JP7162897B2 - 融合タンパク質 - Google Patents

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Description

本発明は細胞内環境で発現する抗原結合性の機能を有する融合タンパク質に関する。
細胞内で機能する抗体すなわちイントラボディ(細胞内抗体)は、高等生物の細胞内で抗原(標的分子)を認識して結合することで細胞の機能に影響を及ぼすことができる。これらの抗原は、細胞内抗体に結合することにより不活化され得る重要な細胞内治療標的にもなり得る。また、研究手法として、細胞内抗体の使用は細胞の内部で抗体に結合することにより直接タンパク質の機能を特異的に阻害するための手段として着目されている。
細胞内抗体の場合、まず標準的な方法で抗原を認識するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作成した後、そのcDNAから一本鎖抗体(single chain Fv:scFv)をコードするDNAを含む細胞内発現ベクターを構築し、重鎖(VH)と軽鎖(VL)との複合体を細胞内抗体とすることが一般的である。
抗体は通常、血液等の体内の細胞外空間を巡回して細胞外抗原を認識して機能するものであり、細胞外環境での作用が前提である。従って、抗体が細胞質で発現される場合、発現レベルの低下および抗体ドメインの半減期の制限に至るフォールディングおよび安定性の問題が生じるため、どのような抗体でも細胞内抗体として機能すると期待できるものではない。また、scFvは、その重鎖と軽鎖とをフレキシブルなペプチドリンカーで繋いだものであるから、その立体構造は必ずしもオリジナルの抗体ほどに安定ではない。加えて、試験管内で機能するscFvを同定したとしても、試験管内は細胞内部の環境を反映していない部分が多いため、細胞内でscFvを発現させた場合に期待通りの機能を発揮できるとも限らない。
従って、細胞内抗体として機能する抗体のスクリーニングするため、これまでに細胞質条件に耐える抗体の規則性または予測のための手法が検討されてきた。これらの方法は、細胞内でも機能し得る抗体の選定方法であるが、実際に細胞内で安定な抗体を得ることが困難であり、既存の抗体や新しく単離した抗体を細胞内抗体として利用する技術は確立されていない。
国際公開第03/014960号
本発明は、任意の抗原結合性ペプチドを、細胞内で安定して機能する細胞内抗体として利用する技術を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、ペプチドタグを融合させた抗原結合性ペプチドを細胞内で発現させた際に、当該ペプチドタグによる抗原結合性ペプチドの正味の電荷および等電点(pI)の値の変化によって細胞内抗体としての機能の安定性が変動することを見出した。特に、細胞質のpH環境よりもエンドソームの細胞質側表面のpH環境を基準として電荷値とpI値が十分に低くなるようペプチドタグを設計することで、当該ペプチドタグを融合させた抗原結合性ペプチドが細胞内抗体として細胞内で安定して機能させることに成功した。
本発明者らは、上記知見に基づき更に検討を加え、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は下記の通りである:
1)細胞内安定化ペプチドと、抗原結合性ペプチドとを含む融合タンパク質であって、
上記細胞内安定化ペプチドは、10~39個のアミノ酸からなり、かつ、当該アミノ酸の少なくとも45%が酸性アミノ酸であり、
上記抗原結合性ペプチドは、重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む、
融合タンパク質。
2)上記細胞内安定化ペプチドは、上記アミノ酸の28%以下が塩基性アミノ酸であるか、塩基性アミノ酸を含まない、1)に記載の融合タンパク質。
3)上記細胞内安定化ペプチドは、上記塩基性アミノ酸を含まない、2)に記載の融合タンパク質。
4)上記細胞内安定化ペプチドは、上記塩基性アミノ酸として少なくとも1個のヒスチジンを含む、2)に記載の融合タンパク質。
5)上記細胞内安定化ペプチドは、14~25個のアミノ酸からなり、当該アミノ酸の少なくとも50%が酸性アミノ酸であり、
上記細胞内安定化ペプチドにおいて、上記酸性アミノ酸が8個以上連続した部分、および、酸性アミノ酸以外のアミノ酸が4個以上連続した部分が存在しない、1)~4)の何れか1つに記載の融合タンパク質。
6)上記細胞内安定化ペプチドにおいて、上記酸性アミノ酸が3個以上連続した部分、および、酸性アミノ酸以外のアミノ酸が3個以上連続した部分が存在しない、5)に記載の融合タンパク質。
7)上記細胞内安定化ペプチドは、上記酸性アミノ酸をX、酸性アミノ酸以外のアミノ酸をXとしたときに、
以下のアミノ酸配列(1)または(2):
-X-X-X-X-X-(XまたはX)-X-X-(XまたはX)-X-(XまたはX)-X- ・・・・・・(1)、
-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X- ・・・・・・(2)、
を含んでなる、1)~6)の何れか1つに記載の融合タンパク質。
8)Xはアスパラギン酸またはグルタミン酸であり、Xはアスパラギン、グルタミン、プロリン、チロシンおよびバリンからなる群より選択される何れかのアミノ酸である、7)に記載の融合タンパク質。
9)上記1)~8)の何れか1つに記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
10)上記9)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
11)細胞内において抗原結合性ペプチドを発現させる細胞を製造する方法であって、9)に記載のポリヌクレオチドまたは10)に記載の発現ベクターを細胞に導入する工程を含む、製造方法。
12)上記1)~8)の何れか1つに記載の融合タンパク質を発現する細胞。
図1は、scFv-A36の発現および結合能の評価した結果を示す図である。 図2は、scFv-A36のVH領域のCDRのアミノ酸配列情報を示す図である。 図3は、scFv-GFPA36およびscFv-GFPM4の培養神経細胞内の発現と標的分子の機能阻害活性について評価した結果を示す図である。 図4は、scFv-GFPA36がマウス脳神経の細胞内において凝集を形成することを確認した図である。 図5は、scFv-A36およびscFv-M4のpIおよび正味の電荷並びに細胞内の凝集性を評価した結果を示す図である。 図6は、scFv-A36タンパク質配列を用いたNCBI blast検索により得られた他の94種類のscFvタンパク質配列を用いて、s3FlagおよびHAペプチドタグの付加による低pH環境下での細胞内抗体の正味の負電荷の増加効果の一般性について調べた結果を示す図である。 図7は、s3Flag-scFvA-36-HA構築物の生化学的な性質を調べた結果を示す図である。 図8は、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAに関して、マウス脳の神経の細胞内における発現を調べた結果を示す図である。 図9は、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAの黒質領域における発現パターンを調べた図である。 図10は、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAの両方における、ドーパミン神経での長期間(6ヶ月)の発現について観察した図である。 図11は、ドーパミン神経において、in vivoでs3Flag-scFv-A36-HAがSyt Iに対し機能活性を有することを調べた結果を示す図である。 図12は、s3Flag-scFv-A36-HAを発現しているマウスおよびs3Flag-scFv-M4-HAを発現しているマウスの運動行動テストおよび免疫組織染色の結果を示す図である。 図13は、STAND-Y13-259の発現および抗腫瘍活性について調べた結果を示す図である。 図14は、DE2.0-Y13-259-HAの発現および抗腫瘍活性について調べた結果を示す図である。 図15は、scFv‐6Eとタグとの融合によってscFv‐6Eの正味の負電荷が変化することを調べた結果を示す図である。 図16は、STAND-6E‐LYS、及びDE5.0‐6Eの細胞内での発現を観察した結果を示す図である。 図17は、α-synuclein凝集アッセイの結果を示す図である。 図18は、α-synuclein凝集化を評価した結果を示す図である。
<0.定義>
(ペプチド)
本明細書において、「ペプチド」は、「ポリペプチド」または「タンパク質」とも換言し得る。「ペプチド」は、アミノ酸がペプチド結合してなる構造を含むが、さらに、例えば、糖鎖、またはイソプレノイド基などの構造を含んでいてもよい。「ペプチド」は、特に明記しない場合は、天然に存在するアミノ酸と同様に機能することができる、天然に存在するアミノ酸の既知の類似体を含有するペプチドを包含する。
(酸性アミノ酸)
本明細書において、「酸性アミノ酸」とはその等電点が3.99以下のアミノ酸を指す。アミノ酸は天然に存在するものであっても、天然に存在するアミノ酸の類似体であってもよい。天然に存在する酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸とグルタミン酸とが挙げられる。
(塩基性アミノ酸)
本明細書において、「塩基性アミノ酸」とはその等電点が7.40以上のアミノ酸を指す。アミノ酸は天然に存在するものであっても、天然に存在するアミノ酸の類似体であってもよい。天然に存在する塩基性アミノ酸としては、ヒスチジン、リジン、およびアルギニンが挙げられる。
(酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸以外のアミノ酸)
本明細書において、アミノ酸自体のpHに着目した場合に、上記の酸性アミノ酸の定義にも、塩基性アミノ酸の定義にも当てはまらないアミノ酸を、「酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸以外のアミノ酸」または「略中性アミノ酸」と総称する。すなわち、これらのアミノ酸の等電点は3.99を超え7.40未満である。アミノ酸は天然に存在するものであっても、天然に存在するアミノ酸の類似体であってもよい。
(Aおよび/またはB)
本明細書において、「Aおよび/またはB」は、AおよびBとAまたはBとの双方を含む概念であり、「AおよびBの少なくとも一方」とも換言できる。
<1.融合タンパク質>
本発明の融合タンパク質は、細胞内安定化ペプチドと、抗原結合性ペプチドとを含む融合タンパク質であって、
上記細胞内安定化ペプチドは、10~39個のアミノ酸からなり、かつ、当該アミノ酸の少なくとも45%が酸性アミノ酸であり、
上記抗原結合性ペプチドは、重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。
本発明の融合タンパク質は、任意の細胞において発現させることで細胞内抗体としての機能を有する。
〔細胞内安定化ペプチド〕
(ペプチドの長さと酸性アミノ酸の含有)
細胞内安定化ペプチドは、構成されるアミノ酸数は特に限定されないが、好ましくは50個までのアミノ酸からなるペプチドであり、より好ましくは10~39個のアミノ酸からなるペプチドである。ここで、細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸の少なくとも45%が、酸性アミノ酸である。
細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める酸性アミノ酸の割合は特に限定されないが、50%以上であることが好ましい。細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める酸性アミノ酸の割合は、例えば、53%以上または55%以上であってもよく、60%以上であることが好ましい場合があり、65%以上または70%以上であることが好ましい場合がある。酸性アミノ酸の割合が高まると、一般に、当該酸性アミノ酸を含んでなるポリペプチドの等電点は低下する。
細胞内安定化ペプチドを構成する酸性アミノ酸の個数は、細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める酸性アミノ酸の上記割合の何れかを満たす限りにおいて特に限定されないが、例えば、6個または7個以上であり、8個または9個以上であることが好ましく、10個またはそれ以上であることがより好ましく、11個またはそれ以上であることがさらに好ましく、12個またはそれ以上であることが特に好ましい。
細胞内安定化ペプチドを構成する酸性アミノ酸は、アスパラギン酸およびグルタミン酸からなる群から選択されることが好ましい。
融合タンパク質における細胞内安定化ペプチドの寄与を高めるという観点からは、細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸の数は、14個またはそれ以上であることが好ましく、15個またはそれ以上であることがより好ましく、18個またはそれ以上であることがさらに好ましく、20個またはそれ以上であることが特に好ましい。また、融合タンパク質のサイズを抑制する観点からは、細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸の数は、35個以下であることが好ましく、30個以下であることがより好ましく、25個以下であることがさらに好ましい。なお、細胞内安定化ペプチドの長さ(構成するアミノ酸の個数)が9アミノ酸以下となれば、融合タンパク質における細胞内安定化ペプチドの寄与の観点で不十分となる場合がある。細胞安定化ペプチドを認識する抗体を作製する等、必要に応じて所望される細胞内安定化ペプチドの特異抗原性の観点でも不十分となる場合がある。また、細胞内安定化ペプチドの長さが40アミノ酸以上となれば、融合タンパク質のサイズが必要以上に大きくなり、後述する抗原結合性ペプチドによる抗原認識において立体障害となり得る。ただし、細胞内安定化ペプチドと抗原結合性ペプチドの間に、抗原認識の妨げにならないようリンカーとなるペプチドを連結した場合には、40アミノ酸以上の細胞内安定化ペプチドも使用することができる。その場合には複数の細胞内安定化ペプチド(同じ細胞内安定化ペプチドが複数もあってもよく、異なる細胞内安定化ペプチドの組み合わせであってもよい)を、それぞれの細胞内安定化ペプチドの間にスペーサーを介して連結することで使用することもできる。
(塩基性アミノ酸を含有する場合)
細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める塩基性アミノ酸の割合は特に限定されないが、28%以下であることが好ましく、27%以下または26.5%以下であることがより好ましく、25%以下、20%以下、15%以下、または10%以下であることがさらに好ましく、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下または3%以下であることが特に好ましい。特に好ましい一形態では、細胞内安定化ペプチドは、塩基性アミノ酸を含まない。
