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度は、0.5atm%以上である。従って、金属部材190における酸化被膜層194からの距離が1μmまでの領域におけるNiの濃度は、0.5atm%以上である。なお、金属部材190における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度は、0.5atm%未満であってもよい。金属部材190に含有されるNiの濃度は、酸化被膜層194から離れるほど低くなっている。この「Niの濃度は、低くなっている」とは、酸化被膜層194からの距離が任意の長さ(例えば、6μm)以下である領域(以下、「特定領域」という。)において、酸化被膜層194に近い側から2μmごとに順に領域(以下、「単位特定領域」という。)を区切ったときに、各単位特定領域のNiの濃度(atm%)が、当該単位特定領域よりも酸化被膜層194に近い側に隣接する単位特定領域のNiの濃度よりも0.1atm%以上(より好ましくは、0.2atm%以上、より好ましくは、0.3atm%以上)低くなっている、ことを意味する。従って、金属部材190のうち、特定領域外の領域(例えば、酸化被膜層194から10μmよりも長い距離を離れている領域)においては、例えば、Niの濃度(の低下)が収束している部分がある場合もある。
酸化被膜層194は、Cr酸化物(例えば、Cr2O3(クロミア))を含有している。酸化被膜層194のCr濃度は、金属部材190のCr濃度より高くなっている。酸化被膜層194の厚さは、例えば0.5μm以上であることが好ましい。酸化被膜層194は、酸素透過性が低いため、金属部材190にとってより好ましくないFeの酸化を抑制する。すなわち、酸化被膜層194は、耐酸化性の被膜として機能する。一方、酸化被膜層194は、比較的高い電気抵抗を有するため、例えば燃料電池スタック100の使用に伴い、酸化被膜層194がさらに成長することは好ましくない。
Mn-Co被膜層196は、スピネル型結晶構造を有し、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物(例えば、MnCo2O4)を含有する導電性の層である。Mn-Co被膜層196は、さらに、Niを含有している。Mn-Co被膜層196の厚さは、例えば6μm以上(より好ましくは、8~20μm)であることが好ましい。Mn-Co被膜層196は、酸素の透過を抑制するため、電気抵抗の高い酸化被膜層194の成長を抑制することができ、その結果、インターコネクタ複合体200の電気抵抗の上昇(ひいては、発電単位102の性能低下)を抑制することができる。また、Mn-Co被膜層196は、金属部材190からのCrの蒸散を抑制するため、単セル110の電極(例えば空気極114)のCr被毒の発生を抑制することができ、その結果、発電単位102の性能低下を抑制することができる。
図8の右下側のグラフに示されるように、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度は、0.5atm%以上である。従って、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が1μmまでの領域におけるNiの濃度は、0.5atm%以上である。Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度は、酸化被膜層194から離れるほど低くなっている。この「Niの濃度は、低くなっている」の意味は、上述した金属部材190の場合における「Niの濃度は、低くなっている」の意味と同様である。
Mn-Co被膜層196におけるMnの濃度(atm%)とCoの濃度(atm%)との比は、1:1~2である。Mn-Co被膜層196におけるMnの濃度とCoの濃度との比が、このような値に設定されているのは、当該比がこのような値から外れた構成においては、金属部材190や酸化被膜層194との熱膨張係数の差が大きくなり、ひいてはMn-Co被膜層196が(酸化被膜層194から)剥離しやすくなるためである。
なお、図8の右上側のグラフおよび右下側のグラフでは、酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度が0.5atm%より大きいことが示されているが、当該領域(Mn-Co被膜層196および金属部材190の少なくとも一方における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域)におけるNiの濃度が0.5atm%である構成であってもよい。
なお、本実施形態では、インターコネクタ複合体200(における空気極114に対向する表面201)における、空気極側集電体134が形成されている部分のみならず、空気極側集電体134が形成されていない部分も含めた全体において、金属部材190およびMn-Co被膜層196におけるNiの濃度は、上述したような濃度(分布)となっている。
A-4.インターコネクタ複合体200の製造方法:
