JP6838428B2 - 高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品 - Google Patents

高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物およびそれを用いた成形品 Download PDF

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Description

本発明は、ポリアミド6樹脂にアミド系ワックスを特定量配合してなる、高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形品に関するものである。
近年、石油燃料の枯渇や、有害ガス排出量の削減の要請に対応するために、水素と空気中の酸素を電気化学的に反応させて発電する燃料電池を自動車に搭載し、燃料電池が発電した電気をモータに供給して駆動力とする燃料電池電気自動車が注目されてきている。自動車搭載用の高圧水素用タンクとして、樹脂製のライナーの外側を炭素繊維強化樹脂で補強してなる樹脂製タンクが検討されている。しかしながら、水素は分子サイズが小さいため、比較的分子サイズの大きい天然ガスなどに比べ、樹脂中を透過し易いこと、および、高圧水素は常圧の水素に比べ、樹脂中に蓄積される量が多くなることなどから、これまでの樹脂製タンクでは、高圧水素の充填および放圧を繰り返すと、タンクの変形や破壊が起こる課題があった。また、樹脂製のライナーを成形する際に、離型性が不足する課題があった。
ガスバリア性に優れ、低温でも優れた耐衝撃性を有する水素タンクライナー用材料として、例えば、ポリアミド6、共重合ポリアミド、および耐衝撃材を含むポリアミド樹脂組成物からなる水素タンクライナー用材料が検討されている(例えば、特許文献1参照)。
また、ガスバリア性に優れたガス貯蔵タンク用ライナーとして、例えば、ポリアミド、成核剤および耐衝撃性改良剤を含むポリマー組成物を含有するガス貯蔵タンク用ライナーが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
特開2009−191871号公報 特表2014−501818号公報
高圧水素に触れる成形品の製造方法の1つとして、射出成形が挙げられる。例えば樹脂製のガス貯蔵タンク用ライナーを射出成形する際は、大型の成形品を成形することとなるため、離型性不足により成形品の外観不良が発生し、成形品を得ることができない場合がある。そのため、大型の成形品を射出成形するためには高い離型性が求められている。
しかしながら、特許文献1に記載された水素タンクライナーは、水素ガスの透過や、水素の樹脂中への溶解が生じやすく、高圧水素の充填および放圧を繰り返すと、水素タンクライナーに欠陥点が生じる課題があった。また、ポリアミド樹脂の離型性が低く、離型性に課題があった。
また、特許文献2に記載されたガス貯蔵タンク用ライナーは、ヘリウムガス耐透過性には優れるものの、水素ガスの透過や、水素の樹脂中への溶解が生じやすく、高圧水素の充填および放圧を繰り返すと、水素タンクライナーに欠陥点が生じる課題があった。また、ポリアミド樹脂の離型性が低く、離型性に課題があった。
本発明は、上記従来技術の課題に鑑み、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制され、離型性に優れた成形品を得ることのできるポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
上記目的を達成するために、本発明は以下の構成を有するものである。
ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、炭素数10以上30以下の高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸およびジアミンを反応せしめたアミド化合物であるアミド系ワックス(B)を0.1〜5重量部配合してなる、高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物であり、該アミド系ワックス(B)の融点が215℃〜255℃である、高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物
本発明は、上記のポリアミド樹脂組成物からなる、高圧水素に触れる成形品を含む。
本発明は、上記のポリアミド樹脂組成物からなる高圧水素用タンクライナーを含む。
本発明は、上記のポリアミド樹脂組成物からなるタンクライナーの表層に、炭素繊維強化樹脂補強層が積層されてなる、高圧水素用タンクを含む。
本発明の高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物は、結晶化温度が高く、溶融状態からの結晶化が早く進むので結晶化速度が速くなり、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制され、離型性に優れた成形品を提供することができる。本発明の成形品は、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点が発生しにくく、離型性に優れた特長を活かして、高圧水素に触れる用途に用いられる成形品として有用に展開することが可能となる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物(以下、「ポリアミド樹脂組成物」と記載する場合がある)はポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、アミド系ワックス(B)を0.01〜10重量部配合してなる。成形性、ガスバリア性、剛性および靱性のバランスに優れるポリアミド6樹脂(A)に、アミド系ワックス(B)を特定量配合することにより、結晶化温度が高く、溶融状態からの結晶化が早く進むので結晶化速度が速くなり、緻密で均一な結晶が形成されることから、水素ガスの透過や、水素の樹脂中への溶解を抑制することができるため、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点が発生しにくい。また、成形時の離型性が向上し、離型性に優れた成形品を得ることができる。一方、ポリアミド6樹脂(A)と、アミド系ワックス(B)以外の離型剤や有機核剤、無機核剤との組み合わせでは、高圧水素の充填および放圧を繰り返すと、成形品に欠陥点が発生しやすく、また、成形時の離型性は向上せず、成形品の靭性が低下する。
