JP7126322B2 - Alボンディングワイヤ - Google Patents

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Description

本発明は、Alボンディングワイヤに関するものである。
半導体装置では、半導体素子上に形成された電極と、リードフレームや基板上の電極との間をボンディングワイヤによって接続している。ボンディングワイヤに用いる材質として、超LSIなどの集積回路半導体装置では金(Au)や銅(Cu)が用いられ、一方でパワー半導体装置においては主にアルミニウム(Al)が用いられている。例えば、特許文献1には、パワー半導体モジュールにおいて、300μmφのアルミニウムボンディングワイヤ(以下「Alボンディングワイヤ」という。)を用いる例が示されている。また、Alボンディングワイヤを用いたパワー半導体装置において、ボンディング方法としては、半導体素子上電極との接続とリードフレームや基板上の電極との接続のいずれも、ウエッジ接合が用いられている。
Alボンディングワイヤを用いるパワー半導体装置は、エアコンや太陽光発電システムなどの大電力機器、車載用の半導体装置として用いられることが多い。これらの半導体装置においては、Alボンディングワイヤの接合部は100~150℃の高温にさらされる。Alボンディングワイヤとして高純度のAlのみからなる材料を用いた場合、このような温度環境ではワイヤが軟化しやすいため、高温環境で使用することが困難であった。
特許文献2には、Feを0.02~1重量%含有するAlワイヤが開示されている。Feを含有しないAlワイヤでは、半導体使用時の高温でワイヤ接合界面直上で再結晶が起き、小さな結晶粒となって、クラック発生の原因となる。これに対し、Fe:0.02%以上含有することで再結晶温度を高めることができる。伸線後のアニールにより、ボンディング前のワイヤ結晶粒径を50μm以上とする。結晶粒径が大きく、さらに半導体使用時の高温でも再結晶しないので、クラック発生がないとしている。
特許文献3の発明品3には、99.99wt%(4N)高純度Al-0.2wt%Fe合金インゴットを作成し、線引き加工後に300℃、30分焼鈍後徐冷して加工ひずみを除去して軟化させた、直径300μmのワイヤが開示されている。ボンディング後に100~200℃で1分~1時間の間時効させると、最高動作温度200℃になっても使用時の大電流繰り返し通電によって接続部に発生したクラックの進行を抑制することが可能になるとしている。
特許文献4には、鉄(Fe)が0.2~2.0質量%、残部が純度99.99%以上のアルミニウム(Al)からなるボンディングワイヤにおいて、Alマトリックス中にFeが0.01~0.05%固溶され、かつ、伸線マトリックス組織が数μmオーダーの均質な微細再結晶組織で、Fe・Al金属間化合物粒子が一様に晶出しているものが開示されている。調質熱処理前に溶体化・急冷処理を追加することにより、固溶するFe量を650℃での固溶限である0.052%まで高め、その後の伸線加工と、その後の調質熱処理により結晶粒径を微細化し、Alを高純度化することにより、ボンディング時に動的再結晶を発現させてチップダメージを回避したとしている。また、特許文献5には、Feが0.01~0.2質量%、Siが1~20質量ppmおよび残部が純度99.997質量%以上のAlからなり、Feの固溶量が0.01~0.06%であり、Feの析出量がFe固溶量の7倍以下であり、かつ、平均結晶粒径が6~12μmの微細組織であるアルミニウム合金細線が開示されている。Feの含有量を抑制して、Feの析出量とFe固溶量との比率を一定の範囲に保つことにより再結晶温度を安定化させ、さらに、Siを微量添加することにより強度を向上させ、結果として熱衝撃試験結果を安定化させるとしている。
特開2002-314038号公報 特開平8-8288号公報 特開2008-311383号公報 特開2013-258324号公報 特開2014-129578号公報
特許文献2~5に記載するような、Feを含有するAlボンディングワイヤを用いた半導体装置であっても、半導体装置を作動した高温状態において、ボンディングワイヤの接合部の接合信頼性が十分に得られないことがあった。
本発明は、Alボンディングワイヤを用いた半導体装置を作動した高温状態において、ボンディングワイヤの接合部の接合信頼性が十分に得られるAlボンディングワイヤを提供することを目的とする。