次に、インターコネクタ複合体200の製造方法について説明する。図9は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例を示すフローチャートである。また、図10および図11は、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200の製造方法の一例を概略的に示す説明図である。
はじめに、金属部材190を準備する(S110)。なお、金属部材190の表面の洗浄のために、アセトンを用いた脱脂処理を行ってもよい。S110の工程は、特許請求の範囲における第1の工程に相当する。
次に、金属部材190に、メッキによりNiを含有するNiメッキ層151を形成する(S120、図10のA)。なお、S120の工程は、特許請求の範囲における第2の工程に相当する。
次に、Niメッキ層151に、泳動電析によりMn酸化物層152を形成する(S130、図10のB)。より具体的には、まず、電解槽Ec1を準備する。電解槽Ec1内に、ケトン類の溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン)を含む溶液Es1を入れる。次に、電解槽Ec1内の溶液Es1に、Mn酸化物(例えば、MnO)の粉末を入れる。また、電解槽Ec1内の溶液Es1に、I2(ヨウ素)を、入れる(例えば0.6g/L濃度でI2を分散させる)。これにより、ケト・エノール互変異性が生じ、プロトン(水素イオン)が生成され、生成されたプロトンはMn酸化物に吸着し、帯電した状態となる。溶液Es1中に、金属部材190と、例えばC(炭素)で形成された電極E1とを入れ、電源P1を用いて、金属部材190と電極E1との間に電圧を印可する(本実施形態では、金属部材190は負極となり、電極E1は正極となる)。これにより、溶液Es1中に電界を生じさせることにより、プロトンが付着したMn酸化物は、Niメッキ層151の側に引き寄せられ、Niメッキ層151に付着する。Niメッキ層151に付着したプロトンは電子を受け取ることによりH2(水素)となり、このH2がNiメッキ層151から脱離し、Niメッキ層151に、Mn酸化物が残る。これにより、多孔質のMn酸化物層152が形成される。なお、S130の工程は、特許請求の範囲における第3の工程に相当する。
次に、Mn酸化物層152に、メッキ(メッキ処理)によりCoを含有するCoメッキ層153を形成する(S140、図11のC,D)。より具体的には、まず、図11のCに示すように、電解槽Ec2内に、Coイオンを含む溶液Es2を準備する。次に、溶液Es2中に、金属部材190と、例えばCoで形成された電極E2とを入れ、電源P2を用いて、金属部材190と電極E2との間に電圧を印可する(本実施形態では、金属部材190は負極となり、電極E2は正極となる)。これにより、溶液Es2中に電界を生じさせる。これにより、Coイオンは、Mn酸化物層152の側に引き寄せられ、(Mn酸化物層152に形成された気孔を埋めるように)Mn酸化物層152に付着する。これにより、Coメッキ層153が形成される(図11のD)。なお、S140の工程は、特許請求の範囲における第4の工程に相当する。なお、図11のDにおいて、符号「152,153」が示す部分のうち、ドット状のハッチングが付されている部分は、Mn酸化物層152に形成された気孔を埋めるCoメッキ層153が比較的少ない(従って、気孔率が比較的高い)部分であり、これに対して、斜線状のハッチングが付されている部分は、Mn酸化物層152に形成された気孔を埋めるCoメッキ層153が比較的多い(従って、気孔率が比較的低い)部分である。
次に、S110の工程、S120の工程、S130の工程、およびS140の工程を経た金属部材190(より厳密には、表面に、Niメッキ層151、Mn酸化物層152、およびCoメッキ層153が形成された金属部材190)を焼成することにより、金属部材190に酸化被膜層194およびMn-Co被膜層196を形成する(S150)。より具体的には、例えば1000℃以下の所定の温度で所定の時間、熱処理を行う。当該熱処理を行うことにより、金属部材190に含まれるCrが金属部材190の表面へ拡散し、大気中の酸素と反応する。これにより、金属部材190の表面に、Cr酸化物(例えば、Cr2O3(クロミア))を含む酸化被膜層194が形成される。また、当該熱処理を行うことにより、Coメッキ層153に含まれるCoおよび他の元素(Mn)が相互拡散しつつ、大気中の酸素と反応する。これにより、酸化被膜層194の表面上に、Co酸化物(例えば、MnCo2O4)を含むMn-Co被膜層196が形成される。この際、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度は、上述したように酸化被膜層194から離れるほど低くなっている。以上説明した製造方法により、上述した構成のインターコネクタ複合体200が製造される。なお、S150の工程は、特許請求の範囲における第5の工程に相当する。
A-5.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態におけるインターコネクタ複合体200は、FeとCrとを含有する金属部材190と、金属部材190の表面上に配置され、Cr酸化物を含有する酸化被膜層194と、酸化被膜層194における金属部材190とは反対側の表面上に配置され、MnとCoとを含有するスピネル型の酸化物を含有するMn-Co被膜層196とを備えている。Mn-Co被膜層196は、Niを含有している。Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低い。
