JP7202599B2 - 血圧測定装置、車両装置、及び血圧測定プログラム - Google Patents

血圧測定装置、車両装置、及び血圧測定プログラム Download PDF

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Description

本発明は、血圧測定装置、車両装置、及び血圧測定プログラムに関し、例えば、脈波から血圧を測定するものに関する。
近年、少子高齢化などと相まって健康志向が高まっており、病気の予防、及び早期発見の観点から日常生活における血圧測定が重要視されている。
血圧の測定方式には、例えば、専用の器具を腕や指先に装着するなどして脈波速度・脈波加速度など直接的・間接的に測定して血圧に換算する非侵襲式のものや、バルーンなどを直接に血管内に挿入する侵襲式のものなどがある。
特に、非侵襲式は、人体に与える負荷が侵襲式に比べて少ないことから日本循環器学会による「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」で述べられているように盛んに研究されている。
ところで、非侵襲式の血圧測定であっても、カフを腕や指先に装着するなど、何れの場合も被験者(被測定者)に対して何らかの装置を装着させる必要があり、被験者に肉体的・心理的負担を強いるという問題があった。例えば、装置によってはカフなどによって圧力を加える必要があるため、その不快な心情から血圧が変動し、その結果、測定値に何らかの誤差を生じさせる可能性があった。心因的な現象として白衣効果が有名である。
また、車両運転中に運転者の血圧をモニタリングするような場合、いちいち器具を運転者に装着するのは現実的ではない。
そのため、非接触式の血圧測定方式が求められていた。
ところが、被験者に与える負担が少ないことから非侵襲・非接触のバイタル測定は需要が高く、そのため、マイクロ波、光学センサ、カメラを用いて、対象者の呼吸数、脈拍数を測定する技術は考案されているものの、生体に非接触で血圧を測定する技術は、何をどのように測定すれば非接触で血圧を測定できるか、といった方法論さえ確立されておらず、その技術的難度ゆえ、未だ日常生活で利用できる(特に、車両運転中に利用できる)方法は実現されていなかった。
例えば、特許文献1に示した技術は、生体の2カ所にマイクロ波を照射することにより脈波の伝搬速度を測定し、脈波の伝搬速度と血圧に相関関係があるという説に基づいて血圧を非接触で測定するものである。
この技術では、被験者をベッドに寝かせた安静状態で、例えば、腕部の所定の2カ所を狙ってマイクロ波を照射するなど、日常生活で利用するには制約があり、特に車両で使用するのは困難である。
特開2014-230671号公報
本発明は、非接触・非侵襲で生体の血圧を測定することを目的とする。
(1)請求項1に記載の発明では、生体から脈波を取得する脈波取得手段と、前記取得した脈波の周波数成分を取得する周波数成分取得手段と、前記取得した周波数成分のうち、前記脈波による基本周波数の高域側の、前記脈波の周波数成分と血圧の相関が所定以上となる所定範囲の帯域における周波数成分を用いて前記生体の血圧を測定する血圧測定手段と、を具備したことを特徴とする血圧測定装置を提供する。
(2)請求項2に記載の発明では、前記血圧測定手段は、前記所定範囲の帯域における前記基本周波数の高調波の成分を用いて前記血圧を測定することを特徴とする請求項1に記載の血圧測定装置を提供する。
(3)請求項3に記載の発明では、前記脈波取得手段は、前記生体の体表面から非接触で前記脈波を取得することを特徴とする請求項1、又は請求項2に記載の血圧測定装置を提供する。
(4)請求項4に記載の発明では、前記脈波取得手段は、所定の周波数の電磁波を前記生体に照射し、その反射波を用いて前記脈波を取得することを特徴とする請求項3に記載の血圧測定装置を提供する。
(5)請求項5に記載の発明では、前記測定した血圧の変化に応じた報知を行う報知手段を具備したことを特徴とする請求項4に記載の血圧測定装置を提供する。
(6)請求項6に記載の発明では、車両の運転者の血圧を測定する請求項5に記載の血圧測定装置を具備したことを特徴とする車両装置を提供する。