本発明に用いられるポリアミド6樹脂(A)とは、6−アミノカプロン酸および/またはε−カプロラクタムを主たる原料とするポリアミド樹脂である。本発明の目的を損なわない範囲で、他の単量体が共重合されたものでもよい。ここで、「主たる原料とする」とは、ポリアミド樹脂を構成する単量体単位の合計100モル%中、6−アミノカプロン酸由来の単位またはε−カプロラクタム由来の単位を合計50モル%以上含むことを意味する。6−アミノカプロン酸由来の単位またはε−カプロラクタム由来の単位を70モル%以上含むことがより好ましく、90モル%以上含むことがさらに好ましい。
共重合される他の単量体としては、例えば、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ω−ラウロラクタムなどのラクタム;テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4−/2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン;メタキシレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン;1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジンなどの脂環族ジアミン;アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、2−クロロテレフタル酸、2−メチルテレフタル酸、5−メチルイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸が挙げられる。これらを2種以上共重合してもよい。
ポリアミド6樹脂(A)の重合度には特に制限がないが、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中、25℃で測定した相対粘度が、1.5〜7.0の範囲であることが好ましい。相対粘度が1.5以上であれば、成形時のポリアミド樹脂組成物の溶融粘度が適度に高くなり、成形時の空気の巻き込みを抑制し、成形性をより向上させることができる。相対粘度は1.8以上がより好ましい。一方、相対粘度が7.0以下であれば、ポリアミド樹脂組成物の成形時の溶融粘度が適度に低くなり、成形性をより向上させることができる。
ポリアミド6樹脂(A)のアミノ末端基量には特に制限がないが、1.0×10−5〜10.0×10−5mol/gの範囲であることが好ましい。アミノ末端基量が1.0×10−5〜10.0×10−5mol/gの範囲であれば、十分な重合度が得られ、成形品の機械強度を向上させることができる。ここで、ポリアミド6樹脂(A)のアミノ末端基量は、ポリアミド6樹脂(A)を、フェノール・エタノール混合溶媒(83.5:16.5(体積比))に溶解し、0.02N塩酸水溶液を用いて滴定することにより求めることができる。
本発明に用いられるアミド系ワックス(B)とは、モノカルボン酸とジアミンを反応せしめてなるアミド化合物、モノアミンと多塩基酸を反応せしめてなるアミド化合物、モノカルボン酸と多塩基酸とジアミンを反応せしめてなるアミド化合物などが挙げられる。これらは相当するアミンとカルボン酸の脱水反応等により得ることができる。
前記モノアミンとしては炭素数5以上のモノアミンが好ましく、その具体例としては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミンなどが例示でき、これらは2種以上を併用しても良い。中でも炭素数10以上20以下の高級脂肪族モノアミンが特に好ましい。炭素数が20より大きくなると、ポリアミド6樹脂(A)との相溶性が低下し、析出する恐れがある。
前記モノカルボン酸は炭素数5以上の脂肪族モノカルボン酸およびヒドロキシカルボン酸が好ましく、その具体例としては、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ベヘン酸、モンタン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、安息香酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用しても良い。中でも炭素数10以上30以下の高級脂肪族モノカルボン酸が特に好ましい。炭素数が30より大きくなると、ポリアミド6樹脂(A)との相溶性が低下し、析出する恐れがある。
前記ジアミンの具体例としてはエチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノプロパン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、トリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミンなどが挙げられ、これらは2種以上を併用しても良い。なかでもエチレンジアミンが特に好適である。
前記多塩基酸とは、二塩基酸以上のカルボン酸であり、その具体例としてはマロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シクロへキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸などの脂環式ジカルボン酸などが挙げられ、これらは2種以上を併用しても良い。
中でも高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸およびジアミンを反応せしめたアミド化合物が特に好適であり、例えば、ステアリン酸、セバシン酸およびエチレンジアミンを反応せしめてなるアミド化合物が好ましく挙げられる。その際の各成分の混合割合は、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対し、多塩基酸0.18モル〜1.0モル、ジアミン1.0モル〜2.2モルの範囲が好適であり、高級脂肪族モノカルボン酸2モルに対し、多塩基酸0.5モル〜1.0モル、ジアミン1.5モル〜2.0モルの範囲が更に好適である。

アミド系ワックス(B)の融点には特に制限はないが、DSC測定による融点がポリアミド6樹脂(A)の融点以上であることが好ましい。アミド系ワックス(B)の融点がポリアミド6樹脂(A)の融点以上であると、より成形時の離型性が向上する。