Mn-Co被膜層196がNiを含有していない構成においては、(例えば、製造後に初めて)インターコネクタ複合体200に電流を流し始めてから所定時間(以下、「初期」という。)、電気抵抗が特に増大し、そのため、効率良く電流を流すことができない。このような課題が生じる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。Mn-Co被膜層196がNiを含有していない構成においては、インターコネクタ部材に電流を流すと、Cr酸化物を含有する酸化被膜層194中に、CrとMnとが反応することにより層(以下、「Cr-Mn反応層」という。)が形成される。このインターコネクタ部材においては、当該Cr-Mn反応層の存在により、初期において電気抵抗が特に増大する。
このような課題に対し、本願発明者は、本実施形態のようにMn-Co被膜層196がNiを含有する構成においては、インターコネクタ複合体200の初期における電気抵抗の増大を抑制することができることを新たに見出した。上記構成により当該効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
本実施形態のインターコネクタ複合体200では、上述の通り、Mn-Co被膜層196は、Niを含有している。Mn-Co被膜層196に含有されるNiの電気抵抗は、Mn-Co被膜層196に含有されるCrやMnの電気抵抗よりも低い。また、Mn-Co被膜層196に含有されるNiが、金属部材190に含有されるCrと反応することにより、Niが存在しない構成に比べて、形成されるCr-Mn反応層の量が少なくなる。そのため、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの存在により、Cr-Mn反応層の存在に起因する初期の電気抵抗の増大が抑制される。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、Mn-Co被膜層196がNiを含有していない構成に比べて、効率的に電流を流すことができる。
ここで、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの量が多くなるほど、Mn-Co被膜層196が元来有する酸素透過防止性能の低下に起因して電気抵抗が増大する。例えば、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)の分布が均一である構成においては、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの量が多いことにより、金属部材190の酸化が相対的に進行しやすくなることに起因して電気抵抗が増大しやすい。
これに対し、本実施形態のインターコネクタ複合体200では、上述した通り、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)が酸化被膜層194から離れるほど低い。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200においては、酸化被膜層194から長い距離を離れている領域(言い換えれば、上述した初期の電気抵抗の増大を抑制する効果にあまり寄与しない領域)におけるNiの濃度は、比較的低く、そのため、Mn-Co被膜層196全体におけるNiの濃度は、比較的低い。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200においては、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの量を比較的少なくすることができ、これにより、Mn-Co被膜層196が元来有する酸素透過防止性能の低下が抑制される。これにより、金属部材190の酸化の進行に伴う電気抵抗の増大が抑制される。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200では、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が1μmまでの領域におけるNiの濃度は、0.5atm%以上である。本実施形態のインターコネクタ複合体200では、このように酸化被膜層194から十分近い領域におけるNiの濃度が十分高いことにより、より効果的に、Niの存在により、Cr-Mn反応層の存在に起因する初期の電気抵抗の増大が抑制される。従って、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。
本実施形態のインターコネクタ複合体200では、金属部材190は、Mn-Co被膜層196に含有されるNiと同一の元素であるNiを含有している。金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低い。