細胞内安定化ペプチドを構成する塩基性アミノ酸の個数の好ましい範囲は、細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める塩基性アミノ酸の上記割合の何れかを満たす限りにおいて特に限定されないが、例えば、6個以下であり、5個または4個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましく、2個以下であることがさらに好ましく、1個以下であることが特に好ましい。
細胞内安定化ペプチドが塩基性アミノ酸を含む場合において、当該塩基性アミノ酸はリジンおよびヒスチジンからなる群から選択されることが好ましく、当該塩基性アミノ酸として少なくとも1個のヒスチジンを含むことがより好ましい。ヒスチジンは天然に存在する塩基性アミノ酸の中で最も等電点が低いという特性を有する。細胞内安定化ペプチドが複数の塩基性アミノ酸を含む場合において、当該塩基性アミノ酸に占めるヒスチジンの割合は30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、100%であることが特に好ましい。細胞内安定化ペプチドに含まれるヒスチジンの個数は、例えば、6個、5個、4個、3個、2個または1個である。
(酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸以外のアミノ酸)
細胞内安定化ペプチドは、上記の酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸以外のアミノ酸(「略中性アミノ酸」と総称する)を含んでいてもよい。
細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める略中性アミノ酸の割合は55%以下であり、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましい。細胞内安定化ペプチドが略中性アミノ酸を含む場合、当該ペプチドを構成する全アミノ酸に占める略中性アミノ酸の割合の下限は特に限定されないが、一態様において、15%以上であり、20%以上であり、または、25%以上である。
細胞内安定化ペプチドの抗原としての特性を考慮する場合、細胞内安定化ペプチドを構成する全アミノ酸に占める疎水性アミノ酸(すなわち、極性の無い略中性アミノ酸)の割合は25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、15%以下であることがさらに好ましい。しかし、細胞内安定化ペプチドにおける親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸とのバランスを考慮した場合に、前記の疎水性アミノ酸の割合を満たすことを前提として、疎水性アミノ酸が1個以上含まれることが好ましい場合もある。細胞内安定化ペプチドが疎水性アミノ酸を含んでいる場合、その個数は、例えば、1個、2個、3個、または4個である。なお、疎水性アミノ酸同士の連続は3個までが好ましい場合があり、2個までがより好ましい場合がある。
細胞内安定化ペプチドが天然に存在する略中性アミノ酸を含む場合において、当該略中性アミノ酸は、アスパラギン、フェニルアラニン(疎水性アミノ酸)、グルタミン、チロシン、セリン、メチオニン(疎水性アミノ酸)、トリプトファン(疎水性アミノ酸)、バリン(疎水性アミノ酸)、グリシン(疎水性アミノ酸)、ロイシン(疎水性アミノ酸)、イソロイシン(疎水性アミノ酸)、およびプロリン(疎水性アミノ酸)からなる群より選択されることが好ましく、アスパラギン、グルタミン、チロシン、メチオニン、バリン、グリシン、ロイシン、イソロイシン、およびプロリンからなる群より選択されることがより好ましく、アスパラギン、グルタミン、チロシン、バリン、およびプロリンからなる群から選択されることがさらに好ましい。ある態様では、細胞内安定化ペプチドはプロリンを少なくとも1個(好ましくは1個または2個)と、アスパラギン、グルタミンおよびチロシンから選択されるアミノ酸を少なくとも1個(好ましくは8個以下であり、7個、6個、5個、4個、3個、または2個である)と、プロリン以外の疎水性アミノ酸を少なくとも1個(好ましくは1個または2個)とを含んでいる。
なお、好ましい略中性アミノ酸の種類およびその配置は、例えば、形成される細胞内安定化ペプチドの安定性(酸化や加水分解等への耐性)、分子内S-S結合の形成の有無、分子内水素結合の形成の有無、不所望なモチーフの形成の有無等を考慮して決定すればよい。
(等電点)
細胞内安定化ペプチドの等電点は、当該細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸の種類から算出することができる。細胞内安定化ペプチドの等電点の算出は、例えば、Protein Caluculator(https://protcalc.sourceforge.net)等の記載に従って行うことができる。
(細胞内安定化ペプチドのより具体的な例示)
以下、細胞内安定化ペプチドのより具体的な例示について説明を行う。なお、以下の説明において、Xとは酸性アミノ酸を指し、Xとは酸性アミノ酸でないアミノ酸、すなわち、上記した塩基性アミノ酸と略中性アミノ酸とを指す。
なお、ここで具体的に例示する細胞内安定化ペプチドには、〔細胞内安定化ペプチド〕欄で記載した事項の全てを当てはめることができる。例えば、Xには上記酸性アミノ酸として記載した事項の全てが当てはまり、Xには上記塩基性アミノ酸と略中性アミノ酸として記載した事項の全てが当てはまる。また、細胞内安定化ペプチドの長さ等も上記した事項の全てを当てはめることができる。具体的には、例えば、ここで例示する細胞内安定化ペプチドは、上記アミノ酸の28%以下が塩基性アミノ酸であるか、塩基性アミノ酸を含まない(すなわち全てのXが略中性アミノ酸である)ものであってもよい。また、上記細胞内安定化ペプチドは、塩基性アミノ酸として少なくとも1個のヒスチジンを含むものであってもよい。
(1)第一の態様
以下に箇条書きをした条件を全て満たす細胞内安定化ペプチド。
・細胞内安定化ペプチドは、10~39個のアミノ酸からなり、14~25個のアミノ酸からなることが好ましい。
・細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸の少なくとも45%が酸性アミノ酸であり、少なくとも50%が酸性アミノ酸であることが好ましい。
・細胞内安定化ペプチドにおいて、Xが8個以上連続した部分、および、Xが4個以上連続した部分が存在しない。すなわち、細胞内安定化ペプチドにおいて、Xの連続は7個までであり、Xの連続は3個までである。
(2)第二の態様
上記の第一の態様の条件を満たし、かつ、以下に箇条書きをした条件を満たす細胞内安定化ペプチド。
・細胞内安定化ペプチドにおいて、Xが6個以上連続した部分、および、Xが4個以上連続した部分が存在しない。すなわち、細胞内安定化ペプチドにおいて、Xの連続は5個までであり、Xの連続は3個までである。
(3)第三の態様
上記の第一の態様の条件を満たし、かつ、以下に箇条書きをした条件を満たす細胞内安定化ペプチド。
・細胞内安定化ペプチドにおいて、Xが6個以上連続した部分、および、Xが3個以上連続した部分が存在しない。すなわち、細胞内安定化ペプチドにおいて、Xの連続は5個までであり、Xの連続は2個までである。
(4)第四の態様
上記の第一の態様の条件を満たし、かつ、以下に箇条書きをした条件を満たす細胞内安定化ペプチド。
・細胞内安定化ペプチドにおいて、Xが3個以上連続した部分、および、Xが3個以上連続した部分が存在しない。すなわち、細胞内安定化ペプチドにおいて、Xの連続は2個までであり、Xの連続は2個までである。
(5)第五の態様
以下に箇条書きをした条件を全て満たす細胞内安定化ペプチド。なお、第五の態様は、第一~第四の態様の何れかに当てはまるものであっても、当てはまらないものであってもよい。
・細胞内安定化ペプチドは、10~39個のアミノ酸からなり、14~25個のアミノ酸からなることが好ましい。
・細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸の少なくとも45%が酸性アミノ酸であり、少なくとも50%が酸性アミノ酸であることが好ましい。
・以下に示すアミノ酸配列:
-X-X-X-X-X-(XまたはX)-X-X-(XまたはX)-X-(XまたはX)-X-・・・・・(1)
を含んでいる。
(6)第六の態様
上記の第五の態様の条件を満たし、第五の態様で示したアミノ酸配列(1)の左側にさらに3個~7個のXまたはXを有し、右側にさらに0個~6個のXまたはXを有する。
(7)第七の態様
以下に箇条書きをした条件を全て満たす細胞内安定化ペプチド。なお、第七の態様は、第一~第四の態様の何れかに当てはまるものであっても、当てはまらないものであってもよい。
・細胞内安定化ペプチドは、10~39個のアミノ酸からなり、14~25個のアミノ酸からなることが好ましい。
・細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸の少なくとも45%が酸性アミノ酸であり、少なくとも50%が酸性アミノ酸であることが好ましい。
・以下に示すアミノ酸配列:
-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-X-・・・・・・・(2)
を含んでいる。
(8)第八の態様
上記の第七の態様の条件を満たし、第七の態様で示したアミノ酸配列(2)の左側にさらに0個~9個のXまたはXを有し、右側にさらに0個~9個のXまたはXを有する。但し、アミノ酸配列(2)の左側と右側とにあるアミノ酸の個数の合計は10個以下であることが好ましく、9個以下であることがより好ましく、6個または5個以下であることがさらに好ましい場合がある。
(9)第九の態様
上記第一~第八の態様の何れかに当てはまるものであって、Xはアスパラギン酸、またはグルタミン酸であり、Xはアスパラギン、グルタミン、プロリン、チロシン、およびバリンからなる群より選択される何れかのアミノ酸である。
(10)第十の態様
上記第五~第六の態様の何れかに当てはまるものであって、Xはアスパラギン酸、またはグルタミン酸であり、Xのうちアミノ酸配列(1)の左側から2~6番目(好ましくは2~4番目、より好ましくは2~3番目)のXの一つまたはそれ以上がプロリンであり、プロリンでないXは、アスパラギン、グルタミン、チロシン、およびバリンからなる群より選択される何れかのアミノ酸である。例えば、アミノ酸配列(1)の左側から2~3番目のXの一つがプロリンであり、アミノ酸配列(1)に含まれるその他のXが、アスパラギン、グルタミン、バリン、およびチロシンからなる群より選択される何れかのアミノ酸であるもの。さらには例えば、アミノ酸配列(1)の左側から2~3番目のXの一つがプロリンであり、アミノ酸配列(1)に含まれるその他のXが、アスパラギン、グルタミン、およびチロシンからなる群より選択される何れかのアミノ酸であるもの。
(11)第十一の態様
上記第七~第八の態様の何れかに当てはまるものであって、Xはアスパラギン酸、またはグルタミン酸であり、Xのうちアミノ酸配列(2)の左側から3~6番目(好ましくは3~5番目、より好ましくは4~5番目)のXの一つまたはそれ以上がプロリンであり、プロリンでないXは、アスパラギン、グルタミン、チロシン、およびバリンからなる群より選択される何れかのアミノ酸である。例えば、アミノ酸配列(2)の左側から4~5番目のXの一つがプロリン、Xの他の一つがバリンであり、アミノ酸配列(2)に含まれるその他のXが、アスパラギン、グルタミン、およびチロシンからなる群より選択される何れかのアミノ酸であるもの。
(12)第十二の態様
細胞内安定化ペプチドは、以下のアミノ酸配列の何れかからなる。
MDYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDK(配列番号1);
EEDQDDEDDEDQDD(配列番号2);
NDEYEDPDEQDDEND(配列番号3);
QDEVDEPEDEEDNDD(配列番号4);
QDEVDEPEDEDENDD(配列番号5);
QDEVDEPEDEDENQD(配列番号6);
QDNVDEPEDNDENQD(配列番号7);
QDNYDEPEDNDENQD(配列番号8);
EDNYDEPEDNDENQD(配列番号9);
DNNYDEQDENEQPED(配列番号10);
QENDYDEPEVNDENQD(配列番号11);
DEQENDYDEPEVNDENQD(配列番号12);
DEQENDYDEPEVNDENQDYDE(配列番号13);。
(13)第十三の態様
以下に箇条書きをした条件を全て満たす細胞内安定化ペプチド。
・細胞内安定化ペプチドは、10~39個のアミノ酸からなり、14~25個のアミノ酸からなることが好ましい。
・細胞内安定化ペプチドを構成するアミノ酸のすべてが酸性アミノ酸である。
〔抗原結合性ペプチド〕
(構造)
典型的な抗体構築物ユニットは、テトラマーを含むことが知られている。各々のテトラマーは、同一の2対のポリペプチド鎖から構成され、各々の対が1本の軽鎖(一例では、約25kDa)および1本の重鎖(一例では、約50~70kDa)を有する。各々の鎖のアミノ末端部分は約100アミノ酸以上の可変領域を有し、該可変領域は主に抗原(標的分子)認識の役割を担う。各々の鎖のカルボキシル末端部分は、主にエフェクター機能の役割を担う定常領域を規定する。軽鎖は、カッパまたはラムダの何れかに分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはエプシロンとして分類され、抗体のアイソタイプをそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。軽鎖および重鎖内で、可変領域および可変領域が約12アミノ酸以上のJ領域によって連結されており、重鎖はまた、約10アミノ酸以上のD領域を含む。各々の軽鎖/重鎖対の可変領域は、抗体結合部位を形成する。これらの鎖はすべて、3つの超可変領域(相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる)によって連結される相対的に保存されたフレームワーク領域(FR)の同一の一般構造を示す。各対の2本の鎖由来のCDRをフレームワーク領域によって並べることで、特定のエピトープへの結合を可能とする。
「抗原結合性ペプチド」とは、任意のモノクローナル抗体またはモノクローナル抗体と同様に抗原(標的分子)に対して特異的に結合するペプチドにおいて抗原と結合に寄与するペプチドであって、当該抗体の抗原結合能を有する領域のすべてまたは一部分の領域を有しているものを指す。本発明において「抗原結合性ペプチド」は、例えば、任意のモノクローナル抗体の重鎖CDR1、重鎖CDR2、重鎖CDR3、軽鎖CDR1、軽鎖CDR2、および軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。好ましくは、これらのうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、またはこれら全てを含む。