ここで、本発明におけるポリアミド6樹脂(A)およびアミド系ワックス(B)のDSC測定による融点は、次の方法により求めることができる。まず、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行う。サンプル量を8〜10mgとして、昇温速度20℃/分の条件で昇温して得られる融解曲線の最大値を示す温度より15℃高い温度で1分間保持した後、20℃/分の降温速度で30℃まで冷却する。さらに、温度30℃で1分間保持した後、20℃/分の速度で、1回目の昇温工程と同様に、2回目の昇温工程を行う。この2回目の昇温工程において観測される融解吸熱ピーク温度を融点とする。
本発明のポリアミド樹脂組成物におけるアミド系ワックス(B)の配合量は、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して0.01〜10重量部である。アミド系ワックス(B)の配合量を0.01重量部未満とすると、離型性の向上効果が十分ではなく、また、高圧の水素の充填および放圧を繰り返すことにより欠陥点が発生しやすくなる。アミド系ワックス(B)の配合量は0.05重量部以上が好ましく、0.1重量部以上がさらに好ましい。一方、アミド系ワックス(B)の配合量が10重量部を超えると、靭性が低下し、高圧の水素の充填および放圧を繰り返すことにより欠陥点が発生しやすくなる。アミド系ワックス(B)の配合量は7重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましい。
ポリアミド樹脂組成物は、耐衝撃材(C)をさらに配合してなることが好ましい。耐衝撃材(C)を配合することにより、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。また、高圧水素に触れる用途に用いられる成形品は、高圧水素の充填および放圧により、−40℃以下から90℃以上への温度変化(ヒートサイクル)を繰り返し受けるため、例えば、樹脂部と金属部とを有する複合品の場合、樹脂部と金属部との結合部において割れが発生しやすい。耐衝撃材(C)を配合することにより、このようなヒートサイクルの繰り返しにより生じる樹脂部と金属部との結合部における割れを抑制することができ、耐ヒートサイクル性を向上させることができる。
耐衝撃材(C)としては、例えば、オレフィン系樹脂、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、フッ素系ゴム、スチレン系ゴム、ニトリル系ゴム、ビニル系ゴム、ウレタン系ゴム、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー、アイオノマーなどが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。
これらの中でも、ポリアミド6樹脂(A)およびアミド系ワックス(B)との相溶性に優れ、耐ヒートサイクル性改良効果が高いことから、オレフィン系樹脂が好ましく用いられる。オレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン、ペンテンなどのオレフィン単量体を重合して得られる熱可塑性樹脂である。2種以上のオレフィン単量体の共重合体であってもよいし、これらのオレフィン単量体と他の単量体との共重合体であってもよい。オレフィン系樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテンなどの重合体またはこれらの共重合体;エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン/α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、α−オレフィン/α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体、[(エチレンおよび/またはプロピレン)とビニルアルコールエステルとの共重合体]の少なくとも一部を加水分解して得られるポリオレフィン、(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体、[(エチレンおよび/またはプロピレン)と(不飽和カルボン酸および/または不飽和カルボン酸エステル)との共重合体]のカルボキシル基の少なくとも一部を金属塩化して得られるポリオレフィン、共役ジエンとビニル芳香族炭化水素とのブロック共重合体またはその水素化物などが挙げられる。これらの中でも、エチレン/α−オレフィン共重合体、エチレン/α,β−不飽和カルボン酸エステル共重合体がより好ましく、エチレン/α−オレフィン共重合体がさらに好ましい。
また、前記ポリオレフィン系樹脂は、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されていてもよい。ここで、不飽和カルボン酸の誘導体とは、不飽和カルボン酸のカルボキシル基のヒドロキシ基部分を他の置換基で置換した化合物であり、不飽和カルボン酸の金属塩、酸ハロゲン化物、エステル、酸無水物、アミドおよびイミドなどである。このような変性ポリオレフィン系樹脂を用いることにより、ポリアミド6樹脂(A)およびアミド系ワックス(B)との相溶性が一層向上し、耐ヒートサイクル性をより向上させることができる。不飽和カルボン酸またはその誘導体としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸およびこれらカルボン酸の金属塩;マレイン酸水素メチル、イタコン酸水素メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、メタアクリル酸アミノエチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジメチルなどの不飽和カルボン酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物などの酸無水物;マレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジル、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物が好ましく、マレイン酸または無水マレイン酸が特に好ましい。
これらの不飽和カルボン酸またはその誘導体をポリオレフィン系樹脂に導入する方法としては、例えば、オレフィン単量体と、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体を共重合する方法、ラジカル開始剤を用いて、未変性ポリオレフィン系樹脂に、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体をグラフト導入する方法などを挙げることができる。