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]質量%で、Feを0.02~1%含有し、さらにMn、Crの少なくとも1種以上を合計で0.05~0.5%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.01~1%であることを特徴とするAlボンディングワイヤ。
[2]ワイヤ長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が0.1~50μmであることを特徴とする[1]に記載のAlボンディングワイヤ。
[3]ワイヤ長手方向に垂直な断面において、結晶<111>方位とワイヤ長手方向との角度差が15°以内である結晶の面積比率が30~90%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のAlボンディングワイヤ。
[4]ビッカース硬度がHv20~40の範囲であることを特徴とする[1]から[3]までのいずれか1つに記載のAlボンディングワイヤ。
[5]ワイヤ直径が50~600μmであることを特徴とする[1]から[4]までのいずれか1つに記載のAlボンディングワイヤ。
本発明のAlボンディングワイヤは、質量%で、Feを0.02~1%含有し、さらにMn、Crの少なくとも1種以上を合計で0.05~0.5%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.01~1%であることにより、Alボンディングワイヤを用いた半導体装置を作動した高温状態において、ボンディングワイヤの接合部の接合信頼性が十分に得られる。
特許文献4、5に記載の発明においては、Alボンディングワイヤ中にFeを含有させ、さらにワイヤ製造時における溶体化熱処理とその後の急冷処理によってワイヤ中における固溶Fe量を増大させることにより、結果として、ワイヤの強度が増大するとともに、再結晶温度が上昇し、高温での使用中における再結晶の進行を防止してワイヤ強度を維持しようとしている。
ところが、Feを含有させ、固溶Fe量を増大させたAlボンディングワイヤを用いた半導体装置であっても、半導体装置を高温状態において長時間作動させると、ボンディングワイヤの接合部の接合強度が低下する現象が見られ、即ち接合信頼性が十分に得られないことが判明した。高温長時間作動後の半導体装置のボンディングワイヤ断面を観察すると、ボンディング時と比較してワイヤの結晶粒径が増大しており、高温長時間作動によってワイヤの再結晶がさらに進行し、これによってワイヤ強度が低下し、接合部の信頼性が低下したものと推定された。
これに対して、本発明では、Alボンディングワイヤにおいて、Feの含有に加えてMn、Crの一方又は両方を所定量含有させることにより、溶体化熱処理とその後の急冷処理において、Fe、Mn、Crの固溶量の合計を0.01~1%とする。これにより、ワイヤの再結晶温度が上昇し、半導体装置を高温環境で長時間使用し続けたときにおいても、ボンディングワイヤの再結晶の進行を十分に抑制することができ、ワイヤの強度低下を防止できる。以下、詳細に説明する。
高温長時間履歴後の接合部信頼性評価試験について説明する。
使用したボンディングワイヤの成分は、Feのみを0.5質量%含有する比較例のAlボンディングワイヤと、Feを0.5%、Mnを0.5%含有する本発明のAlボンディングワイヤである。伸線後のワイヤ線径は200μmである。伸線工程の途中で溶体化熱処理とその後の急冷処理を実施してFe、Mn固溶量を増大させるとともに、伸線後のワイヤに調質熱処理を施して、ボンディングワイヤのビッカース硬度をHv40以下に調整した。ワイヤの平均結晶粒径はいずれも10μm前後であった。
ワイヤ中のFe、Mn、Crの固溶量の合計(質量%)については、残留抵抗比(RRR)によって評価した。残留抵抗比とは室温(293K)における電気抵抗と液体ヘリウム温度(4K)の電気抵抗の比であり、超伝導状態での電気抵抗は不純物量によって変化し、固溶量を反映した値とすることにより、アルミ中のFe、Mn、Crの固溶量の合計(質量%)を算出することができる。比較例のAlボンディングワイヤはFeの固溶量が0.005~0.009%であったのに対し、本発明のAlボンディングワイヤはFeとMnの固溶量の合計が0.02~0.94%であった。
半導体装置において、半導体チップとボンディングワイヤとの間の第1接合部、外部端子とボンディングワイヤとの間の第2接合部ともに、ウエッジボンディングとした。