(7)請求項7に記載の発明では、前記運転者に対して前記電磁波の照射を行い、その反射波を受信するアンテナを運転席の背もたれ部分に具備したことを特徴とする請求項6に記載の車両装置を提供する。
(8)請求項8に記載の発明では、生体から脈波を取得する脈波取得機能と、前記取得した脈波の周波数成分を取得する周波数成分取得機能と、前記取得した周波数成分のうち、前記脈波による基本周波数の高域側の、前記脈波の周波数成分と血圧の相関が所定以上となる所定範囲の帯域における周波数成分を用いて前記生体の血圧を測定する血圧測定機能と、をコンピュータで実現する血圧測定プログラムを提供する。
本発明によれば、脈波の周波数成分を用いることにより、非接触・非侵襲で生体の血圧を測定することができる。
実験装置の構成を説明するための図である。 数式を示した図である。 脈波の波形を表したグラフである。 脈波の周波数スペクトルを表したグラフである。 8次高調波の電力値と収縮期血圧の対応をプロットした散布図である。 反射電力値と収縮期血圧の間の相関係数を示したグラフである。 血圧測定装置の構成を示した図である。 血圧検出処理の手順を説明するためのフローチャートである。
(1)実施形態の概要
実験装置1は、送信アンテナ23からマイクロ波を被験者(被測定者)7に照射し、その反射波を受信アンテナ25で受信する。脈拍による体表面の微動により反射波の位相が変化するため、送信波と反射波の位相差から脈波を検出することができる。
更に、実験装置1は、脈波を連続的に検出しながら、被験者7に装着した血圧センサ5から被験者7の血圧も連続的に検出している。
本願発明者らは、被験者7の脈波をフーリエ変換して脈波の周波数スペクトルを生成し、これを血圧センサ5で検出した被験者7の血圧と比較したところ、脈波の周波数成分のうち、基本周波数の高域側の所定範囲の帯域における周波数成分が収縮期血圧と統計的に有意な正の相関を示すことを発見した。特に8次高調波が収縮期血圧と統計的に有意な正の相関を示すことを発見した。
以上の実験結果から、マイクロ波を用いて非接触・非侵襲で対象者の脈波を検出し、これに上記の相関関係を適用して収縮期血圧を測定(推定)する装置が可能となった。これにより、不快感や面倒臭さを伴わない血圧の連続的測定を実現することができる。
また、本実施形態では、脈波の伝播速度からではなく、脈波の周波数成分を周波数解析して血圧を測定するので、マイクロ波を照射するマイクロ波回路2が2つではなく、1つにすることができる。
(2)実施形態の詳細
まず、実験装置について説明する。
図1は、脈波と血圧の相関関係を調べる実験装置1の構成を説明するための図である。
実験装置1は、マイクロ波回路2、制御装置3、処理装置4、血圧センサ5などから構成されている。
更に、マイクロ波回路2は、発信器21、トランスミッタ22、送信アンテナ23、レシーバ24、受信アンテナ25、ミキサ26、フィルタ27などから構成されている。
また、図示しないがマイクロ波回路2によるマイクロ波照射方向には、被験者7が着座するための椅子が設置されている。
なお、後述するように、実験装置1の構成のうち血圧センサ5を除いた部分は、車両で運転者の血圧をモニタリングする血圧測定装置40に組み込まれ、被測定者(例えば、運転者、病院の患者等)の血圧を測定(推定)するのに用いられる。
発信器21は、マイクロ波発振用のデバイスを備えており、所定の周波数のマイクロ波を連続波にて生成してトランスミッタ22に出力すると共に、一部を参照波としてミキサ26に出力する。
本実施の形態では、脈波を検出するための電磁波として、一例として発信器21が発生する5[GHz]のマイクロ波を使用した。
トランスミッタ22は、発信器21が生成したマイクロ波を送信アンテナ23から空間に送出する。
送信アンテナ23には、16素子パッチアレーアンテナを用いており、トランスミッタ22と送信アンテナ23のセットは16個存在するが、図1では1セットを図示している。
レシーバ24は、トランスミッタ22による照射波(送信波)がターゲット(被験者7)に反射して戻ってきた反射波を受信アンテナ25によって受信し、これをミキサ26に送出する。