エチレン/α−オレフィン共重合体としては、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィンとの共重合体が好ましい。炭素数3〜20のα−オレフィンとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらα−オレフィンの中でも、炭素数3〜12のα−オレフィンが、機械強度の向上の観点から好ましい。さらに、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、2,5−ノルボルナジエン、5−エチリデンノルボルネン、5−エチル−2,5−ノルボルナジエン、5−(1’−プロペニル)−2−ノルボルネンなどの非共役ジエンの少なくとも1種が共重合されていてもよい。不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されたエチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体が、ポリアミド6樹脂(A)およびアミド系ワックス(B)との相溶性を一層向上させ、耐ヒートサイクル性をより向上させることができるので、より好ましい。また、より高圧の水素で充填および放圧を繰り返しても、欠陥点の発生を抑制することができる。エチレン/α−オレフィン共重合体中のα−オレフィン含有量は、好ましくは1〜30モル%、より好ましくは2〜25モル%、さらに好ましくは3〜20モル%である。
耐衝撃材(C)の構造は、特に限定されず、例えば、ゴムからなる少なくとも1つの層と、それとは異種の重合体からなる1つ以上の層からなる、いわゆるコアシェル型と呼ばれる多層構造体であってもよい。多層構造体を構成する層の数は、2層以上であればよく、3層以上または4層以上であってもよいが、内部に1層以上のゴム層(コア層)を有することが好ましい。多層構造体のゴム層を構成するゴムの種類は、特に限定されるものではなく、例えば、アクリル成分、シリコーン成分、スチレン成分、ニトリル成分、共役ジエン成分、ウレタン成分、エチレン成分、プロピレン成分、イソブテン成分などを重合させて得られるゴムが挙げられる。多層構造体のゴム層以外の層を構成する異種の重合体の種類は、熱可塑性を有する重合体であれば特に限定されるものではないが、ゴム層よりもガラス転移温度が高い重合体が好ましい。熱可塑性を有する重合体としては、例えば、不飽和カルボン酸アルキルエステル単位、不飽和カルボン酸単位、不飽和グリシジル基含有単位、不飽和ジカルボン酸無水物単位、脂肪族ビニル単位、芳香族ビニル単位、シアン化ビニル単位、マレイミド単位、不飽和ジカルボン酸単位およびその他のビニル単位などを含有する重合体が挙げられる。
ポリアミド樹脂組成物における耐衝撃材(C)の配合量は、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、1〜50重量部が好ましい。耐衝撃材(C)の配合量を1重量部以上とすることにより、耐ヒートサイクル性をより向上させることができる。耐衝撃材(C)の配合量は、5重量部以上がより好ましく、10重量部以上がさらに好ましい。一方、耐衝撃材(C)の配合量を50重量部以下とすることにより、高圧の水素で充填および放圧を繰り返しても、欠陥点の発生を抑制することができる。耐衝撃材(C)の配合量は、45重量部以下がより好ましく、40重量部以下がさらに好ましく、35重量部以下がさらに好ましい。
ポリアミド樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、前記成分(A)、(B)および(C)以外のその他の成分を配合しても構わない。その他の成分としては、例えば、充填材、前記成分(A)〜(C)以外の熱可塑性樹脂類および各種添加剤類を挙げることができる。
例えば、ポリアミド樹脂組成物に、その他の成分として、充填材を配合することにより、得られる成形品の強度および寸法安定性等を向上させることができる。充填材の形状は、繊維状であっても非繊維状であってもよく、繊維状充填材と非繊維状充填材を組み合わせて用いてもよい。繊維状充填材としては、例えば、ガラス繊維、ガラスミルドファイバー、炭素繊維、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられる。非繊維状充填材としては、例えば、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩;アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物;ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素および炭化珪素などが挙げられる。これらは中空であってもよい。また、これら繊維状および/または非繊維状充填材を、カップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械特性を得る意味において好ましい。カップリング剤としては、例えば、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などが挙げられる。
熱可塑性樹脂類としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリスルホン樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリスチレン樹脂やABS樹脂等のスチレン系樹脂、ポリアルキレンオキサイド樹脂等が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂類を2種以上配合することも可能である。
各種添加剤類としては、例えば、着色防止剤、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミンなどの酸化防止剤、離型剤、可塑剤、熱安定剤、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられる。