本実施形態のインターコネクタ複合体200では、上述の通り、金属部材190は、Mn-Co被膜層196に含有されるNiと同一の元素であるNiを含有している。金属部材190に含有されるNiの電気抵抗は、Mn-Co被膜層196に含有されるCrやMnの電気抵抗よりも低い。また、金属部材190に含有されるNiがCrと反応することにより、Niが存在しない構成に比べて、形成されるCr-Mn反応層の量が少なくなる。そのため、金属部材190に含有されるNiの存在により、初期の電気抵抗の増大が抑制される。従って、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200においては、上述の通り、金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低い。当該濃度の分布が均一である構成においては、上述した理由から、金属部材190に含有されるNiの存在により上記効果(初期の電気抵抗の増大を抑制すること)を奏する。しかしながら、一方で、金属部材190に含有されるNiの量が多くなるほど、金属部材190の熱膨張率が増大し、酸化被膜層194と金属部材190との間に生じる熱膨張差に起因したクラックが生じることで、電気抵抗が増大するという一面もある。これに対し、本実施形態のインターコネクタ複合体200では、金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低い。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200においては、酸化被膜層194から長い距離を離れている領域(言い換えれば、上述した初期の電気抵抗の増大を抑制する効果にあまり寄与しない領域)におけるNiの濃度は、比較的低く、そのため、金属部材190全体におけるNiの濃度は、比較的低い。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200においては、金属部材190に含有されるNiの量を比較的少なくすることができ、これにより、金属部材190の熱膨張率を低い値に抑えることができる。そのため、Mn-Co被膜層196が元来有する酸素透過防止性能の低下が抑制される。これにより、酸化被膜層194と金属部材190との間にクラックが生じることに起因する電気抵抗の増大が抑制される。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法は、金属部材190を準備する工程(S110)と、金属部材190に、メッキによりNiを含有するNiメッキ層151を形成する工程(S120)と、Niメッキ層151に、泳動電析によりMn酸化物層152を形成する工程(S130)と、Mn酸化物層152に、メッキによりCoを含有するCoメッキ層153を形成する工程(S140)と、S110の工程、S120の工程、S130の工程、およびS140の工程を経た金属部材190を焼成することにより、金属部材190に酸化被膜層194およびMn-Co被膜層196を形成する工程(S150)とを備える。本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法によれば、Mn-Co被膜層196は、Niを含有し、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低い構成とされたインターコネクタ複合体200を容易に製造することができる。また、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法においては、泳動電析によりMn酸化物層152を形成した後(S130)、Mn酸化物層152に生じた隙間にCoメッキ層153を形成するため(S140)、Mn-Co被膜層196とMn酸化物層152との密着性が良好なものとなり、これによりMn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離が抑制される。
また、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法では、S130の工程において、金属部材190を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いる。そのため、本実施形態のインターコネクタ複合体200の製造方法によれば、S130の工程において、より効率的に、Niメッキ層151にMn酸化物層152を形成することができる。