高温長時間履歴は、パワーサイクル試験によって行った。パワーサイクル試験は、Alボンディングワイヤが接合された半導体装置について、加熱と冷却の繰り返しを行う。加熱は、半導体装置におけるボンディングワイヤの接合部の温度が140℃になるまで2秒間かけて加熱し、その後、接合部の温度が30℃になるまで5秒間かけて冷却する。この加熱・冷却のサイクルを20万回繰り返す。
上記高温長時間履歴後、第1接合部の接合シェア強度を測定し、接合部信頼性の評価を行った。その結果、Feのみを0.5質量%含有する比較例のAlボンディングワイヤについては、接合部シェア強度が初期と比べて50%未満であり、接合部の信頼性が不十分であった。それに対して、Feを0.5%、Mnを0.5%含有する本発明のAlボンディングワイヤについては、接合部シェア強度が初期と比べて90%以上であり、接合部の信頼性を十分に確保することができた。
上記高温長時間履歴後、ワイヤ断面の結晶観察を行ったところ、Feを0.5%、Mnを0.5%含有する本発明のAlボンディングワイヤは平均結晶粒径が50μm以下を維持していたのに対し、Feのみを0.5質量%含有する比較例のAlボンディングワイヤについては、平均結晶粒径が50μmを超えていた。FeとMnをともに含有し、結果としてFeとMnの固溶量の合計が0.01%以上であった本発明のワイヤは、再結晶温度が高く、高温長時間履歴後でも再結晶が進行しなかったと考えられる。それに対して、Feのみを含有し、結果としてFeの固溶量が0.01%未満であった比較例のワイヤは、再結晶温度が低くなり、高温長時間履歴において再結晶が進行し、強度が低下したため、接合部の信頼性を十分に確保することができなかったと考えられる。
本発明のボンディングワイヤの成分組成について説明する。%は質量%を意味する。
《Feを0.02~1%》
Alボンディングワイヤ中にFeを0.02%以上含有することにより、下記Mn、Cr等との複合添加効果と相まって、Fe、Mn、Crの固溶量合計の増大によるワイヤの固溶強化効果、及び半導体装置の高温長時間使用中における再結晶の進行防止効果を発揮することができる。Feが0.1%以上であればより好ましい。0.5%以上であればさらに好ましい。一方、Fe含有量が1%を超えると、ワイヤ硬度が高くなりすぎ、チップクラックの発生、接合性の悪化、接合部信頼性の低下などを起こすため、上限を1%とした。Feが0.8%以下であるとより好ましい。
《Mn、Crの少なくとも1種以上を合計で0.05~0.5%》
Mn、Crの少なくとも1種以上を合計で0.05%以上含有することにより、上記Feとの複合添加効果と相まって、ワイヤのFe、Mn、Crの固溶量合計の増大による固溶強化効果、及び半導体装置の高温長時間使用中における再結晶の進行防止効果を発揮することができる。Mn、Crのいずれであっても、同じように効果を発揮する。Mn、Crの合計含有量が0.1%以上であればより好ましい。0.3%以上であればさらに好ましい。一方、Mn、Crの合計含有量が0.5%を超えると、ワイヤ硬度が高くなりすぎ、チップクラックの発生、接合性の悪化、接合部信頼性の低下などを起こすため、上限を0.5%とした。Mn、Crの合計含有量が0.4%以下であるとより好ましい。
ボンディングワイヤの残部は、Al及び不可避不純物からなる。不可避不純物元素としては、Si、Cuが挙げられる。不可避不純物の合計含有量が少ないほど、材料特性のばらつきを小さく抑えることが可能であって好ましい。ワイヤを製造する際のアルミニウム原料として、純度が4N(Al:99.99%以上)のアルミニウムを用いることにより、好ましい結果を得ることができる。
《Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.01~1%》
Fe、Mn、Crの固溶量の合計を0.01%以上とすることにより、ワイヤの再結晶温度を十分に上昇させることができる。結果として、半導体装置の高温長時間使用中における再結晶の進行防止効果を発揮することができる。Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.05%以上であるとより好ましい。0.5%以上であればさらに好ましい。一方、Fe、Mn、Crの固溶量の合計が1%を超えると、ワイヤ硬度が高くなりすぎ、チップクラックの発生、接合性の悪化などを起こすため、上限を1%とした。Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.9%以下であればより好ましい。0.8%以下であればさらに好ましい。なお、Fe含有量からFe固溶量を差し引くことにより、Fe析出量を算出することができる。