ポリアミド樹脂組成物には、銅化合物を配合することが、長期耐熱性を向上させることができるので好ましい。銅化合物としては、例えば、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、ヨウ化第二銅、硫酸第二銅、硝酸第二銅、リン酸銅、酢酸第一銅、酢酸第二銅、サリチル酸第二銅、ステアリン酸第二銅、安息香酸第二銅および前記無機ハロゲン化銅とキシリレンジアミン、2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールなどの錯化合物などが挙げられる。これらを2種以上配合してもよい。なかでも1価の銅化合物、とりわけ1価のハロゲン化銅化合物が好ましく、酢酸第1銅、ヨウ化第1銅などが好ましい。銅化合物の配合量は、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して0.01重量部以上が好ましく、0.015重量部以上がより好ましい。一方、成形時の金属銅の遊離に起因する着色を抑制する観点から、銅化合物の配合量は、2重量部以下が好ましく、1重量部以下がより好ましい。
また、銅化合物とともにハロゲン化アルカリを配合してもよい。ハロゲン化アルカリ化合物としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、臭化ナトリウムおよびヨウ化ナトリウムを挙げることができる。これらを2種以上配合してもよい。ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムが特に好ましい。
ポリアミド樹脂組成物のDSC測定による降温結晶化温度は、180℃以上であることが好ましく、183℃以上であることがより好ましい。ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度が180℃以上であれば、ポリアミド樹脂組成物の溶融状態からの冷却過程において、緻密で均一な結晶が形成されやすくなることで、水素透過性が低くなり、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点の発生を抑制できるポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度は、180℃以上が好ましく、183℃以上がより好ましい。
なお、本発明において、ポリアミド樹脂組成物のDSC測定による降温結晶化温度は、次の方法で求めることができる。まず、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行う。サンプル量を8〜10mgとして、昇温速度20℃/分の条件で昇温して得られる融解曲線の最大値を示す温度より15℃高い温度で1分間保持した後、20℃/分の降温速度で30℃まで冷却したときに観測される結晶化発熱ピーク温度を降温結晶化温度とする。ただし、ピークが2つ以上観測される場合には、結晶化発熱ピークの最も大きいものに対応する温度を、ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度とする。
ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度を上記範囲にする手段としては、例えば、前述の好ましいポリアミド樹脂組成物を用いる方法などが挙げられる。
次に、本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の熱可塑性ポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、特に制限はなく、例えば、ポリアミド6樹脂(A)とアミド系ワックス(B)および必要に応じて耐衝撃材(C)やその他成分を一括混練する方法、ポリアミド6樹脂(A)を溶融した後にアミド系ワックス(B)および必要に応じて耐衝撃材(C)やその他成分を混練する方法、ポリアミド6樹脂(A)とアミド系ワックス(B)を溶融してから必要に応じて耐衝撃材(C)やその他成分を混練する方法などが挙げられる。混練装置としては、例えば、バンバリーミキサー、ロール、押出機等の公知の混練装置を採用することができる。本発明のポリアミド樹脂組成物に耐衝撃材(C)および各種添加剤類などのその他成分を配合する場合、これらを任意の段階で配合することができる。例えば、二軸押出機により本発明のポリアミド樹脂組成物を製造する場合、ポリアミド6樹脂(A)とアミド系ワックス(B)を配合する際に耐衝撃材(C)、その他の成分を同時に配合する方法や、ポリアミド6樹脂(A)とアミド系ワックス(B)を溶融混練中にサイドフィード等の手法により耐衝撃材(C)およびその他の成分を配合する方法や、予めポリアミド6樹脂(A)とアミド系ワックス(B)を溶融混練した後に耐衝撃材(C)およびその他の成分を配合する方法や、予め、ポリアミド6樹脂(A)に耐衝撃材(C)およびその他の成分を配合して溶融混練後、アミド系ワックス(B)を配合する方法などが挙げられる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、任意の方法により成形して成形品を得ることが可能である。成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。成形形状としては、例えば、ペレット状、板状、繊維状、ストランド状、フィルムまたはシート状、パイプ状、中空状、箱状等の形状が挙げられる。
本発明の成形品は、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制される優れた特徴を活かして、高圧水素に触れる成形品に用いられる。ここでいう高圧水素に触れる成形品とは、常圧以上の圧力の水素に触れる成形品である。高圧水素の充填および放圧を繰り返したときの欠陥点の発生を抑制する効果を奏することから、圧力20MPa以上の水素に触れる成形品用途に好ましく用いられ、30MPa以上の水素に触れる成形品用途により好ましく用いられる。一方、圧力200MPa以下の水素に触れる成形品用途に好ましく用いられ、150MPa以下の水素に触れる成形品用途により好ましく用いられ、100MPa以下の水素に触れる成形品用途にさらに好ましく用いられる。高圧水素に触れる成形品としては、例えば、高圧水素用開閉バルブ、高圧水素用逆止弁、高圧水素用減圧弁、高圧水素用圧力調整弁、高圧水素用シール、高圧水素用ホース、高圧水素用タンク、高圧水素用タンクライナー、高圧水素用パイプ、高圧水素用パッキン、高圧水素用圧力センサ、高圧水素用ポンプ、高圧水素用チューブ、高圧水素用レギュレーター、高圧水素用フィルム、高圧水素用シート、高圧水素用繊維、高圧水素用継ぎ手等が挙げられる。中でも、高圧水素用開閉バルブ、高圧水素用逆止弁、高圧水素用減圧弁、高圧水素用圧力調整弁、高圧水素用タンク、高圧水素用タンクライナー、高圧水素用パッキン、高圧水素用圧力センサ、高圧水素用ポンプ、高圧水素用レギュレーター、高圧水素用継ぎ手等の高圧水素容器およびその周辺部品に好ましく使用することができる。これらの中でも、高圧水素用タンクに特に好ましく用いることができる。