なお、Mn-Co被膜層196や金属部材190に含有されるNiの存在により初期の電気抵抗の増大を抑制することと、Mn-Co被膜層196や金属部材190に含有されるNiが酸化することに起因する電気抵抗の増大を抑制することとの両観点から、Mn-Co被膜層196や金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194における、ある程度近い位置において、特に多く配置されていることが好ましく、ある程度遠い位置において、特に少なく配置されていることが好ましい。具体的には、酸化被膜層194からの距離が2.0μm以内の領域におけるNiの濃度が0.5atm%以上(より好ましくは、0.8atm%以上)であり、酸化被膜層194からの距離が6.0μm以上の領域におけるNiの濃度が2.0μm以内の領域における濃度の90%以下(より好ましくは、80%以下)であることが、より好ましい。また、Mn-Co被膜層196や金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)が高すぎると、当該Niの存在により、Mn-Co被膜層196の(酸化被膜層194からの)剥離が生じやすくなる。この観点から、Mn-Co被膜層196や金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、例えば5atm%以下であることが好ましい。
A-6.性能評価:
インターコネクタ複合体200のサンプルを作製し、該サンプルを用いて性能評価を行った。図12は、本実施形態における性能評価結果を示す説明図である。なお、図12の「Niの濃度勾配」とは、Mn-Co被膜層196におけるNiの濃度(atm%)が酸化被膜層194から離れるほど低くなっていることを意味し、「近傍におけるNi濃度」とは、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が2.0μmまでの領域におけるNiの濃度を意味する。
A-6-1.各サンプルについて:
図12に示すように、本性能評価には、4つのサンプル(サンプルS1、S2、S3、S4)を用いた。
サンプルS1およびサンプルS2は、上述した本実施形態のインターコネクタ複合体200のサンプルである。サンプルS1においては、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度が0.5atm%以上(より具体的には、0.8atm%)であるのに対し、サンプルS2においては、サンプルS1に対して、当該領域におけるNiの濃度が0.5atm%未満(より具体的には、0.4atm%)である点のみ異なっている。サンプルS1およびサンプルS2において、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)および金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低くなっている。より具体的には、本性能評価では、サンプルS1およびサンプルS2として、酸化被膜層194からの距離が6μm以内である特定領域において、酸化被膜層194に近い側から2μmごとに順に単位特定領域を区切ったときに、各単位特定領域のNiの濃度(atm%)が、当該単位特定領域よりも酸化被膜層194に近い側に隣接する単位特定領域のNiの濃度よりも0.1atm%以上低くなっているものを用いた。
サンプルS3およびサンプルS4は、比較例のインターコネクタ複合体のサンプルである。サンプルS3のインターコネクタ複合体は、Mn-Co被膜層196がNiを含有していない構成とされた点がサンプルS1およびサンプルS2(本実施形態)のインターコネクタ複合体200と異なる。サンプルS4のインターコネクタ複合体は、Mn-Co被膜層196および金属部材190がNiを含有しているが、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)および金属部材190に含有されるNiの濃度(atm%)は、均一である(つまり、酸化被膜層194から離れるほど低くなっていない)点がサンプルS1およびサンプルS2(本実施形態)のインターコネクタ複合体200と異なる。なお、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度と、金属部材190における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域におけるNiの濃度とは、いずれも0.5atm%以上(より具体的には、0.8atm%)である。
A-6-2.評価方法および評価結果:
大気雰囲気で、900℃、2000時間の条件で、上記の各サンプル(サンプルS1、S2、S3、S4)に対して一定の電流(例えば、0.5A/cm2)を流し、電気抵抗(接触抵抗)(Ωcm2)を測定した。(製造後に初めて)電流を流し始めてから90時間(本評価において、上記の「初期」に相当する時間として設定した時間)の間における電気抵抗(以下、「初期抵抗」ともいう。)と、電流を流し始めてから1500時間(本評価において、Niが酸化することに起因する電気抵抗の増大がある程度以上となる時間として設定した時間)の間における電気抵抗(以下、「長期抵抗」ともいう。)とに基づいて評価した。初期抵抗については、電流を流し始めてから90時間の間における電気抵抗の上昇値(電流を流し始めたときの電気抵抗と、90時間後の電気抵抗との差)が小さいほど、高い評価であると判定し、同様に、長期抵抗については、電流を流し始めてから1500時間の間における電気抵抗の上昇値(電流を流し始めたときの電気抵抗と、1500時間後の電気抵抗との差)が小さいほど、高い評価であると判定した。