《ワイヤの平均結晶粒径》
本発明において好ましくは、ボンディングワイヤのワイヤ長手方向に垂直な断面(C断面)における平均結晶粒径が0.1~50μmである。平均結晶粒径の測定方法としては、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)などの測定方法を用いて各結晶粒の面積を求め、各結晶粒の面積を円の面積に換算してその直径の平均とする。平均結晶粒径が0.1μm以上であれば、伸線時の調質熱処理による再結晶が適度に進行しており、ワイヤ製造の過程で溶体化熱処理を行ってワイヤ含有成分を強制固溶することと相まって、ワイヤが軟化し、ボンディング時のチップ割れの発生、接合部の接合性の低下などを防止することができる。一方、平均結晶粒径が50μmを超えると、ワイヤの再結晶が進行しすぎていることを示し、十分な強度を得ることができにくい。ワイヤ伸線の過程で調質熱処理を行うことにより、ワイヤのC断面における平均結晶粒径を0.1~50μmとすることができる。
《ワイヤの<111>方位面積率》
本発明において好ましくは、ボンディングワイヤ長手方向に垂直な断面(C断面)において、結晶<111>方位とワイヤ長手方向との角度差が15°以内である結晶の面積比率(<111>方位面積率)が30~90%である。<111>方位面積率の測定には、EBSDを用いることができる。ボンディングワイヤ長手方向に垂直な断面を検査面とし、装置に付属している解析ソフトを利用することにより、<111>方位面積率を算出できる。<111>方位面積率が90%以下であれば、伸線時の調質熱処理による再結晶が適度に進行し、ワイヤが軟化し、ボンディング時のチップ割れの発生、接合部の接合性の低下などを防止することができる。一方、<111>方位面積率が30%未満であると、ワイヤの再結晶が進行しすぎていることを示し、十分な強度を得ることができにくい。ワイヤ伸線の過程で調質熱処理を行うことにより、ワイヤ長手方向に垂直な断面における<111>方位面積率を30~90%とすることができる。
《ワイヤのビッカース硬度》
本発明において好ましくは、ボンディングワイヤのワイヤ長手方向に垂直な断面(C断面)において、ビッカース硬度がHv20~40の範囲である。Hv40以下とすることにより、ボンディング時にチップ割れを発生することなく、良好な接合性を実現し、また容易にループを形成して半導体装置に対する配線を行うことができる。一方、ビッカース硬度がHv20未満まで低下すると、ワイヤの再結晶が進行しすぎていることを示し、接合部の信頼性が低下する恐れがある。そのため、ビッカース硬度の下限はHv20とすると好ましい。前述のとおり、ワイヤ製造の過程で溶体化熱処理と急冷処理を行ってFe、Mn、Crの固溶量の合計を増大し、さらに伸線の過程で調質熱処理を行うことにより、ワイヤのビッカース硬度をHv20~40の範囲とすることができる。
《ワイヤ直径》
本発明において好ましくは、ボンディングワイヤ直径が50~600μmである。パワー系デバイスには大電流が流れるため一般的に50μm以上のワイヤが使用されるが、600μm以上になると扱いづらくなることやワイヤボンダーが対応していないため、600μm以下のワイヤが使用されている。
《ボンディングワイヤの製造方法》
本発明のボンディングワイヤは、所定の成分を含有するAl合金を得た上で、常法の圧延と伸線加工を行うことにより製造する。
製造の途中で、溶体化熱処理とその後の急冷処理を行う。溶体化熱処理は、ワイヤ径が1mm程度の段階で行うことができる。溶体化熱処理条件は、570~640℃、1~3時間とすると好ましい。溶体化熱処理後の急冷処理は、水中にて急冷とすると好ましい。これにより、Al中にFe及びMn、Crの一方又は両方を本発明範囲内で含有していることと相まって、Fe、Mn、Crの固溶量の合計を本発明範囲内とすることができる。
伸線加工中と伸線加工後の一方又は両方において、調質熱処理を行う。調質熱処理の温度を高くし、時間を長くするほど、平均結晶粒径が増大し、<111>方位比率を低下させ、ビッカース硬度を低下させることができる。熱処理温度250~350℃の範囲、熱処理時間2~4時間の範囲において、好適な平均結晶粒径、<111>方位比率、ビッカース硬度を実現するように、調質熱処理条件を選択することができる。