高圧水素用タンクライナーは、任意の方法により成形して得ることが可能である。成形方法としては、例えば、押出成形、射出成形、中空成形、カレンダ成形、圧縮成形、真空成形、発泡成形、ブロー成形、回転成形等が挙げられる。
また、高圧水素用タンクライナーを形成する方法は、高圧水素用タンクライナーを構成する2つ以上の分割体を成形によって形成し、これらを溶着により接合することによって形成する方法を挙げることができる。例えば、高圧水素用タンクライナーを半分に縦割りにした形状の成形体2つを溶着により接合することによって高圧水素用タンクライナーを形成する方法、高圧水素用タンクライナーを半分に横割りにした形状の成形体2つを溶着により接合することによって高圧水素用タンクライナーを形成する方法、高圧水素タンクライナーの両端部をふさぐ、半円状・楕円状などの形状をしている鏡板2つと、胴部を溶着により接合することによって高圧水素用タンクライナーを形成する方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
溶着としては、熱板溶着、超音波溶着、振動溶着、レーザー溶着、赤外線溶着、赤外線にて溶着部を温めた後に振動溶着を行う赤外線/振動溶着等が挙げられる。中でも赤外線溶着、赤外線/振動溶着が好ましい。
特に好ましい態様は、樹脂製ライナーの外側を炭素繊維強化樹脂で補強してなる高圧水素用タンクの樹脂製ライナーとして、本発明のポリアミド樹脂組成物からなるタンクライナーを使用する態様である。すなわち、本発明の高圧水素用タンクは、本発明のポリアミド樹脂組成物からなるタンクライナーの表層に、炭素繊維強化樹脂(CFRP)補強層が積層されてなる、高圧水素用タンクである。
タンクライナーの表層に、CFRP補強層を積層していることにより、高圧に耐えうる強度や弾性率を発現させることができるので好ましい。CFRP補強層は、炭素繊維とマトリクス樹脂により構成される。炭素繊維としては、曲げ特性および強度の観点から、炭素繊維単体の引張弾性率が50〜700GPaのものが好ましく、比剛性の観点をも考慮すると、200〜700GPaのものがより好ましく、コストパフォーマンスの観点をも考慮すると200〜450GPaのものが最も好ましい。また、炭素繊維単体の引張強さは、1500〜7000MPaが好ましく、比強度の観点から、3000〜7000MPaが好ましい。また、炭素繊維の密度は、1.60〜3.00が好ましく、軽量化の観点から1.70〜2.00がより好ましく、コストパフォーマンスの面より1.70〜1.90が最も好ましい。さらに、炭素繊維の繊維径は、一本当たり5〜30μmが好ましく、取り扱い性の観点から5〜20μmがより好ましく、さらに軽量化の観点から、5〜10μmが最も好ましい。炭素繊維を単体で用いても良いし、炭素繊維以外の強化繊維を組み合わせて用いてもよい。炭素繊維以外の強化繊維としては、ガラス繊維やアラミド繊維などが挙げられる。また、炭素繊維とマトリックス樹脂の割合を炭素繊維強化樹脂補強層材料中の炭素繊維の体積分率Vfで規定すると、剛性の観点からVfは20〜90%が好ましく、生産性や要求剛性の観点からVfが40〜80%であることが好ましい。
CFRP補強層を構成するマトリックス樹脂としては、熱硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよい。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、その主材は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂などを例示することができる。これらの1種類だけを使用しても、2種類以上を混合して使用してもよい。エポキシ樹脂が特に好ましい。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、イソシアネート変性ビスフェノールA型エポキシ樹脂などがあげられる。熱硬化性樹脂をマトリックス樹脂に採用する場合、熱硬化性樹脂成分に適切な硬化剤や反応促進剤を添加することが可能である。
マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合、その主材は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン樹脂、AS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、PPS樹脂、フッ素樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂などが例示できる。これら熱可塑性樹脂は、単独でも、2種類以上の混合物でも、共重合体でも良い。混合物の場合には相溶化剤を併用しても良い。また、難燃剤として臭素系難燃剤、シリコン系難燃剤、赤燐などを加えても良い。
CFRP補強層を高圧水素用タンクライナーの表層に積層する方法としては、公知のフィラメントワインディング(以下FW)法、テープワインディング(以下TW)法、シートワインディング(以下SW)法、ハンドレイアップ法、RTM(Resin Transfer Molding)法などを例示することができる。これら成形法のうち、単一の方法のみで成形してもよいし、2種類以上の成形法を組み合わせて成形しても良い。特性の発現性や生産性および成形性の観点から、FW法、TW法およびSW法から選ばれた方法が好ましい。これらFW法、SW法およびTW法は、基本的には、ストランド状の炭素繊維にマトリックス樹脂を付与してライナーに積層するという観点では、同一の成形法であり、炭素繊維をライナーに対して、フィラメント(糸)形態、テープ(糸をある程度束ねたテープ状)形態およびシート(テープをある程度束ねたシート状)形態のいずれの形態で巻き付けるかによって名称が異なる。ここでは、最も基本的なFW法に関して詳細を説明するが、TW法やSW法にも適用できる内容である。
FW法において、マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合、あらかじめ樹脂を塗布した状態(未硬化)の炭素繊維を直接ライナーに巻き付けることも可能であるし、ライナーに巻き付ける直前に炭素繊維に樹脂を塗布することも可能である。これらの場合、ライナーに炭素繊維および未硬化のマトリックス樹脂を巻き付けた後、樹脂を硬化させるためにバッチ炉(オーブン)や連続硬化炉などで使用樹脂に適した条件での樹脂硬化処理を行う必要がある。