本発明の抗原結合性ペプチドのもとになるモノクローナル抗体は、天然型抗または遺伝子組換え技術を用いて製造される抗体であってよい。天然型抗体は、特に限定はされないが、ヒト、マウス、ラット、サル、ヤギ、ウサギ、ラクダ、ラマ、ウシおよびニワトリなどを含む、生物種に由来し得る。遺伝子組換え技術を用いて製造される抗体としては、特に限定はされないが、天然型抗体をもとに作製される合成抗体、組換え抗体、および変異導入抗体等が挙げられる。既に遺伝子組換え技術を用いて製造された抗体に対して、上述のように天然型抗体を遺伝子改変する場合と同様の改変を施した抗体も含まれる。本発明の抗原結合性ペプチドは、これらの抗体を由来とするF(ab’)、F(ab’)、Fab’、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、scFv、dsFv(disulphide stabilized Fv)、dAb(single domain antibody)、ダイアボディ、ミニボディまたはVHHの全長またはその一部を含むペプチドである。「モノクローナル抗体と同様に抗原に対して特異的に結合するペプチド」としては、抗原への結合特異性が高いペプチドアプタマー、標的分子との結合特異性を持つ生体由来のタンパク質(例えばフィブロネクチン)の結合ドメインなどが挙げられる。
〔さらなる機能ペプチド〕
本発明の融合タンパク質は、細胞内安定化ペプチドおよび抗原結合性ペプチド以外の機能ペプチドを1つ以上さらに含んでいてもよい。そのような機能ペプチドとしては、精製タグペプチド、検出用ペプチド、分解促進ペプチド(例えばHSC70結合ペプチド、XIAP RINGドメインペプチド)、Neh2ドメインペプチド(Nrf2由来のペプチド)、酸素依存性分解ドメイン(Hif1α由来のペプチド)等のストレス応答性分解ペプチド、及び、薬剤結合性ペプチド等が挙げられる。
精製タグペプチドとしては、特に限定されないが、HAタグ配列(YPYDVPDYA(配列番号14))、PAタグ配列(GVAMPGAEDDVV(配列番号15))、などの酸性アミノ酸を15%以上含む精製タグペプチドが挙げられる。酸性アミノ酸を15%以上含むタグ配列を含むことにより、低いpHにおいても、融合タンパク質の負電荷をより増加させる。精製タグペプチドは、酸性アミノ酸を20%以上含むことがより好ましい。
検出用ペプチドとしては、特に限定されないが、例えば、蛍光タンパク質、反応により光の放出や色の変化を生じる酵素等が挙げられる。蛍光タンパク質としては、BFP、EBFP、CFP、ECFP、Cypet、AmCyan1、GFP、EGFP,YFP、Venus、mKO、mOrange、RFP、DsRed、tdTomato、mcherry、mStrawberry、Azalea、mPlum、mAG、Kaede、Dronpa、Keima、KikG、KikGR、UnaG等が挙げられるが、これらに限定されない。反応により光の放出や色の変化を生じる酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコ-ス-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼ等などが挙げられるが、これらに限定されない。
〔融合タンパク質の構造〕
「融合タンパク質」とは、共有結合によって、直接またはリンカーを介して連結された少なくとも2種の異種ペプチドを有するタンパク質を指す。リンカーは、特に限定されないが、好ましくは、柔軟性を与えるために、例えば、グリシン、アラニン、およびセリンなどの低分子側鎖を有するアミノ酸を主に含有する。好ましくは、リンカー配列の80%、90%、またはそれ以上がグリシン残基、アラニン残基、またはセリン残基を含み、特にグリシン残基またはセリン残基を含有する。
融合タンパク質に含まれる細胞内安定化ペプチドおよび抗原結合性ペプチドの連結の順序は任意である。融合タンパク質のN末端側から、細胞内安定化ペプチド-抗原結合性ペプチドの順、または抗原結合性ペプチド-細胞内安定化ペプチドの順に配置されてよい。また、融合タンパク質のN末端-C末端の向きに対して、細胞内安定化ペプチドおよび/または抗原結合性ペプチド自体のN末端-C末端の向きが逆になるように配置されてもよい。また、抗原結合性ペプチドの両端に複数の細胞内安定化ペプチド(同じ細胞内安定化ペプチドが複数もあってもよく、異なる細胞内安定化ペプチドの組み合わせであってもよい)が配置されていてもよい。
さらなる機能ペプチドの配置も任意である。機能ペプチドが酸性アミノ酸を15%以上含む精製タグペプチドの場合、抗原結合性ペプチドを細胞内安定化ペプチドと挟む位置(細胞内安定化ペプチド-抗原結合性ペプチド-精製タグペプチド、または、精製タグペプチド-抗原結合性ペプチド-細胞内安定化ペプチド)に配置されていることが好ましい。このように配置することにより、融合タンパク質の全体的な電荷の位置的なバランスが取れる。そのため、細胞内において融合タンパク質をより安定に維持することができる。検出用ペプチドの配置も任意であるが、検出感度の観点から、融合タンパク質の最もN末端側または最もC末端側に位置することが好ましい。
また、抗原結合性ペプチドのN末端側とC末端側との両方に、同一のまたは異なる細胞内安定化ペプチドが連結されていてもよい。この場合、より低いpHにおいても、融合タンパク質の負電荷が多くなるため、細胞内における凝集をより防ぐことができる。
本発明の融合タンパク質は、細胞内安定化ペプチドを含むことにより、等電点が、抗原結合性ペプチド単独で存在する場合よりも低下する。そのため、細胞内において、抗原結合性ペプチド単独で発現させた場合よりも凝集が抑制されて、安定的に細胞内抗体として機能し得る。
本発明の融合タンパク質は、一例において、pH7.4における正味の電荷が負であることが好ましく、pH6.6における正味の電荷が負であることがより好ましく、pH6.0における正味の電荷が負であることがより好ましく、pH5.0における正味の電荷が負であることがさらに好ましい。
「融合タンパク質」を構成するアミノ酸の数は特に限定されないが、例えば、1000個以下であり、600個以下であることが好ましく、550個以下であることがより好ましい。「融合タンパク質」を構成するアミノ酸の数は、例えば100個以上であり、250個以上であり、または、300個以上である。
<2.ポリヌクレオチド>
本発明のポリヌクレオチドは、本発明の融合タンパク質をコードする。「ポリヌクレオチド」は、DNA分子、RNA分子、およびDNAとRNAとのハイブリッド分子の何れであってもよい。また、「ポリヌクレオチド」は、一本鎖であってもよいし、二本鎖であってもよい。
本発明のポリヌクレオチドは、公知の遺伝子工学的手法または化学合成方法等によって調製され得る。本発明のポリヌクレオチドの具体的な塩基配列は、目的とする融合タンパク質のアミノ酸配列から、例えばコドン表を参照して、当業者は容易に設計することができる。
また、必要に応じて、プロモーター(SV40プロモーター、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター、CMVプロモーターなど)、エンハンサー、リボソーム結合部位、スプライスシグナル、およびターミネーター等の調節性配列、並びに選択マーカー配列等を含んでいてもよい。
また、必要に応じて、核やミトコンドリア、小胞体や形質膜直下に局在させるようなシグナルペプチド配列を付加することで、本発明の融合タンパク質の局在化により細胞内抗体として機能する細胞内の場所を制御することが可能である。
本発明のポリヌクレオチドは、ベクターに組み込まれ得る。「ベクター」とは、所望のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入し、宿主細胞において発現させるためのビヒクルを指す。ベクターとしては、ウイルスベクター、並びに、プラスミドベクター、バクテリアベクター、ファージベクター、ファージミドベクター、およびコスミドベクター等の非ウイルスベクター系のベクターが挙げられる。ウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス(RSV、MMTV、およびMOMLVなど)、レンチウイルス、センダイウイルス、単純ヘルペスウイルスなどが挙げられる。インビボにおいて本発明のポリヌクレオチドを細胞へ導入する場合には、ウイルスベクターを用いることが好ましい。インビトロにおいて本発明のポリヌクレオチドを細胞へ導入する場合には、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクター系のベクターの何れを用いてもよい。
ベクターは、発現されるDNAの他に、例えば、プロモーター(SV40プロモーター、MMTV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター、CMVプロモーターなど)、エンハンサー、リボソーム結合部位、スプライスシグナル、およびターミネーター等の調節性配列、並びに必要に応じて選択マーカー配列(アンピシリン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ストレプトマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子など)等を含んでいてもよい。プロモーターは恒常的なものであってもよいし、誘導性のものであってもよい。
発現ベクターの構築は、例えば、公知の遺伝子工学的手法を用いて行うことができる。
<3.利用方法>
〔薬学的用途〕
(薬学的組成物)
本発明はまた、上述の融合タンパク質、ポリヌクレオチドまたはベクターを含む薬学的組成物を提供する。
本発明の薬学的組成物は、上述の融合タンパク質、ポリヌクレオチドまたはベクター以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。当該他の成分は特に限定されないが、例えば、薬学的に許容される担体、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧調整用の塩類、緩衝剤、安定剤、保存剤、賦形剤、抗酸化剤、粘度調整剤、着色剤、香味料、および甘味料等が挙げられる。薬学的組成物が水溶液として形成される場合、純水(滅菌水)、生理食塩液、またはリン酸緩衝生理食塩液等を担体として使用し得る。薬学的組成物が他の適切な溶液として形成される場合、生体内に導入されることができる有機エステル、例えばグリコール、グリセロール、またはオリーブ油等を担体として使用し得る。
薬学的組成物は、使用説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサー等に収容されてもよい。
(疾患の治療および予防への利用)
上述の薬学的組成物は、例えば、抗原が関連する疾患を治療および/または予防するために用いることができる。
本発明の薬学的組成物の一態様としては、本発明のポリヌクレオチドまたはベクターを対象の細胞に導入し、対象の細胞内で本発明の融合タンパク質を発現させて、抗原結合性ペプチドにより疾患に関連する抗原の機能を制御し(すなわち、抑制または活性化する。好ましくは抑制する)、疾患を治療および/または予防する。
本発明の薬学的組成物の別態様としては、細胞外環境から細胞内へと抗体を運ぶための機構を利用することで、標的とする細胞内に本発明の融合タンパク質が侵入して細胞内抗体として機能し、疾患を治療および/または予防することができる。
本発明の薬学的組成物の別態様としては、細胞外環境から細胞内に移行し再び細胞外環境へと輸送される機構(リサイクル機構)において、標的とする細胞内における本発明の融合タンパク質の安定性を向上させ、細胞内および/または細胞外で抗体として機能させ、疾患を治療および/または予防することができる。
本発明の薬学的組成物の別態様としては、採取された細胞に本発明の融合タンパク質を発現させるように処置させた細胞であり、本発明の融合タンパク質を発現させた当該細胞を対象に投与することで、疾患を治療および/または予防することができる。前記態様において、採取された細胞は、投与対象となる個体から採取された同種同系の細胞(自家細胞)でもよく、投与対象とは異なる個体から採取された異種同系の細胞(他家細胞)でもよい。
いずれの態様においても、本発明の融合タンパク質を細胞内で発現させる際に、特定の細胞小器官に局在するように局在用の移行シグナルを付加してもよい。
「治療」の一側面には、対象となる疾患に関連する少なくとも1つの症状について、軽減若しくは緩和すること、進行を遅延すること、および治癒すること等が包含される。「予防」の一側面には、対象となる疾患に関連する少なくとも1つの症状について発症を防止すること等が包含される。
治療および/または予防の対象となる生物としては、例えば、ヒトおよび非ヒト動物が挙げられ、より具体的には、魚類、鳥類および哺乳類等の脊椎動物が挙げられる。哺乳類としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを除く霊長類等の実験動物;イヌおよびネコ等の愛玩動物(ペット);ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびウマ等の家畜;またはヒトが挙げられる。
治療または予防される疾患としては、例えば、がん、腫瘍、神経系疾患(中枢神経系疾患、抹消神経系疾患)、感染(ウイルス感染、細菌感染等)性疾患、自己免疫疾患またはアレルギー疾患、および炎症性疾患などが挙げられる。
がんまたは腫瘍として、例えば、舌癌、歯肉癌、悪性リンパ腫、悪性黒色腫(メラノーマ)、上顎癌、鼻癌、鼻腔癌、喉頭癌、咽頭癌、神経膠腫、髄膜腫、神経膠腫、神経芽細胞腫、甲状乳頭腺癌、甲状腺濾胞癌、甲状腺髄様癌、原発性肺癌、扁平上皮癌、腺癌、肺胞上皮癌、大細胞性未分化癌、小細胞性未分化癌、カルチノイド、睾丸腫瘍、前立腺癌、乳癌(例えば、乳頭腺癌、面疱癌、粘液癌、髄様癌、小葉癌、硬癌肉腫、転移腫瘍)、乳房ペーシジェット病、乳房肉腫、骨腫瘍、甲状腺癌、胃癌、肝癌、急性骨髄性白血病、急性前髄性白血病、急性骨髄性単球白血病、急性単球性白血病、急性リンパ性白血病、急性未分化性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫(例えば、リンパ肉腫、細網肉腫、ホジキン病など)、多発性骨髄腫、原発性マクログロブリン血症、小児性白血病、食道癌、胃癌、胃・大腸平滑筋肉腫、胃・腸悪性リンパ腫、膵・胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、原発性肝癌(例えば、肝細胞癌、胆管細胞癌など)、肝芽腫、子宮上皮内癌、子宮頸部扁平上皮癌、子宮腺癌、子宮腺扁平上皮癌、子宮体部腺類癌、子宮肉腫、子宮癌肉腫、子宮破壊性奇胎、子宮悪性絨毛上皮腫、子宮悪性黒色腫、卵巣癌、中胚葉性混合腫瘍、腎癌、腎盂移行上皮癌、尿管移行上皮癌、膀胱乳頭癌、膀胱移行上皮癌、尿道扁平上皮癌、尿道腺癌、ウィルムス腫瘍、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、滑液膜肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、ユーイング肉腫、皮膚扁平上皮癌、皮膚基底細胞癌、皮膚ボーエン病、皮膚ページェット病、皮膚悪性黒色腫、悪性中皮癌、転移性腺癌、転移性扁平上皮癌、転移性肉腫、中皮腫(例えば、胸膜中皮腫、腹膜中皮腫、心膜中皮腫など)などが挙げられるが、これらに限定されない。