受信アンテナ25には、4素子パッチアレーアンテナを用いており、受信アンテナ25とレシーバ24のセットは4個存在するが、図1では2セットを図示している。
このように、実験装置1は、送信16素子、受信4素子のMIMO(Multiple Input Multiple Output)となっている。また、これらの素子間隔は、0.5波長となっている。
このような構成により、マイクロ波の指向性を鋭くすることができる他、マイクロ波の方向を微調整して、脈波がよく検出できる部位(発明者の実験によると被験者7の心臓部あたり)にマイクロ波を照射することができる。
ミキサ26は、レシーバ24が受信した反射波を発信器21による参照波と混合し、これによって、うなり(ビート、混合波)を発生させてフィルタ27に出力する。
フィルタ27は、ミキサ26が出力するうなり波のうち、脈波の計測に必要な帯域だけ通過させるフィルタである。
被験者7の体表面は、心肺の活動によって微細に振動しており、これによる反射面(体表面)の微細な変動が反射波の位相変化(マイクロ波ドップラー)を生じさせる。
そして、固定周波数の照射波を参照波として反射波と混合すると、位相差に基づくうなりが発生し、これを利用することにより脈波を検出・再現することができるのである。
このようにして、実験装置1は、体表面の振動を非接触・非侵襲で計測することができる。
また、被験者7が綿や化繊などの服を着用していても、マイクロ波はこれらを透過するため、被験者7は着衣したままでよい。このように上記のマイクロ波を用いた手法は、非接触・着衣下で利用できるため、車両運転時などの日常生活での血圧を計測するのに適している。
このように、実験装置1は、所定の周波数の電磁波を生体(被験者7)に照射し、その反射波を用いて生体から脈波を取得する脈波取得手段を備えており、当該生体の体表面から非接触で脈波を取得することができる。
血圧センサ5は、被験者7の右人差し指に装着するカフを用いて構成されており、これによって、血流による圧力値の変動から血圧の時間変化を血圧計で観測することが可能となっている。
実験装置1では、被験者7の実際の血圧値をマイクロ波回路2による脈波の検出と同時計測するために、連続血圧計(Finometer MIDI(Musical Instrument Digital Interface))を使用した。
制御装置3は、発信器21の駆動を制御する制御装置である。
処理装置4は、マイクロ波回路2から出力された信号によって脈波を表示するオシロスコープ、脈波をFFT(Fast Fourier transform)によるフーリエ変換によって周波数スペクトルに変換するスペクトラムアナライザ、血圧センサ5によって被験者7の血圧を計測する血圧計、及びこれらから得られる情報を解析するコンピュータなどから構成されている。
以上のように、実験装置1は、マイクロ波によって被験者7の脈波を非接触で連続的に得ることができると共に、これと平行して、血圧センサ5によって、被験者7の血圧を連続的に検出することができる。
本実験では、マイクロ波によって検出した脈波と血圧センサ5によって検出した血圧を比較することにより、脈波と収縮期血圧(SBP(systolic blood pressure))の相関関係を調べた。
次に、脈波と収縮期血圧の相関特性の評価方法について説明する。
一般に、送信n素子、受信m素子を有する場合、変動MIMOチャネル行列H(t)は、図2の式(1)に示したように、m行n列の行列よって表される。
本実験では、これら受信素子(送信アンテナ23)、送信素子(受信アンテナ25)の組み合わせのうち、時間平均電力の最も高い伝搬路を選択して実験を行った。
このときの受信素子、送信素子の組み合わせをそれぞれ、m、nとすると当該伝搬路の伝搬チャネル係数は、h《mn》(t)と表される。
なお、図2の式(1)ではmnをhの添え字として表しているが、本明細書中では、《mn》のように添え字部分を《》で括って表すものとする。以下、同様に記載する。
そして、本実験では、ある時間区間Δtにおける、脈波の周波数成分ごとの電力値(生体情報に起因する周波数成分のもつ電力値)と実際の収縮期血圧値の対応を観測した。