具体的には、初期抵抗については、1.0Ωcm2以下であれば「◎」、初期抵抗の上昇値が1.0Ωcm2より大きく、かつ2.0Ωcm2以下であれば「○」、初期抵抗の上昇値が2.0Ωcm2より大きく、かつ3.0Ωcm2以下であれば「△」、3.0Ωcm2より大きければ「×」と判定した。長期抵抗については、4.0Ωcm2以下であれば「○」、4.0Ωcm2より大きければ「×」と判定した。そして、初期抵抗についての評価と長期抵抗についての評価とが共に「×」でない場合は「合格」と判定し、初期抵抗についての評価と長期抵抗についての評価との少なくとも一方が「×」である場合は「不合格」と判定した。なお、本性能評価において、初期抵抗についての測定時間を「90時間」とし、長期抵抗についての測定時間を「1500時間」としているのはあくまで一例であり、初期抵抗についての適切な測定時間や、長期抵抗についての適切な測定時間は、インターコネクタ複合体200を使用する環境温度等によって変化する。
図13は、本実施形態における性能評価における電気抵抗の測定結果(サンプルS1とサンプルS3のみ)を示す説明図である。
図13に示すように、サンプルS3のインターコネクタ複合体では、インターコネクタ複合体に電流を流し始めてから約90時間(上記の「初期」に相当)の間、電気抵抗は増大し、その後、時間の経過とともに一旦緩やかに低下した後、再度増大した。インターコネクタ複合体に電流を流し始めてから90時間における電気抵抗の上昇値は、3.0Ωcm2よりも大きかった。従って、サンプルS3のインターコネクタ複合体における初期抵抗についての評価は、「×」であった。インターコネクタ複合体に電流を流し始めてから1500時間における電気抵抗の上昇値は、4.0Ωcm2以下であった。従って、サンプルS3のインターコネクタ複合体における長期抵抗についての評価は、「○」であった。これらの結果から、サンプルS3のインターコネクタ複合体の評価結果は、「不合格」とされた。
なお、約90時間の間、電気抵抗が特に増大した理由は、上述したように、Cr酸化物を含有する酸化被膜層194中に形成されたCr-Mn反応層(CrとMnとが反応することにより層)の存在によるものと推測される。また、電気抵抗が一旦緩やかに低下した理由は、必ずしも明らかではないが、Cr-Mn反応層が分解することにより、Cr-Mn反応層の量が減少したこと等に起因すると推測される。また、電気抵抗が再度増大した理由は、Mn-Co被膜層196や金属部材190に含有されるNiが過多であることに起因し、金属部材190の酸化が促進したことによるものと推測される。
また、サンプルS4のインターコネクタ複合体では、初期抵抗の上昇値が1.0Ωcm2以下であった。従って、サンプルS4のインターコネクタ複合体における初期抵抗についての評価は、「◎」であった。インターコネクタ複合体に電流を流し始めてから1500時間における電気抵抗の上昇値は、4.0Ωcm2よりも大きかった。従って、サンプルS4のインターコネクタ複合体における長期抵抗についての評価は、「×」であった。これらの結果から、サンプルS4のインターコネクタ複合体の評価結果は、「不合格」とされた。
これに対し、図13に示すように、サンプルS1のインターコネクタ複合体200では、インターコネクタ複合体200に電流を流し始めてから約90時間(上記の「初期」に相当)の間、増大したが、電流を流し始めてから90時間における電気抵抗の上昇値は、1.0Ωcm2以下であった。従って、サンプルS1のインターコネクタ複合体200における初期抵抗についての評価は、「◎」であった。インターコネクタ複合体200に電流を流し始めてから1500時間における電気抵抗の上昇値は、4.0Ωcm2以下であった。従って、サンプルS1のインターコネクタ複合体200における初期抵抗についての評価は、「○」であった。これらの結果から、サンプルS1のインターコネクタ複合体200の評価結果は、「合格」とされた。
また、サンプルS2のインターコネクタ複合体200では、概ねサンプルS1のインターコネクタ複合体200と同様の評価結果であったが、電流を流し始めてから90時間における電気抵抗の上昇値は、1.0Ωcm2より大きく、かつ2.0Ωcm2以下であった。従って、サンプルS1のインターコネクタ複合体200における初期抵抗についての評価は、「○」であった。インターコネクタ複合体200に電流を流し始めてから1500時間における電気抵抗の上昇値は、4.0Ωcm2以下であった。従って、サンプルS1のインターコネクタ複合体200における初期抵抗についての評価は、「○」であった。これらの結果から、サンプルS2のインターコネクタ複合体200の評価結果は、「合格」とされた。
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
上記実施形態における単セル110、発電単位102または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