中枢神経系疾患としては、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、プリオン疾患、前頭側頭痴呆、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄延髄筋萎縮症(SBMAまたはケネディ病)、歯状赤核淡蒼球萎縮症(DRPLA)、脊髄小脳運動失調(例えば、SCA-1~SCA-7)、認知症、統合失調症、鬱病、躁鬱病、神経症、心身症、脳梗塞、多発性硬化症、進行性各上性麻痺、多系統萎縮症、脊髄小脳変性症、小脳変性症、脳代謝異常、脳循環異常、自律神経失調症、中枢神経系が関与する各種内分泌系の異常、睡眠障害、神経症状(悪心、嘔吐、口渇、食欲不振、めまいなど)、運動障害、学習障害などが挙げられるが、これらに限定されない。
感染性疾患としては、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(例、HTLV-I)、肝炎ウイルス(例、A型、B型、C型、D型およびE型肝炎ウイルス)、インフルエンザウイルス、単純ヘルペスウイルス、西ナイル熱ウイルス、ヒトパピローマウィルス、脳炎ウイルス、エボラウイルス等の病原性ウイルスに感染して起こる疾患、クラミジア、ミコバクテリア、レジオネラ等の病原性細菌に感染して起こる疾患、アスペルギルス、カンジダ等の病原性酵母に感染して起こる疾患、マラリア原虫、トリパノソーマ原虫等の病原性原虫に感染して起こる疾患などが挙げられるが、これらに限定されない。
投与経路・方法は特に限定されず、対象とする疾患に応じて適宜選択することができる。患部に直接投与してもよいし、間接的に投与してもよい。また、本発明の融合タンパク質を発現させた細胞を投与することでもよい。一例において、投与経路としては、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内、直腸、動脈内、門脈内、心室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内、肺内および子宮内等の経路が挙げられ、局所投与、遺伝子銃を用いる方法等も挙げられる。
用量および投与回数は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、疾患の具体的な種類等に応じて適宜選択することができる。
〔研究ツールとしての用途〕
(研究用試薬)
本発明はまた、上述のポリヌクレオチドまたはベクターを含む研究用試薬を提供する。研究用試薬は、上述のポリヌクレオチドまたはベクター以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。当該他の成分は、上述の(薬学的組成物)で説明したものを参照可能である。
研究用試薬は、使用説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサー等に収容されてもよい。
(研究ツールとしての利用方法)
本発明の融合タンパク質は、細胞内における抗原(例えば、タンパク質またはポリペプチド等)の機能解析に用いることができる。一例において、機能解析の対象となる抗原に対する抗原結合性ペプチドを本発明の融合タンパク質として細胞内で発現させ、抗原の機能を制御する(好ましくは阻害する)ことにより、抗原の機能解析を行うことができる。
対象となる細胞は、特に限定されない。対象となる細胞としては、例えば、ヒト細胞および非ヒト動物細胞が挙げられ、より具体的には、魚類細胞、鳥類細胞および哺乳類細胞等の脊椎動物細胞が挙げられる。哺乳類細胞としては、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを除く霊長類等の実験動物;イヌおよびネコ等の愛玩動物(ペット);ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジおよびウマ等の家畜;またはヒトの細胞が挙げられる。また、細胞は、培養細胞でもよいし、生体細胞(生体内にある単離されていない細胞)でもよい。細胞の好ましい一例は、ヒトの培養細胞、ヒトの生体細胞、非ヒト病態モデル動物の培養細胞、非ヒト病態モデル動物の生体細胞である。
ウイルスベクターを標的細胞へ導入する場合は、細胞培養液中にウイルスベクターを懸濁する方法が挙げられる。非ウイルスベクター系のベクターを標的細胞へ導入する場合は、例えば、エレクトロポーレーション法、マイクロインジェクション法、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法などの方法で行うことができる。
抗原の機能を阻害した結果の指標としては、細胞、組織、または個体に現れる表現型の変化が挙げられ、これらの指標に基づき抗原の機能解析を行うことができる。細胞の変化の指標としては、細胞の表現型の変化、例えば、産生物質の量的および/または質的変化、増殖活性の変化、細胞数の変化、形態の変化、特性の変化、アポトーシスの誘導等が挙げられる。産生物質としては、分泌タンパク質、表面抗原、細胞内タンパク質、mRNA等を用いることができる。形態の変化としては、突起形成および/または突起の数の変化、偏平度の変化、伸長度/縦横比の変化、細胞の大きさの変化、内部構造の変化、細胞集団としての異形性/均一性、細胞密度の変化等を用いることができる。これらの形態の変化は検鏡下での観察により確認することができる。特性の変化としては、足場依存性、サイトカイン依存応答性、ホルモン依存性、薬剤耐性、細胞運動性、細胞遊走活性、拍動性、細胞内物質の変化等を用いることができる。細胞運動性としては、細胞浸潤活性、細胞遊走活性が挙げられる。また、細胞内物質の変化としては、酵素活性、mRNA量、Ca2+またはcAMP等の細胞内情報伝達物質量、細胞内タンパク質量等を用いることができる。組織系の指標としては、使用する組織に応じた機能変化を検出指標とすることができる。生体系の指標としては、組織重量変化、血液系の変化、例えば血球細胞数の変化、タンパク質量や、酵素活性、電解質量の変化、また、循環器系の変化、例えば、血圧、心拍数の変化等を用いることができる。
これらの検出指標を測定する方法としては、特に制限はなく、吸光、発光、発色、蛍光、放射活性、蛍光偏光度、表面プラズモン共鳴シグナル、時間分解蛍光度、質量、吸収スペクトル、光散乱、蛍光共鳴エネルギー移動等を用いることができる。これらの測定方法は当業者にとっては周知であり、目的に応じて、適宜選択することができる。例えば、吸収スペクトルは一般的に用いられるフォトメータやプレートリーダ等、発光はルミノメータ等、蛍光はフルオロメータ等で測定することができる。質量は、質量分析計を用いて測定することができる。放射活性は、放射線の種類に応じてガンマカウンターなどの測定機器を用いて、蛍光偏光度はBEACON(宝酒造)、表面プラズモン共鳴シグナルはBIACORE、時間分解蛍光、蛍光共鳴エネルギー移動などはARVOなどにより測定できる。さらに、フローサイトメータなども測定に用いることができる。これらの測定方法は、一つの測定方法で2種以上の検出指標を測定しても良く、簡便であれば、2種以上の測定を同時および/または連続して測定することによりさらに多数の検出指標を測定することも可能である。例えば、蛍光と蛍光共鳴エネルギー移動を同時にフルオロメータで測定することができる。
本発明の融合タンパク質は、細胞内における抗原(例えば、タンパク質またはポリペプチド等)の動態観察に用いることもできる。一例において、動態観察の対象となる抗原に対する抗原結合性ペプチドを本発明の融合タンパク質として細胞内で発現させ、抗原と融合タンパク質との反応を検出することにより、抗原の動態観察を行うことができる。抗原の動態観察には、抗原の発現、抗原の局在等を、ある時間において、または経時的に観察することが包含される。
抗原と融合タンパク質との反応の検出は、例えば、融合タンパク質に含まれる検出用ペプチドによる蛍光、発光、発色等を利用して行うことができる。
<4.細胞内において抗原結合性ペプチドを発現させる方法>
本発明はまた、細胞内において抗原結合性ペプチドを発現させる方法を提供する。当該発現方法は、上述のポリヌクレオチド(すなわち、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド)を細胞内において発現させる工程を含む。
発現は、恒常的なものであってもよく、一過性のものでもよい。また、誘導性のものであってもよい。恒常的に発現させる場合には、恒常的な発現を行うプロモーターが融合タンパク質の遺伝子上流に連結したポリヌクレオチドを用いればよい。一過性に発現させる場合には、例えばDNAではなくRNAを細胞に導入して発現させればよい。誘導により発現させる場合には、誘導性のプロモーターが融合タンパク質の遺伝子上流に連結したポリヌクレオチドを用いればよい。そして、抗原結合性ペプチドを発現させる際に、誘導因子(例えば、IPTG等)を細胞に取り込ませればよい。
対象となる細胞としては、<3.利用方法>で列挙された細胞が挙げられる。
本発明の発現方法では、抗原結合性ペプチドを、細胞内安定化ペプチドと融合した状態で(すなわち、融合タンパク質として)発現させる。本発明の融合タンパク質は、細胞内安定化ペプチドを含むことにより、等電点が、抗原結合性ペプチド単独で存在する場合よりも低下する。そのため、細胞内において、抗原結合性ペプチド単独で発現させた場合よりも凝集が抑制されて、安定的に細胞内抗体として機能し得る。
一実施形態において、本発明の発現方法は、上述のポリヌクレオチドを細胞に導入する工程をさらに含む。上述のポリヌクレオチドは、ベクターの形態で導入されてもよい。具体的な導入方法は、<3.利用方法>で記載された方法が挙げられる。それゆえ、本発明はさらに、細胞内において抗原結合性ペプチドを発現させる細胞を製造する方法を提供する。該製造方法は、上述のポリヌクレオチド(すなわち、本発明の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド)または上述の発現ベクターを細胞に導入する工程を含む。また、本発明はさらに、本発明の融合タンパク質を発現する細胞も提供する。
<5.キット>
本発明はまた、上述の細胞内安定化ペプチドと抗原結合性ペプチドとを含む融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製するためのキットであって、当該細胞内安定化ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、キットを提供する。
本発明のキットは、所望の抗原結合性ペプチドについて、融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを容易に作製することができる汎用的なキットであり得る。
本発明の細胞内安定化ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、上述のようなベクターに組み込まれていてもよい。また、当該ポリヌクレオチドは、タンパク質の発現に必要な因子(例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、およびターミネーター等)、選択マーカー、または制限酵素認識部位等を含んでいてもよい。
さらに、本発明のキットは、バッファー、制限酵素、その他必要な試薬、器具、および使用説明書等のうちの少なくとも1つをさらに含んでいてもよい。
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
〔実験動物〕
理化学研究所の動物実験委員会のガイドラインに従って、すべての実験手順を行った。使用マウスを、12時間毎の明暗サイクルに置き、暗サイクルは20:00から8:00に起こるようにした。
〔抗体〕
この研究で用いた抗体を表S1に載せた。
〔抗体反応性ファージの単離〕
組換えファージ抗体システム(RPAS)(GE Healthcare)を用いてscFv遺伝子を単離した。scFv-A36のDNA配列は、日本DNAデータバンク(DDBJ)にアクセッション番号AB472376で登録されている。
〔発現ベクターの構築〕
特定のプライマーを用いたPCRを基にして構築した発現ベクターは、下記に記載した。
〔組換えウイルスベクターの作製〕
ScFv-GFPA36およびscFv-GFPM4をAAV1血清型を用いて作製した;s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAは、AAV9血清型を用いて作製した。AAVベクタープラスミド、およびその作製の詳細は、下記に記載した。
〔AAVベクターの定位注入〕
オスの野生型B6マウス、もしくはオスのDAT-cre(+/-)マウス(8週齢)に麻酔器(MK-A110;Muromachi)を用いてイソフルレン(Escain; Mylan)で麻酔をかけ、定位フレーム(Stereotaxic Just for Mouse,Muromachi)に配置した。AAVベクターは、右半球の黒質に注入した(ブレグマに対するミリメートル単位で表された座標、AP;-3.08,LR;-1.25,DV;-4.5)。
〔組換えscFv抗体の精製〕
組換え抗体scFv-GFPA36をE. coli系統BL21で発現し、変性もしくは非変性の条件下で、Ni-NTAアガロースクロマトグラフィーを用いて精製した。外来タンパク質の可溶な状態での発現を向上するため(Yasukawa et al.,1995)、チオレドキシン(Trx)を発現しているpT-Trxベクターによって共形質転換されたE. coli系統BL21から、非変性の条件下で、抗-Flag(M2)抗体結合アフィニティービーズ(Sigma)を用いて、組換え抗体s3Flag-scFv-A36-HAを精製した。
〔免疫蛍光染色〕
免疫染色を標準的な手法で行った。免疫蛍光シグナルは、Alexa Fluor 488もしくはAlexa Fluor 594でラベルされた二次抗体(Invitrogen)により視覚化した。蛍光ラベルされた試料は、Fluoview FV1000共焦点顕微鏡(Olympus)もしくはBZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence)により画像表示した。
〔ELISAによる抗体のアフィニティーの計測〕
GST-Syt I-C2Aの抗体結合アフィニティーを、下記に記載された通りにELISAにより計測した。
〔行動テスト〕
以前に報告されたロータロッド試験(Shiotsuki et al.,2010)を改変し、改変ロータロッド試験を実施した。本研究では、マウス用のロータロッド(MK-610A,Muromachi)に、滑り止めテープ(Nitoflon粘着テープ,No.903UL,0.13mm厚,Nitto denko)で覆われた大きなロッド(直径9cm)を装備した。
〔scFv-A36とアラインメントしたScFvタンパク質〕
scFv-A36とアラインメントしたscFvタンパク質のアクセッション番号およびアミノ酸残基を、表S2に載せた。
〔実験動物〕