このように、実験装置1は、脈波の周波数成分を電力値にて取得する周波数成分取得手段を備えている。なお、電力値は、絶対値でもよいし、何らかの基準に対する相対値でもよい。
任意の時間区間Δtによって区切られたk番目の伝搬チャネルをフーリエ変換して得られる周波数応答はf《mn》(ω,t《k》)と表される。ここで、ωは角周波数、tkはk番目の区間の時刻を表す。
nを被験者7の心拍数の基本周波数を基準とした高調波の次数とし、各次数に対応する周波数成分の下限をω《L》(n)とし、上限をω《H》(n)とする。
例えば、被験者7は、一分間に60回程度心臓が鼓動するため、基本周波数は1[Hz]程度となり(一般的には、0.7~1.5[Hz]程度)、2次、3次、・・・の周波数は、2[Hz]、3[Hz]、・・・程度となる。
n次高調波成分の電力P《n》(t《k》)は、図2の式(2)で表される。
本実施の形態では、FFTを用いたフーリエ変換によって被験者7の脈波の波形の基本波成分と高調波成分の電力Pn(tk)を求めると共に、Pn(tk)を求めた時間区間に対応する実際の収縮期血圧の平均値を血圧センサ5によって取得して、両者の相関特性を評価した。
次に、実験の実施について説明する。
本実験は、生体に照射したマイクロ波の反射応答と実際の収縮期血圧とを比較し、その相関特性について評価を行うことにより、マイクロ波を用いた非接触血圧測定の可能性を探るものである。
本実験では、チャネル測定時間を210秒、サンプリング周波数(MIMOチャネルの取得速度)を200[Hz]とした。
フーリエ解析を行う時間区間Δtは、周波数分解能を考慮してサンプル数1024点、時間にして5.12秒とし、フーリエ変換にはハミング窓を用いた。
本実験は20代の健康な7名の男性の協力を得て行い、血圧センサ5を用いて被験者7の実際の連続血圧値を同時計測した。
被験者7の体動の影響を小さくするため、被験者7を、アンテナ正面方向30cmの距離に着座させ、安静状態においた。
本実験では、被験者7の安静状態を保ちつつ任意の血圧変化を促し、血圧値による反射波の変化を確認するため、被験者7にVR(Virtual Reality)用のゴーグルを装着させて、測定開始後60秒経過後に映像刺激を与えた。
次に、実験結果について説明する。
図3は、マイクロ波により検出した被験者7の脈波の波形を表したグラフである。
縦軸は検出された電圧の絶対値を示しており、横軸は時間を秒単位で示している。図に示したように1秒に1回程度、脈拍による脈波31、31、31、・・・が現れている。
図に示したように脈波31では、波形の微細な特徴もよく検出されており、周波数解析による脈波31の特徴の抽出が期待できるものである。
図4は、脈波の周波数スペクトルを表したグラフである。
この波形は、脈波31をフーリエ変換によって周波数領域に変換したものであり、脈波を構成する各周波数成分のレベル(パワー)を示している。
縦軸は、周波数成分のレベルをパワー(電圧値)で示しており、横軸は周波数を示している。
グラフから明らかなように、脈波の基本波である心臓の鼓動による1[Hz]程度の成分33が最も多く含まれている。
図5は、全被験者における反射波の8次高調波の電力値(横軸)と収縮期血圧(SBP:縦軸)の対応をプロットした散布図である。
8次高調波の電力値は、脈波31をフーリエ変換して得たものであり、収縮期血圧は、血圧センサ5を用いて計測したものである。
なお、本実験では、基本波から20次の高調波まで、同様の散布図を作成して相関係数を求めたところ、8次高調波が最も相関係数が高かったため、ここでは、8次高調波の散布図を引用した。
図5における直線35は、最小二乗法により求めた回帰直線を表している。
図5に示したように、回帰直線は、y=313.1464+2.714x、相関係数rは、0.50932、サンプル数nは804、信頼区間95%に対してP値は0.05未満であり、有意な正の相関傾向が見られた。
なお、本検討ではピアソンの積率相関を用いて相関係数を算出し、P値が0.05未満を統計的に有意とみなした。
ちなみに、基本波についても同様の解析を行うと、y=148.7285+0.61697x、相関係数rは、0.32265、信頼区間95%に対してP値は0.05未満であり、有意な正の相関傾向が見られた。