純度99.99質量%(4N)のアルミニウムと、純度99.9質量%以上のFe、Mn、Crを原料として溶融し、表1に示す組成のAl合金を得た。この合金を鋳塊とし、鋳塊を溝ロール圧延し、さらに伸線加工を行った。ワイヤ径が800μmの段階で、(温度、時間)620℃、3時間の溶体化熱処理を行い、冷却した。冷却条件は、急冷(水冷)、緩冷(空冷)の2種類とした。その後、最終線径を200μmとしてダイス伸線加工を行い、伸線加工終了後に(温度、時間)270℃、10秒で調質熱処理を行った。
ワイヤ中のFe、Mn、Cr含有量については、ICP(発光分光分析)を用いて分析した。また、ワイヤ中のFe、Mn、Crの固溶量の合計(質量%)については、残留抵抗比(RRR)によって評価した。
このワイヤを用いて、ワイヤ長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径、結晶<111>方位とワイヤ長手方向との角度差が15°以内である結晶の面積比率(<111>方位面積率)、ビッカース硬度の計測を行った。
平均結晶粒径の測定は、EBSDを用いて各結晶粒の面積を求め、各結晶粒の面積を円に見なした時の直径の平均として行った。
<111>方位面積率の測定は、ボンディングワイヤ長手方向に垂直な断面においてEBSPによる測定を行い、装置に付属している解析ソフトを利用することにより、<111>方位面積率を算出した。
ビッカース硬度の測定は、C断面の硬度を用い、C断面のうちの半径方向の中心の位置における硬度として測定を行った。
半導体装置において、半導体チップ電極はAl-Cuであり、外部端子はAgを用いた。半導体チップ電極とボンディングワイヤとの間の第1接合部、外部端子とボンディングワイヤとの間の第2接合部ともに、ウエッジボンディングとした。
半導体装置におけるボンディングワイヤの接合性については、第1接合部の初期(高温長時間履歴前)の接合不良(不着)の有無で判断した。接合されているものを○とし、接合されていないものを×として表1、2の「接合性」欄に記載した。
半導体装置におけるチップクラック評価については、パッド表面の金属を酸にて溶かし、パッド下のチップクラックの有無を顕微鏡にて観察して評価した。クラックなしを○とし、クラック有りを×として、表1の「チップクラック」欄に記載した。
高温長時間履歴は、パワーサイクル試験によって行った。パワーサイクル試験は、Alボンディングワイヤが接合された半導体装置について、加熱と冷却の繰り返しを行う。加熱は、半導体装置におけるボンディングワイヤの接合部の温度が140℃になるまで2秒間かけて加熱し、その後、接合部の温度が30℃になるまで5秒間かけて冷却する。この加熱・冷却のサイクルを20万回繰り返す。
上記高温長時間経過後、第1接合部の接合シェア強度を測定し、接合部信頼性の評価を行った。シェア強度測定は初期の接合部のシェア強度との比較として行った。初期の接合強度の95%以上を◎とし、90%以上を○とし、70%以上を△とし、50%以下を×として、表1の「信頼性試験」欄に記載した。
製造条件、製造結果を表1に示す。Mn、Crを「第2成分」として示している。表1において、成分が本発明範囲から外れる数値、評価結果が本発明好適範囲を外れる数値に下線を付している。
Figure 0007126322000001
表1の本発明例No.1~18が本発明例である。溶体化処理後は急冷としている。ワイヤの成分及びFe、Mn、Crの固溶量の合計は本発明範囲内にあり、また、ワイヤの平均結晶粒径、<111>方位面積率、ビッカース硬度はいずれも、本発明の好適範囲内にあり、接合性とチップクラックの評価結果はすべて「○」であった。本発明で規定する成分を含有し、溶体化熱処理と急冷処理を行って析出Fe/固溶Fe比を低下し、さらに調質熱処理によって適度な再結晶を行った結果である。
本発明例No.1~18の高温長時間履歴後の接合部信頼性の評価において、いずれも「○」か「◎」であった。本発明で規定する成分とFe、Mn、Crの固溶量の合計を含有している結果として、ワイヤの固溶強化を図るとともに、再結晶温度を上昇させ、高温長時間履歴における再結晶の進行を阻止したためである。特に、本発明例No.7~12については、Fe含有量が本発明の好適範囲内であり、接合部信頼性評価結果はすべて「◎」であった。