Dat+/IRES-cre マウス(Backman et al.,2006)はJackson laboratoryより購入した。scFv遺伝子を発現しているAAVウイルスベクターを、DAT-Creマウス系統とともに、黒質のドーパミン神経において抗体遺伝子を選択的に発現させるために用いた。マイクロダイアリシスおよび行動テストで用いた、ウイルスベクターを有するすべてのマウスは、一対のヘテロ接合体から生まれたオスの同腹子であった。Charles Liver Japanより購入したBalb/c、Balb/c-nuおよび野生型のC57B6/Jマウスは、抗体産生、もしくはレンチウイルスベクターおよびAAVベクターを用いた実験、ならびに初代ドーパミン神経培養に使用した。
〔抗体反応性ファージの単離〕
scFvにおいて、上記抗体の軽鎖および重鎖の可変部は、ひとつの遺伝子にコードされたグリシンリンカーによって融合している。RPAS(GE Healthcare)により、scFvの多様なレパートリーをM13ファージの表面上で提示することが可能になる。GST-Syt II-C2Aにより免疫性を与えられたマウス(Balb/c)脾臓からトータルRNAを単離した(Fukuda et al.,1994; Fukuda et al.,1999)。上記軽鎖および重鎖の可変部(それぞれVHおよびVL)を、縮重プライマー(GE Healthcare)を用いて、2つの独立した反応により増幅した。結果得られたPCR産物を、フレキシブルな(Gly4-Ser)3の15アミノ酸鎖をコードするリンカーと結合した。VH-グリシンリンカー-VL複合体(scFv)を、pCANTAB 5Eベクター(GE Healthcare)のSfi IおよびNot I部位にサブクローニングした。E. coli TG-1細胞をscFv cDNAを含むプラスミドベクターおよびM13-KO7ヘルパーファージの感染によって形質転換することにより、組換えファージ抗体を産生した。抗体反応性ファージの単離は、製造元の使用説明書に従ってバイオパニングすることにより行った。対数期TG-1細胞を抗体反応性ファージに感染させた。別個の抗体を提示するファージを、マイクロタイターウェルに結合した組換えGST-Syt II-C2Aを用いたELISAにより、ファージライブラリーからスクリーニングした。抗体反応性ファージを、セイヨウワサビペルオシキダーゼ(HRP)結合抗M13抗体を用いて視覚化した。抗体反応性scFvクローン(scFv-A36と名付けた)の配列決定は、自動DNAシークエンサーを用いて行った。
〔発現ベクターの構築〕
scFv-A36のcDNA配列に基づいて、2つのリンカープライマーをPCR増幅に合わせて設計し、それにより、コザック配列、T7ペプチド、およびBamHI制限酵素認識部位をA36の5’フランキング領域に導入し、MunI部位、ヘキサヒスチジン残基、およびNot I部位をA36の3’フランキング領域に導入した(表1)。
Figure 0007162897000001
次いで、PCR産物を、直接pGEM-T-easyクローニングベクター(Promega,Tokyo,Japan)に連結した(pGEM-scFv-A36と命名した;図8のA)。高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)断片を、pEGFP-C1ベクター(Clontech)から、下記のプライマーを用いたPCRによって得た(表2)。
Figure 0007162897000002
次いで、消化EGFP断片を、pGEM-scFv-A36のBamHIサイトに連結し、pGEM-scFv-GFP A36ベクターを作製した。pET-scFv-GFP A36を構築するために、pGEM-scFv-GFPA36のBamHI-NotI消化断片を、変更したpET3a(M. Fukuda,未発表データ)E. coli発現ベクター(Novagen)のBamHIおよびNotI部位に連結した。哺乳類細胞において、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーターによりドライブして、scFv-GFPA36を一過性発現するために、pGEM-scFv-GFPA36のNotI断片を、pIRESベクター(Invitrogen)に連結し、ベクターpIRES-scFv-GFP A36を作成した。scFv-A36変異体の構築のために、A36の重鎖のCDR1およびCDR3領域を含むDNA断片を、下記の2つの縮重プライマーを用いたPCRにより増幅した(表3)。なお、NはA、C、G、もしくはTである(等モル)。
Figure 0007162897000003
次いで、CDR1およびCDR3変異体断片を、HindIIIおよびBstEIIを用いて消化し、元のA36のHindIIIおよびBst EII部位に連結した。これらのDNA断片から、変異体scFvを提示するファージライブラリーを、上記の方法で産生した。scFvsのアミノ酸配列のマルチプルアラインメントは、CLUSTALW(version. 2.1: http://clustalw.ddbj.nig.ac.jp/index.php?lang=ja)(Thompson et al.,1994)により行った。3×Flagタグ(MDYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDK(配列番号1))およびHAタグ(YPYDVPDYA(配列番号14))融合scFv構築物(s3Flag-scFv-HA)を合成し、マウスにおける発現のためにコドン最適化した。哺乳類細胞における一過性発現のために、s3Flag-scFv-HA断片を、pEF-BOSベクター(Mizushima and Nagata,1990)にクローニングした。E.coli BL21細胞におけるs3Flag-scFv-HAタンパク質の発現および精製のために、s3Flag-scFv-HA断片を、pET3aベクターにクローニングした。
〔細胞培養およびトランスフェクション〕
初代ドーパミン神経培養を、胚日13~14日のオスおよびメスのマウス胚の腹側中脳から準備した。簡潔に言えば、腹側中脳をトリプシン処理により解離し(0.25% 20分、37℃)、DNase Iを含む10%FBSを添加したneurobasal培地中で、火で仕上げたパスツールピペットで粉砕した。解離した細胞(6×10)を、24ウェルプレート(Iwaki)中で、ポリ-L-リシン(1μg/mL)コートカバーガラス(Fisherbrand,直径;12mm)上にまき、それからB27(Invitrogen)を添加したneurobasal培地500μL中で培養した。それぞれのウェル内の7日目のin vitroの細胞(DIV)を、AAVベクター(タイター:1×1011マイクロg/mL)5μLで感染させ、GFP-タグ付きscFvタンパク質を発現させ、感染から7日後に、免疫細胞化学もしくはドーパミン放出アッセイを行った。理研バイオリソースセンターセルバンク(Tsukuba,Japan)から入手した293TおよびCOS-7細胞を、10%FBSを添加したDMEMで培養した。これらの細胞を、Lipofectamine2000を製造元の使用説明書(Invitrogen)に従って用いて、発現ベクターによりトランスフェクションし、トランスフェクションから1日後に、免疫化学的分析に用いた。
〔組換えscFv抗体の精製〕
E. coli系統BL21(DE3)(Novagen)を、scFv-GFPA36の発現に用いた。scFv-GFPA36の発現を、1mMのイロプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトピラノシド(IPTG)により、30℃で3時間誘導した。ScFv-GFPA36タンパク質を、バッファー(8M 尿素,0.1M NaHPO,10mM Tris-HCl[pH8.0])で可溶化し、Ni-NTAアガロースクロマトグラフィー(Qiagen)で製造元の推奨に従って精製した。変性条件下で、4mLのバッファー(8M 尿素,0.1M NaHPO,10mM Tris-HCl[pH6.3])でカラムを洗浄した。その後ScFv-GFPA36を、1mLのバッファー(8M 尿素,0.1M NaHPO,0.01M Tris-HCl[pH 4.5])でカラムから溶出した。溶出したscFv-GFPA36タンパク質を、バッファー(10mM HEPES-KOH;pH7.2)で透析した。非変性条件下でscFv-GFPA36を精製するために、scFv-GFPA36を発現している細胞を、プロテアーゼインヒビターカクテルを含むPBSバッファーに再度懸濁し、氷上でソニケートし、Triton X-100(1%)を加えて4℃で1時間可溶化した。遠心分離の後、上清をNi-NTA(ニッケル-ニトリロ三酢酸、GE Healthcare)クロマトグラフィーにかけた。発現させたscFv-GFPA36を、5mMヒスチジンを含むバッファー(10mM HEPES-KOH;pH7.2)を用いてカラムから溶出し、その後バッファー(10mM HEPES-KOH;pH7.2,150mM NaCl)で透析した。
s3Flag-scFv-A36-HAを非変性条件下で精製するために、E.coli BL21(DE3)コンピテントセル(Novagen)を、s3Flag-scFv-A36-HAを発現しているpET3aベクター(Novagen)およびチオレドキシン(Trx)を発現しているpT-Trxベクターで共形質転換し、外来タンパク質の可溶な状態での発現を向上させた(Yasukawa et al.,1995)。対数期の形質転換された細胞を、1mM IPTGの添加で誘導した。誘導から3時間後に遠心分離によって細胞を回収した。プロテアーゼインヒビターカクテルを含むPBSバッファーに細胞を再度懸濁した。懸濁された細胞を氷上でソニケートし、Triton X-100(1%)を添加して4℃で1時間可溶化した。遠心分離し、0.45μmポアフィルターを用いて濾過した後、上清を抗Flag(M2)抗体結合アフィニティービーズ(Sigma)を用いた精製クロマトグラフィーにかけた。発現させたs3Flag-scFv-A36-HAを、製造元の推奨に従って精製した。s3Flag-scFv-A36-HAを、3×Flagペプチド(1mg/mL)を含むバッファー(50mM Tris-HCl,pH7.4,150mM NaCl)を用いてカラムから溶出し、バッファー(20mM Hepes-KOH,pH7.2,50mM NaCl)で透析した。
〔ELISAによる抗体アフィニティーの計測〕
バッファー中の精製されたGST-Syt I-C2A(0.25pmol)を、室温で16時間96ウェルプレートにコートした。それぞれのウェルを、5%スキムミルクを含むPBSバッファーで2時間室温でブロッキングし、0.22~36nMの精製されたs3Flag-scFv-A36-HAとともにインキュベートした。マウスの抗体Flag(M2)一次抗体、およびHRP結合抗マウス二次抗体とともにインキュベートすることにより、結合を定量した。特異的な結合は、0.25pmolのGSTでコートしたウェルに対するs3Flag-scFv-A36-HAの結合を差し引くことにより計算した。s3Flag-scFv-A36-HA結合データの非線形回帰は、ヒル-ラングミュアの式により行った。
Figure 0007162897000004
上式で、BはGST-Syt I-C2Aに結合したs3Flag-scFv-A36-HAの濃度を表し、Bmaxは全結合部位の濃度を表し、[s3Flag-scFv-A36-HA]は遊離s3Flag-scFv-A36-HA濃度を表し、Kdは解離定数を表す。
〔免疫蛍光染色〕
免疫細胞化学および免疫組織化学は、下記の標準的な方法で実施した。細胞を4% PFAで室温、2分間固定し、0.3% Triton X-100を含むPBSで室温、2分間透過処理した。細胞をすぐにブロッキング溶液(1% BSAおよび0.1% Triton X-100を含むPBS)で3回洗浄し、ブロッキング溶液とともに室温で1時間インキュベートし、その後2時間室温で一次抗体とともにインキュベートした。免疫蛍光シグナルは、Alexa Fluor 488もしくはAlexa Fluor 594でラベルされた二次抗体(Invitrogen)とともにインキュベートすることにより視覚化した。Alexa Fluor色素と結合した一次抗体および二次抗体は、表S1に載せた。細胞内抗体により形成された凝集体を有する細胞の割合を定量する実験において、各実験で1つのディッシュ内の少なくとも100個の細胞を、凝集体を有する細胞の割合を定量するために数えた。データは3回の独立した実験により得た。免疫組織化学において、マウスは4%パラホルムアルデヒドで固定した。マウス脳の低温切片(16μm厚)を、0.3% Triton X-100を含むPBS中で室温で2時間透過処理し、一次抗体を含むブロッキング溶液(1% BSA,0.1% Triton X-100)とともに4℃で16時間インキュベートした。免疫蛍光シグナルを、Alexa Fluor 488もしくはAlexa Fluor 594でラベルされた二次抗体(Invitrogen)を用いて視覚化した。蛍光ラベルした試料は、Fluoview FV1000共焦点顕微鏡(Olympus)もしくはBZ-9000蛍光顕微鏡(Keyence)のもとで画像化した。
〔免疫ブロット分析〕
Flagタグつき全長マウスSyt I-XIを、以前に記載されたように調製した(Fukuda et al.,1999)。COS-7細胞の中で一過性発現させたFlagタグつきSyt I-XIの全ホモジネートを、10%ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)にかけ、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。精製したscFv-GFPA36(1.6μg/mL)を一次抗体として用いた。HRPラベル抗T7モノクローナル抗体(1/5000希釈, Merck Millipore)を二次抗体として用いた。免疫反応性のあるバンドを、高感度ケミルミネセンス(ECL)検出システム(GE Healthcare)を用いて視覚化した。等量のFlagタグつきSytsがロードされたことを保証するため、ブロットを抗Flag抗体でリプローブした。精製したs3Flag-A36-HAが、脳でマウスSyt I/IIを認識したかを調べるために、マウス脳組織を単離し、ホモジナイゼーションバッファー(20mM HEPES-KOH,pH7.2,150mM NaCl,0.5% TrintonX-100,コンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル;Roche)でホモジナイズし、4℃で1時間アジテートした。全ホモジネートの2.5μgのタンパク質を、精製したs3Flag-A36-HAを一次抗体として用いてウエスタンブロットした。免疫反応性のあるバンドを、抗Flag抗体(二次抗体)およびHRPラベル抗マウス抗体を用いたECLにより視覚化した。AAVベクターを注入したマウス脳を用いた実験では、マウス脳組織を単離し、バッファー(PBS,0.5% NP40,1mM 2ME,2mM EDTA,およびコンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル)内でホモジナイズし、27Gニードルシリンジでせん断し、4℃で1時間アジテートした。全ホモジネートを、抗TH、抗チューブリン、抗Syt I抗体を一次抗体として用いてウエスタンブロットした。