図6は、基本波から20次高調波までの高調波ごとの反射電力値と収縮期血圧の間の相関係数を示したグラフである。
この図により、脈波による受信電力の8次高調波成分と収縮期血圧との対応が最も相関係数が高くなり、その値は前述の通り0.50932となった。
このため、脈波から収縮期血圧を測定する場合、脈波の8次高調波成分を用いるのが好ましく、上記の相関関係を用いて、当該成分のレベルから収縮期血圧を測定することが可能であると思われる。
なお、本実験では、高調波の周波数ごとに相関係数を計測して、8次高調波の周波数が最も相関が高くなることを見いだしたのであって、更に細かく相関係数と周波数の対応関係を調べると、8次高調波の周波数から若干ずれた位置が最も高くなることもあり得る。
しかし、グラフの形状から血圧測定の際に最も好ましい周波数成分は、8次高調波の周波数付近に存在すると思われる。また、12次高調波付近でも、8次高調波ほどではないがピークが見られる。
また、本実験では、5[GHz]のマイクロ波を用いたが、他の周波数のマイクロ波を用いた場合には、他の次数の高調波の周波数で相関係数が高くなることも考えられる。
そこで、血圧測定に好ましい周波数帯域は、n次高調波を中心とするn-1次高調波からn+1次高調波の間で相関係数が所定の値以上となる帯域であり、更に好ましくは、当該帯域でn次高調波の付近、あるいはn次高調波の周波数であると考えられる。
マイクロ波の周波数が5[GHz]の場合は、8次高調波の付近、即ちn=8の場合が相関係数がもっと高くなり、7次高調波の周波数と9次高調波の周波数の間で、相関係数があるとされる0.3以上、又は、かなり相関関係があるとされる0.4以上、望ましくは0.5以上となる帯域が血圧測定に適した帯域である。
後述する血圧測定装置40は、この帯域に含まれる周波数のうち、8次高調波のレベルを、図5に示した相関関係に照らし合わせて対象者の収縮期血圧を測定する。
このように、血圧測定装置40は、周波数成分のうち、脈波による基本周波数の高域側の所定範囲の帯域における周波数成分を用いて生体の血圧を測定する血圧測定手段を備えており、当該血圧測定手段は、脈波の周波数成分と血圧の相関が所定以上となる帯域を血圧測定に用いる所定範囲の帯域としている。
また、当該血圧測定手段は、当該所定範囲の帯域における基本周波数の高調波の成分(血圧測定装置40の例では当該帯域のうち8次高調波の成分)を用いて血圧を測定している。
まとめると、本実験では、生体にマイクロ波を照射し、そのマイクロ波ドップラー応答と実際の血圧(特に収縮期血圧)との対応から、相関特性の評価を行った。実験結果より、反射波の電力値と収縮期血圧値の間には正の相関関係があることがわかった。また、被験者7の心拍数を基本周波数としたときに、その高調波成分においてより高い正の相関が認められた。
図7は、上記実験結果を用いて作成した血圧測定装置40の構成を示した図である。
図7の血圧測定装置40としては、例えば、専用のICチップなどを用いて小型化されて車両に搭載されており、運転者の血圧を測定し、監視する場合を例に説明する。
なお、血圧測定装置40は、家庭で日常的に血圧を測定したり、医療機関で患者の血圧を測定するのに用いることもできる。
このように、当該車両の車両装置は、車両の運転者の血圧を測定する血圧測定装置40を備えている。
血圧測定装置40は、CPU(Central Processing Unit)41、ROM(Read Only Memory)42、RAM(Random Access Memory)43、インターフェース44、入力装置45、出力装置46、記憶装置47、制御装置3、処理装置4、及び図示しないマイクロ波回路2を用いて構成されている。
CPU41は、ROM42や記憶装置47が記憶するプログラムに従って血圧測定装置40の各所を制御したり、各種の演算処理を行う。
本実施の形態では、制御装置3や処理装置4と協働して血圧測定の対象者(運転者)の脈波を取得し、これから対象者の血圧を測定する処理などを行う。
ROM42は、血圧測定装置40を動作させる基本的なプログラムやパラメータなどを記憶している読み取り専用のメモリである。