表1の比較例No.1~13が比較例である。溶体化処理後の冷却条件は、比較例1~10が急冷、比較例11~13が緩冷である。
比較例No.1~3は、Fe含有量が本発明下限未満であり、比較例No.1はさらにMn、Crの合計含有量が本発明下限未満であり、比較例No.3はさらにMn、Crの合計含有量が本発明上限を超えている。いずれも、信頼性評価結果が「×」であった。また、高温長時間履歴後のワイヤ内質を評価したところ、比較例No.1~3のいずれも、平均結晶粒径が50μmを超えていた。ワイヤ中のFeが不足し、再結晶温度が十分に上昇せず、高温長時間履歴において再結晶が過度に進行したためと推定される。
比較例No.4、5は、Mn、Crの合計含有量が本発明の下限未満であり、Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.01%未満であった。いずれも、信頼性評価結果が「×」であった。高温長時間履歴後のワイヤ内質を評価したところ、いずれも、平均結晶粒径が50μmを超えていた。ワイヤ中のMn、Crの合計含有量が不足し、溶体化処理と急冷によっても、Fe、Mn、Crの固溶量の合計を0.01%以上とすることができず、再結晶温度が十分に上昇せず、高温長時間履歴において再結晶が過度に進行したためと推定される。
比較例No.6は、Mn、Crの合計含有量が本発明の上限を超えている。その結果、ワイヤのビッカース硬度は好適範囲上限を外れていた。また、ボンディング後の接合性、チップクラックはいずれも「×」であり、信頼性評価結果も「×」であった。
比較例No.7~10は、Fe含有量が本発明の上限を超えている。さらに比較例No.7、8はMn、Crの合計含有量が本発明下限未満、比較例No.10はMn、Crの合計含有量が本発明の上限を超えている。比較例No.7~10のいずれも、Fe含有量が本発明の上限を超えているため、ビッカース硬度が本発明の好適上限外れとなっている。比較例No.10はMn、Crの合計含有量も上限を超えているため、強制固溶しても固溶しきれず析出することとなり、平均結晶粒径が本発明の好適下限未満、<111>方位面積率が本発明の好適上限外れとなった。その結果、比較例No.7~10のいずれも、接合性、チップクラックについていずれも「×」であるとともに、高温長時間履歴後の接合部信頼性評価結果も「×」であった。
比較例No.11~13は、成分範囲は本発明範囲内であるが、製造時の溶体化処理後の冷却条件が「緩冷」であり、結果としてワイヤ中のFe、Mnの固溶が十分に進行せず、Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.01%未満となる結果であった。ワイヤの硬度も好適範囲下限未満であった。いずれも、信頼性評価結果が「×」であった。また、高温長時間履歴後のワイヤ内質を評価したところ、いずれも、平均結晶粒径が50μmを超えていた。Fe、Mn、Crの固溶量の合計を0.01%以上とすることができなかったため、再結晶温度が十分に上昇せず、高温長時間履歴において再結晶が過度に進行したためと推定される。

Claims (5)

  1. 質量%で、Feを0.02~1%含有し、さらにMn、Crの少なくとも1種以上を合計で0.05~0.5%含有し、残部がAl及び不可避不純物からなり、Fe、Mn、Crの固溶量の合計が0.01~1%であることを特徴とするAlボンディングワイヤ。
  2. ワイヤ長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が0.1~50μmであることを特徴とする請求項1に記載のAlボンディングワイヤ。
  3. ワイヤ長手方向に垂直な断面において、結晶<111>方位とワイヤ長手方向との角度差が15°以内である結晶の面積比率が30~90%であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のAlボンディングワイヤ。
  4. ビッカース硬度がHv20~40の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のAlボンディングワイヤ。
  5. ワイヤ直径が50~600μmであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のAlボンディングワイヤ。
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