〔免疫沈降〕
COS-7細胞を、pIRES-scFv-GFPA36もしくはpIRES-scFv-GFPM4、およびpEF-BOS-Flag-Syt Iもしくはコントロールベクター(pEF-BOS)で共トランスフェクションした。プラスミドDNAのトランスフェクションは、LipofectAMINE(Invitrogen)により製造元の推奨に従って行った。トランスフェクションの2日後、細胞をばらばらにし、バッファー(10mM HEPES-KOH[pH7.2],100mM NaCl,1mM β-メルカプトエタノール)中でホモジナイズした。ホモジネートを、1,200×g、4℃で5分間遠心分離し、上清を溶解バッファー(10mM HEPES-KOH[pH7.2],0.1% Triton X-100,100mM NaCl,1mM β-メルカプトエタノール)で4℃で1時間可溶化した。20,400×g、4℃で15分間遠心分離した後、上清を新しいチューブに移し、Flag-Syt IもしくはIIを、抗Flag抗体(Sigma)およびプロテインAセファロース(GE Healthcare)により免疫沈降した。溶解バッファーでビーズを洗浄した後、ビーズを1×SDSサンプルバッファー(62.5mM Tris-HCl[pH6.8],2% SDS,2% β-メルカプトエタノール,0.001% ブロモフェノールブルー[BPB],10% グリセロール)中で煮沸した。13,000×gで5分間遠心分離した後、上清をウエスタンブロット分析に用いた。共免疫沈降したscFv-GFPA36を、はじめにHRPラベル抗T7抗体により検出した。Flag-Syt Iが沈降したことを保証するため、抗Syt I抗体(Stressgen)によりブロットをリプローブした。Syt Iと細胞内s3Flag-scFv-A36-HAとの相互作用を調べるため、293T細胞を、Lipofectamine2000を用いてpEF-BOS-Syt IおよびpEF-BOS-s3Flag-scFv-A36-HAもしくはpEF-BOS-s3Flag-scFv-M4-HAベクターにより共トランスフェクションした。トランスフェクションの28時間後、細胞をばらばらにし、バッファー(20mM HEPES-NaOH[pH7.4],150mM NaCl,0.5% Triton X-100,プロテアーゼインヒビター(EGTA-free,Roche))中で1時間溶解し、その後、27ゲージニードルシリンジでせん断した。ホモジネートを1,5000rpm、4℃で10分間遠心分離し、上清をCaCl(500μM)を含む新しいチューブに移し、抗HAアガロース(Sigma)により免疫沈降した。500μM CaClを含む溶解バッファーでビーズを洗浄した後、ビーズを1×SDSサンプルバッファー中で3分間煮沸した。12,000rpmで5分間遠心分離した後、上清をウエスタンブロット分析に用いた。共免疫沈降したSyt Iを、一次抗Syt I(Stressgen)抗体および二次HRPラベル抗マウスIgG軽鎖特異的抗体で検出した。scFvタンパク質の沈降を保証するために、抗Flag(M2)一次抗体(Sigma)および抗HRPラベル抗マウスIgG軽鎖特異的二次抗体でブロットをプローブした。
〔AAVベクターの作製〕
AAV9/3ベクタープラスミドは、ヒトシナプシンIプロモーター(hSynIp)を含み、その後ろに、pAAV-DIO-eNpHR-YFPベクター(addgene: #26966)に由来するダブルloxP配列(loxP-lox2722)の間に目的の逆向きcDNAを含み、ラットのtau 3’-UTR(Brun et al.,2003)に由来するヌクレオチド2519-2760を含む241bp断片(FrgH)、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)、およびシミアンウイルス40ポリアデニレーションシグナル配列(SV40pA)を、AAV3ゲノムの逆方向末端反復の間に含む。変異を有するAAV9 vp cDNA(T466F)(Gao et al.,2004)を、以前に記載された方法(Petrs-Silva et al.,2011)で合成した。組換えAAV9/3ベクターを、ベクタープラスミド、AAV3 repおよびAAV9 vp発現プラスミド、ならびにアデノウイルスヘルパープラスミドpHelper(Agilent Technologies)を用いたHEK293細胞の一過性トランスフェクションにより、以前に記述された方法で作製し(Li et al.,2006)、ベクターAAV9/3-hSynIp-DIO-s3Flag-scFv-A36もしくは-M4-HAを得た。組換えウイルスを2つの一連の連続的なCsCl勾配からの単離により精製し、ウイルスタイターをqRT-PCRにより決定した。
AAV1ベクタープラスミドは、hSynIpを含み、その後ろに目的のcDNA、FrgH、WPRE、およびSV40pAをAAV1ゲノムの逆向き末端配列の間に含んでいた。組換えAAV1ベクターを上記のとおりに作製し、ベクターAAV1-hSynIp-scFvGFPA36もしくはM4を得た。
〔AAVベクターの定位注入〕
オスの野生型マウスもしくはメスのDAT-cre(+/-)マウス(8週齢)をイソフルレン(Escain;Mylan)により麻酔した。注入部位の頭蓋骨は、ドリル(Model 1474 Stereotaxic drill,Muromachi)でカットした。AAVベクターを右半球の黒質(ブレグマに対するミリメートル座標, AP;-3.08,LR;-1.25,DV;-4.5)に、注入ポンプ(Legato 130,Muromachi)により制御される33ゲージニードルおよび5μLシリンジ(Model 75 RN SYR,Hamilton)を用いて、分速0.2μLで2μL注入した。ニードルは、注入後、10分間その位置に放置した。注入の少なくとも33日後のマウスを、マイクロダイアリシス、行動テスト、もしくは免疫化学分析に用いた。
〔初代培養ドーパミン神経を用いたドーパミン放出の測定〕
AAVベクターの注入7日後の初代ドーパミン神経を、500μLの予熱したPSS-LKバッファー(20mM HEPES-NaOH,pH7.4,140mM NaCl,4.7mM KCl,2.5mM CaCl,1.2 mM MgSO,1.2mM KHPO,11mM グルコース)で2回洗浄し、細胞を200μLのPSS-LKバッファー中で、37℃で5分間インキュベートした。PSS-LKバッファーを回収した後、細胞を200μLのPSS-HKバッファー(20mM HEPES-NaOH,pH7.4,85mM NaCl,60mM KCl,2.5mM CaCl,1.2mM MgSO,1.2mM KHPO,11mM グルコース)で37℃、5分間刺激した。回収された上清を、すぐに50μM EDTA-2Naを含む10μLの0.1M過塩素酸(PCA)と混合し、30秒ソニケートし、その後20,000G、0℃で15分間遠心分離した。上清(190μL)を新しいチューブに移し、pHを3.0あたりに調整するために1.7μLの5M CHCOONaと混ぜた。PSS-HKバッファーを回収した後、細胞を2.5μM EDTA-2Naを含む200μLの5 mM PCAに溶解した。サンプル(200μL)をソニケートし、2.4μLの5M CHCOONaと混合した。すべてのサンプルを、0.45μmポリフッ化ビニリデン(PVDF)マイクロポアフィルター(Millipore)で濾過し、濾過物を、電気化学検出システム(ECD300,Eicom)と連結した高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)で、以前の報告(Kabayama et al.,2013)に従って分析した。高濃度KClにさらされた初代培養ドーパミン神経から放出されたドーパミンの量を、細胞に含まれた全ドーパミンの割合で表す。
〔自由行動マウスのin vivoマイクロダイアリシス〕
マウスをイソフルレン(Escain;Mylan)で小動物麻酔器(MK-A110;Muromachi)を用いて麻酔し、定位フレーム(Stereotaxic Just for Mouse,Muromachi)に配置した。スチールガイドカニューレ(AG-4;Eicom)の移植のために、右半球の線条体上(ブレグマに対する座標,AP;+0.6 mm,LR;-2.0mm,DV;-2.0mm)に穴をあけ、固定するためのネジをしっかりと固定するためにもう一つの穴を設けた。ガイドカニューレおよび固定するためのネジを、歯科用セメント(Unifast3;GC)によって固定した。歯科用セメントが完全に乾いた後、マイクロダイアリシスプローブ(A-I-4-02;Eicom)をガイドに沿って線条体に挿入した。マイクロダイアリシスプローブの移植は、マウスの麻酔の開始後、3.5時間から4.5時間の間に終了した。マイクロダイアリシスプローブを挿入したマウスを、水と飼料を備えた透明のマイクロダイアリシスケージ(20cm長さ×20cm幅×21cm高さ)内のペーパータオル(キムタオル,Nippon Paper Crecia)の上に配置した。移植手術の次の日、マウスを、水と飼料を備えていない透明のマイクロダイアリシスケージ内の新しいペーパータオル(Comfort200,Nippon Paper Crecia)上に配置した。基底ドーパミン放出を測定するため、透析液の回収を、プローブ移植手術の次の日の10:00から11:00の間に行った。マイクロダイアリシスプローブは、147mM NaCl、4.02mM KCl、2.25mM CaClを含むリンガー溶液によって、シリンジポンプ(ESP-32,Eicom)を用いて分速1μLで連続的に潅流された。透析液は、冷蔵したフラクションコレクター(Refrigerated collector 820,Univentor)を用いて4℃で10分の間隔で自動的に、事前に5μLの0.1M CHCOOH/250μM EDTA-2Naをいれたプラスチックのマイクロチューブに回収した。透析液の回収は、マイクロダイアリシスプローブの移植後16.5時間から17.5時間後に行った。すべての透析液サンプルを4℃で保存し、次の日HPLCで分析した。
〔脳切片の生体組織検査〕
脳を骨頭切除の直後に回収し、50μm厚の凍結王冠切片を調製した。12ピースの黒質切片、および8ピースの線条体切片(4ピースの前部切片が以下の座標から得られた,AP;+0.6mm,および4ピースの後部切片が以下の座標から得られた,AP;+0.6mm)から、直径1.5mmのディスポーザブルバイオプシーニードル(Biopsy Punch;Kai Medical)を用いて、円形の組織パンチを回収した。サンプルを0.1mM EDTAを含む0.1M過塩素酸内でホモジナイズし、20,000×g、4℃で15分間遠心分離した。上清を0.22μmポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルター(GV Durapore,Millipore)に通して濾過し、濾過したサンプルをHPLCにより分析した。
〔HPLC〕
初代培養神経に由来するサンプルおよび脳切片のバイオプシーを、HPLC(ECD300,Eicom)により、以前に報告されたプロトコル(Kabayama et al.,2013)に従って分析した。マイクロダイアリシスサンプルを、製造元の文書に従ってHPLC(ECD500,Eicom)により分析した。
〔行動テスト〕
ロッド(直径3cm)を用いたロータロッド試験が、一般的にマウスの運動技能学習のために用いられてきた。以前の研究におけるマウスの改変ロータロッド試験では、大きなドラムおよび遅い回転(直径9cmおよび10rpm)を組み合わせたロータロッド試験において、急勾配の学習曲線が得られることが実証された(Shiotsuki et al.,2010)。本研究では、マウス用ロータロッド(MK-610A,Muromachi)に、滑り止めテープ(Nitoflon粘着テープ,No.903UL,0.13mm厚,Nitto denko)で覆われた大きなロッド(直径9cm)を装備した。訓練セッションの前に、1日目にマウスを定位ドラムの上に3分間留まらせることにより馴化を行った。馴化は、毎日1分間、セッションの直前に繰り返した。回転は、遅い速度(5rpm,表面速度2.8m/min)に設定した。マウスは、落下後すぐに、一回のセッションにつき5回までドラムの上に戻した。テストは、1日1セッションで5日間繰り返した。落下による待ち時間を手動で記録し、訓練の(Day1)の前、および(Day5)の後のロッド上での合計の待ち時間を、二元反復測定ANOVAで分析した。
〔タンパク質配列分析〕
等電点および細胞内pH(7.4,7.03,6.60)における正味の電荷を、ペプチドタグを含むそれぞれの細胞内抗体のアミノ酸配列から、Chris Putnam ant the Scrips Research Institute(http://protcalc.sourceforge.net/)により開発されたProtein calculator v3.4を用いて計算した。
〔統計分析〕
すべてのデータは、少なくとも3回の独立した実験の代表値である。結果は、平均±標準誤差で表している。データはGraphPad Prism 4.0 program(GraphPad Software)を用いて、両側独立t-検定、両側非反復ANOVAの後にニューマン・コイルス事後多重比較検定を行って、もしくは二元反復測定ANOVAの後にボンフェローニ事後多重比較検定を行って分析した。P<0.05は、統計学的に有意であるとみなした。
<実施例1:Syt I/IIのC2Aドメインに対する抗体特異的結合の単離>