例えば、上記実施形態では、Mn-Co被膜層196は、Niを含有しており、Mn-Co被膜層196に含有されるNiの濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低いとしているが、Mn-Co被膜層196は、NiとCuとZnとCoとの少なくとも1種類の元素(以下、「特定元素」という。)を含有しており、Mn-Co被膜層196に含有される特定元素の濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低いとしている、としてもよい。この構成を実現するには、基本的には、上述した実施形態における「Ni」を「特定元素」と読み替えればよい。この構成においても、上記実施形態の場合と同様の理由から、Mn-Co被膜層196に含有される特定元素の存在により、初期の電気抵抗の増大が抑制される。従って、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、Mn-Co被膜層196が特定元素を含有していない構成に比べて、効率的に電流を流すことができる。また、上記変形例における構成において、金属部材190は、Mn-Co被膜層196に含有される特定元素と同一の元素を含有しており、金属部材190に含有される特定元素の濃度(atm%)は、酸化被膜層194から離れるほど低い、としてもよい。この構成においても、上記実施形態の場合と同様の理由から、金属部材190に含有される特定元素の存在により、初期の電気抵抗の増大が抑制される。従って、このインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。なお、図14は、特定元素としてCuを用いた変形例における性能評価結果を示す説明図である。図14に示されるように、この変形例においても、特定元素としてNiを用いた上記実施形態における評価結果と同様の評価結果となった。特定元素としてNiまたはCuを用いた上記実施形態における評価結果から、特定元素としてZnまたはCoを用いた構成においても、上述した理由と同様の理由から、特定元素の存在により初期の電気抵抗の増大が抑制されることが推測される。なお、Mn-Co被膜層196における特定元素(Coは除く)の含有量や、金属部材190における特定元素の含有量は、5atm%以下であることが好ましく、2atm%以下であることがより好ましい。なお、Mn-Co被膜層196における特定元素の含有量は、例えば、以下のように特定することができる。まず、Mn-Co被膜層196を削ることにより、Mn-Co被膜層196の粉末を取得する。この粉末をICP-AES装置で分析することにより、Mn-Co被膜層196における特定元素の含有量を特定することができる。金属部材190における特定元素の含有量も、同様の方法により特定することができる。
また、上記実施形態では、インターコネクタ複合体200(における空気極114に対向する表面)の全体において、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域における特定元素の濃度は、0.5atm%以上である構成とされているが、インターコネクタ複合体200(における空気極114に対向する表面)のうち、一部のみ(例えば、空気極側集電体134の周辺部分を含む一部のみ)において、Mn-Co被膜層196における酸化被膜層194からの距離が2μmまでの領域における特定元素の濃度は、0.5atm%以上である構成とされてもよい。また、上記実施形態では、インターコネクタ複合体200(における空気極114に対向する表面)の全体において、Mn-Co被膜層196に含有される特定元素の濃度は、酸化被膜層194から離れるほど低くなっている構成とされているが、インターコネクタ複合体200(における空気極114に対向する表面)のうち、一部のみ(例えば、空気極側集電体134の周辺部分を含む一部のみ)において、Mn-Co被膜層196に含有される特定元素の濃度は、酸化被膜層194から離れるほど低くなっている構成とされてもよい。
また、上記実施形態では、S130の工程において、泳動電析により、Mn酸化物層152を形成するとしているが、その他の手法(例えば、スピンコート法、スプレーコート法、溶射法)により、Mn酸化物層152を形成するとしてもよい。
また、上記実施形態では、S130の工程において、金属部材190を浸す溶剤として、ケトン類の溶剤を用いるとしているが、その他の溶剤(例えば、エタノールに塩酸を入れた溶剤)を用いるとしてもよい。
また、上記実施形態では、インターコネクタ150と空気極側集電体134とが一体部材(金属部材190)であるとしているが、インターコネクタ150と空気極側集電体134とが別部材であってもよい。その場合において、本発明は、インターコネクタ150または空気極側集電体134と、酸化被膜層194とMn-Co被膜層196とから構成されるインターコネクタ部材にも適用可能である。
また、上記実施形態では、空気極側集電体134が接合部138を介して空気極114に接しているが、空気極側集電体134が接合部138を介さずに空気極114に接しているとしてもよい。
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上述した構成のインターコネクタ複合体200を採用することにより、初期の電気抵抗の増大が抑制される。従って、本実施形態のインターコネクタ複合体200によれば、より効率的に電流を流すことができる。
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。