RAM43は、読み書きが可能なメモリであって、例えば、記憶装置47が記憶する血圧測定プログラムやデータを一時記憶するなどして、CPU41が各種の情報処理を行う際のワーキングメモリを提供する。
インターフェース44は、制御装置3や処理装置4をCPU41に接続するインターフェースである。CPU41は、インターフェース44を介して制御装置3を制御することによりマイクロ波回路2を動作させたり、処理装置4から8次高調波のレベルを受信したりすることができる。
入力装置45は、例えば、タッチパネル、キーボード、マウスなどの入力デバイスを備えており、血圧測定装置40のユーザからの操作を受け付けるなどする。
出力装置46は、例えば、ディスプレイ、スピーカ、プリンタなどの出力デバイスを備えており、血圧測定装置40の操作画面をディスプレイに表示したり、血圧の測定値や血圧の変化によるアラームなどをディスプレイ、スピーカ、プリンタを用いて対象者に報知する。
運転者の脈拍が正常であっても血圧が低下して注意を要する場合が生じることがある。このような場合に、血圧測定装置40は、血圧の変化をいち早く検知して、その重要性に応じて段階的に、例えば、血圧の通知、休憩のアドバイス、緊急通報、・・・などと報知内容を変化させていく。具体的には、変動による血圧の低下ではなく、継続的に血圧低下が起きていると判断される場合には、ショック症状に到る可能性があると判断し、血圧低下は幅や低下速度等に基づいて報知を行う。
また、血圧が所定値を超えて高くなった場合には、緊張していると考えられるため、同様に休憩のアドバイスを行うことも可能である。
このように、血圧測定装置40は、測定した血圧の変化に応じた報知を行う報知手段を備えている。
記憶装置47は、例えば、半導体記憶装置やハードディスクなどの大容量の媒体を備えており、処理装置4から8次高調波のレベルを得て、これと血圧の相関関係から血圧値を算出する機能をCPU41に発揮させる血圧測定プログラムや、その他のプログラム、及び過去の測定値のデータなどを記憶している。
制御装置3は、CPU41からの信号に従って図示を省略したマイクロ波回路2の駆動を制御する。
処理装置4は、マイクロ波の反射波から脈波を検出する機能と、検出した脈波をフーリエ変換して8次高調波のレベルをCPU41に出力する。
制御装置3と処理装置4は、何れも必要な機能に絞ってICチップ化されており、車両に搭載できる程度に小型化されている。
また、図示しないマイクロ波回路2を構成する送信アンテナ23と受信アンテナ25は、運転席の背もたれ部分に埋め込まれており、送信アンテナ23で運転者の心臓付近の背中部分にマイクロ波を照射し、受信アンテナ25で脈波により変調された反射波を受信する。但し、送信アンテナ23と受信アンテナ25については、ダッシュボードやハンドル、フロントガラス上部等に配置することで、運転者の前方から心臓付近を照射するようにしてもよい。
これにより、血圧測定装置40は、非接触・着衣下で運転者の脈波を検出することができる。
このように、血圧測定装置40は、運転者に対して電磁波の照射を行い、その反射波を受信するアンテナを運転席の背もたれ部分に備えている。
図8は、血圧測定装置40が収縮期血圧を検出する血圧検出処理の手順を説明するためのフローチャートである。
以下の処理は、CPU41が血圧測定プログラムに従って制御装置3及び処理装置4と協働して行うものである。
まず、CPU41は、制御装置3を駆動することにより、マイクロ波回路2からマイクロ波を対象者(車両の運転者、家庭のユーザ、病院の患者など)に照射する(ステップ5)。
これに対して、処理装置4は、対象者から反射してきた反射波によって脈波を検出し(ステップ10)、更に、脈波を周波数解析する(ステップ15)。
更に、処理装置4は、8次高調波のレベル値を検出してCPU41に送信する(ステップ20)。
これに対して、CPU41は、処理装置4からレベル値を受信してRAM43に記憶する。
次に、CPU41は、RAM43に記憶した8次高調波のレベル値と収縮期血圧の相関関係を用いた所定の計算式に当該レベル値を代入して演算し、当該演算によって算出した収縮期血圧の測定値を測定値としてRAM43に記憶する(ステップ25)。
そしてCPU41は、RAM43に記憶した血圧を出力装置46に出力する(ステップ30)。