まず、ファージディスプレイシステムを用いて、Syt I/IIのC2Aドメイン(Syt I/II-C2A)に対する特異的抗体をコードするScFv遺伝子を単離した。単離されたScFvを提示するファージの特異性を調べるために、Syt I/IIのC2Bドメイン(Syt I/II-C2B)をネガティブコントロールとして用いた。酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により、単離されたScFv提示ファージのうちの一つ(scFv-A36と呼ぶ)がグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)-Syt II-C2Aに結合し、GST-Syt II-C2BもしくはGSTには結合しなかった(図1のA)。cDNA配列から、重鎖および軽鎖が互いにグリシンリンカーで融合された、723ヌクレオチドを含むオープンリーディングフレーム(361アミノ酸;アクセッションno.AB472376)が明らかになった(図1のB、上パネル)。発現したscFv-A36を視覚化および精製するために、T7、EGFP、およびHisタグを、A36のアミノ末端、もしくはカルボキシ末端に融合した(scFv-GFPA36と呼ぶ;図1のB、下パネル)。ScFv-GFPA36をE. coliで発現し、Ni-NTAカラムに通して精製した。ウエスタンブロット分析により、精製されたScFv-GFPA36タンパク質が全長Syt I/IIのみを認識し、COS-7細胞において外来的に発現させた他の9つのアイソフォームは認識しないことが確認された(図1のC)。これらの結果から、cFv-GFPA36がSyt I/II-C2Aドメインに対する特異的抗体であることが示された。scFv-A36の軽鎖の可変領域の3つのCDRのアミノ酸配列は、CRA5をコードしているscFvのそれらと同一であり、CRA5は免疫グロブリンE(IgE)受容体(アクセッションno.BAB82458、データは示されていない)に対する抗体であったことから、scFv-A36の軽鎖のCDRがSyt I/IIとの結合特異性の決定において重要な役割を持たないことが示唆された。一方、重鎖CDR3は抗体中で最も超可変な領域であり、ヒトにおいて約1014の多様性を生み出す可能性を有し(Sanz,1991)、それにより抗体の相互作用に貢献している(Chothia and Lesk,1987)ことが知られている。実際、scFv-A36の重鎖CDR3のアミノ酸配列と、国立生物工学情報センター(NCBI)DNAデータベースに蓄積されている他の4つのscFvの重鎖CDR3のアミノ酸配列(図2)との間に大きな多様性があることが見出され、scFv-A36の重鎖CDR3が結合特異性に重要であることが示唆された。次に、PCRを用いた突然変異誘発により、scFv-GFPA36からネガティブコントロールの抗体の構築を試みた。A36の重鎖CDR1(8アミノ酸)およびCDR3(8アミノ酸)の計16アミノ酸が縮重プライマーにより変異した。ELISAにおいて、単離された変異型ScFvファージクローン(scFv-M4と呼ぶ)がGST-Syt II-C2Aタンパク質に結合しなかったことを確認し(図1のD)、scFv-M4のCDR1およびCDR3のヌクレオチド配列を決定した(図2)。以上より、scFv-GFPA36のさらなる機能分析においてM4遺伝子をネガティブコントロール(scFv-GFPM4と呼ぶ)として用いることにした。次に、scFv-GFPA36を哺乳類細胞の細胞内で発現することができるか、また細胞内抗体と結合することができるのかを調べた。ScFv-GFPA36は、scFv-GFPA36とFlag-Syt Iの両方がCOS-7細胞内で共発現されたときのみ、抗Flag抗体とともに共免疫沈降したが、scFv-M4は抗Flag抗体とともに共免疫沈降しなかったことから(図1のE)、細胞内で発現したscFv-GFPA36が、発現したSyt Iと結合できることが示された。
<実施例2:インビトロおよびインビボにおける細胞内scFv-A36の特徴付け>
Syt I/IIが、脳における神経伝達物質の速い放出に対する主要なCa2+センサーとして働くことから、次にドーパミン放出におけるscFv-A36の阻害効果を調べた。scFv-GFPA36およびscFv-GFPM4を発現するためにAAVベクターを構築した(それぞれ、AAV-scFv-GFPA36およびAAV-scFv-GFPM4と呼ぶ)。マウス胚の黒質から調製したDIV7における初代培養ドーパミン神経に、AAVベクターを感染させた。AAVによる感染から7日後に細胞を固定し、分析した。scFv-GFPA36およびscFv-GFPM4の両方が、神経の細胞内において凝集なしに広がって発現した(図3,A~C;scFv-GFPA36,D~F;scFv-GFPM4)。ScFv発現はまた、ウエスタンブロット分析により確認した(図3のG,上;GFP,中;Syt I,下;アクチン)。次に脱分極により誘導されたドーパミン放出を比較した。初代培養細胞において、脱分極により誘導されたドーパミン放出は、細胞外Ca2+に依存していた(図3のH、右列)。このCa2+依存性は、以前の報告(Rouge-Pont et al.,1999)と矛盾しなかった。scFv-GFPA36を発現している細胞において、脱分極により誘導されたドーパミン放出は、scFv-GFPM4を発現している細胞、もしくは感染されていないコントロール細胞に比べて、有意に減少した(図3のH)。これらの結果から、細胞内抗体が初代培養神経の細胞内で発現することができ、scFv-GFPA36がSyt I/IIのC2Aドメインの機能を阻害することが示された。次に、これらの細胞内抗体が、マウス脳神経の細胞内において安定に発現されているのかを調べた。成体マウス(P56)の黒質に対し、片側だけにAAV-scFv-GFPA36(1.6×10 vg/mouse)を注入した。注入の4週間後、ほとんどすべてのドーパミン神経において、scFv-GFPA36の細胞内での発現が観察された。しかしながら、黒質緻密部(SNc)のいくつかの神経において、激しい凝集が観察された(図4のA~C,矢印)。これらの蛍光シグナルは、AAVを注入しなかった左半球のSNcでは観察されなかった(図4のD~F)。これらの結果から、インビトロでの培養細胞の細胞内において安定に発現する細胞内抗体が、インビボで常に安定に発現するわけではないことが示された。
<実施例3:強い負電荷を有する3xFlagペプチドタグ、および中程度の負電荷を有するHAペプチドタグの付加による細胞内抗体の安定性の向上>
細胞質内pH7.4における細胞内抗体の正味の負電荷と、哺乳類細胞の細胞質内の細胞内抗体の安定性との間には正の相関がある(Kvam et al.,2010)。例えば、pH7.4において高い正味の負電荷(-5.0)を有するVH-H7細胞内抗体が、哺乳類の細胞質内であまり凝集することなく、うまく発現する(Kvam et al.,2010)。これは、pH7.4における正味の負電荷値が-5.0よりも小さいと、細胞内抗体の細胞内における安定な発現を予測できることを示唆している。事実、pH7.4において同じ正味の負電荷(-5.0)を有するscFv-GFPA36およびscFv-GFPM4は、初代培養ドーパミン神経の細胞内において7日間安定に発現された(図3)。しかしながら、scFv-GFPA36およびscFv-GFPM4は、マウス脳のドーパミン神経において細胞内凝集物を形成する(図4)。これらの状況より、インビボにおける安定な細胞内抗体を設計するためにインシリコ解析を行った。海馬神経の非興奮時の細胞内pHは~7.03-7.35であることが報告されており(Ruffin et al.,2014)、エンドソームを標的としたpH感受性蛍光タンパク質pHluorinを用いた以前の研究から、エンドソームの局所的な細胞質側表面pHが6.73±0.08であることが明らかになっている(Mitsui et al.,2011)。そこで、細胞質内pH6.60、7.03、および7.40それぞれにおけるscFv-A36およびscFv-M4のpIおよび正味の電荷を、他のペプチドタグと比較した(図5のA)。scFv-A36もしくはscFv-M4へのT7タグ、EGFPタグ、およびHisタグの融合により、pH7.4における正味の負電荷が増加した。しかしながら、scFv-GFPA36およびscFvGFPM4正味の負電荷は、より低いpH7.03およびpH6.6において劇的に減少した。これは、細胞質内pH7.03および6.6において、scFv-GFPA36およびsFv-GFPM4の安定性が減少することを示唆していた。細胞内抗体の正味の電荷をより低いpHにおいても向上させるため、2つの短いペプチドタグ、3×Flagタグ(MDYKDHDGDYKDHDIDYKDDDDK(配列番号1);s3Flagと呼ぶ)およびHAタグを検証した。これらのタグ自身はそれぞれ強い正味の負電荷(s3Flag;-7.0)および中程度の正味の負電荷(HA;-2.2)を有する。in silicoの解析の結果、scFv-A36/M4タンパク質へのs3FlagタグおよびHAタグの融合(s3Flag-scFv-HAと呼ぶ)により、その正味の負電荷が、pH6.6においても劇的に増加することが実証された(図5のA)。次に、scFv-A36タンパク質配列を用いたNCBI blast検索により得られた他の94種類のscFvタンパク質配列(表S2)を用いて、s3FlagおよびHAペプチドタグの付加による低pH環境下での細胞内抗体の正味の負電荷の増加効果の一般性について調べた(図6)。異なるペプチドタグと融合した94種類のscFvタンパク質のpH7.4(図6のA,上パネル)、およびpH6.6(図6のA,下パネル)における正味の電荷を比較した。T7タグ、EGFPタグ、およびHisタグと融合したscFvタンパク質の正味の負電荷の平均は、ペプチドタグを持たないscFvタンパク質と比較して、pH7.4において統計学的に増加した(上パネル)が、pH6.6においては増加しなかった(下パネル)。反対に、pH7.4とpH6.6の両方において、s3FlagおよびHAタグと融合したscFvタンパク質の正味の負電荷の平均は、他のペプチドタグを付加した、もしくはペプチドタグを付加しなかったscFvタンパク質の正味の負電荷の平均と比較して統計学的に増加した。タンパク質は、そのpIより低いpH下で正の正味の電荷を持ち、そのpIより高いpH下で負の正味の電荷を有する。s3FlagタグおよびHAタグと融合したscFvタンパク質の推定されたpIの平均は、T7タグ、EGFPタグ、およびHisタグと融合したscFvタンパク質、もしくはタグを付加しなかったscFvタンパク質の推定されたpIの平均と比べて有意に低かった(図5のA,図6のB)。これらのことから、s3FlagタグおよびHAタグの付加によるpH6.6でのscFvタンパク質の正味の負電荷を増加効果は、scFvタンパク質のpIを減少させることによりもたらされたことが示唆された。また、scFvタンパク質のscFv-A36とのアミノ酸同一性と、s3FlagタグおよびHAタグと融合したscFvタンパク質のpH7.4における正味の電荷との間の相関を調べたところ(図6のC)、それらの間に統計学的相関がないことが明らかになった。このことは、scFvタンパク質のscFv-A36に対する構造的な同一性そのものは、s3FlagタグおよびHAタグとの融合による他のscFvタンパク質の正味の負電荷を増加する効果に影響しないことを示している。以上より、これらの結果は、scFvタンパク質にs3FlagペプチドタグもしくはHAペプチドタグを融合することで、これらのタグの強い負電荷により、およびscFvタンパク質のpIが低下することにより、細胞質内pH6.6~7.4におけるscFvタンパク質の正味の負電荷が一般的に増加することを示している。
次に、これらのペプチドタグと融合したscFv-A36およびscFv-M4細胞内抗体の、哺乳類細胞内における安定性を調べた。免疫細胞化学分析により、HeLa細胞の細胞内において、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAが殆ど凝集せず広がって発現し(図5のB,下パネル)、一方で細胞内scFv-GFPA36およびscFv-GFPM4はHeLa細胞の細胞内において凝集体を形成することが明らかになった(図5のB,上パネル)。s3Flag-scFv-A36-HAもしくはs3Flag-scFv-M4-HAを発現している凝集体を有する細胞の平均は、scFv-GFPA36もしくはscFv-GFPM4を発現している凝集体を有する細胞の平均と比べて有意に減少した(図5のC)。これらの結果は、s3FlagタグおよびHAタグが、培養細胞の細胞内において細胞内抗体の安定性を改善することを示す。
<実施例4:s3Flag-scFv-A36-HAはSyt I-C2Aドメインと相互作用し、Syt IとSyntaxin1-SNAREドメインとの間のCa2+依存的な相互作用を抑制する>
次に、s3Flag-scFvA-36-HA構築物の生化学的な性質を調べた。精製されたs3Flag-scFv-A36-HAのGST-Syt I-C2Aとの結合アフィニティーを計測した。s3Flag-scFv-A36-HAを、抗Flag抗体結合アフィニティービーズを用いてE.coliから精製した。ELISA実験により、精製されたs3Flag-scFv-A36-HAはSyt I-C2Aと相互作用するが、Syt I-C2Bとは相互作用しないことが明らかになった(図7のA)。このs3Flag-scFv-A36-HAの特異性は、図1に示されたscFv-GFPA36の結果と矛盾しなかった。異なる濃度のs3Flag-scFv-A36-HAを用いたELISA実験により、s3Flag-scFv-A36-HAのSytI-C2Aに対するKd値が、約11.97nMであることが明らかになった(図7のB)。加えて、ウエスタンブロット分析により、s3Flag-scFv-A36-HAがマウス脳のSyt I/IIを特異的に認識することが明らかになった(図7のC)。これらの結果は、s3Flag-scFv-A36-HAが高いアフィニティーを有する高度に特異的な細胞内抗体であることを示している。次に、細胞内s3Flag-scFv-A36-HAが細胞内においてSyt Iと結合できるかを293T細胞を用いて調べた。Syt Iはs3Flag-scFv-A36-HAと共免疫沈降したが、s3Flag-scFv-M4-HAとは共免疫沈降しなかった(図7のD)。このことは、哺乳類細胞の細胞内において、細胞内s3Flag-scFv-A36-HAがSyt Iと結合できることを示す。これらのことから、s3Flag-scFv-A36-HAがその相互作用を阻害する可能性が考えられた。このことを調べるため、図7のDで示された細胞溶解物を用いてGSTプルダウンアッセイを行った。精製されたGST-syntaxin1-SNAREを用いて500μM Ca2+の存在下で沈降を行い、沈降物をウエスタンブロットにより分析した。s3Flag-scFv-A36-HAを発現している細胞内におけるSyt IおよびGST-syntaxin1-SNAREの共沈降は、s3Flag-scFv-M4-HAを発現している細胞と比較して約46.5%減少した(図7のE,F)。このことは、細胞内s3Flag-scFv-A36-HAが、Syt IのC2Aドメインとの相互作用によって、細胞内におけるSyt IとSyntaxin Iとの間の相互作用に干渉することを示す。
<実施例5:インビボにおけるs3Flag-scFv-HAの安定した細胞内発現>