FW法において、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂の場合、あらかじめ樹脂が塗布(含浸)された炭素繊維を直接ライナーに巻き付けて高圧水素用タンク形状とすることが可能である。この場合、ライナーに巻き付ける直前に、樹脂が塗布された炭素繊維を、熱可塑性樹脂の融点以上に昇温することが必要である。また、ライナーに巻き付ける直前に、炭素繊維に溶融させた熱可塑性樹脂を塗布することも可能である。この場合、熱硬化性樹脂に適用したような樹脂硬化工程は不要である。
前記FW法、TW法、SW法などで本発明の高圧水素用タンクを得る場合、最も重要なことは、炭素繊維の繊維配向設計である。FW法、TW法およびSW法では、炭素繊維ストランド(連続繊維)や予め炭素繊維ストランドに樹脂を含浸させたプリプレグなどを、ライナーに巻き付けて成形する。設計時にはライナー胴部における連続繊維方向と積層厚みを設計ファクターとして、要求特性を満足する剛性および強度を満足するように設計することが好ましい。
また、高圧水素用タンクとしては、バルブがインサート成形によりタンクライナーにインサートされていることが好ましい。インサート成形によりバルブをタンクライナーと一体化することにより、高圧水素の気密性が高まるので好ましい。ここでバルブは、高圧水素の充填口や放出口の役割を成す。バルブとして使用される金属部品の材質としては、炭素鋼、マンガン鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、アルミニウム合金等を例示できる。炭素鋼として、圧力配管用炭素鋼鋼管、高圧配管用炭素鋼鋼管、低温配管用鋼管、機械構造用炭素鋼鋼材を例示できる。マンガン鋼では、高圧ガス容器用継目無鋼管、機械構造用マンガン鋼鋼材、マンガンクロム鋼鋼材を例示できる。クロムモリブデン鋼や低合金鋼では、高圧ガス容器用継目無鋼管、機械構造用合金鋼鋼管、ニッケルクロムモリブデン鋼鋼材、クロムモリブデン鋼材を例示できる。ステンレス鋼では、圧力用ステンレス鋼鍛鋼品、配管用ステンレス鋼管、ステンレス鋼棒、熱間圧延ステンレス鋼板および鋼帯、冷間圧延ステンレス鋼板および鋼帯を例示できる。アルミニウム合金では、アルミニウムおよびアルミニウム合金の板、条、棒、線、継目無管、鍛造品を例示できる。また、炭素鋼に対しては、焼きなまし、焼きならし、マンガン鋼に対しては、焼きならし、焼き入れ焼きもどし、クロムモリブデン鋼や低合金鋼に対しては、焼き入れ焼きもどし、ステンレス鋼に対しては固溶化処理、アルミニウム合金に対しては、焼き入れ焼きもどしを施した材料を適用しても良い。さらに、アルミニウム合金に対しては、溶体化処理およびT6時効処理を施したものを適用しても良い。
本発明の高圧水素用タンクの最も好ましい態様は、本発明のポリアミド樹脂組成物からなるタンクライナーの表層に、CFRP補強層が積層されてなり、かつ該タンクライナーにバルブがインサートされてなる、高圧水素用タンクである。
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例における評価は、次の方法で行った。
(1)高圧水素の充填および放圧繰り返し特性(欠陥点)
各実施例および比較例により得られたペレットから、住友重機械工業(株)製射出成形機「SU75DUZ−C250」を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃、射出速度10mm/秒、保圧15MPa、保圧時間15秒、冷却時間15秒の成形条件で、直径29mm、高さ12.6mmの円柱状試験片を射出成形した。
得られた試験片について、ヤマト科学(株)製「TDM1000−IS」を用いてX線CT解析を行い、欠陥点の有無を観察した。欠陥点のない試験片をオートクレーブに入れた後、オートクレーブ中に水素ガスを圧力30MPaまで3分間かけて注入し、2時間保持した後、1分間かけて常圧になるまで減圧した。これを1サイクルとして700サイクル繰り返した。700サイクル繰り返し後の試験片について、ヤマト科学(株)製「TDM1000−IS」を用いてX線CT解析を行い、10μm以上の欠陥点の有無を観察した。
(2)ポリアミド樹脂組成物の降温結晶化温度
各実施例および比較例により得られたペレットについて、示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC−7)を用い、2点校正(インジウム、鉛)、ベースライン補正を行った後、サンプル量を8〜10mgとして、昇温速度20℃/分の条件で昇温して得られる融解曲線の最大値を示す温度より15℃高い温度で1分間保持した後、降温速度20℃/分の条件で30℃まで冷却した。この冷却工程において観測された結晶化発熱ピーク温度を降温結晶化温度とした。
(3)離型性
各実施例および比較例により得られたペレットから、住友重機械工業(株)製射出成形機「SE75DUZ−C250」を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃、射出速度:40mm/秒、保圧:20MPa、冷却時間:20秒の成形条件で、80mm×80mm×厚み3mmの角板成形品を射出成形した。射出成形時に金型への引っ付きの有無を確認した。
(4)耐ヒートサイクル性
各実施例および比較例により得られたペレットを、日精樹脂工業(株)製射出成形機「NEX1000」を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃、射出速度100mm/秒、冷却時間20秒の成形条件で、47mm×47mm×27mmの金属コアに厚み1.5mmでオーバーモールドした。
得られた金属/樹脂複合成形品3個を、温度−60℃で1時間静置した後、90℃で1時間静置し、複合成形品を目視観察して割れの有無を判断した。この操作を繰り返し、3個の複合成形品が全て割れるサイクル数が500回以上のものをA、200回〜499回のものをB、199回以下のものをCとした。
(5)耐衝撃性
各実施例および比較例により得られたペレットから、住友重機械工業(株)製射出成形機「SE75DUZ−C250」を用いて、シリンダー温度:240℃、金型温度:80℃、射出速度:40mm/秒、保圧:20MPa、冷却時間:20秒の成形条件で、ASTM D256準拠のノッチ付きIzod衝撃成形片を射出成形した。