このようにして血圧測定装置40は、対象者の収縮期血圧を非接触・非侵襲・着衣下で測定することができ、独自のアルゴリズムでバイタルサインを検出することができる。
以上に説明したように、血圧測定装置40は、生体に照射したマイクロ波の反射応答から脈波を検出し、その脈波の周波数成分分解を行い、脈波の基本周波数(0.7~1.5Hz程度)の高次成分電力を用いて収縮期血圧を測定することができる。
これにより、非接触・非侵襲・着衣下で手軽に日常的なバイタル測定を行うことができ、健康状態を把握する他、病気の予兆を発見する手段としても有効である。
以上に本実施の形態の一例について説明したが、各種の実施例や変形例が可能である。
例えば、血圧測定装置40は、MIMOを使用したが、一つの送信アンテナ23に対して複数の受信アンテナ25を用いるSIMO(Single Input Multiple Output)や、一対の送信アンテナ23と受信アンテナ25を用いるSISO(Single Input Single Output)を採用することも可能である。
血圧測定装置40は、脈波の波形から収縮期血圧を測定できるため、脈波が得られる測定器なら接触式であろうと侵襲式であろうと上記のアルゴリズム(8次高調波のレベルを検出し、上記の相関関係を用いて収縮期血圧を測定する)を利用することができる。
また、本実施の形態では、電磁波としてマイクロ波を用いたが、例えば、レーザ、可視光など他の周波数帯域の電磁波を用いることも可能である。
更に、本実施の形態では、生体に照射したマイクロ波の反射応答から脈波を検出し、その脈波の周波数成分分解を行ったが、脈波の基本周波数の高次成分電力に加えて、個人特性値(年齢等)を加味して収縮期血圧を測定することも可能である。
1 実験装置
2 マイクロ波回路
3 制御装置
4 処理装置
5 血圧センサ
7 被験者
21 発信器(Osc)
22 トランスミッタ(Tx)
23 送信アンテナ
24 レシーバ(Rx)
25 受信アンテナ
26 ミキサ(Mix)
27 フィルタ(Filter)
31 脈波
33 成分
40 血圧測定装置
41 CPU
42 ROM
43 RAM
44 インターフェース
45 入力装置
46 出力装置
47 記憶装置

Claims (8)

  1. 生体から脈波を取得する脈波取得手段と、
    前記取得した脈波の周波数成分を取得する周波数成分取得手段と、
    前記取得した周波数成分のうち、前記脈波による基本周波数の高域側の、前記脈波の周波数成分と血圧の相関が所定以上となる所定範囲の帯域における周波数成分を用いて前記生体の血圧を測定する血圧測定手段と、
    を具備したことを特徴とする血圧測定装置。
  2. 前記血圧測定手段は、前記所定範囲の帯域における前記基本周波数の高調波の成分を用いて前記血圧を測定することを特徴とする請求項1に記載の血圧測定装置。
  3. 前記脈波取得手段は、前記生体の体表面から非接触で前記脈波を取得することを特徴とする請求項1、又は請求項2に記載の血圧測定装置。
  4. 前記脈波取得手段は、所定の周波数の電磁波を前記生体に照射し、その反射波を用いて前記脈波を取得することを特徴とする請求項3に記載の血圧測定装置。
  5. 前記測定した血圧の変化に応じた報知を行う報知手段を具備したことを特徴とする請求項4に記載の血圧測定装置。
  6. 車両の運転者の血圧を測定する請求項5に記載の血圧測定装置を具備したことを特徴とする車両装置。
  7. 前記運転者に対して前記電磁波の照射を行い、その反射波を受信するアンテナを運転席の背もたれ部分に具備したことを特徴とする請求項6に記載の車両装置。
  8. 生体から脈波を取得する脈波取得機能と、
    前記取得した脈波の周波数成分を取得する周波数成分取得機能と、
    前記取得した周波数成分のうち、前記脈波による基本周波数の高域側の、前記脈波の周波数成分と血圧の相関が所定以上となる所定範囲の帯域における周波数成分を用いて前記生体の血圧を測定する血圧測定機能と、
    をコンピュータで実現する血圧測定プログラム。
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