次に、s3Flag-scFv-HAが、マウス脳の神経の細胞内において安定に発現するかを調べた。AAV9/3-hSynIp-DIO-s3Flag-scFv-A36(もしくはM4)-HAを、DAT-creマウスの右半球の黒質に注入した。免疫組織化学的解析により、AAV9/3ベクターの注入から33日後、右半球のSNcおよびVTAのドーパミン神経の細胞内において、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAが、安定に発現することが明らかになった(図8のA~L,矢印)。これらの発現パターンは、黒質領域のほとんどすべての広範囲(~768μm)において観察された(図9のA~J)。また、ウエスタンブロット分析を用いて、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HAの両方のSNにおける発現を確認した(図9のK,上パネル)。線条体ニューロンが中脳ドーパミン神経から長い求心的な入力を受け取る線条体では、s3Flag-scFv-A36-HAの発現レベルは、s3Flag-scFv-M4-HAの発現レベルより高かった(図9のK,上パネル)。このことは、s3Flag-scFv-A36-HAが内生的なSyt Iと結合し、線条体においてSyt Iとともに細胞体から軸索末端に向かって輸送されることを示唆している。加えて、AAV9/3注入の6か月後に、s3Flag-scFv-A36-HAおよびs3Flag-scFv-M4-HA両方が、ドーパミン神経を傷つけることなく安定して発現することが観察された(図10)。SNのドーパミン神経において、in vivoでs3Flag-scFv-A36-HAがSyt Iに対し機能活性を有することを確認するため、AAV9/3注入から33日後の覚醒時のマウスの線条体における基底ドーパミン放出を、マイクロダイアリシスにより測定した。線条体におけるドーパミン放出は、s3Flag-scFv-A36-HAを発現しているマウス、s3Flag-scFv-M4-HAを発現しているマウス、およびAAVを注入していないマウスの3つのグループで比較した。s3Flag-scFv-A36-HAを発現しているマウスの線条体からのドーパミン放出は、s3Flag-scFv-M4-HAを発現しているマウスと比べて55.3%、およびAAV9/3を注入されていないマウスに比べて52.7%と、有意に減少することがわかった(図11のB、C)。しかしながら、線条体および黒質におけるドーパミンの総量は、すべての3つのグループの間で統計学的に変わらなかった(図11のD)。以上より、これらの結果は、s3Flag-scFv-A36-HAが神経活性とドーパミン神経の軸索末端からの細胞外Ca2+とに依存的なドーパミン放出を阻害することを示された。
<実施例6:ドーパミン神経におけるs3Flag-scFv-A36-HAの細胞内発現による 運動学習の阻害>
パーキンソン病(PD)は、神経変性疾患であり、震え、硬直、動きの遅さ、および姿勢の不安定を含む運動欠損を伴う。患者の最も特徴的な点は、主にSNcにおけるドーパミン神経の喪失および線条体におけるドーパミン濃度の減少である。そこで、線条体のドーパミン放出の運動行動における直接的な役割を調べるために、オープンフィールドテストおよび改変ロータロッド試験を行った。AAV9/3-hSynIp-DIO-s3Flag-scFv-A36(もしくはM4)-HAをDAT-creマウスの黒質の両側に注入した。AAV注入の4週間後、マウスをオープンフィールドテストに用い、5または6日後に、改変ロータロッド試験に用いた。s3Flag-scFv-A36-HAを発現しているマウスとs3Flag-scFv-M4-HAを発現しているマウスとの間で、合計の移動距離、動きの速さ、center of time、および立ち上がりの合計数に違いはなかった(図12のA~D)。次に、以前に報告されたロータロッド試験(Shiotsuki et al.,2010)を改変し、運動学習を調べた(実験手順の欄を参照)。訓練の5日後、s3Flag-scFv-M4-HAを発現しているマウスは、s3Flag-scFv-A36-HAを発現しているマウスに比べて、ロッドの上に長くとどまった(図12のE,P=0.0132)。運動行動テストの後、免疫組織化学によりマウス脳を分析した。黒質のDA神経における3Flag-scFv-M4-HAおよびs3Flag-scFv-A36-HAタンパク質の両側における発現を確認することができた(図12のF,矢印)。
<実施例7:抗腫瘍活性の評価>
次に、抗Krasモノクローナル抗体(Y13-259;配列番号22)について、前述の実施例と同様にs3FlagおよびHAを融合させたs3Flag-scFv-Y13-259-HA(STAND-Y13-259;配列番号23)を作製し、抗腫瘍活性の有無を評価することにした。なお、Y13-259のDNA配列は、データベースに登録されていなかったため、アミノ酸配列に基づき、マウスのコドンに最適化した配列を設計した。STAND-Y13-259のDNA配列を配列番号24に示す。myc-Y13-259のDNA配列を配列番号25に示す。DNA合成はGenescript社に委託した。
(1)In silicoの解析
STAND-Y13-259の設計にあたり、In silicoの解析を行った結果、s3FlagタグおよびHAタグの融合により、scFv-Y13-259の正味の負電荷が、pH6.6においても劇的に増加することが実証された(図13のA)。
(2)STAND-Y13-259の結合能の評価
次に、STAND-Y13-259とGST-Krasとの結合アフィニティーを、前述の実施例の通りにELISAにより計測した。その結果、STAND-Y13-259もKrasとの高い結合活性が維持されていることが確認された(図13のB)。続いて、レンチウイルスにSTAND-Y13-259、myc-Y13-259(配列番号26)またはscFv-Y13-259のみを組み込んだベクターをMIA PaCa2細胞に感染させ、免疫細胞染色を行った。その結果、従来のmyc-Y13-259は不安定で発現しないか、発現しても細胞内で凝集するのに対し、STAND-Y13-259が安定して発現していることが確認された(図13のC)。さらに、細胞内在性のKras細胞内相互作用を確認するために、抗HA抗体を用いて共免疫沈降を行ったところ、STAND-Y13-259を感染させたMIA PaCa2細胞由来の試料において、内在性KrasとSTAND-Y13-259との結合が確認された(図13のD)。
(3)抗腫瘍活性の評価
次に、前述と同様にレンチウイルスベクターを用いて感染させたMIA PaCa2細胞の生存率を、感染から4日後にMTS解析によって測定した。その結果、STAND-Y13-259の発現によって生存率が顕著に低下することが示された(図13のE)。続いて、膵臓癌細胞を皮下に移植したマウス異種移植モデルにおいて、STAND-Y13-259の細胞内発現によって癌の成長が抑制されるかを評価した。ヌードマウスの皮下で形成された腫瘍部分に対し、週に一度、4週に亘って前述のSTAND-Y13-259を発現するレンチウイルスベクターを投与した結果、癌を強力に阻害することが示された(図13のF、G)。最初の感染から25日後に摘出された腫瘍においてSTAND-Y13-259が発現していることも確認された(図13のH)。
<実施例8:他のペプチドタグの評価>
他のペプチドタグの性能評価を行うためDE2.0タグ及びDE5.0タグを作製し、その安定化の効果を検討した。実施例7と同様に、DE2.0タグ(DEQENDYDEPEVNDENQDYDE(配列番号13))を用いた融合タンパク質としては、抗Krasモノクローナル抗体由来のペプチド(Y13-259;配列番号22)のN末端側にDE2.0タグを融合させたDE2.0-Y13-259(配列番号27);DE2.0-Y13-259のC末端側にさらにHAペプチドを融合させたDE2.0-Y13-259-HA(配列番号28);DE2.0-Y13-259のC末端側にさらにPAペプチドを融合させたDE2.0-Y13-259-PA(配列番号29);並びに、凝集繊維化したhuman α‐synucleinに特異的に結合する抗体(Barkhordarian et al., 2006:Protein Engineering, Design and Selection, Volume 19, Issue 11, 1 November 2006, Pages 497-502)のscFV配列(scFv‐6E)のN、C両末端にDE2.0タグを融合させたタンパク質STAND-6E-LYS;を作製した。STAND-6E-LYSには、さらに機能ペプチドとしてHeat shock cognate protein 70 (HSC70)結合ペプチド(MARVKKDQAEPLHRKFERQPPG(配列番号31))(Bauer et al., Nature Biotech (2010):Nature Biotechnology volume 28, pages 256-263 (2010))をC末端側のDE2.0タグの下流に融合させ、さらにHSC70結合ペプチドの下流にはHAペプチドも付した。作成したSTAND-6E-LYSのアミノ酸配列の全長は、配列番号32に示す。
DE5.0タグ(DDDEDEDDEDEDEDEDEDEDED(配列番号33))を用いた融合タンパク質としては、scFv‐6EのN末端にDE5.0タグを融合させてさらにC末端にT7タグ(配列番号34:MASMTGGQQMG)を融合させたDE5.0‐6E(アミノ酸配列:配列番号35、塩基配列:配列番号36)を作製した。これらの融合タンパク質をコードするDNAはすべてヒトのコドンに最適化し、GenScript社によって合成された。
なお、DE2.0-Y13-259-HA及びSTAND-6E-LYSのDNA配列をそれぞれ配列番号30、及び配列番号37に示す。
Figure 0007162897000005
Figure 0007162897000006
In silicoの解析を行った結果、DE2.0タグのみの融合でも、scFv-Y13-259の正味の負電荷が劇的に増加することが判明した(図13のA)。また、HAまたはPAも融合させると、さらに増加することが判明した(図13のA)。scFv‐6Eについても同様にIn silicoの解析を行った結果、DE2.0タグとDE2.0タグとHAタグとの融合や、DE5.0タグとの融合により、scFv‐6Eの正味の負電荷が、pH6.6においても劇的に増加することが実証された(図15)。
レンチウイルスベクターを用いてDE2.0-Y13-259-HAをコードするDNAを、MIA PaCa2細胞に導入したところ、細胞内でDE2.0-Y13-259-HAが凝集することなく発現し、STAND-Y13-259よりも強く内在性Krasと細胞内で結合していることが確認された(図14のA)。このDE2.0-Y13-259-HAを発現するレンチウイルスベクターの癌の成長抑制効果を、膵臓癌細胞を皮下に移植したマウスの異種移植モデルを用いて評価した結果、癌を強力に阻害することが示された(図14のB)。これらの結果は、本発明が、抗体を細胞内で安定に発現させるペプチドタグの開発に極めて有効であることを示した。
STAND-6E-LYS及びDE5.0‐6EをコードするDNAは、哺乳類発現ベクターであるpEF-BOSベクターにクローニングして発現ベクター(STAND-6E‐LYS発現ベクター;pEF-BOS-STAND-6E‐LYS、DE5.0‐6E発現ベクター;pEF-BOS-DE5.0‐6E)を作製した。STAND-6E‐LYS発現ベクター及びDE5.0‐6E発現ベクターをLipofectamin2000によりHeLa細胞に導入し、18時間培養後に4%PFAにて固定した。STAND-6E‐LYSはHA抗体、DE5.0‐6EはT7抗体によって染色を行った。STAND-6E‐LYS、DE5.0‐6Eともに細胞内で凝集することなく発現していることが確認された(図16)。
続いて、α-synuclein凝集に対するSTAND-6E‐LYSの効果についてSHSY5Y細胞を用いて検証した。α-synucleinの凝集アッセイは、大腸菌から精製したヒトリコンビナントα -synucleinを超音波処理により、繊維化、凝集化したα-synuclein Fibrilを用いた(Tarutani et al., 2018:Acta Neuropathol Commun. 2018 Apr 18;6(1):29.)。本アッセイではヒト由来SHSY5Y細胞を用いた。STAND-6E‐LYSに組み込まれたHSC70結合ペプチドは、α‐synucleinのHSC70結合モチーフ(VKKDQ(配列番号38))と、HSC70結合コンセンサスモチーフ(KFERQ(配列番号39))からなる。Mutant huntingtin proteinと結合するペプチドとHSC70結合ペプチドを融合することで、Chaperon-mediated autophagy(CMA)によるmutant huntingtin proteinの分解を促進できることがin vitro及びin vivoで示されており、標的タンパク質分子に特異的に結合できるペプチド(scFvも含む)さえあれば、標的タンパク質分子をCMA依存的に分解することが可能になる。ヒトα-synucleinの全長を緑色蛍光タンパク質EGFPに融合したタンパク質(EGFP-synuclein)を発現するpEGFP-α-synucleinベクターを構築し、STAND-6E-LYS発現ベクターとともにSHSY5Y細胞へXtremGENE9(Sigma)を用いて遺伝子導入した。6時間後にMultiFectam(Promega)を用いて、Fibrilタンパク質を細胞へ導入し、3日間培養したのち、4%PFAにより固定した。その後、抗HA抗体によりSTAND-6E-LYSを検出し、抗リン酸化α-synuclein抗体(Mouse、WAKO)により染色を行った。XtremeGENE9及びMultiFectamによる遺伝子導入、タンパク導入は、製造メーカーの標準プロトコールに従った。GFP-synucleinがドット状に凝集している細胞数の出現率、リン酸化synuclein陽性細胞の出現率を測定することにより、Fibrilによる凝集を定量化した。
Controlベクターを導入した細胞において、Fibrilにより、約14%の細胞のEGFP-synucleinがドッド状に局在変化した。これらドット状のsynucleinは、パーキンソン患者脳のマーカーであるα-synucleinのアミノ酸129位のリン酸化を検出するanti-PSer129-synuclein抗体によって共染色されることがわかった(図17)。これは、細胞外から侵入した凝集synucleinが、細胞内で発現する正常な構造をしていたEGFP-synucleinを凝集化したことを示している。一方、STAND-6E-LYSを発現する細胞では、凝集化が2%まで抑えられていた(図18)。
以上の結果は、本発明が、抗原結合性ペプチドが細胞内で凝集することなく機能を保持させて発現させることに極めて有効であることを示した。
Figure 0007162897000007
Figure 0007162897000008
本発明は、例えば、各種の研究用途、並びに、診断および治療等の医学用途において利用することができる。

Claims (6)

  1. 細胞内安定化ペプチドと、抗原結合性ペプチドとを含む融合タンパク質であって、
    上記細胞内安定化ペプチドは、39個以下のアミノ酸からなり、かつ、当該アミノ酸の少なくとも45%が酸性アミノ酸であり、
    上記抗原結合性ペプチドは、重鎖CDR3を含み、
    前記細胞内安定化ペプチドは、配列番号1、13または33によって示されるアミノ酸配列を含んでいる、
    融合タンパク質。
  2. 上記細胞内安定化ペプチドは、配列番号13または33によって示されるアミノ酸配列を含んでおり、塩基性アミノ酸を含まない、請求項1に記載の融合タンパク質。
  3. 請求項1又は2に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
  4. 請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
  5. 細胞内において抗原結合性ペプチドを発現させる細胞を製造する方法であって、
    請求項3に記載のポリヌクレオチドまたは請求項4に記載の発現ベクターを細胞に導入する工程を含む、製造方法。
  6. 請求項1又は2に記載の融合タンパク質を発現する細胞。
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