得られたノッチ付きIzod衝撃成形片7本について、ASTM D256に従い、23℃にて耐衝撃性(ノッチ付きIzod衝撃強度)を評価した。7本測定した平均の値を耐衝撃性とした。
各実施例および比較例に用いた原料と略号を以下に示す。
PA6:ポリアミド6樹脂(融点223℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度2.70)
PA66:ポリアミド66樹脂(融点263℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度2.70)
PA6/PA66共重合体:ポリアミド6/ポリアミド66共重合体(融点190℃、樹脂濃度0.01g/mlの98%濃硫酸溶液中25℃における相対粘度4.20)
アミド系ワックス1:エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物「“ライトアマイド ”WH−215」(共栄社化学(株)製、融点215℃)
アミド系ワックス2:エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物「“ライトアマイド ”WH−255」(共栄社化学(株)製、融点255℃)
脂肪酸エステル:エチレングリコールジモンタネート「“Licowax” E」(クラリアントジャパン(株)製)
有機核剤:N,N’,N”−トリス(2−メチルシクロヘキサン−1−イル)プロパン−1−2−3トリイルカルボキサミド「“リカクリア”(登録商標)PC−1」(新日本理化(株)製)
無機核剤:タルク「“MicroAce”(登録商標)P−6」(日本タルク(株)製、メジアン径(D50)4.0μm)
耐衝撃材1:無水マレイン酸変性エチレン/1−ブテン共重合体「“タフマー”(登録商標)MH7020」(三井化学(株)製)
耐衝撃材2:グリシジルメタクリレート変性ポリエチレン共重合体「“ボンドファースト”(登録商標)7L」(住友化学(株)製)
耐衝撃材3:アイオノマー「“ハイミラン”(登録商標)1706」(デュポン(株)製)。
耐衝撃材4:無水マレイン酸変性エチレン/1−ブテン共重合体「“タフマー”(登録商標)MH5040」(三井化学(株)製)
[実施例1〜9、比較例1〜7]
表1および表2記載の各原料を、シリンダー温度を240℃に設定し、ニーディングゾーンを1つ設けたスクリューアレンジとし、スクリュー回転数を150rpmとした2軸スクリュー押出機(JSW社製TEX30α−35BW−7V)(L/D=45(なお、ここでのLは原料供給口から吐出口までの長さである))に供給して溶融混練した。20kg/hの速度でダイから吐出されたガットを、10℃に温調した水を満たした冷却バス中を10秒間かけて通過させることにより急冷した後、ストランドカッターでペレタイズし、ペレットを得た。得られたペレットを、真空乾燥機で、温度80℃、12時間真空乾燥し、乾燥後ペレットを用いて、前述の方法により評価した結果を表1および表2に記載した。
Figure 0006838428
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以上の結果から、ポリアミド6樹脂(A)とアミド系ワックス(B)を配合して得られたポリアミド樹脂組成物は結晶化温度が高く、溶融状態からの結晶化が早く進むので結晶化速度が速くなり、かかるポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品は、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制されており、かつ離型性に優れることがわかった。
さらに、耐衝撃材(C)を配合して得られたポリアミド樹脂組成物を成形して得られる成形品は、耐ヒートサイクル性に優れていることがわかった。

本発明のポリアミド樹脂組成物は、結晶化温度が高く、溶融状態からの結晶化が早く進むので結晶化速度が速くなり、高圧水素の充填および放圧を繰り返しても欠陥点の発生が抑制され、さらに射出成形で重要である離型性に優れる。本発明のポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形品は、これらの特性を活かして高圧水素に触れる成形品に広く用いることができる。

Claims (9)

  1. ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、炭素数10以上30以下の高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸およびジアミンを反応せしめたアミド化合物であるアミド系ワックス(B)を0.1〜5重量部配合してなる、高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物であり、該アミド系ワックス(B)の融点が215℃〜255℃である、高圧水素に触れる成形品用のポリアミド樹脂組成物
  2. 前記アミド系ワックス(B)のDSC測定による融点が、前記ポリアミド6樹脂(A)の融点以上である請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. さらに、ポリアミド6樹脂(A)100重量部に対して、耐衝撃材(C)を1〜50重量部配合してなる、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. 前記耐衝撃材(C)が、不飽和カルボン酸および/またはその誘導体で変性されたエチレン/α−オレフィン共重合体を含む、請求項3記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. DSC測定による降温結晶化温度が180℃以上である請求項1〜4のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 請求項1〜5のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなる、高圧水素に触れる成形品。
  7. 請求項1〜5のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなる、高圧水素用タンクライナー。
  8. 請求項1〜5のいずれか記載のポリアミド樹脂組成物からなるタンクライナーの表層に、炭素繊維強化樹脂補強層が積層されてなる、高圧水素用タンク。
  9. タンクライナーにバルブがインサートされてなる、請求項8記載の高圧水素用タンク。
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